楽しいけど大変だ!
土砂降りの雨が地面ぬかるみを作る。
スタートしてからすでにどれだけの時間が経過したのだろうか。
あれだけ照りつけていた太陽は今や雨雲にかくれ、視界を奪うように襲う雨が降り注ぐ。
街中を抜け山を抜けた先の荒野、俺達が走っているのはそのあたりだ。流石にバイクの燃料もそろそろ限界だろう、それは後ろを着けてくるシズクも同じ。
スタートしてから先頭を突っ走ってるのはアイツ(チャンプ)のチームらしいが、それに食らいつくように『ビルドダイバーズ』とかいう子供達が頑張っているらしい。
若い力っていうのは本当に凄いもんだ。しかし、せいぜい最初から飛ばして行ってくれ。
俺達はその隙を狙わせてもらおう。
先頭集団からも後方集団からもある程度の距離がある、ちょうどその中間にいる俺達。
周囲には俺達以外のチームはいない、大概最初の山越えで脱落して行ったのだ。
まぁ、脱落させたに近いが。
街中以外の戦闘行動は制限されてはいない、ならば自然と起こるのは潰し合いだ。
俺達は先頭集団に追いつくフリをしながら山の中に多くのトラップを仕掛け、それでライバルチームを蹴落としていった。
誰もが燃料を温存する序盤、消費の大きい飛行という手段を取らないからこそできた荒技だったが多くのチームが掛かってくれて安心した。
俺にとっては山なんてものは遊び場であり、おもちゃ箱のようなものだ。やりようなんていくらでもある。だが、流石に天気まではどうにもならないのだ。
「そろそろ、最初のポイントじゃないかィ?しっかし鬱陶しい雨だよ全く!」
いい加減に痺れを切らせたのはシズクだ。確かにこの雨とぬかるみ機体の消費もだが実際の体力にもかなりの負担を強いられている。
街中以外のコース選択は個々のチームに丸投げ、とりあえずチェックポイントまでつけば良いという使用上、チェックポイントまでのビーコンセンサーは配布されてはいる。
それが指し示す距離はまだまだ遠い、先頭集団のチームが着いたというアナウンスメッセージも無い事から、この大雨にどのチームも難儀しているのだろう。
ならば、ここで一旦の休憩を取ることも止むなしだろう。無理矢理にすすんでも良いことは無い。無駄に体力と燃料を消費し疲労から判断を誤る事がある、ならば休息をとり万全をきす事が最優先だ。
「よし、あの洞窟で一旦休憩しよう、まだ先は長いんだ。」
そう伝えれば、シズクの機体が快諾の意を示すように親指を立てる仕草。
変に抗議をしないあたり、彼女もわかっているのが救いだった。子供達ならもっと先へ進もうとしただろう。
先に俺達大人組が先行したのにも理由はある、彼らの機体はそれぞれが戦闘に特化させすぎているためにどうしてもこのテのイベントは苦手なのだ。だからというべきか今までは見向きもしなかった。
だが、今回そんなイベントに参加したいと向こうから言ってきたのには流石に驚いたが、コレは良い方向なんじゃないのかとも思う。
こうやって、普通にゲームを楽しめるような事ができるようになれば、現実の日常生活も上手くいくようになるのではないだろうか。
そんな親心にも似た考えが頭を占めていた時、すっと目の前に出されたステンレス製のマグカップ。中に注がれたコーヒーの芳醇な香りが鼻腔をくすぐり、少し凝り固まっていた思考を和らげていくのがわかる。どうにも、子供達の事になると真面目になりすぎてしまうようだ。
そうやって礼を言いながら受け取り、見上げればシズクの顔。しかしそれはこちらではなく、洞窟の外に向けられていた。
どうやら心配させてしまったようだ、ムスッとした表情でこちらを気にかける様子は初めて会った頃から変わってはいないようだ。
「子供達をさ、学校にいかせたいんだ」
だからというべきか、俺は今1番気にかけている事をシズクに切り出した。
それにシズクは答えない、また黙って聞いていてくれるらしい。
雨の音だけが響く洞窟の中、俺はこれ幸いと子供達との出会いを話し出す。
茶輔と初めて遭遇した場所は山岳の基地だった事、その後ある研究施設襲撃の任務内で保護した千恵の事、そして敵部隊をたった1人で壊滅させた京谷を引き取った事。
そして、どの出会いでもこんな土砂降りの雨の中だった事。
どれも血生臭い話だ、思い出したくも無い過去だ。
話すべき事でもなかったかもしれない。だが、彼女にだけは知っておいて欲しかった。
自分がしてきた事と、これからしようとしている事。それを知っていて欲しかった。
ただ、それだけなのかもしれない。
「つまらない昔話だな。すまん」
すっかり冷めてしまったコーヒーを喉に流し込み、俯いていた顔をあげる。
雨はまだつづいてはいるが、だいぶ落ち着いたようだ。
これなら、一気に進めるだろう。
意気込みも新たに、シズクに発破をかけようと向直れば。
半目を開けたシズクの間抜け面だ、オイまさか…。
「んぁ…?もう出るのか?」
コイツ…寝てやがったな?!
俺の超恥ずかしい過去話、全部スルーかよ!!!いいよ!もう!!!
なんかすげぇ顔熱いんだよ!!チクショウ!!!
ーでも、お前と会えてあの子等は、幸せだったと思うよ?ー
「あ?なんだって?」
シズクが何か言ったように聞こえたが、飛び乗るように搭乗し勢いよく吹かされたシズクのエンジン音で掻き消されてしまっている。
なんて言ったのかぐらい教えろよ!!
※※※※
「さぁて!レースも第2チェックポイントを通過し残すところはあと2つ!!これまで数々のの熱い戦いが繰り広げられてきましたがここで折り返しとなります!!どうですかチャンプ!素晴らしいレース展開ではなかったでしょうか?」
「そうですね!リタイヤしたチームも今もまだ戦っているチームも素晴らしいです!ガンプラにかける情熱や勝利への執念を感じる前半戦でした!」
前半戦ともいえる第2チェックポイントまでのレースはチャンプが言うとおり、素晴らしい戦いだった。長丁場になり興奮も冷めてしまうかと思えばそういうことも無く、各チームの戦略が光るレース展開。
ただひたすらに走るチームに、ライバルチームを蹴落とす事だけを考えるチーム。あえて全力を出さずに落ち着いた走りを見せるチーム。
罠を仕掛け後方チームを追い落とすチームもあれば、素晴らしい頭脳プレーを見せるチームなど全く飽きさせず、かつ先が読めないワクワク感!これが実に良い!!
私も年甲斐もなくはしゃいだ実況をしてしまい、少し反省したほどだ。
それほどまでに今回のレースは面白い!!特にチャンプが目をかけているという初心者チーム『ビルドダイバーズ』には驚かされるばかりだ。まさかカプルとSDユニコーンガンダムで、あんな素晴らしい走りを行うとは…全く予想外だった!!それにあのガルバルディの改造機…ガルバルディリベイクだったか。彼の安定したレース運びと全く予想外の活躍でライバルチームを翻弄するOOガンダム!そして、欠かせない縁の下の力持ちとして要所要所で輝くジムIII!!素晴らしくバランスが取れたチームだ!
それに対抗するチャンプのチームも良い。
全ての能力が他を圧倒しているのだ、チームリーダーのカルナ選手は少し猪突猛進の気があるが、それをチーム全員で支えて上手く彼をコントロールしている。全く隙らしいものが見当たらない!
そして、もう1チーム。なんといっていいのか…不気味な迫力があるチームがその後に続いている。
全くの無名のチームでありノーマークだった。とでもいうのだろうか、だが今回のダークホースに間違いない。
淡々としたレースで先頭チームの後をしっかりとついていってる様から、かなりの猛者なのは間違いないのだ。
確かチーム名は…おっと、没頭してはいけない。
そろそろ本腰を入れて実況をしなければ!ここ第三ポイントはレースの要になる事間違い無い。
さぁ!次はどんなドラマを見せてくれるのかな?!
※※※※
第2チェックポイントに到着したのは正午を少し過ぎた頃。
限界だったバイクを乗り捨て、機体の推力だけでここまでたどり着いた時には、既に3チームがここを通り過ぎていたという。
逆に考えれば、俺達を含めてまだ4チームしか第2ポイントにたどり着いていないということだ。
俺達は素早く機体の整備とメンバー交代の手続きをし、次の第3ポイントまでの2人を送り出した。俺達の後を走るのは速さに自信がある2人、つまり京谷と千恵だ。
京谷の【オンスロート】は瞬発力こそ劣るがスピードの持続力と加速を維持することにかけてはバツグンに上手い。それに合わせて並走しつつ敵の妨害を突破できるのは千恵の【ランページ】しかいなかった。次のポイントまでの地形が草原なのも相性が良い。ここで一気に先頭集団に追いつくことができればあとはどうとでもなる。
さすがに茶輔の【タイラント】はスピードでは遅れを取ってしまう、だがそれを補う持続力と1発逆転の秘策を茶輔は持っている。それで何とかなる、はずだ。
だから今は、画面越しに2人の走りを見守るしかない。
そう、どんな走りをしていても見守るしか今はできないのだ。
それがたとえ、燃料のペースを無視したフルスロットル走りでも…。
※※※※
草原と湿地帯が入り混じったような地形を並走する2つの機体。
片方は頭を白くカラーリングしたグリモア。
背や足に増設されたブースターを勢いよく吹かしながら時に走り、時に飛び、そして宙を一回転する自由な動きで進んで行く。
もう片方は肩と頭を紫にカラーリングした、4つ脚の異形なグリモア。
脚につけたローラーでこちらもまたトップスピードを維持しながらひたすらにまっすぐ突き進んでいた。
障害物らしい障害物が無い、見晴らしの良い景色。だが、そんな景色を楽しむ事などせずにただひたすらにエンジンを唸らせる2機の機体を阻む者などいなかった。
ーそう、「彼ら」を除いては。
開けた草原の中を気持ちよく疾走する2機を空中から襲撃する影は4機。クロスボーンガンダムの改造機であろうそれらは、不気味なほどに凶暴な意思で2機の進行を阻む。
そして、おもむろにそれぞれが手に持つ武器で襲いかかっていく、ビームマグナムの銃口が火を吹き、サーベルが夕陽に煌めく。
だが、そんな襲撃に驚きの声は上がらない。
むしろ、それを待っていたかのような歓声がそれに答える。
4つ脚の機体は「こんな時」のためにと装備していたアサルトライフルとスラッグガンを両手に持ち、最高速度を維持したまま突撃。
敵の射線をドリフトを駆使し、ギリギリでかわしつつ反撃を加えていく。動きを止めると思っていたであろう敵はその動きに反応できない、至近距離で鉛玉の雨を受け機体を穴だらけにされ沈黙する。しかし味方が一機やられてもその攻撃が止む気配はない。
敵の懐に潜った4つ脚の背後を取った一機が、その背中に向けてサーベルを突き立てようと突進。
だが、それは空中から奇襲してきた白頭のグリモアに阻まれる。
空中から真下への飛び蹴りを繰り出していたそのグリモアはその蹴りによりサーベルを粉砕、そして着地と同時に竜巻の如く回転し勢いをつけた回し蹴りを見舞う。
避けられないほどの速度の攻撃を何とか凌ぐが、その時にはもう遅い。
眼前に広げられたのは4つ脚の前脚に隠された2本の爪、それが右腕と胴体を完全にホールドする、突き立てられた爪は装甲を難なく食い破りそれだけでも致命傷だ。だが、そこで終わらない。動きを止められた敵の側頭部にアサルトライフルの銃口を突き付け、それが吠える。
頭を見事に吹き飛ばされた敵が沈黙した時には、すでにもう一機は白頭によりボロボロにされていた。
どうやったらそうなるのか。下半身は既に無く、右腕は千切れ飛び胴体には巨大な穴が空いている。その顔面を掴むのは巨大な右腕だ。無造作に放り上げられた哀れな機体はそのまま粒子化し消えていく、残ったのは一機。
だが、その敵に焦りは無い。その自信は背後の森から出てくる同型の機体が示していた。
敵の増援だ。その数はゆうに40機を超えている。
囲まれる事を嫌った4つ脚が、その機動力を生かしてあえて集団に飛び込み撹乱。乱れた隊列からあぶれた敵を一撃で屠さっていくのは白頭だ。
彼らに分があるとすれば、彼らを取り囲んでいる機体が全て無線で操作された無人機であった事だろう。だがいかんせんにも数が多い。
倒しても倒しても湧き出てくる敵に徐々に追い詰められる2機、調整されたエネルギータンクであんな動きをしてしまえば、ガス欠も間近に迫り銃の弾も尽きかけている。
徐々に包囲を狭めながら迫る敵の攻撃に、なすすべも無いままやられてかけたその時、包囲していた一部の敵の塊が爆発四散する。
その後も立て続けに降り注ぐのは、範囲爆破を目的とした榴弾の雨。それに加えて空気を切り裂き唸り声をあげる銃弾の連射が2機を救う。
浮足だった敵達は、攻撃してきた方向へ一斉に顔を向け防御の陣形を組み始めるもそれを横合いから襲撃する影が2つ。
2輪のバイクに跨ったマントを纏った黒いグリモアと、一輪バイクで飛びかかり片手に持ったマシンガンを乱射するオレンジのグリモア。
黒いグリモアはバイクの勢いを殺さずにそのまま乗り捨て、多くの敵を巻き込みながら襲われていた2機の前に着地する。
その姿は、まさしく子を守る獣のような動き。
オレンジのグリモアも負けじと片手で器用に運転しつつその手に持ったマシンガンで敵を掃討していく。
形勢が一瞬のうちに逆転し追い詰められた敵が反転して逃げ出そうとするが、彼らの前に現れた戦車の脚を持つ4つ腕のグリモアがそれを阻んだ。
背後から伸びた腕に持つ通常MSと同等サイズの巨大なメイスと、銃剣付きのライフル。
折りたたみ式の榴弾砲の左腕と、これまた巨大なリボルバータイプのキャノン砲を備えたソレが、見境なく暴れ始める。
両腕の凶悪な銃器を振り回し、間合いに入った敵機をメイスで砕き銃剣で貫いていく。
そんな一個の台風と化した猛攻に合わせるようにオレンジのグリモアもバイクから飛び降り、バネのような逆関節の脚を踊らせながら両手の斧を振るう。
その間黒いグリモアは片時も先に襲われていた2機のそばを離れずに、近づいてきた敵をただのナイフ一本ハンドガン一丁で無力化していった。
一体、どれほどの時間そうしていたのだろうか。
夕暮れが朝焼けに変わるほどの時間、彼らは戦い続けて守り続けた。
その頃には、襲いかかっていく機体の数も僅かになっている。
多少の反撃にはビクともしない戦車型も、数の暴力により背後の腕が根本から引きちぎられていた。
腕に自信があるのであろうオレンジの逆関節は全身に負ったかすり傷で酷いことになっている。
穴だらけになったマントを肩にかける黒いグリモアは、右脚と左肩を抉られている。
最後に残った敵はなりふり構わずに黒いグリモアに突撃していくが、それが届く事はない。
眉間に空いた穴から見えた空には太陽が見えた。
そう、彼らは守りきった。
彼は彼らの家族を襲撃者から、守りきったのだ。
遠くからはゴールを伝えるアナウンスと花火の音が響いている。
だが、そんな事よりも満足そうに笑う彼らを、雨上がりの太陽が照らしているのだった。
※※※※
「けっきょくさぁ…あれ、なんだったんだろうなぁ」
「しらねーよ!隙あり!!肉もーーーーらいっ!!」
「てめぇ!それは俺が育てて肉じゃぁあねぇかぁ!!!千恵!!お前のソレくれ!!」
「…ヤダ。これは隊長が僕のために焼いてくれたお肉だし」
「お前ら助けたの俺じゃん!!少しは感謝しろよぉ!!」
「あーホラ茶輔!こっち焼けてるんだからこっち食べナ!そんな慌てんじゃなィよ!!」
あのレースが散々な結果に終わってしまったため、俺達は諦めてログアウトをし現実世界に戻ってきていた。
今は新居の完成記念とお疲れ会を兼ねたバーベキューを綺麗に整備された庭で行ってる真っ最中。
子供達も勝てなかったレースの事などすっかり忘れて楽しんでいるようだ。霞もそんな彼らに混じり、何かと世話を焼いていてくれている。
俺はそんな彼らから少し距離を置き、今日の事を考えていた。
不気味な奴らだった、倒しても倒しても湧いて出てくる敵。無人機だったようだが、ソレらが持つ殺意は本物だった。
そんな襲撃者を倒しきったときにはレースは終わり、ルールを破り完全装備で出撃した時点で俺達は失格扱いだった。
ソレは良い、だが解せないのは京谷と千恵を襲ったあの無人機達だ。
ただの邪魔とは考えられないほどの物量。
そして、どうにもこの2人を捕獲しようとしている様子も見て取れた。
何故だ?何故あんな事をした?
大会運営者である初老の実況者を訪ねても、そんなアクシデントがあったなど知らされていない様子だった。
解説として招かれていた
調べてわかった事はあの無人機は、お邪魔機体として用意されていたモノであった事。
ソレが何故か直前になって全て起動しなかったのでまとめてあの森に隠されていたということだ。それが何故あの時に限って起動し襲いかかっていった原因は不明だった。
だが、俺にはそうは思えない。
あの敵達が、子供達を捕獲しようとした動きが説明できないのだ。
そんな事を考えていると、ふっと視界に入る大きな目が6つ。
子供達だ。その表情はいつもの元気な顔ではなく、どこか寂しそうに見える。
俺は苦笑と共に立ち上がり、そんな子供達をまとめて抱きしめながら決意を新たにする。
どこのどいつかは知らないが、この子達を狙ってくるならその悉くから守る盾になろう。
腕の中で無邪気に笑いだした子供達から視線を移し、俺は満点の夜空を見上げる。
夏が運ぶ匂いが微かに鼻腔をくすぐっていた。
京谷「チクショーくやしいなー!」
千恵「隊長に、あんな顔、させちゃったもんね」
京谷「強く、ならないとな。心配させないためにもさ」
千恵「そうだね。がんばろ!京谷!」
京谷「おう!!じゃまずは!!茶輔の肉奪うとこからだな!!!」
千恵「ま、まってよ!
あ!じ、次回奮闘記、第13話。孤島のサバイバーズ!…もう!茶輔のお肉とるなんて、無茶だよぉー!!」