ダンガンロンパExtraWorld 〜砂漠のコロシアイ学園生活〜   作:magone

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前回の捜査の続きになります。


第2章 非日常編 続・捜査

もう...やめてくれ...

 

 

 

化学準備室の扉を開けて、左奥。

そこに、血の海に沈む彼女を見た。

 

 

 

 

 

「こんなの...嘘だよ...

 

 

 

 

 

 

嘘だって言ってよ......

 

 

 

 

 

 

 

平子さん!!!」

 

 

 

 

 

「...平子?」

「あ?」

 

 

咄嗟に彼女の名を叫ぶが、反応はない。僕は急いで倒れている彼女に駆け寄った。残りの二人もそれに気付いて、後に続く。

 

 

「平子さん!! しっかりして!! 平子さん!!」

 

 

声を掛けてもやはり返事はない。とりあえずうつ伏せの彼女を仰向けの状態にすると口から大量の血が流れ出してきた。

...まるで状況が飲み込めない。どうしてこんなことになっているんだ!?

 

 

「平子さん......!!」

「嘘でしょ...」

「おいおい...それもしかして...平子.........死んでんのか?」

 

 

.........そんな...嘘だよ......だってさっきまで彼女は...僕らと普通に喋っていて......

そんな彼女が? どうして!? なんで!?

僕らと離れている間に一体何が......

 

 

「...どうして...こんな...」

 

 

数秒後、隣の視聴覚室にいた古畑さんと鬼頭さんが騒ぎを聞きつけてやってきた。

 

「ど、どうしたんすか!? ん? う、うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁああああ!!」

「何事だ。......ひ、平子?」

「お前ら...」

「説明しろ! これは何だ! 何が起きてる!?」

「俺らだってわかんねーよッ! 着いたらこうなってたんだよッ!」

「...ひ、平子さんは死んじゃったんすか? あのアナウンスは流れなかったっすけど...」

「......"アナウンス"?」

 

 

...そういや小田切くんの時も舞田くんの時もモノクマが死体発見のアナウンスをしていた。

もしかして......

 

 

 

 

 

「そりゃそうだよ。だってまだ死んでないんだもん」

 

 

 

 

ん? この声は...

 

 

「モノクマ?」

「こいつはいつもどこから湧いてくるのよ」

「今はそんな事はどうでもいい。お前、平子は死んでないと言ったな? 確かか?」

「ボクに聞くより自分で調べてみた方がいいんじゃない?」

 

 

平子さんが生きている?

僕は脈を確認する為に彼女の右手を取る。

 

 

 

「...ドクン」

 

 

 

「生きてる...」

 

 

か細く今にも消えてしまいそうな脈動。

でも確かに平子さんは生きていた。

 

 

「生きてるよっ! 平子さんはまだ生きている!!」

「なら早く保健室に!! まだ間に合うかもしれない!!」

「よし! じゃあとっとと平子を保健室に−」

 

「それには及ばないよー!」

 

 

え?

 

 

「ギギャアアアアアアアアアアアン!!!」

 

モノクマのそんな言葉と同時に現れたのは、あの機械兵。高機動人型殺人兵器。モノクマからエグイサルと呼ばれていたモノだ。

 

 

「エ、エグイサルだああああああ!!」

「はい! そこ! 叫ばない! これが出てくる度に叫んでいたら一つ一つの絶叫が安っぽく聞こえちゃうでしょうが!」

「...この際何でもいい。モノクマ! なぜそれを持ち出してきた?」

「なぜって...平子サンを預かる為だけど?」

 

 

平子さんを...預かる?何を言ってる?

 

 

「それはどういう意味?」

「そのままの意味だよ。こんな状態じゃ学級裁判に参加なんてとてもできないからね。今回だけは特例措置としてボクが平子サンの面倒見てあげるってこと」

「平子を治療してくれるってこと?」

「そんなワケないじゃん。何でボクがそんなことしなくちゃいけないのさ! これはオマエラがコロシアイをした結果! ボクが平子サンを治療する義理はないよ。さあ、とっとと持って行っちゃって!」

 

 

そう言った次の瞬間、エグイサルが平子さんを抱えて化学室から出て行った。

 

 

「...平子さんに何かしたら許さないよ」

「何もしないよ。治療もしないけどね」

「...最低ね」

「うぷぷ...さあ平子サンが死ぬも一興、死なぬも一興、どうなってしまうのかドキがムネムネして止まらないね! ぶーっひゃひゃひゃひゃひゃ!!」

 

 

けたたましく笑う声に耳を塞ぎたくなる。コイツは悪意を孕んだ魔物だ。それ以外の何ものでもない。コイツにとっては平子さんの生死すら単なる余興の一つに過ぎないんだ。

 

 

「あ、そうそう!今回の件を受けまして当コロシアイ運営サイドは校則の追加を決定しました! 各自チェックしておいてね!」

 

 

思い出したかのようにそう言った直後、みんなのモノパッドに校則追加を知らせる通知音が一斉に鳴り出した。

僕らはそれを確かめるべくモノパッドを開く。

 

 

「えー『別の犯人による別の殺人が同時に起きた場合、先に死体発見された方のクロのみが投票対象となります』...と『同一のクロによる殺人は2人までとします』が追加されているっすね」

「2つも追加されてるのね」

「最初の校則はつまり、もし舞田を襲ったクロと平子を襲ったクロが別々だった場合は先に舞田を襲ったクロが投票対象となるということか...まあ平子はまだ死んではないが...」

「もう一つの校則はこれ以上被害者を増やさない為のものっすかね?」

「まあそうだろうね」

 

「確認したようだね。それじゃあボクはそろそろ失礼するよ。裁判場の用意やら何やらあるし」

 

「待て、モノクマ。捜査はどうなる?」

「捜査? すれば?」

「平子の件のことだ!」

「それも勝手にすればいいよ。オマエラが必要だと思うならすればいいさ。強制はしないよ。聞きたいことはそれだけかな? 鬼頭サン?」

「...もういい」

「じゃあ今度こそ失礼するよ。ボクは裁判場で待ってるからさ。楽しみにしてるよ。それじゃあね」

 

 

モノクマはそう言うと消えた。

 

 

「...どうする?」

「どうするったってよ...やるしかねーだろ」

「しかし時間も限られている。ここばかり捜査してもいられないぞ」

「だったらここにいる人で手分けするしかないようね。マオちゃんや氏家は舞田を見てないといけないし、他の人も別の場所を捜査してるし、何より事情を説明してる時間が惜しいわ」

「そうっすね。そうした方が良さそうっすね。それでどう分けるっすか?」

「...化学準備室(ここ)は僕、繭住さん、六車くんで捜査するよ。鬼頭さんと古畑さんは図書室を捜査してくれない?」

「図書室?」

「舞田くんが書いたダイイングメッセージがあった小説『不可侵のライヤー』の著者である法島龍之介について調べて欲しいんだ。何か手掛かりがあるかもしれない」

「法島龍之介っすね! 了解っす!」

「図書室は私たちに任せろ。それじゃあここの捜査は頼むぞ」

 

 

鬼頭さんと古畑さんが化学準備室から出て行くのを見届けると僕らも捜査を再開するべく動き出す。

何としても真実を見つけなくちゃならない。

舞田くんが殺された理由...

そして、平子さんが襲われた理由...

2人を襲った犯人は同一人物なのかそれとも別人なのか...

 

それを明らかにするにはまず捜査を終わらせないといけない。僕は深呼吸をし落ち着きを取り戻すと改めて化学準備室の捜査を再開した。

 

 

 

ーーー捜査 再開ーーー

 

 

 

[コトダマゲット]

ーーー意識不明の平子

 

 

「そもそも何で平子はここにいたんだ?」

「...そういや平子、さっき何か確かめることがあるとか言ってたな」

「平子さんはここに何かを確かめにきたってこと?」

「可能性はあるわね。平子は元々この化学室に出入りしていたワケだし。平子にしかわからない何かがあったのかもしれないね」

 

 

そう。平子さんは立ち入り禁止にしていた化学室に入っていた。理由は言わなかったけど本人も化学室に入ったこと自体は否定しなかった。

平子さんはどうして化学室に? やっぱり毒薬を持ち出すため? それとも他に理由が?

...わからない。今は頭に留めておくだけにしておこう。

 

 

[コトダマゲット]

ーーー化学室に出入りしていた平子

 

 

「まあそれはそれ。今は目の前のことに集中しましょう」

 

 

繭住さんの言う通り。時間もないんだ。早く捜査をしよう。

まずは平子さんが倒れていた周辺を調べてみよう。

 

 

「ひどい血の量ね」

「う、うん...」

 

 

床は平子さんが吐血したと思われる血で赤黒く染まっており、それは平子さんが今どれだけ深刻な状態にあるかを物語っていた。

 

 

「おい! ここになんかあんぞ!」

「ん?」

「何?」

「見てみろ」

 

 

六車くんが言った所を確認すると、そこにはアルコールランプ、三脚台、金網、マッチ、ビーカーなど化学の実験で使われる器具が散乱していた。

 

 

「何だろうこれ...」

「明らかに使った形跡があるな。見てみろ。金網が少し焦げてる。アルコールランプを使った証拠だ。ご丁寧に使用済みのマッチもあるしな。間違いないだろう」

 

 

...確かに何かを温めていたようだけど、肝心の温めていたものが見当たらない。もちろんビーカーの中にも。

 

 

「何を温めてたんだろうね」

「さあな。でも事件に無関係じゃねぇだろ?」

「多分ね。きっとこれにも理由があるんだと思うよ。ここに転がっている理由が」

 

 

[コトダマゲット]

ーーー散乱していた実験器具

 

 

「クルト、ちょっと来てくれる?」

「ん?」

 

 

繭住さんに呼ばれて来たのは、薬品棚の前だ。

 

 

「ここには...確か毒薬が」

「うん。モノクマ特製の毒薬がある。でもここに来たからにはこれを調べないワケにはいかないでしょ」

「そうだね...でも注意して調べよう。何と言っても毒だからね」

 

 

薬品棚の扉を開けると、ずらりと並んだ毒瓶が目の前に現れた。

 

 

「そういや毒って7種類もあったわね。どれがどんな効果だったっけ?」

「確認してみようか」

 

 

毒瓶のラベルを見ながらそれぞれの効果をおさらいする。

 

 

 

左から

 

致死性は0%で目眩や吐き気、頭痛の症状が出る即効性の白の毒薬

 

 

致死性は0%で目眩や吐き気、頭痛の症状が出る遅効性の青の毒薬

 

 

致死性は50%で目眩や吐き気、頭痛の症状も出る即効性の緑の毒薬

 

 

致死性は50%で目眩や吐き気、頭痛の症状も出る遅効性の黄の毒薬

 

 

致死性は100%で細胞組織を破壊し、失血を促す即効性の黒の毒薬

 

 

致死性は100%で細胞組織を破壊し、失血を促す遅効性の赤の毒薬

 

 

何が起きるかわからない。効果は不明の紫の毒薬

 

 

 

...以上がモノクマが用意した毒薬だ。

 

 

 

「それにしても改めて見ると絶対使わない毒薬もあるわね。白や青の毒薬とか致死性ゼロだし、紫の毒薬なんて効果すらわからないし」

「そうだよね...使うとしても黒や赤の毒薬だと思うし、モノクマの考えはよくわからないな」

「まあモノクマの思惑なんて考えるだけ無駄よ。とりあえずこの毒薬がそれぞれどんな効果なのかだけは覚えておきましょ」

「そうだね。...にしても青とか赤とか言っても毒の色自体は全部無色透明なんだね」

「この色は瓶の色みたいね。瓶から出せば何が何の毒なのかわからないわね」

 

 

それぞれの毒はどうやら瓶の色で判別できるようだ。どうせなら毒の色も瓶の色に合わせていれば分かり易いのに...まあ僕は使わないから分かり易さなんてはじめからいらないけど...。

 

 

[コトダマゲット]

ーーーモノクマ特製のオリジナルポイズン

 

 

それにしてもこんな毒薬をどうやって作ったんだろう...まあ考えるだけ時間の無駄かもしれないけど。

そんなことを思いながら手にしている毒瓶を棚に戻そうとした。

...その時だった。棚の奥にくしゃくしゃに丸められた紙を発見した。

 

 

「何だろう...」

「何それゴミ?」

「わからない。とりあえず開けてみよう」

 

 

僕はくしゃくしゃの紙を広げてみた。するとそれは説明書きのようで、大きな字体でこう書いてあった。

 

 

「『毒の使用方法』...?」

「説明書かしら。こんなものあったのね。読んでみましょ」

「そうだね。えーとなになに...

 

『毒の使用方法。モノクマ特製のオリジナルポイズンには様々な使用方法がございます。例えば水等の液体に溶かして対象に飲ませる方法、刃物に塗って相手の体に刺し、直接取り入れる方法、毒自体をそのまま直接飲ませる方法など、これら使用方法はそれぞれの毒薬の効果に影響はございません。ですが、例外もございます。それは毒を気化させて対象に吸わせる方法でございます。この場合においてのみは毒の効果は半減し、本来の効果を発揮することはできませんのでご理解ください。以上が毒の使用方法の説明になります。疑問がございましたらお気軽にモノクマをお呼びください』

 

...って書いてあるね」

「...お疲れ様。それにしても本当に説明書のようね。何で隠されていたのかな?」

「何か理由があるかもね。一応持っておくことにするよ」

 

 

[コトダマゲット]

ーーー毒の使用方法

 

 

「毒と言えば、昨日クルトに毒を盛ったのは結局誰だったのかな?」

 

 

そう言えば僕も襲われた被害者の一人だった。

...よくよく考えてみると何かおかしい。どうして犯人は致死性100%の毒薬を使わなかったのか? もしそれを使えば昨日の時点で犯行は終わっていたはず...でもそれを使わなかった。その理由は何だろう? まあ使われていれば今僕はこうして生きてはいないけど......。

 

 

[コトダマゲット]

ーーー嘔吐したクルト

 

 

「...今はわからない。でももしかしたらそれも学級裁判ではっきりするかもね」

 

 

今は僕が襲われた理由を考える時間じゃない。それは学級裁判でみんなで話し合おう。

 

 

「...あ、そろそろマオちゃんの検死が終わってる頃じゃない? 一度ガラス工房に戻ってみる?」

「そうだね。ここで調べられる所は粗方調べたし...六車くんはどうする?」

「俺はまだここを調べるつもりだ。実験器具が転がってたり、窓が全開だったり、わからねーことだらけだからな」

「わかった。じゃあまた後でね」

「間違っても毒とか食べるんじゃないわよ」

「食べねーよ! ナメてんのか!」

 

 

僕らは六車くんを化学準備室に残すと二階まで降りてマオさんが検死をしているガラス工房まで戻ってきた。

 

 

「あら戻ってきたのね。こっちは今やっと検死が終わったとこ...ってどうしたの? 二人して顔色が悪いわよ? 何かあったの?」

「...平子が化学室で倒れていたのよ」

「華月ちゃんが!? どうして!?」

「わからない」

「華月ちゃんは今どこ?」

「モノクマが攫っていった。どこへ行ったのか私たちにもわからない...」

「そんな...華月ちゃんまで......」

 

 

マオさんは肩を落とし、人差し指で小さく涙を脱ぐと、僕らの顔を見て言った。

 

 

「辛かったわね...死んでないとはいえクラスメイトのそんな姿を一日に二度も見るなんてね...」

「マオちゃん...」

「でもだからこそ、あたし達は華月ちゃんの分まで頑張らないといけないわね。...今から私が十司郎ちゃんの体を調べてわかったことを話すからちゃんと聞いてね」

「...うん」

 

 

マオさんは倒れている舞田くんの体に視線を落とすと、検死した結果でわかったことを話し始めた。

 

 

「どうやらね、十司郎ちゃんは一酸化炭素中毒で死んだワケじゃなさそうなのよ」

「そうなの?」

「ええ。理由はこの顔色にあるわ」

「顔色?」

「うーん、私にはめちゃくちゃ顔色悪く見えるんだけど?」

「そこがおかしいのよ。本来一酸化炭素中毒になれば血液中のヘモグロビンと結合して遺体の顔色はむしろ"良く"見えるのよ」

「でも悪い。ということは」

「一酸化炭素中毒ではないってことね。それに十司郎ちゃんは吐血もしている。私にはどちらかというとそっちの方が彼の死因に関係していると思えるのよ」

「なるほど」

 

 

舞田くんは一酸化炭素中毒ではなかったのか。

となると彼の死因はやっぱりアレしか考えられないかな......。

 

 

[コトダマゲット]

ーーー足立の検死結果

 

 

「そう言えば、さっきから勅使河原とか桐崎とかの姿が見えないわね。どこ捜査しているのかな?」

「ああ、確か祈里ちゃんは、雨城ちゃんと衛ちゃんと千歳ちゃんを連れて十司郎ちゃんの部屋を調べに行くって言ってたわよ?」

 

 

舞田くんの部屋か。そこまで気が回らなかったなぁ。まあ平子さんの件もあったし、仕方ないとは言えば仕方ないけど...

そうこうしていると、捜査終了を知らせるチャイムが鳴り出した。

 

 

「キンコンカンコーン!」

 

 

 

 

『さーて! お待ちかねの学級裁判の時間だよ! オマエラ、学園内のグラウンド中央までちゃっちゃとお集まりくださーい! うぷぷ...』

 

 

 

 

 

 

......終わりか。

 

 

「ここで打ち止めね。...行きましょうか」

「うん、そうだね...」

 

 

僕らは舞田くんの遺体に別れを告げるとガラス工房を後にした。

グラウンドに出ると、既に集まっている人が数名...おそらく舞田くんの部屋を調べていた面々だ。その中の一人、勅使河原さんと目があった。

 

 

「勅使河原さん」

「...クルト・L・クルークハルトか」

「舞田くんの部屋を調べていたんだよね? 何かあった?」

「『何かあったか』と聞かれれば『何かはあった』と答えよう。しかし、その"何か"が何なのか...それがこの事件にどのように関係するのか、それは実際に箱を開けてみないとわからない。私たちが捜査の結果得たものは、後にきっちりと説明しよう」

「そ、そう? わ、わかったよ」

 

 

相変わらず勅使河原さんは独特な言い回しをする。しかし、舞田くんの部屋に"何か"があったのは、間違いないようだ。もしかしたら勅使河原さんが抱えているその"本"のようなものが、その"何か"なのだろうか?

そんなことを考えている間にその他の全員がグラウンドに集まった。ただ一人を除いて...。

 

 

「これで全員ね...」

「全員、ですか? 平子様がまだお見えになってないようですが?」

「いやこれで全員なんだ。平子さんは今回の学級裁判には参加できない」

「クルト、それはどういう意味? 華月が参加ができないって...」

「それは」

 

 

「ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ!!!」

 

 

彼女が不参加のことをそれを知らない面々に教えようとした時、轟音と共に地面がゆっくりと盛り上がり、例の学級裁判場に繋がるエレベーターが姿を現した。

 

 

「平子様が不参加の理由については後でお伺いします。宜しいでしょうか?」

「うん。必ず説明するよ」

「絶対だよ!? 絶対だからね!」

 

 

平子さんの件は全員が知っておくべき事実だ。理由は裁判場でしっかりと話すことにしよう。

エレベーターに乗り込むと、以前よりも少し広く感じた。それもそうだ。前の学級裁判の時は貴志さん、舞田くん、そして平子さんもいた。一気に3人も減ればそれは広くも感じてしまう。そう思うと途端に言い知れぬ虚無感に襲われた。

 

 

「......」

 

 

エレベーターは扉を閉じると、ずんずんと下に落ちていく。落ちて、落ちて、落ちて、落ちて、落ちて、さらに落ちていく。その間、誰一人として口を開こうとはしなかった。以前にも増して疑心暗鬼の雰囲気がエレベーター内に流れている。それもそのはず。今回の犯人は何としてもここから出たいという強い意志を感じる。それが殺意という形で現出し、殺人という凶行に走らせた。

今回の裁判...一筋縄ではいかないかもしれない。考えも纏まらないうちにエレベーター内に非情にも到着を知らせるブザーが鳴り響いた。扉が開くとそこにはいつもの様にモノクマが踏ん反り返って待っていた。

 

 

「やあ。来たね。待ってたよ」

「アンタ...平子をどこへやったのよ」

「うぷぷ...それは後でじっくりと説明するよ。まずは前回と同じようにそれぞれの証言台につきやがってください! 話はそれからだよ」

「...きッ」

 

 

僕らは渋々それぞれの証言台についた。

...二度目の学級裁判が始まってしまう。みんな何を思っているのか、一様に神妙な面持ちをしている。僕はというと今回襲われた二人の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"超高校級の大道芸人"舞田十司郎くん。

 

 

 

彼はいつも明るくて、みんなのムードメーカー的存在でもあり、平子さんが化学室に入っていた事について頭ごなしに責め立てるのではなく、冷静に状況を見極めようと行動できる人間だった。

 

 

しかし、何者かに殺されてしまった......

 

 

彼がどれだけの絶望を抱え、煙が立ち込める密室で死んでいったのか...

今の僕には到底分かり得ないことだ。

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

"超高校級の検事"平子華月さん。

 

 

 

繭住さんと何かと衝突することもあった彼女。しかし、それは僕らの為にコロシアイを起こさせないようにする彼女なりの行動だ。繭住さんだってそれはわかってる。化学室の件だって今日には説明をするつもりだっただろう。

 

 

しかし、何者かに襲われてしまった。

 

 

彼女の口からその真意を聞くことはおそらくこの学級裁判ではできない。一命こそ取り止めてはいるものの、未だ危険な状態にあることには違いないのだから。

今は一刻も早い回復を祈るばかりだ...。

 

 

 

 

そして

 

 

 

 

 

 

そんな僕らの仲間を二人も手にかけた犯人がこの中にいる...?

 

 

繭住さん、六車くん、桐崎さん、古畑さん、鮫島くん、萬屋くん、勅使河原さん、マオさん、赤星さん、氏家くん、鬼頭さん...

 

 

全員の顔を見渡す。

 

 

...覚悟を決めろ

 

 

この中に舞田くんと平子さん...そしてもしかしたら僕も襲った犯人がいる

 

 

それがわからないと、先日の貴志さんが殺された時のような処刑が僕らを襲う事になる。

 

 

 

 

必ず勝たなくちゃいけない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真実と嘘が渦巻き

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

希望と絶望が濫立する

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この命がけの学級裁判を...。

 

 

 




2章の捜査編が終わりましたー! 前回も言ったのですが、今回は捜査編を迷った挙句、二つに分けることにしました。その分文字数も少なくなりましたが、これぐらいが読みやすくちょうど良いのかなとか思ったり...

ということで次回からようやく学級裁判に入ります。お楽しみに!


それではまた次回お会いしましょう。

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