ダンガンロンパExtraWorld 〜砂漠のコロシアイ学園生活〜   作:magone

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第2章 (非)日常編 Ⅲ

今から10年前。

 

 

 

 

「.......」

 

 

 

 

「.......」

 

 

 

 

「......ねむれない」

 

 

 

 

僕の名前は、クルト・ルートヴィヒ・クルークハルト。バイエロン王国クルークハルト王の第七王子だ。

この日、僕はいつも通り王宮の自室で眠ろうとしていた。でも何だか目が冴えて、とても寝ようと思う気にはなれなかった。

 

 

「...そうだ! グロリアのところにいこう!」

 

 

何を思ったか、この時の僕は同い年の使用人グロリアの部屋に向かった。多分眠れなかったから一緒に遊びたかったんだと思う。

部屋を抜け出して、グロリアが眠る部屋に入る。そしてベッドで眠る彼女を起こした。

 

 

「ねえねえ! グロリア! おきて! おきてってば!」

「ん、んー......ん? クルト...しゃま?」

 

 

今思えば何て迷惑な王子だったんだ、僕は...

 

 

「ねむれないんだ。グロリアいっしょにあそぼ?」

「いま、ですか?」

「うん...」

「うーん...よるもおそいですし、おへやにもどってねむられたほうがいいのではないでしょうか?」

「だ、か、ら、ねむれないんだよ! ね? ちょっとだけでいいから!」

「...うーん」

「ね?」

「...まったく、すこしだけですよ」

「うん! ありがとう! グロリア!」

 

 

この時グロリアは僕のワガママに渋々付き合ってくれたんだよな。

.......グロリアに謝りたい。

 

 

「それで、なにしてあそびますか?」

「うん、ちょっとかんがえたんだけど、『よるのおうきゅうたんけん』をしようとおもうんだ!」

「たんけん、ですか」

「ぼくね、まだこのおうきゅうのいってないところたくさんあるんだ! だからいってみたいんだ!」

「でも、わざわざよるにいくひつようはないでしょう? まっくらですし、あぶないですよ」

「ひるまじゃおとなたちがじゃましていけないんだよ! だからよるにいくの! スリルもあるし!」

「スリルですか」

「そうそう! さあいこうグロリア」

「あっ、ちょっと...」

 

 

僕はグロリアの手を引いて夜の王宮探検へと繰り出した。好奇心とは恐ろしいものだ。

 

 

「えいへいさんがじゅんかいしているので、きづかれないようにしましょう」

「うん! わかった!」

「シッ! おしずかにおねがいます」

「あっ...ごめんよ」

 

 

衛兵の巡回は規則的だ。それが頭に入っていれば避ける事は簡単。王宮探検においてそれがわかっているグロリアは実に頼もしかった。

同い年なのに僕よりずっとしっかりしてる子だったな。

 

 

「くれぐれもあしおとはたてないようにおねがいします」

「わかったよ、グロリア」

 

 

それから僕とグロリアは薄暗い王宮内を探検した。誰もいない厨房、衛兵の足音が響く玄関広間、普段なら決して入ることない閣議の間、父上が王になって以来使われていない戴冠式の間などなど...普段では見れないものを見てきた。

僕は満足していた。見つかってしまうかもしれないというスリルと何かあるかもしれないというワクワク感がすごく楽しかった。

 

 

「...ねぇグロリア、ここは?」

 

 

そんな中、僕は新たな場所を発見した。そしてここが何なのかグロリアに尋ねた。

 

 

「ここは...きゃくま、ですかね」

「きゃくま?」

「おきゃくさまがおとまりするおへやです。たしかきょうはだいじんさまがいらしたはずですが...いないようですね」

 

 

グロリアの言う通り、そこは客間だった。大臣とは何回か会ったことがあったけど、とても感じのいい人という印象だった。

 

 

「はいってみようよ」

「だ、だめですよ、クルトさま。いつかえってくるかわかりませんよ」

「ちょっとだけだから! みるだけだから!」

「ク、クルトさま!」

 

 

僕はグロリアの制止を振り切って客間に入った。

 

 

「んーとくにかわったところはないね」

「おきゃくさまのおへやですからへんなものはおいてありませんよ。さあはやくでましょう」

「うん、そうだね」

 

 

特に面白そうなものもないので、とりあえず客間を出ようとした。

その時だった。

 

 

「ギイィィィ...」

 

 

客間の扉が開いた。

 

 

「あ...」

「クルトさま、こちらへ」

 

 

僕とグロリアは咄嗟にベッドの下に入って身を潜めた。

 

 

「...クルトさま、おしずかに......」

「うん...」

 

「カチッ」

 

 

電気がつき、一気に緊張感が走る。

 

 

「大臣様、お疲れ様です」

「ああ」

 

 

どうやら大臣とそのお付きの人が部屋に戻ってきたようだ。

 

 

「王妃の容態は思ったより深刻なようですね」

「ああ、もってあと数日だそうだ。まあよくもった方だよ」

「次期王妃にはやはりシルビア様が?」

「そうなるだろうな。王の一番のお気に入りだ」

 

 

シルビアは...僕の母上の名前だ。

 

 

「このままでは第一王子派である我々の立場が危ぶまれることになりますね...」

「そうならないようにわざわざ王と話し合いをしに来たのであろう。可能性は低いがクルト王子の存在は危険だ」

「話し合いの結果はどうでしたか?」

「成功だよ。王はあの売女が側にいれば十分なんだよ。王子の存在がどれだけ将来邪魔になるか王も分かっておられた。折衷案でクルト王子の国外追放が決まったよ」

 

 

(ついほう?)

 

 

「王もやってくれたよ。どこであんな売女を...はぁ...まあいい。障害は取り除いた」

「クルト王子はどちらに追放を?」

「東洋だろうな。中国か日本、その辺りだろう。そこは追々決めるつもりだ」

「なるほど。出来るだけ遠国に追放するという事ですね」

「ああ。追放されたが最後、王の葬儀ぐらいでしかこの国の土を踏む事はないだろうな」

 

 

ベッドの下にいた僕は、ただ呆然としていた。いつの間にか身震いは収まり、大臣たちの話を静かに聞いていた。

 

 

「クルト王子には留学という形を取ってもらう。正式に追放でもしようものならクルークハルト王家の沽券に関わるからな」

「そこまで考えていらしたとは、さすがです」

「当然だ。...よし、荷物をまとめろ。こんな埃臭いところいつまでもいられるか」

「了解しました。既にお荷物はまとめてあります。王宮前にお車も手配済みです」

「なら行くぞ」

「かしこまりました」

 

 

彼らは電気を消すとそのまま部屋から出て行った。そして僕らはそっとベッドの下から出た。

 

 

「......クルトさま」

「......」

「とりあえずおへやへもどりましょう」

「......」

「クルトさま」

「...ねぇ。グロリア。だいじんはぼくがきらいなのかな? なにかわるいことしたかな...? どうしてぼくが......」

「クルトさまは...なにもわるくありません! こんなのはわたしもまちがってるとおもいます」

「グロリア...」

「りゆうはいまのわたしたちにはわからないとおもいます。だけどこれだけはしんじてください! わたしはなにがあってもクルトさまのみかたです!」

 

 

味方。そう言ってくれたグロリアの言葉でさえ僕の涙を止める事はできなかった。そしていつしかグロリアの声すら聞こえなくなっていた。

 

 

「......グロリア、ぼくは...

 

 

 

ぼくは......

 

 

 

ぼくは...

 

 

 

ぼくは−」

 

 

 

 

 

 

 

「クルトさま!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

いらない......こ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこで僕の記憶は途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オマエラ! おはようございます! 絶望ヶ淵学園が午前7時をお知らせします! 起床時間ですよー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「.........はあ!

 

 

 

 

...はあ...はあ...はあ...はあ......」

 

 

 

 

...........夢...か....

 

 

 

 

「...どうして今更こんな夢を」

 

 

まだ王国にいた時の...僕が日本へ追放された理由を知った時の記憶.......

どうして今になって.......

 

 

「......これのせいか」

 

 

目線の先には昨日、モノクマが提示した真実とやらを映し出していたモノパッドが転がっていた。

 

 

 

 

 

 

オマエラの中に黒幕の手先がいる

 

 

 

 

 

 

昨日見た赤文字がフラッシュバックする。多分、裏切り者というワードが大臣、引いては王国に裏切られたという記憶と結びついて、あんな夢を見たんだと思う。

 

 

「こんなものは...モノクマの罠に違いない。惑わされてはいけない」

 

 

きっと今日はこのモノクマが与えた真実の話し合いになるだろう。その時、僕はこの情報をみんなと共有すべきなのだろうか。

こんな事を話せばみんなこれまで以上に疑心暗鬼になってしまうかもしれない。

 

僕はどうすべきなのだろう...

 

ああ、しっかりしろクルト。こんなんじゃダメだ。ここで考えても正解なんてわからない。とりあえずみんなと話そう。決めるのはそれからでも遅くない。

 

 

「パチンッ!」

 

 

僕は気合いを入れ直すために、両頬を叩いた。

 

 

「よし!」

 

 

僕は準備を整えると、食堂へ向かうため部屋を出た。

 

 

......今日は長い一日になりそうだ。そんな気がしてならない。

 

何も起こらなければいいけど...

 

 

 

 

 

 

食堂にみんなが集まったのは10時を超える頃だった。僕らは桐崎さんや古畑さんが用意した朝食が乗った長テーブルを取り囲むように座り、そしてそれを包み込むように重い雰囲気が場を占める。

そんな中最初に口を開いたのは、やはりと言うべきか平子さんだった。

 

 

「ようやく揃ったわね。まあ、いつものごとく勅使河原さん待ちだったけど」

「生活習慣は簡単には変えられないのが現状だ」

「それは甘えっすよ! 勅使河原さん!」

「そんな事はどうでもいいだろう。聞きてぇのは昨日モノクマが言ってた真実って奴だろ?」

「わたくし達の中でランダムに真実が7つ送られていると聞いております」

「そうだ。その件について話し合う必要がある。みんなも察しているだろう」

 

 

やはりその話し合いになるのか。さてどうしよう。例えあんな事でも隠すことなく、本当の事を言ってしまうべきなのか。

そんな事を考えていると、ふとマオさんが手を挙げた。

 

 

「あの、少しいいかしら?」

「何? 足立くん?」

「先に言っておくと、あたしにはそのモノクマちゃんの言う真実が送られてきたわ」

「まじか、どんな内容だった?」

「待って。それを言う前に一つあたしの話を聞いてくれるかしら?」

「...話って?」

「...あたしね、送られてきた内容を見て思ったのよ。"ああこれはやっぱりモノクマちゃんが与えたものなのね"って。あたし達に不和や絶望を植え付ける為のもの。決してあたし達の為のものじゃないって。だから真実が送られてきた人は考えてほしいの。本当にその真実をみんなに教えるべきかって事を...」

「...なるほどね」

 

 

マオさんが言ったことは僕が思っていた考えに似ていた。まるで代弁してくれたようだ。

 

 

「何でや? モノクマが与えた真実なんて端から信用してる奴なんておらんやろ? やったら別にそんなん考えんで情報を共有した方がええと思うねんけど」

「舞田くんはそうかもしれない。でも他の人はどう? もしかしたらその真実を信じてしまう人がいるかもしれない。そしてその真実とやらに躍らされて殺人に手を染めるかもしれない。結局は私たちは他人。何を考えてるかなんて知ることはできないのよ」

「...悲しいけど華月ちゃんの言うとおりよ。真実が送られた人はその情報を言うべきかよく考えてくれるかしら」

 

 

マオさんがこれを言ってくれたのはありがたい。もし全部の真実を共有する流れになったら僕はこの真実をみんなに伝えてしまったかもしれない。とりあえずは安心した。

 

 

「あたしから言いたいことはそれだけ。...で、あたしが貰った真実だけど、よく考えた結果話した方がいいと思ったから言うわね」

「なんだ結局話すのか。てっきりそんな事言ってるから共有しない布石だと思ったけど」

「あれはあたしの為じゃなくて、みんなの為を思って考えたものよ。それに真実を開示するあたしが提案するからこそ説得力も増すと思ったのよ」

「そうか。足立なりに考えていたんだな」

「それでマオの貰った真実って何だったの?」

「...あたしの貰った真実は......」

 

 

 

 

コロシアイは何度も行われている

 

 

 

 

嘘...こんなコロシアイが他にも? しかも何度もって...

 

 

「こんなコロシアイが...過去にも?」

「そんな事件があるんか?」

「検事の平子ちゃんなら何か分かるかしら?」

「...確かに似たようなデスゲームは過去にもあった。けど私の知る限りこんな大規模な誘拐事件を起こして更にその誘拐された者同士で殺し合わせるなんて...そんな事例は聞いたことないわ」

「そう...」

「裏が取れない以上は足立氏に送られたものが真実か否かは判断は出来ませんな」

「そうね。でも仮にこれが真実ならあたし達の生きてる世界で一体何が起こってるのかしらね...」

 

 

こんなコロシアイが何度も行われている世界...僕らの世界は僕らが思っている以上に"異常"なのかもしれない。

そう思うと途端に恐怖を感じた...

 

 

「敵は私たちが思っているよりずっと大きいのかもしれない」

「わしらは一体何と戦っているんぜよ...」

 

 

敵......もしも僕に送られた真実が本当なら...今こうして話をしている人の中に僕らをここに閉じ込めた黒幕の手先がいる...そんな人が...?

 

 

平子さん

 

六車くん

 

桐崎さん

 

古畑さん

 

マオさん

 

鮫島くん

 

勅使河原さん

 

萬屋くん

 

氏家くん

 

赤星さん

 

舞田くん

 

鬼頭さん

 

繭住さん

 

 

ゆっくりと全員の顔を見渡した。でも当然真偽なんてわからない。

...はあ。何だか瞼が重くなってきた。コーヒーでも飲んで目を覚まそう。

僕はキッチンに行くために椅子から立ち上がった。

 

 

「ん? クルトどうしたの?」

「コーヒーでも飲もうかと思って。昨日嫌な夢見てしまったせいで寝覚めが悪くってね...。繭住さんもいる?」

「いや私はいいわ。コーヒー飲むとお腹壊しちゃうかもしれないし」

「ほほう。繭住女史奇遇ですな。何を隠そう小生もコーヒーは苦手の部類でしてね。いや〜気が合いますな〜」

「1ミリたりとも気なんて合わないし、合わせない」

「はっはー! 手厳しいですな!」

 

 

氏家くんは嬉しそうな声でそう言った。

 

 

「ぼくもコーヒーは苦手だな〜」

「衛ちゃんはいかにも苦手そうよね。海ちゃんとかよく飲んでそうなイメージだけど」

「わしゃ専ら水しか飲まんぞ?」

「あ、クルト! 俺はコーヒー飲むから一つ頼むわ」

「わかったよ、舞田くん」

「クルト様、雑用ならわたくしが」

「大丈夫だよ、桐崎さん。これくらいなら僕でも出来るから」

「左様ですか...」

 

 

桐崎さんにはお世話になりっぱなしだし、これくらいは一人でやらなきゃね。

僕はキッチンに向かうとコーヒーメーカーから二杯のコーヒーを淹れてみんなのいるテーブルに戻った。そしてその内一杯を舞田くんに渡した。

 

 

「はい、舞田くん」

「おお、すまんな。...で、話の続きやけどさ、さっきの話を踏まえて考えたんやけど、俺が貰った真実も共有すべきやと思うんや」

「へぇ。舞田くんにも送られていたのね」

「ああ。ご丁寧に"勤勉の大道芸人・舞田十司郎様へ"って書いてあったわ」

「勤勉って何?」

「知らんわ。そう書いてただけや」

「それならあたしも"慈悲の獣医"って書いてあったわね。特別気にもしてなかったけど」

 

 

そういや僕も"忍耐の王子"って書いてあったけど何か意味があるのかな?

 

 

「まあそんなんはどうでもええねん。問題はその中身やろ」

「そうだ。早くお前の貰った真実を教えろ」

「言われんくても教えるわ。えーと、確か...」

 

 

 

 

この学園には秘密の隠し部屋が存在する

 

 

 

 

秘密の隠し部屋か。

 

 

「そんなの真実でも何でもないじゃない。その部屋がどこかもわからないんじゃ意味ないわ」

「確かに」

「いやモノクマの事だから『この学園には実は隠し部屋があるっていう真実なんだよー!』とか言ってきそうっすけどね」

「...まあええやん。それがあるってわかっただけでも収穫やて。もしかしたらそこに何か手がかりがあるかもしれんし」

 

 

手掛かりか。でもモノクマが与えた真実だからあまり期待はできないかもしれないな。

 

...あ、そう言えばコーヒー淹れてたの忘れていた。冷めてしまう前に飲んでしまうか。

 

「...ふう」

 

熱々のコーヒーは重い瞼を押し上げてくれた。

 

 

...でも何だろう。

 

 

昨日飲んだコーヒーと少しだけ味が違うように思える。気のせいか?

 

 

「...うん?」

「クルトどうかした?」

「いや、別に大したことじゃ......あれ?」

「クルト?」

 

 

 

頭が...痛い。ズキズキする。何だこれ?

 

 

やばい...

 

 

痛い

 

 

「...痛い」

「大丈夫?」

「う、うん。少し頭痛がし......うっ!」

 

 

 

 

 

 

喉の奥が熱い! これは...まずい!

 

 

 

 

 

 

 

「...うっ......ヴォオオオォォォッ!!」

 

 

な、何で...僕は吐いて.......

 

 

「え?」

「なっ...」

「お、おい...」

「クルークハルト氏?」

「ク、クルト?」

 

 

みんなの声が聞こえる。でも顔が見えない。頭痛も酷くなってきた。

何だ...これは...

 

 

「みんな! 何も食べないで! 飲んでもダメよ!」

 

 

平子さんがみんなに注意を促す。

 

 

「クルト!!!!!!」

 

 

この声は...繭住さん......?

 

 

「はあ...はあ...はあ...」

「クルト!」

「クルト、しっかりせい!」

「鮫島! クルトが...」

「わかっとります。クルト少し辛抱せいよ」

 

 

気付いたら僕は鮫島くんの大きな腕の中にいた。

 

 

「足立! クルトを保健室に連れて行くきぃ、一緒に来てくれんか!」

「う、うん! わかったわ!」

「クルト! クルト! しっかりして!クルト!」

 

 

まずいな。焦点が定まらない...ずっとピンぼけを起こしているみたいになっている......

 

 

「クルト、安心せい! 今から保健室に連れて行くからな」

「クルト!お願い! 死なないで!!!」

 

 

みんなの声が遠い。

 

 

 

 

 

僕、このまま死ぬのかな?

 

 

 

 

 

嫌だ...

 

 

 

 

 

まだ死にたくない

 

 

 

 

 

死ぬワケには...いかない

 

 

 

 

せっかく小田切くんが助けてくれた命なんだ...

 

 

 

 

こんな...ところで...

 

 

 

 

死ぬワケには.....

 

 

 

 

 

「はあ、はあ、はあ、はあ、はあ...」

 

 

 

 

もう誰の声も聞こえない。微かに聞こえるのは自分の荒くなった息遣いだけだ。

 

 

 

..........もう...ダメだ...

 

 

 

 

 

意識が遠のいていく。

 

 

 

 

 

暗い闇底に落ちていくのを感じる。

 

 

 

 

何で...

 

 

 

 

どうして...

 

 

 

 

 

ごめん......小田切くん......

 

 

 

 

僕は...

 

 

 

 

.......

 

 

 

 

そして、僕は完全に意識を失ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜六車ミゲル、食堂にて〜

 

 

 

おいおいおいおい!!!何が起きてやがんだ!?!?

 

 

「何の冗談だよ...これは...」

 

 

クルトは俺たち全員の前でブチまけた後、鮫島に抱えられて保健室に運ばれていった。足立と繭住もその後を追って食堂から出て行った。

 

 

「どうして...クルトが?」

「気分が悪かった。とかじゃないっすよね...やっぱり」

「毒薬という事でございますか?」

「ど、毒薬ですと!? クルークハルト氏は毒を盛られたという事ですか!?」

「...でも毒薬のある化学準備室は立ち入り禁止にしてたはずだけど...」

「夜時間に持ち出したって考えるのが自然だろう。物理的に封鎖していたワケではなかったからな」

「...じゃあその持ち出された毒薬でクルト君は......」

「となるとコーヒーに毒が仕込まれていたという事になる。確か舞田十司郎も同じコーヒーをクルト・L・クルークハルトから貰っていなかったか?」

「あ、ああ...もろてたけど、まだ飲んでない...」

「不幸中の幸いっすかね...ここでクルトくんだけじゃなく、舞田くんまで倒れてしまったらもっと大変なことになっていたっす...」

「...と、とりあえずクルト様の吐瀉物を片します。念のために消毒も行わせていただきます」

 

 

そう言うと桐崎はキッチンからバケツやモップを持ってきて、手にゴム手袋、口にはマスクをして、クルトがブチまけたモンを手慣れた様子で片付けて、最後に床を消毒した。

 

 

「ありがとう桐崎さん」

「これもわたくしの仕事の一部ですから」

「...でも一体誰が毒を?」

「......こう言う事は言うのは気がひけるが、朝食を作るために長い時間キッチンにいた桐崎と古畑が怪しいと思うが」

「わ、私たちはそんなことしてないっすよ! 私と桐崎さんはずっと一緒に料理していました! 毒なんて入れる時間はないっすよ!」

「とは言っても片時も離れなかったって事じゃないでしょ? 毒を入れるぐらいの時間なら作れたと思うけど」

「そ、それはそうっすけど...くぅ! こんな事になるならもっと桐崎さんとくっ付いておいておけば良かったっす! それならこんな疑われずに済んだっすのに! ああ、もっと百合百合しておけばぁ!」

「百合と聞いて」

「氏家黙れ」

 

 

桐崎か古畑が毒を入れた? いやコイツらより怪しい奴を俺は知っている。

 

 

「おい舞田」

 

 

俺は舞田にしか聞こえない声で名前を呼んだ。

 

 

「どうすんだよ。言うのか? 平子が化学室に入っていたって事を」

「...言うべきやと思うわ。これはもう俺らだけで片付く問題やないわ」

 

 

まあそうなるだろうな。隠す事ぁねーし、平子の件を言わねーと桐崎か古畑のどっちかが毒を入れたって事になりそうだしな。

 

 

「ガチャン!!!」

 

 

何だ? 扉が勢いよく開いたのか?

 

 

「ま、繭住?」

 

 

そこには涙目になりながら平子を睨んでる繭住がいた。

 

 

「繭住さん、クルトくんの容態は?」

「...アンタでしょ」

「何?」

「アンタでしょ!! クルトのコーヒーに毒を入れたのは!!」

「え?」

「ま、繭住女史、今なんと? 平子女史が毒を盛ったと言ったのですか?」

「そう言ったでしょ!!」

 

 

あ、先に言われた。

 

 

「何言ってるの? そんな事するワケないでしょ」

「とぼけないでよ!! アンタが夜時間に化学室に出入りしていたって知っているのよ!!」

「...何のことよ」

「アンタが化学室に行くのを見た人がいるのよ! そうよね? 舞田、六車」

「そうなの?」

「あ、ああ、ホンマや...あの日は視聴覚室でうっかり帰るタイミングを逸した俺と六車は夜時間に化学室の方から宿舎に帰る平子ちゃんの姿を見たんや...ちょうど12時頃やったと思う」

「...全く、夜時間に出歩かないように念を押したはずだけど」

「それはアンタもでしょ、平子」

「...目撃者がいるなら否定する事も出来ないわね」

「平子華月、それは認めるという事か?」

「認めるわ。ただし、化学室に入ったことだけよ。クルトくんに毒を盛ったのは私じゃない」

「信じられるワケないでしょ!!!!」

 

 

毒を盛ったことは否定するが、化学室に入ったことは随分あっさり認めたな。もっと違う違うって言うと思ったが...平子は何がしたいんだ?

 

 

「じゃ、じゃあ華月どうして化学室に行ったの? しかもぼくらに隠して...」

「...それは、クルトくんが回復したら教えるわ」

「ふざけないでよ!! クルトの容態は深刻なんだよ!? 回復するなんて分からないじゃない!! 化学室に入ったことを説明できないから逃げてるだけよ!!」

「そう思いたいならそう思っていればいいわ」

 

 

まずいな。これ以上繭住がヒートアップしたら平子を殺しそうな勢いだ。

俺はとりあえず繭住を落ち着かせるために二人の間に割って入った。

 

 

「お前らちょっと落ち着け!」

「どいてよ! アンタには関係ないでしょ!」

「関係なくはねーだろ? 俺だって当事者だ」

「だったら何よ、六車はコイツを庇うの?」

「そうじゃねーよ」

 

 

ったくよ、頭に血ぃ上ってるヤツはこれだから嫌なんだよ。

 

 

「...ちょっといいか?」

 

 

そう言ったのは暴力オカルト女こと鬼頭だ。

 

 

「んだよ、鬼頭」

「平子が化学室に入ったのは事実なのだろう? だったら今現在最も疑わしい人物は平子となるのはもう仕方のないことだ。故に平子はクルトが回復するまで軟禁させてもらう」

「軟禁?」

「軟禁と言っても自室だがな。外に二人体制で見張りを置く。急場凌ぎだがないよりは良いだろう」

「...軟禁ね。まあ仕方ないわね、みんなとの約束を破ったのは事実だし、甘んじて受け入れるわ」

「それじゃあ行こうか。...食事はいるか?」

「今日はいいわ。一日くらい大丈夫よ」

 

 

そして、平子は鬼頭たちに連れられて宿舎に戻って行った。いつの間にか繭住も保健室に戻っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜クルト、保健室にて〜

 

 

 

......

 

 

 

......

 

 

 

......

 

 

 

......

 

 

 

......

 

 

 

「ん...ん...うん?」

 

 

見知らぬ天井...じゃなくて...

ここは保健室かな。どうやら僕は助かったらしい。

 

 

「あ、ああ......」

「うん? ク、クルト!?」

「まゆ、ずみさん?」

「クルト!!!!!!」

「わっ!? ま、繭住さん!?」

 

 

ベッドの脇にいた繭住さんが僕が起きたのに気付いて、寝ている僕に飛びついてきた。

 

 

「良かったよぉ!!! 生きてるよね? ちゃんと生きてるよね? お化けとかじゃないよね?」

「生きてる! 生きてるよ! 生きてるから、繭住さん、ちょっと...あの、色々当たって...」

「良かったよ...クルトが死んじゃったら...私...」

「繭住さん...」

 

 

繭住さんの声は微かに震えていて、涙が僕の肩に滴り落ちた。

随分心配させたようだ...でも僕のことをそんなに大事に思ってくれていたのは少しだけ嬉しかった。そう思うと自然に笑みが溢れた。

 

ふと保健室の中を見回したら、こっちを見てニヤニヤしているマオさんと目が合った。

 

 

「マ、マオさん...」

「青春してるわね〜、あなた達いつからそんな関係だったの?」

「ち、違うよ、そんな関係じゃ」

「照れなくてもいいのに」

「そういうワケじゃ」

 

 

「ガチャ」

 

 

そんなやり取りをしていると保健室の扉が開いた。

 

 

「おお、気ぃついたか! クルト!」

 

 

扉を開けたのは鮫島くんだった。

 

 

「鮫島くん」

「良かったぜよ! 本当に良かったぜよ!」

「クルト、鮫島は倒れたアンタをここまで運んできてくれたのよ」

「あ、やっぱりそうだったんだ。でも僕があの時は...その...僕ゲロまみれだったけど大丈夫だった?」

「ああ、確かに服は汚れたが、ほがなことはどうでもいい。おまんの命には代えられん」

 

 

鮫島くんは吐いて倒れた僕をすぐに抱え上げてここまで運んでくれた。自分が汚れることは気にせずに...

感謝してもしきれないな。

 

 

「本当にありがとう、鮫島くん」

「わしはただ運んだだけぜよ。礼なら繭住さんか足立に言ってくれ」

「うん。繭住さんもマオさんもありがとう」

「いやお礼を言われることなんてないわ。正直言ってあたしは何もしてないから。クルトちゃんが自分の力で回復したのよ」

 

 

マオさんはそう言ってるけど、多分色々やってくれたんだと思う。

僕はいつも助けられっぱなしだな。

 

 

「あ、そうだ。クルトよ。おまんの部屋から着替えを持ってきたぜよ。鍵は勝手に借りたぞ」

「あ、ありがとう」

 

 

着替え...そういや何だか開放感があるな。

そう思って自分の状態を確認すると下着しか身につけていないことに気付いた。

 

 

「クルトちゃんの服は汚れちゃってたからね。脱がすしかなかったのよ」

「あ、そうなんだ。あ、ありがとう」

「いいのよ。...ごちそうさま

「マオさん? 何か言った?」

「なにも!」

 

 

ま、まあ、こればっかりは仕方ないか。

僕は鮫島くんが持ってきてくれた新しい制服に着替えたが、とりあえず念の為に今日は保健室で過ごすことになった。

 

 

「そう言えば...平子さんは?」

 

 

僕は小さな声で繭住さんにそう聞いた。

 

 

「軟禁だって」

「軟禁...」

「クルトが回復するまでまでって話だけどね。でも今日一日は閉じ込めておくつもりよ。念の為にね」

「そ、そっか...みんなはもうあのことは知ってるの?」

「うん」

「...平子さんはなんて?」

「化学室に入ったのは認めたわ。でも毒は盛ってないって。本当かどうかわからないけど」

 

 

平子さん...

彼女は一体何を考えているんだ?

明日、彼女の真意を聞こう。

 

 

 

それからみんなが次々とお見舞いに来てくれた。最初は赤星さんと桐崎さんと古畑さんが、その次は舞田くんと萬屋くんが来てくれた。まるで入院患者になったようだ。

 

 

「ガチャ」

 

 

「クルークハルト氏! お体は大丈夫ですかな」

「......眠い」

 

 

次は氏家くんと勅使河原さんがお見舞いに来たようだ。

 

 

「うん、とりあえずはね」

「とりあえずでも良かったですぞ! クルークハルト氏に死なれでもしたら小生との約束が果たせなくなってしまいますからな」

「約束...ああ! 作品完成したの?」

「そうなのですよ! 実は昨日のうちに完成はしていたのですが、一番はじめにクルークハルト氏にお披露目せねば! と思いましてね」

 

 

そう言うと氏家くんは手に持っている布で包まれた何かを取り出した。

 

 

「どうぞ、ご照覧あれ」

 

 

布を捲るとそこには赤と黒に彩られた螺旋状の装飾がいくつも施された綺麗なガラスの器があった。

 

 

「綺麗...」

 

 

赤と黒の色彩が得もいえぬ力強さを感じる。しかしそれがガラスという事実が儚さも演出する。そして単純に綺麗だ。

 

...でも何だろう。この彩り、何か見覚えがあるような?

 

 

「どこかで見たような色合い...」

「お? 気が付きましたかな? これは小田切氏のイメージカラーをモチーフに製作したのですよ!」

「あ、そうだ!! 小田切くんだ!!」

「彼は小生たちの為に文字通り命がけで戦ってくれました。そして儚くも亡くなってしまった。そんな小田切氏に小生ができることと言えば作品を作って彼を弔うことぐらいだろうと思いまして」

 

 

氏家くんが苦心して作っていたのはこれだったのか。

小田切くんがモチーフの作品...すごい。

語彙力を失うほど氏家くんの作品はすごかった。

 

 

「喜んで頂けたのなら職人冥利に尽きるというものですよ。故に悔やまれます。実はもう一つ作品があったのですよ」

「もう一つ?」

「ええ、貴志女史をモチーフにした作品だったのですが、今日ガラス工房に行ってみると床に落ちて粉々になっていたのですよ」

「あ、そうだったんだ。それは残念だね」

「独りでに落ちるようなものではなかったのですが、まあ致し方ないですな。作品はまた作れば良いのですよ」

 

 

氏家くんはそう言うと枕元の近くにあるサイドテーブルに作品を置いた。

 

 

「工房に置いていてまた壊れたら嫌ですから、こちらで飾ることにしますぞ」

「そうだね。その方がいいと思う」

「タイトルは『希望』なんてどうですかな」

「『希望』か...うん! いいと思うよ!」

 

 

希望...それは小田切くんが大切にしたものだ。

『絶望なんかに希望は負けない』

そんな小田切くんの言葉を思い出した。

正にこの作品に相応しいタイトルだ。

 

 

「クルト、そろそろ9時半だよ。宿舎に戻ろう」

「あ、もうそんな時間?」

「それでしたら小生らも帰りますかな? 勅使河原女史もそろそろ限界のようですし」

「...zzz」

 

 

ていうか、もう限界を超えているようだ。

 

 

「それじゃあ戻ろうか」

 

 

僕らは帰る準備を整えると保健室を後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜鬼頭ちはる、宿舎にて〜

 

 

 

平子が自室に軟禁されてそろそろ数時間が経つ。特別何も起きることなく、宿舎内は平穏そのものだった。

 

 

(そろそろ10時か)

 

 

私は平子が軟禁されている部屋の前で見張りをしていた。他にやることもないので、特段この役目は苦でもない。だが...

 

 

「やっと10時かよ」

 

 

六車(このバカ)がいると話は変わってくる。

 

 

「どうして俺がテメェなんかとセットにされてんだよ」

「お前は黙って見張りもできないのか」

「チッ! 何でテメェはそう突っかかる言い方しかできねーんだよ!」

「突っかかりたい顔をしてるからな」

「んだと?」

 

 

こうやって何かと諍いを起こす。私も火種を作るのは本意ではないが、このバカが目の前にいると何だか悪魔を相手取ってるようで敵意?を向けてしまう。

そんな事を考えていると、時間も遅くなってきたからか、皆が次々と宿舎に戻ってきた。その中に今朝の一件から回復したクルトがいた。

 

 

「あ、鬼頭さん、六車くん」

「おお! クルト!」

「目覚めたとは聞いてたが、体の方は大丈夫なのか?」

「あ、うん、とりあえず大丈夫みたい」

「そうか。それは何よりだ」

「心配かけたみたいだね。ごめん」

「クルトのせいじゃねーよ。悪ぃのはコーヒーに毒を入れたヤツだ」

 

 

毒か......今一番怪しいのは化学室に入ったことを隠していた平子だ。しかし平子の目にはそう言った悪意を秘めてるようには見えなかった。もちろん悪魔が取り憑いているようにも思えない。

 

 

「...平子さんを見張ってるの?」

「ああ、一応な」

「やはり気になるか?」

「そ、そうだね。僕にはやっぱり平子さんがやったとは思えなくて」

「...まあとりあえず今日一日だけだ。クルトも回復したことだし、平子の口から直接話を聞こうじゃないか」

 

 

そう、明日になれば平子の思惑もわかるはずだ。 ...そう言えば平子はクルトが絶対に回復するという口振りだった。まるでそうなると確信しているようだ。それも含めて明日聞くしかないだろう。

そう思っていると...

 

 

 

 

「絶望ヶ淵学園が午後10時をお知らせしまーす! 食堂と体育館はロックされますのでご注意を。それではオマエラ、いい夢を。おやすみなさい〜」

 

 

 

モノクマの夜時間を知らせるアナウンスが鳴った。

 

 

 

「時間か」

「10時になったし、僕も部屋に戻るよ。鬼頭さん達はどうするの?」

「私たちもそろそろ戻るつもりだ。さすがに夜時間に見張りをするワケにはいかないからな」

「そっか。じゃあ僕は先に戻るね。二人ともおやすみ」

「おう」

「ああ、おやすみ」

 

 

クルトはそう言うと自室に入って行った。

 

 

「んじゃ俺も戻るぞ」

「ああ、わかった」

「...お前はどうすんだ?」

「最後に平子と話したい。お前は戻っても構わんぞ」

「そうかよ。あんま長居すんじゃねーぞ?」

「言われなくても長話をするつもりはない」

「あっそうかよ。んじゃな」

 

 

六車が自室に入るのを見届けると私は平子の部屋のインターホンを鳴らした。

 

 

「ガチャ」

 

「...何かしら?」

 

 

扉を開けた平子はいつもの紺色のジャケットは着ておらず、比較的ラフな格好になっていた。

 

 

「夜時間になった。よって私たちは監視を終える」

「わかったわ。話はそれだけ?」

「それともう一つ。クルトが回復した」

「...そう。それは良かったわ」

「やはりあまり驚かないのだな。お前は何を隠してる?」

「...明日話すわ」

「明日...ね...」

「要件は済んだかしら? なら貴女も早く部屋に戻った方がいいわ。それと今日はもう大人しくしていることね」

 

 

平子はそう言うと扉を閉めた。

 

...サシで話した平子の目からはやはり悪意のようなものは感じられなかった。

これで平子が本当にクルトを殺そうとしているとしたら、私の目も節穴だって事になる。

 

だが、人が人を殺す理由は、必ずしも悪意ではない。善意が人を殺すこともある。

 

 

それは悪魔なんかよりもずっとタチが悪い人間が本来持ってる"性"なのだろうな。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜クルト、自室にて〜

 

 

 

「オマエラ! おはようございます! 絶望ヶ淵学園が午前7時をお知らせします! 起床時間ですよー!」

 

 

 

「...うっ」

 

 

昨日より更に悪い寝覚め。まだ少しあの件の余韻が残ってるみたいだ。

僕は重い体を起こすと、食堂に行く支度を始めた。

 

 

「よし」

 

 

支度を終え、自室を出る。そして階段を降りた辺りで桐崎さんと古畑さんに会った。

 

 

「あ! おはようっす! クルトくん!」

「おはようございます」

「二人ともおはよう」

「お体の方は大丈夫ですか?」

「うん。とりあえずは大丈夫だよ。少しだけ怠いけどね」

「あまり無理はしないでくださいっすね。辛かったら何でも言ってくださいっす!」

「わたくしも最大限ご助力致します」

「あ、ありがとう二人とも。でもこれ以上迷惑はかけられないよ。気持ちだけ受け取ってお−」

『ピンポンパンポーン』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『死体が発見されました。一定の捜査時間の後、学級裁判を開きまーす!』

 

 

 

 

 

 

僕の言葉を遮るように"それ"は鳴った。

 

 

 

「え?」

「な、何すか!?!?」

「死体発見アナウンス...でしたね」

「死体? コロシアイが起きたってこと!?」

「これが鳴ったということはおそらく...」

「...ッ!! くっ!!」

「クルトくん! 待って!」

 

 

僕は宿舎を飛び出した。どこで何が起きているのか一刻も早く知りたかった。

 

 

「はあ、はあ、はあ...

 

 

 

...ッ!?」

 

 

小さく肩で息をしながら学園を見渡す。すると大きな違和感を見つけてしまった。

それは煙だった。校舎の2階の窓から大量の煙がグラウンドの方に排出されていたのだ。

 

 

「煙? 火事?」

「え!? 何すかあれは!?」

「あの位置は確か技術室でしょうか?」

「技術室...」

 

 

技術室。その言葉を聞いた時、僕の頭には一人の人物が連想された。

 

 

(氏家くん...)

 

 

「一刻も早く確認しに行くっすよ!!」

「...わかった。行こう」

「はいっす!」

「了解致しました!」

 

 

僕らはすぐに校舎の2階に向かった。階段を登りきると煙は廊下の方まで及んでいるのがわかった。

 

 

「うっ...」

 

 

煙をなるべく吸わないようにしながら技術室に入る。中は廊下よりも煙が充満していた。その中で二つの人影を確認できた。

 

 

「鮫島くんと萬屋くん?」

「うん? ああ、クルトか?」

「そう。この煙は何?」

「わからんが、どうやらガラス工房から出ているようじゃ」

「さっきの死体発見アナウンスは?」

「...ここで間違いないよ。ガラス工房で発見した...」

「ガラス工房...」

 

 

僕は煙をかき分けてガラス工房に向かった。

 

 

「ガタッ!」

 

「え?」

「...クルト君気を付けて。工具棚が倒れていたんだ。中にあったものも散乱してしまっているから注意して...」

「わ、わかったよ」

 

 

煙で視界が奪われて倒れている工具棚に気がつかなかったようだ。

そして、僕はガラス工房に足を踏み入れた...

 

 

 

 

 

僕はそこで見た

 

 

 

 

 

 

 

煙が占めるガラス工房の中で

 

 

 

 

 

 

 

一人立ち尽くしている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

氏家くんの姿を

 

 

 

 

 

 

 

「氏家...くん?」

「...ク、クルークハルト氏ですか?」

「氏家くん生きてたんだね」

「小生は...大丈夫です。しかし...」

 

 

氏家くんは足下に視線を落とした。

 

 

「彼はもう...」

 

 

 

氏家くんの視線の先に目をやると

 

 

 

 

そこには

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

うつ伏せで横たわり

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

口から血を流して倒れている

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"超高校級の大道芸人"舞田十司郎くんが絶望の表情を浮かべ、絶命していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だ...そんな......舞田くん..........」

 

 

 

 

 

 

 

『みんなでここを脱出してくれ』

 

 

 

 

 

 

 

そんな小田切くんの願いはたった数日で脆くも砕け散ってしまった......

 

 

 

 

舞田くんの死という最悪の結果によって...

 

 

 

 




ということでとうとう死体があがってしまいました。皆様的にクロい人物はいたでしょうか? 次話から非日常編に入るので良かったらトリックやクロを予想してみてはいかがでしょう。

それとまた生徒名簿に稚拙ですが一人一人のイラストを追加しております。ちまちま変えて申し訳ないです。

それではまた次回お会いしましょう。
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