えっ?シロちゃんがIS世界で為無双を!? 作:アメリカシロヒトリ
ここはIS学園。全国が選りすぐりの才女が集まり、世界に僅か500個も現存しないISコアを所有するに足る実力を得んと日夜切磋琢磨している乙女の学び舎である。
「それじゃあまずは自己紹介から~」
そこに異質なるものがふたつ。
ひとつは少年、織斑一夏。彼は男子でありながらこの教室に存在を許されている。何の偶然かISを起動し操ってみせたことで、体の良い実験体として日本政府お抱えの身となりここにいる。
ちなみに当の本人は秘密の花園に叩き込まれたショウジョウバエといった気分で自己紹介の時間だなどと思考の外である。
「せんせー、私の前の席が空いてるのですがー」
ひとつは、空席である。
「あーぁ、それは……」
知っている。1年1組副担任の山田真耶は、空席のワケを知っている。しかしながらそれをいま公開してよいものかとは判断し兼ねる問題だ。何故ならアレがこの場に届くかは五分だと織斑千冬には聞いており、上手くいかなければ今日にもあの空席が片付けられることも知っているからだ。
ゆえに何と答えたものかと思案する間、教室の戸が開かれ我らの学級担任が降臨された。
「遅れて済まない。このクラスの担任、織斑千冬だ。今日から最短三年で、貴様らを戦士として使いものにしてくれる」
戸の開け閉め。真耶との教壇の位置の交代。そして簡潔な自己紹介と全てが流れるような美しさで行われ、教室は静寂に包まれた。
一瞬だけ。
「キャアアアアアアアアアアアアア!千冬サマよ!本物の千冬サマだわァァァァァァァ!!」
「ア“ア”ア“ア”ア“ア”ア“ア”!!“も“う死”ん“て”も“い”い“い”い“い”い“い”」
初代ヴァルキュリアにして最強のIS乗りと呼び声高い千冬の登場という事態に脳の処理が追いついた女学生らは驚嘆し、教室は黄色い声援で包まれた。
「ちっ、名前を言うだけでこれだ。お前たち、とっとと静かに……」
「アハァ――――――――――――――――――――――――――ッ☆」
耳を劈くとはこのことを言うのだろう。有無を言わせぬ金切り声が室内を蹂躙し女学生は沈黙を余儀なくされた。
ちなみに一夏は千冬登場からここまでの流れに圧倒されて処理落ちし、セシリア・オルコットは人知れず音響兵器を警戒して身構えを堅くし、最も千冬の近くにいた真耶は眼鏡の片側をズラしてふらついていた。
殆ど故障寸前だった真耶はそれでも生徒の手前なんとか持ち直し、状況証拠から例のアレが間に合ったことを察する。
「織斑先生、デバイスをお預かりしても?」
「頼む」
簡素なやり取りののち、何やらごく小型の投射器じみた物体を預かった真耶は空席へとそれを置いた。
『ヴュ―――――――――――――…………』
旧式の情報端末が起動する際のような低音が響き、投射器から『人型のシルエット』と『0%』が表示された。
「千冬姉、これは?」
「織斑先生だバカ者。少し待て、【アップロード中】だそうだ」
シルエットはくるくる回り、粗かったポリゴンがどんどん滑らかに、鮮明になっていく。頭部から肩、腕、胸、腹、腰、脚と見る間に人間らしい形となる。教室にざわめきが広がるなか、パーセント表示がついに100%を示し、シルエットは光り輝いて教室に着地する。
「こんにちは、浮島シロです!」
そこには、『シロ』がいた。
「私、可愛い女の子が好きなんです。だから将来の夢はアイドルになって、武道館でコンサートをすることです!」
可愛らしい声に人懐こい笑顔で、青白く投射された彼女は自己紹介を締め括った。
「せ、せんせー、これは……?」
「ISを無人機として運用する実験過程で生まれた【VR.ナビゲーターシステム】。その試験運用最終機だ。オルコット!ISコアによる電脳ダイブについて説明してみろ」
「は?あ、はい!電脳ダイブとは、ISコアが操縦者の意識と同調してIS自身の展開や追加兵装の展開を行う機構を利用し、コアと接続された神経から搭乗者の意識を送り込んで電脳空間へと侵入。人間が機械を介さず直接的にISコア・ネットワークと繋がるシステムのことですわ」
ISコアは天災・篠ノ之束が生み出した至高の技術作品である。未だその全機構が明らかではないが、現状把握・利用されているだけでも単なる機動兵器の動力源でないことはISに携わるものなら誰でも知っている。
コアを失したISなど単なるガラクタに過ぎない。もし別口で動力源を用意したとして、例えばISという非常識な形状の機動兵器を動かす根幹のPICすらコア無しでは満足に動かせない。コア単体にシステムが一極しすぎるきらいはあるが、現行のあらゆる兵器を凌駕するほどの機構を一手に担うオーパーツがISコアである。
「元々ISには十二分に搭乗者を下支えするシステムが存在し、殆ど直感的な操作でも大きな性能が出せる。しかし逼迫した状況や、長時間の作戦行動時には疲労やストレスからそれすら満足に働かんこともあるだろう。そこで生み出されたのがこのVR.ナビゲーターシステムだ」
「VRとはVirtual Reality、仮想現実のことです。皆さん聞いたことがあるかもしれませんね。この場合のヴァーチャルとは搭乗者をナビゲートする人工知能を指します」
真耶が掌を上向きにし、そっとシロを指し示す。1-1全生徒の注目を浴びてシロちゃんは誇らしげに胸を沿った。
「本システムは搭乗者の精神的苦痛を和らげる目的で開発が進められたことから、人工知能にもごく単純な応答のみならず実に『人間的な』アクションが求められた」
「その最終発展形が浮島シロさんです。彼女は非常に柔軟な人間らしい会話ができるだけでなく、なんとISコアに単独の搭乗者として認識されるに至ったのですよ」
おぉ、と教室に感嘆が湧く。もちろん一夏には何がスゴいのかさっぱり分からなかった。
とまれ、簡潔に言えば、無人機開発の寄り道で生み出されたシロというAIが、その開発が進み過ぎて当初の目的通り人間を使わずISを動かせるようになったということである。
「が……進み過ぎた技術というのは扱いが難しい。浮島は既に単なるAIではないが、人間でもない。法整備や倫理的・道徳的観点からの議論も全く不十分な状態だ。そこで浮島に試験機を与え、ここで人間と共に生活させるのが当面の目的であり、その場としてこの1-1が選ばれたというワケだ」
ぴくり。どこぞのイギリス嬢を中心に、教室に波紋が広がる。試験機?いまこの担任は試験機と言ったのか?
「そうです!なぁんとシロはぁ~、ドイツの国家代表候補生なの、です!」
パァン!
投射映像の端っこから四角い頭の真っ白人間が現れ、クラッカーを炸裂させて帰っていった。何だ今のは。いやそんなことはどうでもいい。
「国家代表候補生ぇ~~~~~~~~~~ッ!?」
「えっ、やばいやばいやばいシロちゃんやばい!えっえっどういうことうっお肩触ったら体が透けたァ!」
「て言うか服やっばくないなんこれ、背中と脇見え見えなんだけど?」
「ドイツの科学力はァァァァァァァアアア世界一ィィィィィィィ」
再び喧噪を取り戻した生徒相手に、千冬の出席簿が火を噴いたのは殆ど余談である。
続くかもしれません。