ダンガンロンパExtraWorld 〜砂漠のコロシアイ学園生活〜   作:magone

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第3章 『閉鎖的眩暈:デスゲームという名の絶望の淵において彼女の内宇宙に生じた希望』
第3章 (非)日常編 I


〜???、学級裁判後のエレベーター内にて〜

 

 

 

 

二度目の学級裁判が終わり、生き残った全員を乗せたエレベーターが地上へ向けて動き出した。

 

 

「.......」

 

 

...先程の学級裁判で超高校級の才能を騙った人物の存在がほのめかされた。それが誰なのか凡そ検討はついてる。

 

■■だ。■■以外いないだろう。

 

モノクマがどこでその情報を入手したのかは分からない。が、そんなことはどうでもいい。

問題は■■の正体が他の生徒にバレることだ。もしそんなことになれば願いは叶わない。

目的を果たすまではもうしばらくこの状態を維持しよう。幸運なことに■■の正体に勘付いた者はいない。

 

そう思案を巡らせていると、エレベーターが地上に着いた。

 

 

「.......」

 

 

さて、行くか。

 

大願成就の為に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

新たな悲劇の足音が彼らのすぐそこまで迫りつつある。

 

 

 

 

しかし避けることはできないだろう。

 

 

 

 

まだまだ"デスゲーム"は終われない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第3章『閉鎖的眩暈:デスゲームという名の絶望の淵において彼女の内宇宙に生じた希望』

開幕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜クルト、食堂にて〜

 

 

二度目の学級裁判を終えた僕らは萬屋くんの呼びかけにより食堂に集まっていた。しかし全員出席とは行かず、そこに平子さんとマオさん、それと古畑さんの姿はなかった。

 

 

「...平子さんの容態は...?」

「とりあえずは大丈夫みたいよ。少し貧血気味らしいけど命に別状はないみたい。今は保健室で静かに眠っているわ」

「足立はその平子に付き添っている。大丈夫だとは思うが、あんなことがあった後だ。平子に万が一があった時のために保健室に残ってくれている」

 

 

マオさんがここにいない理由はそういうことか。...ともかく平子さんに大事がなくて良かった。しかし無事とはいえまだ気は抜けないかもしれない。下手をすれば命を落としかねない毒を吸ってしまったんだ。余談を許さない。

...早く元気な姿が見たいな。

 

 

「...赤星さん、古畑さんの様子はどうだった...?」

「野々葉は......凄く落ち込んでたよ。雨城が死んじゃったことにすごくショックを受けてたみたい...」

 

 

...仕方ない。古畑さんはこの中で一番桐崎さんと仲が良かった。そんな彼女があんな酷い殺され方をしたんだ。当然だよ。

 

 

「野々葉はその後自分の部屋に帰ったよ。千歳のことは伝えてない。今日だけは......今日一日だけはそっとしておいてあげたかったの」

「...そう。わかった...古畑さん達3人にはまた後で伝えることにするよ...」

「まあ、それはそれとしてですぞ。萬屋氏は小生らを集めてまで話しておきたいこととは一体何なのですかな?」

「...それは」

「ちょっと待て」

 

 

話し始めようとした萬屋くんの言葉を遮ったのは六車くんだった。彼はテーブルを叩き、注目を集めると全員に向けて話し出した。

 

 

「話を始める前に一つ聞いておきてぇことがある」

「...何...?」

「鬼頭、テメェのことだ」

「.......」

「おい、聞いてんのか」

「聞こえている。だから喚くな。耳障りだ」

「あ?」

「ちょ、ちょっと! こんな時まで喧嘩しないでよ! 六車、話したいことがあるなら早く話して」

「チッ。さっきの一件のことに決まってんだろ!何だよ...兄殺しってよ」

 

 

兄殺し...それはモノクマが鬼頭さんに向けて放った言葉だ。どういう意図を持ってアイツがこんなことを言ったかわからないけど、その後の鬼頭さんの様子からして彼女にとって許し難いことには違いないだろう。

 

 

「お前には関係ないだろ」

「関係ねぇってワケにもいかねぇだろ。危うく校則違反で殺されるとこだったんだぞ? お前が何であそこまで逆上したか知んねぇがよ、モノクマに手ぇあげるなんて正気じゃねぇよ」

「...確かに少し冷静さを欠いていたのは事実だ。だがもうあんな挑発には乗らない」

「どうだかな。それにそれだけじゃねぇ。もし兄殺しの件が本当ならよ、お前はつまり人殺しってことだろ?」

「私は兄貴を殺してない...あれはモノクマの虚言だ」

 

 

確かにモノクマの言うことは僕らに配られた真実のように本当であるという確証はない。それは鬼頭さんの件も同じだと思う。

しかし、ただの虚言なら鬼頭さんがあそこまで怒る理由は何だ? モノクマの言うことを信じるワケじゃないが、全く一切関係がないことでもないと思う。

 

 

「まあ結果的には無事だったんだし、これ以上は追及しなくてもいいんじゃない」

「小生もその方がよいかと思いますぞ。モノクマ氏の言ってることに確証がない以上、仲間割れを誘発させる為の虚言と考えるのが妥当であるかと」

「確かにその可能性の方が高ぇが、だったら鬼頭があれだけ取り乱した理由は何だよ」

「...語るべき時が来れば語ろう。ただこれだけは信じて欲しい。私は決して兄貴を殺してない」

 

 

鬼頭さんの真剣な眼差しが僕たちに突き刺さる。

"鬼頭さんはお兄さんを殺してない"

今はこの彼女の言葉を信じよう。

 

 

「...じゃあ、そろそろ本題に入ってもいいかな...?」

「ああ、もういいぞ」

「...それじゃあ、言うね。...落ち着いて聞いて欲しいんだけど」

「うん」

 

 

萬屋くんの前置きに緊張が走る。次の彼の言葉を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...砂漠に...出ようと思うんだ...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え?

 

 

「砂漠に出るって...つまりここから脱出するってこと?」

「...そうなることが望ましいね...」

「で、でもよ萬屋、お前が言ったんだぞ? この砂漠は危険だって」

「...うん、確かに危険だと思う...全員で砂漠越えは難しい、と思う。...でも僕一人なら...」

「た、確かに萬屋氏は超高校級の探検家ですし、小生らよりは幾許か可能性はあると思いますが.......もしやこの為に昨晩、砂漠の調査を?」

「...それもある...夜の砂漠がどれだけ気温が下がるのか知りたかったし...このドームの大きさも把握しておきたかったから...」

「成る程そうでしたか」

 

 

砂漠に出る。

そう聞いてはじめに思い浮かんだのが、小田切くんの姿だった。みんなにコロシアイをさせない為に一人砂漠に向かおうとした小田切くん。彼ははじめから砂漠越えを成功させようとは考えてなかった、と思う。しかし、今回はそうじゃない。萬屋くんは本当に砂漠越えをしようと動いているんだと思う。

 

 

「萬屋は出来ると思うの?」

「...わからない...でも砂漠自体は初めてじゃない...ある程度の知識はある...けどこればっかりは行ってみないことには...」

「そっか...」

「...それに...これは僕の予想だけど、この砂漠は僕らが思っている以上に広いと思う...。...食糧等の兼ね合いもあるし...多分、何度かここに戻ってくると思う...どちらかというと調査の延長線上だと思ってくれたらいいかも...」

「でも、だとしても一人で行くってのは流石に危険なんじゃないかな...? もし何かあった時に対処できる人間が必要なんじゃない?」

「それに関しては心配いらん。わしも萬屋と共に砂漠に出て行くき」

 

 

え?

 

 

「えっ鮫島も行く気なのか!?」

「ああ」

 

 

決意めいた声で鮫島くんは肯定した。

 

 

「...僕は一人でいいって言ったんだけど...」

「そう言うワケにはいかん! 皆も言うとるじゃろ? 一人じゃやはり不測の事態には対処できんぜよ」

「...でも...」

「おまんの言いたいこともわかる。探検家でもないど素人の奴が一緒にいちゃあ、寧ろ足手まといになると思っとるんじゃろ? やけどわしならその心配はいらん。見ての通り体だけは丈夫じゃきのう」

「...鮫島君.......」

「ここが落とし所じゃと思うがのう」

 

 

萬屋くんは少し考える素振りを見せると、小さな溜息を一つ付いた。

 

 

「...はぁ...仕方ないね...そういう方向で話を進めよう...砂漠の調査にも付き合ってもらったしね...」

「おう! よろしく頼むぜよ!」

「...みんなもそれでいいかな...?」

 

 

萬屋くんがみんなに同意を求めた。

 

 

「ま、まあ俺はいいけどよ...」

「...私も異論はないけど、本当に大丈夫なの? もしかしたら遭難するかもしれないんだよ?」

「...遭難はしないように細心の注意を払う...だから大丈夫...」

「で、でも」

「心配はいらないだろう」

「勅使河原...」

「萬屋千歳は七大陸最高峰の山頂と北極点及び南極点に高校生の時分で到達した逸材だ。そんな彼が砂漠に出ても大丈夫だと言っているんだ。信じてやる他ないだろ?」

 

 

確かに萬屋くんならこの厳しい暑さの砂漠から脱出できる糸口を見つけてくれるかもしれない。砂嵐とかの危険もあるとは思うけど、ここは彼の決断を尊重しようと思う。

 

 

「...みんな賛成ってことでいいかな...?」

 

 

その後も少しの議論はあったものの最終的には全員が萬屋くんの提案に賛成した。

 

 

「...それじゃあ僕は砂漠に出る為の準備をするよ........ふぁあ〜...」

「凄く眠そうだね。そういや二人は夜通しの砂漠調査の後に学級裁判に参加してたから...眠いのも当然だよね」

「...そう、だね...今日は準備が整い次第明日に備えて早く眠ることにするよ....一応朝早く出るつもりだからね......鮫島君も今日は休んでね...」

「わかっとるぜよ」

「...後は平子さんと足立君...それと古畑さんにこの事を伝えないといけないね...」

「マオと華月にはぼくから伝えるよ! 千歳たち凄く眠そうだし、それくらいならぼくにもできるから」

「なら僕は古畑さんに伝えに行こうかな。...あの後だからそっとしておいてあげたいけど、やっぱり萬屋くん達が砂漠に出ることだけは伝えたいし」

「...そう...わかった。古畑さん達に伝えることは二人に任せることにするよ...ありがとう...」

 

 

萬屋くん達はこれから砂漠に出る準備をしなきゃいけないから、これぐらいはしないとね。二人の負担は少しでも減らしたい。

 

 

「...僕から以上だよ...みんな集まってくれてありがとう...」

 

 

それからみんなは思い思いの時間を過ごすことになった。

六車くん達のように部屋に戻る者や赤星さん達のように平子さんとマオさんのいる保健室に行く者など人それぞれだ。萬屋くんと鮫島くんは砂漠に出る用意を進めている。

僕はといえば古畑さんの部屋に向かうべく、食堂の扉を開けていた。

 

 

「ちょっとクルト」

「繭住さん...?何かな?」

「私も行くわ。古畑のところに。やっぱり少し心配だしね」

「そっか...わかった! じゃあ行こうか」

 

 

僕は繭住さんと共に宿舎にある古畑さんの部屋へと向かった。

 

 

「ピンポーン」

 

 

インターホンを鳴らして数秒後...部屋のドアが開いた。

 

 

「...ふ、古畑さん?」

「......クルトくん...っすか? それと繭住さんも......何の用っすか?」

「古畑......」

 

 

彼女の頰には涙の跡がくっきり残っており、目も充血している。今の今まで泣いていた証拠だ。

 

 

「ちょっと...伝えたいことがあって......」

「伝えたいこと...?」

 

 

僕は萬屋くん達が砂漠に出ることになった経緯を全て古畑さんに話した。

 

 

「......そうっすか...萬屋くん達が...」

「伝えたいことはこれだけ...」

「教えてくれてありがとうっす.......そっか...みんなも戦い続けてるんすね...この世界と」

「古畑さん...」

「少しだけ待ってほしいっす。明日には必ず完全回復して戻ってくるっす。だから今日はこの辺で失礼するっす...みんなのご飯...作れなくて申し訳ないっす」

「そんな僕らの心配なんて大丈夫だよ。むしろ何か困ったことがあればいつでも言って! 必ず力になるから!」

「クルトくん...うん......嬉しい言葉っす。ありがとうっす!」

 

 

古畑さんはそう言うと部屋の扉を閉めた。

 

 

「古畑さん...」

「古畑、ずっと泣いてたんだね」

「うん」

「...私たちがしっかりしなきゃだね」

「そうだね...」

「クルトはもう部屋に戻る?」

「今日はそうしようかな。やっぱり色々疲れたし」

「クルトは病み上がりみたいなものだからね。しっかり休みなよ。じゃあまた明日ね」

「うん。また明日」

 

 

僕は繭住さんと別れると自分の部屋に戻った。後から聞いた話では平子さんは鬼頭さんが部屋まで運んだらしい。平子さんの容態は徐々に回復しており、明日には復活できるようになるらしい。

本当に良かった...。今夜はとりあえず安心して眠ることができそうだ。夜になってベッドに横になると疲れが溜まっていたのか瞬く間に眠りに落ちた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜勅使河原祈里、自室にて〜

 

 

 

「............眠い」

 

 

柄にもなく早起きなどするものではないな。睡眠量が著しく少ない。昨晩思うように寝付けなかったことも要因していると思われるな。

...まあ良い。睡眠は後で好きなだけ取れば良い。それより今は彼らを見送りに行かねばならない。

 

私は適当に支度を済ますと、自室の扉を開けた。

 

 

「ガチャ」

 

 

「あっ祈里ちゃんじゃないの〜。おはよ」

「...足立猫か。おはよう」

 

 

どうやら足立猫と鉢合わせたようだ。

 

 

「いやでも本当に珍しいわね。祈里ちゃんが早起きなんて」

「出来ることならベッドに沈んでおきたかったのだがな」

「まあお見送りぐらいしたいしね。...祈里ちゃんはさ、千歳ちゃんのこと心配してる?」

「心配...はしていない。萬屋千歳はこういう事に関してはプロだ。その彼が決めたことだ。間違っても遭難などということにはなるまい」

「千歳ちゃんのこと信じてるのね。さすがはお似合いのカップルだわ」

「カップル?」

 

 

カップルとはもしやアベックのことか。私と萬屋千歳はそのような関係性なのか。知らなかった。

 

 

「まあカップルというより、親子みたいな感じって言えなくもないけどね。千歳ちゃんがお父さんで祈里ちゃんが娘みたいな? 背丈的には逆っぽいけどね」

「いや親子ではない。それは確実に言えるぞ」

「物の例えよ。変なところで頭が硬いんだから〜」

「何だ例え話か」

「そうよ。でもあたしはやっぱり二人はお似合いだと思うから、恋の相談ならいつでも乗るわよ」

「恋...? 私は萬屋千歳に恋なるものをしているのか?」

「あの〜祈里ちゃんは恋ってしたことあるの?」

「それが分からない。概念は知っているのだが」

 

 

足立猫はそれを聞くと、腕組みをしながら難しい顔をした。それほど難解な問題を提示したのだろうか。

 

 

「と、とりあえず。祈里ちゃんにとって千歳ちゃんは大切な存在なのよね?」

「ああ。それは揺るぎない。私にとっての萬屋千歳は代え難い特別な存在だ」

「もはや告白に近いわよ、それ」

「そうなのか」

「こっちが恥ずかしくなっちゃったわよ。...まあいいわ、そろそろ行きましょう。もうすぐ出発の時間だわ」

「そうだな...」

 

 

足立猫と共に宿舎外に出る。そのまま砂漠へ通ずる扉まで行ってみると、既に多くの者がそこにいた。勿論、萬屋千歳と鮫島海の姿も。

 

 

「あっ勅使河原さんとマオさん!」

「まだ出発してないようね。間に合って良かったわ〜。ね? 祈里ちゃん」

「そうね」

 

 

二人は直射日光を防ぐための布を頭から被ってる。背中には食糧などが入っていると思われるバックパックを背負ってる。前に小田切電皇の亡骸と共にあった品と同様の物だろう。

 

 

「...萬屋千歳」

「...勅使河原さん...」

 

 

彼の名を呼ぶ。すると彼は私の目を見てくれる。

 

 

「寂しくなるな。君がいなくなると」

「...またすぐに会えるよ...」

「そう信じている。だが無理だけはするな。例え砂漠に手掛かりがなくとも私たちは君たちを責めたりはしない」

「...ありがとう...。...勅使河原さんもあんまりどこでも寝ちゃダメだよ? 寝るならせめて自室に帰ってからね...」

「善処する」

「...頑張ってね...」

「君たちもな」

 

 

私は萬屋千歳の差し出された手を握った。こうして触れるのは、舞田十司郎が主催したパーティ以来だな。

 

 

「海ちゃんも千歳ちゃんも気をつけてね」

「わしは体だけは丈夫じゃき、心配はいらんぜよ」

「...マオさんもありがとう...みんなも...。...それじゃあそろそろ行くよ...日があるうちに色々行動したいし...」

 

 

そう言うと二人は砂漠へ通ずる扉を開けた。

 

 

「...またね...」

「行ってくるぜよ!」

 

 

鮫島海は高々と拳を挙げた。その姿はまるで在りし日の小田切電皇のようにも見えた。

 

 

「気をつけてね」

「死ぬんじゃねーぞ」

「危険だと思ったらいつでも帰ってくるんだよー!」

 

 

...行ってしまった。

私にはただ彼らの無事を祈ることしかできない。

 

 

「行ってしまったね...」

「心配か?」

「う、うん...砂漠にどんな危険があるか僕には想像も付かないし...やっぱり心配だよ」

「そうか」

 

 

危険か。

しかし果たして本当に危険なのは学園(うち)砂漠(そと)、一体どちらなのだろうな。もしかしたらコロシアイを強要されている私たちの方が或いは.......いや今は口には出さないでおこう。余計な不安を煽るようなことはしない方が良いだろう。

 

 

さて。朝食でも食べた後に仮眠でも取るか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜平子華月、自室にて〜

 

 

朝の目覚めは良かった。昨日死の淵を彷徨ったとは思えないほどの清々しい寝覚め。ベッドから起き上がると少しばかり立ち眩みはしたものの、それ以外は至って平常だった。

 

 

「......行こう」

 

 

私は支度を済ませ部屋から出ると、砂漠へ通ずる扉に向かった。足立くんからは無理しなくていいとは言われてはいるが、萬屋くん達が命懸けで砂漠に出ようとしているのにそれを見送らないワケにはいかないと思ったから。

 

でも、そこにはもう誰もいなかった。

 

 

「遅かったのかしら」

 

 

どうやらもう彼らは砂漠に出て行ってしまったらしい。

...仕方ない。とりあえず食堂に向かおう。恐らくみんなそこにいると思う。

 

 

「ガチャ」

 

 

食堂に入るとやはりと言うべきか殆どの者がそこにいた。

 

 

「あっ! 平子さん! 体の方は大丈夫?」

「あ、うん。大丈夫よ」

「良かった〜! 本当に良かったよ! ね? 繭住さん!」

「な、何で私に振るのよ!」

「えっ。だって昨日あんなに」

「あら? 私のこと心配してくれていたの?」

「だ、誰が!」

 

 

繭住さんは顔を紅潮させるとクルトくんに詰め寄った。

...どうやら私はあの繭住さんでさえ心配させてしまったようだ。

 

 

「心配させたようね...ごめんなさい」

「ア、アンタが謝ることじゃないわよ...。毒を吸ってしまったのは仕方のないことだし」

「繭住さん...」

「それに謝るのは私の方だよ。私はアンタを犯人と決め付けてかかってた。そのせいで間違った結論に導きかけた。ここで改めて謝らせて...ごめんなさい」

 

 

まさかあの繭住さんが私に頭を下げるなんて...これは本当に大雪でも降るのかしら。

 

 

「頭を上げて繭住さん。貴女が謝る必要はないわ。これは学級裁判。相手を疑ってかからないと真実は見えてこない。それが例え殺人の容疑者だったとしてもね」

「平子...」

「はい。この話はここでお終いよ。...それで萬屋くん達はやっぱりもう行っちゃったの?」

「あ、うん。萬屋くん達ならついさっき砂漠に出て行ったよ」

「...そう。少し来るのが遅かったようね」

 

 

萬屋くんと鮫島くんがいないのはやっぱりそう言うことか。するとここにいないのは古畑さんのみか。

 

 

「古畑さんは...やっぱり昨日の一件で?」

「う、うん。憔悴しきってた。回復まではまだ少しかかると思う」

「そう。それも仕方な––」

 

 

「ガチャ」

 

 

 

突如、食堂の扉が開いた。振り返るとそこにはいつもの元気な笑顔を浮かべた古畑さんがいた。ただ一点だけ違ったのが桐崎さんが生前着ていた茶色いジャケットを身に付けていることだった。

 

 

「ふ、古畑さん?」

「皆さん! おはようっす! 古畑野々葉、完全復活しました! いや新生・古畑野々葉と言った方がいいっすかね!」

「だ、大丈夫なの? 野々葉ちゃん? それにその...服は...」

「あっこれっすか? どうすっか? 似合ってるっすかね!?」

「あ、いや...そういうことじゃなくて...どうして桐崎さんの服を着てるの?」

「どうして、ですかね.......自分でも分かんないんす。こんなことをしても意味がないって私も分かってるんすけどね。はは」

「...古畑さん」

「こ、これはあんまり気にしなくっていいっすよ! 単なる衣装チェンジだと思ってくれれば!」

 

 

...彼女が何故桐崎さんの形見である上着を着ているのか。理由は...あまり問い詰めない方がいいと思う。きっとこれは彼女にとってのせめてもの救い。いなくなった彼女を近くに感じることで精神の安定を保っているんだわ...。

 

 

「平子さんも元気になって本当に良かったっす!」

「貴女もね。古畑さん」

「はいっす!」

 

 

 

 

 

そんな会話をしていると例の声が突然聞こえてきた。

 

 

「やあやあ! 昨日はゆっくり眠れたかな?」

「モノクマ...」

「お前が出て来たっつーことはよ、また新しいエリアの解放か?」

「はいその通りでございますよー! 今回は校舎の4階の半分と体育館にある地下モノモノゲームセンターに行ける通路、そして新たにグラウンドに新施設を追加しましたっー!」

「ゲ、ゲームセンター? そんなものがこの学園の地下にあるの?」

「それに新施設って何? そんなものあったかしら?」

「うぷぷ。まあそれは見てからのお楽しみだよ! 分からないことがあればいつでもぷりちーきゅーとなボクを呼んでね!! それじゃあ〜ね!! オーヴォワール!」

「...どうしてフランス語なんすかね」

「古畑、ツッコんだら負けよ」

 

 

新しいエリアね。ま、予想はしていたけど、やはり学級裁判が終わる度に解放されていくってシステムらしいわね。

 

 

「それじゃあ行ってみましょう」

「今回は私が食堂に残ろう。ついでに仮眠も取らせてもらう」

「あ、そう。じゃあ他のみんなはそれぞれ探索ってことでいいかしら?」

「うん! いいよ! 今回はぼくも探索に行ってみるよ!」

「そうね。あたしも行くわ」

 

 

こうして三度目の探索が始まった。何も危険がないといいけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜クルト、校舎内にて〜

 

 

4階に上がると右側にあると思われる廊下は壁で塞がれていた。今はまだ解放されてないということか。

左手に行くと2階と3階と同じく無人の教室が並んでいる。特に何もないのかなと思っていると最奥に謎の扉を発見した。

 

 

「なんだろう、この部屋」

「放送室だよっー!」

「うわっ! びっくりした! あ、赤星さん?」

 

 

い、いつの間に後ろにいたんだ? 素で驚いてしまった...。

 

 

「そんなに驚いた?」

「ま、まあ少しね...えーと、放送室って言ってたっけ?」

「うん!」

 

 

よく見たら放送室と書いてある札が掛けてある。ここで立ってるだけのもアレなので、とりあえず扉を開ける。するとそこには既にマオさんと古畑さんがいた。

 

 

「衛ちゃんおかえり。あらクルトちゃんも一緒なのね」

「そこで偶々ね。マオさん達はここを調べてたんだね」

「ええ。でも多分普通の放送室だと思うわよ。一応野々葉ちゃんに色々見てもらってるけど」

「野々葉、何かわかった?」

「うーん。特別変な設備はないっすね。私の元いた高校の放送室と何も変わりはないっす。強いて言うならあれぐらいっすかね」

 

 

古畑さんは180度体を捻るとそこにある二つの扉を指差してそう言った。よく見ると片側の扉に大きくバツ印が描いてある。

 

 

「何? その扉?」

「バツ印の描いてある扉は鍵がかかってるので開かなかったっす。しかしもう片方の扉は普通に開いたので見てみるといいっすよ」

「あ、うん」

 

 

言われるがままバツ印が描いてない白い扉を開く。

 

 

「これは...」

「スタジオっすね」

 

 

そこには大きな備え付けのカメラと椅子とデスクが置いてあった。簡易的なニュース番組なら今すぐにでも撮れそうな設備が揃っている。

 

 

「もしかして...この学園の至る所にあるモニターでここで撮った何かを放送するなんてことができるのかな?」

「どうやらできるみたいっすよ。さっき試しに1度そこのカメラを回してみたんすけど、その時そこのモニターに映像が流れ出したんすよ。勿論このスタジオの映像がっすよ。だから多分っすけど、外のモニターにも同じような映像が配信されているんじゃないかと思ったんすけど...赤星さんどうだったっすか?」

「ばっちりだったよー!外のモニターにもここと同じ映像が流れてたみたいだよ!」

 

 

なるほど赤星さんが廊下にいた理由はこれか。それはそうとやはりこのスタジオのカメラは学園内にたくさんあるテレビモニターとリンクしているようだ。

 

 

「録画とかも出来るのかな?」

「どうっすかね? もしかしたら出来るかもしれないっすけど、今は何ともって感じすかね。色々試してみるっす」

「頼りになるよ。ありがとう古畑さん」

「えへへ。これぐらいしか取り柄ないっすからね。出来る限りやらさせてもらうっすよ」

「ぼくとマオも手伝うよー! ね?」

「そうね。クルトちゃんはどうする? ここはあたし達が居れば足りると思うけど」

「うーん...そうだね。僕は他の場所も見てみようと思うよ」

「そう。わかったわ。くれぐれも気をつけてね」

「う、うん。ありがとうマオさん」

 

 

僕は3人と別れ、放送室を出ると4階から降りた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

今度は体育館に来た。モノクマの話によると地下に通ずる場所を解放しているらしいけど。

 

 

「あっ。あそこかな」

 

 

体育館の奥に下に行ける小さな階段を見つけた。恐らく解放された場所はここだろう。

薄暗い階段を降りるとそこに広がる光景に目を奪われた。

 

 

「うわ! 何これ!?」

 

 

ありとあらゆる娯楽がそこにはあった。

レーシングゲームやクレーンゲームのような如何にもゲームセンターにあるような物は勿論、ボーリング場、カラオケボックス、果てはスケートリンクなどもあった。

 

 

「すごい...学園の地下にこんな施設があったなんて」

「驚きでしょ?」

「えっ? あっ、繭住さん」

「凄い充実っぷりよね。あっちにはカジノみたいなところもあったわ」

「確かにここは凄いね」

「ほんとにね。こんな状況なのにウキウキしちゃってる自分がいる。不謹慎よね。やっぱり」

「ウキウキするのも仕方ないよ。それぐらいの娯楽が揃ってるんだ。無理ないよ」

「私は浮かれすぎるのもどうかと思うけどね」

「平子さん?」

「まあアンタはどう見てもゲームセンターなんかには興味ないって感じだからね。実はゲームセンターとか行ったことないんじゃないの?」

「と、当然だ。そのような場所に行く暇も時間もない。無駄な時間を浪費するだけだ」

「やっぱりね。そうだろうと思ったよ。クルトはどうなの? ゲームセンターとか来たことある?」

「ゲームセンターか。あまり行かないけど、経験はあるよ。日本に来たばっかりの頃はたまに行ってたし」

 

 

でも最近は確かに行ってないな。誘拐される危険性もあったし。そう考えるとゲームセンター自体に来たのは凄い久しぶりな気がする。

 

 

「そんな話はいいから。とりあえずこっち来てみて」

「うん? 何よ?」

「いいから」

 

 

平子さんに連れられてやって来たのはある扉の前だった。

 

 

「何この扉?」

「分からないわ。一体何の扉なのか全くわからない」

「開かないの?」

「ええ。そうよ」

「次の新しいエリアの場所とかかな?」

「確かにそうかもしれないけど、何か引っかかるのよね。このゲームセンター内は一通り調べたけど、怪しいと思える場所はここしかなかった。実際何なのか分からないから何とも言えないけど、とりあえず頭には入れておいた方がいいかもね」

 

 

うーん。何だろう? 確かに少し気になるな。一体どこに通じてる扉なのだろう?

 

 

「私から知らせたいことは以上よ。私はもう少しだけここを調べるが、二人はどうする?」

「私もそうしようかな。気になるところもたくさんあるしね。クルトはどうする?」

「僕は...グラウンドに出来たって言うドームが気になるかな。そっちにも行ってみようと思う」

「そっか。じゃあまた後でね!」

「う、うん。また後でね」

 

 

不思議とテンションが高く見える彼女を横目に僕は地下モノモノゲームセンターを後にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グラウンドに出ると確かに奥の方に謎のドームが見える。近付いてみると宿舎と同じくらいの大きさだった。それなりにデカい。一体これは何なのだろう?

ドームの目の前にいる二人に聞くことにした。

 

 

「六車くん! 氏家くん!」

「ん? おっクルト」

「クルークハルト氏も来られたようですな」

「うん。やっぱり気になるしね。このドームは一体何なのかな」

「朗報だぜこりゃ。見てみろよ。この扉の上に書かれた文字を」

「文字?」

 

 

...確かに何か文字が書いてある。この施設の名前だろうか。

 

 

「えーと...........オアシス...ドーム?」

「オアシスだぞ!? オアシス!! これまで解放されたクソみたいなエリアに比べりゃ最高の場所だぜ」

「小生はガラス工房についてはまだマシだとは思いますがね」

「んなのは氏家しか使えねーじゃんか。だけどこれは違う。俺らが遊ぶことは勿論のこと、女たちの水着姿も見れるかもしんねーぞ?」

「み、水着!?」

「何だ? 全裸の方を想像してたか?」

「ち、違うよ! そんなワケないでしょ!!」

 

 

な、何を言ってるんだ!?六車くんは!?

 

 

「いやしかし見目麗しい女史たちのあられもない姿も実に良きですが、水着姿も見てみたいものですな〜」

「だろ? 分かるじゃねぇか氏家」

「何で共鳴してるの...」

「お前だって男なら分かるだろ? 勅使河原は言うまでもなくデカいし、繭住だって性格はああだが、ありゃ脱いだら相当だぞ? 平子も俺的に全然ありだな」

「分かります。分かりますぞ! 六車氏ィ! 小生としては鬼頭女史も中々良いと思いますぞ! あの祭服の下はきっと大きなものを隠し持ってるに違いありませぬぞ!」

「ああ、鬼頭な...まあそうだろうな」

「ん? まるで知ってるような口振りですな? ...まさか六車氏! 小生らが知らぬうちに鬼頭女史と不純異性こ––」

「んなワケねぇだろう!!! バカヤロウ!!! 何で俺があんな暴力オカルト女とヤらなきゃいけねぇんだよ!!!」

「まあまあ...六車くん...」

「チッ...あんな奴のことはどうでもいいんだよ。それよりこのドームだ」

「というか水着とかって言ってるけど、ここってどういう施設なの?」

「恐らく砂漠に突如現れたオアシスの如く緑が生い茂り、その中に水浴び場なる施設があると思わられますな」

「中は見てないの?」

「鍵がかかっているのですよ」

 

 

鍵が? そんな施設がどうして解放されたんだ?

 

 

「鍵がかかってるんじゃどうにもならないんじゃ」

「いやある条件をクリアすれば入れると思いますぞ」

「条件?」

「さっきモノクマから聞いたんだ。ここに入るにはな、地下モノモノゲームセンターの景品にある鍵をゲットすればいいんだ。そうすれば入れるんだとよ」

「地下モノモノゲームセンターの景品か...」

 

 

なるほどね。確かにそう言った景品もあそこならありそうだ。

...でも少し妙だな。何でわざわざ鍵を景品にしたんだ? そんなことする意味はあるのだろうか? うーん...モノクマの考えることはわからないな。ちょっとだけ警戒はしておこう。

 

 

「お前たち、ここにいたのか?」

「げっ! この声は...」

「おお! 鬼頭女史ではないですか」

「何しに来たんだよ」

「もう全員食堂に戻ってる。それを伝えに来ただけだ。さっさと報告会を開くぞ」

「わーってるよ」

「うむ。それじゃあ各々方ここは一旦食堂に戻りましょうぞ」

「そうだね。そうしようか」

 

 

僕らはオアシスドームから離れると食堂に戻った。

 

...今回解放された主な施設は放送室、地下モノモノゲームセンター、オアシスドームの3つか。オアシスドームに関しては鍵を入手しないことには入れないけど。

 

 

...前回みたいに新たに解放されたエリアが殺害現場になる、なんてことはないよね...?

今後こそコロシアイを起こさせない。もうこれ以上誰にも死んでほしくない。もう事件は起きないでくれ........。

少しだけ拳を強く握って心の中でそう願った。

 

 

 




創作論破では魔の3章なんて呼ばれている章ですが、果たしてうちはどうなることやら。

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