アジアサーバーの某砂漠地帯。ここは、あちこちに点在する崩壊した都市群に、それを飲み込む形で広がった広大な砂漠と緑の無い山岳に囲まれた土地だ。
日中は遠慮無しに照りつける太陽で肌が焼けるように痛む。そして夜は極寒の寒さが襲う過酷な土地だ。
その砂漠の中にある一角。周囲を岸壁に囲まれた中に、船首が天に向きながら突き刺さっている墜落したマゼラン級戦艦。
崩壊しかけの船体にはかつて宙で起こった戦争の名残のような大きな穴が空いていた。これを見つけた時は大人気なくはしゃいだものだ、そしてまさか拠点化できると知った時もそれは喜んだ。
なんとか穴を木材や鉄板で覆い、辛うじて住居スペースを確保した。
そうして今に至った経緯を思い出せば、この苦労も少しは和らいだ。
「まぁ…そういう設定なんだろうけどな…。」
そんな呟きをしながら手に持つコーヒーを啜る。
黒い液体は濃く、香りは芳醇な物。舌で味わい嚥下する。
なんとも幸せなひと時だ。そう、このままで終われば、だ。
「隊長ぉぉぉ!!!
「向こうにドムが3機見えたんだよなぁ。きっとそっちだろ?行こうぜぇー」
どうやら、俺の優雅なひと時は終わりらしい。
そのドム達が、ここを目指してきた訳では無いのはわかっている。
だが、もう遅い。俺を隊長と呼ぶこの子供達3人のうち1人がすでに突っ込んで行ってしまったのだ。戦闘は避けられないだろう。
…また胃が痛くなってきた気がするが我慢して立ち上がる。俺の手を引く金髪の子供が早く早くと急かしてくる。赤髪の子供は俺の背中をグイグイ押しながら着いてくる。
これだけなら、可愛げのあるものなのだが。今からやる事は可愛げもへったくれも無いものなのだ。
うまく追っ払えれば御の字だが、ただこの辺りを探索にきただけの人達ならば同情するしか無い。
彼らに目をつけられた不運を呪ってくれ、断じて俺のせいでは無い。
そんな鎮痛な俺の心情を他所に、格納庫に連れてこられていた。戦艦だけあって広い格納庫に備え付けられたハンガーは6つ。そのうち4つが使われている。今は3機しか無いが。
「ホラホラ!早く!!アイツに全部狩られちゃうじゃん!!!まぁけしかけたの俺らだけど!」
「ソレないしょっつたろぉ!?あ、隊長の機体も準備できてるからさぁ。いつもみたいによろしくぅー」
それぞれの機体に乗り込みながら笑顔を見せる子供達。
これからやる事を、心から楽しみにしているようだ。その気遣いを俺の身体にもしてくれていいものを…。
あとなんか聞こえたけど聞かないふりだ、もう困りたくない。
そんな事を思いながらも自分の機体を見上げる。MSグリモアをベースに各種センサー類を強化し、大型のレドームと探索用リコンセンサーを搭載したバックパックを背負っている。
武装は消音器をつけたスナイパーライフルと拳銃が2丁・ナイフが2本。これが俺の機体。
光学迷彩を施すことができるマントで身体のほとんどを覆っているのと黒のカラーリングが特徴だ。
機体整備をキッチリこなしているのがニクい。普段もそれぐらいの気の利かせ方をしてくれ。
「隊長ぉ!先、行くからねぇー」
そう言いながら機体から顔を覗かせる赤髪のバンダナ。初期型ガンタンクの車体に生えたグリモアの上半身。全身をモスグリーンとブラックで塗装している。
目をひくのはその両腕、肘から先が完全に武器と化しているのだ。
今回は右腕が2連速射砲、左腕は大型リボルバーキャノンをチョイスしているようだ。
その選択をなんでしたかを聞いてはいけない。ただ、なんとなくで決めているからだ。
3人の中で1番まともそうだがそんな事は無い。1番武装に金を掛ける戦闘狂なのである。
脳味噌まで筋肉なのだろうか。いや、みんなそうだった。
しかしその姿は別段いつもと変わらない。俺が目を見開いたのはその背後、バックパックとして装着された武装に、だ。
「お前…それで何するつもりだ…」
もう既に胃が痛い。
横に長いシルエット。機体より前方に飛び出した鋭角なアーム。ブースター上部にマウントされているのは、あれは確か300mm滑空砲だ、それが2門。
突き出たアームに取り付けられた連装砲はさながら海の戦艦を彷彿とさせる。
まさに陸の戦艦なのだが。
「いいでしょ?コレェ!!カッコいいもんね!」
ニカッと笑う顔にドヤ顔、それだけなら良いのになぁと思う。
何がどうなったらああなるのか。戦車型の機体に、大型補助ブースターを装備する。
考えはわかる。足の遅い戦車型を大型ブースターでかっ飛ばそうというのだ、だがそれを本気でやるか?!
「クタン参型…か。それは。」
やっと出てきたのは補助ブースターの正体。『鉄血のオルフェンズ』の作中、ガンダムバルバトスを運び戦場へ突撃していったあの補助ブースターだ。
数ある中でそれを選ぶのは色々思うとこはあるが、もう遅い。今にも飛び出しそうになっている彼を止める事はもうできない。
「…もういい…行ってこい…」
「よっしゃぁ!!!行っくぞぉ!!【グリモア・タイラント】!!
クタン参型のプロペラントタンクブースターに火が入り、カタパルトから勢いよくぶっ飛ぶ戦車。
…なんだアレは。
たぶん誰がみてもこの感想が出るんじゃなかろうか、だから何度でも言おう。
なんだ、アレは。
「あ、ずるいし!!俺も行くね隊長!!【グリモア・オンスロート】!
そういって追いかけて行く頭と肩を紫に、他をブラックで塗装された4つ脚のグリモアを見送る。俺も行かなきゃダメかなぁ…ダメなんだろうなぁ…。
彼の機体は前後に伸びた4本の足にローラーダッシュが備えられている。そして限界まで強化した推進機能。
空気抵抗を抑えるために装甲は最低限だが、その分攻撃に全振りの機体。
空は飛ばないが、跳躍したあと若干の時間は滑空ができる。
なによりの特徴はその安定性能。4つの脚に支えられた上半身は両腕に突撃ライフルと大型のスラッグガン。背面に装備した折りたたみ式のグレネードランチャーと連装ロケットポッド。
それらをやたらに乱射してもブレない上半身の動きと、構えを必要としないほどの反動抑止性能だ。
それを動き回りながらやるのは、センスなのかカンなのか。よくわからない。
そして、もう1人。先に突っ走っていった彼のハンガーを見る。彼はいつもはおとなしくしっかり言うことを聞いてくれる子なのだが…なぜか機体に乗ると性格が変わるというか、超ポジティブに作戦を曲解するというか…なんであんな結果になるのか…。
「いや、もう止そう。本当に胃薬が必要になる。はぁ…【グリモア・マーチ】
凄んでみせても、誰もいない格納庫に虚しく響くだけだった。
※※※※
俺はとても困惑していた。
砂漠地帯の未知を探すための探索任務だったはずだ。
それがどうしてこうなったのか、わからなかった。
フリーバトルが常時展開されているフィールドで探索任務。
おかしいとは思っていた。だから何もない訳は無いとは思っても、準備せざるを得なかった。
連れてきた仲間は全部で8人。
ドム型の改造機が3機、リック・ドム型が2機。あとバクゥ型が3機。
砂漠探索を主眼におき、個々のチームワークが高いメンバーを選んだ。
彼らとならば、この砂漠地帯に潜む悪名高き「悪魔の落し子」達とも戦えると思ったのだ。
あわよくばそのうちの一機でも落とせれば大量のGPと名声が手に入ると踏んでいた。
甘かった。そうだ、考えが至らなかった。
3機いる「悪魔の落とし子」がたった一機で突っ込んで来る訳が無いと思っていた。
笑い声が聞こえる。
あの白頭のグリモアのような機体からだ。
今俺たちは、岸壁に切れ目が入った場所に陣取り、岩を壁にしながらそれぞれがカバーしあいながら攻撃を止めないようにしている。
それでも、もう2機がやられた。バクゥとリック・ドムがそれぞれ1機づつ。
完全な奇襲をされた。岩肌から飛び出してきたグリモアにバクゥの頭がその巨大な拳で砕かれ、援護しようとしたリック・ドムには2本の杭が突き刺さっていた。
一瞬の事すぎてわからなかった。長い行軍の疲労でレーダー探知をロクにしてなかったのがケチのつき始めだった。
白頭のグリモアは、攻撃した勢いを殺さないまま回転し、杭に突き刺さった機体を無理やりに引き剥がし横っ飛びにこちらに襲いかかってきた。それも、笑いながら。
子供の声だ、遊んでもらえる事が嬉しくてしょうがないといったら声質だ。
背中に寒気が走るまま、後退指示を飛ばしマシンガンやジャイアントバズを引き撃ちする。
そして、今に至る。どうしてこうなったのか。そして何故相手は諦めてくれないのか。
そう、悪魔の子供はこれだけ攻撃しても一歩も引かないのである。
右へ左へ時々前転やバク転を決めながらこちらの攻撃を避けていく。
まるで機体そのものが己の身体のような動きだ。
「なんなんだよアイツ!!阿頼耶識システムかっての!!!」
部隊員の叫びが聞こえる。俺もそれは疑った、だがこのGBNで阿頼耶識システムなんて再現したというのは聞いたこともない。単純にパイロットの腕なのだろうが、それにしても動きが人間的すぎなのだ。
ジリジリと距離を詰めてくる悪魔の子に焦りを覚えながら、この場所からどうにかして撤退する方法を考える。倒せばいいという頭は捨てた、この弾幕の中跳ね回るあのグリモアに普通の攻撃が当たる気がしない。
そんな事を考えていたその時、警報音が機内に響く。見ればレーダーサイトに映るとてつもない速さでこちらへ近づく点が1つ。
救援かと安堵した。だがこの識別反応は見たことが、無い。
最悪の予想がよぎる、白頭のグリモアが見える前方の遥か彼方。
まだ距離があるがどう見てもおかしいシルエットが真っ青な空に染み出している。
「なんだ…あれは…?!」
徐々に見えてくるその全貌。真正面に見えるのは、下半身が戦車の車体にグリモアの上半身がちょこんと乗っている、左右には無骨な武器を構えていた。
そしてその戦車型のグリモアが巨大ブースターで突撃して来ているのだ。
「隊長!!あれって?!」
「い、いかん!!総員退避ぃぃ!!!!」
アレが何かを確認する前に俺たちの真上まで飛んで来たよく分からない戦車モドキは、あろうことかブースターのプロペラントタンクを切り離し爆撃がわりに落としてきたのだ。
無茶苦茶な攻撃だ、だがこの場所から引きづり出すには有効過ぎた。
地面に落ちたタンクは、巨大な爆発を生み、辛うじて避けられた数人が岸壁の外へ飛ばされる。運が悪く至近距離で爆発の余波を受けたドムが、きりもみ回転をしながら空を舞う。
「パーシー!!!ダメだ!!やめろぉ!!!」
隣に着地した仲間が叫ぶ、パーシーの乗ったドムが空中で回転するその更に上。
先程まで俺たちを阻んでいた白頭のグリモアが垂直降下で肉薄していた。
振りかぶる拳、パーシーには避けられない。振り下ろされる鉄拳のインパクトの瞬間、破砕音というかなんとも形容できない音で上半身と下半身が分かれたドムが爆発する。
そこで気がつく、あの戦車モドキはどこへいったのか?あれだけではないはずだ、必死で探すとレーダーに感アリ。
それは俺たちの背後から再度突撃してきていた。あれだけの勢いで旋回して来たのも驚きだが、それをやる神経が更に怖い。
低空をカッ飛んで来る戦車モドキを迎撃するべく油断なく布陣するが、戦車モドキの勢いは止まらない。
そういえば、戦車モドキの前方まで伸びたアームには、確か…!
その思考に行き着くには遅かった。戦車モドキは更に加速し、見た目通り鋭角なガントレットがリック・ドムを貫く。
「あぁ!!ロビンが!!!」
悲痛な叫びをあげるロビンの機体が貫かれたまま連れ去られ、そのまま空高く持っていかれる。
その内に遠くの空で爆発音が轟き、ロビンの表示が消えていった。
「なんだよ…なんなんだよぉお前らはぁぁぁ!!!!」
「待て!!単騎でいくな!!!…クソッ!!続け!!」
錯乱した副官のドムをカバーするようにして三角錐型の突撃起動をとる。どんな状態になっていてもこの戦法を取れるのが俺たちの強みだ。
まず標的にするのは、白頭のグリモア。
それぞれが連射が効く武器で牽制をしつつ接敵、そして先頭が近接兵装で攻撃するという黄金パターン。4機で1機を叩く、卑怯のようだが有効な作戦なのだ。
だがその黄金パターンは、すぐに破られた。
真横にいたバクゥが横っ飛びに吹っ飛んだのだ。
まるで至近距離から散弾を食らったような弾痕が見える。…事実、散弾だったのだが。
カメラに映るのは、俺達と並走するように近づく4つ脚の異形なグリモア。またグリモアだ、勘弁してくれ。
頭と肩装甲が紫にカラーリングされてるその4つ脚は、それぞれの脚のローラダッシュを器用に使いこなし、ドリフトターンを決めながら両手に持った武器をやたらに連射してくる。
前進を止められた俺達は、盾を前面に押し出し防ごうとするが縦横無尽な動きと弾幕でどんどん押され始めてしまう。
そこに加わるのはその弾幕の嵐を掻い潜りながら近づく白頭のグリモア。
脅威的の一言だった、どんな奴でも味方の射線の中を突っ走って来れる訳がない。
だが事実、その光景が目の前にあるのだ。
縦横無尽の弾幕に、変幻自在な動きの打撃が加わり更に防戦一方になる。
ひと塊りになってその攻撃を凌ぐが、それは唐突に終わりを迎える。
背後を守ってくれていたバクゥが爆散。
振り返れば、あの戦車モドキ。
ブースターから伸びたマウントされた2門の滑空砲と、両腕の砲身がそれぞれ煙を上げている。
その隙を取られ、俺の前面を守っていた副官のドムが全身を穴だらけにされ、更に頭を凶悪な杭で刺し貫かれていた。
追撃しないのは、遊んでいるのだろうか。
「お前等の攻撃は軽すぎなんだよぉ!!もっとドカンと行かなきゃなぁ!!」
「わかった!!!もっと強くって事だよね?!」
「はぁ?!弾幕こそパワーだろぉ?!」
やはり、子供の幼い声だ。声変わりもしていない幼い声で笑いあい、罵りあっている。
それだけなら、良い。だがこの状況では無かったら、だ。
突然湧いた怒り、馬鹿にされているという感情。敗北した俺の前で談笑されるという屈辱。
そんな黒い想いが爆発し、機体を動かす。まずは1番モロそうな4つ脚。引き抜いたヒートサーベルで一気に間合いを詰める。あとは振り下ろすだけだ。
だが、そこで俺の視界はブラックアウトしていた。
消える瞬間に聞こえたのは、遠くから聞こえる悪魔達の笑い声だった。
※※※※
最後のドムが俺の弾丸でコクピットを貫かれ爆発するのを確認し、切っていた無線をオンにする。
途端に聞こえるのは笑い声。
「あーあ、今ので最後の獲物だったのに。取られたじゃん。茶輔が煽るからー」
「だってよぉ?お前ら火力なさすぎだもんよ」
「隊長に褒めてもらえるかな?!僕、すっごい頑張ったもん!!」
「あ、そういや隊長だね。最後の。さっすが超スナイパーだよね。場所全くわかんね」
「だよなぁーアレずっこいけどつえーもんよぉ」
「たいちょおおおおお褒めてええええええ!敵いっぱい倒したよおおお!!お腹治ったああああ?!」
「「うるっせ」」
無線から聞こえる3人の声に俺の胃腸がピンチです。
あぁ…今の人達は本当に申し訳ない事をしたなぁと、ため息とともに口からでる。
最近、独り言が増えた気がする。だれかこの苦労を共有してはくれないだろうか。
山岳地帯の一角、戦場となっていたところからは、ゆうに7キロは離れた丘陵地。
その丘の上で射撃体勢を取った機体の中で、もうここから動きたくないという思いに襲われている。
仕方が無しに機体を起き上がらせ、迷彩マントの効果を切り無線越しに彼らに呼びかける。
俺の居場所当てクイズをしていたらしい子供達は全く違った方を指差しており、いまにも飛び出していきそうだったからだ。
全く。本当に、困った奴らだ。
白頭のグリモアを先頭に、手を振りながら近づいてくる彼らを見る。
また胃がキリリと痛んだが、楽しそうな彼らの声は不思議と心地が良かった。
千恵「あ、アレ?ぼ、僕の機体説明は?!」
八神「今度な、今度。…はぁ…」
茶輔「ケチンボだなぁ。隊長は」
京谷「やーいケチンボー」
八神「お・ま・え・らあああああああああ!!!」
茶・京「「ニゲロー!!」
千恵「あ、まってよー!じ、次回!奮闘記第2話!は、はじめての共同作戦!!お、お楽しみね!」