ダンガンロンパExtraWorld 〜砂漠のコロシアイ学園生活〜   作:magone

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大変お待たせしました。3章(非)日常編の続きでございます。
楽しんで頂けると幸いです。


第3章 (非)日常編 Ⅳ

〜鬼頭ちはる、自室にて〜

 

 

「......」

 

 

 

「......」

 

 

 

「.......うっ......うん?」

「気が付いたようね、鬼頭さん」

 

 

この声は...平子か? いつの間に私はベッドで眠っていたんだ? どうも気を失う前の記憶があやふやだ。一体何があったんだ?

 

 

「あまり状況が飲み込めていないって顔ね」

「平子....私は何をした?」

「覚えてない? 赤星さんが抱えていたネコに襲いかかったのよ」

「ネコ......あ」

 

 

そうか。思い出した。私はあの悪魔と再び邂逅した。そして祓うべく、奴に拳を向けた。しかし、六車にそれを阻止され、その後、鮫島に捕らえられた私は足立に謎の薬物を注射されて意識を...。

 

 

「思い出したみたいね」

「私は...どうやら軟禁されているのだな」

「...そうね。まさか以前と逆の立場になるなんて思わなかったわ」

「......私もだ」

「一応言っておくけど、この部屋から出ようとは考えないでね。今の貴女を外に出すワケにはいかないの。外には鮫島くんもいる。お願いだから大人しくしてちょうだい」

 

 

どうやら強行突破できる状況でもないらしい。何より平子の目がそれをさせなかった。

 

 

「わかった...とりあえず今は大人しくしておこう」

「ありがとう...」

「礼を言われることじゃない。それよりあのバカはどうしてる?」

「バカ? あぁ...六車くんのことね。彼なら今は保健室にいると思うけど」

「具合は?」

「...詳しくはまだ分からないけど、血が出るほどのダメージを負ったのは確かね。もしかしたら骨にひびが入ったかもしれないね」

「そうか...」

「心配?」

「そんなことはない」

「そう。まあいいわ。そんなことよりさっきの件。説明してもらえるかしら? 貴女に暴走癖があるということは聞いていたけど、なぜこのタイミングで出てしまったのか。その理由を教えてくれる?」

 

 

そう言うと平子は部屋に備え付けられている椅子に腰掛け、ベッドにいる私の方に体を向けた。

 

 

「知りたいのか?」

「知らなきゃ何も出来ない」

 

 

話さなければ平子はこのままここに居続けるだろうな...。

全く迷惑な話だ...。

 

 

「...ならば教えてやろう。ただし、他の者には無闇に話すな。それが条件だ」

「...わかったわ」

「よし、では聞くが良い。あの悪魔がどれだけ恐ろしいかということを」

 

 


 

 

 

「ちはる! どうしたそのケガは!?」

「...兄貴には関係ない」

「関係ないはずないだろ! お前はたった一人の家族なんだぞ!」

 

 

兄貴の名前は"鬼頭ふゆき"。

 

日本にいる数少ないエクソシストの一人だった。早死にしてしまった両親の意志を受け継ぎ、悪魔に苦しむ人々を救済すべく日夜活動していた。

 

当時の私は疑問に思った。

何故こんな馬鹿馬鹿しいことに兄貴が時間を削って身を削って悪魔に取り憑かれたなどと(のたま)う者の為に動かねばならないのか。

悪魔など所詮は精神病から来る幻覚の一種だと思っていた。然るべき医療機関にて診断を受け、医師からの判断を仰ぐべきだと。

 

しかし、兄貴は違った。悪魔は実在するとして両親から受け継いだエクソシズムで仕事をこなしていった。

 

私はそんな兄貴に反発した。

何故解ってくれない...? 自分のやりたいことまで放置してまで悪魔祓いをし続ける必要がどこにある...? そんな想いが私をそうさせたのかもしれない。

喧嘩も日常茶飯事で元々暴走癖があった為か、キズを作って帰ってくることも珍しくなかった。

 

 

「...ふん」

「ちはる!」

 

 

この日もそうだった。傷だらけの私を兄貴は心配していた。私はいつものように素っ気なく返した。

 

 

翌日、既に兄貴は家にいなかった。どうせまたどこぞの悪魔憑きの所にでもいるのだと思った。結果から言うとその通りだった。この日の夜、教会の奴らが血相変えて私にそれを知らせに来たのだ。

何が起こったか詳しいことは分からないようだが...只事ではないことは彼らの様子を見るに明らかだった。

 

兄貴はまだその悪魔祓いをしていた家にいるらしい。

私はその家に向かった。

 

 

「兄貴!」

 

 

扉を開けて、家の中へと入る。

すると、何か良からぬ雰囲気が漂ってるのをはっきりと感じた。

 

......ヤバい。

 

私は念のために普段から喧嘩用に持ち歩いているメリケンサックを両手に付ける。

 

廊下の床の軋む音がこだまする中、奥へ、奥へと進んでいく。

そして、一段と禍々しい空気が支配する部屋の扉の前まで来た。

 

 

ギィー.......

 

 

ゆっくりと扉を開ける。

そして、目にした。

 

半狂乱になり、部屋中を暴れ回っている兄貴の姿を...。

 

 

「兄貴......?」

「.......ウァ?」

 

 

兄貴は私に気付いた。しかし、その返答はおよそ人の発する言葉じゃなかった。

 

 

これが悪魔憑き。私は瞬時にそれだと理解した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

............だが、それからの記憶はない。

 

 

目が覚めた時、そこに転がっていたのは血塗れのメリケンサックともう息をしない兄貴の体のみだった。

 

 

「...は?」

 

 

何が起きた...? 私は一体何をした...?

まさか私がこの手で兄貴を......?

 

いやそんなはずはないッ! 私が兄貴を殺すはずなど...。

だが記憶がないのも事実。そうして頭の整理もつかぬまま呆然と立ち尽くしていると、一匹のネコがどこからともなく現れた。尻尾が二股のネコだ。

 

 

「何だこのネコ......」

 

 

いや、私はこのネコを知っている。

 

 

なぜ私は知っている?

 

なぜ? なぜ?? なぜ??? 一体いつ?

 

 

そう思うと同時に、私の脳内にある光景が呼び起こされた。それはつい先程、半狂乱となった兄貴と対峙したあの時、兄貴の中に"見えた"謎のネコの姿。

 

 

このネコ、いやこのネコの姿をした悪魔が兄貴を......。

 

そう確信した瞬間、私はその血塗れのメリケンサックでそのネコを殴りつけた。...はずだった。

気がつくとそこに二股のネコの姿はもうなかった。

 

 

逃げられた。兄貴を殺した仇に。

当時の私は悪魔祓いのことを知らない。当然の結果だった。

 

 

「ああああああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!!!!」

 

 

咆哮しようと悪魔は戻ってこない。

激昂しようと兄貴は戻ってこない。

全て無意味。

 

 

残れされたのは、泣き崩れる血塗れの妹だけだった。

 

 

 

 

 

兄貴の死は、事故死とされて処理された。教会の奴らが手を回したのだろう。それに関してはどうでもいい。

 

 

問題は兄貴を殺した二股のネコ(悪魔)だ。

私は奴を葬る。その為に何をすべきかを考えた。

 

...答えは決まっていた。

 

 

 

私はエクソシズムを学んだ。どうも私にはその才能があったようで、要領よく極めていった。

メリケンサックによる独自のスタイルはバチカンのお偉方には毛嫌いされているようだが、そんなことは些事に過ぎない。

 

 

兄貴の残した仕事。つまり悪魔に悩まされる人々を救済することこそが私のすべき事。

そして、兄貴を死に追いやった悪魔を滅ぼす。

 

 

 

 

それが私の最大の目的。果たすべき責務だ。

 

 

 


 

 

 

「これがあのネコの真実。そして、私がこの活動を続けている意味だ」

「.......」

「信じられないって顔だな」

「確かに俄かには信じられない話ね。でも貴女が嘘を吐いてるとも思えない」

「...ならどうする?」

「最善は尽くすわ。いつまでもこのままってワケにもいかないし。あのネコ...リンブルバットの件については、とりあえず私たちに任せて。その問題が片付き次第、貴女を軟禁から解放すると約束するわ」

「いいか? 必ず殺せ。私は手を下さずとも構わん。あのネコは災厄をもたらす。生かせば後々厄介なことになるぞ。わかったな? 平子」

「......」

 

 

平子は難しい顔をして、椅子から立ち上がった。

気持ちはわかる。傍から見ると小動物を殺せと言っているのだから無理もない。足立あたりは絶対に反対するだろうからな。

だが、そうも言ってられない。あの悪魔をのさばらせておけば必ず不幸が訪れる。...私の兄貴のように。

 

 

「平子」

「わかってる。ここは砂漠に佇む謎のコロシアイ空間。何があっても不思議じゃないわ。貴女の言う通り、あのネコがそういう存在だった場合、処分も検討しなければならない」

 

 

意外だった。まさかそういう返答が返ってくるとは思わなかった。

 

 

「受け入れるのか? さっきの話を?」

「当たり前よ。真偽はさておき、貴女の言っていることは一考の価値があると思うわ。受け入れないでどうするのよ」

「...やはり変わってるな、お前」

「検事なんて変わってないとやってられないわよ」

「ふふっ、そうか」

「ええ。...ん? もうこんな時間か。鬼頭さん、お腹は空いてる?」

 

 

 

「...ああ、少しな」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜数時間前〜

〜クルト、保健室にて〜

 

 

先程、鬼頭さんの拳を受け止めた時に怪我を負った六車くんを手当てすべく、鬼頭さんの所にいる平子さんと鮫島くんを除く僕らは保健室へとやって来た。

 

 

「はい、とりあえずこれで血は止まったわ」

「ああ、ありがとよ足立」

「無理しちゃダメよ?」

「わーってるよ。ま、手だから良かったものの、これが脚だったらさすがの俺もキレてたな」

「そういう軽口叩けるなら大丈夫そうね。良かったわ」

「マオ...リンブルバットも頼める?」

「ええ、勿論よ。そこに寝かせてくれるかしら?」

「うん!」

 

 

六車くんの手当てを終えたマオさんはそのままリンブルバットの治療へと入っていった。

 

 

「あ、そうだ! 千歳もありがとう! リンブルバットを連れ帰ってくれて!」

「...え、あ、うん.......」

 

 

萬屋くんは俯きがちにそう答えた。

 

 

「後悔してるのか? そのネコを連れ帰ったことを」

「...勅使河原さん...」

「気にすることはない。君は至極正しいことをした」

「そうよ。千歳ちゃんが助けてくれなきゃ、このコは死んでいたかもしれないわ。それにこんな砂漠に放置されている時点でこのコも私たち同様巻き込まれてここにいる可能性が高いわ。...だからありがとうね。救ってくれて」

「...うん......」

「あたしが千歳ちゃんに言いたいことはそれだけ。さ! 治療完了よ!」

 

 

マオさんがそう言うと、リンブルバットはミャーーー!と鳴き声をあげた。元気になった証拠かな?

 

 

「脚とかにケガはなかったから普通に歩けるとは思うわよ」

「そうなんだ! 良かったぁ。ね? リンブルバット〜!」

「ミャーーーンッ」

 

 

赤星さんがリンブルバットに話しかけると、リンブルバットは途端に赤星さんに甘えだした。とてもかわいい。

 

 

「ねぇ、マオ、リンブルバットと遊んできても良い?」

「うーん...まあ、大きなケガはないようだし、元気がなかったのは見知らぬ土地に放り出されたストレスによるものだから、問題はないと思うわ。衛ちゃんと再会できたからかこのコも元気になったと思うしね」

「ほんと! やったー! 行こう! リンブルバット!」

「ミャーーーー!!」

 

 

赤星さんとリンブルバットはそのまま保健室から勢いよく飛び出していった。

 

 

「...赤星女史がより一層元気になったことは大変喜ばしいことなのですが、今のこの状況を客観的に見ると割と異常事態とお見受けするのですが」

「やっぱりそうっすよね...冷静に考えてみて色々おかしいっすよ。どうして赤星さんの飼い猫が鬼頭さんが言う悪魔ってことになるんすか? 確かに尻尾が二つあったりして普通の見た目ではないとは思うっすけど...マオちゃん曰く、そう言うことは自然界じゃ珍しくはないんすよね?」

「そうね。あり得ない話ではないわ」

「じゃあ、それだけじゃあのネコを悪魔って断言するわけにはいかないわね」

「だったらどうすんだよ。このままあのネコを放置する気か? 鬼頭の軟禁だってずっと続けるワケにもいかねぇんだろ?」

「...元はと言えば、僕があのネコを拾って来たのが事の始まりなんだ...赤星さんには申し訳ないけど、ケガが治ったらまた砂漠へと戻した方が穏便に済むと思う...鬼頭さんにはあのネコは殺したってことにして―」

「ダメよ」

 

萬屋くんの提案にNOを突き付けたのはマオさんだった。

その言葉はいつもの温厚な感じとはほど遠く、とても鋭く、怒気を含んだもののように聞こえた。

 

「そんなのダメよ。絶対に」

「...足立くん...」

「良い? ケガが治ったからと言って、あんな何もない砂漠に放り出したらどうなるか解りきってるでしょ。生きれる環境じゃないのよ? あたしには出来ない。例え殺し合いを強要されている状況下でも、人間のエゴで動物を死に追いやるなんて...。ごめんなさい。そんなことは言ってられないってことも解ってるつもり。でもあたしは、ちはるちゃん一人の為にあのコを見殺しにするつもりはないわ」

 

 

確かに萬屋くんの言う通り、リンブルバットさえどうにかすれば鬼頭さんは落ち着きを取り戻すと思う。だけどその為にはリンブルバットを砂漠に戻さないといけない。そんなことは出来ないマオさんの気持ちも理解できるし、そう言った措置は取るべきじゃないことも解る...。

うーん...。

 

 

「とりあえず、鬼頭の話を聞かないことには何ともいえない。話はそれからでも遅くはないはずよ」

「そうですな。今は落ち着くことが第一。パニックになってはなりませんぞ? なんなら気を落ち着かせる為に小生を罵って頂いても良いのですよ?」

「.......」

「とうとう無視ですか!?」

 

 

...氏家くんのことは置いといて、鬼頭さんの話を聞く必要は確かにある。もしかしたら既に平子さんが聞いているかもしれないな。

 

 

「あ、そうそう。鬼頭のこともそうだけど、萬屋たちの砂漠調査の方も気になるわ。どう? あのネコ以外に何か見つかった?」

「...いわゆる人工物のようなものは何一つ発見は出来なかった...。...唯一見つけたのが、リンブルバットがいた洞窟があった岩山だけだった...ごめん...」

「そっか......」

「いや落胆するのは早いぞ」

「勅使河原さん?」

「萬屋千歳、その洞窟というのは広いのか?」

「...あ、うん...奥行きがあったからそれなりには...」

「砂で埋もれたりする可能性は?」

「...ないと思うよ...」

「おい、そんなこと聞いてどうすんだよ」

「その洞窟、拠点として利用できないか?」

「拠点?」

「まず大前提に砂漠越えというのは、萬屋千歳の見解通り困難を極めると思われる。具体的な目的地もなく、素人が灼熱の砂漠へ繰り出すのは自殺行為だろう。たとえ萬屋千歳のサポートがあったとしてもだ」

「うん、それで?」

「しかし、拠点があればどうだろう? 私の考えではその洞窟まで移動することはそれほど難しいことではないと思う。だとすれば、その洞窟を臨時的な拠点とし、そこから探索の範囲を広げることが出来る。更に砂漠越え時の中継拠点としても利用できる」

「なるほど、そういう考えね。勅使河原はこう言ってるけど、萬屋はどう思う?」

「...長期的な計画だけど、悪くないと思う...。...救助が呼べなかった場合、嫌でも全員で脱出しなくてはならない...その時に拠点があるのはとても有用だと思う...」

「ってことは、賛成ってこと?」

 

 

萬屋くんはコクンっと小さく頷いた。

なるほど、拠点か。確かに必要かもしれない。僕も体力は全然ないし...そういう場所があれば安心だ。

 

 

「...次行く時は拠点を作れるものを持っていくよ...缶詰のような非常食も保存できるようにしておく...。...ありがとう勅使河原さん...」

「礼を言わなければいけないのはこちらだ。私は提案をしたに過ぎないのだからな。君たちは命懸けで砂漠に繰り出している。洞窟があるという情報も君たちの働きあればこそだ」

「そうっすよ! 萬屋くんたちのおかげで私たちは希望を失わずにいることが出来るんす! ほんと感謝してもしきれないぐらい感謝してるっす!」

「...希望.......」

「萬屋くん?」

「...あ、ごめん...何でもないよ...」

「ん? ま、まあ、とにかくこれで今後の方針も大方決まったってことっすね?」

「...そう、だね...」

「じゃあ、飯にしようぜ。色々あったから腹減っちまってよう」

「そうっすね〜。平子さん達の分の夕食も作りたいですし、そろそろ食堂に移動するっすか?」

「そうね...あたしは衛ちゃんにもこのことを伝えに行くわ」

 

 

話がひと段落したところで、僕らは食堂へ向かった。

しばらくすると、平子さんが三人分の夕食を取りにやって来た。

 

 

「鬼頭さんのことは私に任せて」

 

 

平子さんはそう言うと、夕食を手に食堂から出て行った。

...鬼頭さんの件はとりあえず平子さんに任せるしかない。そろそろ部屋に戻ろう...。

僕にできることは、今日はもうない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

部屋に戻り、寝支度を整える。

 

なんだか凄い疲れたな...今日は寝よう。

 

...と思い、時計を見るとちょうど針が10時を指し示す頃だった。

 

あっ、ということはそろそろ古畑さんの放送があるな。

そう思った瞬間、部屋に付随されたモニターが光り出した。

 

 

 

 

『古畑野々葉が午後10時をお知らせします。これより食堂と体育館はロックされるようなので注意してください。

 

...今日は本当に色々な事がありました。楽しいこともありましたが、目を背けられない出来事に直面することもありました。私を含め、皆さんとても疲れていると思います。ですが、絶対早まったことはしないでください。心を強く持ちましょう。希望はあります。だからどうか...諦めないでください。

 

私からは以上です...。良い夢を。おやすみなさいっす」

 

 

 

 

 

 

 

...ありがとう、古畑さん。

 

そう、希望はある。大丈夫。

 

 

 

 

僕はそのままベッドに横になると、沈むように眠った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

翌朝、昨日と同じように古畑さんの放送にて起きた僕は、いつものように食堂へと向かった。

 

 

その道中、ふとグラウンドの方を見てみると、どうしてなのか赤星さんが一心不乱に走り回ってた。そして、その近くでマオさんがそんな赤星さんの様子を見守ってた。

 

 

「マオさん?」

「あら、クルトちゃん。なーに?」

「赤星さんは何をしてるの? 走り回ってるみたいだけど」

「ああ、あれはリンブルバットちゃんを探しているのよ。追いかけっこしているうちに見失ったらしいわ」

「え? 大丈夫なの? 割とそれって一大事なんじゃ...万が一鬼頭さんの部屋に入っちゃったら」

「ふふっ、大丈夫よ。心配はいらないわ」

「え? そうなの?」

 

 

よくわからないけど、マオさんがそう言うなら信じよう。

 

 

「それよりさ、クルトちゃん。一つ話しておきたいことがあるの」

「話したいこと?」

「ええ。リンブルバットのことよ」

「リンブルバットがどうしたの?」

「治療してわかったことなんだけど...あれは自然に出来た傷じゃないわ。明らかに人為的に付けられたものよ」

「人為的に? どういうこと?」

「...あたしはああいったコをたくさん見てきた。虐待され、傷を負わされ、捨てられたコを...。酷い時には死んでしまうことだってあったわ。リンブルバットちゃんの傷はそれと似ていたわ。明らかにヒトによる暴力よ」

「虐待されてたってこと?」

「いや衛ちゃんがそんなことをする子だとはどうしても思えない。だとすれば、衛ちゃんが飼ってたリンブルバットちゃんを誘拐犯が連れ去り、傷付け、放置した。そして、千歳ちゃん達に見つけさせ、この状況を作らせた。そう考えるのが自然ね...。何でちはるちゃんがリンブルバットちゃんを悪魔だと言っているかは解らないけど」

「なんて...酷い」

「ええ、本当にね。だからこそ衛ちゃんとリンブルバットちゃん(あのコたち)には生きて帰ってほしい。それが今出来うる誘拐犯への最大の仕返しよ」

「そうだね。でも赤星さんたちだけじゃない。今ここにいる全員で必ず生きて帰ろう!」

「クルトちゃん...ふふっ、そうね。必ず生きて帰ろうね」

 

 

そうだ。もう誰も死なせない。死なせてはいけない。

リンブルバットを含め、全員で絶対に生きて帰るんだ。

 

 

「マオーーー!!」

 

 

そんな会話していると、グラウンドを走って回っていた赤星さんがこちらに向かって来た。

 

 

「やっぱりどこにもいない! どうしよう...折角再会出来たのにこんなのって...」

「赤星さん...」

「クルトは知らない? リンブルバットがどこにいるか」

「ごめん。知らないんだ」

「うぅ...そんな...」

 

 

今にも泣き出しそうだ。どう声をかけるべきかと言葉を詰まらせていると、マオさんが先に口を開いた。

 

 

「安心して、衛ちゃん。リンブルバットちゃんなら()()にいるから」

「え?」

「それはどういう...」

 

 

困惑していると、マオさんは自分の着ている白衣に手をかけ、内側をはだけさせて見せた。

 

 

「ミャ〜〜〜」

「こういうことよ」

 

 

そこにはマオさんの白衣の内ポケットにすっぽりと収まってじっとしているリンブルバットの姿があった。

 

 

「えっ!?」

「えーーーーー!? そんなところにいたの!?」

「ふふっ、ごめんね」

「マオのいじわるー!」

「ミャ〜〜〜」

 

 

意外と分からないものなんだなぁ。例え一匹でもネコが白衣の下にいれば気付きそうなものだけど...一体どういう仕組みなんだ?

 

そんな疑問を抱きつつも、僕はその場を後にした。

 

 

 

 

食堂に行き、朝食を済ませた僕は何かの作業をしている萬屋くんと鮫島くんの元に向かった。

 

 

「萬屋くん、鮫島くん、おはよう」

「ん? おう! クルトか! おはようぜよ」

「...どうしての...? ...何かあった...?」

「あ、いや、色々と作業しているみたいだから僕に手伝えることは無いかなって」

「作業と言うほどじゃないぜよ。拠点に置くべきものを集めとるだけじゃきのう」

「...食料とか寝具とかね...」

「なるほど、そうだったんだね」

「もうあらかた集め終わったきに、後は例の洞窟にこれを持っていくだけじゃ。明朝には出発する予定ぜよ」

「...二人とも大丈夫? 体とか無理してない?」

「平気じゃよ。もう既に一日休んだしのう」

「...うん、体力面は大丈夫...」

 

 

本当に凄いなぁ二人とも。僕もできることなら砂漠に付いていきたいけど、今の僕の体力じゃ絶対に二人の足を引っ張ってしまう...。はぁ、自分のスタミナのなさが恨めしい。

僕は二人に「手伝えることがあれば、いつでも言って」と言い、その場を離れた。

 

 

 

その後も特に何事もなく、平和な一日が過ぎていった。

鬼頭さんが暴れ出すこともリンブルバットが問題を起こすこともモノクマが何かアクションを起こすこともなく、いつも以上に平穏な時間が流れた。

 

 

 

それがひどく不安を掻き立てるのは何故だろう?

 

 

 

夕食を終え、部屋に帰り、古畑さんの放送を見て、ベッドで眠る。

 

 

 

 

 

そして、翌朝。

 

 

 

 

 

 

 

 

「......うんっ」

 

 

...目が覚めちゃったか。古畑さんの朝のアナウンスもまだみたいだけど、今は何時なんだろう?

 

 

「えーと...6時か」

 

 

少し早いな。この時間じゃ食堂も空いてないし。...まあいいか。ジッとしていても仕方ないし、外の空気でも吸いに行こう。

僕は適当に身なりを整えると、宿舎を出た。

 

 

「あ...あれは...」

 

 

意外にも外には人がいた。グラウンドの中央で永遠とリフティングを続ける影がある。

六車くんだ。

 

 

「六車くん!」

「あ? ああ、クルトか。早ぇな」

「六車くんもね。手の方は大丈夫なの?」

「昨日よりはな。痛ぇことには違いねぇが」

 

 

そんな会話の中も六車くんは淡々とリフティングを続けている。さすが超高校級のエースストライカー。ボールの扱いに関しては一級品だ。

 

 

「そう言えば萬屋くんと鮫島くんはもう行ってしまったのかな? 昨日、朝早く出発するって言ってたけど」

「さあ、見てねぇな」

「そっか。...鬼頭さんはどうしてるかな? あれからずっと部屋に軟禁されているけど...元気にしてるのかな?」

「んなこと俺が知るかよ。俺はアイツのお守りじゃねぇんだぞ」

 

 

そう言うと六車くんはリフティングしていたボールを頭上高く蹴り上げた。

 

 

「だいたいアイツが部屋から出れねぇだけで、どうにかなるタマかよ。それはお前も分かってんだろッと!」

 

 

そうしてタイミングよく落ちてきたボールを蹴り飛ばすと、綺麗なカーブを描きながら遠くにあるゴールポストの中央へと吸い込まれていった。

 

 

「よし! 今日も俺は調子いいなぁ。そう思わねぇか? クルト」

「ああ...うん、そうだね」

「今、適当に答えたろ?」

「そんなことないよ?」

「どうだかな〜。...ん? あそこにいんのは平子か?」

「え?」

 

 

振り返るとちょうど宿舎から出てくる平子さんを発見した。平子さんもこちらに気付いたのか、僕らに向かって歩いてくる。片手に謎の紙を持ちながら。

 

 

「平子さんも早いね。...どうしたの? 難しい顔して」

「...クルトくん、六車くん、話があるの」

「あ? んだよ話って」

「...付いてきてくれるかしら。何かあった時も3人なら色々都合が良いし」

「3人?」

 

 

平子さんの意味深な言葉にどことなく嫌な予感がする。彼女に付いていくと到着した場所はオアシスドームの前だった。

 

 

「オアシスドーム?」

「あ? 朝から男二人はべらせてオアシスでイチャイチャしようって魂胆か?」

「...私がそんな不埒者に見えるか?」

「見えねぇな」

「え、えーと...どうしてここに連れて来たの?」

「...これを見て」

 

 

そう言って平子さんが差し出したのは、先程から持っている謎の紙だった。

 

 

「これは...」

「貴方たちは宿舎の部屋の扉の下に小さな隙間があるのを知っている? 朝起きるとそこにこの紙が挟まっていたの」

「え? ということは...」

「誰かが置いたってことでしょうね」

 

 

誰かが平子さんの部屋にこれを...?

その紙に視線を落とす。するとそれはオアシスドーム内の地図だった。更にある所に赤い印が描かれている。そしてその下にははっきりと読める字でこう書いてあった。

 

 

「秘密の隠し部屋?」

「おいそれってまさか...!」

「モノクマから舞田くんに送られた真実と一致するわね」

 

 

舞田くんに送られた真実...。

 

『この学園には秘密の隠し部屋が存在する』

 

確かそんな内容だったはずだ。...この地図に描かれてある場所がそうだと言うのか?

 

 

「でもなんでこんなものが平子さんの部屋の扉の下に...? 何故こんなやり方で秘密の隠し部屋の場所を教えたりするの?」

「それは多分...暗にここにある"何か"を私に発見して欲しがってるのだと思うわ」

「"何か"って何?」

「......」

 

 

平子さんは閉口した。いや寧ろこの沈黙こそが平子さんの言わんとすることなのかもしれない...。

 

 

「とりあえずそこに行きゃ分かんだろ? つべこべ言ってねぇで確認した方が早い」

「...そうね。行きましょう」

 

 

僕らは意を決してオアシスドームへと入る。中は以前と変わらず心地よい空気が漂っている。しかし、どこか嫌な空気も僅かに感じる。

 

 

「地図によると...あそこね」

 

 

指差す先は緑の生い茂る一帯。

 

 

「何もねぇようだが?」

「見つからないようにしてるんじゃないかしら? 秘密の隠し部屋ってわざわざ名付けるくらいだしね」

「つーことはこの下に地下室みたいなのがあんのか〜?」

「かもね。少し探してみましょう」

 

 

3人で地図にあった印の場所を探索する。

そして、それは簡単に見つかった。

 

 

「ビンゴだ。あったぞ!」

「これは...床扉みたいね」

「地下室があるってことかな?」

「可能性は高いわね」

「...よし、じゃあ開けるぞ」

 

 

六車くんが床扉を開ける。特に重そうな様子もなく、すんなり開いた。すると開いた床扉の裏に謎のボタンが確認できた。

 

 

「なんだろう、これ」

「さあ。でも得体の知れないボタンは触らない方が良いかもね」

「そう、だね」

「それより...問題はこの下よ」

 

 

開いた所を覗くと下に降りるための梯子の存在は分かるが、その下は暗闇が広がっていて、何も見ることはできなかった。

でも、地下室があるのは間違いないようだ。

 

 

「暗いね...」

「懐中電灯がいるかもしれないね」

「んじゃひとっ走り行ってくるか。倉庫にあんだよな?」

「ええ。じゃあお願いできるかしら」

 

 

六車くんはオアシスドームから出るとものの数分で帰ってきた。その手に3つの懐中電灯を携えて。

 

 

「ほらよ」

「ありがとう、六車くん。それじゃあ、私が先に行くわ。付いてきて」

「先で大丈夫なのか?」

「大丈夫よ。これでも貴方たちよりは慣れてるつもりだから」

「そ、そう」

 

 

僕らは懐中電灯を受け取るとその暗闇の中へと入っていった。

 

 

「酸素が薄い...ずっと密閉状態だったのかしら」

「確かに少し息苦しいな」

 

 

酸素が薄い...地下室だからなのだろうか。ともかく、足を滑らせないようにしないと。

 

 

「よし。着いたわ。だいたい6mぐらいね」

 

 

平子さんの後に続いて、六車くんと僕も一番下に辿り着いた。着くと依然暗闇が支配している。僕はとりあえず、目の前を懐中電灯で照らした。

 

 

「うん?」

 

 

照らされた先には謎のテーブルがあった。近づいてみると僕の胸の高さぐらいの大きさがあるのが分かった。そして、気付いた。そのテーブルの上に拳銃が置いてあるのを。

 

 

「えっ?」

「おいそれ拳銃じゃねぇか! 何でこんなもんがここに...」

「......もう少し辺りを調べましょう」

 

 

訳が分からない。一体何が起こっているんだ...?

最悪の想定が頭をよぎる。平静を保てない。鼓動が段々と早くなるのが分かる。

 

 

 

 

そして、その時が来た。

 

 

 

銃が置いてあったテーブルから左に向けて懐中電灯を照らす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

体が強張った。

 

 

 

恐怖からか何も言葉が出ない。

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だろ.......おい.........」

 

 

六車くんが()()に気付いて、声を上げる。

 

 

 

 

 

 

 

信じられない。信じたくない。

 

 

こんなこと...有り得てはいけない。

 

 

 

 

 

 

 

僕の照らす光の先で......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"超高校級のエクソシスト"の鬼頭ちはるさんが手足を投げ出し、天井を見上げるように絶命していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「き、鬼頭さん...?」

 

 

 

『ピンポンパンポーン!』

 

 

『死体が発見されました。一定の捜査時間の後、学級裁判を開きまーす!』

 

 

 

部屋に響き出す死体発見アナウンス。それは僕の見ているこの光景が夢でなく、紛れもない現実だということを無慈悲に突き付ける。

 

 

「そんな...鬼頭さん......」

「は? 何でだよ.......」

 

 

六車くんがゆっくりと彼女に近付いていく。

 

 

「何やってんだよ...おい...お前が.......こんな所でくたばる奴じゃねぇだろう!!! 生きなきゃいけねぇ理由があんだろッ! ふざけんなよッ!! おい!! テメェ目開けろコラァ!!いつもみたいに減らず口叩いて見せろよッ!!理不尽に殴って見せろよ........鬼頭!」

「む、六車くん...」

「くッ...くそがあああああああああああああああ!!!」

 

 

僕は六車くんの咆哮をただ聞くことしか出来ない...。

何もしてやれない。

 

無力だ。

 

 

 

 

...でも多分それを一番感じているのは、六車くんだ。

 

 

 

 

「こうなってしまったからには捜査を始めないといけない。六車くん、気持ちは分かるけど、どうか落ち着いて」

「ああああ!! くそがッ!!」

「クルトくん...とりあえずみんなをここに連れて来なくちゃいけない。頼めるかしら」

「う、うん」

 

 

六車くんのことはとりあえず平子さんに任せて、僕はみんなをここに連れてくるべく、ここを一度離れることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ペチャッ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

え? 何だ? 水を踏んだのか?

 

咄嗟に懐中電灯を下に向ける。

 

 

「これは...?」

 

 

足下には赤黒い液体が広がっていた。

血だ。間違いない。ここに来て何度も目にした。見間違えようがない。

鬼頭さんの血か?と考えたが、どうやらそうではないようだ。

何だこれは?

誰の血だ?

 

僕は、その血の道を懐中電灯で照らしながら出所を追う。

 

 

 

......。

 

 

 

 

 

......。

 

 

 

 

 

......。

 

 

 

 

 

......え?

 

 

 

 

何なんだ、これは?

そこには悪夢が広がっていた。

 

 

 

どうして..........。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もう、目の前で起きていることが分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

"超高校級の獣医"の足立(マオ)さんが赤黒く染まった白衣を纏い、壁を背にした状態で絶命していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

傍に横たわるリンブルバットの亡骸と共に。




さあ、とうとう来たって感じですね。さて、クロは誰なんでしょうか? 捜査編も出来るだけ早く投稿するように頑張りますので、そちらもよろしくお願いします。

それでは、また次回!

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