でも、そろそろハードなのぶっこみたい
輸送護衛任務もなんとか無事に終わった俺達5人はログインポイントをそのままに、その日のうちに解散した。
初めての長距離遠征で多少疲れた俺達は、一路我が家へと向かう。
そう。ボロくても、暖かい我が家へ…。
「…ってなんじゃぁこりゃぁぁ!?!」
俺の目の前にあるのは立派な新築2階建の孤児院、もとい一軒家だった。
ボロボロな平家の元保育園の姿は…無い。いや、一部には元の姿の面影がある…。
それに茶輔と京谷がふざけてた時にひん曲がった看板も綺麗になってやがる。
広くは無いが、狭くもない荒れ放題だった庭は綺麗に整備され何故か鉄棒やウッドブランコまである。
そんな驚きを隠さない俺の横では、子供達が目を星のように光らせ感動していた。
「「「うおおおおお?!?!すっげえええええええ!!!!」」」」
オイ、お前たちさっきまで疲れて寝てたんじゃないのか、まだ遊ぶ気か。
もうリードを離した子犬のように思い思いに駆けはしゃぎ回っている。
その姿はとても微笑ましいものだった。
「顔がニヤケてるよ、熊田」
いつのまにか横には霞が並んでいた。だがその目は俺ではなく子供達に向いている。
その横顔は、まさしく太陽のように…っていてぇ!!
なんだ?ボールか?!
「なーにいちゃついてんだ隊長!!」
「そうだぜぇいくらカスミさんがキレイだからってよぉ」
「…ぐぬぬ…ぐぬぬぬ」
ボールを放り投げたのは千恵か。ふにゃふにゃなボールなのに結構痛かったぞ。
まぁ、良い。どうやら、俺に戦いを挑むようだな?
この野戦の鬼と恐れられた俺に!!挑むんだな?!
「やれやれ、ホントに子供なんだから…バカだねェ」
背中向かって霞が何か言っていたようだが、子供達の笑い声で良く聞き取れなかった。
だがまぁ、うん。
楽しいな、こういうの。
※※※※
「さて!!じゃぁ楽しもうか!!お前達!!」
そう宣言したのが2時間ほど前、既に俺の疲れはピークに達していた。
同じ時間をガンプラで戦ってる方がマシだ、そう思える。
ソレに…予想以上の出費だ。なんでこうなった?!
そうして俺は、この一日で起こった事を振り返りだす。
散々遊んで泥だらけになった次の日、俺達は懲りずにまたGBNにインしていた。
場所は先日観光した街。
今日は仕事も無いし色んな所を皆で見て回る、そう決めていた。
…絶対に子供達から目を離さないように適度にはしゃぐ。
隙を見たら2人でデートしたいと行ってくるシズクはとりあえず置いておくとして、今日はパーっと遊ぶことにした。
なにせこんな所には滅多に寄らないんだ。ここから帰れば、またあの砂漠に戻って騒がしくも落ち着いた日々がまっている、ならば今日ぐらい良いだろう。
こういうのも悪くない、子供達にも良い経験になるはずだろうと考えていた。
まぁ結論から言えば、ハメを外させすぎたのだ。
朝から晩まで様々観光名所を見て、その場その場で色々な物を買い食べ遊んだ。
こうしてヨーロッパサーバーでの遠征はこのまま無事に終わりを迎える…はずだった。
それが、1番良かったんだが…。
「帰りの燃料代が、無い!!!」
何ということだろうか。ほんとうに、何でこうなった?!というか何でこんな燃料代高いんだ!【ウルスス】の燃料に使われているのは特殊なモノらしく、普通の整備費の倍以上がかかっていた。
それに合わせて、先の戦闘で消費した弾薬費及び整備費用を引けば『カルテル』からの報酬及び口止め料、そして『ベタ』からの報酬があったとしてもギリギリだ。
これじゃ何のためにここまできたのかわかったものじゃない。
これは由々しき事態だ。早急に仕事を見つけるか、フリークエストで稼がなければならないだろう。
設定したホームポイントがあるため、ログアウトしてから有料でできる機体回収サービスもあるのだが、それはそれで良い値段がかかる。それは流石にやりたくは無い。
さて、どうしたものか。
だが考える前に、このフォースの隊長として言っておかねばならない事がある。
「まず茶輔!お前は無駄弾が多すぎる!あんなにばかすか撃ちまくるなと前に言っただろう!」
「えぇー?だってよぉ…おもいっきりぶっ放すのたのしーじゃん」
「やーい怒られてやんのー!!」
あからさまな茶輔の不機嫌顔、うんお前はそういう奴だからな。でも頼むから節約してくれ。
「お前もだ京谷。ロケット弾の使い方にはあれほど注意しろと言っただろう!爆発する射程内で敵をロックするんじゃ無い!見ろ!!ただでさえ整備が難しいお前の機体の整備費用を!」
「うげぇ!今回こんなかかったのかよ?!マジで?!」
「ふ、2人とも、まともに、た、戦わないからだよ…」
領収書を見て目を剥く京谷。そうだろうな、ほとんど無傷だとはいえ多少のダメージはあった。それに4つ脚の機体はそう無い、その分整備費用がかかるのだ。
「いや、千恵。お前がそれを言えんぞ…先の戦闘、お前が無理な戦いをしたせいで右腕のインパクトナックルの損傷が大きかったんだ。これもかなりの額だ。」
「ご、ごめんなさい…」
それぞれが機体の領収書を見て流石に反省をしたようだ。
帰ったら久々に訓練だな、こりゃ。今まではこの3人相手に1人は無謀すぎたが、今はシズクもいる。
しかも少し前までは新人教育の教官サマだ、なんとかなるはずだ。
「で、どうすンのさ。回収サービスに頼むのかィ?」
説教もひと段落したところで、シズクが1番重要な事を聞いてくる。
有料とはいえ便利なのは確かかつ安全なのだ、確かに懐には痛いがそれもやむなしだろう。
「隊長ぉーそういやさぁさっき、こんなんもらったんだけどよぉ」
「あーアレか!でもさ、流石にもう無理じゃね?」
そう言って茶輔と京谷が渡してきたのは一枚のチラシ。
それはこの地域で行われる予定のイベントチラシであった。
「猛烈ガンプラグランプリ?…優勝者には…2000万DP?!」
※※※※
照りつける太陽に、燃え上がるような蜃気楼。
そして群衆の熱気がそれに加わり今にも爆発寸前!!
これだ、これが私の求めていた刺激!!ただの戦闘(ドンパチ)なんかよりも、私はこっちの方が好きだ!ありがとうGBN、ここで私にしかできない仕事を与えてくれた事に感謝します!!
私の眼下には、今にも爆発しそうなほどにエンジンを滾らせる者達!心が踊る!!
「ミスター、そろそろ…」
「おぉ…失礼しました。では、始めましょう」
いやいや、年甲斐も無くはしゃいでしまった。しかし仕方ないじゃないか、こんな老ぼれを燃え上がらせるんだから!
ヘッドマイクの電源はいいな?中継車の準備も良し、水は?良し!
ならば、始めよう!!
『それでは皆様お待たせいたしました!!第4回猛烈ガンプラグランプリ!!まもなくスタートです!!実況は私、ジョナサンがお送りしいたします!そして、今回の解説はなんとこの人!知らぬダイバーは1人もいないでしょう!先日の大会では素晴らしい戦いを繰り広げ、個人・フォース共に最強を手に入れた男!!!歴代GBN最強のチャンプ!!!クジョウ・キョウヤさんに来て頂きました!」
隣に座った青年を見れば、涼しげな顔の中に見て取れる戦士の目。
うーむ、素晴らしい!彼の走りも是非見てみたかった!
彼のその目を見ればわかる、君も出たかったのだろう、私も残念だよ。
そんな私の胸中を知ってか知らずか、興奮も隠さずに挨拶するチャンプの子供っぽさに私は好感が持てた。
「さて、チャンプ。まず、今回のレースルールの説明をもう一度させて下さい。第4回ともなるとチャンプもご存知かもしれませんが、ルールは大事ですからね。是非チャンプに説明をお願いします!」
「わかりました!では、説明させていただきましょう!」
爽やかな声で読み上げられる今回のルール。
このイベントが発足してから様々に変化し追加されていったものだが、一貫してあるものはただ一つ!「誰が1番凄いのか」だ。
このレースはただ速さを競うものでは無い。
何故ならこの広大なヨーロッパサーバー全土を使い、限りある物資を補給しつつゴールにたどり着くハードなレースだ。
GBN公式まで巻き込み、様々企業もスポンサーしてくれているこのレースは年に一度の大イベント。
しかも今回は、今までに無かったフォース単位でのチーム戦。一体どんな事になるのやら!!
気がつけばチャンプのルール説明も終わりに近づき、私は興奮を押さえつけマイクに向かう。
「チャンプ、ありがとうございました!皆様ルールはよろしいですね!!では始まる前に注目のフォースのおさらいです!今回のレースでは何とチャンプのフォースある『アヴァロン』からカルナ選手率いる『チーム・カムラン』が参加されてますね?やはりチャンプはこのチームを?」
そんな私に向き直る彼も興奮を抑えたよう顔だ、そうでしょうそうでしょう。分かりますよその気持ち!
「確かに、彼のチームも応援したいですが私はこのレースに参加している全ての選手を応援したいですね!」
「さすがチャンプ…!ですが強いて注目しているチームを教えて頂けませんか?情報によれば今回初参加チームにチャンプが注目しているチームがあるそうなんですが?」
「バレてましたか!!いやー確かに彼らには注目していますね!ロンメル隊長の率いるチームを破った彼らならこの大会も大いに盛り上げてくれるでしょう!!」
「何と!!あの知将が率いるチームを?!素晴らしいフォースが参加しているようです!!これは盛り上がってまいりましたぁ!!」
おぉ…!それは凄い!情報ではロンメル隊長の新人部隊を破ったフォースがあるのは知っていたけれども、まさかチャンプが目をかけるほどとは!しかもタイガーウルフやマギーなど名だたる面々との接点もある…これは楽しみだ!!
※※※※
まさか、参加する事になるとはな…しかし優勝賞金の2000万DPは魅力的だ。
それに参加者に渡される専用に調節された燃料タンクで動くため、こちらが負担しなくていいのも良かった。
この燃料は普段使用しているものよりも極端に最大量が低く設定されてはいるが、各地のチェックポイントでその都度燃料の25%までは補給してくれるらしい。
そしてこのレースはチーム戦だ。一度のコースに参加できるのは2機まで。チームの最大人数は6名までの制限付き。うまくやりくりして進めるのがポイントになる。
俺達は5人だからギリギリというところだろう。
最初のレースはコースが設置された街中を走り、その後険しい山岳コースを抜けるまでとなっている。
飛行は可能だが、燃料を大幅に使ってしまうため最終手段にした方が良い。それにこのレースでは補助兵装での走行が推奨されているのだ。まずはそれで温存して走るのが定石だろう。
子供達は自走する方が速いと言い張ってはいるが、流石に無理があるだろう。
シズクなんかは現役時代の時に散々使い回していた一輪型バイク【バトルホッパー】を引っ張りだしている。
俺も、もう使う事は無いと思っていたMS用2輪バイクを用意していた。
レース用では無いが、まぁなんとかなるだろう。
しかし、無茶なレースだ。サーバー丸々を使った横断レース、それ自体は面白そうだが各所に設けられた難関と、街中以外での戦闘行動の許可。
なかなかハードな内容になりそうなのは明白だ、そんなルールで子供達が暴走しない訳もない。
ここはうまく俺達大人がしっかりしなければ。成り行きで参加することにはなったが、やるからには勝ちたいしできれば賞金も欲しい。
そう断じて賞金に目が眩んだ訳じゃないんだからな!!
「隊長ぉー整備、終わったぜぇ…ってアレ?なんか元気なくねぇ?」
「なんだ隊長元気ねぇぞー!!サクッと優勝して賞金たんまりがっぽりウハウハだぜ!」
「た、隊長元気ない?ご、ごめんなさい…い、いっぱいあそんじゃったから…」
子供達に何で俺が心配されなきゃならんのか。むしろ俺は君らを心配してるんだからな?
あと京谷、そんな言葉どこで覚えたんだ、え?シズクが言ってた?
オイオイ、頼むぞホントに…。
しかし、そろそろ始まる頃だ。気合い入れて、勝ちにいくとしようか!
※※※※
「ねーねー!今さ!私達より小さい子供達見たよ!凄いよね!!」
「ガンプラに年は関係ないっていうけど…世界は広いなぁ」
猫耳をつけたピンク色の髪の女の子と、眼鏡と帽子をつけた少年が話している。
彼らが向かう先には、おそらく同年代だと思われる少年とそれに寄り添う眠たげな目をした女の子。
どうやら、忍者のようなコスプレ少女と真っ白い髪の毛の青年と一緒に、何やら打ち合わせをしているようだ。
彼らもレースの参加するのだろう、整備と作戦には抜かりがなさそうである。
「俺も見たぜ!!だからこそ、負けてられねぇじゃないか!!そうだろ?!」
「うん。僕達も負けてられないね!そろそろスタートの時間じゃないかな?」
そんな会話で盛り上がるのは、彼らだけでは無い。
そんな全世界が注目する大レースの選手達は、観客達の熱気に負けないほどに戦意を高ぶらせ自分達が1番だと宣言しているようだった。そんな待機広場に響くのは、開始5分前の合図。
こうして世界で最も過酷なレースの火蓋が、切って落とされたのであった。
茶輔「そういやさぁ、なんか俺らのことジロジロ見てた奴ら居なかったかぁ?」
千恵「そ、そういえばいたね。な、なんだろうね怖いな…」
京谷「いーんじゃねぇのー?邪魔すんならさ、ぶっ飛ばしちゃえばよ!」
茶・千恵「「そうだな(ね)!!」」
八神「なんでそうなるんだよ…!頼むからあんまり暴れないでくれよ…!」
京谷「ギャハハ!!そんな事言ったってよー結局戦うんだからカンケーねぇって!!
次回!奮闘記第12話!チキチキ!グリモア大レース!・後編!!…さぁて!ハデにぶっとばすぜ!!」