ダンガンロンパExtraWorld 〜砂漠のコロシアイ学園生活〜 作:magone
–––私は遂に辿り着いたのだ。喉から手が出る程欲した真実に。...すべきこともあと僅か。嘘吐きの人生もこれにて終焉。残るは罪を裁くのみだ。
「はい!大正解でェェェすゥ!! 超高校級の大道芸人である舞田十司郎クンを殺したクロは超高校級の秘書である桐崎雨城サンなのでしたー!! よくやったねオマエラ! 第二関門突破だよ! おめっとさん!!」
祝福なんか嬉しくない。
これから彼女に訪れる未来を考えると、とてもじゃないけどそんな気分にはなれない。
「桐崎さん...どうしてっすか...」
今にも消えてしまいそうな声で古畑さんが呟く。
「どうして...舞田くん達にあんなことをしたんすか...私は桐崎さんはそんなことする人じゃないって...人殺しなんてしないって信じていたのに......どうして...どうしてっすか!!」
「.......」
「桐崎さん!」
「.......」
「何か言ってくださいっすよ!」
問い詰める古畑さんと沈黙する桐崎さん。二人の間に流れる空気は、とても辛く、目を逸らしたくなる程のものだった。しかしそんなことは御構い無しと言わんばかりに割って入る影が一つ。モノクマだ。
「はいはい、そんな三流ドラマみたいなやり取りは良いからさ。時間も掛かるし。それよりボクが編集したスペシャルドラマ『ドキッ!行き当たりばったりの毒煙殺人事件』を見るといいよ!」
何を言ってるんだ? コイツは...。
「黙ってやがれクソ野郎。今は桐崎と話してんだ!お前なんかに構ってる場合じゃねぇんだよ」
「あれれ? いいの? これには舞田クンの生きてた最後の映像が残ってるんだけど〜?」
「...んだと?」
「わかったら大人しくして、部屋を明るくして、モニターから離れて見やがってくださいね! あっ! 一部ショッキングな映像が流れますので苦手な方はご注意ください!」
モノクマが編集した映像...十中八九、桐崎さんが舞田くんを襲った経緯が記録されているものだろう。ショッキングな映像と言ってるということはおそらく舞田くんが死ぬ瞬間もあるかもしれない...。
舞田くんの最期......果たして僕はそれを見ていられるのだろうか....。
「それじゃあ流すよ。再生中はくれぐれも静かにしてね!」
モノクマは何処からか謎のリモコンを取り出して、上部に設置された大画面に向けた。ボタンが押されると、数秒の砂嵐の後にどこかの誰かの部屋が映し出される。
そして、心の準備も整わぬまま、それは流された。
「...はあ。一体何がどうなってるんや」
舞田くんだ。どうやら映像は彼の個室の中の様子を映し出しているらしい。前も思ったけど、これってプライバシーの侵害じゃないだろうか。これじゃあ下手に部屋で変なこともできないな。いや別に変なことをしようなんて思ってないんだけどさ...。そんなことはどうでもいい。今はこの映像に集中しよう。
「クルトが毒を盛られたなんて信じられん......うーん...やっぱ平子ちゃんがやったんかな......いやまだわからん。明日直接聞こう。今はそれより」
舞田くんは、小脇に抱えていた何かを両手に持ち替えた。
「『改訂版・希望ヶ峰学園公式資料集』...。さっき図書室で偶然見つけたもんやけど、もしかしたらこれに何か重要なもんが隠されてるかもしれんしな...読むだけ読むか」
次の瞬間、"数分後"というテロップが入った。
どうやらベッドでその本を読んでいたらしい。
「なんやねんこれ。黒塗りばっかで何もわからんへん。ふざけんなや。人を馬鹿にすんのも大概に......ん? 何やこれ...DVD...か...?」
舞田くんが例の付属DVDに気付いた。
そのDVDを取り出すと、しばらくのち、考えに耽っていた。
そして、不意に立ち上がると、ため息混じりにポツリと呟いた。
「はあ。行ってみるか」
舞田くんはそう言うと部屋から出て行った。
目的地はおそらく視聴覚室。あのDVDを視聴しに行ったんだと思う。
誰もいなくなった部屋を映していた映像は再び砂嵐になると、今度はガラス工房を映し出した。そこにいた影は言うまでもなく、桐崎さんだった。
彼女は、黙々と殺人の準備を進めていた。状況から見てやはり当初のターゲットは氏家くんだったのだろう。ガラス工房なら何か異常があれば氏家くんを呼ぶのは何も不審なことじゃないし、スムーズに彼を罠まで誘導できたはずだ。
「カンカンカンカンカン」
「...ッ!?」
桐崎さんが何かに気付いた。それは夜の校舎に反響する音。階段を上る足音だった。
桐崎さんは、作業を中断し、ガラス工房から出ると、技術室の扉を少し開けて、廊下を確認した。
「......ッ!」
桐崎さんが舞田くんを視認した。
舞田くんはそのまま階段を登り続け、3階の視聴覚室に向かった。
再び画面が切り替わり、視聴覚室。
そこで一人、DVDを再生する舞田くんの姿があった。
数分後、DVDを見終わった舞田くんは徐に立ち上がると、DVDの取り出しボタンを押した。
「なんやねん。...なんやねんこれ。ふざけんなや。ふざけんなや! どないなってんねん外は世界は! お袋は?親父は?師匠は?...生きてんのか?...いやでもこの映像見る限り世界はもう...ということは..........」
暗闇に一人佇む舞田くん。世界が壊れゆく映像。そんな映像を見てしまったら誰だってこうなる。それぐらいリアリティを感じさせるものだった。
...僕はみんなと一緒にこの映像を見たから比較的すぐに冷静になれたけど、舞田くんは違う。一人であの映像を見てしまった。そんな彼がどんな心境になってしまうか、想像に難くない。
「...いやこんなん嘘や...嘘に決まっとる。ありえへんやんこんなん。...うん、きっとそうや。これは作りもん。そうに決まっとる!!」
不安を消そうと何度も自分に言い聞かせる舞田くん。その後、彼はそのDVDを視聴覚準備室にあったアニメのDVDの中に紛れさせた。
「と、とりあえず一旦ここに隠しとこう。こんなんみんなには見せられへん。例え作りもんでもこんなん見せるべきやない」
そう呟くと、舞田くんは視聴覚室を後にした。
階段を下り、1階まで来た彼を待っていたのは、たった今、校舎に入って来たことを装った桐崎さんだった。
「き、桐崎ちゃん? 何でこんなところにおんの?」
「舞田様こそどうしてこちらに? もしかしてガラス工房に御用でしょうか?」
「ガラス工房? なんで?」
「恥ずかしながら中々寝付けなくて、外の空気を吸うために宿舎から出たところ、校舎の2階、ちょうどガラス工房のあたりから煙が出ていたのを発見致しましたので、確認しに参ろうかと。てっきり舞田様がガラス工房で何か作業をしていたと思ったのですが、違うのですか?」
「いや知らんで。そんなん」
「そうですか。とりあえずわたくしはガラス工房を見て参ります。舞田様は如何されますか?」
「...俺も行くわ。女の子一人こんな薄暗いところに置いとかれへんからな」
普通なら疑うはず。多かれ少なかれ夜の校舎に一人で入ってきた彼女のことを。しかし、先ほどの映像のせいで判断能力が落ちているのか、彼女の言葉を疑う素振りは微塵も見せなかった。
「...ありがとうございます、舞田様」
「誰がおるかもわからん。何かあったらすぐ逃げるんやで?」
「...了解致しました。お気遣い感謝致します」
二人はそのまま2階の技術室内のガラス工房に向かった。中に入ると、既に煙が少しばかり立ち込めていた。
「煙は......どうやら
「了解致しました」
舞田くんは、溶解炉に近付くと、口を服で覆いながら、直せるかどうかを見ていた。
「...無理そうやな。俺にはどうにもならんわ。ごめんな桐崎ちゃん」
「...いえこちらこそ申し訳ありません」
「桐崎ちゃんが謝ることやないよ」
「謝って済むような話ではないということは重々承知しております。ですが、わたくしには...しなくてはならない責務があるのです」
「桐崎...ちゃん?」
「本当に...申し訳ありません!」
「バタンッ!!」
扉を閉める桐崎さん。
「ちょっと桐––」
「ガッシャァァァァァァァァンッ!!!」
凄まじい音と共に工具棚が横倒しにされた。
閉じ込められたと知った舞田くんは、焦って扉をこじ開けようとするが、ビクともしない。
事の重大さに気付いた彼は、必死に叫ぶ。
「桐崎ちゃん!! ここ開けて!! 早く!! 煙が充満してきてんねん!! くっ! 換気扇も動かへん!! このままやと一酸化炭素中毒になってしまうって!! 桐崎ちゃん!! 頼むからここ開けてって!! 桐崎ちゃん!!」
「......」
舞田くんの必死の呼びかけにも何も返さない桐崎さん。なおも呼びかけ続ける舞田くん。...しかし、それも長くは続かなかった。焦った舞田くんは、近くの吹き竿を手に取り、換気扇の穴に挿した。新鮮な空気を吸おうとしてるんだろう...そして、彼が吹き竿に口を付けた数秒後、舞田くんは咳き込むように吐血した。吹き竿に塗られた毒が回ってしまったんだ...。
「ゴホッ!! ゴホッゴホッ!! ....ハァ...ハァ...な...んで...こんな」
舞田くんは床に倒れこむと、大量の血を吐き出した。扉の向こうにいる彼女の方を見ながら、小さく問い掛けた...しかし、やはり何も返って来ない。
「ハァ...ハァ......? これ...は?」
彼の視線の先には僕がこの場所に忘れた小説『不可侵のライヤー』があった。
「........ハァ........ハァ.........」
舞田くんは、今にも崩れ落ちそうな指をその本に向ける。血の付いたその指で彼が最期に残したメッセージは、
「..............ハァ...........ハァ............し...にたくな...うっ............ハァ.......ハァ............し...しょう...............わり...ぃ...............................」
「......」
舞田くんは........そのまま動かなくなった。
それが分かったのか、桐崎さんは足早にその場から立ち去っていった。
その後、化学準備室にて平子さんの口を封じる為に例の毒を気化させていた。全ての準備が完了し、彼女は宿舎の自室へと戻った。
...そして、映像もそこで終わった。
桐崎さんが舞田くんを殺めた一部始終。
ある人は涙ぐみ、ある人は目を背け、ある人は怒りに震えていた。
「桐崎...マジでお前が舞田を........」
「...六車くん」
「許さねぇ」
声自体は小さかった。でもそれにはいつも以上の怒気が含まれていた。
「テメェが......舞田を......テメェがあああああああ!!!」
「六車くん!!」
六車くんは叫び、桐崎さんの胸ぐらを掴んだ。今にも殴りかかりそうな雰囲気だ。
思わず制止しようと彼の名を呼ぶが、僕の声は彼には届いていないようだ。
「...答えろよ桐崎!! 何で舞田を殺したんだよッ!! アイツは殺されるような事ぁ何一つやっちゃいねぇだろうがァ! アイツの未来を...奪う権利がお前にあんのかよ。...ふざけんなよ。ふざけんなよ桐崎ィ!!」
「......」
六車くんは今まで抑えていた怒りを爆発させた。思い返せば、舞田くんの死に一番ショックを受けていたのは六車くんかもしれない。六車くんにとって舞田くんはきっと気の許せる仲間になっていたんだ...。そしてそんな舞田くんが...あんなことに......。
「六車様もですか。...どうして皆様はそのように人を簡単に信じられるのですか。 数日間共に過ごしただけで、友人などと思えるのですか。...どうしてそのように憤れるのですか」
「テメェ何言ってやがんだ? 俺が聞きてぇのはそんなことじゃねぇ。何で舞田を殺したかって聞いてんだよッ!」
「理由...ですか。そんなの決まってるじゃないですか。ここから出るため...この何処かも解らない砂漠から抜け出すためですよ」
「だったら何だよ...! アイツが死んでも構わねぇって言うのかよッ!!」
「ここから出るためには仕方ないじゃないですか!! それがルールなんですよ!? 人を殺さなきゃここから出られない!!...もう小田切様という希望もないのですよ? 形振り構ってなんていられませんよ........舞田様にターゲットを変えたのは、氏家様より都合が良かったから、ただそれだけです」
「それだけってお前...舞田を殺しておいてそれだけかよ。一人の人生を奪っておいて...テメェは......何考えてんだッ!!!」
桐崎さんの胸ぐらを掴む手に力が入る。
するとその瞬間、桐崎さんの内ポケットから何かが落ちた。
「ズサッ」
「ん?」
視線を落とす。そこにはあったのは、一冊の古びた本だった。
「何だ?」
よく見るとそれは小説のようだ。微かに破れていたり、剥げていたりしている。まるで何度も何度も繰り返し読んだような、そんな感じがした。
その本のタイトルに目をやる。
「...『雨の降る城』.......」
それは、法島龍之介の3作目の作品、『雨の降る城』だった。
でも何故それを桐崎さんが持っている?
「どうしてお前がそれを持ってんだ?」
「......」
「桐崎さん...もしかして君の名前の由来って本当に–––」
「離してください!」
桐崎さんは六車くんの手を振り払って、落ちたその本を拾い上げ、大事そうに両手で抱え込んだ。
そして......。
「クルト様のお察しの通り、わたくしの名前、雨城はこの『雨の降る城』が由来...でございます」
落ちつきを取り戻したのか、桐崎さんの言葉にはあまり感情の起伏がなく、側から見れば至極穏やかなものだった。
「わたくしが.......このような凶行に及んでしまった理由を...皆様は聴きたいのでしょう?」
「...話してくれるの?」
「理解されるとは到底思いません。ですが、やはり話さないワケにもいかないでしょう...」
「.......それでも話して」
「...了解致しました」
桐崎さんは一瞬古畑さんを見たが、すぐに目を伏せた。...そして、ゆっくりと話し出した。
「わたくしは...この名前を授かった日からあの人を生かす為だけの
....これから語られるのは、彼女の名に込められた想いと彼女を凶行に走らせた呪いの物語だ。
小学校に上がったわたくしは、自分の名前が周りと比べて少し変わってることに違和感を覚え始めていました。雨の城と書いて
「...雨城。お前の名前は"この小説"が由来だ」
「小説...?」
法島龍之介・著『雨の降る城』
それがわたくしの名の由来だと言う。文学者の父のことだ。この小説に感銘を受けたからお前もこれぐらい人を感動させる人になってほしいとか、主人公の生き様が素晴らしかったからお前もこの主人公のように生きてほしいとか、凡その検討は付いていました。きっとその類だろう、と。
しかし、次に発せられた父の言葉に正直わたくしは自分の耳を疑いました。
「...負けたんだよ」
「え?」
負け? 何が?
全くもって意味が解りませんでした。
わたくしは、名前の由来を聞いただけのはずなのに、どうして勝ち負けの話になっているのか?
そう問いただすと、父は少しだけ伏し目がちになった。
「
素直にショックでした。わたくしはこれでも父のことは尊敬しておりました。何時間も書斎に籠り、本を書き上げる姿を見て、幼心にもカッコいいという感情が芽生えていました。しかし、そんな父がわたくしに付けた名前は、事もあろうにライバルの作品名。なんとも言えない感情に支配されたわたくしは、とりあえずその場から立ち去りました。
そして、しばらく一人で考えてみました。父がそこまでの想いを抱くに至ってしまった作品を書いた人物。自分の娘にまでそれに由来する名前を付けてしまうほどの影響を与えた人物。ずっとそのことばかり考えていると突然、わたくしの頭の中で一つの感情が芽吹きました。
その人に会ってみたい。
そんな気持ちが沸々と奥の方から湧き上がってきました。
その気持ちが一日...一週間......一ヶ月..........と過ぎていくにつれて次第に増してきて、ある時から止まらなくなりました。
会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。会いたい。
気持ちは募っていく一方でした。
そして、その気持ちがピークに達していたある日......。
父が他界しました。
自殺でした。書斎で首を吊って亡くなっていたそうです。遺書もありましたが、そこには自殺理由が明確にされてはいませんでした。
...わたくしは、父が自殺した理由に一つ心当たりがありました。そうです。法島龍之介の存在です。直接的な理由は不明でしたが、あの方が父の自殺に関係していることだけは明白でした。
しかし、それであの方を恨むことはありませんでした。寧ろ父をここまで追い込む作品を書く法島龍之介という人物に、わたくしの気持ちはより一層強いものになりました。
尊崇。
そんな言葉が相応しいでしょう。
恋愛感情ではありません。確かにわたくしはそう言ったシルバーなおじ様は大好きです。しかしこれは違ったのです。
わたくしはあの方を尊び、崇めていたのです。
そして、こう考えるに至りました。
"わたくしの全てをあの方に捧げよう"と。
あの方のお側で一生を尽くす。その為に何をするべきか、答えは決まっていました。
わたくしは、まず政治秘書をやっていた母から秘書の何たるかを学びました。そう。わたくしはあの方を秘書として支えていこうと考えたのです。
幸運なことにわたくしにはその才能に長けていたようで、中学生にして秘書業務を完璧に行えるまで成長しました。
高校生に上がると、わたくしの秘書としての才能を欲した多くの業界の方々からお声を頂くまでになり、そこで数多くの経験を積みました。有り難いことにわたくしの名前は、更に多くの業界の方のお耳にも入るようになりました。
そして、遂にあの方からわたくしを秘書として雇いたいというご連絡を頂きました。
...嬉しかったです。
全てが報われた気がしました。今まで積み上げてきた事は無駄じゃなかった。そう思うと自然と涙が溢れてきました。
数日後、法島宅にて。
わたくしは遂に法島様との対面を果たしました。
「君が...桐崎くんかい?」
「は、はい! 先刻ご連絡頂いた秘書の桐崎でございます!」
法島様は、既にご高齢でありましたが、今でも現役で、数多くの名作を世に出していました。
「これから宜しく頼むね」
「は、はい! 誠心誠意お仕えさせて頂きます!」
それからの日々は幸せそのものでした。
念願であった法島様を支える毎日はわたくしにとって至福の喜びでした。
しかし、そんな日々も長くは続きませんでした。
法島様が執筆中に倒れられたのです。
「ほ、法島様!!」
わたくしは急いで救急車を呼ぶべく、電話をかけようとしました。ですが、その時、法島様がわたくしの腕を掴み、こう言いました。
「呼ばないでくれ」
「な、なぜですか!?」
「私は、もうダメだ...それくらい分かる」
「そんなことありません!! 病院に行けばまだ間に合うかもしれません!!ですから!!」
「未完にしたくないんだ...」
「え.......」
法島様は何を仰っているのか?
「病院に運ばれて...死亡すれば......記録が残る.......そうなればもう...この作品を完結させることはできなく...なる...」
「ですが...どの道今の状態では...作品の完結は......」
「君が...この続きを書くんだ...」
「え?」
法島様は絞り出すような声でそう仰いました。
「頼む...桐崎くん...」
「で、出来ませんよ! そんな! わたくしが法島様の作品の続きを書くなんて!」
「頼むよ...ここで終わらせるワケにはいかないんだ...私にはその責任がある」
「責任って...」
「桐崎くん...私はね。人を死なせてしまっているんだ」
「え?」
その言葉を聞いてわたくしの脳裏には一人の人物が思い浮かびました。
わたくしの父です。
「私は彼に誓ったんだ...この作品だけは何としても...書ききってみせるって...未完の作品なんて残しちゃ......死んだ彼に申し訳が立たない」
「...法島様...まさかその"彼"って.......」
「桐崎くん...続きを......頼んだよ........」
「法...島様?」
「........」
「法島様...法島様!? 法島様!!!」
「ほ...う...島.......様.......? ....あああ.....あああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああ!!!」
法島様は亡くなられてしまいました......。
死なせてしまった人が誰かも仰らずに...。
わたくしは泣き叫びました。法島様の亡骸を抱えながら。
...そして、決意しました。
わたくしが法島様に代わって執筆するということを。
この日からわたくしは亡くなられた法島様の"ゴーストライター"になりました。
亡くなられた事実は秘匿しました。
それがいけない事とは存じております。しかし、法島様の願い以上に重要なことはありません。
法島様は普段から人にお会いになることは少なかった為、秘匿することは容易でした。
そうして執筆した作品...
それが『不可侵のライヤー』でした。
この作品は多くの反響を呼び、なんと日本ミステリー大賞を取るまでに至りました。
体調不良ということでメディア露出は避けていたので、法島様の死は隠し通すことができました。
この後もわたくしは法島様のゴーストライターを続けました。
そして、こうも考えるようになりました。
わたくしが、小説を書き続ける限り、法島龍之介という作家は生き続けることが出来る。
これがわたくしの存在意義。
"法島龍之介を生かす"
この為にわたくしはきっと、あの方の作品を冠する雨城という名前を授かったのです。
他の誰でもない。この名前を授かったわたくしにしか出来ないこと。
そう。
これはきっと神様の思し召し。
"法島龍之介を死なせるな"とわたくしに言っているのです。
だからわたくしは......法島龍之介を生かし続ける為ならば如何なることも行います。
例えそれが他人の人生を奪う結果になったとしても........。
「これがわたくしがここが出なくてはならない理由です」
桐崎さんの話が終わった。
...死んでしまった法島龍之介のゴーストライターをする。彼を死なせない為に。
それが彼女がここから絶対に出なきゃいけない理由だという。
「桐崎........」
そんな彼女に六車くんが詰め寄る。
「それだけなのか...? お前がここから出なきゃいけねぇ理由ってのは」
「...今お話ししたことが全てです」
「ふざけんなよ」
「六車様...」
「ふざけんなよ!! テメェ!!」
今にも殴りかかる勢いの六車くんを鮫島くんが止めた。
「離せよ!! 鮫島ァ!! コイツはこんな...意味の分からねぇことが理由で舞田を...舞田を殺しやがったんだぞ!!」
「落ち着くぜよ! 六車! ここで暴れても仕方ないじゃろ!」
「...元より理解されるなどとは思っておりません」
「くっ!」
桐崎さんの動機...確かにそれを全て理解することはできない。ゴーストライターをやり続ける為に人を殺すなんて、やっぱり間違ってると思うから...。
でもそれは桐崎さんにとって、きっと他の何を犠牲にしても完遂しなきゃいけない使命だったんだと思う。
最後まで味方だった古畑さんすら裏切ったことがその何よりの証拠だ。
「...桐崎さん」
「古畑様...」
「桐崎さんの...動機は全部理解は出来ないっす。でも...ここから絶対出なきゃいけないって意思だけは伝わったっす。だから一つだけ聞きたいんす。桐崎さんは...私たちのことをずっと.
..殺そうと考えていたんすか? ここから出る為に...」
桐崎さんは少し間を置くと、ゆっくりと話し出した。
「...ここに連れて来られて...体育館でこのコロシアイのルールを聞かされた時から、覚悟は決めていました。...しかし、小田切様がわたくし達を助け出して頂いた時点で、そのような考えは消え去っておりました」
小田切くん...。
「しかし、それも束の間でした。小田切様が貴志様に殺害されて以降、わたくしの脳内には再び"殺人"という二文字が過るようになっていました。そんな折のことでした。舞田様がパーティを開いたあの日、モノクマ様から届けられたメッセージを目にしたのです」
「ランダムに送られた真実...やっぱり雨城ちゃんにも送られていたのね」
桐崎さんはいつもの手帳を取り出すと、あるページを開いて見せた。
「走り書きで申し訳ありませんが、これがわたくしに送られてきたメッセージの内容でございます」
『オマエラの中に超高校級の才能を騙る偽物がいる』
偽物?
「偽物って...この中に?」
「嘘を言っている人がいるってこと?」
「しょ、小生は偽物ではありませぬぞ!? あのガラス細工が何よりの証拠です!」
「ぼくだって偽物じゃないよ! なんなら全天88星座を構成する天体を一つずつ言っていっても––」
「待て! 今は誰が本物で誰が偽物かなどの詮索はしなくていい! そのメッセージを受け取った桐崎が何を思ったのか、それが重要だ」
「そ、そうですな...取り乱して申し訳ないです」
鬼頭さんが大声で場を制した。取り乱していた氏家くん達もその声で落ち着きを取り戻していった。
...それにしても偽物か。裏切り者の他にそんな人物が? それか同一人物? ...いやまだこれらのメッセージが真実とは限らない。下手な考察は疑心を加速させるだけだ。するべきじゃない。少なくとも今は......。
「それで桐崎、それを受け取ってどう思った?」
「...正直に申し上げまして、これはわたくしのことだと思っておりました」
「え?」
「あ?」
「桐崎...お前は超高校級の秘書として希望ヶ峰にスカウトされたのではなかったのか?」
「いえ。確かに希望ヶ峰学園からは超高校級の秘書としてスカウトを受けました。しかしそれは表向きの話...本当に学園が欲しかった才能は私のゴーストライターとしての才能の方だったと考えていました。学園のスカウトマンの態度を見るにそれは明らかでした」
「ゴーストライターがバレていたってこと?」
「はい。一体何処で漏洩したのかは判りませんが、わたくしの事は全て把握してるようでした。故にわたくしはその事実を知る希望ヶ峰学園の口を封じるつもりでした。勿論殺し以外の方法で。しかし、この事はモノクマ様にも知られてしまっていた。わたくしは焦りました。これは一刻も早くここから脱出しなければならない、と」
希望ヶ峰学園は桐崎さんがゴーストライターであることを知っていた?
でもだからって、桐崎さんが才能を騙っていたってことになるのか?
それを聞こうとした瞬間、モノクマが先に口を開いた。
「何か勘違いしてるようだから先に言っちゃうけどさ、桐崎サンは正真正銘の超高校級の秘書だよ。そのゴーストライターの才能だって秘書としての業務に包括されているよ」
「つまり...桐崎さんは才能を騙ってはいないってこと?」
「そうだよ。桐崎サンはゴーストライターも出来る敏腕秘書ってだけの話。ただそれだけのことだよ」
「じゃあ一体誰が偽物なのよ!」
「それは言えないな〜。面白味がなくなっちゃうからね〜」
超高校級の才能を騙る偽物は、桐崎さんではなかった。少なくともモノクマはそう証言している。だとしたら桐崎さんはあの情報に振り回されてしまったってことなのか。
「そうでしたか。わたくしの事ではありませんでしたか...。しかし、遅かれ早かれ実行はしていたので、それの真偽は比較的どうでもいいです。影響はしましたが、直接的な動機ではありませんので」
そう言うと桐崎さんは、モノクマの方を向いた。
嫌に礼儀正しく、姿勢を正して。
そして、次の瞬間。
「き、桐崎さん!?」
桐崎さんはモノクマに向けて膝を突くと、そのまま額を地面に擦り付けた。
「お願い致します。お見逃しください。どうか...この通りでございます!」
「ちょ、桐崎」
見てられない。...いつも冷静で凛としていた桐崎さんが.......あろうことかモノクマなんかに頭を下げて、命を乞うなんて...。
「何でも言うことをお聞きします。ですから! どうか命ばかりは! 命ばかりはお助けください! わたくしはここで死ぬワケにはいかないのです!」
「ふーん」
あまり興味を示さないモノクマ。
しかし尚も頭を下げ続ける桐崎さん。
それを呆然と眺めることしかできない僕ら。
異常とも言える時間が裁判場に流れる。
「それで? 具体的にボクに何してくれるのさ?」
「命を助けて頂けるなら、何でも致します。...お望みとあらばわたくしの体も好きにしてくれて構いません」
そう言うと桐崎さんは、自ら上着を脱いだ。
「ダ、ダメっすよ!! そんなことしちゃダメっすよ!!」
それを見兼ねた古畑さんがブラウスのボタンにまで手を掛けていた桐崎さんに飛び付き、無理矢理その行為を止めさせた。
「止めないでください!古畑様!わたくしは!こんな所で処刑されるワケにはいかないのです!」
「それでもダメっすよ!! こんなことしたってモノクマが桐崎さんを許すはずないっす!!」
「そんな事解らないじゃないですか!もしかしたらこれでモノクマ様も気持ちを変えるかもしれ––」
「桐崎さん!!!!!」
古畑さんは、今までで一番大きな声を出して、桐崎さんの言葉を止めた。
「私の目を見てくださいっす!!」
「ふ、古畑様...」
「もうこれ以上、自分を壊すのはやめてくださいっす」
「自分を壊す? わたくしが?」
「そうっすよ!」
古畑さんは桐崎さんの両頬を掴むと無理矢理自分に目を向けさせた。
「わたくしは...ただ...自分が生き残る方法を模索してるだけで......」
「桐崎さんだって気付いてるはずっす! こんなことしたって無駄だってことぐらい! わかってるはずっす!」
「しかし...」
「しかしも何もないっす! 本当にそれでいいんすか!! モノクマに頭を下げて、命乞いをする最後で本当にいいんすか!!」
「......」
「桐崎さん...私は桐崎さんのことをまだ友達だと思っているっす。例え桐崎さんがそう思っていなくても」
「古畑様...」
「だから桐崎さんに...こんな最後なんて......許さないっす!!」
古畑さんの言葉で少しずつ桐崎さんの顔の緊張が解れていく。
「私は桐崎さんが好きっすよ。尊敬もしていたっす。器用で何でも出来て、美人で、言葉使いも丁寧で...でもおじ様の話になると目の色が変わる桐崎さんのことが...私は大好きっす」
「......わ、わたくしは...古畑...さまに酷いことを言ったのに...どうして?」
「確かに傷つきはしたっす。でもそれが何なんすか。友達なら傷付けてしまうことの一つや二つあるっすよ。そして、それを許すこともまた友達っす」
「ふ、古畑.......さ....」
「だからもう...頑張らなくていいんす......」
「わた...くしは......あれ? おかしい...ですね...何でこんなに...涙が.......わたくしに...そんな...権利は...ない...だから...絶対に泣かないと...決めていたのに........」
「大丈夫っす...泣いていいんすよ...泣く権利のない人間なんてこの世にはいないっすから」
「...ああ、ああああ、あああああ....あ、あああああああああああああぁぁぁぁぁぁああああ」
それは桐崎さんが初めて見せた涙。
古畑さんと抱擁しながら泣く桐崎さんを全員が何も言わず、その光景を眺めていた。
彼女はこの中で一番大人びて見えていたけど、本当はこの中で一番幼い心を持っていたのかもしれない。
父親の言い付けを守り続ける子供のような、そんな純粋な心を。
「よっこいしょういちっと! よーし! じゃあそろそろオシオキの方行っちゃいますか!」
「古畑様.....うっ....わたくし...死にたく...ないです......」
「桐崎さん...」
「でも...古畑様まで巻き込ませるワケにはいきません.......それだけは出来ません!」
「うっ!」
桐崎さんは両手で古畑さんを突き飛ばした。
「......本当に...ありがとうございました.......」
「き、桐崎さん!! 私は」
「今回は"超高校級の秘書"である桐崎雨城サンの為に、スペシャルなオシオキを用意しましたっー!」
二人の会話は、モノクマの無情な言葉で遮られた。
「では、張り切っていきましょう! おしおきターイム!!」
「古畑様......このようなわたくしの事を大切に思ってくださり、本当にありがとうございました。来世がもしあるのなら、その時こそわたくしは古畑様と"本当の友達"になれることを心より.............願っております」
彼女は最期に笑顔でそう告げた。
そして、モノクマがハンマーでボタンを押し、その後に現れ出た首輪が桐崎さんを捕らえた...。
そして、二人を引き離すように無情にも桐崎さんを裁判場外へと連れて行ってしまった...。
残された古畑さんは、誰もいない場所に手を伸ばすと、大粒の涙を零しながら、一人......
「き、桐崎さあああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!」
絶叫した。
桐崎さんが連れてこられたのは、薄暗いどこかの個室。明かりが点くとそこには、一台のデスクと一脚のワークチェアがあり、そのデスクの上には、ノートパソコンと二つの謎の注射器が置いてあった。
「うっ!!」
ワークチェアに無理やり座らされる桐崎さん。そしてその瞬間、彼女はワークチェアに身柄を拘束された。辛うじて動かせるのは、胸から上の部分だけだ。彼女は必死にそこから抜け出そうと抵抗している。するとノートパソコンが突然起動した。光り出したPCの画面にはこう映し出されていた。
「...何をする気ですか?」
パソコンの画面は自動でそのまま下にスライドした。
そこには彼女がさせられる"指令"が記されていた。
それを見た桐崎さんの口角が少し上がった。
もしかしたら生き延びれるかもしれないという可能性に希望を見出したのだろうか。
「...わ、わかりました。やります。やらさせていただきます......」
震える指をPCのキーボードに置こうとしたその時、奥の壁がピカッと光った。堪らず手で目を覆う桐崎さん。少しその手を退かすと、見えてきたのは、巨大な一枚のガラス板だった。どうやら隣の部屋と桐崎さんのいる部屋がそのガラス板で仕切られているようだった。隣の部屋の明かりが点いたため光ったと感じたようだ。
そして、その奥。ガラス板の奥にある"品々"に僕らを含めた全員が目を奪われた。
「何...ですか.......どうして...どうして法島様の遺品がここにあるのですか!!!!!」
桐崎さんの発言から恐らく隣の部屋にあるのは法島龍之介の遺品。原稿の山、万年筆、桐崎さんを含めた家族写真...そして桐崎さんが先程まで持っていた『雨の降る城』もそこにあった。全部で15個もある。
どうゆう事かと困惑していると、再びPCの画面が勝手にスライドした。
※ドラッグによる副作用に関しましては、当方は一切の責任を負いません。
「意欲...向上のため...遺品を...燃やす? どうして...そんなこと......」
桐崎さんはモニター越しでも分かるくらいに動揺していた。
そんな中、部屋に入る影が一つ。和服に身を包んだモノクマだ。ヒゲまで生やしており、まるで文豪のような出で立ちだ。そのモノクマが袖口から何かを取り出した。
「それは...砂時計?」
モノクマは取り出した砂時計をそのままデスクの上に置いた。上から下に流れ落ちていく砂粒。それは執筆の合図に他ならなかった。
「はっ!!」
桐崎さんは急いでキーボードを叩きだした。物凄い速さでタイピングしていく彼女の姿はさすがは超高校級の秘書の風格を醸し出していた。
しかし、1分後
古びた万年筆が燃えた。
「い、いや...いやあああああああぁぁぁぁぁぁぁああああああああぁぁぁぁぁぁあああああ!!!!」
桐崎さんの絶叫を聞くにその燃やされた万年筆が彼女にとってどんなものだったのか...想像するのは簡単だった。
必死になってタイピングを続ける桐崎さん。
しかし、時は無情にも彼女を追い詰める。
1分後、また遺品が燃やされた。
その1分後もそのまた1分後も次々と遺品が燃やされていった。その度に桐崎さんの絶叫が部屋中にこだまする。
追い詰められた彼女の視線の先には、例の執筆スピードを向上させることができる薬が入った注射器があった。
...桐崎さんは注射器を
躊躇わず腕に刺した。
「ぐあああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁああああああ!!!」
喉から血が出るぐらい声を上げる桐崎さん。その声から察するにあの注射器が身体に与える影響は相当なものなんだろう。これで執筆のスピードが本当に上がるのだろうか?
桐崎さんは、息を荒げながらもキーボードを叩き続けた。確かにタイピングのスピードが速くなったように見える。
しかし、残酷にも時間は進み、次から次へと彼女の大切にしていた遺品が燃やされていく。
彼女は涙目になりながら執筆を続けた。
そして、時間は5分を切った。
「はぁ、はあ、はあ....駄目だ...このスピードじゃ到底間に合わない......」
徐々に絶望に支配されていく彼女は、再びもう一つの注射器を見る。
だめだ。
これ以上あの薬を身体に入れるのは危険だ。モノクマの作った薬だ。どうなるかわかったものじゃない。
しかし、そんな僕の思いも虚しく
彼女は、二本目の注射器を腕に打った。
「あああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁああああああああああ!!!」
凄まじい絶叫。その目からは血涙が流れ出している。それでも彼女は、キーボードから手を離そうとしなかった。
12分経過...
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ...」
13分経過...
「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ...」
14分経–––
「出来た...出来ました!!! 」
笑顔で写る桐崎さんと法島一家の写真が燃えていく中、彼女は完成を叫んだ。
幸い最後に残った『雨の降る城』は燃えずに済んだんだ。
「勝った......勝ったのです。わたくしは勝ち取ったのです!! 見ておられますか法島様!! わたくしはやり遂げたのです!!! あはははははははははははははははは!!!」
勝利の咆哮を上げている桐崎さんをよそに、モノクマは彼女の書き上げた小説を読んでいる。
そして...
「うん! 確かに書き上げてるね!! 合格だよ!」
モノクマがそう言うと桐崎さんを縛っていた拘束具が解けた。
「や、やりました!! これで––」
「でもこんな駄文じゃとても法島龍之介の小説とは呼べないね〜。残念だけど、罰としてこうさせてもらうよ」
「え」
モノクマがどこかに合図を送った次の瞬間
『雨の降る城』に火が付けられた。
「や、やめてええええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇええええええええええええええ!!!」
彼女は、ワークチェアから立ち上がり、絶叫を響かせながら眼前で燃やされている宝物に近付こうとしている。しかしガラス板がそれをさせない。
「そ、そんな...いや...こんなの...い......
うっ!!」
息の詰まったような声を上げると、彼女は胸を押さえながら、床に倒れこんだ。
「.....あ........あ...........いや............こんな...................」
手足が痙攣して、口からは泡を吹いており、目の焦点は定まっていない。やはりあの薬が影響してるんだ......。
「...........」
そして数秒後、彼女は完全に絶命した。
それを見ていたモノクマは、彼女が執筆した小説の最後に勝手に一文を加えた。
––––こうして彼女は文字通り
「エクストリィィィィィィィィィィィィィィィィィムウゥゥゥゥゥゥゥ!!!」
「いやあああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!」
モノクマの咆哮と古畑さんの絶叫が裁判場内に響き渡る。
「...いやだよ...もう...こんなの...」
「クソ.......」
「桐崎.......くっ!」
...桐崎さんも処刑されてしまった。
貴志さんの時と同じだ。惨すぎる。ここまでやる必要なんてないはずだ!
なのにコイツは...!!
「うぷぷ。これで桐崎サンは文字通り
気持ちが悪い。今にも吐きそうだ。こんなことがまだ続くと考えるだけで寒気が止まらない。
「桐崎さん.......」
古畑さんは、残された桐崎さんの上着を手に取ると、その場に座り込んだ。
「...うっ...う...あ......あああ...ああああああああああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああ!!!」
桐崎さんの上着を胸に抱えながら、彼女は泣き叫ぶ。
「ひどいわ。こんなの。始めから生かすつもりなんかなかった癖に」
「うぷぷぷ...さあどうだろうねぇ」
「悪魔が」
悪魔。そうだ。コイツは悪魔だ!
こんなこと...人ができることじゃない!
「......の、野々葉ちゃん、大丈夫?」
「...マオちゃん.......ごめんなさい私...一番近くにいたのに...桐崎さんのこと......何もわかっていなかった.......ごめんなさい.......」
「........野々葉ちゃんが謝ることじゃないわ」
マオさんに支えられながらゆっくりと起き上がる古畑さん。そしてその後、彼女は僕ら全員に向けて、語りかけるように話し出した。
「桐崎さんは......信じてもらえないかもしれないっすけど、みんなのこと凄く気にかけていたんす......ご飯だって...みんなの何が好きで何が嫌いなのか全部把握してて...みんなが美味しくその日のご飯を食べられるように...一所懸命工夫したりしていたっす...。知ってるっすか...桐崎さんって納得できる料理が作れた時は少しだけ笑顔になるんすよ」
古畑さん...。
「よく言うよね〜」
「何だよモノクマ」
「いい? 桐崎サンは人殺しなんだよ? それもここから出るためなら誰だって殺す血も涙もない冷酷な殺人鬼。怖いよね〜。"殺すことができるなら誰でもよかった"なんて薄情もいいとこだよ。なのにそんな桐崎サンをよく庇えるよね〜。古畑サンだって殺人の罪を危うく着させられかけたってのにさ」
「モノクマ黙れ」
モノクマは古畑さんに向けて更に言葉を畳み掛ける。
「彼女はただの人殺し。しかも理由は死んだ小説家のゴーストライターを続けるため。こんなくだらないことで殺されたり殺されかけたりした舞田クンたちが可哀想だよ。古畑サンは何が言いたいのさ? 桐崎サンが実はいい人だって言ったって今更誰も彼女に同情なんてしないよ。あんな異常者、殺されて当然––」
「その口を閉じろと言っているんだ!!」
え?
モノクマの言葉が突然途切れた。振り向くとそこには、片手でモノクマの首根っこを掴んで持ち上げている鬼頭さんの姿があった。
「鬼頭さん?」
「ちはる...?」
「鬼頭! 何やってんだお前!」
モノクマに対する暴力は校則違反っていうことは鬼頭さんだって解ってるはずだ。
なのにどうして!?
「あれれ? 鬼頭サン、この手は何かな? 学園長のボクにこんなことしてただで済むと思ってるの?」
「何を言ってる。私はただお前を"持ち上げている"だけだ。お前に暴力を振るった覚えはない」
「うぷぷぷ。そんなのボクの判断でいくらだって暴力扱いにできるのに、鬼頭サンも危険なことするよね〜。よほど癇に障ったのかな?」
「お前がその不愉快な口を閉じないからだ」
「鬼頭お前やめろ。それ以上そいつ怒らせるな」
「お前には関係ない。黙っていろ」
六車くんの制止も聞かず、尚もモノクマと対峙し続ける鬼頭さん。
さすがに危険だ。いくら鬼頭さんでもエグイサルたちが出てくれば太刀打ちできない。
一体どうすれば...。
「鬼頭サン...君は本当に暴力的だね。聖職者とは思えないよ」
「お前に言われる筋合いはない」
「女の子なのに神父さんみたいな格好してさ。それって元はお兄さんのものなんでしょ?」
「...だからどうした」
鬼頭さんの声色が少し変わった。
お兄さんのもの? 確かに鬼頭さんは女の子にも関わらず、シスターではなく、神父の格好している。そこまで気にもしなかったが、何か理由があるのか?
「別にどうもしないけどさ。ただちょっと思っただけだよ」
「...何を?」
「鬼頭サンは昔と何も変わらない。やんちゃしていた頃と何もね。そんなんだから"お兄さんを死なせちゃう"んだよ。自称エクソシストの鬼頭ちはるサン」
「......貴様」
一体...何の話をしてるんだ?
お兄さんを死なせた? どうゆうことなんだ?
いや今はそれより鬼頭さんだ。明らかにさっきより動揺している。このままだとまずい!
「鬼頭さん!! ダメだそいつに手をあげちゃ!!」
「鬼頭!! 馬鹿な真似はよせ!! 殺されちまうぞ!!」
「ちはる!!」
「うぷぷ。それともこう言った方が適切かな? 兄殺しの鬼頭ちはるサン」
「...ッ!? き、貴様ああああああああああああああ!!!」
「馬鹿野郎!! 鬼頭よせ!!!」
「鬼頭さん!!」
鬼頭さんのもう片方の拳がモノクマに向けられている。
もう間に合わない。
またモノクマに仲間が処刑されてしまう。
そんなことが頭に過った。その時だった。
誰かが鬼頭さんの腕を掴んだ。
「ハァ...ハァ...ハァ.....何、してるの...鬼頭さん...!」
平子さんだった。
激しく息切れをしながらも鬼頭さんの腕を掴んでる。鬼頭さんも驚いたのか、モノクマの首から手を離した。
「平子...」
「平子さん!!」
平子さん...生きてたんだ...良かった...本当に良かった...!でも様子を見るにまだまだ本調子じゃないようだ。
「平子...アンタどこから出てきたの?」
「ハァ...ハァ...部屋に...閉じ込められてて...ロックが...解除される音が聞こえたから...部屋から出て...壁伝いに歩いてきたら.....ここに」
学級裁判が終わったから平子さんを閉じ込めておく理由もなくなったから解放した、ということなのか?
「ハァ...ハァ...ハァ...桐崎さんは? どこにいるの?」
「そ、それは......」
「.......」
「...桐崎さんは.....さっき私たちの目の前で...処刑されてしまったっす......」
「......そう」
平子さんは、どうやら全てを理解したようだ。
一瞬、悲しげな顔を浮かべるが、すぐに元に戻った。
「...それより平子、お前大丈夫なのか?」
「...ハァ...ハァ...とりあえず...峠は越えたって感じかしら...でもさすがに......まだ.......うっ」
「平子!」
体にまだ力が入らないのか、左右によろめき出すと途端にバランスを失い、そのまま倒れ––
「.........え?」
「全く...世話かけるんじゃないわよ」
彼女を助けたのは、繭住さんだった。
繭住さんは、倒れそうになった平子さんの腕を掴み、それを自分の肩に回した。
「どうして...なぜ貴女が...私を......?」
「...確かに私はアンタを犯人だと思ってた。クルトも舞田もアンタが襲ったって思ってた。でも違った。バカなのは私だった。クルトはアンタのおかげで命を救われたのに、私はアンタを...」
「...繭住さん」
「...今回ばかりは私が悪かった。謝るよ」
「...ふっ...貴女が私に謝罪?...大雪でも降るのかしら」
「でも平子、アンタも悪いよ。一人で全部背負い込んでさ、いい加減にしてよ。何もわからないじゃない! ちゃんと言ってくれなきゃ何もわかんないよ!」
「.......」
「だから次からは、少しは私たちも頼って。一人で何でも解決しようとしないで。これはアンタだけが抱えていい問題じゃないのよ...」
「...泣いてるの?」
「泣いてない!」
繭住さんは涙を目に溜めながら、どうにか泣かないように必死に堪えていた。
平子さんの前では泣きたくないのかな。
「あまり無理をするな」
「...鬼頭...さん」
鬼頭さんは、もう片方の腕を取り、自分の肩に回した。
「...とりあえず無事で良かった。何もされてないか?」
「.....ええ...大丈夫よ...」
「そりゃ良かった。...ありがとう。私も少し頭に血が上っていたようだ。お前があの時止めてくれなければ私は...」
「...ハァ...気にしないで...結果何もなかったんだし...うっ!!」
「もう喋るな平子。繭住、とりあえず保健室に運ぼう」
「うん。わかったわ」
「ならあたしも行くわ」
平子さんを抱えた繭住さんと鬼頭さん、それとマオさんは、一足先にエレベーターに向かった。
「野々葉、大丈夫...?」
「......う、うん...大丈夫っす..........一人で...歩けるっすから.........」
古畑さんは、ゆっくりと立ち上がると、力ない足取りでエレベーターに向かう。その手には桐崎さんの上着が大事そうに抱えられている。
すぐにも倒れてしまいかねない彼女を見兼ねて、赤星さんがその後を追った。
「古畑さん......」
「アイツには時間が必要だ。...いや俺ら全員にかもな」
「そうかもしれないね。...六車くんは...その...」
「心配しなくてももう荒れねえよ。...目の前であんなもん見せられたら嫌でも冷静になるわ」
鬼頭さんの件か。
「はあ。今日は色々あった。...少し早いが、部屋に戻って休むとするわ...」
...とりあえず僕もここから出よう。
そう思った矢先、不意に萬屋くんに声をかけられた。
「...クルト君...」
「ん? 何?」
「...みんなに...大事な話があるんだ。後で食堂に来てくれないかな...?」
「大事な話?」
「...うん...」
萬屋くんは、いつもより真剣な表情をしている。何かを決めたような、そんな顔だ。
大事な話か。一体なんだろう?
「わかったよ、萬屋くん。後で食堂に行くよ」
「...ありがとう...」
そんな話をした後、残る全員も裁判場を後にした。
少し時間が経った後、萬屋くんに言われた通りに食堂にやって来た。
「...誰もいない」
無人の食堂。とりあえず適当な椅子に座ることにした。
すごく、静かだ。
...あっそうか。
いつもは桐崎さんが出迎えてくれたから、食堂で一人ってことはなかったんだ......。
「うっ......」
寂寥感に襲われる。
思えば、最初の学級裁判の翌日、ここで僕と舞田くんと桐崎さんで色々話してたっけ......。
––––––––––––––––––––––––––––––––––––
『お二方のお知り合いにいい感じにシルバーなおじ様はいらっしゃいますでしょうか?』
『そうやな。桐崎ちゃんのお眼鏡に適うかわからんけど、ええ感じの親父知っとるで』
『本当でございますか!?』
『ああ、そりゃもうイケイケやで、俺の師匠やねんけど、婆さん達や若い子からも人気があったから』
『ご、ご紹介頂いても?』
『おう、ええで。師匠もいい年こいて独身やし、問題もないやろ』
『か、感謝致します! 舞田様!』
『お、おう! ならまずはここから出なあかんな!』
『ここから出た時の楽しみが増えました。本当にありがとうございます!』
––––––––––––––––––––––––––––––––––––
.....あの日、二人が交わしていた会話が脳内でフラッシュバックする。
記憶の中の二人はとても楽しそうだった。
...もうあの二人とは、二度と会えないんだ。
そう思うと自然と涙が零れ落ちる。
僕は誰もいない食堂のテーブルに一人突っ伏して、ただひたすらに、泣いた。
–––雨上がりには未だほど遠い。しかし、ここで諦める訳にはいかない。雲の切れ間から光芒が照らし出されるその時までは、決して足を止めてはいけない。真実に打ちのめされてはいけない。...信じることをやめてはいけない。
...残り12人
第二章『GHOST OF THE SECOND SIN』完
お待たせ致しました。二章もこれにて完結です。
おしおき編は長くなりがちですね。動機とかもありますし。
三章も固まり次第、順次執筆してあげていくつもりなので、その時は何卒本作をよろしくお願いします。
それではまた次回!