SSR ビギンズ0   作:真田丸

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メモリー0.20

蒼也が教室に向かってから数分が経って私はようやく呼吸も落ち着いてきた。

まだ、身体の震えは治まらないけど何とか立ち上がることも出来る。

 

「ダメ・・・・・ダメよ・・蒼也・・・」

 

このままじゃまた、あの時と同じことに・・・止めなくちゃいけない。蒼也を・・・・!

 

 

 

校舎の外壁に手を当てて壁伝いに蒼也の後を追うように校舎へと入ろうとすると校内から人が飛び出てきた。

 

「キャアッ!?」

 

一人や二人じゃなく一学年いや全校生徒かもしれない人数が雪崩のように押し寄せてくる。壁際に寄っていた事で巻き込まれずにすんだけど外に向かっていくみんなの顔が恐怖に染まっていた。

中にはさっきまでの私みたいに血の気が引いて青ざめた顔に恐怖から息が荒い人や泣いている人までいた。

 

 

「朝田さん!!」

 

人波の中から私を呼ぶ声が聞こえて目をやると人波から新川くんが手を振りながら近付いてきた。

 

「よかった。無事だったんだね!」

 

「いったい何があったのよ!?」

 

「それが、授業中に急に騒がしくなって悲鳴が聞こえだしたんだ。そしたら先生が急いで逃げろって・・・・聞いた話じゃ暴漢が侵入してきて女子数人を襲ったみたいなんだ!」

 

 

 

「えっ!?・・・・始めに悲鳴が聞こえたのって何処か分かるかしら?」

「えっ・・・と、確か朝田さん教室の方だったと思うよ」「――ッ!?やっぱり・・」

 

私は新川くんの言葉を聞いて確信した。この騒ぎの原因が誰なのか、ナニをしたのか、すぐに分かった。

新川君がまだ何か言っているみたいだけどもう私の耳にはそんな言葉は入ってこなかった。今はただ、蒼也を止めないと!

 

「・・・ちょっと!?朝田さん、待って!!」

 

 

 

 

 

 

 

押し寄せる人の流れに強引に逆らって教室を目指した。途中、何度か押し倒れそうにもなったけれども何とか踏み止まって教室の側まで来れた。

 

「・・・・・・・・」

 

着いてみると教室の周辺はやけに静かで物音1つしなかった。

 

「朝田さん・・・・待っ!・・て?」

後ろから追い掛けて来た新川くんもそのあまりの静かさに首を傾げた。

 

「アレ?おかしいな・・・・誰も・・・いない?」

 

新川くんが言うには体育の担当や運動部の顧問数人が例の暴漢を取り押さえに向かったらしい。

 

「もう、取り押さえたのかな?」

 

いや、違うわ。私は直感で新川くんの意見を否定して教室へと脚を進めた。

何故か入り口からは引き戸は無くなっていて近付いただけで中が丸見えになっていた。

 

「ウッ!?ウアアァァァァ!!!」

 

「――ッ!?」

 

教室内を見た瞬間に隣に立っていた新川くんが悲鳴と一緒に座り込んだ。私もその惨状に息を飲んで思わず後ずさる。

 

「ウ・・・ウウッ〜〜・・」「アアッ〜〜・・・アア〜・・!」「ヒィッ!?イアアァァ・・・・・」

いつも見ていた教室は見るも無惨な程に荒れ果てていた。

 

机はその半分近くが金属バット等を叩き付けたかのように折れ、ひび割れた黒板には学生時代全国大会でベスト8になったことのある柔道部顧問の岸田先生が顔を埋めていた。

 

床には体育教師の里山先生とボクシング部顧問の相沢先生が血だらけで倒れていた。

 

 

 

「あ・・・・あざだぁ〜〜・・・・」

「――ッ!?」

 

惨状の中、まるで地獄から響いてくるかのよう声を絞り出して一人の女子が這って近付いてくる。

彼女は私を苛めていたグループのリーダー格だった。

何時もニヤニヤと笑みを浮かべていたその眼は大きく腫れ上がり溢れんばかりの涙を流し続けている。

潰れた鼻や顔全体に幾つもの切り傷を付けて近付いてくるその姿は下手なホラー映画なんて目じゃない恐怖心を仰ぐ。

 

「たしゅ・・・・たしゅけ・・て・・・・お・・おかへは・・・かえっ・・・・かえひゅ・・・・・・からひゃふっへ、かえひゅかは!」

 

私の脚を掴みすがり付いてくるその姿に普段の面影は何一つ残ってはいなかった。ただ、目の前の藁にも救いを求めてすがる惨めな弱者と言えた。

 

「とめ・・ひぇ!・・・・あいふを・・とめひぇひょぉぉぉ!!」

 

絶望の声を上げて指差す先、私と新川くんはつられるように視線を向けた先にはガラクタと化した机の残骸の山の上に佇む人影があった。

「あ・・・・アレって?」

 

新川くんはその人影の正体に驚愕したようだけど私はあまり驚きはしなかった。代わりに悲しみが溢れ出てきた。

 

顔を、髪を、拳を、服を、全身を血で染めた蒼也がそこに居た。

 

その近くには私を苛めていたグループのメンバーが呻き声を上げながらナニかを必死に拾っていた。

 

「アアア・・・・ヒャハ・・・・・ワヒャヒノ・・ヒャハ・・・」

「イヤ・・・もう・・イヤァ・・・・」

 

一人は口から大量の血を流し大きく隙間が空いた口から聞き取りにくい声を上げ床に転がる自らの歯を拾っていた。

 

もう一人は数えられる程しか残されていない髪をちゃんとあるか確認するかのように触れながら散乱する髪をかき集めている。

3人とも顔はボコボコの痣だらけで着ている制服はズタズタに切り裂かれている。身体の至る所にペンや画鋲、ハサミにカッターなどの教室中の鋭利な物が刺さっている。

 

 

 

 

 

 

ああ・・・・私はまた・・・・蒼也を溺れさせてしまったのね。

 

身体中を血で赤く染めていながら唯一1滴の血も付いていないマフラーで隠れた口元からは耳を澄まさないと分からない小さな笑い声を上げて蒼也は私たちに近付いてくる。

 

「ビィッ!?ア、アアァァァァ!!!」

 

いえ、蒼也が見ているのは私たちじゃなく私の足元にいる彼女だけだった。

自分がターゲットにされていると理解した彼女は涙や鼻水を溢れんばかりに流しながら迫る恐怖から少しでも逃げようと這う。

けれども蒼也はその距離を着実に縮めていく。

 

「歯と髪はもう盗ったからナァ〜〜サァ〜って、オマエからはナニを盗ろうか?」

 

「ビィッ!?ヤァァァァァァァ!!」

 

蒼也は血塗れのハサミを弄びながら近付きながら彼女の身体を見渡していく。

 

「爪かな?指かな?舌かな?それとも・・・・」

 

そこまで言うと笑顔だった蒼也の顔は一切の感情が無くなったかのような【無】になった。

 

「決めた。2度と詩乃を視界に入れられないように、その眼をくり盗る」

 

それまでゆっくりと距離を詰めていた蒼也は一変、床を蹴り駆け出した。

 

いけない!

私はすぐに蒼也と彼女の間に立ち塞がるように移動して蒼也を睨み付ける。

 

「―ッ!?」

 

目が合うと同時に蒼也は足を止めて立ちすくむ。

 

「・・・・・詩乃・・・」

 

これ以上はさせないわ。これ以上、蒼也を溺れさせはしない!

 

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