ダンガンロンパExtraWorld 〜砂漠のコロシアイ学園生活〜 作:magone
ネコは、元々砂漠の生き物だったということをご存じでしょうか?
元々中東の砂漠に住んでいたリビアヤマネコが、ネズミを捕獲するために家畜化した存在が、現在のイエネコの起源とされています。
砂漠とネコ、意外な所で繋がりがあったのですね。
ネコにも起源があるように、コロシアイ学園生活にも起源があります。
はて、最初のコロシアイは何だったかなぁ?
さあ、そろそろ再開しましょう。
ドッキドキの学級裁判はこれからこれから♪
「以後宜しく、な」
彼は偽っていた自分を曝け出し、顔を覆っていた全てを取り払ってみせた。
僕らが接してきた氏家くんは、もうどこにもいない。
「氏家...あんた...」
「その名で呼ばないでくれるか。俺はもうアイツの真似事はやめたんだ」
「アイツの真似事? やはり貴方、本物の氏家くんと知り合いだったの?」
「...まあ、そんなことはどうでもいいだろう。時間の無駄だ。建設的じゃない」
「全然氏家くんとキャラが違う...。こ、これが本性ってヤツっすか?」
「本性とは少し違うな。そもそも俺はお前たちの前に一度たりとも姿を見せたつもりはない」
淡々とそう言う彼に、恐怖すらを覚えた。今までの何もかもが嘘偽りだったのかと考えると、寒気が止まらない。
「氏家だろうが久礼だろうがどうでもいい。要するにテメェがアイツら殺した、この事件のクロだっつうことだろ?」
「クロ?」
「んだよ」
「それはおかしいな。確かに俺はデスゲームを仕組みはしたが、クロではないぞ」
「何言ってやがる」
「考えても見てくれよ。キトウとアダチ、コロシアイをしたのは彼女らだ。なのにどうして俺がクロになる要素がある? そんなことは罷り通らない。認めればそれは今までの事件だってモノクマがクロだと言ってるようなもの。俺はあくまで舞台を用意しただけに過ぎないんだよ。俺がクロである可能性は万が一にもない」
彼が発することを理解できないワケではない。
ただ、そう思いたくはなかったんだ。
「あわよくば、俺の正体に気付かずに本当のクロまで誘導するつもりだったが...バレてしまった以上、この裁判はもう無意味だ。教えてやるよ、この事件の真相を」
「えっ?」
呆気に取られる僕らを尻目に彼は話し始めた。
「まず俺はゲームセンターの景品に目をつけた。あのガチャで当たる景品は、大半が不必要な物ばかりだが、ごく偶に重要な品が手に入る」
重要な品...生徒名簿やスカウト生が書かれた紙のことかな。
「それを知った俺は、メダルを荒稼ぎできるゲームを見つけた。クルト、お前も知っているな?」
静かに頷く。
確か『SAKE NO TSUKAMIDORI』というゲームだ。
彼は、ゴーグル越しでは鮭の色が分かりづらいと僕に助けを求めたんだ。
「俺は誰もいない時を見計らって、メダルを集めた。絶対にゴーグルの中を見られるワケにはいかなかったからな。特にヒラコには」
「......」
平子さんは無言で話を聞いている。
「そして、ガチャで沢山回した俺は、例の地下室に行く方法が書かれた地図を見つけた。そこに行ってみると暗い部屋の中心に一丁の拳銃と鍵があった。鍵にバツ印が描かれているのを発見した俺は、放送室横の部屋の物だと察した」
あのバツ印が描かれた扉のことか...。
「開けてみると、さっきの地下室が映し出されたモニターがデカデカと設置されていた。言わば管理室。ここでゲームマスターとしての役割が果たすことができると分かり、アダチとキトウを攫い、ここで殺し合わせた」
「どうしてそんなことを...そんなことをしてアンタに何の得が?」
「どうせ遊び半分や人間の本質が見たかったとかだろ」
「信じてもらえるとは思ってないが、とある目的のため、"大願成就"のために俺は動いていた。まあ、ここでは明かさないがな」
「なにそれ」
「動機なんてどうでもいい。何ら関係のないことだ」
「とある目的...ここを出ることは目的ではないと?」
「当然。そうなら平子に地図なんて渡さない。死体を見つけてくれないと俺としても都合が悪くなる」
「...クロを投票で処刑しないと自分も処刑されるから...って言うこと...?」
「そうだ。だから俺はクロじゃない。本当のクロを知ってるからだ。...さあ、お膳立てはもういいだろ。そろそろ今回のクロを発表する」
一呼吸置くと、彼は落ち着き払った表情で。
「クロは、アダチだ」
有無を言わさず、そう言った。
「キトウを射殺した後に、自殺。簡潔に話すとこうなる。これ以上でもこれ以下でもない」
「マオちゃんが自殺...?」
「嘘だ。マオがそんなことするワケない」
「そうは言っても事実だからしょうがない。どうせ生き残っても、裁判で負ければオシオキされる。だから自ら命を絶った。理屈は通る」
「いけしゃあしゃあと...アンタがそう仕組んだんでしょ!」
「その通りだ。だが事実だ。それはもうどうしようもない。もう後の議論はもう蛇足だな。モノクマ! 投票タイムだ!」
「待て待て!! さすがに急すぎるぜよ! 頭が追いつかん。わしらはまだおまんが何故そんなことをしたのかも分かっとらんぜよ」
「さっきも言ったが、動機なんて別にいらないだろ。事実だけあれば良い。それに基づいて投票するだけだ。何も難しいことはない」
「事実と言っても...信用しきれないと言うか何というか...今まで私たちを騙してた人の言葉ですし...」
「そうね。それに貴方は嘘を言ってる。投票タイムなんて以ての外よ」
「嘘? それは聞き捨てならないな。俺は見たことを話してるだけだ。そう言って切り捨てるなら、みんな仲良くオシオキされるだけだ」
「なら議論しましょうよ。そう急く時間でもないでしょう?」
久礼くんのペースに乗りそうだった所を、平子さんが議論に引き戻した。凄い。さすが超高校級の検事だ。
それにしても、嘘か。
一体、どのことなのだろうか。しっかりと聞いてみよう。僕にもわかるかもしれない。
「そこまで言うなら付き合ってやるよ。でも俺は何も嘘なんて言ってないぞ」
「嘘というか矛盾してるのよ。貴方の発言は」
「矛盾してる? それはどの発言っすか?」
「久礼くん、話してみてくれる? さっきの話をもう一度」
「面倒だな」
「いいから、やるぜよ」
「はいはい。犯人はアダチ。これでいいか?」
「もっと詳細に」
「アダチは、キトウを撃ち殺した。その後に拳銃で自殺。これでいいか、検事さん」
「どうも」
「...どう...? ...矛盾は見つけれた...?」
うん、見つけれた。確かに矛盾していた。
平子の検死結果–論破→拳銃で自殺
「矛盾はここだ」
「クルトくんも分かったみたいね」
「えっ? どこ?」
「拳銃自殺の所だよ。それはあり得ない」
「あり得ない? 何でだ?」
「モノクマファイルには、マオさんの死因は書いていなかった。だから平子さんが検死してくれたんだ。その結果、死因は窒息死だったんだ」
「窒息死?」
久礼くんは、少し驚いた様子でこちらを見る。
演技? それとも...。
「そうだよね? 平子さん」
「ええ。とは言っても私も資料で得た知識だから確実にそうだとは言えないけど。少なくとも拳銃による自殺じゃない」
「どうしてそう言える?」
「そもそも足立くんに銃創なんてないからよ。傷は後頭部の打撃痕ぐらい」
「なんだと?」
「ん? その反応は何? 惚けているの? それとも本当に面食らっているの?」
「......」
「久礼くん?」
「...さあな」
一瞬動揺したように見えたけど...彼にもわかっていない何かがあるのか?
「それにしても窒息死ってどういうこと? アンタの検死を疑うワケじゃないけど、あの状況下で呼吸が出来なくなることなんてあるの?」
「小田切くんの時みたいに砂で...ってことは流石にないっすよね」
「オアシスドーム内には水はあるけど、そもそもマオちゃんが溺死したって可能性は少ないわよね?」
「どこかのゲームマスターにコロシアイを強要されていたからな」
「ん? ボクのことを呼んだかい?」
「紛らわしい。呼んでない。入ってくるな」
「手厳しッ!」
そんなやり取りをしていると、もう一人のゲームマスターが口を開いた。
「窒息死。なら予備の作戦が上手くいったってことか」
「...予備の作戦?」
そういうと淡々と話し始めた。
「いいか? あの地下室は、床扉が閉まって約3時間ほどで人体に必要な酸素がなくなる仕組みになってるらしい。アダチが窒息死したのは、そのせいだろう」
窒息死した原因が部屋の仕組み?
「デスゲームを強いるには、特殊な条件下でなくてはならない。ただ閉じ込めるだけじゃ動機が足りない。人はそう簡単には殺し合ってくれないんだよ」
「うんうん、分かるよ。試行錯誤の末にコロシアイをしてくれた時なんてもう爆上げテンションMAXだもんね!」
彼はモノクマを無視して話を続ける。
「目の前の相手を撃ち殺せた方が自由の身になる。しかし、殺し合いが行われなければ、3時間後にどちらも酸欠で死亡する。至ってシンプルなルールだろ? 今回は生き残っても学級裁判があるから殺し合ってくれる確率は半々だったけど、無事に行われて安心したよ」
「無事に行われて安心しただ? ふさげたこと言いやがって...テメェ何様だよ!!」
「特段偉ぶってるつもりはない」
彼は尚も淡々と答える。
「まあ問題はこれからだ。キトウを殺したアダチが死んでる、ということは校則に従えばアダチを死に追いやった要因を作った者が今回のクロ。そうだな?モノクマ」
「はい、その通りでございます。人が死ぬには多くの場合、その原因があります! 事故死だってそうです。誰かの何かに起因してるのです。つまり意図的だとか間接的だとかは関係なく、死ぬ原因を作ってしまった誰かがクロになる。ということでございます!」
「だと。今回の場合は、地下室を密閉した人物。そして残念ながらそれは俺じゃない、別にいる」
「は?」
「アカホシ マモリ。 床扉を閉めたのは君だ」
「......................えっ?」
え?
「君がクロだ。アカホシ」
頭の処理が追いつかない。なんで? なんでそこで赤星さんの名前が出てくる。
名前を呼ばれた本人は、力なく声を漏らすだけだった。
「.......なんでぼく?」
「て、適当言わないでよ! なんで赤星がそんなことするのよ!」
「そうっすよ!流石にこれはメチャクチャっす! 第一、その場所は隠されていたはずっす! 床扉を閉めるも何もないっすよ!」
「いやアカホシは床扉の存在は知っていたはずだ。俺が手紙で教えたからな」
えっ?
「...あ、赤星?」
「........」
赤星さんの瞳孔がいっぱいに広がる。
「あれは...マオじゃなくて幕之進が書いたの?」
「俺は久礼爽だ。...そうだ、あれは俺が書いた。騙して悪かったな」
手紙? 一体なんのことだ??
「赤星なんのことだ? そんなの聞いちゃいねぇぞ」
「...夜時間にマオからの手紙が扉下に。リンブルバットが逃げたときのために危ないからオアシスドームの中にある床扉を閉めておいてくれる?中には入らないでねって...」
「まさか...床扉を閉めてしまったの!?」
「いや......してない......」
「と言っているが、久礼爽?」
「確認はしていないが、そんなはずはない。俺は確かに床扉を開けてオアシスドームを出た。ならばそれを閉めた人物が必ずいる。でなければアダチは窒息死などしていない」
「赤星衛でも久礼爽でもないとなると他の人物...いや可能性は低いか。床扉が閉められたのは夜時間と考えると、外に出ること自体が不自然な状況下で突発的にオアシスドームへ向かうことはないだろう。となるとやはり床扉の存在を知っていた二人の内のどちらかということになる」
勅使河原さんの言う通りかもしれない。普通なら床扉を閉めたのは久礼くんになるけど、まさか.......。
最悪の結末が頭を過る。
「赤星さん...本当に閉めてないよね?」
不安を振り払うように、僕は赤星さんに訊ねる。
「.......」
「聞こえてる?」
「......してない」
「赤星衛、何故俯いたまま喋ってる?」
「......してない」
「赤星さん?」
「......してない」
赤星さんは同じ言葉を繰り返した。
小さく、呟くように、何度も。
「......してない」
「これは...とてもじゃないけど議論できそうな雰囲気じゃないわね」
「大丈夫っすよね...赤星さんは床扉なんて閉めてないっすよね?」
「......してない」
「ほら本人もこう言ってますし...」
「......してない」
「あはは...これは本格的にもしかしてのパターンってことっすか......」
ダメだ。赤星さんの心が完全に壊れてる。
否定はしてるけど、これじゃ逆効果だ。
「本人に自覚があるからそんな反論しかできないんだろ?」
「...君が仕組んだのに...そんな言い方酷すぎる...」
「悪かったよ。でも俺目線からクロは確実にアカホシだ。もし投票先を間違ったらお前たちがどうなるか、俺たちは見てきたはずだ」
「貴志さんや桐崎さんが受けたオシオキが私たちにも......」
「そうだ。酷い話だとは思うが、アカホシに投票しない限りお前たちに未来はない」
残酷すぎる。こんなのあんまりだ。こんなことあっていいはずがない。
気付くと僕は彼女を庇うように声を上げていた。
「待って! 赤星さんに投票するなんて早過ぎるよ!」
「そうか? 本人は議論続行不可能のようだが?」
「.....してない」
「それは...そうかもしれない。けど今の赤星さんの精神状態じゃ無理もないよ! だって友達とペットを一度に失ったんだ。こうなっても仕方ないというか」
「それが彼女の狙いだとしたら?」
「...えっ?」
「そういう精神状態だと思わせることで自分に投票されることを防いでいる。そうは考えられないか」
そんなこと...あるはずない。
「......してない」
でもこの状態じゃどの道......。
「...決めないと...」
「萬屋くん?」
「...ここで投票するか否か...」
「そうね。いずれにしてもここで足踏みしてるワケにはいかない。どうするか決めないと私たちも前に進めない」
「さあ、どうする? お前たちはどっちを選択する?」
決まってる。
「僕は投票しない。まだ議論することだってきっとあるはずだよ!」
「例えあってもそれはもう不必要な議論だ」
「当事者がそう言っても説得力は皆無ね。私も投票しないに一票。クルトくんの言う通り、議論の余地はまだあるわ」
「私もクルトに賛成!第一アイツの好きにさせたらどうなるか分かったもんじゃない」
「同感だ。テメェの思い通りにさせてたまるかクソが」
良かった! これは"投票しない"に持っていけるかもしれない!
「萬屋千歳、君はどうする?」
「...僕は...投票しようと思ってる...」
えっ? 萬屋くん?
「...久礼君の肩を持つワケじゃない...けど非情だとも思うけど...投票すべきだと思う...だってここで間違えたら僕たちみんな死んでしまう...それだけは絶対に許容できない...!...小田切君からみんなを砂漠から助けることを託されたから...!...非情だと思われても僕は...必ずこの裁判を乗り越えなくちゃいけないんだ...!」
覚悟の入り混じった声に聞こえた。
そうか...萬屋くんも小田切くんに...。
「そうか。萬屋千歳がそう言うなら私も投票に一票入れよう」
「勅使河原さんまで...」
「赤星衛の不透明さは否めない。ならば戦わせるしかないだろう」
「戦わせる?」
「そう言った議論方法があったはずだ。そこでどうするか決めるということだ」
「でもあれって意見が半々に分かれた時じゃ...今まだきっちり半分分かれてはないっすよ...?」
「なら鮫島海と古畑野々葉。こちらについてはくれないか?」
「わしらですか!?」
「えっえっえーーーーー!? ななななななんでそうなるんすか!?!?」
「その方が早い。あの場所で意見を戦わせると否が応にも前に進む」
「とは言ってもっすよ!? 強引すぎっす!!」
「お? 意見が割れましたな! 綺麗に真っ二つに!!これは議論スクラムの時間というワケですねえ!!」
「果たして本当に割れたんすかねぇ!? これ!」
古畑さんたちの思いも届かず、無情にも開始される議論。モノクマはこの状況を楽しんでいるに違いない。
ただ負けるワケにはいかない。
《赤星に投票》vs《議論続行》
久礼爽……………………クルト
萬屋千歳…………………平子華月
勅使河原祈里……………繭住藍子
鮫島海……………………六車ミゲル
古畑野々葉………………赤星衛
足立猫……………………鬼頭ちはる
舞田十司郎………………桐崎雨城
貴志萌華…………………小田切電皇
久礼「あの地下室を密閉したのはアカホシだ。それ以外に考えられない」
vs
クルト「それについて赤星さん自身は否定している。君が密閉した可能性だってあるでしょ?」
鮫島「し、しかし...赤星さんのあの様子は...怪しく見えても仕方ない...?というか何というか...そんな感じぜよ」
vs
繭住「いっぺんに色んなものを失ったんだからあの様子でも仕方ないでしょ!」
古畑「でも仮に! 仮にっすよ!? 赤星さんのそれが
演技だとしたら、そう思わせて投票されることを防いでるって可能性もあるかもしれ......ま、まあそんなことは微塵も思ったりなんてはしてないんすけどね!」
vs
クルト「演技かどうかなんて僕たちに判断できない。氏家く...久礼くんの例もあるんだし」
勅使河原「動機は未だ不明だが、自分がクロにならないように人を殺すように仕向けている。つまり、赤星衛をクロに置き、自らはクロにはならない最悪の道筋。しかし、これも久礼爽の計画のうちならば、真実として私たちも受け止めなければならない」
vs
平子「久礼くんの計画なら思った通りには動いていないはずよ。窒息死ではなく拳銃自殺と彼は言った。既にイレギュラーは発生しているのよ」
萬屋「...でもそれも予備の計画にあったって言ってた...。...それに赤星さんが議論できないならここで決め打つしか僕たちが前に進む道がない...」
vs
六車「勝手に結論出してんじゃねぇよ。本人が議論できねぇっつっても俺らが代わりにやりゃ良い話だろうが!」
久礼「と言ってももう議論する事柄もないだろう。無理に話を先延ばしにしても良いことなんて一つもない。虚しいとは思わないか? 介錯してやるのも友人の在り方としては悪くないと思うが」
vs
平子「議論する事柄ならまだあるわよ。先延ばしなんてとんでもない。これは私たちが生き残るために必要なこと。介錯ならその後でも十分可能よ」
これが僕たちの答え。
赤星さんがまともに話せない以上、僕たちが先に進めないと。ここで止めるワケにはいかない。
「...議論する事柄って言っても一体何があるの...?」
「リンブルバット」
「......えっ」
その言葉に赤星さんが反応を示した。
「リンブルバットがあの場で亡くなっていた。久礼くんの話を聞いてもその事については何も触れなかった。何故かしら?」
「.......」
「貴方全てモニターで見たんでしょ? 答えられない理由があるのかしら?」
「...答えられない理由...?」
「不都合な理由があるんじゃないの?」
「どうなんぜよ! 久礼! 何を隠しとるんじゃ!!」
「...違う。不都合な理由なんてない。ただ何故リンブルバットがあそこに居たのか、俺にもわからない」
「わからない?」
「んなこと信じると思うのか?」
「真実だ」
リンブルバットが居た理由は分からない? そんなことあるのかな? あの地下室の様子じゃ確実にデスゲームに巻き込まれたように見えたけど......。
「どちらにせよリンブルバットが何故あの場所で亡くなっていたか判然としない以上、赤星さんに投票するのは待ってくれるわね? 萬屋くん」
「...う、うん...わかったよ...。...その子を砂漠から連れ帰ってきたのは僕だ...。...リンブルバットが死んだ責任の一端は僕にもあると思ってる...。...その謎が残ってる限りは投票はしない...」
「ありがとう。でも責任になんて感じる必要はない。貴方は貴方のやるべきことをやってくれている。感謝こそすれ非難なんてしないわ」
「...ごめん...」
リンブルバットがなぜあの場所で亡くなっていたのか。
そこにこの最悪の結末から脱却する方法があるのかな?
「それで? リンブルバットがあの場で死んでいたから何だ? 結果が変わるのか? アカホシが床扉を閉めて、それでアダチが死んだならクロはアカホシに変わりはないぞ」
「その結論は変わるかもしれないわよ。未解決の問題がある今、どう転ぶかなんてわからないんだから」
「...ならお好きに」
「言われなくても。...それじゃリンブルバットについて改めて情報を纏めようかしら」
平子さんはそう言うとモノパッドを開き、情報の整理を始めた。
「リンブルバットは赤星さんのペットのネコ。尻尾が二股に分かれているけど、ごくごく普通のネコらしいわね。その子を萬屋くんたちが砂漠で見つけて連れ帰ってきた」
「...うん、間違いないよ...」
「そこで赤星さんのペットだって判明した。でもそこに居合わせた鬼頭さんがリンブルバットに襲い掛かった。その理由は本人から聞いたわ。お兄さんの仇である悪魔とリンブルバットが酷似していたらしいわ」
「悪魔か。アイツらしいバカな理由だ」
「砂漠から連れ帰ったリンブルバットは怪我をしていて、それを治療していたのが足立くんだった。その後は元気になったみたいね。流石は超高校級の獣医ね」
マオさん...。
「で、問題はこの後ね。事件が起きる前日の夜のリンブルバットの所在がわからない」
「それは赤星の部屋じゃないの? 自分のペットなんだし」
「あっ! そう言えば夜時間を知らせるために放送室に行こうとした時に宿舎の外でリンブルバットを抱いていたマオちゃんを見たっす! チラッとっすけど」
「本当に!?」
「はい! 確かに抱いていたっす!」
「赤星さん、これは本当?」
「.......うん」
赤星さんは小さく頷いた。僕らは彼女の今にも消え入りそうな声に耳を傾ける。
「具体的に教えて貰っていい?」
「.......」
「大丈夫。ただの事実確認よ」
「.......リンブルバットは確かに良くはなった。でもまだどうなるか分からないってマオが......。だからいつでも対処できるように夜時間の間はマオが面倒を見てくれるってことになってて......」
「ありがとう赤星さん。ということはリンブルバットと最後に居たのは足立くんってことで確定ね」
「でも最後に近くに居たんが足立なら、死んだ理由は分からんままぜよ」
「ならリンブルバットの死因について考えてみるのはどう?殺され方が分かれば、何か見えてくるかもしれないし」
リンブルバットが何故殺されたのか。理由はわからないけど、直接的な原因なら突き止められるかもしれない。
「リンブルバットは何で死んでしまったの?」
「...傷が開いたとか...?」
「マオちゃんの処置だよ? 流石にその線は薄いかな」
「足立と同じで窒息死という線はどうぜよ?」
「鬼頭さんと同じで銃で殺害されたとかはどうっすか?」
「その他の凶器ということも考えられるな。例えば鬼頭ちはるが持っていたメリケンサック とか。あれで殴殺した可能性はないか?」
「動機は十分にあるけど...どうなんだろう?」
「リンブルバットが死んでいたのは足立くんの近く。彼女が殴り殺したなら何でそこに死体があったのか説明がつかないわね」
「わからないならとっとと終わらせて投票タイムに行こう。これ以上時間を無駄にするな」
時間の無駄なんかじゃない。ちゃんと同意できる箇所があるんだから。
リンブルバットー同意→銃で殺害された
「古畑さんの意見に賛成だよ」
「まじっすか!? 本当に銃で!?」
「そうだと思う。マオさんとリンブルバットの周りには血がたくさん流れ出していた。でもマオさんは窒息死で他に目立った外傷はない。ということは流血しているのはリンブルバットの方。そしてあの場でそんなことができる代物は、備え付けの銃しかない」
リンブルバットの死因は、失血死。
ならば、射殺された以外に選択肢はないはず。
「...そうだとしたら一体誰が射殺したんだろう...?」
「久礼、アンタじゃないの?」
「残念ながら俺ではない。さっきも言ったが、俺はあのネコが地下室に居た理由すら知らない。それに仮に俺が射殺したとして何の得がある? 無駄な工程が増えるだけだ」
「そう? 見せしめのためではなくて?」
「そんなことする必要がない。時間がくれば勝手に窒息する仕組みの部屋だ。否が応でも殺し合わなければ生き残れない」
「信じられんぜよ」
「なら何て言えばいい? 俺が殺りましたって嘘つけってか?」
「...仮にコイツの話を信じるとして、ならネコは誰が殺したんだ?」
「鬼頭さんと足立くん、そのどちらかしかない」
久礼くんでないと仮定すると、この二人しか考えられない。
「可能性としてありそうなのは、リンブルバットを悪魔と呼んでいた鬼頭さんの方っすかね?」
「でもリンブルバットの近くにいたのはマオちゃんの方よね...? でもマオちゃんは動物が大好きだったのよ? 萬屋が砂漠に戻す提案をした時も凄く怒ってた。なのに殺しなんてするかな?」
普通に考えると、殺す動機が高いのは鬼頭さんだ。それに繭住さんの言う通り、マオさんは動物愛に溢れた人だった。意味もなく殺すような真似は絶対にしない。となるとやはり殺したのは鬼頭さん? いやそんな早く結論を出してはいけない。
「ここでポイントなのはどちらが殺したにせよ、それがゲームマスターである久礼くんが預かり知らないということよ」
「......」
「それにあの地下室の状況は意図的に作られた可能性があるわ」
「えっ? どういうこと?」
「鬼頭さんと足立くんが結託していた可能性がある、ということよ」
鬼頭さんとマオさんが結託? そんなことを示す証拠なんてあったかな?
「それは鬼頭さんの死に際の行動で察することができるわ」
鬼頭さんの死に際の行動......? 見ていたワケでもないのに何で平子さんは死に際の行動なんて分かるんだ...?
僕はモノパッドに表示されている証拠一覧を見て考える。
十字架←
そう言うこと...なのか?
「鬼頭さんは...十字架を握りながら亡くなっていたよね?」
「十字架? あの金色に光ってたデカいアレか。それがどうしたんだよ」
「十字架を握りながら亡くなっていたってことはつまり...死ぬことを覚悟していたってことなんじゃないのかな?」
「あの鬼頭が? 近くに仇と呼んでいたリンブルバットもいるのに?」
「だからこそ何かしらの意図がそこにある。彼女が死を受け入れるだけの何かが」
あの鬼頭さんが死を受け入れるだけの何か?
それは、一体...?
「しかし、果たして何かを講じることができる環境だっただろうか? あの二人は常に別室にいる久礼爽の監視下にあった。到底そのような隙があるとは思えない」
「確かに...二人の距離はそれなりに離れていたからヒソヒソ会話することも出来なそうね」
「...ゲームマスターに気付かれずに何かすることなんて出来るのかな...」
そうか...出来るかもしれない。あの部屋の仕様なら。
ゲームマスタールーム←
「いや出来るはずだよ。あのゲームマスタールームの仕様なら」
「仕様?」
「あの地下室にはゲームマスターの声を届かせるためのスピーカーがあるんだ。ボイスチェンジャー付きの」
「それがどうしたってんだ」
「問題は地下室の声はゲームマスタールームには届かない、ということなんだ」
「なんだって?」
「こっちの声はあっちに届くけど、あっちの声はこっちには届かない。なるほどあの部屋はそういう仕様なんすね?」
「つまり向こうで何を喋ってようが、久礼爽にはそれが聞こえていなかったと。ならば、何か講じたということが現実味を帯びてくるな」
「...例えそういう仕様だとして、アイツらが何を企もうが意味はない。床扉を閉めた人物がいる限りな。そうだろ? アカホシ」
「......ぼくじゃない」
床扉を閉めた人物...
いることは間違いないと思う。それは誰? 赤星さんでなければ、やっぱり久礼くん? でも彼はそもそもクロになろうとしてる動きじゃない。じゃなきゃ態々平子さんに地下室の地図なんて渡さない。
となると、第三者? いや夜時間にあてもなくオアシスドームに足を運ぶことなんてないだろう。仮にもコロシアイの最中なんだから。
でもそれだと...もうそんな人物はいないってことに......。
人物...?
床扉を閉めたのは、本当に人だったのか?
じゃないとすると答えは............
ボタンの傷 ←
「リンブルバットが閉めた」
その道はあまりに絶望的で、悲劇的。
でもその地獄のような光景の中、淡く輝く希望を手にした。そんな気がした。
「...は?」
「えっ? リンブルバットが?」
「おいおい、本気で言ってんのか?」
驚きの声が耳に入る。それもそうだ。そんなことを考慮し、推理するなんて今までの事件からでは考えられなかったからだ。
「リンブルバットはマオさんと一緒にいた。襲われた時にリンブルバットも一緒だったんじゃないの?」
「だったらどうしたって言うんだ?」
「可能性が上がったってことだよ」
この線が突破口になるかもしれない。
どれだけ小さな可能性でも追う価値は十分にあるはず。
「床扉の裏側にボタンがあったんだ。そこに引っ掻いたような傷があった。これがリンブルバットが床扉を閉めたかもしれない証拠だよ」
「床扉のボタン? そこに引っ掻いたような傷っすか...」
「本当にそれはネコによる引っ掻き傷だったか? 人間が付けた傷ではないのか?」
「可能性はないとは言えないね。その画像だけで判断するのは難しいわ」
「...やっぱり久礼君が閉めたんじゃいかな...?」
「違うと何度も言っているだろう。閉めたのはアカホシ。それ以外に考えられない」
「ぼくじゃないもん」
「でも仮に二人の内のどちらでもないとしても...リンブルバットが閉めたと考えるのは難しいと思いますよ。いくらネコが器用だとしても床扉を閉めるなんて至難の技っすよ」
床扉のボタンー論破→床扉を閉めるなんて至難の技っすよ
「いや出来るかもしれない理由があるんだ」
「床扉のボタンってさっき言ったよね? そのボタンって何のボタンかわかる?」
「えっ? 何のボタンっすか?」
「このボタンを押すと自動的に床扉が閉まる仕組みになっているんだよ」
「自動的に閉まる...そういうことならリンブルバットが閉めた可能性も否定できんぜよ」
「しかも引っ掻き傷。人が付けたとも考えられるけど、それなら動物が付けたと考えるのが自然かもね」
これで前進した。
やっぱりこの事件、リンブルバットがキーなんだ。
「...マオさんが窒息死した原因がリンブルバット...。...だとすると犯人は赤星さんではなくなるね...」
「良かったな赤星! 疑いが晴れたよ」
「......ほんとに?」
「ちょっと早い気はするけど...まあいいわ。私ももう彼女がクロとは考えられないから」
そう聞いた赤星さんに少しだけ元気が戻ったように僕は見えた。
「しかし、だとしたらリンブルバットはどこに居たのかが不明だ。ボタンを押し、床扉を閉めたのがリンブルバットなら中にいなくては不自然だ」
「...確かに...もし中に居たなら久礼君が気がつくはず...」
そう、それが謎だ。久礼くんの言葉を信じるなら、リンブルバットは地下室にいなかったことになる。でも本当にそうかな? もしかしたらどこかにあるのかもしれない。彼の目を掻い潜る盲点が。
「リンブルバットがどこにいたのか、それを解明しよう」
「ハナっから久礼の嘘っつうことはねぇのか? 実は最初からいたとかな」
「そんな嘘、意味あるの?」
「地下室にいたとすると...カメラの死角にいたとかっすか?」
「それとも他に隠れられる場所とか?」
「...例えば服の下とか...」
「うーん、どうなんだろう?」
「天井に張り付いていたとかはどうぜよ?」
「コウモリかな? リンブル"バット"ってそう言う意味じゃないでしょ」
「普通に久礼が見逃していたとかないの?」
「さすがにないとは思うっすけど」
「ないに決まっている。いい加減にしろ」
足立の白衣–同意→服の下
「そうだ。その可能性があった!」
「...本当にそうなんだ...」
「可能性は大いにあるよ。前に見たんだ。マオさんが白衣の下のポケットにリンブルバットを入れている所を」
僕は赤星さんとマオさん、そしてリンブルバットが仲良く遊んでいる光景を思い出す。
「安心して、衛ちゃん。リンブルバットちゃんならここにいるから」
「え?」
「それはどういう...」
困惑していると、マオさんは自分の着ている白衣に手をかけ、内側をはだけさせて見せた。
「ミャ〜〜〜」
「こういうことよ」
そこにはマオさんの白衣の内ポケットにすっぽりと収まってじっとしているリンブルバットの姿があった。
「えっ!?」
「えーーーーー!? そんなところにいたの!?」
「ふふっ、ごめんね」
「マオのいじわるー!」
「ミャ〜〜〜」
「その光景は赤星さんも目撃してるよね?」
「...うん」
「だとして、何で白衣の下に隠す必要があるんだ?」
「目の前にリンブルバットを目の敵にしていた鬼頭さんがいたからとか?」
「それかリンブルバットが白衣の下に帰りたかっただけかもね。すごく居心地良さそうにしてたから...」
「......リンブルバット.......マオ.......」
気持ちよさそうにポケットに収まっていたリンブルバット。凄く微笑ましい光景だった。赤星さんが可愛がっていた理由も分かる。
だからこそ...もう会えない事実に胸が締め付けられる思いになった。
「で? だから何だ。結局クロは誰になるんだ? まさかのネコか?」
そんな中、この状況を招いた彼が口を開いた。
「どうなんだモノクマ。その場合、投票はどうなる?」
「残念ながら他の生物がクロという場合はありません! クロはオマエラ16人の中の誰か。絶対にこれは揺るがないよ」
「じゃ、じゃあどうなるんすか? この場合...クロは...?」
「待って。足立くんの狙いがわかったかも」
平子さんが唐突にそう言った。 狙い? なんだろう?
僕は、彼女の次の言葉を待った。
「鬼頭さんを殺したのは足立くん。そしてその足立くんは窒息死。今回のクロは足立くんを殺した人物。となると直接的に窒息死に追い込んだ何者かがクロになるけど、それに該当するのはリンブルバット。ならば間接的にでも死に追い込んだ人物がクロだとモノクマも言っていた」
「このデスゲームは元々袋小路。仮に生き残ったとしても学級裁判で処刑されてしまう。そんな状況でみんなならどう行動する? 潔く死を受け入れる? それとも...」
「...まさか道連れ...?」
道連れ? それってつまり......。
「久礼爽をクロにし、学級裁判で処刑させる。それが鬼頭ちはると足立猫の狙いか」
「............なんだと?」
その声音は僅かに震えていた。
「流石ね、勅使河原さん。そう、それなら鬼頭さんが死を受け入れた理由もリンブルバットを殺した人物も見えてくる」
平子さんは腕を組み直すと僕らにその推理を聞かせてくれた。
「足立くんは取引したのよ。リンブルバットを殺す代わりに死を受け入れて欲しいと。そうすることで犯人に一矢報いることができるって」
「足立が鬼頭の目的を代わりに果たしたっつうことか」
「...つまりリンブルバットを殺したのはマオさん...?」
「そんな...マオがリンブルバットを......うそだよそんな.......」
「赤星...」
「そんなの...あんまりだよ......ひっ...あ...うあああああああああああんんんん!!」
悲痛な叫びが裁判場に響き渡る。
「そうだ! そんなデタラメ通るかっ!」
「デタラメ?」
「そうだろう? 俺は見てたんだぞ。別室であの二人の様子をずっとな! 俺に気付かれずになんてできるワケがないだろ!」
初めて見た彼の明確な焦り。
それは紛れもなくこの推理が与太話でないことを指していた。
彼の反論が飛んでくるだろう。
それを打ち崩さないと僕らに未来はない。
「アダチとキトウが結託? あり得ないな。たとえすぐ散る命だとしても目先の生き残れる道を捨てて、そんな賭けみたいなことに全てを委ねることなんて出来やしない。俺は散々見てきた。人が醜くも命に縋り付く様を。それが人の本質だ。ゲームマスターに楯突いてる余裕なんてねェんだよ!」
「それは二人を甘く見過ぎだよ。鬼頭さんもマオさんも強い。助けられた場面も何度もあった。そこのモノクマに立ち向かったことすらあった。人の本質って...君に何がわかるんだ。デスゲームを強いて無理矢理殺し合いをさせて...そんなのモノクマと何も変わらない。そんなことをして何がわかる? 君に、君なんかに彼女たちの何がわかるんだよ!」
「御託も大概にしろよ、クルト。俺は全て監視カメラで見ていたんだ。確かに声は聞こえなかったが、それでも十分だ。俺はモニターから目を離さなかった、片時もな。そんな俺の目の前で俺を出し抜こうなんて出来るワケがない。俺は超高校級のゲームマスター、久礼爽だぞ。あんまり俺を嘗めるなよ。エセ王子」
何を言われようと関係ない。
君がどれだけ凄くても関係ない。
僕は君を論破する。
それでこの悲しい話が終わるなら。
監視カメラの位置ー論破→全て監視カメラで見ていた
「これで君の言葉を斬る」
「全て監視カメラで見ていた。それはあり得ないよ、久礼くん」
「...は?」
「あの監視カメラの位置は、マオさん側の壁にあった。鬼頭さんから見るとマオさん側の左上の隅。つまりマオさんはほぼ後ろ姿しか映っていなかったはず」
「何が言いたい?」
「君にこう見えていたはずだ。マオさんが鬼頭さんを撃ち殺した後、自殺した。なんでそう見えたのか...それは流血していたからだ。それをマオさんのモノだと錯覚したんだ」
「......あ?」
「実際はその血はリンブルバット。マオちゃんがリンブルバットを撃ち殺した理由は、死んだことを誤認させるため?」
「なるほど。そうすれば足立猫はいずれ窒息死する。そうすれば、犯人はその窒息死の原因を作った久礼爽ということになる」
久礼くんの頬に汗が滲む。
「は?」
「まだ何かある?」
「あるに決まってんだろ...ふさげんな! あり得るワケないだろそんなこと!! 冗談じゃねぇぞ!!」
淡々と説明していたさっきの態度とは裏腹に、声を荒げ、証言台から身を乗り出していた。
「俺は...俺はこんな所で立ち止まれねぇんだよ!!!」
何があっても止める。止めなきゃいけない。
もうこれ以上、ゲームマスターの好きになんてさせない。
「ふさげんな」
「そんなもんはテキトーに」
「点と点を結んでるだけだ」
「憶測、憶測、憶測、全部そうだろ?」
「俺がクロだって言うなら」
「確かな証拠を出してみろよ」
「無理だろ? 所詮は探偵ごっこの浅知恵だ」
「それとなく、それっぽく理屈を並べてるだけだ」
「ネコが閉めただ?」
「キトウとアダチが結託しただ?」
「寝言は寝て言え」
「俺は超高校級のゲームマスター」
「久礼爽」
「俺がクロになる確率なんざ万に一つもないんだよ!!!」
「俺が犯人というなら」
「証拠を出してみろよ!!!」
捲し立ててくる彼を見て、虚しさすら感じる。
でも、容赦するワケにはいかない。
彼は仲間の命を弄んだ張本人なんだから。
「......あ?」
「あの二人に足枷を付けたのは久礼くん。間違いなく君だよね?」
「...そ、それがどうしたんだよ」
「そして君がいたゲームマスタールームは"足枷の遠隔解除"ができたはず。リンブルバットが床扉を閉めたとしたら...マオさんが窒息死した原因は、君が足枷を解かなかったこと。そうなるんじゃない?」
「...あ?」
「ある種の不真正不作為犯ね。しなかったことが罪となる。溺れる我が子を見殺しにすれば罪になるのと同じ。貴方が足立くんの足枷を解除すれば、彼は死なずに済んだかもしれない」
「観念しろ、久礼。おまんの負けぜよ」
「負け? 俺の?」
「決まってんだろ! テメェの負けだ」
「ふざけんな!! 結局リンブルバットが床扉を閉めたなんて全部お前らの妄想だろうが!! わかってんのか!? アカホシが閉めたなら直接的に殺してるのはアカホシの方だぞ!? 間違えればここにいる全員死ぬんだぞ!!」
言ってることは理解できる。確かに赤星さんが嘘をついていたら僕らは全員処刑だ。
でも...それでも...。
「妄想というには状況証拠は揃ってる気はするけど。最後に赤星さんにも聞いておきましょうか」
「...ぼ、ぼく?」
「無理に、とは言わないわ。でも貴方の口から聞きたいわ。先に逝ってしまった足立くん達の為にも」
「........ぼくは」
みんなが赤星さんの言葉を待つ。
そして...
「ぼくは犯人じゃない。床扉なんか閉めてない。そもそも外になんて出ていない。だって...マオと約束したから。夜時間は部屋から出ないって、約束したから。確かに証拠はない。だけど信じてほしい。マオのことを。マオが残してくれた希望を」
真っ直ぐ、そう言った。
「......くッ!そ、そうやって罪を逃れる気なんだろ? なぁ? そうなんだろう!!」
「幕之進。もうやめようよ。幕之進が何のためにこんなことをしたのかわからないけど、マオがリンブルバットを手に掛けてまで掴ませてくれた希望なんだ。...辛かったと思うんだ。誰よりも動物のことを愛していたから...。だから命を救う獣医になったんだって話もしてくれたから...ひっ.......」
そう語る赤星さんの声は震えていた。
「氏家じゃねぇって...言ってんだろ。だいたいそんな話、事件と何も関係ないだろ! ...くっ! いいのかお前ら!! 俺だけじゃない...間違えたら全員処刑なんだぞ!!」
「今までの推理の中で貴方と赤星さん。どちらがクロの可能性が高いか...もう貴方自身もわかってるのでは?」
「俺が...! 俺がクロになんてなるはずが...ない。俺はゲームマスターなんだぞ。そんなことあっていいワケが」
「そう、認めないのね。いいわ。なら最初からこの事件を振り返ってみる? 瑕疵があるというなら示してみなさい」
「.......くっ」
『介錯してやるのも友人の在り方としては悪くないと思うが』
議論の際、彼が口にした言葉だ。
久礼くん。
いや、僕が今まで接してきたのは間違いなく氏家くん。
確かに彼は仲間を殺した。でも友人だと思っていた。
ここを一緒に出て、外でも友達として.......。
介錯してやるのも友人の在り方の一つなら
僕は.....
「僕がやるよ。事件を最初から振り返ろう。...それで終わりにしよう」
僕の手で導く。彼を処刑台に。
ACT.1
どこで犯人が犯行を決心したかは分からない。でも恐らくこの出来事は外せないだろう。
萬屋くんと鮫島くんがとあるネコを砂漠から連れ帰ってきたことだ。そのネコはなんと赤星さんのペットだった。名前をリンブルバット。尻尾が二股に分かれた不思議なネコだった。
再会したのも束の間、鬼頭さんがリンブルバットを見るや否や攻撃しようと飛び掛かった。六車くんのおかげで防ぐことは出来たけど、鬼頭さんはこの一件で軟禁されることになったんだ。
ACT.2
その後、久礼くんはメダルを荒稼ぎできるゲームをプレイし、景品ガチャを沢山回した。その結果、『秘密の隠し部屋』なる場所の地図をゲットした。向かうとそこはデスゲーム用の地下室があり、その部屋にあった鍵でゲームマスタールームの扉を開いた。
そこでその部屋の全貌を知った犯人は、ある計画を立てた。動機は分からない。でも一つ言えることは、それを実行に移せる行動力があった。なぜなら、犯人の本当の顔は超高校級のゲームマスターだったからだ。
ACT.3
次に犯人は何らかの方法で部屋から呼び出し、マオさんを殴打、気絶させた。その際にリンブルバットが外に逃げたのかも。次にそのマオさんが持っていた麻酔銃で呼び出した鬼頭さんを昏睡させた。そして、二人をあの地下室に運び込んだ。
二人に足枷を付けた後に、犯人は次善の策のため、赤星さんの部屋に向かい、手紙を扉の下から渡した。内容は、リンブルバットが逃げたからオアシスドームの中にある床扉を閉めてほしいというもの。しかし、赤星さんは外に出なかった。マオさんとの約束があったから。
ACT.4
その間、リンブルバットは偶然にも床扉のボタンを押し、扉を閉めてしまったんだと思う。その際に地下室に入り、マオさんの白衣の下に隠れた。
起こされた二人は犯人の仕掛けたデスゲームについて聞かされたはず。内容は目の前の相手をテーブルに置かれた拳銃で殺す。ちなみにこの拳銃、テーブルとコードで繋がっていて撃った後に元に戻る仕組みらしい。そして、もしどちらも殺さなかった場合は両方ともに窒息死する。そんな狂った仕組みの部屋だったんだ。
ACT.5
そんな中、恐らくマオさんがとある提案をした。ここを生き残っても学級裁判で死ぬ。なら犯人に一矢報いないかと。マオさんは取引をした。それはリンブルバットを殺す代わりに射殺されること。幸いとして、リンブルバットの存在は犯人に気付かれていない。...鬼頭さんはそれを了承した。
マオさんは鬼頭さんを射殺、後に白衣の下にいたリンブルバットも射殺した。
死んだふりをしたマオさんから血が流れていることを確認した犯人は、ゲームマスタールームを後にした。足枷を解除せずに。そして、マオさんは窒息死した。犯人をクロにするべく立てたマオさんたちの決死の計画だったんだ......。
そんなことを知らずに宿舎へ帰った犯人は、死体を見つけて貰う為に、平子さんの部屋に地図を残した。
「自分がクロにならないように計画した犯人。その動機は分からない。でもモノクマのように仲間の命を弄んで殺すような真似を、僕は絶対に許せない。たとえどんな理由があっても...。その犯人は–––」
「"超高校級のガラス職人"氏家幕之進くんという偽りの仮面を被った"超高校級のゲームマスター"久礼爽くん。君だ。君がこの事件のクロだ」
「嘘だ...あり得ない...あり得ないあり得ないあり得ない!!!!! そんなことが真実であってたまるかよ!!!」
「いくら吠えてもこれが私たちの推理。もう覆しようはないわ」
「覆しようはないだと? ふざけんな!!こんな結論認めねぇぞ!!」
「認めなくても私たちの気持ちは変わらないわ。投票先も決まってる。みんなの顔を見てみなさい」
久礼くんは裁判場を見回した。
彼を見る、いや睨む目がいくつも光っていた。
「お前ら......」
「もう終わりにしよう」
「その言葉は投票してもいいって受け取っていいんだね? やっちゃうよ〜?」
「うん」
「じゃあクロだと思う生徒に投票してくださーい!!」
「待てよ!!!! おい!! お前ら!! ふざけんなっ!!おい!! おい!! くっ...くそが!! ああああああああああああぁぁぁあああああああああ!!!!!!」
僕は久礼くんのボタンを押した。
投票結果は、久礼くん多数。
「あ...あああ......あああああ.......こんなの認めない...やり直しだ...やり直しさせろ」
「残念ね。ここは三審制じゃないの。控訴も上告もできない」
「くっ......」
「投票の結果、クロになるのは誰か!? その答えは正解なのか不正解なのかー!?」
ルーレットの映像が流れる。光の矢印が示した先は氏家くんの格好をした久礼くんのイラストだった。
「これで終わりね...」
平子さんがそう小さく呟いた。
「......嘘だろ、こんな結末」
証言台から崩れ落ちる彼を見て、ようやくこの裁判が終わったことを実感した。
それと同時にこの後起きることが頭を過り、戦慄した。
悪夢はまだ終わらないのか。
次回、オシオキ編へ続く。