ダンガンロンパExtraWorld 〜砂漠のコロシアイ学園生活〜 作:magone
どうかよろしくお願いします。
「ん...ぐほっ...砂が喉に...」
「...鮫島君、頑張って...」
今、僕らは砂嵐に襲われている。視界は奪われ、眼前の状況すら満足に分からない。...まずいな。そろそろ日も暮れる時間帯だ。砂漠の夜はとても冷える。火を起こして、体を温めたい所だけど、この砂嵐じゃとてもじゃないけど無理だ。どこか火を起こせる場所があるといいんだけど...そんな都合がいい場所あるワケないし......砂嵐が治まるのを待つしかないか。
「...ん? お、おい萬屋...あれは...?」
「...え? 何かあるの...?」
「見えんか? ほらあれぜよ」
「...えーと...」
ゴーグルを掛け直し、鮫島君が指し示した方角に目を凝らしてみると、宙に舞う砂埃の中から見える黒い影が確かにそこにはあった。
「...あれは...」
正体は巨大な岩山だった。
...何かおかしい。今まで岩山はおろか礫程度の石すら見えなかったのに...急にこんなのが現れるなんて。
「どうするぜよ? 行くか?」
「...行くしかなさそうだね...」
怪しかろうと関係ない。今はこの砂嵐を避け、火を起こせる場所を確保しないと。
僕らはその巨影に向かって歩を進めた。そして肉眼でも視認できるまで接近するとあることに気が付く。それは洞窟の存在だった。岩山を穿つように大きく横穴が空いていたのだ。
「...入ろう。ここなら砂嵐も凌げる...」
警戒はしないといけないけど、火を起こさないと僕らの身が危ない。砂が入らない場所まで進むとバックパックからランタンを取り出し、火を付け、灯りを確保する。周囲を確認するとなんてことない石壁に囲まれてるだけだった。
「...ここなら火を起こせそうだね...早くしようか...日も暮れかけているし...」
「おう! 了解ぜよ!」
「...うん。火を起こした後はご飯にしよう...お腹も満たさないと...」
...その後、無事火を起こすことが出来た僕らは持って来た非常食でお腹を満たしていった。
そうこうしていると、洞窟外はすっかり暗くなっており、完全に闇の世界となっていた。
今日は疲れた。明日に備えて早く寝たいところだけど...。
「...今なら...」
ここならモノクマに見つからずに作業できるかもしれない。
僕はバックパックから敵に気付かれないように持って来た"それ"を取り出した。
「...ん? お、おい、萬屋...まさかそれは!?」
「...うん。小田切くんが付けていた"強化アーマー"だよ...」
彼の部屋に放置されていた壊れた強化アーマー。その一つ、右腕に装着するパーツを僕は密かにバックパックの底に忍ばせておいた。
「なぜそれを持って来とんじゃ? 壊れて使いモンにならんのじゃなかったのか?」
「...修理してみようと思って...」
「修理じゃと? そんなことが出来るんか?」
「...分からない...僕はそれほど機械には精通しているワケではないからね...。...でもこのラペリングロープを射出する装置のメンテナンスは僕がやってるんだ...。...だからもしかしたら構造さえ理解すれば直せるかもって...思ったんだ...完璧とまではいかないかもしれないけど...」
僕は腕に取り付けている装置を見せながらそう言った。
「...とりあえず解体してみるね...」
倉庫から持ってきた工具で小田切君の強化アーマーの解体を始めた。
彼が遺してくれた武器。もしかしたらこれがモノクマを出し抜くことができる希望に成り得るかもしれない。それほどの威力を僕らは目の当たりにした。あの機械の化け物ですら圧倒する力がこれにはある。さすがにコロシアイを止めるほどの事は出来ないけど、いつの日か役立つ時が来るかもしれない。
...とは言っても直せるかどうかもまだ怪しいけど。
「やれることはやるってことか。よし! わしも付き合うぜよ! 何でも遠慮なく言ってくれい!」
「...あ、ありがとう...でもまだ解体も済んでないからそれからなら色々と––」
「ミャーーーーーーーーン!!!」
え?
「な、なんぜよ!? 今のは!?」
「...なんだろう...洞窟の奥から聞こえてきたね...」
「風か?」
「...いや違う...」
「...見に行くか?」
「...うん...」
異音の正体を探るべく洞窟の奥へと向かった。
「気ぃ付けろよ。萬屋」
「...うん...わかってる...」
懐中電灯で暗闇を照らしながら奥へ進む。
するとそこに一つの小さな影を見つけた。
異音の正体はこれだろうか?
「萬屋...!こいつは」
「......」
「ミャーーーーーーーーン!!!」
そこに居たのは、ケガをしている尻尾が二股に分かれたネコと思しき謎の生物だった。
「うっ...うん...はぁ〜」
...もう朝か。
えーと...確か昨日は、ゲームセンターでオアシスドームの鍵を手に入れることには成功したけど、その頃には夜も遅く、オアシスドームを探索する時間はもうなかったからその場は一度解散となり、夕食を食べた後に各々自室に戻ったんだっけ。
「7時前か...」
そろそろ朝のモノクマアナウンスが流れる頃だ。また今日もアイツの声を聞かなきゃいけないのか。目覚まし代わりになるのはいいけど、こう毎朝やられると不快感が増していく。
...はあ。でも仕方ないか。
『オマエラ! おはようございます! 絶望ヶ淵学園が午前7時を––』
ん? 何だ? 突然モニターにノイズが? え?
『––お、成功したっすかね? ...ゴホンッ。皆さんおはようございます!っす! 古畑野々葉が午前7時をお知らせするっす!』
ふぇっ!? ふ、古畑さん!? どうして彼女がモニターに映っているんだ??? まるで朝の情報番組のような雰囲気だ。
『そこの君! どうして私がモニターに映って朝の情報番組のような雰囲気を出しているんだ? と思ったっすね?』
よ、読まれてる...。
『昨日見つけた放送室にあるスタジオを覚えているっすか? あれを活用したんすよ。もしかしたら朝や夜のモノクマアナウンスに割り込めるんじゃないかと考えたんすけど、無事成功したようっす!...あ、でも少しばかり遅れてしまったようっすね。まあ初回ですし、そのくらいは仕方ないっすね!』
『いや〜小生が準備に手間取ってしまった故に遅れてしまいました...。申し訳ない!』
『氏家くん! 今は本番中っすよ。喋っちゃダメっすよ!』
『これはこれは! 重ね重ね申し訳ございませぬぞ。どうか無能な小生をその透き通るような声で罵倒してくだされ!』
『えーと...後でね』
『なななんと!感謝致します!』
僕は何を見させられているんだ...?
『ゴホンッ。兎にも角にもこれでモノクマアナウンスに割り込めることが判明したっす! なので! 今日から私がモノクマに変わって朝7時と夜10時を知らせる放送を行いたいと思うっす! ...だから皆さん! 誘拐犯になんて負けないように頑張るっすよ!」
...ああ、これは多分、古畑さんなりに雰囲気を良くしようと頑張ってくれているんだ。コロシアイが起きないように...。
そして、桐崎さんが亡くなった直後だと言うのに悲しげな雰囲気を一切感じさせない明るく元気な声色。超高校級の放送委員。それが彼女の才能というのも納得できる。そんな放送でもあった。
『ではでは! 皆さん食堂で会いましょう! ご静聴ありがとうございました。っす!』
モニターが消えた。
すると室内が一気に静寂に包まれる。
...食堂に行こう。
「皆さんどうでしたか? 初放送にしては上手くいったとは思うんすけど」
「ビックリしたわよ〜。モノクマちゃんの声が聞こえてきたと思ったら急に野々葉ちゃんの声になるんだもの。寝呆けてるのかと思っちゃったわ」
「そうそう! でも朝から野々葉の綺麗な声聞けて嬉しかったよ! すっごい寝覚めも良かった! ありがとうね!」
「えへへ...綺麗な声なんて照れるっすよ〜」
「て言うかさ、氏家は何で古畑と一緒にいたの?」
「小生は古畑女史のお手伝いをしていたのですよ。番組とあらばカメラを回す役が必要でございましょう?」
「...古畑に変なことしてないでしょうね?」
「そそそのようなこと...この小生がするワケないですぞ! これでも小生、女史に虐められることは好きでも女史を虐めることは微塵も興味がないのですよ!」
「声高に主張することじゃないわよそんなこと!」
「へへ、私は大丈夫っすよ。何もされてはないっすから。それより今日の夜時間を知らせる放送もするつもりっすから、その時は氏家くん! またよろしくっす!」
「はい! 悦んで!」
古畑さん...昨日より少しだけ元気になったように見える。自分の才能を活かせる場所を見つけたからかな...?
「呼ばれてないけどジャジャジャジャーン♪」
「モ、モノクマ! 何しに来やがった!」
「何にしにいって? そんなこと決まってるじゃないか! 古畑サン! 朝のアレ! どういうつもりだよ!」
モノクマは両手を上げてぷんすかと怒りを露わにしてる。怒っているということは放送の割り込み行為はモノクマにとってやはり面白くないことなのか?
「あー...朝のアレっすね...あれは.....そう! モノクマが毎日毎日朝と夜にアナウンスを流すのは大変だろうと思って私にも何か手伝えることはあるかな〜と考えた結果の行動なんすよ!」
いやさすがに無理のある言い訳だ。というよりさっきの会話だってモノクマに聞こえているワケだからこんなことを言うのは寧ろ逆効果なのでは? そう思った。
しかし、そんな僕の考えとは裏腹にモノクマが発した言葉は意外なものだった。
「な〜んだ〜そう言うことだったんだね!」
これで納得するんだ...。
「ボクはてっきり放送をジャックされたのかと思っちゃったよ〜」
事実その通りなのだけど...。
「でもボクのことを心配してくれることは嬉しいけど、次からはボクに許可を取ってね! このアナウンスはとても大事なものだからね!」
「は、はいっす。次から気をつけるっす...」
「じゃあ暫くは任せたよ〜。というワケで朝と夜のアナウンスがなくて何かあってもそれは古畑サンの責任ということでヨロ〜!」
そう言うとモノクマはまた何処かへ消えた。
アイツはしばらく放送しないのか...。代わりに古畑さんが放送することになったみたいだけど...。
「古畑さん...大丈夫?」
「全然大丈夫っす! モノクマに言われずとも実行するつもりでしたっすし、それに久々に放送委員っぽいことが出来てちょっとだけ嬉しい...みたいな気持ちもあるんすよ」
色々思うことはあるけど、今はこれで良いのかもしれない。気を紛らわすってワケじゃないけど、今の彼女には何かに打ち込む時間が必要だと思った。
それに何より楽しそうだった。
屈託のない笑顔で答える彼女を見るとそう思わずにはいられない。
「ねぇねぇ、そろそろオアシスドームを見に行かない? みんな朝食も済んでるみたいだし。ぼく昨日からずっと気になってるんだよね〜」
「そうね。昨日は結局時間がなくて行けなかったし、私も早くオアシスがどんなものか確認したいわ」
オアシスか。想像がつかないこともないけど、確かにあのドームの中がどうなってるのか気になる。オアシスって言うぐらいだから水辺はあると思うけど...。
「よーし! じゃあ行こう!」
「行かなきゃダメか?」
「まあ一応確認の為にも見ておいて方が良いとは思うけど...」
「....わかった。行こう。眠気もあるが、未知の場所があるという事は何かと危うい」
「うん! じゃあ祈里も行こう! 待ってろよ〜オアシス〜!」
勅使河原さんを含む全員がオアシスドームに向かうことを承諾した。
赤星さんを先頭に次々と食堂から退室していく面々。僕もみんなの後を追うようにグラウンドに出て、そのままオアシスドームの扉の前までやって来た。
「それじゃあ、開けるわね」
「オープンセサミ〜!」
オアシスドームにやってきた。昨日、繭住さんが景品ガチャでゲットした鍵を使い、お決まりの言葉を叫ぶ赤星さんの声と共に扉を開ける。
すると、開くと同時に中から心地よい空気を外へ流れ出した。ゆっくりと中へ入ってみると、初めに目に飛び込んで来たのは涼しさを感じさせる緑とプールほどの大きさがある泉だった。その光景はまさに僕らの想像したオアシスそのものだった。
「おお! 中々良いじゃねぇか!」
「うーーーん!! すっごい気持ちいい空気〜!」
「確かにこれは気持ちいいね」
みんなこのオアシスに満足しているようだ。それもそうだ。このところ辛い目にばかり会ってきたんだ。殺し殺されの異常な生活の中でストレスも溜まりきっている。かく言う僕も...。だからこう言った空間は少なからず僕らの精神衛生を良くするんだと思う。
今の僕たちに一番必要なのは心の癒しなんだ...。
「で? この後どうする? まさかそのまま入るってことはないでしょ?」
「確か倉庫に水着があったはずっすよ」
「なら早く取りに行こう! ぼく泳ぎたくて泳ぎたくてうずうずしてるんだ〜」
「着替えはどうする?」
「そんな事はあとあと! ほら行くよ!」
「あっちょっと! 赤星さん!」
「衛ちゃん、急ぐと転ぶわよ!」
みんな次々とオアシスから出て行く。僕も行こう。僕に合う水着ってあるのかな?...まあ、あるだろうね。僕、体型とかは普通だし...。あまり派手じゃない物がいいなぁ。
そう思った時だった。
「うっ!」
「しッ! 静かにしろ」
「安心してくだされ。手荒な真似は致しませぬ故」
六車くんと氏家くんに捕まった。
口を手で塞がれ僕は、そのまま近くの茂みに連れ込まれてしまった。
「小さい声で話せ」
「ぼ、僕に何をする気...?」
「あ? 何もしねーよ。暴れるから口を塞いだだけだ」
「じゃあなんなの...」
「んなこと決まってんだろ? 氏家、言ってやれ」
「小生らはこれより見目麗しき女史たちが水着になる過程を拝見させて頂こうということですぞ!」
「それってつまり...着替えを覗くってこと!? ダメだよそんな!」
「おいおい暴れんな。大人しくしろ」
覗き...そんなことがバレたら繭住さん達のことだ。絶対ただじゃ済まないよ...。
しかし、そんな僕の思いはそっちのけで六車くんは続ける。
「クルトよぉ...お前だって女子の裸を見たいって思うことはあるだろう? 自分に正直になれよ」
「そんなこと言ってもダメなものはダメだよ!」
「良いじゃねぇか。減るもんじゃねぇし」
「ダメったらダメだよ!それに覗くったってどうするつもりなのさ...」
「ふん。良いだろう。話してやろうじゃねぇか。まず女共は水着を取りに倉庫に行くだろう? でもな、それに着替える場所がないんだよ。それに例え着替えたとしても水着でうろうろ出来るほど奴らは恥知らずじゃねぇはずだ。となると着替える場所は一つしかねぇ」
「え、それって...」
「このオアシスドームの中ですぞ!」
聞くと彼らの計画は、女子たちが倉庫から水着をこのオアシスドームに持ってくると見越して、着替えをこの茂みから覗こうという手筈らしい..,。
「やめた方が良いよ...。こんなことバレたらどうなるか...」
「何も襲ってやろうってワケじゃねぇんだ。心の癒しを得ようってだけだぜ...これくらいしたってバチは当たんねぇだろ」
いや確かに心の癒しは必要だって思っていたけど、こういうことじゃないからね!! 決して!!
...それからも六車くん達にやめようと説得してみたけど、聞く耳すら持ってくれなかった。
どうしてこんな事にだけ関しては鉄の意志なんだ...。
でも僕は覗きはしない。繭住さん達を裏切るような行為はできない。
僕はここから出て行こうと立ち上がった。すると六車くんに羽交い締めにされ、そのまま無理やり座らされた。
「おっとここから出すワケにはいかねぇな。計画を聞かれたからにはお前も共犯になってもらうぜ」
「そんな! 六車くん達が勝手に話してきただけなのに!」
「お、お静かに! どうやら戻って来たようですぞ...」
「えっ」
「タイムアップだ。大人しく共犯になれ」
くぅ...完全に出て行くタイミングを失ってしまった...。
「う〜〜〜ん! やっぱりここは気持ちいいね!」
「てかクルト達はどこ行ったの? さっきから姿が見えないんだけど? マオちゃん知ってる?」
「さあ? 知らないわ。クルトちゃん達の水着姿も拝んでおきたかったけどね〜」
「ねぇねぇ! 早く泳ごう! ぼく待ちきれないよ〜!」
「赤星さん、焦らなくてもオアシスは逃げないっすよ」
「眠い...うん眠い...」
「貴女はどうしてそういつも眠そうなの? 寝不足?」
「いや夜間の睡眠は9時間以上摂っている。寝不足だということは決してないぞ」
「だったら余計に心配よ...」
「そんなことはどうでも良いでしょ。こっちは早くオアシスに入りたいわ〜」
まずい。非常にまずい状況だ。どうすればいいんだ?
「そう言えば藍子の選んだ水着すごい可愛かったよね〜。ぼくは適当に選んじゃったから少し後悔だよ〜」
「ふふ。ありがとう。でも赤星の水着も赤星らしくて良いと思うわよ」
「そうかな〜」
「そうよ。ね? 平子」
「なぜ私に振る...。はぁ。うん。似合ってると思うわよ」
「やった! ありがとう二人とも!」
「それじゃあ早速水着になるっすよ! うへへ。楽しみっす...!」
「古畑野々葉、涎が出ているぞ」
「これは...非常に楽しみですな...」
「氏家、あんまり大きな声は出すなよ...」
他愛のない会話が繰り広げられてる。この隙にどうにか逃げられないかと思ったけど、羽交い締めされているこの状況がそうはさせなかった。
そして...。
「よし。じゃあ水着になろっか〜」
繭住さんが服に手を掛け始めた。
「おお...!」
「氏家静かにしろ!」
ダメだ。見ちゃダメだ。こんな変態みたいなことしちゃいけない...。
僕は着替えを視界に入れまいと思いっきり目を瞑った。
数秒後。六車くんの落胆の声が聞こえてきた。
「チッ。んだよ。既に下に着てんじゃねぇかよ」
え? それはどういうことだ?
僕は恐る恐る少しずつ目を開けた。そして目に入ってきたのはシャツの下に水着を着ている繭住さんの姿だった。
「倉庫でそのまま着替えていたのでしょうかねぇこれは」
「あ〜期待ハズレだぜ、チキショー」
「まあまあ六車氏、これはこれで良いではないですか。見てくだされ! 見目麗しき女史たちの素晴らしい水着姿を一望できるのですぞ〜。天国じゃないですか〜」
「ね? もうやめない? 今ならまだ間に合うよ...?」
「いやここまで来たら女子共の水着姿をじっくり拝んでやる! じゃねぇとこんな事までした意味ねぇよ」
はあ。でもまあ良かった。繭住さん達の裸を見てしまうことにならなくて...。
それでもこの状況はバレたら一巻の終わりだけどね...。
そうこうしている間も女子のみんなは水着姿になっていく。
「お? 繭住女史はパレオですか。いや〜素晴らしいですね〜。平子女史はワンピースタイプの水着! 花柄が可愛らしいですな〜。古畑女史は胸元にフリフリが付いてるタイプですな。うむ、これもまた良き...ん? な、なんと! 赤星女史はスク水じゃないですか! しかも旧式とは...失われた遺産がこんな所に...ああ! 最高の景色じゃないですか!」
「スク水とか興味ねぇよ。それより勅使河原を見てみろよ。パーカーの下で分かりづれぇかもしれねぇが、ありゃ白ビキニだぜ。しかもパーカー越しからでも分かる爆乳具合にスラっとした白い脚...やっぱアイツはスタイルだけは良いな。勿体ねぇ」
みんな水着似合ってるな...って何を僕は思ってるんだ!
着替えじゃないとはいえ、これは覗きに違いないんだ。見てはいけない気がする。これ以上見るのはやめよう。
ん? というかさっきから姿が見えない人がいるような...?
「それより先程から鬼頭女史の姿が見えないようですが、ここには来てないのですかね?」
「暴力オカルト女の事なんでどうでもいいだろ。あんな貧相な体、覗く価値もねぇよ」
「誰が貧相な体なんだ?」
殺気を...。背後から殺気を感じる...。
「その声は...」
振り返るとそこには鬼の形相でこちらを見てる黒ビキニ姿の鬼頭さんがいた...。
「ああ。そうだ。思い出した。お前って意外とデカいんだったな」
「ふん!!」
「ぐひゃああああああああ!!」
次の瞬間、鬼頭さんの拳が六車くんの鳩尾に抉り込んだ。
それと同時に何か終わった予感がした。
...それから覗きがバレた僕ら3人はオアシスドームから摘み出された。そして、しばらくオアシス出禁となってしまった。
「反省しなさい!未遂とはいえ、女子の着替えを覗こうとしたのは事実なんだし! クルトも...巻き込まれただけだとは思うけど、今回はそうさせてもらうわ。悪く思わないでね」
そう言うと繭住さんはオアシスに戻っていった。
「いや〜実に良い経験でしたな! 覗きがバレた後の女史たちの汚物を見るような視線! 堪りませんな〜! 六車氏! 今回はこのようなイベントに誘って頂き感謝ですぞ!」
「俺は後悔してるよ...まだ腹が痛ぇ。悪いが先に部屋に戻るわ」
六車くんはお腹を抑えながら、宿舎の方に向かった。
「羨ましいですなぁ。小生も鬼頭女史の鉄拳を受けたかったですぞ」
「1mmも共感できないよ...」
「そうですかな? まあ感性は人それぞれですし、それも致し方ないですな! それでは小生もこれにて!」
氏家くんもどこかへ行ってしまった。
宿舎に戻ろう...なんだかすごい疲れたし。
僕は六車くんに続くように宿舎に向かった。
はあ。普通に軽犯罪法違反よ。覗きなんて。
六車くんと氏家くんはともかくとして、まさかクルトくんまでそんな事に手を染めるなんて...。まあ大方巻き込まれただけだと思うけど...。
「はぁ〜〜〜。騒ぎは済んだようだな。なら私は一足先に眠らせてもらうよ...おやすみ.......zzz」
「勅使河原! こんな所にまで来て寝ないでよ...ってもう寝てるし。しかもこんな無防備で...」
「いひひっ。勅使河原さんのダイナマイトボディが目の前で布切れ一枚に...こ、これは例え胸を揉みしだかれたとしても文句は言えないっすよね! .......むっ! これは何という揉み心地...最高っす...! 天にも昇る気持ちっすよ〜!」
「そ、そんなに?」
「繭住さんも揉んでみてくださいっすよ...これは人類最高峰の逸品っすよ」
「...ホントだわ。これはすごい...気持ちいい」
ビーチチェアで眠っている勅使河原さんの胸を古畑さんと繭住さんが揉んでいる。
彼女たちは一体何をしてるのかしら......。
「あたしのことは気にしなくていいから楽しんでちょうだいね」
「マオいいの? せっかくのオアシスなのに」
「いいのよ。私はここで祈里ちゃんの隣に座っているから。何かあったら呼んでね」
「ふぅ...堪能したっす〜」
「そ、そうね」
「貴女たちは何をやってるの。ここに勅使河原さんの胸を揉みに来たワケじゃないでしょ」
「それもそうっすね。よし! それじゃあそろそろ遊ぶとするっすか!」
「そうね。じゃあ––」
「くらえー!」
「ぶあっ!!」
ん? 何かしら?
確認すると繭住さんが水で濡れていた。見回すとオアシスの方で水鉄砲を両手に構えた赤星さんを見つけた。
ああ。なるほど。そういうことね。
「へへーん! どう? 凄いでしょ? 倉庫にあったから持って来たの!」
「やったな赤星! 古畑、行くよ!!」
「ロリだろうが私は手加減はしないっすよ!」
「はははっ! ぼくに勝てるかな〜? 二人まとめて蜂の巣になるのが関の山だよ〜!」
...楽しそうで何よりね。
私もオアシスに入ろうかしら。
そう思い、岩場に腰掛けて足先を水に浸ける。
「んっ!」
気持ちいい...。心地よい冷たさが足先を支配していく。
しばらくはこうしていようかしら。
「どうだ? オアシスの具合は?」
「鬼頭さん? うん。ちょうどいいわよ。貴女も入ったらどう?」
「そうだな。隣失礼するぞ」
鬼頭さんも私と同じように足先だけ水に浸ける。そしてそのまま近くの岩場に座った。
座った衝撃で彼女の黒ビキニに覆われた胸がたゆんたゆんと上下に揺れる。
「......」
鬼頭さんって...意外と大きいのね...。いつもの祭服姿からはこんなにあるとは思わなかったけど、サラシでも巻いてるのかしら?
「ん? どうした?」
「い、いや何でもないわ」
勝手に比較して落ち込んでんじゃないわよ、私...。
「...体調は問題ないのか?」
「あっ...ええ。もうすっかり。死にかけたとは思えないぐらいよ」
「そうか。なら良かった」
「貴女の方はどうなの? すぐ手が出る癖は治った?」
「...痛い所を突くなぁ。...私の"これ"は昔からだ。キレてしまうとすぐ手を出してしまう。ただこれでも昔に比べれば良くなった方なんだよ」
鬼頭さんは握り拳を見つめながらそう言った。
「...でも偶に自制できない時がある」
「それがあの時...モノクマを殴ろうとした時ね」
「ああ。兄貴のことを言われて思わず...。平子が止めてくれなければ私も今頃、貴志や桐崎と同じ運命を辿っていただろう」
「鬼頭さん...」
「感謝はしてる。だからこそこんな場所からはさっさと脱出したいところだ。死ねば礼も出来ないからな」
彼女は小さな笑みをこちらに向ける。
その笑顔が何故か私の目には儚く映った。
「それに私に救いを求める人々をこれ以上待たせるワケにはいかない。こんなふざけたゲームは早い所終わりにしないと...。平子、お前は奴らの正体に本当に心当たりはないのか? 検事ならばそう言った事柄に詳しいと思うが」
心当たり...あると言えばある。
しかし...この状況は私の知ってる"人物"の犯行と著しく異なる。学級裁判によるコロシアイなんて私は知らない。
...だがもうことここに及んでしまっては隠していても意味はないか。
私はその"人物"の名を口にした。
「久礼爽」
「くれいそう? 何者なんだそいつは?」
「...拐って来た対象者たち同士を殺し合わせることを目的としたゲームを幾度となく開いてきた連続猟奇殺人犯だ」
「なっ!? そんな奴がいるのか!? 何故今の今まで黙っていた?」
「私たちを拐って来た誘拐犯と久礼爽は別人だと感じたからよ」
「何故そう言える?」
「その久礼爽の犯行は...こんな長期的なものではない。長くて1日。それが私が捜査資料で見た久礼爽の開くゲームの特徴。まして学級裁判などと言うシステムを使っていたという記録もない。これが理由よ」
「...しかし可能性はゼロじゃない。もしかしたらその久礼爽という奴が今回のコロシアイを主催してるかもしれない。そう思っているからこそ私にその情報を教えたのだろう?」
「...そう、かもね」
お見通しね...。
「その久礼爽って奴の顔とかは分からないのか?」
「...分からない。顔だけじゃなく年齢や性別すら...。それどころか捜査すらまともに行われていないって話もあるわ」
「何故だ?」
「さあ。でも名前が分かっているにも関わらず、未だに何の手掛かりも得られてないなんて、どこからか圧力がかかっているんじゃないかとは勘繰ってしまうわね」
「圧力か。何を考えてるか知らないが、全く困った話だ。...他に奴に関する情報はないのか?」
「うーん......そう言えば私の業界では久礼爽の話題を出す時に希望の高校生たちの俗称に準えられてこう呼ばれていたわ」
「"超高校級のゲームマスター"って」
「超高校級だと!? 久礼爽は希望ヶ峰学園にスカウトされていた高校生だと言うのか!?」
「いやこれはあくまでも裏で呼ばれていた隠語のようなもの。本当にスカウトされたワケじゃないと思うわ。...でも希望ヶ峰学園ならあり得ない話でもないとは思うけどね」
「過去には反社会的な才能を持った奴も入学してるからな。...しかし仮にも超高校級と呼ばれているという事は歳は私たちとさして変わらないのか?」
「そうかもしれないわね」
「高校生でそんなことをする奴がいるのか。...ん? なあ...
もしかして昨日話題になった超高校級の才能を騙る偽物ってのは...その久礼爽って奴の可能性はないか?」
「...確かに考えられなくはないわね。嘘を吐いてまで才能を隠しているということはそれだけ知られたくないことがあるってこと。正体が久礼爽って言うなら納得できる」
「そうなると久礼爽はデスゲームのゲームマスターにも関わらず、私たちと同じように誘拐されて、他の奴が主催するデスゲームに巻き込まれたってことになるな。随分と間抜けな話だ」
「...まあこれも可能性の域を出ない話よ。本当かどうか分からないし、偽物がいるってこと自体嘘ってこともあり得る。現時点じゃ証拠が少な過ぎるわ」
「推測でもしないよりはマシだ。真実に向かおうとしなければいつまで経ってもそこには辿り着けはしないのだからな」
彼女は足下の水面に映る自分自身を見ながらそう言った。
「さて。辛気臭い話はこれぐらいで良いだろう。今は精神衛生を保つことが必要だ。そうだな。あそこの連中にでも混ざってきたらどうだ?」
指差す先を見ると繭住さんたちが何やら楽しそうにしてる。
「ぬあっ!! ちょっと古畑! どこ触ってんの!!」
「あ〜いい揉み心地っす〜。張りがあって...勅使河原さんとはまた違った良さがあるっす〜」
「あっ! また野々葉がエッチなことしてるー! 成敗してくれるー!」
「混ざるって...アレに?」
「ああ」
「本気で言ってる? 私はあんな風に大声上げながら遊ぶタイプじゃないわよ」
「そうか? にしては昨日のレースゲームは随分と楽しく遊んでいたように見えたが?」
「...ッ!? 見てたの?」
「見てたというか、ゲームセンター内の全員に聞こえてたと思うが」
「...えッ!?」
なんてこと...私のレースゲームの時の声がみんなに...うう...恥ずかしい...。次からは一人で遊ぼう。
「さあ。行くぞ。ストレスは発散できる時に発散しておくべきだ」
「あ、ちょっと...!」
鬼頭さんに連れらるまま、私は繭住さんたちが水遊びを繰り広げている只中に放り込まれた。
...この後、私の胸に古畑さんが顔を埋めてきた話はあまりしたくない。
「はあ...」
僕は今、宿舎の一階にある共有スペースで一人水を飲んでいた。
あれから結構時間が経った。繭住さん達は今頃オアシスを満喫してるのだろうか。
「お、クルトじゃねぇか」
「六車くん...」
「そんな目で見んじゃねぇよ。悪かったってまじで」
片手で申し訳程度の謝罪のポーズをすると、六車くんは僕の隣の椅子に腰掛けた。
「まさか見つかるとはなぁ。計画に抜かりはなかったんだがな」
「懲りないね。六車くんも」
「あんなことで懲りてちゃ覗きなんてやってられねぇよ。まあ見てろ。次はうまくやってやるぜ」
「絶対にやめて」
「はいはい。もう巻き込まねぇから心配すんな」
あ、これはまたやる気だ。鬼頭さんに半殺しにされても知らないよ...。
「んなことより俺もオアシス入りてぇな」
「自業自得だよ」
「怒ってんのか?」
「少しね」
「だから悪かったって。あ、今度俺のサインくれてやるよ。どうだ?」
「いらない!」
「...喧嘩...?」
「おいおい何ごとじゃ?」
......え? 今の声はまさか...。
「 萬屋くん!? それと鮫島くんも...!!」
「お前ら、帰ってたのか?」
「...ただいま...」
「色々あって一度戻ってきたんぜよ」
二人とも無事に戻ってきたんだ...。良かった...本当に良かった...。
「...でもごめん...まだ助けは呼べてない...」
「そうか。まあ仕方ねぇよ。...それより俺は気になることがあるんだが、聞いてもいいか?」
「...いいよ...」
「萬屋、その頭に乗ってる"生き物"はなんだ?」
「ミャーーー」
ネ、ネコ? 萬屋くんの頭にネコが乗っている...。なんで?
「...岩山の中の洞窟で見つけたんだ...ケガをしていたから応急処置をして一度学園に連れて帰ってきたんだ...ネコ科の動物みたいだけど詳しくは分からない...」
「わしらじゃどうにも成らんし、足立に診てもらおうと思って連れて来た次第ぜよ。こんな状況でも見捨てるワケにはいかんしのう」
「ミャー」
萬屋くんに懐いているのか、頭のネコは甘えるような声を出している。
ん? このネコちょっと違和感が...え?
「尻尾が...二つ?」
「おいおいそれ猫又って奴じゃねーか? 妖怪じゃねぇだろうな」
「...いやそれはさすがにないと思うけど...」
猫又...確か日本の妖怪だっけ? 詳しくは知らないけど尻尾が二つに分かれたネコのことを言うのかな。
「詳しくは足立に聞かんと分からんな。動物と言えば獣医である彼奴に聞くのが一番じゃからのう。足立はどこにおるんぜよ?」
「あっそれなら今頃、オアシスに––」
「あたしのこと呼んだ?って千歳ちゃん? 海ちゃんも戻ってたのね!」
ベストタイミングでマオさんが宿舎に帰ってきた。その後ろには赤星さんや勅使河原さん、繭住さんや古畑さんの姿も見える。そして何故か氏家くんも。
「あら? 帰ってたのね」
「千歳! 海! おかえりー!」
「お帰りなさいっす! そしてお疲れ様っす!」
「おろろ? これは素晴らしい! 戦士の帰還ですな! 今宵は祝杯をあげましょうぞ!」
「...ありがとう...でもごめん...まだ助けは呼べてないんだ...次、出発する時には必ず...」
「焦る必要はないのよ。ゆっくり休んでね。二人とも」
みんなが萬屋くん達に労いの言葉をかけていく中、勅使河原さんがゆっくりと萬屋くんに近付いていった。
「萬屋千歳。戻っていたのか?」
「...うん...ついさっきね...」
「そうか。目立った外傷もないようで安心した。色々聞きたい事柄もあるが、とりあえず今は"おかえり"と言っておこうか」
「...ただいま...勅使河原さん...」
「ぬああ!! またこの空気間ですか!! まるで戦場帰りの夫を出迎える妻のようではないですか!! 熟年夫婦なのですか!? そうなのですか!? いやそうに違いないです!!」
「いや違うだろ」
氏家くんはとりあえず無視するとして。勅使河原さん、少し安心したような顔をしている。それもそうだ。あの砂漠から帰ってきたんだ。当然だよね。
「それよりさっきから気になってるのだけど、萬屋の頭に乗ってるそのネコなに?」
「ん? え? あ、ああああああああ!! な、なんでここにいるのおおおおおおお!?」
「...赤星さん...?」
赤星さんが突然叫び出した。驚いたような顔をしてネコを見つめている。
「この子...ぼくのネコだよ」
「え? 赤星さんのペットなの? この子が?」
「うん!! 名前はリンブルバット! どこにいたの?」
「...岩山の洞窟の中で...ケガを負ってるところを見つけたんだ...」
「ケガ!? あっほんとだ...。どうして? 大丈夫? リンブルバット...」
赤星はリンブルバットを優しく抱えると、悲しげな表情を見せた。
「マオ、リンブルバットが...」
「どれどれ診せてちょうだい」
マオさんはリンブルバットを近くのテーブルに置くと簡単な診察を始めた。
「うーん...どうやら外傷を負ってるだけで病気ってワケじゃなさそうね。大丈夫だわ。これぐらいならすぐ治ると思うわよ」
「ほんと!? やったー! ありがとう!!マオ大好き!!」
「あらあらこの子ったら。それにしてもこの子尻尾が二つに分かれているのね...」
「うん。そうなんだ。どうしてなのかな?」
「ネコちゃんは外敵から身を守る為に尻尾を自切することはあるのだけど、その過程で再生機能に問題が起こって尻尾が二つになっちゃうこともたまにあるのよ」
「へぇ。そうだったんだ!」
「一応、専門だからね。さあ、リンブルバットちゃんを保健室に連れて行きましょう。早く治してあげないと」
「うん! わかった!」
「ミャーーン」
赤星さんがリンブルバットを抱えたその時だった。
「あら。随分と賑やかだと思ってみれば、萬屋くん達が戻っていたのね」
宿舎の入り口近くに平子さんがいた。近くには鬼頭さんもいる。
「てっきり六車あたりがまた何かやらかしたのではないかと思も––」
「ん? 鬼頭さん?」
「おい。何でそいつがここにいる...!?」
ん? 何だ? 鬼頭さんの様子がおかしい。
「そいつ?」
「赤星が抱えてるそいつだ!! なぜここにいるんだ!?」
「え、リンブルバットのこと?」
「鬼頭。お前どうした?」
「ち、ちはる怖いよ...どうしてそんな顔するの?」
さっきとはまるで違う本物の殺気を纏っている。
本当にどうしたんだ? このネコがどうかしたとでも言うのか?
「そいつはこの世にいちゃいけない奴だ...そいつがいるだけで私たち全員に災いが降り注ぐことになる。故に––」
「
鬼頭さんはいつものメリケンサックを手に付けると、リンブルバットに向けて、攻撃体制をとった。
「き、鬼頭さん。貴女...」
「赤星、今すぐそいつを離せ」
「嫌だよ!! どうしてそんな酷いことするの!? この子は何も悪いことしてないのに!!!」
「そいつは兄貴を死に追いやった元凶だ!!今はなにもしなくてもいずれ災厄をもたらすことになるぞ!! 悪いことは言わん。早く離せ」
「嫌!!!」
「...そうか。ならば仕方あるまい。少々のケガは覚悟してくれ」
「強硬手段を取らせてもらうぞ」
強行手段?
「我は汝らに迫る災厄を退ける者。須く悪魔を滅ぼす者也。我が力は人を救う為。我が拳は悪魔を祓う為。正義を信じよ。我が浄化の銀拳にて彼の獣に身を窶す災厄を討ち滅ぼさん!!」
鬼頭さんは詠唱を始めると、そのまま赤星さんの抱えるリンブルバットににじり寄る。
「 悪魔がッ! この世から消え失せろ!!!」
「うぅ...!!」
「衛ちゃん!! 逃げて!!」
鬼頭さんの拳がリンブルバットを守るように抱く赤星さんに襲いかかった。マオさんの声がこだまする中、次に僕の目に飛び込んできたのは衝撃的なものだった。
「おい...テメェ何やってんだよ...!」
そこには鬼頭さんの攻撃を手で受け止め、赤星さんを守る六車くんの姿があった。その手からは血が流れ出ている。
「六車......そこを退け」
「何やってんだって聞いてんだよッ! テメェ、赤星を殴ろうとするなんてどういうつもりだッ!」
「言っただろう。赤星の抱く二股のネコのようなアレは悪魔だッ! 必ず私たちに災厄をもたらす...! 野放しにはしておけない」
悪魔...赤星さんのペットのこのネコが悪魔? どういうことだ...? 意味がわからない...。
「鮫島! 鬼頭を抑えて!」
「え...で、でも」
「早く!」
「は、はい!」
「くっ! 離せ鮫島...! 奴は今すぐにでも滅さなきゃいけない存在なんだ!! なぜ分からん!! そいつは生かしてちゃいけないんだッ!!」
「あ、暴れんといてください!! 鬼頭さん!!」
「海ちゃん、そのままちはるちゃんを抑えてて」
そう言うとマオさんは白衣の下から何かの薬品と注射器を取り出したと思えば、その薬品を注射器に入れ、鬼頭さんの首元に注射した。
「ちはるちゃん...ごめんなさいね」
「うっ!!」
注射された鬼頭さんはたちまち先程までの勢いをなくし、体の力は抜け、間もなく意識を失った。
「マオちゃん...その薬は?」
「...特殊な麻酔薬よ。2時間程度は目を覚まさないと思うわ」
「そんなものがあったのですな」
「保健室にね...。それよりちはるちゃん...」
マオさんは意識を失った鬼頭さんに視線を向ける。
「...鬼頭さんを軟禁しましょう。鮫島くん...悪いけどそのまま彼女を部屋に連れて行ってもらえるかしら...?」
そう提案したのは平子さんだった。
「え、あ、はい...分かりました...」
「何でこんなことに...」
「突然発狂したようには見えなかった。鬼頭ちはるは彼女なりの善意で行動していたように思える。...だとしても先程の行為は些か常軌を逸していたようにも思うがな」
鬼頭さん...一体どうしてしまったんだ。目を覚ましたら色々と聞かなきゃいけない。
兄貴を死に追いやった元凶。
彼女はリンブルバットのことをそう言っていた。それは一体どういうことなんだ。こんなネコがお兄さんを殺したとでも言うのか?
悪魔...まさか本当にそんなこと...ないよね...。
「ミャーーーーー」
まだ(非)日常編は終わりません。三章ですので覚悟の準備をしておいてください!(流行りに乗る) 次話がどうなってしまうのかお楽しみに!
それではまた次回お会いしましょう。