「ボクは、仮面ライダーヴォルテックス」
名乗りを上げたボクはそのままモールへと走り出した。
「何が仮面ライダーだ!正義の味方気取りが、お前から先に埋めてやる!!」
モールの鼻からドリル状のエネルギーが幾つも打ち出された。
迫るエネルギーを身体を回転させながら払い除けてモールとの間合いを詰めていく。
遠心力を加えた回し蹴りがモールの鼻を捉えてへし折った。
「グッ!?ギィィヤァァァァ〜!!」
どうやら鼻がウィークポイントだったみたいでのたうち回るモールに追撃の胴回し蹴りを浴びせた。
「グギィア!?」
まるでスーバーボールみたいに跳ねながら吹き飛んでいくモールを見ながら力をうまく扱えているのを感じた。
「クッ・・・・・ソガァァァァ!!埋めてやる!埋めてやる!!絶対に埋めてやるぞ!!」
怒りに吠えるモールが地面に爪を立てるとそのまま大きく両腕を振り上げた。
「――ッ?クッ!」
大量に降り注いできたコンクリートの破片や土を払い除けるとモールの姿が何処にもなく、地面に人一人分の幅の穴が開いていた。
「・・・・何処に行った?」
あの口ぶりから逃げたとは考えづらい、まだ近くにいるはずだ。
周りを警戒していると駐車場全体が激しく揺れ始めた。
「ウワァァ!?」
バランスを崩してよろめいくと足下の地面が盛り上がった。
「ハアッハ〜!」
「ガアァッ!?」
盛り上がった地面から飛び出してきたモールの爪に切り裂かれた。
すぐに反撃しようと振り返ってもそこに既にモールの姿はなくまた穴だけが残っていた。
不味い・・・ここは地下の駐車場だ。言うならば地面に埋まった部屋、モールはこの部屋の周りを自由に移動できている。
「何処を見ている!」
次は右からモールの爪が襲い掛かってきた。
急いで振り返ってもやっぱりそこにモールの姿はない。
上から来るか下から来るのか、それとも・・・・
四方八方何処からともなく飛び出してくるモールの居場所を捉えることが出来ない。
「ハハハハ!次は上から行こうか?それとも後ろが良いか!?」
駐車場全体からモールの笑い声が聴こえる。
このままじゃ弄ばれて殺られるだけだ。いや、その前に穴だらけになった駐車場その物が埋もれるかもしれない。
その前に何とかしないと・・・・
焦る気持ちを落ち着かせるため目を閉じて深呼吸をする。
するとさっきまで気にもとめていなかった首から延びたマフラーの僅かな動きが感じられた。
「――右か!?」
反射的に右側に放った脚が飛び出してきたモールを蹴り飛ばした。
「この、まぐれ当たりだ!!」
起き上がりモールはまた穴に消えた。でももうボクにさっきのような焦りは無かった。
落ち着いて目を閉じ風の吹いていない地下で力なく垂れ下がるマフラーに意識を集中させる。
さっき分かった。このマフラーはガイアメモリで変化したボクの身体の一部だ。
身体の奥底の神経と一体化しているマフラーの見た目では分からない僅かな動きがボクの脳に直接伝わる。
例えるならイルカが超音波を出して水中の障害物の位置を把握するようなものだ。
視覚でも聴覚でも味覚でも聴覚や触感でもないだからと言って第六感みたいな曖昧なものでもない。
あえて言うなら空気の感触、【空感】とでも呼ぼうかな?
とにかくその空感が駐車場中の穴の構造を教えてくれる。
そしてその一つが現在進行形で形を変えている。
その繋がる先は・・・・
「下だ!!」
拳を足元に振り落とすと同時にモールの爪が床から現れた。
「ナニィ!?」
動揺するモールの腕を掴み無理やり引っ張り出してモールごとその場で回り出す。
5周ほど回り勢いをつけてハンマー投げみたいにモールを空中に投げ捨てる。
踏ん張る足場も掴まる手すりもない空中で無駄だとわかっていながら手足をバタつかせながら駐車場内を飛んでいくモールに最後の一撃を放つためベルトからメモリを抜き右腰のスロットルに挿す。
《ヴォルテックス!マキシマムドライブ!》
「グッ!?ウウゥゥゥ〜〜〜ッ!!」
全身に力と一緒に身が捻れそうな痛みが流れてくる。
その痛みに歯を食い縛って耐えながら地面を蹴り走り出す。
まるで風になったかのように身体が軽く数秒のうちにモールを追い越し駐車場の端に着いた。
脚を止めず速度を落とさず壁を蹴って反転、モールへと翔ぶ。
「ハアアァァァ〜〜ッ!!」
空中で脚を伸ばしながら身体を捻りドリルのように回転しモールに突っ込む。
「グアアァァァァァ〜〜〜〜!!!?」
モールの身体は抉られたような穴を開けて爆炎の中に消えた。
「・・・・ん?」
周りから聴こえる幾つものサイレンの音で目を覚ますとオレンジ色の生地の屋根が見えた。
「あ、良かった〜やっと起きたね」
「・・・・蒼也?」
私の顔を覗き込んできた蒼也は手に持った水の入ったペットボトルの蓋を開けて差し出してきた。
「はい、ゆっくり飲んでね」
「ありがとう」
蒼也から受け取ったペットボトルに口をつけて少しずつ飲む。
冷たい水が身体に流れ込んできて混乱していた思考が落ち着いてきた。
「ふぅ、ココは?」
「救護隊のテントの中だよ。結構大事になっているからね」
蒼也の肩を借りてテントから出ると周りはいくつもの救護テントや救急車や消防車があり100人以上はいるレスキュー隊員が休み暇もないとばかりに走り回っていた。
その奥では私たちが居たショッピングモールが半分以上地面に埋まっていた。
「今のところ分かっているだけでも100人以上は亡くなったみたいだよ」
「そう・・・いったい何があったのよ?気を失う前に変な怪物みたいなのに襲われた気がするんだけど・・・」
あの時、女の子を背負って非難しようとした時壁を壊して出て来た怪物に蒼也が襲われたのを見た次の瞬間にお腹に痛みが走って私も気を失ったはず・・・
「へっ?怪物・・・・・アッハハハ!詩乃でもそんな幻覚見るんだね!怪物なんている訳ないじゃん!」パキパキ
「・・・そう・・ね。見間違いだったかもしれないわ。変なこと言ってごめんなさい」
多分、蒼也はその怪物のことを知っているんだと思う。
でも何故か私はこの時これ以上追及しようとは思わなかった。まるで二人の間に一度でも越えたら後戻りできない線が引かれているみたいで・・・今の蒼也は近いようで遠い場所にいる気がした・・・・
あの時と同じ喫茶店、同じ席でシュラウドは器用にコーヒーを飲んでいた。
「この間は大活躍だったみたいね」
席に着いたボクの前に置かれたのは先日のショッピングモール陥没事件の記事だった。
「何のことですか?」
「隠さなくても良いわ。この事件にモールのメモリが使われたこと、そしてアナタがモールを倒した事は把握しているわ。それで、答えは決まったのかしら?」
まるでもう答えは知っているかのような口調に若干の苛立ちを感じつつもまっすぐシュラウドを見据える。
「世界の平和やメモリに堕ちた人がどうなろうと興味はありません。でも、メモリが詩乃の・・・・大切な人の未来を壊すならボクは戦う。それがボクの答えです!」
「・・・・良いわ。渦季 蒼也、アナタを私たち【ギルド】に歓迎するわ」
シュラウドが差し出した手を握ったその瞬間、ボクの仮面ライダーヴォルテックスとしての戦いが始まった。