ダンガンロンパExtraWorld 〜砂漠のコロシアイ学園生活〜   作:magone

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第2章 (非)日常編 II

〜足立猫、食堂にて〜

 

 

 

 

「そろそろ戻ってくる頃かしら」

 

 

みんなが新エリアを探索している間、あたしと衛ちゃんは食堂で何をするでもなく過ごしていた。

 

 

「ねぇ、マオ...」

「ん? どうしたの? 衛ちゃん」

 

 

そんな中で衛ちゃんが不意にあたしの名前を呼んだ。いつもは食堂に響くぐらい高い衛ちゃんの声がどこか弱々しく聞こえる。そう聞こえるのは多分昨日の出来事が原因なのは言うまでもないでしょうね...。

 

 

「みんな探索に行ってるのにぼく達だけこんなとこにいてもいいのかな?」

「...さあね。でも衛ちゃんも言っていたでしょ? 危険があるかもしれないって。確かにその通りかもしれない。モノクマが何か罠を仕掛けているかもしれない。...でもそこでここから出る手掛かりが何か見つかるかもしれない。...結局のところ正解なんて誰にもわからないのよ」

 

 

かく言うあたしも少し危険を感じてる。また何か始まってしまうような、またあの学級裁判が開かれてしまうような、そんな予感がしてしまう。

 

 

「だからここは大人しくみんなの帰りを待ちましょう」

「...わかった。大人しく待つ!」

 

 

...本当に小動物みたいな子ね。

 

 

「あ〜でもこのままただ待つのも暇だからさ、マオ何か話そーよ」

「そうねぇ。いいわよ」

「ありがとー! マオ〜! それじゃあ〜ねぇ...マオはここに連れてこられる前って何してたの?」

「ここに連れてこられる前ねぇ。...まぁ知ってるとは思うけど、あたしは動物を診るお医者さんみたいな事をしてたわ。もちろん正式ではないけど、それでも色んなコを診てきたわよ。ワンちゃんやネコちゃん、フクロウちゃんなんかも診たことあるわ」

「色んなニャンコ見れるなんて羨まし〜よ」

「ネコ好きなの?」

「うん! 大好き! マオは?」

「あたしも好きよ」

「だよね! 名前も"猫"って書くしね!」

「そう言う訳じゃないけどね、あたしは動物全般好きよ」

 

 

まあでもこう言う明るい子は嫌いじゃないわね。こんな非日常的で死と隣り合わせな空間では衛ちゃんみたいな明るさはあたしにとっても、多分みんなにとっても救いになると思う。

 

 

「特に好きな動物はいないの?」

「うーん。特別好きなコはいないかな。よく診るのはやっぱりワンちゃんやネコちゃんだけど」

「帰りたい?」

「そりゃそうよ。まだまだケガや病気の治療中のコ達だっているのよ。一刻も早くここから出たいわ」

「マオ...」

「でも安心して、あたしは誰かを殺してまでここから出たいとは思わないから」

「ぼくもだよ。ぼくもコロシアイなんてしないから安心して!」

 

 

何だか小さい子を相手にしてるみたいで、父せ...母性に目覚めそうだわ。でもこの子も超高校級に選ばれた天文学者さんなのよねぇ。...世の中って広いわ。

 

 

「そう言えば衛ちゃんは何していたの? 天文学を研究していたとは思うけれど」

「研究ってほどじゃないよ。ぼくはただ星を見つけただけ」

「...詳しくはわからないけどそれってすごい難しい事じゃないの?」

「う〜ん、確かに先輩や先生は驚いていたけど、ぼくは星が好きなだけだからね〜」

「...なるほど、天才なのね」

「えへへ、照れるよ〜」

 

 

超高校級って言うのは変人が多いと聞くけど、こういうタイプの子もいるのね。まあ、あたしも人の事は言えないけど。

 

 

「ガチャ」

 

 

あら、誰か帰ってきたのかしら?

 

 

「ふぅ疲れたぜよ」

「あら海ちゃん帰ってきたのね」

「海ィ!」

「え、え! あ、赤星、さん、ちょ、ちょっと近い...です」

「えー? 海はぼくのこと嫌いなの?」

「あ、いや...そう言うワケじゃ...足立! 助けてくれ」

「...海ちゃん。女性が苦手なのは知ってるけど、いくら何でも衛ちゃんにまでドギマギするのはどうなの? 海ちゃんはちょっとは慣れることも必要よ」

「そ、そうは言うが...」

 

 

海ちゃんももう少し女性慣れすれば他の子とも普通に喋れるのに...まあこういう光景を眺めているのも悪くはないけどね。

...この平穏、崩したくない。誰にももう死んでほしくない。もうあんな検死二度とやりたくないわ...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜クルト、食堂にて〜

 

 

 

 

食堂に戻り全員が揃うと探索した新エリアの報告会が開かれることになった。

 

 

「さて、始めましょうか」

「とは言ってもどこから報告する?」

「確か新エリアはモノクマの言った通り、2階と3階に解放されていたっすね」

「じゃあとりあえず2階からでいいんじゃない?」

「ではまずは2階の技術室を調べた小生が報告してもよいですかな?」

「いいわよ。何か見つかった?」

「ノコギリやハンマーなどの工具がありましたな。それよりもですぞ! 聞いてくだされ各々方! なんと、なんと、さらに奥の部屋にガラス工房なる施設があったのですぞ!」

「ガラス工房?」

「まさに小生の為に用意された部屋と言っても過言はないですな! この中であの部屋を扱えるのはこの氏家幕之進を置いて他にはいないでしょう」

「...技術室にあったのはこれぐらいだよ...」

「あ、ちょっと! 萬屋氏、締めに入らないでくだされ!」

「んじゃ次は俺らやな」

 

 

氏家くんの言葉を無視して舞田くんは言葉を続けた。

 

 

「俺らは2階にあった図書室を調べた。当然の如く本しかなかったけど、蔵書数だけは無駄に多かった印象やな」

「奥の資料室にはより多くの専門書がございました。しかしその量が膨大なのでまだ全てを把握できてはおりません。引き続き調査したいと考えております」

「なるほどね、わかったわ」

「なら2階は終わりだな。次は3階の報告と行こうぜ」

「はいはいはーいっす!」

 

 

勢いよく手を上げだのは古畑さんだ。

 

 

「3階には視聴覚室があったっすよ! ごくごく普通などこに出るもある視聴覚室だったすけど、奥の準備室にはアニメ『グングニルズワールド・フロンティア×2』のDVD全巻があったっす!」

「なにそれー?」

「通称グンフロ。一時代を築いた名作アニメですな」

「おお! 氏家くんはご存知っすか!」

「勿論ですよ。小生と致しましては7話で主人公のマコトがサヤカを敵の魔の手から救い出したエピソードが最たるものと考えます」

「いいっすよね! いいっすよね! でも私はやっぱり最終回ですかね! はじめは敵だったビャクヤが助けに来たシーンは泣きましたよ!」

「ほほう。いい感性をお持ちだ。では後に小生と二人っきりで鑑賞会と洒落込みますかな? ...ぐへへ」

「古畑、悪いこと言わないからとりあえずソイツと二人っきりだけはやめときな」

 

 

あのアニメ、他にも知ってる人がいたのか...意外と有名なのかな?

 

 

「まあ視聴覚室にもそんぐらいしかなかったぞ。次行ってくれ」

「最後は化学室か」

 

 

化学室...モノクマが無駄に丁寧に教えた毒薬があった場所だ。

 

 

「化学室には、奥の準備室にモノクマの作った毒薬があったわ。それも7種類と豊富にね」

「ど、毒薬!?」

「そんなの早く処分できないの?」

「したくてもできないのよ。モノクマが追加した新しい校則のせいでね」

「校則?」

「...そう言えば追加されていた...」

「そうなんか? 全然気付かんかったぜよ」

「モノパッドに通知が行ったのよ。携帯してる人は気付いてるわ。携帯していない人は...今日はもういいけど、明日から何が追加されるかわからないから各自携帯しておいて」

「そやな...知らん間に追加された校則を違反して処刑なんてシャレにもならんからな...」

 

 

僕もその追加された校則を破って危うくおしおきされかけた...。今後はモノパッドも携帯しておく必要がありそうだ。モノクマの思い通りになるのは嫌だけど、命には代えられない。

 

 

「わかったわ。それで今回はどんな校則が追加されたの?」

「これよ」

 

 

平子さんが自分のモノパッドを開き、新しく追加された校則を表示して、みんなに見えるようにテーブルの真ん中に置いた。

 

 

「えーと、なになに、『この学園の公共物をコロシアイ目的以外で破壊してはいけません』か。なるほどな。これのせいで予め処分することもできへんてワケやな」

「そうよ。だからあの化学室には近付かないでほしい。もし入っているのを目撃したら、その時は殺人を企てていると判断するからそのつもりでいて」

「ほな、化学室はとりあえず立ち入り禁止って事でええな?」

「異議はないっす」

 

 

さて、今までの情報をまとめると解放された新エリアは技術室、図書室、視聴覚室、化学室。さらにそれぞれ、技術室にはガラス工房、図書室には資料室、視聴覚室と化学室には準備室がある。なお毒薬のある化学室は立ち入り禁止と。こんなところかな。

 

 

「報告会は以上ね」

「脱出に使えそうなモノはなかったね」

「...うん...」

「まあモノクマが解放した場所だからそんなものはない可能性が高いとは思っていたけど」

 

 

使える物がない以上やはり脱出は難しそうだ。

 

 

「それじゃあ議題を戻しましょう」

「えっと、何の話してたっけー?」

「凶器の話よ」

「凶器じゃないわよ」

「...凶器になりうる物の話よ」

「ほとんど何も変わってないじゃない」

「て言うか誰の何が凶器だったかなんて覚えてねーんだけど」

 

 

えーと...確かあの時言っていたのは...。

 

 

「鬼頭さんのメリケンサック、萬屋くんのラペリングロープ、繭住さんのハサミだったよね」

「そうよ」

「私のハサミは凶器なんかにしないし、させない」

「口では何とでも言えるわ」

「待て平子華月。これでは堂々巡りだ。そこで私から一つ提案があるのだが、聞いてみる気はないか?」

「...提案って?」

 

 

勅使河原さんは腕組みをしながら説明を始めた。

 

 

「その3つに関してはそれぞれの持ち主が徹底的に管理させておく。そうすればもしその凶器による殺人が行われた場合、その人物がクロと確定する事になる。そのような状況の流れで自分の管理下にある物を使ってわざわざ殺人をする愚は誰も犯さないと考えられる。これならそこの3人も承諾しうると思うが、どうだ?」

「...あなたはそれが最善だと?」

「ここでいつまでも話し合いを続けるよりはいい」

「...はあ。わかったわ。今回は勅使河原さんの提案を飲みましょう。あなた達もそれでいいわね?」

「...それでいい...」

「問題ない」

「私も...それなら」

 

 

勅使河原さんの提案で持ち主である3人をはじめとし、平子さんを含む全員が納得した。

 

 

「でも3人はくれぐれも管理を怠らない事ね。もしそれで誰かが死んだ時は真っ先に疑われることを覚悟しておいて」

「言われなくてもそうするわよ」

「どうだかね。現にそのハサミ一度紛失したらしいじゃないの。もしそれが誰かに拾われて殺人に使われていたらどうなっていたか、よく考えるのね」

「......行くわよ、クルト」

 

 

繭住さんはそう言うと僕の腕を掴んで食堂の扉を開けた。

 

 

「繭住さん...」

「はぁ...ごめんクルト、ちょっとだけ付き合って」

「え。あ、うん。わかったよ」

 

 

ため息混じりにそう言われると断ることなんてできなかった。僕が連れてこられたのは繭住さんや平子さん達とビリヤードをした娯楽室だった。その中にあったボードゲーム用の椅子に座ると繭住さんは話し始めた。

 

 

「ごめんね、急にこんな所に連れてきて」

「いや僕は大丈夫だよ。それより何でここに?」

「場所はどこでもよかったのよ。話すことができれば」

 

 

繭住さんはそう言いながらいつも腰につけてるシザーケースから一本のハサミを取り出して見せた。

 

 

「これはあの時クルトが砂漠から見つけてくれたハサミよ...これはね、私がお父さんから初めてもらった物なの...初めての...プレゼントだったの」

「ああ...だからあんなに必死になって探していたんだね」

「うん。だからこそ許せなかった。これを凶器って言った平子を」

「...繭住さん」

「でも平子の言いたいこともわかるのよ? 危険物は少ない方がいいって、わかってる。わかってるけど...手放すことなんて出来ないのよ...これは私の美容師としての出発点。私の宝物なの」

 

 

そう語った繭住さんの目は僕には悲しく見えた...。

 

 

「ごめん。それだけ言いたかったの」

「繭住さん...」

「ク、クルトだから話したんだからね! 誰にも言わないでよ?」

「ん? でもそんなに隠すような話でも...」

「嫌なのよ。高校生にもなってお父さんっ子って思われるのが」

「...そういうもの?」

「そういうものよ」

 

 

お父さんか...父上はいなくなった僕のことを探してくれているだろうか...いやないだろう。

こんな僕を...父上が探しているワケがない。

 

 

「クルト? どうしたの?」

「...なんでもないよ」

「ふーん。そう。...クルトはこの後何か予定ある?」

「予定はないけど、勅使河原さんが少し気になるかな」

「勅使河原?」

「うん。昨日の裁判の件で萬屋くんに謝りたいって言っていたから、仲直りできたのかなって」

勅使河原(あいつ)も意外にそういうの気にするのね。で、探しに行くの?」

「そのつもり、かな」

「わかった。話に付き合ってくれたし、私もクルトに付き合うよ。勅使河原にはさっきの件で世話になったしね。で、居場所に検討はついてんの?」

「勅使河原さんのことだから図書室あたりで日本史の教科書でも読んでるのかなって」

「どちらかというと寝てそうだけどね」

 

 

そして僕たちは娯楽室を後にした。

 

 

 

「...うーん...勅使河原さん、いないね」

 

 

彼女を探しに図書室に来たワケだけど、中には誰もいなかった。資料室にでもいるのかなと思っていると視界の外から声が聞こえてきた。

 

 

「クルトに繭住ちゃんやないの。どしたん? 図書室に用か?」

「いやコイツらは見るからに図書室に用じゃねぇな? なぁ、図星だろ?」

 

 

振り返るとそこには舞田くんと腕を組んでドヤ顔をしてる六車くんがいた。

 

 

「六車、アンタも図書室で本を読むようなタイプじゃないでしょ」

「うっせーよ。代理だよ代理。桐崎が夕飯の支度で図書室に行けねーから代わりに来ただけだ」

「ふーん」

「んで、結局何の用なんや?」

「ちょっと勅使河原さんを探しにね、図書室ならいるかなと思って」

「勅使河原ちゃんなら技術室にいるで」

「技術室に?」

「氏家の作業の付き添いだとよ」

「作業って...ガラス工芸品でも作ってるのかな」

「かもな」

「そっか。わかった。教えてくれてありがとう」

「おう」

 

 

舞田くんに教えてもらい、勅使河原さんのいるであろう技術室の前まで来た。扉を開けるとはじめに目に入ったのは長机に突っ伏して寝ている勅使河原さんの姿だった。

 

 

「あ、いた」

「案の定じゃん」

 

 

寝ている勅使河原さんに近付くとさっきも読んでた日本史Bの教科書を枕にしている事がわかった。

 

 

「寝てるならどうなったか聞けないね」

「そうだね。わざわざ起こすのも何だか悪いし」

「うん。...てか氏家は? 勅使河原と一緒じゃなかったの?」

「あ、それなら多分...ここかな」

 

 

僕はガラス工房を指差してそう言った。

 

 

「ああ、これが言ってたガラス工房ね」

「うん、最初の探索の時に確認したから間違いないよ」

「ふーん。...でも仮にも学校にガラス工房があるってどうなのよ。誘拐犯もせっかくなら美容室を用意しなさいよ」

 

 

美容室も学校にあったらおかしいとは思うけど...。

 

 

「じゃあ私は勅使河原を見てるからクルトは氏家を探してきて」

「うん、わかったよ」

 

 

僕らはガラス工房の扉を開いた。

 

 

「うん?」

 

 

「ギギギギギギギギギギギギギギギギギギ...」

 

 

鳴り響く機械音。その発生源は容易に想像できた。

 

 

「う、氏家くん?」

 

 

「うううぅん!?」

 

 

そこにはおよそ常人とは思えないほどのオーラを纏って溶解炉でガラスを溶かしている最中の氏家くんがいた。機械音は溶解炉から漏れていたものらしい。

...氏家くんは僕の呼びかけに反応したのか、ゆっくりとこちらに目線をやった。

 

 

「う、氏家く......」

 

 

振り向いた氏家くんはゴーグルは付けていたもののいつものマスクをしておらず素顔の半分を確認できた。

 

 

「ヒィ!!」

 

 

氏家くんの口元の皮膚は焼けただれており、一部歯も剥き出しになっていた......溶解炉の煙が出す怪しい雰囲気も相まって僕の口からは自然と悲鳴が漏れ出していた。

 

 

「おっとこれは失敬。お見苦しいものを見せてしまったようで...」

「あ、いや...ごめん」

「良いのですよ。誰だって驚きますから」

「氏家くん...その火傷は?」

「ああ、これは小生がまだ半人前の頃にやってしまった不慮の事故による結果ですな。まあ自業自得って奴ですよ」

 

 

そう言いながら氏家くんはマスクを付け直す。

 

 

「吹き竿を使う時はさすがにマスクを外しているのですよ。ですが、このような容貌ゆえあまり人前では晒さないように心掛けているというワケでございまして、はい」

「そうだったんだ...」

「まあこれの事は置いておきましょう。何か小生にご用ですかな?」

「あ、それが...」

 

 

僕は氏家くんに勅使河原さんを探しにきたことを伝えた。

 

 

「そうでしたか。しかし勅使河原女史は今は夢の中でありましょう? 起こしますか?」

「いや起きるまで待ってようかと...」

「そうですか。大したもてなしも出来ないですが、どうぞごゆっくりして行ってください。ではでは小生は作業に戻りますので、何かあれば声をかけてください」

「うん。わかった。氏家くんの作品の完成を楽しみにしてるね」

「期待しててくだされ。こう見えても小生は1000年に1人の天才と謳われた男ですから」

 

 

氏家くんは溶解炉の方に向き直ると、作業を再開した。僕も彼の邪魔をしないようにガラス工房を後にした。

 

 

「ガチャ」

 

 

「ん?」

「あ、ごめん起こしちゃった?」

「そう、みたいね」

 

 

どうやら僕が開けた扉の音で勅使河原さんを起こしてしまったようだ...。

 

 

「......クルト・L・クルークハルトに...繭住藍子...なぜここにいる?」

「アンタを探しに来たのよ」

「私を?」

「勅使河原さんが萬屋くんと仲直りできたのか気になって...ほらこんな状況だし」

「それを聞きに来たのか?」

「うん」

「...謝ろうとはした。しかし話そうと萬屋千歳を誘ったが、用事があるという理由で断られてしまった。用事があるというのに私事で萬屋千歳の時間を浪費させるワケにはいかない。だから私はここで氏家幕之進の付き添いという体で技術室に仮眠をしに来たという事だ」

「...要は断れたから不貞寝してたってこと?」

「そう言う解釈もできる」

「解釈って...言い方よ」

 

 

勅使河原さん独特の言い回しだけど、内容だけ見ると普通の女の子のような可愛いらしさも感じる。顔はいつも通り眠そうだけど。

 

 

「萬屋くんはどこに?」

「さあ、わからない。私の申し出を断ると早足でどこかに去っていった」

「うーん。萬屋くんの事だから勅使河原さんを避けてるワケでもないから、本当に急ぎの用事があったんだと思うけど...」

「...zzz」

「え」

「嘘でしょ、この子」

 

 

余りにも急すぎるよ、勅使河原さん...。もうこれは寝落ちってレベルじゃない。

 

 

「はあ。心配するのもバカバカしくなってきたよ、私...」

「ははっ...ここまで来ると勅使河原さんの寝落ちは世界に通じそうだね」

「そんなので世界に通じても仕方ないでしょ」

「ま、まあね」

 

 

需要があれば勅使河原さんはこっちの才能でも超高校級になれそう。幸せそうに眠る彼女の寝顔を見て、そんな事を思う。

 

 

「で、どうする?」

「うーん...もう少しここにいるよ。勅使河原さんまた寝ちゃったし」

「じゃあ私もそうする」

「ごめんね、付き合わせて」

「いいのよ」

 

 

それから繭住さんと寝ている勅使河原さんと何でもない時間を過ごした。

そうこうしていると、時計の針は6時を示していた。そろそろ夕食の時間だ。僕らは寝ている勅使河原さんを起こして、作業中の氏家くんに声を掛けると、食堂へと向かった。

中へ入ると僕たちに気付いた桐崎さんがペコリと頭を下げた。

 

 

「お夕飯が出来ております。今晩は古畑様と平子様にお手伝いして頂いたので、安心してお召し上がりください」

 

 

毒などは入ってない。桐崎さんはそう言いたいのだろう。奥の席には既に食事を終えている平子さんや古畑さんの姿もある。僕らも食事を済ませると、桐崎さん達にお礼を言って、食堂を後にした。

 

 

「では小生は作業の続きがしたいので技術室に戻りたいと思いますぞ」

「氏家幕之進、私は自室にもう帰るが、問題ないか?」

「ああ、そうですか...。クルークハルト氏と繭住女史はこの後如何されるおつもりですかな?」

「私も今日は部屋に帰りたいかなぁ。シャワーも浴びたいし」

「ほほう。シャワーですか...一つお尋ねしますが、それに小生が同行するという事は許されますかな?」

「刺すよ」

「Q&Aが成立してないですぞ〜! 繭住女史!」

 

 

繭住さんは殺意の篭った目で氏家くんを見ている。もし僕があの視線を向けられたら命の危機を感じるかもしれない。まあ氏家くんに至ってはそうなる為にわざと怒らせるような事を言ってると思うけど。

 

 

「勅使河原女史も繭住女史もお帰りですか...ではクルークハルト氏、少しばかりお時間よろしいですかな?」

「あ、やっぱりそうなる?」

「一人で行っても良いのですが、それでは皆で決めたルールに反してしまうので...頼みます! 横で本でも読んで時間を潰してくれてもよいので!」

「僕は全然構わないよ。氏家くんの作品も楽しみだし」

「そうですかぁ!いや〜やはりクルークハルト氏は聖人であらせられますな!」

「聖人って、大げさだよ」

「...じゃあ私たちは先に帰ってるよ。また明日ね」

「うん。また明日」

 

 

繭住さん達と別れた後、氏家くんと技術室に向かった。

 

 

「じゃあ僕は図書室で適当な本を選んでくるから先に始めちゃってていいよ」

「承知しましたぞ」

 

 

僕は一時的に氏家くんと別れると隣の図書室に入った。

 

 

「ガラガラ」

 

 

「ん? あ、クルトやん」

「舞田くん、まだ図書室に居たんだね」

 

 

舞田くんはどうやらまだ図書室を調べていたらしい。

 

 

「そう言えば六車くんは?」

「奥の資料室でスポーツ雑誌読み漁ってるわ。クルトは何か用か?」

「うん。暇つぶし用の本を探しに。そういや舞田くんって本読むんだったよね? 何かおすすめの小説ないかな?」

「おすすめの小説かぁ」

「うん。舞田くんって小説とかにも詳しそうだし、何か面白い作品とか知ってるかなって思って」

「...クルトが読みたいジャンルは何や?」

「そうだね...推理小説とか?」

「...おいおいまさかとは思うが、殺人の予習とかやないやろな?」

「そ、そんなんじゃないよ!」

「はっはっはっ! 冗談やて、クルトがそう言うことするとは思わんわ! はっはっは!」

 

 

ああ、ビックリした...。本当に舞田くんに疑われたのかと思った...。

 

 

「そうやなぁ。ここらへんの奴はどうや?」

 

 

そう言って舞田くんが渡したのは『不可侵のライヤー』というタイトルの本だった。

 

 

「それはな、ミステリー界の巨匠・法島龍之介が書いた最新作や。映画化の話もある名作やで。普段小説読まん人でも読みやすいからおススメやで」

「それって確か何とか大賞取ったっていう作品?」

「お! 覚えとったか! そやで。これは日本ミステリー大賞を取った作品や」

「あ、やっぱりそうだったんだね」

「この人の作品やと...他には『黒の改革』『路地裏の神さま』『雨の降る城』...あ、『探偵村』もそうやな」

「本当に色々知ってるんだね」

「知ってるで〜。こう見えても読書家やからな、俺。また読みたい本があったらいつでも聞いてくれや」

「うん! ありがとう! 舞田くん」

「おう」

 

 

舞田くんにおすすめされた『不可侵のライヤー』を持って僕は図書室を出る。そしてそのまま氏家くんのいる技術室の中にあるガラス工房へと向かった。

 

 

「ガチャ」

 

 

「あ、クルークハルト氏、良いところに。そこの換気扇をONにしてくれませんか?」

「換気扇?」

 

 

後ろを向くとそこには確かに換気扇があった。

 

 

「それを付けないと溶解炉から出る煙が部屋中に充満してしまうのですよ」

「そうなんだ。うん。わかったよ」

 

 

僕は換気扇をONにすると近くのあった椅子に座って本を読む体勢を整えた。氏家くんもおよそ素人には扱えないであろう道具を準備している。邪魔しても悪いので、僕は静かに本を読むことにした。

 

 

それから約3時間後。

 

 

「ふう。ようやく一段落つきました」

「ん? 完成したの?」

 

 

僕は立ち上がり、読んでいた本を座っていた椅子の上に置いた。

 

 

「いや完成はまだですな。今日はアイデアをまとめていただけなので。しかし明後日には完成するかと思いますぞ」

「そうなんだ。...氏家くんの作品かぁ。すごい楽しみだよ!」

「ここまで付き合って頂き感謝ですぞ! 完成品は最初にクルークハルト氏にお披露目する事にしましょう」

「本当に? ありがとう!」

「ここまで付き合って頂いたせめてものお礼です。さてもう9時ですな。小生らも部屋に帰るとしますかな?」

「そうだね。そうしよう」

 

 

僕たちはガラス工房を出ると、自室へと帰った。部屋に戻ると、まずシャワーを浴びて、その後は歯を磨き、寝る準備を整える。そこでふとある物がない事に気が付いた。

 

 

「あ、本、ガラス工房に忘れた...」

 

 

どうしよう。取りに戻るか。いやでももう遅いし、一人で行動しているのを誰かに見られでもしたら変な誤解を生むかもしれない。そんな事を考えていると...。

 

 

 

「絶望ヶ淵学園が午後10時をお知らせしまーす! 食堂と体育館はロックされますのでご注意を。それではオマエラ、いい夢を。おやすみなさい〜」

 

 

 

「モノクマ...」

 

 

モノクマが朝の7時と同じく夜の10時もこうやってアナウンスするのか。...今日はもうやめて明日また取りに行く事にしよう。そう考えてベッドに沈み、目を閉じると、僕はいつも通りに眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜舞田十司郎、視聴覚室にて〜

 

 

「ふぅ。終わったかぁ」

 

 

図書室で偶然見つけてしまった『大道芸界の新星・舞田十司郎が教えるストリートパフォーマンス』。昔、どっかの出版社に頼まれて出した俺の本...つい懐かしなってそれに付属されとるDVDを見に視聴覚室に来たワケやけど...。

 

 

「あ、やべぇ。もう0時(てっぺん)やん」

 

 

完全に部屋に戻るタイミングを逸した。一緒に来た六車はいつのまにか椅子を二つ並べて隣で寝ていた。時間が来たら教えろって言ってたのに...まあそもそも六車なんかに頼んだんが間違いやったな...と俺は心ん中で反省した。

 

 

「おい、起きろ」

 

 

俺は付けてたヘッドフォンを取って椅子の上で寝そべる六車を揺さぶった。

 

 

「...あ?」

「戻るで。もう0時や。自室におらなあかん時間をとっくに過ぎてもうたわ」

「はぁ〜...じゃ帰るか」

 

 

六車は欠伸をしながらそう言うと、立ち上がって部屋に戻る準備をしてた。

 

 

「つーか暗ぇよ。電気もつけずに見てたのか? 目悪くするぞ?」

「来た時は外も明るかったし、つける必要もないと思ったんや。DVDに集中してたら知らん間に暗なってただけや」

「そうかい。まあとりあえず戻ろうぜ? この時間にうろうろしてるの見つかったら何を言われるかわかったモンじゃねーよ」

 

 

六車の言う通り。この時間にこんな所におるんがバレたら殺人を企ててるとかいらん疑いをかけられかねん。とっとと帰るんが吉やな。

 

 

 

 

 

 

 

「.......カンカンカンカン」

 

 

 

 

 

 

 

ん? 何だ? この音は?......足音?

 

 

 

「舞田、どうし...う」

「し! ...静かに」

 

 

俺は咄嗟に喋ってた六車の口を片手で塞いだ。それはこの足音の主に気付かれんようにする為の行動やった。暗闇が辺りを占める学校に誰かがいるという単純な恐怖とルールを破ってしまった事をバレたくないという気持ちが俺にそうさせた。

 

 

 

「カンカンカンカンカンカンカンカン.......」

 

 

 

足音は俺たちのいる視聴覚室の前を通った時にピークに達し、それから次第に小さくなっていった。聞こえ方からしてどうやら化学室がある方から歩いてきたらしい。

 

 

「......誰や」

 

 

化学室...確か毒薬があるから立ち入り禁止にしてたはず...それやのに誰が?

俺はその足音の主が誰か知りたくて視聴覚室の扉を出来るだけ音を殺して廊下が見える程度に開けた。

 

 

「カンカンカンカン」

 

 

まだおる。俺はその足音のする方へ視線をやった。

 

 

「あれは...」

 

 

暗いから見えんかなとも思ったけど、俺の目は思いのほか暗順応しとってその人物が誰なのかはっきりと捉えとった...。

 

 

 

 

そこには今まさに目の前の階段を降りようとしてる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

平子ちゃんの姿やった...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜クルト、自室にて〜

 

 

 

「オマエラ! おはようございます! 絶望ヶ淵学園が午前7時をお知らせします! 起床時間ですよー!」

 

 

 

昨日と同じ文言で目を覚ました僕は、食堂に向かう為に準備を整えて、部屋を出る。すると宿舎の一階に人影を見た。

 

 

「うん?」

「...ああ、クルトか」

「...うーん」

「どうしたの? 二人とも」

 

 

そこには舞田くんと六車くんが難しい顔をして立っていた。

 

 

「うーん...」

「舞田くん?」

「いや平子が」

「おいバカ、やめろって」

「え? 平子さんがどうしたの?」

 

 

平子という言葉を発した六車くんを遮った舞田くんはバツの悪そうな顔をして僕から目を逸らした。

 

 

「俺らだけでどうこう出来るワケでもねーって。クルトなら心配ない。言っても問題ねーだろ?」

「...まあ、せやな。クルトなら大丈夫やな」

「平子さんがどうしたの?」

「それは...」

「平子がどうしたって?」

 

 

うん?

 

 

「あ」

 

 

そこにはゆっくりと階段を降りている繭住さんがいた。

 

 

 

「あ、繭住さん」

「なんの話?」

「どうするよ、舞田」

「...しゃ、しゃーない。繭住ちゃんにも聞いてもらおう。ちょっとこっちに来てくれ」

 

 

舞田くんに言われるがまま、僕たちは娯楽室へと連れて来られた。人がいない事を確認すると

 

 

「それで? 平子がどうしたって?」

「ああ、それがな......」

 

 

それから舞田くんが語ったことはすぐには信じられないものだった...。

平子さんが夜時間に出歩くというルールを破り、その上、立ち入り禁止の化学室に出入りしていたなんて...。

 

 

「あいつが? 化学室に?」

「ああ、この目で見たから間違いない」

「...平子さんが誰かを殺そうとしているってこと?」

「さぁ...でもよ、そういう可能性もあるんかもしれんな」

「...そんな」

 

 

信じられない...。

 

 

 

『もうこれ以上、こんな裁判擬きのようなもの、開かせてはいけないわ...絶対に』

 

 

 

裁判後にそう言っていた平子さんの言葉が頭の中で反芻する。彼女は多分ここにいる誰よりも学級裁判という存在を認めてない。それなのに自分から学級裁判を開くような真似を、まして殺人を犯すなんて、やはり僕には思えない。

 

 

「何か事情があったのかも...」

「事情が何だよ。...平子は理由はどうあれルールを破った。しかも俺らに隠してだ。だったらそのワケを直接平子に聞くしかねーだろ?」

「まあ、待て。六車はこう言ってるんやけど俺はそうは思わん。ただでさえコロシアイなんてモンを強要されとる状況や、そんなんでみんなの不和を煽るような事はせん方がええと思うねん」

「舞田には何か考えるの?」

「...要は毒薬が持ち出されてなかったら、とりあえずの問題はないワケや。ルールに関しては俺らも破ってもうてるから何とも言えん。だから毒薬が持ち出されたかを確かめたいけど、俺らは現物を見てないから判断のしようがない。けどクルトや繭住ちゃんは違うやろ?」

「確かに私たちは一度確認してるわね」

「やからどっちかに確かめてもらいたい。平子ちゃんがホンマに毒薬を持ち出したんかどうかを」

 

 

僕は平子さんが人殺しを企んでるなんて、そんな事信じたくない...だから......。

 

 

「わかったよ。確かめに行く」

「クルトならそう言ってくれると思っとったで」

「ま、待ってよ。まさかとは思うけど堂々と確かめに行かせるつもりじゃないわよね? そんなとこ誰かに見られでもしたら今度は私たちが疑われちゃうじゃないの」

「それもそうやな...つまり全員一箇所に集めてその隙にクルトたちに確認させたらええねんやな?」

「そ、そうね」

 

 

舞田くんは少し俯いて考え事をしている。そして考えついたのか、両手をパンと鳴らして僕らに笑顔を向けて言った。

 

 

「よし! わかったで! 今晩、舞田十司郎主催の大道芸披露パーティを開くことにするわ!」

「あ?」

「え?」

「何言ってんだよ、舞田」

「なんやその反応は? 名案やろ?」

「名案ていうか、どうゆう事? どうしてパーティを開くことになってるのよ」

「全員が参加するパーティなら俺が芸を披露してる隙に二人の内どちらかが会場を抜け出して化学室に確認に行ける。これなら誰かに見られる事も、平子ちゃんに気付かれる事もない。どや? 他に良い案があるか?」

 

 

なるほどそういう事か。確かにそれならイケるかもしれない。

 

 

「だからってわざわざパーティにする事なくないか?」

「まあええやんか。細かい事は」

「...ま、他に案もないし、それで行くしかないようね」

「決まりやな! みんなが集まっとる朝食の時にパーティの提案するから、お前らちゃんと賛同してくれよ?」

「わかった」

「...わかったわよ」

「はぁ。わーったよ。俺も平子の事を本気で疑ってるワケじゃねぇ...穏便に済ませられんならそれでいい」

 

 

そう約束して僕らは食堂へ向かった。そして、全員が揃ったタイミングで舞田くんがみんなに対して例の話を切り出した。

 

 

「みんな、ちょっと聞いてくれんか?」

 

 

舞田くんは椅子から立ち上がり、さらに注目を集める。

 

 

「舞田?」

「ん? 何すか? 藪から棒に」

「今夜、親睦会を兼ねて俺主催の大道芸披露パーティーを開く! もちろん全員参加やで!」

「パーティ? 本気か?」

「本気も本気! 本気て書いてマジとも読むで!」

「どうして急にそんな事を?」

「そ、それはやな...つまり! 俺らは互いを知らなすぎるんやと思うねん。相手を理解し、信頼を得るにはまずは交流せなあかん! そうやって仲ようなれば殺そうなんて考えはなくなると思うねん」

「なるほど。舞田十司郎は私たちにその交流の場を提供しようと言うのだな?」

「そ、そう言う事や!」

「うーん。いいんじゃない? ぼくは賛成だけど、マオは?」

「いいと思うわよ。確かに私たちがお互いの事をほとんど知らないのも事実だし、ここでみんなと改めて話して仲良くなりたいわ」

「うーん。パーティか。萬屋よ、どうするんぜよ?」

「...食事のついでなら問題ないと思う...」

「わたくしも名案だと思います」

「私も賛成よ」

「僕もいいと思うよ!」

 

 

意外にもみんな舞田くんの提案に好感触だ。でも問題は平子さんだ。彼女が参加してくれないとこの作戦は何の意味もなくなる。

 

 

「ひ、平子ちゃんはどうや? 参加してくれんか?」

「......」

「平子ちゃん?」

「...はあ。いいわよ。みんな参加するのに私だけ参加しないワケにはいかないでしょ」

「平子ちゃんありがとう! よし! なら決定や! 今日の夜7時に3階の空き教室に集合や! ええな?」

「オッケー! ぼくパーティなんて初めてだよ! 楽しみ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、その夜。

 

 

僕はパーティに参加する為に3階の空き教室に来た。ほとんどの机を後ろに下げ、残っている机は諸所に配置され、その上には桐崎さん達が作った料理が並んでおり、さながら立食パーティーの様相を呈していた。

 

 

「わかってるわね、クルト」

「うん。平子さんから目を離さないようにする」

 

 

平子さんに聞こえないように小声で話す。聞かれてしまっては元も子もないのだから。

 

 

「しっかりね」

「うん」

 

 

作戦はこうだ。まず平子さんを含む全員をこの教室に集める。

それから平子さんの動向を監視しながら舞田くんの準備が整うのを待つ。

時間になり、みんなが舞田くんの芸に集中している隙に僕と繭住さんのどちらかが化学室に行く。

そして毒薬が持ち出されているか否か確認する。確認を終えるとすぐこの教室に戻る。

報告はできるタイミングで行う。

...とりあえずはこんな感じだ。

 

 

「さあさあ各々方! 今宵は無礼講ですぞ〜! 一夜限りの不純異性交遊が許される日! それが今日! 女性諸君も男性諸君もハメを外して乱痴気騒ぎと行きましょうぞ!」

「え!? 今日のパーティってそういう集まりだったの!? ぼくまだ心の準備ができてないよぉ」

「そんないかがわしいパーティではないだろう。赤星、騙されるな」

 

 

 

「んー! 美味しい! さすが雨城ちゃんの料理ね。どれもこれも絶品だわ」

「勿体ないお言葉です」

「桐崎さんの腕前はやっぱりすごいっす! 私にも教えてほしいぐらいっすよ! ね! 鮫島くん!」

「な、何で、わしに...振るんでしょうか?」

「私が頼んだのよ。積極的に海ちゃんと会話してほしいって。荒療治だけど海ちゃんの女性恐怖症を治すにはこれぐらいは仕方ないわよね」

「か、勝手な。わしはほがなこと頼んどらんぜよ!」

「さーめじーまくーん!」

「は、は、はい!」

 

 

みんなそれぞれパーティを楽しんでるなぁ(なお鮫島くんはドンマイ...)。かく言う僕もこの雰囲気は嫌いじゃない。むしろ好きだ。けど今回の目的はあくまで平子さんが毒薬を持ち出しているかを確認することにある。手伸ばしで楽しむことはできないな。

 

 

 

「よ、萬屋千歳、少しばかり時間いいか?」

「...何...?」

 

 

あっ勅使河原さんが萬屋くんに話しかけてる。

 

 

「学級裁判の件だ。私は君を小田切電皇を殺したクロと疑った。そのせいで君を追い詰めてしまった...」

「...あ、その事...大丈夫...僕は気にしてないから...」

「いややはりここは謝罪させてくれ。本当にすまなかった。私の事をあれだけ気にかけてくれた君を疑ったこと、許してほしい...」

 

 

静かに勅使河原さんの言葉を聞いていた萬屋くんはスッと彼女の目の前に手を出した。

 

 

「萬屋千歳...その手は何だ?」

「...仲直りの印、かな...僕は最初から君を責める気はないし...謝ってほしいとも思ってない...だから握手して今までのことは水に流そう...そして改めて勅使河原さんと仲良くなりたい...これじゃ駄目かな...?」

「...願ってもない答えだ、萬屋千歳。これからもよろしく頼む。私も君なしでは...朝が辛いからな」

 

 

そう言って二人は固く握手を交わした。多く語らない二人だからこそその握手が持つ意味は大きいと思う。図らずもこのパーティは二人が仲直りするきっかけになったんだ。僕は心の中で静かに二人の仲直りを祝福した。

 

 

「よし、そろそろ始めるで」

「あ、うん、わかった!」

「六車はどうすんのよ」

「アイツには始まったら教室の外で見張りをしてもらうつもりや。万一の場合に備えてもらう」

「なるほどね」

「わかったな。んなら手筈通りに頼むで」

 

 

舞田くんは勢いよく黒板の前に躍り出て、注目を集めるために声を張り上げた。

 

 

「はいはい注目! 超高校級の大道芸人であるこの舞田十司郎が今から数々の芸を披露してご覧に入れましょう! 一瞬たりとも目を離すこと許されませんよ! 今宵披露するのは全世界でここだけのオンリーステージ! 投げ銭も大歓迎! あ、いや金なんてないか。なら! せめて終わった後に惜しみない拍手をお送りください!」

 

 

すごいな...完全に仕事モードになってる。

 

 

「よっ! 待ってましたっす!」

「舞田! 頑張るぜよ!」

「十司郎、ファイトー!!」

「どうも、どうも、ありがとうございます! それではまず手始めに、ジャグリングをしたいと思います!」

 

 

まずはある程度舞田くんの芸をみんなと一緒に見る。そして注目度が高まった中盤で教室の後ろのドアから出て、化学室に向かう。という事になっている。

タイミングを見計らって行こう......。

 

 

「いや〜超高校級の大道芸人である舞田クンのディナーショーなんて中々見れないよね、ボク興奮してきちゃったよー!」

 

 

 

え?

 

 

「は?」

「モ、モノクマ?」

 

 

モノクマ? 何しに出てきたんだ?

 

 

「邪魔すんなや。今から俺の磨きに磨き上げた芸を披露するってのに」

「まあまあそう怒らないでよ〜。今時の高校生はカルシウム不足が深刻化しているのかな?」

「用がないなら消えてくれるかしら? モノクマちゃん」

「厳しいね〜足立クン。でもそんなんじゃボクは引かないよッ! オマエラにプレゼントを渡すまではねッ!」

「プレゼントやて?」

「そうだよ」

「...何をプレゼントするの? まさか凶器とかじゃないわよね?」

「そんなんじゃないよ〜! 凶器なら既にいっぱいあるからね! 繭住サンのシザーケースの中とかね」

「......」

 

 

モノクマのプレゼント...十中八九ロクな物じゃない。それにコイツは僕らにコロシアイをしてほしいんだ。信用してはいけない。

 

 

「さっさと言わんか! そのプレゼントってのは何ぜよ!」

「うぷぷ......それはね...オマエラが今知りたがってる事だよ」

 

 

知りたがってること?

 

 

「色々あるでしょ。ここはどこなのか? なぜこんなコロシアイをさせられているのか? あの砂漠は何なのか? オマエラは知りたくないの?」

 

 

...モノクマは何を言ってるんだ?

 

 

「...それを教えてくれるのか...?」

「そうだよ。しかも7つも! それをオマエラに教えてやろうってことなんだよ」

「勿体ぶってないで教えなさいよ! それを言いに来たんでしょ!?」

「うぷぷ...誰もオマエラ全員に教えるとは言ってないよ。真実を知れるのはランダムで選ばれた7人だけ。それを今日の夜10時にオマエラのモノパッドに転送するからしっかり確認してね。選ばれた人は一発でわかるようになってるから安心していいよ」

「7人だけって...」

「で、でもそれを確認した後にみんなで共有したらいいんじゃないかな?」

「まあ真実を知ったオマエラがその情報をどう扱うかは任せるよ。ボクはただオマエラに教えるだけだから。あっ因みに確認は必ず自室で一人で見てね。もし破ったらどうなるか、わかってるよね?」

 

 

真実を僕らに教える? そんな事をしてモノクマに何の得があるって言うんだ?

 

 

「ボクは用が済んだからこれで失礼するよ。ボクからのプレゼント、ちゃんと受け取ってね! それじゃあ後は生徒水入らずで楽しんでちょ!」

「......」

「......」

「......」

 

 

モノクマが去り、流れる静寂。

みんな互いの顔を見合わせている。

 

 

「...興醒め、でございますね」

 

 

そう言ったのは、桐崎さんだ。確かにモノクマが割って入ったせいでもうパーティという雰囲気ではなくなった。

 

 

「チッ...仕方ねぇか。パーティはお開きだ。後日仕切り直そう」

「そう、ね。それにモノクマの言ってた真実ってのが気になって十司郎ちゃんの芸に集中できそうにもないわ...」

「...全く余計なことをしてくれたぜよ」

 

 

モノクマの介入で、計画が狂った...。みんなもう今日は終わりって雰囲気だ。これじゃあ化学室には行けない。

 

 

「ま、舞田くん」

 

 

僕は小声で舞田くんを呼んだ。

 

 

「どうしよう...計画が...」

「くぅ。仕方ない。今日は諦めるしかないな。明日また確認する方法を考えてみるわ」

「そっか...わかった」

「ああ...しかし、いざとなったら直接本人に聞くしかないかもしれん。そうなった時は.....,頼むわ」

「う、うん...」

 

 

それから僕らは教室内を片付けると各々自室へと戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「絶望ヶ淵学園が午後10時をお知らせしまーす! 食堂と体育館はロックされますのでご注意を。そして今、オマエラのモノパッドにランダムでこの学園やコロシアイなどの真実を送ってあります。必ず確認してくださいね。確認後は自動消滅するのでご安心ください。それではオマエラ、いい夢を。おやすみなさい〜」

 

 

 

モノクマの夜時間を知らせる放送が聞こえる。ご丁寧にモノパッドの確認も促してる。

 

 

「ゴクン...」

 

 

僕は生唾を飲んで、ベッドの脇に置いてあるモノパッドの画面を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

《忍耐の王子》

クルト・L・クルークハルト様へ

真実をお伝えします

右にスライドして下さい

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう表示されていた。つまり僕は選ばれてしまったという事か...

しかもこの画面、"王子"っていうのはわかるけど、"忍耐"ってのはどういう意味だ?

...いや今はそんな事はどうでもいい。

 

 

「...見るしかないか」

 

 

僕はモノパッドの画面に触れ、指示通り右へスライドした。そして恐る恐るその画面に目をやった。

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘...何だよ...これは............」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

少し考えればわかることだ。

 

 

 

 

やはりこれはモノクマの罠だ...。

 

 

 

 

アイツは僕らにコロシアイをさせる事しか考えていない。

 

 

 

 

不和を煽る、それが目的なんだ...。

 

 

 

 

画面に映る悪意を見て、強くそう思った。

 

 

 

 

 

いや

 

 

 

そう思う以外...平静を保つ手段がなかっただけだ...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

......今日はもう、寝よう。

 

 

 

 

 

僕はモノパッドを閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その真実が嘘であると信じて...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 

 

オマエラの中に黒幕の手先がいる

 

 

 

ーーーーーーーーーーーーーー

 

 




順当に行けば次回第2の犠牲者が出てしまいます...
誰が犠牲者となるか、予想してみるのも面白いかもしれません。頑張って執筆しますので、よろしくお願いします。

それと、『絶望ヶ淵学園生徒名簿』に稚拙ですが、キャラ一覧の挿絵を載せました。イメージだけでも掴んで頂けたらいいな、と思います。


それではまた次回お会いしましょう。
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