ダンガンロンパExtraWorld 〜砂漠のコロシアイ学園生活〜   作:magone

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前回からの流れでほぼ繭住視点でお送りします。


第4章 非日常編 捜査

 

 

 

結局、こういうことになっちゃうのか......。

 

 

 

心の中で諦観めいた思いがこだまする。それと同時に悲しみと絶望が空腹で弱った身体に襲い掛かる。

 

萬屋が死んだ。

 

それは私たちの思う以上に希望を失わせるには充分な事実だった。

 

 

「萬屋...そんな...」

 

 

エレベーターを降りて、うつ伏せで倒れている萬屋の亡骸に近寄る。服の上から血が滲んでいる。

 

 

「千歳......ああ.......」

「なしてこんなことになっているんぜよ...!」

「萬屋くん......」

 

みんな口々に誰と会話するでもなく呟く。

呆然としていると次々と放送を聞いた面々が到着していった。その中には古畑もいた。どうやらクルトも古畑もあの変な感じではなくなっているようで、それは少しだけ安心した。

 

 

「うぷぷ」

「キャッキャッキャ」

 

 

まだ全員が揃っていない中、モノクマとモノラクダの2体が私たちの目の前に現れ出た。

 

 

「あれ? まだ全員揃ってないメルか?」

 

 

右前脚を目の上にやり、遠くを見る仕草をするモノラクダ。コイツの言う通り、まだ平子と勅使河原が到着していない。

 

 

「まっ、いっか! その内来るでしょ。死んでるワケじゃないんだしね〜」

 

 

萬屋の死体を前に言うことじゃない、なんてことを口にできるほど私にはもう余裕がなかった。

 

 

「どうせ例のファイルを渡しに来たんだろ。とっとと渡してとっとと消えろ」

「冷たーい! そんなこと言っていいのかな? 今日はその前にオマエラにプレゼントがあったのに」

 

 

プレゼント?

 

 

「プレゼントだと?」

「オマエラはご飯も水も摂ってなかったからね。このまま捜査に入っても満足な結果を得られないかもしれない。そんなことはこっちサイドも望んじゃいないからさ。だからこれ! はい!」

 

 

そう言って2体が差し出してきたモノはあんぱんと牛乳だった。

 

 

「これで体力を回復してしっかりと捜査に臨むメルよ。封鎖も全て解いているから安心してほしいメル」

 

 

勝手に封鎖しておいてなんて言い草。でもご飯は欲しい。今はとにかく空腹を満たさなきゃ萬屋の死の真相にも近付けない。

みんな無言であんぱんと牛乳を受け取った。

 

 

「久々の水分メルよ〜! 嬉しいメルよね〜! トーホーも勝手に断食断水していたメルから気持ちはわかるメルよ〜! あっでもトーホーは腐ってもラクダであるメルからこぶにエナジードリンクを溜め込んでいるので特段問題無かったメルね。てへっ!メル」

 

 

ツッコむ気も湧かない。みんな淡々とあんぱんと牛乳を平らげていく。

 

 

「ノリが悪いメルね〜」

「オマエのボケが面白くないんだよ。見てみろ! みな絶食したみたいな顔色じゃないか!」

「ボケじゃないメル!」

「あー!もう! うっせぇな! 早くファイル渡して失せろッ! ...っゴホゴホ!!」

「食べながら喋っちゃそうなるよ、六車クン。まっいいや。はいこれ、モノクマファイル。じゃ、あとは頑張ってねー!」

「トーホーも裁判場で待ってるメルよ〜! 楽しみにしてるメル〜」

 

 

モノパッドの通知音が鳴る。それと同時に2体は何処かへと消えて行った。

あんぱんと牛乳を食べ終えた私はとりあえず確認したいことがあってクルトに話しかけた。

 

 

「クルト、大丈夫?」

「繭住さん。...もう大丈夫っぽい。頭がすごくクラクラするけど」

 

 

やっぱり元通りだ。あの傲岸不遜な王子の姿はカケラもない。でも本調子ではないみたい。断食断水の影響のなのかそれとも?

 

 

「あのさ、食堂のこと覚えている?」

「......覚えてない。その言い方だと多分僕は繭住さんと会ってるんだよね。ごめん。記憶がすっぽり抜け落ちてるみたいで」

「記憶がない? それって––」

 

 

それについて訊ねようとした時、エレベーターの到着を告げるベルが鳴った。扉が開き、降りてきたのは平子と勅使河原だった。

 

 

「はっ......そう。萬屋くんが」

 

 

平子は目の前の光景に一瞬言葉を失ったけど、すぐに状況を理解した。

 

 

「勅使河原さん...」

「......」

 

 

勅使河原は無言で萬屋に近付いていく。私はその光景をただ眺めることしかできなかった。

 

 

「萬屋千歳」

 

 

そう呟くと勅使河原はうつ伏せで倒れている萬屋の目の前で屈んだ。

 

 

「そうか。もう君と対話することは2度と叶わないのか。萬屋千歳。...何故私はこんなにも苦しいのだろうか。何故私はこんなに痛いのだろうか。なぁ、萬屋千歳」

 

 

勅使河原......。

 

 

「私は何故......」

 

 

勅使河原は泣いていた。表情は崩してはない。いつもの通りの眠たげな瞳。だけど涙だけが両目から止めどなく流れ出していた。

その光景を見ているだけで私も涙が溢れ出ていた。

 

 

「勅使河原さん...」

 

 

平子が勅使河原の肩に手を置く。

 

 

「解っている。平子華月。現場を荒らしてはならないことぐらいは今の私にも理解できる。安心しろ。何も触れてはいない」

「ごめんなさい...」

「謝る必要はない。検死は君の領分だ。後は任せる」

 

 

そう言うと勅使河原は立ち上がってその場から遠ざかった。

 

 

「捜査、しましょう。私たちが生き残らなきゃ彼も浮かばれない」

 

 

その通りだ。萬屋の死があって、今私たちは生き残っている。紛れもない事実。でもその死を暴かないと先の未来に私たちは存在しなくなる。

 

捜査。私ももう4回目になる。今回、クルトの記憶がないということは古畑たちの記憶もない可能性が高い。比較的まともに頭が働く私が頑張らなきゃいけない。これまで以上に。

 

さあ、そろそろやらないと。

萬屋。アンタが死んだ理由、私たちが必ず明かしてみせるからね。

 

 

 

 

 

–––捜査開始–––

 

 

 

 

私はモノパッドに送られてきたファイルを開けた。どこをどう捜査するかはこれを確認してからの方が良いと思う。

 

 

被害者は"超高校級の探検家"萬屋千歳。死体発見現場は天文台の巨大望遠鏡付近。死亡推定時刻は12時頃。死因は外的要因による心停止。

 

 

そう記載があった。外的要因による心停止? どういうことだろう? みんなに訊きたいことがあるけど今はとりあえずこの情報だけ頭に入れておこう。

 

 

[コトダマゲット]

−−−モノクマファイル4

 

 

ファイルを確認し、各々が捜査に動いていく中、私は再度クルトに話しかけた。

 

 

「クルト。さっきの話の続きだけど、記憶がないってどういうこと? 食堂で一体何があったの?」

「僕にも何があったのか具体的にはわからない。でもあの時...あそこで起きたことは明らかに異常だったよ」

 

 

クルトは頭を押さえながらその時のことについて語ってくれた。

 

 


 

 

朝、まず食堂に向かったんだ。もしもの時のことを考えてみんなの顔だけは確認したかったから。

 

食堂に着くと既に平子さん、鮫島くん、古畑さん、そして萬屋くんがいた。比較的早起きの面々。そこに違和感はなかった。

 

問題が起きたのはその数分後。他が来るのを待っていると煙が立ち込めていることに気付いんだ。

 

 

「これは、何の煙?」

 

 

はじめに気付いたのは、平子さんだった。その言葉の通り、煙は既に食堂中に充満しつつあった。

 

 

「これはまさか...! 窓を開けて! 換気して! 毒かもしれないわ!」

 

 

平子さんは以前に桐崎さんによって仕掛けれた気化された毒を吸い込んでいる。その経験があったからからか、すぐに行動を取ることができたんだと思う。つまり、この煙はモノクマ特製のオリジナルポイズンのどれかだと平子さんは踏んだんだと思う。

 

古畑さんと僕が窓を開け放ち、萬屋くんと鮫島くんと平子さんがその煙の出所を探っていた。

 

 

「...ここ...!」

 

 

萬屋くんがそう言った。指差す先はゴミ箱。蓋を開けるとアルコールランプで熱されている何かがあった。3人は慎重にアルコールランプの火を消した。

 

ここまでは覚えている。だけどここから先の数時間の記憶がまるでない。

 

次にある記憶は、誰もいない食堂。1人で椅子に腰掛けていた。怖くなってすぐに食堂から出て、そのまま他のみんながどこかにいないか校舎内を探したんだ。その流れで屋上に向かうとそこで鮫島くんと会ったんだ。

 

 

「クルト...?」

「さ、鮫島くん!」

「...頭がガンガンするんじゃが、何かあったのかのう? 食堂で煙がどうのこうのしてるとこから記憶がないんじゃが」

「僕もだよ。一体何が起きたんだろう」

「嫌な予感がするぜよ。クルトは他に誰かに会ったか?」

「いや...会ってない」

「そうか。わしもじゃ。天文台は探したか?」

「まだ」

「なら、確認するぜよ。誰かおるやもしれん」

 

 

そう話して、僕と鮫島くんはエレベーターに乗って天文台へと向かった。十数秒の後に扉が開く。そこで見たのは、奥の方で泣きそうな顔をしている赤星さんと、巨大望遠鏡の下で亡くなっていた萬屋くんの姿だった。

 

 

「なっ!!」

「ぼ、ぼくじゃないよ! 気付いたらここに千歳がいて...。千歳が...千歳が......」

「ああ...そんな...」

 

 

幻かと思いたかった。夢であるなら早く醒めてほしいと願った。でも現実は違った。

 

 

 

『ピンポンパンポーン』

 

『死体が発見されました。一定の捜査時間の後、学級裁判を開きまーす!』

 

 


 

 

「あとは繭住さんたちが到着して、今に至るって感じかな」

「なるほどね」

「...僕、記憶がない時何してたんだろう。繭住さんはわかる?」

 

 

まあ、言うべきよね。知らないと裁判にも支障をきたすかもしれないし。

私は言った。凄く高圧的な態度で私に迫ったことを。跪け、と私に言ったことを。

 

 

「...........ほんとに?」

「本当よ」

「冗談とか、じゃなく?」

「言うわけないでしょ」

「......えぇ。僕が繭住さんにそんな態度を」

 

 

クルトは頭を抱えた。心なしか顔も少し赤い。

 

 

「ごめん....。でも僕そんなこと全く思ってないよ。繭住さんを屈服させたいとかそんなことは微塵も思ってないんだ」

「否定すればするほど怪しいけど、まぁそういうことにしておいてあげるわ。それに多分、性格が変わったのは煙を吸った影響っぽいしね」

「煙...やっぱり平子さんの言う通り、あれは毒を気化させたものなのかな」

「それも後で確認しましょう」

「そうだね。あの...繭住さん。僕は他にも失礼なこと言ってなかった?」

「他...ん〜色々言われたけど」

 

 

記憶を掘り返してみる。あの時、クルトは何か言ってたかな?

 

 

「......あっ。そういや気になることを言ってたわ」

「気になること?」

「"黒幕の手先"がどうって言ったような。何かわかる?」

「えっ? 僕それ言ってたの?」

「ええ。それ?」

 

 

明らかに動揺してる。何か言ってはいけないことを言ったってことかな?

 

 

「それは...モノクマが送ってきた"真実"ってヤツだよ」

「真実!?」

 

 

あれ、クルトにも送られてたんだ。

 

 

「うん。僕に送られてきたのが『オマエラの中に黒幕の手先がいる』というもの。混乱を招きそうだったから今まで伏せていたんだ」

 

 

私たちの中に...黒幕の手先が?

それってつまり。

 

 

「裏切り者がいるってこと?」

「確証はもちろんない。これはモノクマが送ってきたものだから。でも今までの送られてきた真実に嘘はなかった。だから表に出すか...迷ってはいたんだ」

 

 

あの時、食堂で会ったクルトはこれは黒幕の手先の仕業かもって言ってた。だとしたら、やはり私たちの中に裏切り者が。...考えたくはない。でもそれも想定しないといけない場面に私たちはいるのかもしれない。

 

 

[コトダマゲット]

−−−クルトに送られた真実

 

 

「とりあえず、それについて話すのは後の方が良さそうね。実際、本当に関係してるかもわかんないし」

 

 

この事は一旦端に置いておこう。これが関係してるかは捜査を進めればわかるかもしれないしね。

 

 

「繭住さん、捜査の前に少しいい? 勅使河原さんが気になって」

「そうね。確かに」

 

 

あの勅使河原が泣くなんて思わなかった。表情こそ変わらないが、心身共に限界なはず。

私たちは検死してる平子の後ろで萬屋を眺めてる勅使河原に声を掛けた。

 

 

「勅使河原」

「......」

「勅使河原さん?」

「ああ、すまない。何だ?」

「大丈夫?」

「大丈夫...それは支障なく捜査を進められるかという意味か?」

「いやそうじゃなくてさ。アンタが泣くなんてやっぱそれほど萬屋のこと慕ってたってことでしょ? だから心配してんのよ」

「慕っていた...。確かにそうなのかもしれないな。涙を流したのがその証左か。それほど私は萬屋千歳を」

 

 

勅使河原はいつもの調子だった。それでもやはりダメージはあるようで、心なしか声が小さい気がする。

 

 

「しかし、名前もまともに覚えられない私が他人に対して涙を流すとは...人というのは解らないものだな」

「名前? でもアンタ私たちの名前言ってるじゃん。しかもフルネームで」

「それは努力の結果だ。姓名揃ってないと記憶に留めて置けない。それほど私は今を生きる人に興味を抱けない。歴史を紡げるのは今を生きる人だけだと言うのにな」

 

 

勅使河原は物憂げにそう言った。

 

 

「何はともあれ、私に構う必要はない。それより捜査を進めてくれ」

「そうね、わかった」

「繭住藍子、私は君は犯人でないと思う。犯人であるのならば私を介抱する理由もないからだ。だから頼らせてもらう。今回の裁判の手綱を取るのは君かもしれないからな」

 

 

私が裁判の手綱を...。

 

 

「頑張ってはみるわ。クルト、萬屋の遺体を調べましょう。検死はまだ終わってないかもだけど、見た目からでもわかることがあるかもしれない」

「うん。ありがとう繭住さん。率先して捜査の方向性を決めてくれて」

「クルトもまだ調子悪いんでしょ? だったら体力とか気力は裁判に残しておいて。私も元気いっぱいってワケではないけど、これくらいなら大丈夫だから」

 

 

クルトの頭痛はまだ続いてるっぽいし、捜査ぐらいなら私にだってまともに出来る、と思う。

 

 

「平子、萬屋は」

 

 

とりあえず萬屋の遺体の前で屈んでいる平子に話しかけた。

 

 

「...繭住さん。まだはっきりとは解らないけど、どうやら心臓を何かで刺されたことが死因っぽいわね」

「それが"外的要因による心停止"ってこと?」

「そうね。凶器はまだ検討もつかないけどね。...いっ」

「平子さんも頭痛?」

「そう、ね」

「もしかしてアンタも記憶ない? 煙吸ったらしいけど」

「......」

「平子?」

「ちょっと...曖昧かもね」

「なんか歯切れ悪くない?」

「そんなことは...ない」

 

 

何だ? 平子の奴。ちょっと様子がおかしい。頭痛のせいかな? ん〜。確か勅使河原の部屋の前で会った時は顔が紅潮してたし、目もトロンってしてた。熱?

 

 

[コトダマゲット]

−−−平子の様子

 

 

「そう?」

「それよりも捜査すべき事柄があるんじゃないのか?」

「まぁ、それもそうね。検死のことはアンタに任すとして私たちは現場について調べない?」

「うん。それが良いと思う」

 

 

そういった流れで現場を見てみる。萬屋が居たのは天文台の中央にあるバカでかい望遠鏡の下。ちょうど接眼レンズで星を見ることが出来る場所だ。

 

 

「萬屋はどうしてこんな所に居たんだろう?」

「萬屋くんも僕らと同じく煙を吸っていたから何かしらおかしくなっていたかもしれないね」

「ん〜、でもどんな経緯でここに来たのかまるでわかんないわね」

「天体観測のため...とかじゃ絶対にないよね」

「どうなんだろうね。そもそも昼間でも天体観測ってできるの?」

「赤星さん曰く出来るらしいよ。探索の時にそう言っていた。そこのボタンを押すと天井が開いて、望遠鏡が使用できるようになるらしい」

「ボタンって、これ?」

 

 

ボタンを押すと見る見る開いていく天井。眩しい光が現場に射し込んでくる。光は萬屋を照らし出し、宛ら天に召されていくような光景になった。天使が舞い降りてきても不思議じゃない。

 

 

「なるほど。これがそうなのね。話には聞いていたけど生では初めて見るわ」

 

 

まぁ、これが事件と関係あるかはわかんないけど、一応頭には入れておこうかな。

 

 

[コトダマゲット]

−−−開閉可能な天井

 

 

「加えて話すと砂嵐が来たら自動で閉まる仕組みらしいよ」

「それもどこかで聞いたわね」

 

 

砂嵐が来てるのに天井を開けっぱなしにしたら天文台が砂まみれになっちゃうしね。そういう感知装置は必要になってくるわよね。そもそも砂漠にこんなの作るな!って話だけど。

 

 

[コトダマゲット]

−−−砂嵐接近感知装置

 

 

「まぁ、僕より赤星さんの方が天文台には詳しいとは思うよ。一番足を運んでいたのも彼女だしね」

「そう、ね。他にも訊きたいことはあるし。ちょっと! 赤星!」

 

 

天文台についてもそうだけど、クルトの話からすると、ここで萬屋を一番最初に発見したのは赤星。つまり第一発見者。色々と訊かなきゃいけないがある。

 

 

「藍子」

「ごめんね。しんどいとは思うけど、今は時間がないの。赤星だよね? 萬屋を最初に見つけたのって。その時のこと教えてくれない?」

「うん、わかってる。捜査しなきゃ、だもんね」

 

 

赤星は涙を拭うと、自分に喝を入れるように話し始める。

 

 

「藍子の言う通り、第一発見者はぼく。プラネタリウムから出てきたら望遠鏡の近くで千歳が死んでた...。そのすぐ後にクルトと海がエレベーターで...」

「赤星はプラネタリウムに何でいたの?」

「食堂に向かおうとしたら海に会ってさ、"もう今日は集まる必要はないき、食堂には行かんでも良いぜよ"って。だから空腹を紛らわすためにプラネタリウムに篭ってたんだ。8時ぐらいからずっと」

「鮫島が?」

「うん。頭もぽんぽんってされた。子供じゃないってのに!」

「鮫島が?」

「う、うん」

「ん〜クルトこれって」

「鮫島くんも煙を吸っていたからどこかしら変になったのかもしれないね。あの鮫島くんが女性に触れるなんて」

 

 

変になるっていうか、元から変なのがっていうのか。まぁ、でも普段では絶対にしない行動であるのは間違いない。クルトの言う通り、煙の影響である可能性が高いと思う。

 

 

「鮫島にも聞き取りする必要がありそうね。記憶があるかは分からないけど。でもその前に赤星にもうちょっと訊きたいことがあるわ」

「なに?」

「赤星の話だと朝から萬屋を見つけるまでずっとプラネタリウムに居たってことだけど、何も気付かなかったの? 萬屋が部屋の外で殺されていたかもしれないのに? 物音とかしなかったの?」

「ん...何も気付かなかった」

「本当に?」

「嘘言わないよ!」

 

 

そう言われてもねぇ。

 

 

「繭住さん、これ見て」

「クルト? なに?」

「ここにプラネタリウムルームの案内が載ってるんだけど、これに完全防音って書いてる」

「あ、本当だ」

 

 

プラネタリウムルームの扉の横に小さく案内があった。なるほど、これなら赤星が気付かなかった理由も説明できるわね。

 

 

[コトダマゲット]

−−−プラネタリウムルームの防音性

 

 

「赤星さん、他に気付いたこととかない?」

「そういや、野々葉の声が聞こえたような。プラネタリウムルームにもモニターとかスピーカーはあったからそこから聞こえたのかも」

「それなら私も覚えがあるわ。確か12時辺りよ」

「うん。ぼくもそんな時間帯だった気がする」

「古畑さんがどうかしたの?」

「クルトは記憶がないんだっけ。古畑が放送室の設備を使って放送したのよ。あの時の古畑も正気じゃなかったぽいし、本人にも記憶ないかもだけど」

 

 

古畑は自分が殺されると言っていた。十中八九、煙による影響だと思う。あの時の放送の狂気度合いと言ったら...。本人に訊いても良いけど、記憶なさそうなのよねぇ...。今回の裁判、凄く心配になってきたなぁ。

 

そういや、あの放送が途切れる前に古畑の他に声が聞こえた気がする。あの声は確か...六車だったかな? 六車は煙を吸ったメンバーにいなかったし、記憶があるかもしれない。後で訊いてみようか。

 

 

[コトダマゲット]

−−−古畑の放送

 

 

「とりあえずこれくらいかな? 時間もないし、他の場所も捜査に行こう」

「そうだね。赤星さん、それじゃまた裁判で」

「うん。ぼくも出来るだけ捜査してみるから、2人も頑張って!」

 

 

赤星と別れると、私たちはエレベーターに乗り、屋上へと降り立つ。

 

 

「どこ調べる?」

「やっぱり気になるのは毒薬が置かれていた化学準備室かな。煙の正体もハッキリするかもしれないし」

 

 

と、いうワケで。化学準備室に足を運んだ私たち。

 

 

「当たりっぽいわね」

 

 

無くなっている毒の瓶があった。毒は確か瓶の色で効果が違ったはず。そして、無くなっている瓶の色は...。

 

 

「紫」

「紫の毒薬は確か、"何が起きるかわからない"って説明書に書いてあったね。他の毒は致死率についての説明があったけど、これはない。つまり、推測するにこの紫の毒薬は...精神に作用するタイプの毒、ということかな」

 

 

クルトの説明で間違いないと思う。気化した毒を吸い込んだクルトたちは精神に異常をきたし、おかしな行動をとったんだ。

 

 

「クルトと古畑が全く別の効果だったことを考えると、どうなるかは毒を摂取してからはじめて分かるってことかな?」

「そうだと思う。"何が起きるかわからない"っていうのはそういうことだと思う」

 

 

よくもまあこんな毒を用意できるものだわ。どんな技術よ。その技術があってどうしてこんなコロシアイなんかの為に使うのよ。はぁ、今は考えても仕方ないか。

 

ん? でも確か気化された毒って効果が半減するんじゃなかったっけ? どういうことだろう?

 

 

[コトダマゲット]

−−−紫の毒薬

 

 

「ん〜」

「繭住さん?」

「いや後で考えるわ。それより捜査を進めないと。次は」

「食堂とか?」

「そうね。毒が撒かれた場所だし、行ってみる価値はありそう」

 

 

足早に化学準備室を出ると、そのまま食堂に向かう。扉を開けると既に捜査をしている面々がいた。古畑と六車だ。

 

 

「アンタたち、何かわかった?」

「お前らか。ここで毒が撒かれたのは知ってるか? その証拠を見つけたぜ」

「証拠?」

「これっすよ。このゴミ箱の中、アルコールランプとかビーカーとか三脚とかが転がってましたっす。桐崎さんが化学準備室で使った仕組みをそのまま流用してるような感じっす」

「なるほど、気化した方法はこれね」

 

 

見てみると確かに実験器具の数々が転がっていた。

 

 

「どうやら私はこのトラップで毒煙を吸ってしまい、お見苦しい姿を見せしてしまったようで...いやはや恥ずかしい限りっす....」

「確かにあの時の古畑は狂気に取り憑かれていたようだったけどね。ま、でもクルトも中々のものだったわよ」

「そうなんすか?」

「傲慢王子だったわ」

「何すかそれ! キャラ変よるギャップ萌えを狙ったアレっすか!?」

「ちょっと! 繭住さん!」

 

 

赤面するクルトは少しかわいい。けど、今はそんなこと思ってる場合じゃないわ。

 

 

 

「んなことやってる場合じゃねぇだろ」

「わかってるわよ。あ、そうだ。アンタに訊きたいことがあったんだった」

「ん? 何だ?」

「六車は毒は吸ってないんだよね? だったら普通に記憶もあると思うけど、今日の朝のこと何か覚えてる?」

「朝か。飯も食えねぇのに食堂に行くのもダルかったから屋上で暇潰してた」

「何時ぐらいから?」

「8時ぐらいだな。そうだ。屋上に向かう途中に萬屋に会ったぞ」

「萬屋に!?」

「ああ、屋上に向かう前だから7時40分か50分とかそのぐらいだと思うぞ。思えばアイツも毒煙を吸った後だったかもな」

「どんな様子だった?」

「"...早く砂漠に出たい...出たくて仕方ないんだ..." そんなことを言ってたな。俺も朦朧としてたからテキトーにあしらっちまったが」

 

 

砂漠()()出たいじゃなくて砂漠()出たい、か。確かに違和感はあるかも、煙を吸ったのは確実だろうし。萬屋が当時、どんな精神異常をきたしていたのか、知る必要がありそうね。

 

 

[コトダマゲット]

−−−六車の証言

 

 

「なるほどね。教えてくれてありがとう」

「おお。それともう一つ、今回の事件に関係あるかわかんねーけどよ、景品ガチャってあったろ?」

「ゲーセンの?」

「ああ、それだ。もしかしたらその景品ガチャに水があるかもしれねーなと思ってな、行ってみて回そうとしたんだよ。したらよ、モノラクダの野郎が現れてこう言ったんだよ、『このガチャには水なんてないメルよ。これはこの学園やオマエラ自身に関することが手に入るかもしれないことがメイン、オマエラを生かす品どころかコロシアイに使える品もこのガチャからは手に入らないメル。残念メルけど』って」

「あのラクダが」

「とことん俺らを追い詰めるつもりだったんだろうな。水の一滴すらありゃしねぇなんてよ」

「ほんと、そうよね」

 

 

景品ガチャにも水はなかった、と。もう今となっては関係のない話だけど、何か使える場面があるかもしれない。一応、記憶しておこう

 

 

[コトダマゲット]

−−−景品ガチャに関するモノラクダの発言

 

 

「繭住さん、そろそろ他の場所にも行こう」

「そうね。六車、鮫島がどこに行ったか知らない?」

「鮫島か。アイツなら確か...工場方面の階段下ってたが」

「工場ね。わかった。クルト行こう。鮫島にも色々と訊きたいし」

「うん。それじゃ2人ともまた裁判でね」

 

 

食堂を出て、階段を上り、再び屋上へ。そこから工場方面に繋がる外付けの螺旋階段を下る。そして、目の前を向くと、大きな人影があった。間違いなく、鮫島だ。

 

 

「鮫島!」

「おっっと。ま、繭住さん...それにクルト。びっくりしましたよ」

「そんなことよりアンタも大丈夫?」

「大丈夫とは何ですか?」

「まぁ色々とよ」

「...肉体的には少し怠い感じがあります。恐らく、煙を吸った影響でしょうか」

「記憶ある?」

 

 

鮫島は無言で首を横に振る。

 

 

「そう。やっぱりね。...メンタル的には大丈夫? 萬屋とは長い時間一緒にいたんでしょ」

「はい。確かに悲しい気持ちはあります。ですけど、ここで挫けるワケにはいかない、そっちの気持ちの方が今は強いです」

 

 

女には弱いけど、鮫島はやっぱ強い。肉体的にも精神的にも。

 

 

「そうだ。2人にもこれを見てほしい」

「これ?」

「多分、凶器だと」

「凶器!?」

 

 

そう言って鮫島が指差した先には工場の入り口の前に突き刺さっている絶望ヶ淵学園の校旗だった。紐で工場の柱に括り付けられている。

 

 

「旗?」

「見てください。血が付いてしませんか?」

「あっ、本当だ」

 

 

旗の先端が槍状になっていて、そこに血が付着していた。

 

 

「萬屋くんの死因は"外的要因による心停止"。つまり校旗で心臓を一突きにされた。という感じかな」

「正にクルトの言う通りだと思うぜよ」

 

 

 

これが凶器。確かに旗と言ってもほぼほぼ槍だし、可能性は高そう。だったらこの槍を持って天文台に? それともここで? 殺害現場は一体どこだろう?

 

 

[コトダマゲット]

−−−校旗

 

 

「お手柄よ、鮫島! まだまだ考えなくちゃいけないことはあるけど、凶器が判明してるのとしないのでは裁判の円滑さが段違いだからね」

「そ、それなら、わざわざここまで来た甲斐がありました」

「凶器があるなら他にも手掛かりがあるかもしれない。工場の中も調べてみよう」

「そうね。行きましょう」

 

 

工場の中を捜査する。すると明らかにおかしな場所を見つけた。プレス機だ。何かがプレスされ、壊されている。

 

 

「なにこれ?」

「プレス機で何かがプレスされたようだ。この形...どこかで...あっ! エグイサルだ!」

「エグイサル?」

「うん、間違いないよ。ここにエグイサルの脚部もあるし」

「本当だ...。だったら何で? 何でエグイサルがここでプレスされているの?」

 

 

意味がわからない。

 

 

「モノラクダがやったとか?」

「どうだろう? この状況でエグイサルを自分で壊すとは思えないけどね...うーん...」

 

 

プレスされたエグイサル。これは誰の仕業なのか。モノラクダかそれとも犯人? それとも全くの別案件? 関係あるかは分からないけど、一応覚えてはおこうかな。

 

 

[コトダマゲット]

−−−プレスされたエグイサル

 

 

更に奥へ進んで、倉庫に足を運ぶ。

 

 

「倉庫ね」

「うん。...あっエグイサルが一機足りない。さっき見たプレスされたエグイサルはここにあった物っぽいね」

 

 

言われてみると一機分のスペースがぽっかり空いている。そこに例のエグイサルがあったのは間違いないっぽい。

 

 

「繭住さん、クルト。少しこっちに!」

「何? 何かあったの?」

「砂ぜよ」

「砂?」

「よく見るとこの辺、細かい砂が散らばってるね。何でだろう?」

 

 

ここは工場内。砂が入る余地はない気がするけど...。

 

 

[コトダマゲット]

−−−工場内にあった砂

 

 

「それは多分、ここからだと」

「ここ?」

「あっ。そう言えば砂漠に出れる場所は工場内にもあったね。それがここ?」

「そうぜよ。このボタンを押すと砂漠に続く扉が開く。戻ってきた時に六車らが教えてくれたんじゃ」

「なるほどね。じゃあ、この扉を開けたってこと? いつ?」

「さあ、わしには...」

「クルト、事件に関係あると思う?」

「ん〜どうだろう。でも凶器が比較的近くにあったワケだし、可能性は無視できないんじゃないかな」

 

 

砂漠へ通ずるもう一つの扉。やけにデカい扉だけど事件に関係してる可能性があるなら頭には入れておいてもいいかもしれないわね。

 

 

[コトダマゲット]

−−−工場内から砂漠へ通じている扉

 

 

『キンコンカンコーン』

 

『捜査時間はお終いメル。みんな大好き学級裁判を始めるメルよ〜!』

『オマエラ〜! いつものようにグラウンドに集合してね〜。うぷぷ...楽しみだねぇ』

 

 

 

終わり?

 

 

「終わり、らしいね」

「ならグラウンドに行くぜよ。萬屋を殺した犯人、必ず見つける」

「...うん。そうだね。行こう」

 

 

私たちはグラウンドに向かう。証拠は充分だろうか。不安で仕方ない。

 

 

「平子」

 

 

グラウンドに出ると平子を見つけた。あれから何かわかったのか、それを訊きたかった。

 

 

「繭住さん。ごめんなさいね。期待してるような新情報はないわ」

「そっか...」

「わかったのは萬屋くんは刺突されて殺されたって事だけね」

 

 

刺突。やっぱり凶器はアレで間違いなさそうね。

 

 

「貴女の方は何か見つけたみたいね。期待してるわよ。私は頭がまだ十分に働いてない自覚がある。だから、頼むわよ」

「...うん、大丈夫よ。私だって3回も学級裁判を乗り越えてきたんだから」

 

 

死線は私も超えてきた。今までの経験だって無駄じゃないはず。はずよ。

 

 

「繭住藍子」

 

 

不意にフルネームを呼ばれた。そんな呼び方をするのは勅使河原しかいない。

 

 

「勅使河原?」

「首尾はどうだ?」

「ぼちぼちってとこかな...。ハッキリ言ってまだ足りない気はするけど」

「そうか」

「勅使河原は...犯人わかった?」

「さぁ。見当も付かないな。だが、そういえば気になることはあったな、と」

「気になること?」

「モノクマやモノラクダが封鎖が始まった直後に言っていたことだ。あの時の言っていた条件が気になる」

 

 

モノクマとモノラクダが言っていたこと。確か封鎖を解除する条件は"人が死ぬこと"だったはず。

 

 

「人が死ぬと解除されるってアレ?」

「そうだ。だが、具体的には説明できない。すまない」

 

 

 

[コトダマゲット]

−−−モノクマ&モノラクダの証言

 

 

一応、記憶には留めておく。

全員が揃うと、エレベーターが出現し、それに乗り込む。いつものように。

 

このエレベーターが広くなったと感じる。

いや、人が少なくなっただけだ。既に半数。死に過ぎだよ...。

 

 

「繭住さん」

 

クルトが不意に私の名前を呼んだ。

 

 

「クルト?」

「黒幕は一体何をしたいんだろう」

「...さぁ。私にさっぱり」

「僕は少しだけ可能性を感じてる説があるんだ」

「え?」

「率直に言うと"人類史上最大最悪の絶望的事件"が関係してると思ってる」

 

 

え?

 

「何言ってるの?」

「モノクマは嘘は言わない。マオさんに送られた『コロシアイは何度も行われている』ってのは真実で、それはつまり舞田くんが見つけたあのDVDの内容も真実ってことになる」

「あれが? 真実? フィクションじゃなく?」

「そう。となると、今回もその"絶望"が僕たちを閉じ込め、コロシアイを起こしている。そういう可能性もあると思うんだ」

 

 

絶望...。

 

 

「でも何で今急にそんなことを?」

「"黒幕の手先"がいると言ったよね。つまりその手先って言うのもその"絶望の一味"かもしれない。そう可能性も考慮しておかないとって思ったんだ」

 

 

 

[コトダマゲット]

−−−"絶望"

 

 

 

「わかったわ。覚えておく。俄かに信じられない話だけど、そもそもこんな砂漠のど真ん中の学園にいること自体おかしな話だしね」

 

 

何があってもおかしくない。それが例え荒唐無稽なものだとしても、可能性があるなら切り捨てることは出来ない。

今までの学級裁判でもそうだったように。

 

 

そして、エレベーターの扉が開く。

ここからでも遺影が増えていることがわかった。

 

 

 

 

"超高校級の探検家"萬屋千歳。

 

 

 

 

小田切の遺志を継ぎ、私たちに常に希望を見せ続けてくれた。その小さな背中がとても大きく見えた。間違いなく、私たちの希望そのものだった。

 

 

 

彼亡き今、私たちは前に進めるかどうかもわからない。

それでも進まなきゃいけない。萬屋の死の真相を暴かなきゃいけない。

 

 

そうじゃないと、私たち全員が死ぬ。

 

 

たとえ、半ば強制的にされたコロシアイだとしても。

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、小田切が貴志へ送った手紙のことを思い出す。

貴志が処刑された後に小田切の部屋で見つけたものだ。

 

 


 

貴志へ

 

希望の火を絶やさない為に砂漠に出ることを許して欲しい。殺し合いを防ぐには圧倒的な希望が必要だ。貴志にも手伝って欲しい。モノクマが何を仕掛けてきても内外で働きかければ絶望なんかに負けはしない。すまない、貴志。だが死ぬつもりもない。みんなのことを頼む。絶望を、取っ払ってくれ。

 

小田切より

 


 

 

貴志、悪いけどアンタの役割奪うね。

 

 

私が絶望を、取っ払ってみせる。

 

 

やってみせる。

 

 

 

 

 

 

真実と嘘が乖離し

 

 

 

 

 

 

 

希望と絶望が交わる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この忌々しい学級裁判で

 

 

 

 

 

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