どこまでも続く不毛な砂漠、ただ太陽が大地を焦がす音だけが静かに響く大地。
そんな喧騒とは無縁の土地に場違いな爆発音が轟く、続いて聞こえるのは銃撃と何かがぶつかりあって生まれる破砕音。
連続した銃撃音は止む事が無く、それに合わせるように爆発音もその激しさを増していく。
まさしく、戦場の音だ。
砂を掻き分け進むキャタピラの音に、甲高い回転数の車輪の音が混じり、激しく吹かされたバーニアの燃焼音がその騒音に拍車をかける。
耳を塞ぐほどの音の奔流の中に時折聞こえるのは、子供の笑い声。
心から楽しそうなその声は、それと相対している者達にとっては恐怖でしかないであろう。
砂丘から跳ね上がってきたのは4つの脚に車輪をもつ【グリモア】。
肩と頭を紫に塗ったその異形は、着地と同時にドリフトターンを決め進行方向を無理矢理に反対へと持っていき、追いかけてきた2機の【ジンクス】めがけ突撃する。
すれ違いざまに両手に持ったアサルトライフルとマシンガンを乱射し、追いつこうと必死になっていた【ジンクス】を1機撃破する。相方を失ったもう一機は慌てて飛び上ろうとするも右半身全てに銃弾のスコールを喰らい、駄目押しにロケット弾の直撃を許してしまう。
無様に落下し、強かに機体を地面に打ち据えられた【ジンクス】は最期の足掻きをしようともがくが4つ脚の機体はそんな姿に目もくれずに次の標的に向け、落下した敵の目の前を通り過ぎていく。
その先に見えるのも異形な機体、下半身を戦車へと換装し両腕を凶悪な武器にした緑色の【グリモア】。
左腕の2連速射砲を3点バーストのように打ち続け、横薙ぎに放つ右腕のガトリング砲。
2方向に打ち分けられたそれらの攻撃に加え、履帯をそれぞれに回転させた超信地旋回を駆使しながら周囲に群がっていた3体の【ザウート】を次々に破壊していく。
空から急襲していきた【ストライクガンダム】型の改造機には、背面から伸びた2本のサブアームに握られたソードメイスとショートアックスで器用に防ぎ、相手が止まった瞬間にその身体めがけてガトリングの弾を至近距離で浴びせかけている。
そうやって悶絶するように空中で身体を踊らせる【ストライクガンダム】に4つ脚のグリモアが放った背面の大型グレネードランチャーが直撃、ボディに大きな風穴を開け爆散していく。
爆炎と煙が晴れた奥からは顔を出したのは戦車型の【グリモア】。
瞬間、2機は示し合わすように視線を交差させ、背中合わせになりつつそれぞれの武器を構える。
途端に彼らの周りの砂漠が盛り上がり、飛び出してくるのは4機の影。
砂漠の海を潜り、奇襲するように改造された【ズゴック】だ。
だが彼らとしては最高のタイミングの奇襲も、それを読まれていてしまっては何の意味も無い。
突きつけられた銃口から吐き出される銃弾とマズルフラッシュ。
薬莢が雨のように地面に落ちる音が終わる頃には、その場には異形の2機しか残っていない。
彼らが油断なく構えた武器を下に向けた瞬間、背後に空から巨大なMSが降ってくる。
地面に盛大にその身体を打ち付けたのは【ドッゴーラ】と思われる巨体。
だがその身は、目を背けたくなるまで破壊し尽くされていた。
根元から引き千切れた尾に、ぐしゃぐしゃに潰れたボディ。頭は何か巨大な杭が貫通したような穴が空いていた。
降ってきた方向へ2機が視線を上げれば、今にも消滅しそうなその身体に追い打ちをかけるように急降下する機体がいた。
ソレは右腕の巨腕で腹部を貫いた【OOガンダム】を、そのまま地面にいる【ドッゴーラ】にぶつけるつもりらしい。
勢いを殺すそぶりを見せないままに更に加速し、そのまま地面に激突。
隕石が落ちてきたような激突音が周囲に轟き、砂塵を巻き上げる。その煙が晴れ出現したのは巨大なクレーター。
まさに爆心地のようになったその中心から飛び出してくるのは右腕に巨腕を携え、左腕に巨大な2連杭打ち機を装備した、すこし煤けた白い頭が目立つ【グリモア】。
あれだけの衝撃で無事なのは【ドッゴーラ】と【OOガンダム】をクッションにしたのだろう、目立った外傷はそれほど無い。
そんな3機が一同に会し談笑を始める、どれも子供の声で笑いあい今の戦闘を振り返っていた。
だが、途端にその談笑に割り込むように先程地面に落下し虫の息だった【ジンクス】が飛び出してくる。
しかしそんな体で彼らに一矢報いられるわけもなく、全身に鉛玉と巨腕と杭打ち機の連撃をくらいボロボロにされ沈黙。
そうしてまた元の静かな砂漠に戻っていくのだ。
哀れな犠牲者達を、飲み込むように。
※※※※
「今日で何度目だ?」
「あー…今ので4回目じゃないかィ?…アタシらん所を含めりゃ5回目か。」
無線から聞こえる声の主は、地面に突き刺さったままの大型アックスを引き抜きながら何事も無しに答える。
つい先程までそこにいた【ユニコーンガンダム】の改造機はとうに消滅している。
俺も油断なく周囲を見回すが敵の気配は無い。同時にリコンセンサーや仕掛けたトラップ反応も確認するが敵影無し、どうやら全て倒したらしい。
息をつく余裕はあるが、頭に湧いた疑問が休ませてはくれない。
今日だけで5回も襲撃にあうのは珍しい事だ。戦闘自体はこの砂漠では目立った事では無いのだが、それでもこの回数は異常だ。
普段ならばこんな僻地の砂漠、しかもフリーバトルの制限がされていないエリアに入り込むのは、よっぽどの物好きか賞金稼ぎぐらいだった。たまにこのエリアで取れるドロップアイテム目当てで探索をしにくる連中がいるが、ここでしか取れない訳でも無いしまず子供達に襲われて逃げ帰っていくのが関の山だ。
それがこの砂漠での日常だった筈だ。だが俺達目当てで、かつこんな規模の襲撃は今までにあった事が無い。少なく見積もっても3〜4フォース分の人数が襲いかかってきている。
流石に1度にその物量を相手取るのは難しいため、俺とシズクで地の利を生かしたゲリラ戦をこなしつつ子供達で殲滅する方法をとっていた。
今までは「マゼラン基地」の周囲だけに仕掛けていたトラップ群も、範囲を拡大し量を増やしてはいる。だがそれでもこの基地を目指して襲撃してくるフォースが後を絶たないのだ。
…子供達にとってはただの遊び相手程度にしか思って無いのが救いだが、前回のようなこちらを拉致しようとしてくる輩が混ざっているかもしれないと思うと、どうにも落ち着かない。
そこら中で恨みを買うような事は…確かにしているかもしれんが、それでもおかしい。
拠点を移す事も考えたが、この場所は守りにも攻めにも有利な土地だ。いざとなればこの場所自体を隠す事もできる。
何より周囲に被害を出さずに子供達が暴れられる所が無い、以前の拠点の時は酷かった。
廃屋が目立つ棄てられた市街地だったが、彼らの遊びで拠点ごと崩壊してしまったのだ。
砂漠地帯なら有るのは砂丘とせり上がった岩盤ぐらいしか無いため、そんなに目立った破壊は起こらない。だからというわけでは無いが、俺達にはここが似合いの場所なのだろう。
そんな事を考えながら帰路につき、最近やっと基地の隣に増設した俺とシズク用の巨大格納庫に戻れば、何か揉めているような声が基地の方から聞こえる。
怒鳴りあうような状況ではないようだが、またトラブルでもあったのだろうか。
「地味だよなぁ」
「地味じゃねぇよ!!茶輔が盛りすぎなんだよ!!」
基地内の子供達用格納庫から聞こえる声の主は京谷と茶輔だった、千恵はそんな2人の間でオロオロしている。
トラブルの元を千恵から聞けば、どうやら機体の装備の事で揉めているらしい。
最近になって増えてきた襲撃で、子供達も機体のアセンブルに余念が無いのも影響しているのだろう。滅多に本気でケンカしない2人がムキになっている所をみれば、それほどまでに擦れているのだろう。
だが実際の戦闘では2人のコンビネーションは抜群であり、穴らしいものは見受けられないのだ、しかしこればかりは好みと性格によるものではないだろうか。
「ハリネズミみてぇに砲塔増やしゃ良いってもんじゃないだろ?!」
「無駄に速度上げるために武装少なくしちまったら意味ねぇじゃぁねぇか!!」
今にも殴りあいになりそうなほど顔を近づけ徐々に盛り上がっていく2人。そろそろ止めに入ろうと腰をあげた瞬間、隣にいたシズクが声を張り上げた。
「元気が有るのは良い事だねェ!じゃ2人共アタシとタイマンといこうか!!」
「えぇーーー!!」
「それは、勘弁じゃんよぉ…」
スパルタ教官としての顔を覗かせたシズクに引きづられていく2人の手を振りながら、俺は自室で休憩しようとする。…が、そんな俺を引き止める千恵がこちらを見上げていた。
見れば千恵の両手にはコーヒーが入ったマグカップが握られそれをこちらにゆっくりと差し出して来ていた。
だいたい、こういう時は何か相談がある時だ。
俺は千恵に礼を言いつつ、格納庫内に鎮座する千恵の機体の前に腰かけた。
俯いたままの千恵は最初は戸惑うような素振りで口をパクパクさせていたが、そのうち決心がついたように目に力を込めてこちらを見る。
「京谷がね。し、心配してたんだ隊長の事。そ、それで茶輔と、喧嘩になっちゃったんだ」
「俺をか?それはなんでだ?」
勤めて優しく問いかけてはいるが、内心かなり驚いていた。
それほどまでに滅多な事である。
「つ、強くならなきゃって。だから機体の武装の事で、さ、茶輔と考えてたんだけど。なんか茶輔も、カリカリしてて。それで…と、止めたんだけどね。このまま…ば、バラバラになっちゃうのかなぁ…」
今にも泣きそうな千恵の頭を撫でながら、俺は1人納得していた。
元々この子達は1人で生きていた、誰かを守りながら戦うというのに慣れてはいない。
それがここにきて、共に生活し戦うという事で意識の変化が起こってきたのではないだろうか。
誰かに意見を貰う、という事に慣れていないゆえの弊害だろう。
それに千恵は「家族」や「仲間」というものに思い入れが強い。だからだろうか、必要以上に恐れてしまっている。
俺は良い傾向だと思うが、急すぎなのも良くは無い。シズクもその辺の事には俺よりも早く気がついて、ガス抜き役を買って出たのではないだろうか。そんな風に思える。
確かに、ここ最近の連戦でストレスが溜まっているのも確かだった。
ならば、そこから離れるのも良いんじゃないだろうか。
「千恵、どこか遊びにいこうか!」
「え…?また、どこかに行くの?でも…また戦うんでしょ?」
「いや現実世界で、さ。海でもいこうか!!!」
まだ外の世界でも思いっきり遊んだ事はほとんど無い3人だ、夏という季節も丁度良いのではないだろうか。
どこか気持ちの良いところでリラックスすれば、頭も冷えるだろうし。
なかなか良いアイデアではないだろうか、見れば千恵も満面の笑みでこちらを見ている。
海なんてほとんど間近で見た事が無いからだろう、ならば善は急げだ。
すぐにシズクに連絡をいれ、これからの準備を整える事にした。
そう、ここまでは良かったんだ。ここまでは。
※※※※
雄大な青い空に白い入道雲が立ち昇り、容赦なく照りつける太陽。
そしてきめ細かい砂浜と、透き通るほどのエメラルド色をした海が目の前に広がっている。
言うこと無しで素晴らしい景色だ。
だが、俺の気分はそんな素晴らしい景色とは真反対に急降下している。
原因は言うまでも無し。先程から首にかけた無線機から漏れる笑い声のせいだ。
楽しそうな声なのは良い。だが君達、今どこに居るんだい?俺はそれが知りたいんだよ。
「隊長ぉ!薪の他にも何がいるんだっけ?肉かぁー?」
「あ、隊長!すんげー美味い木ノ実見つけた!!持ってかえるぜー!」
うん、茶輔も京谷もホント楽しんでるね。君達喧嘩してたの忘れて楽しんでるね?
でも早く帰ってきてくれないかな、俺1人で色々準備すんのは流石に疲れてきたんだぞ?
俺は手伝ってって言ったのに、なんで君達はすぐどっか行ってしまうんだ?
さっきもそうだ、勝手に海に潜ったと思えばウニやらウツボやらヒトデやら海藻やら取ってきたり、千恵を海に放り込もうとしたり、全く協調性が無いな!!
ここが有澤家所有の孤島だったから良かったものの、もしこれがただの島だったらどうなっていたと思ってるんだ!…いや、あんまり変わらないだろうな…。
そう、俺は今霞の提案と子供達の悪ノリに付き合わされ、太平洋近海の孤島にいる。
コテージとプライベートビーチがあるというその島は、確かにバカンスには最高の場所だ。
ただ誤算があったとすれば、子供達が予想以上にサバイバルする気で用意していた事と、当てにしていたコテージが台風で見事にぶっ壊れていた事だろう。
そしてここまで来るのにも大変だった。霞が調子に乗って速度を上げまくった結果、すこし曲がった瞬間に千恵が吹き飛ばされ、それを追いかけた茶輔が同じく吹っ飛び、京谷は自ら飛び込んで行った。
慌てて俺がハンドルを奪いキーを抜く事で霞の暴走運転を止め、千恵を助けようと海に飛び込んで助けたは良いが、今度は俺が海中にクルーザーのキーを落とすという失態を犯してしまった。
なんとか見つけた時には日もどっぷりと沈み、船内で一夜を開ける事になったのだがその間に持ってきた食料は子供達の腹の中。
備蓄がほとんど残っていなかったのが、変なところで準備の良い茶輔がモリと釣竿で魚を取りまくり、密漁で捕まるんじゃないかと肝を冷やした。
だが、そんな俺の心配をよそに千恵と京谷ががまな板でサーフィンしだし、俺の胃はマッハで荒れた。幸いなのは全く海が荒れなかった事ぐらいだろう。
そんなこんなで島についたのは2日後という訳だ、全くバカンスに来たのになぜサバイバルしなければならないのか!
そして今その壊れた家屋の中から使えるモノを引っ張り出す作業を、何故か俺1人でしているというところだ。
手伝ってくれると思った霞は今はここまで俺達を運んだクルーザーの中で千恵と一緒にシャワーを浴び、残り2人の子供は喜び勇んで孤島の中心部にそびえる山の中。
頼れるのは自分だけと言うわけだ。
疲労もそろそろピークを迎えた時にまたしても鳴り響く無線。
「隊長ぉー京谷がいねぇ」
「隊長ー茶輔が迷子だー!」
誰か…俺に胃薬を持ってきてくれ。
リラックスするつもりが全くできないんだよ!!!
茶輔「いやぁ参ったよなぁ京谷が迷子になるんだもんよ」
京谷「はぁ?!茶輔が迷子になったんだろ?!」
千恵「もう!やめなよ!!2人とも遊びすぎだよ!!」
茶・京「「おおぅ…どうした千恵…」」
八神「ハハハ…まぁ…いいガス抜きにはなったか?明日からまた頑張るかー
次回奮闘記、第14話。喧嘩代行 …また面倒ごとになるぞ、こりゃぁ…」