ダンガンロンパExtraWorld 〜砂漠のコロシアイ学園生活〜   作:magone

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第1章 非日常編 オシオキ

「大正解でーす! 超高校級のヒーローである小田切電皇クンを殺したクロは貴志萌華サンなのでしたー!」

 

 

そう高らかに叫んだモノクマの答えは僕らのたどり着いた答えそのものだった。

貴志さんが犯人。やはりその答えは間違っていなかった。間違っていなかったけど...。

 

 

「...なあどうしてなんや。どうして小田切を殺さなあかんかったんや! 貴志ちゃんはそんなに小田切が憎かったんか!?」

 

 

舞田くんが言った事はこの場の誰もが抱いてる疑問。たとえ小田切くんと口論があったとしもそれが殺意に繋がるのか、繋がるとすればそれは一体何なのか、その答えを聞かなきゃいけない。それを求めてここまでやって来たのだから...。

 

 

「...あなた達はやはりまだわかっていないのね......」

「え? それは何のことや? 俺らは貴志ちゃんの犯行を全部暴いたやろ? 他に何があるんや?」

 

 

貴志さんが言ってるまだわかっていないこと...それは裁判中にも感じたあの事に違いない。

 

 

「小田切くんが砂漠越えを決意した理由、だよね?」

「あ、そうや、それがあったな。でもそれと貴志ちゃんが小田切を殺した動機とどう関係あるんや?」

「貴志萌華が自分から言ってるのだ。関係あると考えてまず間違いないだろう」

「そうは言ってもどうすんのよ。小田切が砂漠に出た理由なんて、私たちにわかるの?」

「...やはりあなた達はそれには辿り着けない。彼が"正常な"正義の味方と考えてるあなた達には到底分からない真実よ。...あの自己犠牲主義者は本当に...大バカよ...」

 

 

正常な? どういう意味だ? 小田切くんが異常だと言いたいのか? 小田切くんは正常な正義の味方ではなく、異常な正義の味方...? そして自己犠牲主義者って.....。

エグイサルとの戦いで力を失った小田切くん...そしてその後の砂漠越えの決意...これらが意味するところ...それは。

 

 

「貴志さん、小田切くんはもしかして......僕らが希望を失わないように、砂漠へ出て行こうとしたの?」

「...さすがね、クルトくん。やっぱり君は他の人とは違う何かを持っているのかしら」

「ちょっと待ってクルト。希望を失わないように? それはどうゆう意味?」

 

 

希望を失わないように...その意味は...。

 

 

「小田切くんは...多分僕らがコロシアイを起こさないようにしてくれたんだ...砂漠に出ることで助けを呼んで来てくれていると考える僕らはモノクマの虚言に惑わされてコロシアイを起こしたりしないって...自分という希望がある限り、モノクマが与える絶望に負けはしないと考えたんだ...。小田切くんはある意味で狂った精神の持ち主だった、自分が犠牲になったとしても僕らにコロシアイを起こさせないようにした、こう考えると小田切くんが決死行に及んだ理由も説明がつく......」

「...正解よ」

 

 

僕の推理を聞いていた貴志さんはただ静かに肯定した。やっぱり...そうだったんだ...僕と最後にした約束も自分は守れないと感じていたのかな...今となってはどういう思いだったのか、知る余地なんてない。

 

 

「そ、そんな、そんなんてないやろ...小田切はじゃあ死ぬつもりで砂漠に出たっていうんか!?」

「...その通りよ。小田切くんは死ぬつもりで砂漠に出た。あなた達にコロシアイを起こさせないようにする為に......」

「き、貴志ちゃんはそれがわかってたんか? わかっててそれを黙ってたんか? 小田切を殺すために...?」

「それは違うわ。私がそれを黙っていたのは自分の為じゃない。彼の為よ」

「小田切くんの為?」

 

 

そう言った貴志さんの表情は酷く悲しげだった。

 

 

「彼の真の絶望は自分が死ぬ事じゃない、自分の目の前で人が死ぬ事だからよ。守れなかった絶望、それが彼の何よりも耐え難い苦痛になる。『希望を与えられないヒーローほど虚しいものはない』以前彼が言っていた言葉よ。ヒーローに固執していた彼の素性を暴露するのは彼をヒーローとして殺す事と同じだった。そんな事は出来なかった。そんな姿は見たくなかったのよ...」

 

「......」

 

「...いやわからへん。貴志ちゃんが小田切の為に秘密を守ったとして、それが何で殺意に繋がるんや。話聞いてるとまるで小田切を思ってやった行動みたいやけど、やったら余計にわからん。...何で貴志ちゃんは小田切を殺したんや」

 

 

貴志さんは自分の胸に手を当てながら、目を閉じて静かに答えた。

 

 

 

 

 

「愛していたからよ...」

 

 

 

 

「え?」

 

 

嘘とは思えない。()()()()()()()。それが彼女が小田切くんを殺した理由...。

 

 

「どうして? 愛していたならどうして殺したの? 貴志さんの言ってる事は意味がわからないよ」

 

 

わからない。僕にはどんな事があっても愛する人を殺す理由なんてわからない...。

だから知らなきゃいけない。どうしてそんなことが出来たのか。貴志さんから聞かなきゃいけない。

 

 

「...まあわかるはずもないのよ。本気で誰かを愛したこともない人には...」

 

 

確かに僕は今まで生きてきて全てを捧げてもいいと思える人はまだいない。だけどそれが小田切くんを殺したワケを聞かない理由にはならない。

 

 

「だったら教えてよ! 愛した人を殺さなきゃいけない理由を」

「クルトくんは、彼が熱砂の上で一人で死んでいけばいいとでも思ってるの?」

「え?」

「あのまま行けば確実に小田切くんは死ぬ。それは萬屋くんも言っていたでしょ? この砂漠に出ることがどれだけ危険なことか、クルトくんにだってわかる筈よ!」

「...で、でもそれで小田切くんを殺すなんて−」

 

「そうするしかなかったのよ!! 彼の秘密を守ればヒーローとしての彼は死なない、それが彼が何よりも望んだこと。でも彼の気持ちを汲めば、それは彼を一人で死地に向かわせることになる...。私は悩んだ。ヒーローとしての彼を殺すか、死地に赴く彼を見殺しにするか、板挟みになりながら必死に考えた。考えて、考えて、考えて、考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考えて考え抜いて、私は一つの結論に至った。"ヒーローとしての彼を殺さずに彼を殺す"。...砂漠で一人干からびで死んでいくなら、...そんな絶望が待っているなら、いっそ私の手でって......これならヒーローとしての彼も死なない。彼の気持ちも尊重できる。これが彼にとっての最善策。私はそれを実行した。それだけの事よ...」

 

 

貴志さんは今まで溜めていた思いの丈を語った。それは小田切くんの為に必死に考えて出した貴志さんなりの結論...。

でもこんなの間違ってる! 小田切くんの為に小田切くんを殺したなんて、そんなの絶対間違ってる! 間違ってると言いたい、言いたいけど、どうしてだろう。どうして僕はそれを貴志さんにぶつける事が出来ないんだろう。どうして小田切くんを殺した事を声を大にして責められないんだろう......。

 

 

「...貴志さん、一つ聞いてもいい?」

「何? 平子さん」

「あなたは小田切くんを殺す事が目的で、ここから出る事は目的じゃなかった。だとしたらどうして自分が犯人だと名乗り出なかったの? そこまで愛していたなら後追い自殺も考えたはず。けどあなたはそれを秘匿し、学級裁判を開かせた。それはあわよくばここから出ようと考えていたんじゃないの? 小田切くんの為、小田切くんの為と言ってるけど、結局は自分の為でもあったんじゃないの?」

 

 

平子さんの言う事も一理ある。貴志さんが本当に小田切くんの為だけに動いていたなら、学級裁判に参加する理由もない。

 

 

「...そうね。確かにこれは私のエゴかもしれない。だってこの学級裁判に参加したのはあなた達を殺す為だもの」

「な、何!?」

「わしら全員を殺す為じゃったと?」

「...貴志さん、それはどうゆう事?」

 

 

貴志さんは僕らを殺す為に学級裁判に参加した? 間違った答えに導いて僕ら全員をモノクマにおしおきさせるつもりだったのか?

 

 

「弱い私たちが悪いのよ。私たちの弱さが小田切くんを死地に追いやった。そんな事もわかってない人はここで死ぬべき。もちろん私も。だから学級裁判で小田切くんの秘密を解く手助けをした。それで小田切くんの真意が分かれば、クロと名乗り出るつもりだった。けどあなた達はわからなかった。私が犯人だとわかっても、小田切くんが砂漠に行った理由はわからない。そんなのは許せなかった。だからクルトくんに抵抗したのよ」

 

 

...そうだったのか。だから貴志さんはクロとしてはやらない行為をしていたんだ。不思議と納得がいった。彼女が小田切くんの秘密を教えることはここから出る為ならまず考えられない行為。でもそれが僕らを(ふるい)にかけていたものとすれば、その行為も頷ける。

 

 

「萌華はぼくら全員を殺すつもりだったって事?」

「結論を言えばそうなる」

「ちょ、ちょっと待ってや! 貴志ちゃんがそんな考えになったのって、もしかして...俺のせいなんちゃうか? 俺があの時、小田切なら砂漠越えができるって言ったから小田切は......俺が、あんな提案せんかったらこんな事には...」

「...舞田くん」

「あなたを擁護するワケじゃないけど、遅かれ早かれ誰かが提案してたことよ。それがたまたまあなただっただけ。それに小田切くんもいずれは砂漠に出たと思うし、時間の問題だったのよ」

「で、でも...」

 

 

舞田くんの辛さも理解できる。もし自分が提案したことでこんな事態になってるなら、僕は自分を許すことができない。きっとそれは舞田くんも同じ。だからこんなにも苦しそうなんだ。舞田くん......。

 

 

「クソ...」

 

 

舞田くんはその場で膝を着いた。思わず近くにいた鮫島くんが屈んで舞田くんの肩に手をやる。ただ静かに舞田くんを慰めるように。そして一呼吸を置いて口を開いた。

 

 

「...もういいじゃろ、もう終わりにするぜよ...」

「いやまだよ。まだわかってない事が2つある」

 

 

そんな鮫島くんの言葉に平子さんが反論した。

 

 

「わかっていない事って?」

「一つは貴志さんの才能よ。隠しているのか、本当に記憶喪失なのか、教えてもらえる?」

「ああ、その事ね。いいわ。教えてあげる。まあそんな大層な才能じゃないわよ。笑っちゃうくらいにね」

 

 

貴志さんの才能...確かに気になる事ではある。大層な才能じゃないと言ってるって事は記憶喪失ではなかったのか。

 

 

「"新聞部"よ」

「新聞部?」

「ええ。隠していた理由は、裁判でも言った通り、素性をバラすのは危険だと思ったからよ。それに新聞部という肩書き上、それを知られない方がここから出たときにスクープを書けると思ったから。結局そんな事できる余裕なんてなかったけど」

「なるほどね。納得できない事もないわ。あなたは新聞部としてこの誘拐事件の記事を書きたかったから正体を隠していた。そう言うことね?」

「ええ」

 

 

新聞部。確かにそんなに驚きもない。彼女が裁判中に探偵だと言った事実があったからかもしれない。

 

 

「もう一つは、舞田くんの聞いた口論の事よ」

 

 

口論。舞田くんが深夜に聞いた小田切くんと誰かの口論。これの相手は貴志さんだったって言うことになるのか?

 

 

「それに関しては詳しくは知らない。だけどその人物に心当たりはある」

「心当たり?」

「ええ。...あなたじゃないの-」

 

 

貴志さんはその人物を見て、名指しした。

 

 

 

 

 

 

「モノクマ」

 

 

「うぷぷ...」

 

 

 

モノクマ...それが小田切くんの口論相手。そう言われたモノクマはいつもの調子の含み笑いを見せた。

 

 

「そうなの? モノクマ」

「さあ、どうだろうね。その真偽はオマエラの目で確かめなッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

先程貴志さんの投票結果を映し出したモニターに新たな映像が流れる。

そこには砂漠越えの準備をする生前の小田切くんとそれを手伝う萬屋くんの姿があった。場所はどうやら小田切くんの自室らしい。どうやって撮ったのかは今はどうでもいい。

そこから聞こえてきた会話は僕らの想像に難くないものだった。

 

 

「そう言えば萬屋、君は砂漠越えの経験はあるのか?」

「...あると言えばあるけど...」

「それは探検の一環か? そろとも遭難か?」

「...強いて言うなら経験の為...」

「経験か...。萬屋から見てこの砂漠の難易度はどれくらいだ?」

「...かなり高い部類に入ると思う...気温も高く、砂嵐の発生回数も多い、それに加えてのかの学園を包むドーム以外の人工物が一つも見当たらない。多分だけど、僕でもこの砂漠を越えるのはとても難しいと思う...」

「そうか。探検家の中の探検家の君が言うんだ、間違いないんだろう。でもオレはヒーローの中のヒーローだ、この状況を覆して君らを救ってみせるさ」

「...期待してる...」

 

 

この時の小田切くんは強化アーマーの故障に気付いてるはずだ。...気丈に振る舞っているんだ、萬屋くんに気付かれないように。萬屋くんは小田切くんの言葉に安堵した様子で、カメラ越しでも分かるくらいに笑みが浮かんでいた。二人は僕らの想像以上に仲良くなっていたんだ...少なくともモニター内の二人はそう見えた。...きっと萬屋くんも僕と似たような想いだったのかもしれない、だからこそ小田切くんの死体を見つけた萬屋くんはあんなにも絶望した顔をしていたんだ......。

 

 

「期待しててくれ。...よし、これくらいでいいだろう。もうすぐ10時だ、萬屋も休むといい。後はオレだけでも十分だ」

「...わかった...」

「おう」

「........小田切君...」

「ん? 何だ?」

「...幸運を祈ってるよ...」

「...おう」

 

 

小田切くんはそう言うと拳を握って静かに突き上げて見せた。その姿は僕の目からも安心を与えるものに見えた。その後、萬屋くんは小田切くんの部屋を出た。一人になった小田切くんは徐にバックパックからペットボトルを2つ取り出して、部屋を出て行った。多分この後にウォーターサーバーの前で僕と最後の会話をしているのだろう。...そこまで見るとモニターが突然早送りのような状態になった。それが終わった時は、再び部屋の扉が開く頃だった。

 

 

「ガチャ」

 

 

戻って来た小田切くんは手にしている水の入った2つのペットボトルをバックパックに入れた。その瞬間、映像が早送りされ、時刻が12時を示す頃、一つの影が部屋に現れた。...モノクマだ。

 

 

「ん?」

「うぷぷ」

「何だお前は? ...いや見たことあるぞ、お前はあの時体育館にいたヌイグルミだな?」

「ヌイグルミじゃないよ! ボクはモノクマだよ」

「...何の用だ? もうお前の手下はいないはずだ。アイツらには手出しできないはすだ!」

「うぷぷ。本当にそう思う? ボクがあれ程度の戦力しか持ってないと本当に思ってるの?」

「な、何が言いたい!」

「知ってるよ、小田切クン。君のそれ、壊れてるんでしょ? それが君の力の根源なんでしょ?」

「なっ!?」

 

 

モノクマがそれと言った強化アーマー。それが壊れていたことを知っていたと言われた小田切くんは驚愕の表情を見せた。

 

 

「何故それを知ってる?」

「そんな事はどうだっていいよ。重要なのは君もこのコロシアイに参加してもらう為なんだから」

「何だと?」

「君は遅れて来たから後から説明しようと思っていたからね。こうして現れたという訳さ」

ふざけるな! 殺し合いになんてさせるか。お前の思い通りになると思うな」

「なるよ。ボクが小田切クンの秘密を喋ったらどうなるかな? 君は一気に信用を失うよね? そうなってしまえば、後は疑心暗鬼のコロシアイの幕開けだよ。絶望色に染まるのが楽しみだね」

そんな事はさせない! 絶望なんかに...希望は負けやしない!」

 

 

ここか。舞田くんの聞いた小田切くんの怒声。貴志さんの言う通り、口論の相手はモノクマだった。

 

 

「まあいいさ。詳しくはモノパッドに書いてあるし、ボクはこれで退散するとするよ。うぷぷ。今から楽しみだね。一体どうなっちゃうのか」

「帰れ!」

 

 

モノクマはそう言い残すとスッと消えていった。残された小田切くんはベッドに腰掛け頭を抱えている。そして再び映像が早送りされ、時刻は1時になる時だった。貴志さんが小田切くんの部屋に来たのだ。

 

 

「おお、貴志か」

「貴志か...じゃないわよ」

「...何の用だ?」

「ねえお願い、こんな事やめてよ」

「......貴志」

「そのアーマー、壊れているんでしょ? そんな状態で砂漠越えなんて無謀よ! 萬屋くんだって言ってたじゃない!」

「わかってる。そんな事はわかってるよ、貴志」

「ならどうして?...ヒーローだから?」

「...そうだ。オレはヒーローだ。みんなの救いの象徴として希望を与えないといけないんだ」

「でも...あなたが死んだら意味ないじゃない!」

「いや意味はある。例えオレが砂漠で死んでもここにいるみんなはオレが助けを呼んでいると思っているはずだ。その状況を作り出せばオレが出て行く意味がある」

「それに何の意味が...?」

「コロシアイの防止だ」

 

 

これが小田切くんの真意。

 

 

「え?」

「...さっきモノクマに会ったんだ。急に部屋に現れて...脅されたよ」

「脅された?」

「奴は気付いていたよ。オレのこの強化アーマーが壊れた事に...そしてオレの力がコイツによる物だって事も割れてる。...やるしかないんだよ」

「いや、いやよ! どうして小田切くんだけこんな役目負わなきゃいけないの!? 不公平じゃない!」

「いいんだよ、それで。それがヒーローってモンだ」

「うるさい! 何がヒーローよ! こうなったらいっそここにいるみんなに小田切くんの秘密を話して−」

「貴志! それだけはやめてくれ。...みんなを助けられなくなる」

「...私はどうすればいいのよ。あなたを黙って見送れって言うの? そんなの...」

「お前には苦労をかける。すまない。でももう一つ頼まれてくれないか?」

「......」

「オレがいなくなったらここのみんなを支えてくれ。時間が経てば不安になるものも出てくるだろう。そんな時にコロシアイにならないようにしてほしい。頼む。これを頼めるのは貴志しかいないんだ」

「...ずるい。ずるいよ、小田切くん」

「すまない」

「少し考えさせて...」

「...わかった」

 

 

貴志さんはそう言うと小田切くんの部屋を出た。数分後、小田切くんは自室に付属している紙にペンで何かを書き出した。よく見るとそれは貴志さんから借りたモノだ。書いているのはおそらく食堂に置かれた置き手紙だ。あれは貴志さんの捏造ではなく、小田切くん自身が書いたものだったんだ。

さらに紙を何枚か取り、再びペンを走らす。書き終わるとそれを机の引き出しにしまった。

あれは...一体...?

 

 

「ガチャ」

 

 

貴志さんが再び小田切くんの部屋に来たのは、時刻を4時半を回る頃だった。

 

 

「貴志...」

「小田切くん、あなたの考えはわかったわ。後の事は私に任せて」

「貴志、ありがとう...」

「...そこで提案なんだけど、もう今から砂漠に行かない?」

「早くないか?」

「早いからいいのよ。みんなに見送られながら出て行くとあなたの秘密がバレる恐れもあるでしょ? それにモノクマが黙ってるとも思えない。でも張本人であるあなたがいないとなれば、モノクマが何を言ったとしてもそんなのは嘘だと言える。だから行くなら今しかないのよ」

「そうか...そうだな。わかった。今から行こう」

「うん。じゃあ行きましょう」

「あ、待ってくれ。これ。貴志からみんなに渡してくれ」

「これは...手紙ね。わかったわ」

「助かる。それじゃあ行こう」

 

 

小田切くんはバックパックを背負うと、貴志さんと共に部屋を後にした。そして映像もそこで終わった。

 

 

 

 

 

 

「これでわかったでしょ? 口論相手はモノクマだったのよ」

「どうやらそのようね」

「もう()()()()()ことはないわね」

「ええ。もうないわ。強いて言うとあなたの小田切くんに対する気持ちぐらいかしら」

「そんな事はどうでもいいでしょ」

「あらあら平子サン気になっちゃう? 気になっちゃうよね? 気になっちゃったら仕方ないよね!」

「モ、モノクマ!あなた何を!」

「はい、それではこちらの方をご覧ください」

 

 

そう言われて見てみると、モノクマはどこから用意したのかいわゆる紙芝居を持っていた。モノクマ自身はいつのまにか紙芝居をするお爺さんのような風貌になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「昔昔のことじゃったあ。ある所に電皇というクソガキがおったそうな。そのクソガキはいわゆる戦災孤児じゃった。齢5歳を迎える頃、日本の小田切という心優しいクソジジイの元に引き取られ、それからは何不自由なく育った。...そんなある日の日曜日の朝、何気なくテレビをつけた電皇少年はそこで人々を救い、悪を駆逐する正義のヒーローを見た。とは言っても所詮は特撮、普通のクソガキならここでヒーローの真似事をしては母親にどやされる所だけど、電皇少年は違った。ヒーローになりたい。自分が弱かったから、父は母は弟は妹は死んだ。もう誰にも死んでほしくない。次は命を懸けて守るから。だからこんな力が欲しい。そんな幼心に芽生えた決意が彼を狂った正義の道に引き込んだ。

 

 

『オレ、ヒーローになる。みんなを助ける最強のヒーローになるから』

 

 

そして齢13歳を迎える頃、彼は運命的な出会いを果たすことになる。その人物とは彼に強化アーマーを与えた発明家・浅草橋博士である。博士は実験体を探していた。強化アーマーの試作実験である。

 

 

『どうかオレを使ってくれ、博士』

 

 

危険も伴う実験だったが、電皇少年にとってはまたとないチャンスだった。結果は大成功。電皇少年は強化アーマーを装備し、街の人を助け、悪党を捕まえるなど八面六臂の大活躍。そしていつしか政府すら彼の行動を認可し、史上初めての公式ヒーローが誕生したのだった。

 

 

 

その名を『ジーク』と言った。

 

 

話は変わり、もう一つの物語。主人公のクソガキの名前を萌華と言った。それは彼女が齢16歳を迎える頃、新聞部としての彼女は焦っていた。何故なら彼女の目標は大スクープをすっぱ抜いて希望ヶ峰学園に"超高校級の新聞部"としてスカウトされることにあったからだ。

 

 

『絶対に希望ヶ峰に入ってやる!』

 

 

そんな彼女の耳に一つの噂が舞い込む。それはいま巷を賑わせているヒーローについてのモノだった。ヒーロー『ジーク』は何かを隠してる。これをスクープすれば希望ヶ峰学園のスカウトの目にとまるかもしれない。そう思い、萌華少女は電皇少年との接触を試みた。数日後これは思わぬ形で果たされる事になる。それはある晴れた日の午後、萌華少女はスクープを得るため、ジークの動向を追っていた。そこでたまたま発生していた事件に巻き込まれる。銀行強盗の逃亡犯と遭遇してしまった萌華少女は彼らに囚われてしまったのだ。

 

 

『怖い...怖い...こんな事しなきゃ良かった』

 

 

後悔先に立たず。諦めかけたその時だった。ヒーローが現れたのだ。ヒーローは颯爽と現れると萌華少女を逃亡犯と引き離した。

 

 

『もう大丈夫だ! 後はこのジークに任せておけ』

 

 

その言葉は脳裏に死が過ぎった萌華少女にとって途轍もない安堵を与えた言葉だった。萌華少女を安全な場所に移したジークは逃亡犯を追いかけていった。そこで冷静になった萌華少女の頭に浮かんだのは、本来の目的であった。

 

 

『スクープ...今なら...』

 

 

萌華少女の足はジークの後を追うように走り出した。辿り着いた先はとある廃墟。そこで今まさにジークと犯人グループの戦闘が行われている。不思議と恐怖は消えていた。興奮とジークという安心感があったからだ。中へ入るとそこには犯人グループの一員であるとされる者たちがそこいらに倒れていた。電気もついてない薄暗い建物の中を見回すと、一人だけ立っている人物がいた。ジークだ。

 

 

『ジーク!』

『ん? 君は、どうしてここに?』

 

 

ジークは驚いた様子で萌華少女を見た。そしてその瞬間、萌華少女の背後に犯人グループの一人が立っていた。それは今まさに人質を取らんばかりの雰囲気を醸し出していた。

 

 

『危ない!』

 

 

そう言ったジークの右手から発射されたアーマーは萌華少女の背後の人物目掛けて、飛んでいき、見事に命中、萌華少女を再び救った。しかしそれも束の間、今度はジークの背後に犯人グループの一人がまたしても現れた。その人物は手に持った金属質のロープをジークの首に引っ掛けるとそのまま締め上げた。

 

 

『うっ』

『ジ、ジーク!』

 

 

なおも締め上げる犯人。意識が遠のいていくジークの目から光が消えていきかけたその時、先程飛びしたアーマーを手に萌華少女は犯人に殴りかかった。

 

 

『うあああああぁぁぁぁああああ!!』

 

 

運良くアーマーは犯人の頭にクリーンヒットし、ジークの首を締め上げていたロープから手を離した。犯人はジークの背後で目を回している。萌華少女は膝をついてるジークに駆け寄った。彼女は怒られると思った。『どうして来たんだ!』『何かあったらどうする!』と。 当然だ。そう言われても仕方ない。しかし、ジークはこう言ったのだ。

 

 

『良かった。君にケガがなくて...』と。

 

 

家族でも恋人でも友人でも知人でもない萌華少女を守れたことに笑顔を見せて安堵するジーク。本来なら怒るべきだ、本当に萌華少女の身を案ずるなら...。しかしジークにはそれができない。ジークの生き方は『自分を犠牲にしてでも目の前の人を救うこと』にあるからだ。萌華少女を怒ることはそれに当たらない。彼女がそれを知ったのは、ジークを浅草橋博士のラボに運んだ後、ジークの秘密を博士に聞いた時だった。

 

 

『ジークくん...いや電皇くんは救うことを第一に考えているんじゃ。自分のことは二の次。彼はそういう性格なんじゃ。電皇くんは、このアーマーで辛うじて戦えている普通の高校生なんじゃ。それがジーク...いや小田切電皇くんの秘密なんじゃ』

『は、博士、どうしてそれを私なんかに?』

『...電皇くんは孤独なんじゃ。一人で悪と戦ってるんじゃよ。電皇くんには理解者が必要、そう考えていた時、負傷した彼を運んできた君が現れた。それだけのことじゃよ』

『博士...』

 

 

その後、回復したジークと話した萌華少女は自分のした行動を謝った。当然のようにジークは『気にするな』と言うばかり。この時、萌華少女は内心思っていた。これはかつてないスクープになると。これを記事にすれば希望ヶ峰に入り、将来を約束されると。でも彼女の心は揺らいでいた。彼女も血の通った人間。これを暴露することはジークのこれからを邪魔することにもなる。その板挟みになり、萌華少女の出した答えは...

 

 

『私ね、ジャーナリストなの』

 

 

素性を打ち明けることだった。このことを記事にしたい気持ちをジークに言ったのだ。ジークは少し困った表情をして

 

 

『ああ、それは少し困るな。救える人が少なくなってしまう...』

 

 

と苦笑して言った。それを見た瞬間、萌華少女のジークの秘密を記事にしたいという気持ちはなくなった。代わりに彼女の心に新たな気持ちが芽生えた。彼の秘密を知っているのは博士と私だけ。彼を守れるのは私だけ。萌華少女は彼にとっての味方になろうとしたんだ。

 

 

『わ、私、 あなたの秘密を記事にするのやめるわ。その代わりあなたの活躍を記事にしたい! しゅ、取材させてもらっていいかな?』

『...オレを取材?』

 

 

ジークは少し考えると、顔を上げ、萌華少女に微笑みかけて言った。

 

 

『ああ、いいぜ。よろしくな、え、えーと』

『あ、私、貴志...貴志萌華って言います』

『貴志か。オレはジ......小田切...小田切電皇だ。これからよろしくな』

『う、うん!』

 

 

こうして萌華少女と電皇少年は出会い、新たな日々が始まった。首の痕を隠すためのマフラーをプレゼントしたり、誘拐された王国の要人を助け出したりもした。そんな日々の中で萌華少女はいつしか電皇少年に惹かれていった。電皇少年がそれに気付いていたかどうかわからないが、彼自身は失う辛さを知っていた為に無意識のうちに気持ちを殺していたのかもしれない。

そして月日が経ち、幸か不幸か萌華少女に希望ヶ峰学園からスカウトを受けたのだ。ジークの一番近くにいた彼女の記事が評価されてのことだった。

 

 

『小田切くん! わ、私、希望ヶ峰にス、スカウトされた!』

『え、マジか。奇遇だな。オレもだよ』

『ええ!?』

 

 

電皇少年は一枚の紙をペラペラっとさせて見せると、確かにそこには"超高校級のヒーロー"としてスカウトするという旨の内容が記載されていた。

 

 

『じゃ、じゃあ今度は学校でも一緒に居られるんだね!』

『あ、ああ。でもオレは人々を助けなきゃいけないからあんまり出席できないかもしれないぞ?』

『それでもいい! 小田切くんと一緒の高校にいけるなんて、しかもあの希望ヶ峰なんて、嬉しすぎるよ』

『そ、そうか?』

『うん!』

 

 

こうして希望ヶ峰学園にスカウトされた二人は、これを快諾したのだった。この後、このリア充たちはとんでもない目にあってしまうのですが、それはまた別のお話。物語はこれで終わりだよ。めでたし、めでたし」

 

 

 

 

 

紙芝居が終わった。そこには小田切くんと貴志さん、二人の過去が描かれていた。物語の途中に出ていた"王国の要人"って僕のことなのかな?

 

 

「勝手なことを...」

 

 

そう言うと貴志さんはモノクマを睨んだ。

 

 

「ボクは聞かれたから答えただけよ。貴志サンの許可なんていらないんだよー」

「誰もあなたになんか聞いてないでしょ!」

「おー、怖い怖い。そんな事を言う人はとっとと処刑しちゃおうかな」

「しょ、処刑...」

「おい! 待てや! 貴志...さんは確かに罪を犯したが、やからって処刑するんなんていくら何でも許されるワケがないぜよ!」

「そう、だよ! 何も処刑することなんてないよ!」

 

 

僕は鮫島くんに同調した。貴志さんは確かに小田切くんを殺した、だけど死ななきゃいけない理由なんてどこにもない。きっと小田切くんだってそう言うに違いないんだ。

 

 

「ダメだよ。これは守るべきルールの一つだからね。ボクにだってこれは破れないよ」

「そんなの−」

「もういいよ」

「貴志さん...」

「もういいんだよ、私は処刑されても構わない。これは小田切くんを殺した時に覚悟してた事だよ。死ぬ方法が違うだけ」

「で、でも」

「いいのよ、これで。これで良かったのよ」

 

 

貴志さんの表情は少しだけ嬉しそうに見えた。これから小田切くんのいるところに行けるからかな...?

 

 

「そんな顔をされて死んでもボクとしては面白くないなぁ。だから一つだけ教えといてやるよ」

 

 

モノクマ?

 

 

「あのね、小田切クンが願っていたコロシアイの防止なんだけど、ボク視点としては()()()()()()が一番難しい訳だよ。こっちとしても色々苦心するところでね。試行錯誤しなきゃいけないんだよ。だけど一度始まってしまえば後はドミノ倒しってワケ。だから貴志サンには感謝してるよ、でもね、これって実は小田切クンがもっとも避けようとしていた事態でもあるんだよね。だから小田切クンも砂漠越えを決行しようとしたワケだし」

「あ、あなた、何が言いたいの?」

「貴志サンは小田切クンの一番望まない行動をしてしまったってことだよ」

「え」

 

 

それは残酷な真実。今の貴志さんに言ってはいけない言葉だった。

 

 

「わ、私はただ小田切くんを想って...」

「そして、そんな小田切クンを殺しておいて、自己満足にも程があるよ。ただのエゴだよ! 小田切クンは砂漠に出てももしかしたら助かったかもしれないし、萬屋クンの目測が間違っていただけかもしれない。結果、貴志サンがただ暴走して小田切クンを殺しただけなんだよ」

「ち、違う。私は、私、私は、そんな、だって、私だって、小田切くんを殺したくなんてなかった...小田切くんとこれからも一緒に居たかった...小田切くんと一緒に生きたかったよ...でもこれしか、これしか、私には思いつかなかったんだよ」

 

 

貴志さん...。

 

 

「うっ、うう、うう...

 

 

うぅぅぅぅぅぅうううわぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!!!」

 

 

それは初めて聞く貴志さんの泣き声。数日しか一緒にいなかったけど、彼女がこんな表情をするとは夢にも思わなかった。まるで子供のように泣きじゃくる貴志さんを見て、自然と僕の目からも涙が流れた。

 

 

「さあて、こんなものかな。じゃあおしおきいっちゃいますか!」

「ま、待って!」

「......ねぇ、クルトくん」

「え?」

「"超高校級の新聞部"の貴志萌華サンの為に、スペシャルなおしおきを用意しましたっー!」

 

 

貴志さんはモノクマの言葉を無視し、涙を流しながら僕に最後の言葉を投げかけた。

 

 

「あなたなら、私と違う答えが出せたのかな?」

「き、貴志さん」

「私が言うのは筋違いかもしれないけど、みんなの事を頼むね、みんなでここから出て、きっと彼もそれを望んでいるから」

「では、張り切っていきましょう! おしおきターイム!!」

「貴志さん!!」

「...頼むね。こんな私でごめんね......」

 

 

そう言った瞬間、モノクマは下から出てきた赤いボタンをハンマーで叩いた。それは貴志さんの命を終わらせる理不尽な行為だ。

...おしおきが始まってしまう。小田切くんを殺した貴志さんの処刑が...。止める事はできない。ただ僕に出来ることは、少しでも辛くないようにと祈る他なかった。

 

 

 

 

 

 

 

−GAME OVER−

キシさんがクロに決まりました。

おしおきを開始します。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴志さんは突然現れた首輪に連れていかれ、そのまま僕らの眼前から姿を消した。

 

気がつくと再びモニターに映像が映し出されていて、そこにはゴシック体で大きくこう書いてあった。

 

 

 

 

【号外『 超高校級の???枠 まさかの犯人か!?』】

〜超高校級の新聞部 貴志萌華処刑執行〜

 

 

 

 

画面は切り替わり、そこには貴志さんが椅子に縛り付けられて身動きが取れないようになっていた。そんな貴志さんの目の前にモノクマが現れた。モノクマは記者の格好をしており、手にカメラが握られていた。

 

 

モノクマはスクープと言わんばかりに、フラッシュを焚きまくりながら貴志さんの姿を取り続けた。堪らず貴志さんは眩しくて目を閉じる。次に目を開けた瞬間、場面は切り替わっており、そこは新聞の印刷所だった。

 

 

印刷所内にあるパソコンのモニターからはこれから印刷されるであろう新聞の見出しが確認できた。

 

そこには『超高校級の???枠 まさかの犯人か!?』と書かれていた。

 

 

印刷機が稼働し始めると先程見た記事の印刷された新聞が次々と刷られていった。その一枚が貴志さんの足下に落ちた。

 

記事の内容を見た貴志さんの顔は次第に歪んでいった。その記事はこちらのモニターにもわかるように表示された。

 

 

そこには小田切くんを殺した犯行以外にも犯人の生い立ちとして、貴志さんの人生が赤裸々に綴られていた。生年月日は勿論のこと、パパと一緒にお風呂に入っていた年齢、初めて書いた記事の内容、小田切くんへの恋慕、さらに口にする事すら憚れるような内容の文章が並んでいた。

 

 

貴志さんは恥ずかしさと悔しさを綯い交ぜにしたような表情を浮かべ、その目からは涙が止めどなく溢れ出ていた。

 

 

しかし数秒後、印刷機が活動を停止したのだ。

 

 

終わった?

 

 

一瞬そう思ったが、やはりそんな事はなかった。

 

 

印刷機に付いてるモニターには"インク切れ"を示すエラーが表示されていた。

 

 

『ブラッディインクを補充してください』

 

 

その意味を理解した時、僕らの顔から血の気が引いた。

 

 

貴志さんは再び首輪に連れていかれ、印刷機の上に吊るされた。すると印刷機の上部が開帳し、再稼働を始めた。白紙の新聞を印刷し続けている所に徐々に落とされていく貴志さん。このままでは貴志さんが印刷機に巻き込まれてしまう。

 

 

貴志さんは今から自分がされる事を悟り、今までに見ない絶望に満ちた顔をしていた。

 

 

その瞬間貴志さんの足が巻き込まれた。

 

 

 

「ぎゃあああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああああああああああああああいう!!!」

 

 

 

貴志さんは心の底から泣き叫び、顔は涙や涎で汚れた。それもそうだ...両足の骨がぐちゃぐちゃにすり潰されたのだから...

 

 

なおも体が沈む貴志さん。貴志さんが事切れたのは下半身が完全にすり潰された後だった......。

そして遂には貴志さんの体は全てその機械に飲まれた。

 

 

そして、発行される新聞。貴志さんの血肉で印刷された文字は狂気以外の何者でもなかった。

 

 

 

 

 

 

場面は切り替わり、何処かの駅前、サラリーマンに扮するモノクマ達に号外を配るモノクマがいた。号外を手に取ったサラリーマンモノクマは見出しを一瞥して鼻で笑うとすぐにその新聞をゴミ箱に捨てた。その次のモノクマもその次のモノクマも新聞を手に取ってはゴミ箱に捨てていった。

 

号外を発行したモノクマは怒りの表情を浮かべ、残りの号外を同じゴミ箱に捨てて火をつけて帰っていった。

 

 

 

 

最後に風に吹かれた燃えかけの一枚の号外が画面に映り、数秒後、貴志さんの写真が載った記事諸共燃え尽き、灰となって消えた......。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貴志さんが、殺された。

 

 

 

人間の尊厳なんてものは一切鑑みない残酷な処刑。

 

 

 

ふざけるな。

 

 

 

何なんだよこれ。

 

 

 

こんなのってあんまりだろッ!

 

 

 

 

「エクストリィィィィィィィィィィィィィィィィィィムゥゥゥゥウ!!!」

 

 

当の実行したモノクマは満足気な咆哮を上げていた。人間を弄んで殺すことがそんなにも楽しいのか...。

 

 

「何やねん...これ...」

「うああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」

「うぎゃらああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」

「嘘だろ...」

「こ、こんなの残酷すぎるっすよ!」

「主よ、貴志の魂にどうか救済を...」

「......も、萌華」

「人の所業とは到底思えないな」

 

 

みんなの絶叫や嘆きが聞こえてき、その残酷極まりない処刑方法に吐き気を催してきた。

 

 

「...ひどいよ。こんなのってないよっ!」

「何を言ってるの? ひどいのは、貴志サンだよ? オマエラ全員貴志サンに殺されかけたんだよ? ボクはただルールに則って動いてるにすぎないんだよ」

「ルールなんて関係ないっ! あんな残虐な方法で貴志さんを殺して...お前に人の心はないのかよ!」

 

 

怒り。確かに貴志さんは小田切くんを殺してしまった。それでも彼女は僕らの仲間に違いなかったんだ...二人とも生きていたらきっと仲良くなれたはずなんだ...。それなのに......。

 

 

「ひどい言い方だね、クルトクン。そうそうひどいと言えば裁判中に貴志サン以外にも嘘をついていた人がいるんだけど、オマエラは気付いた?」

「は、話を逸らすな!」

 

 

そんな僕の言葉を無視して、モノクマは喋り続けた。

 

 

「それは、平子サンなんだよ」

「...え」

 

 

何を言ってるんだ...こいつは...。

 

 

「平子が、裁判中に嘘を...?」

「そうだよ。平子サンはこの学園にはボールペンは貴志サンと桐崎サンの持ってる二つしかないって言っていたけど、そんな事はないよ。売店をちゃんと見れば、しっかりあるんだからね。しかもそれを知ってて黙っていたんだよ、ひどいと思わない?」

「ひ、平子さん? 本当なの?」

 

 

平子さんは特に動じる様子もなく、ただその問いに回答した。

 

 

「本当よ。私はあの場面で"偽証"したのよ」

「どうして?」

「貴志さんが犯人なのはどう見ても明らかだったし、そんなことで逃げ場を作ったら無駄な時間を取られると思ったからそうした。それだけのことよ」

 

 

ただ淡々とそう語る平子さんからは今しがた貴志さんの処刑を見たとは思えなかった。平子さんはそこまで冷徹なのか? 検事ってのはそうしないといけないものなのか?

 

 

「平子さん...」

「冷徹って顔をしているわね。でもその通りよ。私は貴志さんの処刑を見ても悲しみという感情を見出せないのよ。悪いけど」

 

 

平子さんがこうなったのは、確か小田切くんの死体を見つけた時だ。一緒に学園を探索したり、ビリヤードしたりしてる時にはこんなに人が変わるなんて思いもしなかった。

 

 

「この際だから言っておくわよ。一度コロシアイが始まってしまった以上、これまでのような生活はできないと思いなさい。もうこれ以上、こんな裁判擬きのようなもの、開かせてはいけないわ...絶対に」

 

 

平子さんはそう言うと一足先にエレベーターへと向かった。

 

 

「あんな奴だとは思わなかった。人の死に何も感じないなんて...」

「繭住さん...」

 

 

暗い雰囲気が辺りを包む。そんな中喋り出したのは、冷静にこの場を見ていた桐崎さんだった。

 

 

「あの皆様。一つ提案があるのですが宜しいですか?」

 

 

提案?

 

 

「何? 桐崎さん」

「明日の午前10時に食堂に一度集まりましょう。今日はもうお休みになられた方が宜しいかと。皆様も疲労しているようですし」

「そう、ですな。桐崎女史の意見に賛成、ですぞ...各々方一度整理をつけた方がよいかと」

「そうね、そうしましょう」

「そうと決まればこんな場所、さっさと退散するっす!」

「舞田、お前大丈夫か? 肩でも貸そうか?」

「ああ、大丈夫や。...一人で歩ける」

「...はあ。これからどうなるのかしら」

「...今は考えない方がいい...」

 

 

みんなそれぞれ思うところがある。これが学級裁判...これがコロシアイ...これからのことを思うと自然と足取りが重くなる。それでも僕らはエレベーターへ向かった。向かうしかなかったのだ。

 

 

宿舎へ戻るとみんなそれぞれの個室へと戻っていって気がつくと一階にいたのは、僕と繭住さんの二人だけになっていた。

 

 

「クルトは部屋に戻らないの?」

 

 

僕はまだ帰るワケにはいかなかった。最後に一つだけ確かめたいことがあったからだ。

 

 

「小田切くんの部屋に行きたいんだ」

「クルト...」

「小田切くんが最後に書いたものが何なのか、それが彼の個室の引き出しに入っている。それを確かめたいんだ」

「...わかったよ。それじゃあ私も行く。クルト1人じゃ心配だしね」

「繭住さん...ありがとう」

「いいのよ、これぐらい」

 

 

僕と繭住さんは小田切くんの個室に向かった。捜査の時にも確認したので、すぐに部屋の前まで向かうことができた。

 

 

「ガチャ」

 

 

幸い鍵はかかっていなかった。ひょっとすると閉まってるとも考えたが、それはなかった。もしかしたらモノクマが意図的に? いやどっちだっていい。小田切くんが最後に書いていたものを確認しなくちゃいけないんだから。

扉を開けて、部屋に入り、机の引き出しを開けると、おそらく一度も開いていないモノパッドと3枚の紙があった。よく見ると全て二つ折りにされ、そこには宛名が書いてある。

 

『貴志へ』

 

『萬屋へ』

 

『クルトへ』

 

そう書いてあった。

 

 

「手紙...僕宛ての物もあるのか」

「どうするの? クルト」

「...読むよ。でも残り二つはどうしよう? 萬屋くん宛の手紙は本人に渡せるけど、貴志さん宛ての奴はもう...」

「貴志さん...」

「...貴志宛ての手紙は私が預かるよ。少し整理がついたら読むことにしよう」

「...わかった。萬屋くんの物は僕が明日、食堂で渡すことにするよ」

 

 

貴志さん宛の手紙は繭住さんが、萬屋くん宛の手紙は僕が預かる事になった。そして、引き出しには僕宛ての手紙だけが残った。僕はそれを手に取ると、開いて読み始めた。そこにはこう書いてあった。

 

 

 

 

 

 

クルトへ

 

こんな形でみんなの前から去ることを許してほしい。でも必ず助けを呼んでくる。何も心配することはない。前の誘拐事件の時のように絶対にオレが何とかしてみせるから。そこでクルトの友人として、一つだけ頼みたいことがある。貴志のことだ。アイツには相当重い荷を背負わせてしまっている。アイツは頭はいいのに、一人で突っ走っちまう癖がある。だからクルト、お前に支えてほしいんだ。オレが戻るまで誰一人欠けることなくいてほしいんだ。希望はある。それを忘れてはいけない。心配するな、お前との約束も果たすつもりだ。だから死ぬなよ? 必ず生きてここから出よう。

 

頼んだぜ。また会おう!

 

小田切より

 

 

 

 

 

 

 

「...小田切......くん」

 

 

それは小田切くんからの最後の頼みごと。貴志さんの身を案じて僕に託したんだ。...でもその貴志さんは...もう...

 

 

「僕は...本当に何もできないな......小田切くんの最後の願いすら叶えてあげることができない...助けてくれた恩も返せないまま......僕は...僕は...」

「クルト...」

「僕は...とんだ役立たずだよ......うっ...うっ」

 

 

涙が溢れでて止まらない。結局、小田切くんにまだ何も返せてない。...恩返しをしたかった...一緒にここを出た喜びを分かち合いたかった。でももうそれは叶わない。そう思った時、学級裁判から解放された安堵感と小田切くんの喪失感が相まって堰を切ったように僕の目から流れ出したのだ。

 

 

「うっ...うぅぅぅぅぅぅぅぅああああああああああああああああああ!!!」

 

 

僕は子供のように泣きじゃくった。繭住さんの言ったように僕は昔から変わらない泣き虫のままだった。

 

 

「クルト」

 

 

目の前で泣く僕を見て、繭住さんは優しく名前を呼んでくれた。

 

 

「アンタはよくやったよ? 私たちが今生きていられるのは、全部アンタがいたからだよ? 他の誰がどう思おうと私はクルトを役立たずなんて思わない。だから...もう自分を責めるのはやめよ?」

「ま、繭...住さん...」

 

 

そう言うと繭住さんは静かに僕を抱き寄せた。彼女の言葉に少し心が救われた。でもどうしても目から溢れて出る涙を止める事はできなかった。

 

 

「やっぱりアンタって、泣き虫だね。...いいよ、今日だけはいっぱい泣きな。アンタはそれぐらい頑張ったんだよ、クルト」

「あり...がとう」

 

 

その後もひたすら泣き続けた。泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣いて、泣きじゃくって、涙も枯れ果てた頃、ふと最後の貴志さんの言葉を思い出した。

 

 

『私が言うのは筋違いかもしれないけど、みんなの事を頼むね、みんなでここから出て、きっと彼もそれを望んでいるから』

 

 

託されたんだ。小田切くんから貴志さんに、そして貴志さんから僕に、みんなでここから出ることを。だったらもう泣いてばかりもいられない。僕は残った涙を腕で拭うと、繭住さんに言った。

 

 

「繭住さん、絶対にここから出てやろう。みんなでここから出て、モノクマを見返してやろう! 絶望なんかに負けはしない! 最後に勝つのは希望なんだって証明してみせよう!」

「...ああ、そうだね。ここから出てみせよう。それが死んだ小田切と貴志の最後の願いだからね」

 

 

見ててよ、小田切くん。君に負けないように僕も精一杯努力する。何があってもここから出てみせるから。だからそこで見守っていて。僕たちは君たちの死を決して無駄にはしないから...。

そう天国の小田切くんに誓って僕と繭住さんは部屋を出た。

 

 

『絶望なんかに希望は負けない』

 

 

そう言っていたジークいや小田切電皇くんの言葉を僕は生涯忘れることはないだろう。

 

だってこれは彼のヒーローネームに込められた意味でもあるからだ...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Sieg(ジーク)

[名]勝利、戦勝、克服

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー生き残りーーー

 

 

赤星衛

足立猫

氏家幕之進

小田切電皇

貴志萌華

鬼頭ちはる

桐崎雨城

クルト・L・クルークハルト

鮫島海

勅使河原祈里

平子華月

古畑野々葉

舞田十司郎

繭住藍子

六車ミゲル

萬屋千歳

 

 

 

...残り14人

 

 

 

 

 

第1章『みんなの希望を復活せよ』 完

 

 

 

 

 

 

to be continued→

 

 




今回でようやく1章完結です。おしおきと言いながらほとんど貴志さんと小田切くんを掘り下げる回でした。

さて

ここまで本作を読んでいただき誠にありがとうございます。創作論破というジャンルを知って日は浅いですが、少しでも面白い作品になっていれば幸いです。これからも本作をどうかよろしくお願いします。


それではまた次回お会いしましょう。

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