ダンガンロンパExtraWorld 〜砂漠のコロシアイ学園生活〜   作:magone

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第4章 (非)日常編 II

 

〜萬屋千歳、砂漠にて〜

 

 

3度目の学級裁判が行われた翌日、僕と鮫島君は再び砂漠へと赴いていた。

理由は、砂漠の出口を見つけるため、そして全員で脱出するを図る際に必要になるであろう中継拠点を岩山に設営するため。

 

 

学園を出て、約12時間後。その拠点を作る岩山までもう一度来ることができた。

 

 

「はぁ...はぁ...長い道のりだったぜよ...一度来た道とは言え、さすがに体力の限界じゃ...」

「...そうだね...途中砂嵐にも遭ったしね...でもこれでようやく拠点作りが出来る...」

 

 

非常に歩きにくい足下が体力精神共に疲弊させる。加えて肌を焼く暑さ、そして砂嵐。

 

この厳しい環境下を生き抜くためにはやはり中継の拠点は不可欠。しかも鮫島君はともかく学園にいる仲間は素人なのだから尚更。

 

 

「早う拠点作ってしまうぜよ」

「...うん...」

「それじゃあ前にわしらが夜を明かした横穴を探すか」

「...そうだね...」

 

 

例の横穴。リンブルバットを見つけたあの場所だ。不自然だとは思ったけど、まさか赤星さんの飼い猫だったなんて。僕はまんまと"敵"の策略に嵌まってしまったってことだ。

 

 

「...鮫島君...」

「ん? なんぜよ」

「...リンブルバットの件でこの岩山も敵の手中だってことがわかった...。...つまりここも監視されているかもしれない...。...もしかしたらこの作業も水泡に帰すかもしれない...」

「何が言いたいんじゃ?」

「...全て黒幕の掌の上だとしたら、僕らがこうすることも計画の内...。...リンブルバットを持ち帰らしたように次のコロシアイにも何かしらの形で利用されてしまうかもしれない...。...それでも砂漠攻略の作業を続けるべきだと思う...?」

 

 

僕は不安を吐露した。

 

そもそも砂漠に出ることも校則で認められていた。ということは、極論全員で学園から出ていっても問題ないってことだ。それはつまり...コロシアイからは逃げられないと敵が考えているということ。こんな状況で本当に脱出なんて出来るのだろうか。

 

そんな思いがふと頭を過ぎったからだ。

 

 

「...わからん。じゃがのう、ここで止めるワケにはいかんじゃろ。そんなことしてみるぜよ、いよいよもって希望が潰え、ただただコロシアイに怯える日々が到来するだけじゃ。そんなことになるくらいなら、微かでも良いから脱出の糸口を見つけることに全力を投じるべきだと、わしは思うがのう」

 

 

その通りだ。たとえモノクマの陰謀があったとしても砂漠から脱出する計画を止めてはいけない。それはつまり希望を捨てるに等しい。絶望に飲まれ、コロシアイに手を染める仲間が出てくるかもしれない。それは絶対にダメだ。

 

 

「...そうだね...ごめん...」

「謝ることはないぜよ。言っとることはわかる。じゃが、諦観するにはまだ早い。足掻けるだけ足掻いてみるぜよ!」

「...うん...!」

 

 

鮫島君は頼もしい。こんな状況でもそう言った思考になれる人間は決まって強い精神力を持っている。やっぱり僕なんかよりよっぽど"希望"に相応しい。そう思わずにはいられない。

 

 

「にしても中々見つからんのう。この辺じゃなかったか?」

「...僕もこの辺だと思うけど...うーん...」

 

 

例の横穴を探すこと十数分。ようやくそれを見つけられた。

 

 

「あったぜよ! ったく砂で隠れとったんか」

「...そうみたいだね...何か目印でも置いておけば良かったね...」

「うむ...そうじゃ! それならこの旗を使うぜよ」

「...それは...?」

「大漁旗ぜよ。なんとなくいつも携行していたんじゃが、他に使い道もないしのう」

「...いいの...? ...大切なものなんじゃ...」

「確かに捨て置くには惜しいが、問題ないぜよ。使える物は使う。サバイバルでは常識。そうだろ?」

 

 

そう言うと鮫島君は横穴の入り口の真上にあった窪みにその旗を差し、紐で括りつけてみせた。

 

風で棚引く大漁旗は、砂漠には酷く似つかわしくなく、それが逆に目を引く印に成り得た。

 

 

「こんなもんか」

「...次来る時はこれで迷わないね...」

「おうよ! んじゃとっとと拠点も作ってしまうぜよ」

 

 

僕らは横穴に入り、拠点作りを始めた。

 

これが終われば、また明日...学園へと戻る。モノパッドに何も通知がないということはまだコロシアイは起きていないってこと。もう仲間の死をファイル越しに見たくない。何事もないことを祈るばかりだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜クルト、食堂にて〜

 

 

 

夕方。新エリアの探索を終えた僕らは、食堂にいつもの如く集合していた。

 

 

「それじゃあ報告会を始めるわね。今回はどんな施設があったかしら?」

「ぼくから言っていいかな?」

「いいわよ」

「うん! あのね! なんとあのエレベーターの到達地点は天文台だったの!」

「天文台...。具体的には何があったの?」

「凄く大きな望遠鏡があったよ! こんな天文台が近くにあったならぼくなら通い詰めちゃうね」

「望遠鏡ね。星は見られた?」

「いやまだなんだ。観測しようとしたら砂嵐が来たらしくて強制的に天井が閉じて無理になったんだ...」

「砂嵐が来たなら当然の処置かもね。でないと天文台が砂まみれになってしまうもの」

「他にはないのか?」

「プラネタリウムがあったぞ。非常に居心地が良く、眠るには最適だった」

「眠るな! ちゃんと探索しやがれ!」

「まぁまぁ。探索なら私がしましたっすからね。とは言ってもこれと言って何かあったってワケじゃないっすね。薄暗かったですし。強いて言えば素晴らしいイケボのナレーションがあったぐらいで」

 

 

そう言う古畑さんの顔は心なしか嬉しそうに見えた。

 

 

「まぁ要するに使えそうなもんは何もなかったんだな」

「そっちはどうなの? 何かあった?」

「私が調べた方は何もなかったわ。多分まだ解放されていない場所ね」

「そう。解放されないことを祈るわ」

「アンタ達が探索しようとしてたあの工場みたいな場所は何かあったの?」

「...そう、ね。あったわ、色々と。でもまずは......」

「ああ。彼奴のことを言わねーとな」

「彼奴?」

「キャッキャッキャ! それはトーホーの事メルね!」

 

 

唐突に現れた小さな影。それに僕は先程出会ってしまった。

 

よく喋る謎の小さな白黒のラクダだ。

 

 

「ななな何すか!? このモノクマの亜種みたいな存在は!!」

「亜種ではないメル! トーホーは工場長モノラクダ! 独自の進化を遂げたワケではないメル!」

「モノ...ラクダ?」

「モノクマの仲間が増えたってことなの...?」

「まぁ、そう言うことだろうな」

「はぁ...」

 

 

ただでさえ落ち着けない環境下なのに更に面倒ごとが増える...溜息が出るのもしょうがないと思う。

 

 

そんな中で甲高い声が聞こえてきた。

もう一匹の謎の存在。モノクマだ。

 

 

「モノラクダ!」

「モノクマ...! 何の用メルか! 今はトーホーの紹介をしている所メルよ!」

「紹介なんてどうだっていいよ。それよりオマエだよ! まさかとは思うけどボクの立ち位置を奪うつもりじゃないだろうねぇ!」

「奪う? キャッキャッキャ! 奪うも何もトーホーはオマエより偉いのだからどうしようとトーホーの勝手メルよ」

「ぶっひゃひゃひゃひゃ!! コイツは傑作だよ! 学園長と工場長じゃ学園長の方が偉いに決まってんじゃん」

「なに!? 工場長の方が学園長より偉いに決まってるメルよ!! そんなことも分からないメルか!!」

「うるさいッ!! 四足歩行の癖に!!」

「歩行形態は関係ないメル〜!!」

「...こうなったら! 六車クンに決めてもらおうか!」

「そうメルね!! 六車クンはどっちが偉いと思うメルか!!」

「は? 何で俺だよ!」

 

 

何故か六車くんは二匹の争いに巻き込まれた。

 

 

「どっっっちでもいいわ!! テメェら同列のクソヤローだろうが!」

「酷いメル! トーホーはまだ恨まれることは何もしていないメル!!」

「"まだ"ってことは、これからやるつもりではあるんすね...」

「ふん! とにかく学園長の方が偉いのは周知の事実なんだよ! わかったらとっとと工場へ戻ってろ!」

「言われずとも自己紹介を終えれば帰るつもりだったメルよ!」

「語尾にメルって...キャラ付けに必死過ぎて草。そんなに覚えてもらえるのが不安かい? ま、そんな心持ちじゃ一生無理クマね〜」

「あっ、変な語尾キャラが移ってる」

 

 

そんなやり取りを重ね、ようやく二匹ともいなくなり、暫しの平穏を取り戻した。

 

 

「全く...頭が痛いわ。本当に...」

「1が2に増えただけだ。大したことじゃない。それより私は"工場"というのが気になる。一体それは何だ?」

「ああ、それな。アレだってよ。エグイサルとか言うロボットの工場だとよ」

「エグイサル!? それってあの電皇が倒した?」

「そうよ。そしてその後に新しく出てきたエグイサルをそこで作っていたらしいわ。さっきのモノラクダはそこの工場長」

「なるほど。工場長とはそう言うことだったんすね〜」

「だけど今は起動してないみたい。受注がないと作れないらしいわ。それ以外だと古い型のエグイサルなら奥の倉庫にあったわ」

「一応、乗れる型もあるらしいが、止められた。危ないからってな」

「後は...そうね。その倉庫に壁にボタンがあったわ。モノラクダに聞いた結果、それは外への扉のボタンだと言うことがわかったわ」

「外への? 砂漠ってこと?」

「そうだと思うわ。砂嵐が来てるから押すのは止められたけどね」

「砂漠への出入り口が増えたって感じかな」

 

 

出入り口が2つか。一応、頭には入れておこう。

 

 

「だいたいこんなとこっすかね?」

「そうね」

「取り敢えず腹減った。飯食おうぜ飯」

「ぼくもお腹空いちゃった〜!」

 

 

探索で空腹だった腹を満たし、それぞれ食堂を後にしていった。僕は食後に少しだけ散歩してからそのまま自室へと戻った。今日はもうこのまま終わるのだろうと思い、ゆるりと寝支度を整えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜赤星衛、天文台にて〜

 

 

夕食を終えたぼくは「今後こそ!」と意気込み、天体観測をすべく、天文台に来ていた。

 

日も暮れ、辺りはすっかり暗くなっていた。

急がないと夜時間になってしまう。野々葉の放送が始まる前には帰りたい。

焦りを感じつつ、ぼくは天井の開閉ボタンを押した。

 

ゆっくりと開いていく天井。

 

良かった! どうやら砂嵐は止んだようだった。

 

 

「よし! よし!」

 

 

ここに来て、ゆっくりと星を眺めるのは初めてだった。学園の空はハリボテ。砂漠にはそもそもあまり出ないようにしていたからね。

 

久々の本物の夜空を前にぼくは興奮を抑えられないでいた。

 

 

「満点の星空!! 都会とはやっぱり見え方が違うね〜! うん!うん!」

 

 

燦然と輝く星空。時折、流れ星も見えた。

 

 

「マオ、リンブルバット......ちはる、電皇、萌華、十司郎、雨城......そして幕之進と爽も。みんな安らかにね」

 

 

ぼくは星になったみんなのことを思い、手を合わせた。

こんなことをするつもりはなかったけど、暗闇に輝く星々を眺めていると不思議とそうしたくなった。

 

 

「よし。それじゃあ、観測ターイム! 楽しみ〜!」

 

 

望遠鏡を覗き込む。きっと莫大なお金が投入されてるに違いない。そう考えると益々犯人たちの懐事情がどうなっているか興味もちょっとあるけど、今はそんなことどうでもいい。

 

最後に心を癒してくれるのは何万光年も離れた光り輝く星たちだけだ。

 

 

「おー! 久方ぶりのスターライト! まるでぼくを歓迎してくれるかのような!」

 

 

昂り、思わず声に出る。マモリンスターたちは今日も元気だろうか。手近な星から観測を始めてみようかな。

 

 

「どれどれ。お? これは...」

 

 

ベガ。デネブとアルタイルと共に夏の大三角形を形成すること座のα星。

 

ということは、今は夏? いや6月あたり? ぼくたちが入学前と考えると、少なくとも誘拐されて2、3ヶ月は経ってるってことかな?

 

 

「早く帰りたいよ全く」

 

 

そう呟いた後、ふとある事に気が付いた。

 

 

......ん? あれ? あれれ?

 

これは...ん? え? .......どういうこと?

 

 

 

なんで?

 

 

 

日本と星空が変わらないの......?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜クルト、自室にて〜

 

 

 

『おはようございます!古畑野々葉が午前7時をお知らせするっす! 良い朝ですね。まさに希望〜の〜朝〜って感じです! 順調なら今日の夕方にも萬屋くんと鮫島くんが砂漠から帰還する予定ですね。その時はうんと労ってあげましょう! ここから脱出できる日も遠くないはず。みんなそれまで元気に生き抜きましょう! ではでは、また食堂でお会いしましょう! 古畑野々葉がお送りしましたっす!』

 

 

 

古畑さんの元気な放送が聞こえる。どうやら今日も無事に朝を迎えられたようだ。

 

 

「よし。準備しよ」

 

 

食堂に向かう用意を整え、自室の扉を開けた。

 

外には誰もいなかったが、一つ不自然に見える箇所が目に飛び込んで来た。

 

 

「あれは...勅使河原さんの部屋? 扉が開いてる?」

 

 

ちょっと気になって数十秒ほど勅使河原さんが部屋から出てくるのを待ってみた。

 

しかし、姿は現さなかった。

 

嫌な予感がした。そして、少し考えてみた。あの寝坊上等の勅使河原さんがこんなに朝早くから活動するだろうか? いやない。絶対にあり得ない。ということはあの部屋の扉が開いてるって意味って......。

 

最悪の想像が頭をよぎる。

 

眠気が吹き飛んだ。僕は急いで勅使河原さんの部屋を確認すべく走り出した。

 

 

「勅使河原さん...!」

 

 

名前を叫び、部屋の中へと入る。

女性の部屋だと少し躊躇われたが、そんなこと言っている状況じゃない。

 

取り敢えず、ベッドの方に向かった。

 

すると、そこには仰向けに横たわる勅使河原さんがいた。

 

 

「勅使河原...さん?」

「はぁ......ふぅ.......」

 

 

近付いてみると彼女は気持ちよさそうに寝息をたて、眠っていた。

 

 

良かった...杞憂だったか...。

 

ほっと胸を撫で下ろす。安心して部屋を去ろうとしたその時だった。寝ている勅使河原さんに腕を掴まれ、そのままベッドへと引きづり込まれてしまった。

 

 

「えっ...? ちょっと...勅使河原さん!」

 

 

そこそこ大きな声を上げてみるが、全く起きる気配がない。まずい。非常にまずい。こんな所...誰かに見られたら同衾していたのかと疑われかねない! 一刻も早くこの状況から逃れなくては...!

 

 

「て、勅使河原さん...!」

 

 

逃れようと力を入れる。けれどどうしても剥がせない。なんでこんなに力が強いの? ほんとに寝てるよね? それとも僕が非力なだけ?

 

 

「こ、これ以上はまずいよ! 勅使河原さん!!」

「うぅ...むにゃむにゃ...」

「ちょっ..!」

 

 

叫んだ瞬間、勅使河原さんは僕を抱き枕の如く抱き締めた。うるさい声を塞ぐかのように顔が胸に埋もれている。

 

 

「くるしい......」

「...むにゃむにゃ...むにゃむにゃ...」

 

 

急がないと! このままじゃ窒息するぅ...!

 

 

「.......うぅ......先生......」

 

 

先生? 寝言?

 

 

「ちょっと大丈夫!? クルトの叫び声が聞こえたんだけど!」

 

 

廊下の方から声がする。これは繭住さんの声だ...。

 

 

「.........」

 

 

「.........は?」

 

 

軽蔑の眼差しが向けられてる気がする。

それと同時に目が覚めたのか、僕は勅使河原さんから解放されていた。

 

 

「ん...うん...うぅ......はぁ〜〜〜、ん〜、ん? 何故、私のベッドにクルト・L・クルークハルトがいる?」

「クルト!」

「ち、違うよ! 何もないからね! 何もしてないからね!?」

 

 

この後、繭住さんの誤解を解くのに少しだけ時間がかかった。

...まあ、それにしても何事もなくて良かったよ。

複雑な思いを抱えながら、僕はとぼとぼと食堂へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっ! 男になったんだってな! クルト」

「何言ってるのかさっぱりわからないよ...」

「照れんなって」

「...意地悪」

 

 

早くも今朝の出来事が知れ渡っている。当の本人はどこ吹く風のようだけど...。

 

 

「勅使河原さん...何で扉が開いていたの? 何かあったんじゃないかと思ってビックリしちゃったよ...」

「すまなかったな。昨日は早く就寝しようと思い、ベッドへ一直線だった。その際に扉を閉め忘れたのだろう」

「いや〜さすがに怖いっすよ。コロシアイ以前に乙女の部屋をそんな不用心に...。気を付けないとオオカミが入ってくるかもしれないっすよ」

「狼? そんな生物が生息していたのは知らなかった」

「比喩! っすよ!」

 

 

冗談なのか本気なのか...。

勅使河原さんの思考は読めない...。

 

 

「ま、クルトにそんな度胸はないと思うから一応は信じるけど。今度は人を呼びなさいよ」

「はい...肝に銘じます」

 

 

ジト目の繭住さんに責められながら、僕は朝食を食べた。

 

 

「赤星さん、何か考え事してる?」

 

 

ふと平子さんがそう言った。確かにいつもの彼女より少しばかり口数が少ないように思えた。

 

 

「あ、やっぱりわかっちゃった?」

「ちょっと気になっただけよ」

「ぼく、顔に出るタイプだからね。うん。....それとやっぱり考えてもイマイチ整理できなかったから、みんなにさ、言ってもいい?」

「構わないわよ」

 

 

何だろう? もしかして何かに気が付いたのだろうか。

コーヒーを飲む手を止めて、彼女の言葉を待った。

 

 

「えーと。昨日さ、夜時間前に天体観測をしようと天文台に向かったんだ。そこでね、思ったんだよね」

「何を?」

「"この星空、日本と変わらない"って...」

「それは...どういうこと?」

「ここは日本かそれとも同緯度にある他の場所ってこと?」

「そう! つまりそうなんだ」

「場所が絞れたってことか! ならここがどこだか分かるかもしれねぇな!」

 

 

日本と同じ見え方の星空。日本と同じ緯度に僕らが閉じ込められた砂漠がある。そういうことでいいんだよね?

 

 

「よし! そうと決まれば図書室で地図見つけっか! もっと候補を絞れるはずだ!」

 

 

六車くんはトーストを口に詰め込むと、勢いよく食堂から飛び出していった。

 

 

「なら私たちも行きましょう。彼みたく早食いする必要はないけどね」

 

 

諸々の片付けを終えると、僕らは図書室に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うん! よくわからん!」

「バカ」

「あ゛?」

 

 

世界地図を前に考え込む六車くんに向かい、辛辣な言葉を投げつける繭住さん。

 

 

「喧嘩しないで。こういうのに一番詳しいのは萬屋くんよ。そんな彼は以前に"こんな砂漠は見たことがない"と言っていた。絞り込めたとはいえ、未だ不明なことだらけ。わからないのも当然よ」

「ほらな!」

「アンタの態度がバカっぽいって言ったのよ」

「あ゛?」

 

 

やはり難しいのか。いや仕方ない。絞り込めただけでも前進したと考えるべきだ。

 

 

「ねぇねぇ、これからどうする?」

「取り敢えずは、自由行動でいいんじゃない? 萬屋たちが戻るまでやることはないんだし」

「そうっすね。それまでは各自やりたいことやりましょう」

 

 

自由行動の時間が来た。各々やりたいことがあるのか、図書室から足早に退室していった。

 

 

「さて、どうしようかな」

 

 

これと言ってやりたいこともないが、さっき平子さんが言ってた砂漠への扉が少し気になる。モノラクダに出くわすかもしれないけど、直接的な害はないだろうし、まぁ大丈夫だろう。

 

 

僕は図書館を出たその足で工場へと向かった。

 

 

「よく来たメルね! クルトクン! そんなこの工場がお気に召したメルか!」

 

 

そんな事はない。

工場の前まで来ると、モノラクダが出迎えてくれた。

 

 

「僕は気になる事があっただけだよ。奥に扉があるって聞いたんだけど」

「あるメルよ。あるメルけど、扉を開けるのは遠慮して欲しいメル」

「どうして?」

「こっちは向こうの扉より設備が整ってないメル。開けたら砂が工場に入ってくるかもしれないメル。それを掃除するのは誰だと思ってるメル! 工場長手ずからやらなきゃいけないメルよ!」

 

 

ぷんすかと怒り気味にモノラクダはそう言う。

正直、知った事ではないが、なんとなく可哀想な気もする。

 

 

「じゃあ、その扉は開くってことでいいんだね?」

「開くは開くメルよ。まぁ、トーホーもコロシアイに利用したいと言うなら全然ウェルカムメルけどね!」

 

 

やはりコイツもモノクマの仲間だ。コロシアイに積極的...絶対に信用してはいけない。

 

 

「ん? もう帰るメルか? トーホーのエグイサルコレクションを堪能しないメル?」

「堪能しない。じゃあね」

 

 

工場に背を向け、校舎へと向かう。

 

しかし、どうしよう。することが思い付かない。

そう思い、空を見上げると天へ伸びるエレベーターが目に入った。

 

天文台にでも行ってみようかな。

 

 

 

着くと、巨大望遠鏡の周りには誰もいなかった。一応、プラネタリウムの部屋も見てみることにした。

 

扉を開けた瞬間、誰かの声が聞こえた。

 

 

「プラネタリウムルームって涼しいわね。すっごく居心地良い〜」

「そうでしょ? オアシスも捨て難いっすけどここも中々の避暑地じゃないっすか?」

「祈里なんてもう寝ちゃったしね〜」

「...はぁ...ふぅ...はぁ...ふぅ...」

 

 

どうやら、繭住さんと古畑さんと赤星さん、そして勅使河原さんがいるようだ。

 

 

「おや? クルトくんじゃないっすか! クルトくんもプラネタリウムを見に来たんすか?」

「まぁ、そんなとこかな」

「凄く良いタイミング! これからナレーションが始まるところよ。クルトも一緒に見よ」

「邪魔じゃない?」

「全然。だよね?」

「もち! 星に興味あるってのは大歓迎!」

 

 

そんな感じでみんなとプラネタリウムを見ることになった。それにしてもプラネタリウムなんて小さい頃に見たっきりだな。記憶も朧気だし、意外と楽しみかも。

 

 

寝ている勅使河原さんの横に座り、星を見る。

すると数秒後、幻想的なBGMとナレーターの声が聞こえてきた。

 

 

『星空。それは私たちの心を原初から癒してきた根源的な光の粒。古来から世界は目まぐるしく変化していき、それは今の世界も同様です。そんな世界で昔から変わらないモノが一つ、それが星空です。そして...今宵は皆さんをそんな星空の物語へとご案内しましょう』

 

 

「イケボだぁ...」

「古畑、静かにね」

 

 

確かに良い声だ。油断していると眠ってしまうかもしれないほどの心地良さ。そして、この綺麗な星空。昼間でもこうやって楽しめるのは良いね。

 

 

その後もナレーションは続き、宇宙の成り立ちや神秘、さらに星座解説もあるボリュームたっぷりの内容だ。

 

 

そして、上映が終わると部屋は明るくなっていった。

 

 

「いや〜良かったっすね〜。こんなにイケボを堪能したのは久々っす〜。願わくば今度は女の子のカワイイボイスも聴きたいっすね〜」

「目的が変わってるじゃない。星を見に来たんじゃなかったっけ?」

「......はぁ......ふぅ......」

「いやもう一人いたわ。目的が違う奴が」

 

 

明るくなっても尚も起きる様子を見せない勅使河原さんはもはや尊敬の域にいるのかもしれない。

 

 

「いやでも楽しかったー! ぼくもプラネタリウム自体は久々だったからさ〜、星座の解説とかもおさらいするいい機会だった〜! やっぱ星は良いね。ねっ!」

「うん。そうだね。楽しかったよ」

 

 

感じ方の違いはあれど、みんなそれぞれプラネタリウムを楽しんだようだ。

勅使河原さんを何とか起こし、プラネタリウムを出て、僕らはエレベーターに乗り込んだ。

 

そろそろ良い時間だ。もしかしたら萬屋くんたちが砂漠から戻ってきてるかもしれない。

そう予想しながら、エレベーターが開くのを待った。

 

 

扉が開き、エレベーターから出る。

そして、屋上から宿舎の方を見てみると4人の人影が見えた。うち2人は平子さんと六車くんだ。ということは...。

 

 

「帰ってきたんだ!!」

 

 

僕らは急いで宿舎へ向かった。

そこには砂に塗れた萬屋くんと鮫島くんの姿があった。

 

 

「萬屋くん! 鮫島くん! お疲れ様!」

「お? クルトか! 生きておって何よりぜよ」

「...無事拠点を作ってきた...これで今すぐ脱出してもとりあえずは安心...」

「本当にありがとう。貴方たちがいなかったら今頃どうなっていたか」

「...これは勅使河原さんの知恵の賜物...僕らだけじゃこうは出来ないよ...」

 

 

そうは言っても萬屋くんたちがいないとこんなことも出来ない。最悪、アテもなく砂漠を彷徨うしかなくなる。それを回避できるだけでも充分だと思う。

 

 

「萬屋千歳。変わりないか?」

「...うん、大丈夫...」

「そうか。それはよかった」

 

 

勅使河原さんと萬屋くんの2人らしいやりとりも見れて少し微笑ましくなった。

 

 

「先に風呂に入りたいぜよ。砂まみれで気持ちが悪い」

「そうだね。じゃあご飯を作っていようか。2人はシャワーを浴びてきて」

「すまんな。それじゃ頼むぜよ」

「飯の後に解放された場所を教えてやるよ。俺らだけ知ってるっつうのも変だからな」

「おう」

「...じゃ、また後で...」

 

 

2人は自室に。残りのみんなは食堂に向かった。

 

 

 

ここから脱出する日も近い。

そう思うと少し晴れやかな気持ちになった。

 

帰るんだ、みんなで。この砂の地獄から。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうやら帰ってきたメルね。どうするメル?」

 

 

 

「どうするって決まってるよ。充分に"希望"は見せた。なら今度は"絶望"を見てもらわなくちゃ釣り合いが取れない」

 

 

 

「キャッキャッキャ! さてはおっそろしい事を考えてるメルね〜。まぁ、楽しみにしてるメルよ。オマエがどれだけえげつない手を使うか」

 

 

 

「まぁ、見てなよ。"絶望"は最高だって見せてあげるからさ。ぶっひゃひゃひゃひゃひゃ!!!」

 

 

 

 

 




次回で4章の日常は終わりです。
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