ダンガンロンパExtraWorld 〜砂漠のコロシアイ学園生活〜   作:magone

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【ご報告】
『絶望ヶ淵学園生徒名簿』の方にイラストを追加致しました。今回は全身の立ち絵ではなく、上半身のみのイラストなので、追加という形を取らさせてもらいました。本編とは直接関係のない報告失礼致しました。引き続き拙作をお楽しみ頂けると幸いです。


第5章 『過ぎ去りし君に焦がれて』
第5章 (非)日常編 I


 

 

夢を見た。

 

 

 

自由だったあの頃の夢。

 

 

 

...ああ、懐かしいな。

 

 

 

未練はもうないと、思っていたのだがな。

 

 

......。

 

 

 

あと少し。

 

 

 

あと少しなんだ。

 

 

 

目的の成就は、手の届くところにまで来ている。

 

 

 

このEXTRA(おまけ)の世界の完遂。

 

 

 

それが終われば、古畑(キミ)の本懐も遂げられるだろう。

 

 

 

いよいよ終わりも近い。

 

 

 

さあ、行こうか。

 

 

 

心踊る世界を取り戻しに。

 

 

 

健闘を祈るよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

第5章『過ぎ去りし君に焦がれて』

開幕

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜クルト、自室にて〜

 

 

『おはようございます。古畑野々葉が午前7時をお知らせします』

 

 

微睡の中、テレビから流れてくる古畑さんの声に覚醒を促される。今日もいつもと変わりない声色で発するテレビの中の彼女を横目で見ながら、僕は半身を起こした。

 

 

「ピンポーン」

 

 

更に鼓膜を追撃するようにインターホンが鳴る。

こんな朝から誰だろうか。洗顔だけ済ませ、扉を開ける。

 

 

「よう、クルト。元気か」

「六車...くん?」

「テンション低いじゃねぇか。起き抜けか?」

「起き抜けだよ...」

「はは、そりゃそうだわな。悪ぃな起こして」

「えっと、何の用?」

「いや昨日の奴の影響が残ってんじゃねぇかと思ってな。その様子なら取り敢えずは大丈夫そうだな」

 

 

昨日の影響? ああ、紫の毒薬のことか。確かに頭痛も精神異常も特にない。毒は完全に体から抜け切っているようだ。

 

 

「わざわざその確認のために?」

「一応な。もうこれ以上の厄介事はたくさんだ。死なんざもう見たくねぇからな」

 

 

あの六車くんがこんな事言うなんて。

 

 

「あ? んだよその顔は」

「いや別になんでもないよ」

「気持ち悪ぃな。ま、元気なら後で食堂に顔出せよ。生き残ってる男はもう俺とお前しかいねぇんだからよ」

 

 

そうか。もう男子は僕と六車くんしか残っていないのか。

 

 

「う、うん。わかったよ」

「頼むぜ。残り人数も少ない。そろそろガチで砂漠に出る覚悟を決めなきゃなんねぇかもしれねーからな」

 

 

砂漠に出る。それは想像以上に危険を伴う道になると思う。あの熱砂の中で半日以上歩き続けることは、やはり命懸けだ。それを押してまで砂漠へ繰り出すことが僕らには出来るだろうか。

 

...考えるのは後にしよう。取り敢えず、六車くんの言うように食堂に行こう。こればっかりは一人で決められない。みんなの意見も聞かないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「揃ったな」

 

 

食堂、午前8時17分。

 

僕、六車くん、繭住さん、平子さん、勅使河原さん、古畑さん、赤星さんの計7人がすっかり広くなったテーブルを囲んでいた。

 

 

「テキトーに飯食いながらで良いから聞いてくれ。もう俺たちには残されている選択肢は少ねぇ。このまま学園に残って元凶をぶっ倒すか、覚悟決めて砂漠に出るか、だ」

「助けを待つ、というのは流石にもう絶望的っすよね...。私もその2択だと思うっす!」

「私も。平子、アンタはどう思う? これからどうすべきだと思う?」

「そうねぇ。昨日も言ったけど、砂漠に出るなら相応の準備と決死の覚悟がいる。六車くんはサッカー選手だから体力には自信がある方だと思うけど、他のみんなはそうじゃない。だからと言って六車くんだけ砂漠に放り出すのは無鉄砲過ぎるわ」

「当たり前だ。流石の俺も一人で砂漠に出るのは勘弁だぞ。つか放り出すって言うな」

「なら、全員で砂漠に出るということになるけど」

 

 

そう言って平子さんは勅使河原さんを見遣る。

 

 

「貴方は出来る?」

「...私か。そうだな。率直に言って不可能だろう。砂漠に数時間晒されるだけでも私の身体は限界を迎える。砂漠越えなど一縷の望みも無いだろう」

 

 

きっぱりと言い切る。大事な事だ。無理を押して砂漠へ出たとしても環境に殺されれば元も子もないんだから。

 

 

「私はここに置いていくと良い。一人ならばコロシアイが起きることもない。仮に私が死んでも発見者がいなければ、学級裁判が開かれることもない。呼び戻される心配もないだろう」

「勅使河原、アンタはそれで良いの?」

「良いか悪いかの話ではない。砂漠越えを決行するのであれば、それが最善策だ。砂漠越え中に私が生き絶えれば、その時点で学級裁判が開かれることが確定し、君たちは学園へと踵を返すことになる。そのような状況は避けるべきだろう」

 

 

萬屋くんを失った翌日でも勅使河原さんはどこまでも客観的だ。自分たちが置かれた状況を把握し、それを打破するための答えを提示できる。だけどその答えは...。

 

 

「祈里だけ置いていくなんて、そんなの嫌だよ!」

「私もあまり賛成したくはないっすね。そもそも私だって砂漠に出て無事かどうか分からないワケですし...」

「そうだ。問題は勅使河原だけじゃねぇ。お前が顕著なだけで、他の奴らだって似たようなもんだ。俺が言いたいのはそれを押してでも、出て行くのかってことだ」

「皆は砂漠へ行く覚悟は決まっているのか」

「......」

 

 

即答は出来ない。砂漠で太陽に灼かれながらゆっくりと死んでいくかもしれない、その覚悟があるのかと問われると難しいというのが正直なところだと思う。

 

 

「結論は急ぐべきではないな。ではこの後どうする?」

「学級裁判の翌日だから新しいエリアが開放されたと思う。まずはその探索から始めてみましょう。期待薄だろうけど、情報は無いより有る方が断然良いし」

「...わかった。話し合いの続きはその後だ。と決まったなら...おい! どうせ聞いてんだろ、出てこい、畜生共!」

 

 

六車くんがそう言うと、いつの間にか空いていた椅子に二体は座っていた。

 

 

「参上!」

「オマエラの方からトーホーらを呼ぶとはね。何用メルか?」

「決まってる。新エリアよ。開放されているんでしょ?」

「てれてれってれー! ザッツライト〜! 工場付近にある壁を取っ払っておいたからそこから新エリアに行けるよ」

「ちなみに新エリアはこれ以上ないメルから、心して探索してくれメル」

 

 

これ以上ない?

 

 

「つまり、これが最後の新エリア開放ってこと?」

「そうなるメル」

「関係ない。どうせ探索なんて今回だけでもう十分だ。これ以上する気もねぇよ」

「そうっすね。なら行きましょう!」

 

 

最後のエリア。一体何が待っているか。不安と少しの期待を抱きながら僕らは新エリアがあるとされる場所へと歩を進めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

屋上を経由、外付けの螺旋階段を下り、左側。その視線の先には前は確かにあった鉄の壁がない。あの先が新エリアか。

 

 

「あれは何かな? 大きな建物。音楽ホールかな? 音符みたいなデザインの装飾もあるし」

 

 

音楽ホールか。果たして脱出に使えそうな物はあるんだろうか。

 

 

「向こう側にも何かあるっすね。あれは......んんん!? ピラミッド! ピラミッドがあるっすよ!!」

 

 

ピ、ピラミッド...?

 

 

「音楽ホールはまだ分かるけど、ピラミッドって。しかもモノクロ」

「何それ気持ち悪い」

「はあ、砂漠にはお誂え向きね。それじゃあ、行きましょ」

「人数も少ないし、全員固まって動く?」

「そうね。そうしましょう」

 

 

かくして、新エリアの探索が始まる。

これが正真正銘、最後の探索になることを願いながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

話し合いの結果、最初は音楽ホールの探索からとなった。

 

 

「そこそこデケェな」

「そこそこ大きいね」

 

 

僕らはそこそこ巨大な音楽ホールの前に立った。まだこんな建造物が入るスペースがドーム内にあったなんて驚きだよ。

 

 

「行くわよ」

 

 

繭住さんの言葉をキッカケに僕らはアーチ状になった五線譜のゲートを潜り、内部へと足を踏み入れた。

 

 

「本格的ね。ここは玄関ホールかしら」

「そうらしい。マップにもそう表示されている。その扉の先がステージに繋がっていると思われる」

 

 

扉を開けると勅使河原さんの言うとおり、ステージが見える。

 

 

「デケェ(棒)」

「全然抑揚のないトーンね。音楽とか興味ないでしょアンタ」

「うっせぇ。だまれ」

「ミゲルも藍子も喧嘩してる場合じゃないよ! 広いんだからみんなも早く探索探索〜!」

 

 

赤星さんに促されるようにして中へと入る。薄暗くてよく分からないけど客席は1000は有りそうだ。

 

 

「客席は至って普通の客席っぽいわね。特に何もない。ステージ方面に行ってみましょう」

「そうだね」

 

 

と、言ってステージにも上がってみるが、やはり特に何があるワケでもなかった。しかし、ステージ裏に行ってみると部屋が複数あることを確認できた。

 

 

「色々あるね。端から確認していくよ」

 

 

まず、1つ目の部屋。

 

 

「お邪魔しますよ〜。お? ここは楽器庫っすね」

「楽器庫か。まぁ、当然脱出の助けになるようなモンはねぇよな」

「いやいやそんなこともないっすよ。このトランペットとか砂漠で吹けば広範囲に音が響くと思うし、その音を聞いた人が私たちを見つけてくれるかもしれないっす!」

「そんな奴がいりゃな」

「はは、そ、それもそうっすね...」

 

 

楽器庫。至る所に乱雑に置かれた楽器たち。トランペットやフルート、バイオリンなどがあったが、これと言って重要そうな物は無かった。

 

 

そして、2つ目の部屋。

 

 

「ピアノだ〜!」

「ここはピアノ庫か。楽譜も保存されている。CDもあるな。そこのプレイヤーで聴くことも出来る」

「折角本物があるんだし、生演奏の方が良いよ」

「誰がピアノ弾けんのよ。赤星まさかアンタ弾けんの?」

「きらきら星ぐらいならね〜!」

「そもそも調律されてるのかも微妙そうだけど」

「はいはいピアノ発表会はまた今度。今は探索に集中しましょう」

「トゥインクル♪トゥインクル♪リトルスター♪」

「赤星さん」

「はーい」

 

 

ピアノ庫。中央に大きなピアノが我が物顔で鎮座している。周囲には楽譜やCDがある棚もあり、その場で再生できるプレイヤーもあった。が、当然脱出に必要な物は何もなかった。

 

 

更に、3つ目の部屋。

 

「音響調整室だね」

 

更に、4つ目の部屋

 

「調光室っすね」

 

更に、5つ目の部屋

 

「演者用の控え室かな」

 

更に、6つ目の部屋

 

「楽器の練習室か」

「どれも特にこれと言ってないねー。砂漠には役に立たない物ばかり」

「次が最後の部屋ね。後はトイレとかだけっぽいし」

 

 

そして、向かう7つ目の部屋。扉の前に立つと他の部屋とは明らかに異質だという事に気づく。扉の模様が白と黒、つまりモノクロだった。他の扉はそんな模様はなかった。

 

 

「おい、これって」

「モノクロの扉。この場合、モノクマとモノラクダに関係していると考えるのが自然か」

「つまり、この先に黒幕が?」

「!?」

 

 

それを聞いた六車くんが反射的に扉を開けようとする。

が...。

 

 

「開かねぇ」

「鍵がかかってるね。という事は」

「確定かも。これ以上のエリアは開放されないって言ってたし」

 

 

黒幕。僕らをここに閉じ込めた張本人がこの先に...。

 

 

「可能性は高いな」

「扉をぶち破るか。それかこのガラスを割って内側からカギを」

「校則違反にあたるわ。エグイサルで殺されるわよ」

 

 

校則違反...。

 

 

「その通りだよ。この扉を壊した瞬間に処刑するからそのつもりでやりなよ」

「まあ、それも難しいメルよ。この扉はアナログチックな鍵だけじゃなくて、電子ロックもされている。壊して入るのは至難の技メル」

「モノクマ...モノラクダ...」

「ねぇ、アンタたちの親玉がこの中にいるの? どうなの?」

「うぷぷ。それを聞いてどうするの?」

「仮に居たとして、扉も開けられないオマエラにはどうせ何も出来ないメル。諦めるメル」

「メルメルうっせぇんだよ。チッ。ならどうすんだ」

「仮にモノルームとして。このモノルームに中にモノクマたちを操る何者かがいる。その可能性を見出せたのは大きいわ」

「見出せたのは良いけど、これからどうするのよ」

「今から出来ることは少ないわ。まだ未確認の場所もある。それらを探索し終わってから再度話し合いましょう」

「材料がまだテーブルに揃い切ってない。そう言う事か」

 

 

黒幕を前に今は立ち去る他ないのか。

 

 

「しょうがない。誰かを犠牲に扉を破ることなんて出来ないしね」

「ならピラミッドに行くっすか?」

「そうだね。みんなもそれで良い?」

 

 

歯痒い思いはあるけど、今はその方が賢明かもしれない。渋々音楽ホールを後にし、僕らは白黒のピラミッドの方へと向かうことにした。

 

と思った矢先、気になる場所を発見した。

 

 

「ん? あれは何だろう?」

 

 

赤星さんが指差す先。それはドームの壁にめり込むようにしてあった小さな謎の施設だった。

 

 

「行ってみるか」

 

 

近付いてみると、それの正体は電気室だった。

 

 

「電気室か」

「なるほど、この電気室で学園全体の電力関係を管理しているっぽいっすね」

「何かあるか?」

「うーん、特には無さそうね」

「......」

「うん?」

 

 

ふと繭住さんの方を見ると、真剣な表情でどこかを見つめていた。僕はいつもの繭住さんと違う雰囲気を感じ取り、声を掛けた。

 

 

「繭住さんどうしたの? 何か見つけた?」

「...いや、何でもないよ。ここには砂漠に使える物はないね。次行こ次」

「う、うん」

 

 

気のせい、だったのかな。そう思い、それ以上の追求はせず、僕らは電気室を後にした。そして改めてピラミッドへと向かうこととなった。

 

その道中。

 

 

「クルトくん、少し良い?」

 

 

平子さんに話しかけられた。

 

 

「何?」

「黒幕の手先の件、どう思う?」

 

 

黒幕の手先、か。生き残っている僕らの中にいると考えられている裏切り者。先の事件では、気化させた紫の毒薬を食堂にいた者に吸わせ、精神異常を引き起こさせた。その結果、鮫島くんは絶望となり、萬屋くんを殺害、鮫島くんも処刑されてしまった。許すことなんてできない。

 

 

「許せないよ」

「そうね。それは私もそう。だけど訊きたいのはそうじゃない。黒幕の手先が誰か、目星はついてる?」

「そんなの、わからないよ。目星がついていたら少なくとも前の裁判で明らかにしてる」

「一応、訊いてみたのよ。一夜経って思い付くこともあるかなってね」

「どうして、今その話を?」

「食堂では話せなかったのよ。みんなで砂漠に出ると結束を固めている中で、黒幕の手先の話をするのは不和に繋がる。たとえ、手先を逃す結果になってもみんなの生存の方が第一だと考えた。それに」

「それに?」

「みんなも手先の話はあまりしなかった。それはつまり、共に生き残った仲間を疑いたくないと心の何処かで思っているってこと。それなら無闇やたらに蒸し返すべきじゃないと思ったのよ」

 

 

平子さんは空を見て、言う。

 

 

「でも手先の存在を忘れたワケじゃない。それはみんなもそうだと思うわ。貴方もそうでしょ? だってその"真実"を受け取ったのは貴方なんだから」

 

 

オマエラの中に黒幕の手先がいる

確かに僕が受け取った"真実"だ。

 

 

「黒幕の手先の存在が確定となった今、更に慎重に物事を進める必要がある。砂漠越えもしくは黒幕の打倒をその手先に邪魔される危険性を貴方も頭の中に入れておいて欲しい」

 

 

そう言い終わると、平子さんも足早にピラミッドへと向かった。

 

 

僕らの中に黒幕の手先がいる。

そのことを念頭に置き、僕も平子さんの後を追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「形は普通のピラミッドだな。白と黒の石が交互に積み重なっているが」

 

 

不気味なモノクロのピラミッドが目の前にある。

どうやってこんなものを作ったのだろうか。気になりはするが、そんなことは今はいい。

 

 

「入ってみよう」

 

 

入り口と思われる中央の穴から内部に入る。

 

 

「ピラミッドの内部構造からして此処は大回廊と呼ばれる場所だろう」

「だいかいろう?」

「通路のことよ。進みましょう。ピラミッドと同じならきっと部屋があるわ」

「なんの部屋だ」

「......」

「ん?」

 

 

六車くんの問いに平子さんは閉口した。僕は平子さんがなぜ閉口したのか、その理由がわかってしまった。

 

ピラミッドが何を以って築かれたモノなのか。

それを知っていれば、この先にある部屋は恐らく...。

 

 

「ともかく、行きましょう」

 

 

必死に頭の中に浮かんだ予想を振り払う。が、それも虚しく僕らは"そこ"に辿り着いてしまった。

 

 

「あ、部屋がある」

「大回廊はまだ奥には続いているようっすね。取り敢えず、この部屋から見てみますか?」

「そうね。そうしましょう」

「了解っす。あっ名前があるっぽいですね。えーと

..安置の間?」

「安置?」

「......やはり、ね。みんな気を強く持って行きましょう。おそらくこの先にあるのは」

 

 

平子さんは、吐き出すように。

 

 

 

 

「今まで亡くなったみんなの遺体よ」

 

 

 

 

そう言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

意を決し、安置の間へと入る。

 

 

「まじか。冗談だろおい」

「み、みんな」

 

 

部屋の中には16個並んだ石棺。その内の7個はまだ開いているが、残る9個の石棺が閉じられているということは...。

 

 

「これは...」

 

 

一つの石棺に近付く。その石棺の蓋には"新聞部"という文字が小さく書いてあった。

 

 

「新聞部...ということはこの棺は」

「貴志さんのものね」

「貴志萌華か。遺体は残らないぐらい凄惨な有様だったが」

「やめてよ。思い出しちゃうじゃない」

「そうだな。済まない」

「...他の棺にも殺されたり、処刑されたりしたみんなが入っているのね」

「ピラミッドはお墓。薄々勘付いてはいたけど...」

 

 

みんな...。

 

 

「これは...秘書の棺...桐崎さんの...棺......」

 

 

古畑さんは片方の上着の袖口を強く握り締めた。その上着は生前に桐崎さんが身に付けていたもの。その姿を見ると込み上げて来るものがある。

 

 

「漁師の棺は鮫島。このガラス職人と書かれた棺は氏家こと久礼爽の棺、ね」

「獣医......これはマオの......」

「これは...大道芸人、舞田か。じゃあこのエクソシスト と書かれている棺は.......鬼頭か」

「萬屋千歳。ここに眠っていたか。遺体は裁判後には綺麗さっぱり無くなっていたからてっきり処分されたのだとばかり思っていたが」

 

 

 

みんな、険しい顔を石棺に向けている。それぞれ親しかった人の棺を見て、何を考えているんだろう。

 

 

 

仲間たちの遺体がここにある。

ならば当然、あの人の棺もある。

 

 

「小田切くん......」

 

 

僕は視線の先にはヒーローと書かれた石棺がある。

触ってみると冷たい。どうやらこの安置の間は、霊安室的な役割も果たしているんだろう。

 

 

 

 

...小田切くん。

 

僕らはもう半分以下にまで減ってしまった。

 

 

その中には僕らの手で断頭台に送ってしまった人たちもいる。

 

 

辛い。

苦しい。

痛い。

怖い。

 

 

そんな気持ちがずっと心の中で渦巻いているんだ。

 

 

君がこの場に居てくれたら、どれだけ心強いだろう。

 

 

......。

 

 

「クルト、大丈夫?」

「...繭住さん」

「ザッと見たけど、石棺以外には何も無さそう。ここに居ても辛い気持ちになるだけ...早いとこ出ましょ」

「そう、だね」

 

 

安置の間から出る。

まだ開いてる7個の石棺を背に、もう誰も石棺に入ることのないようにと、願いながら。

 

 

「みんな、平気...じゃないわよね」

「気ぃなんて使うなよ。今は感傷に浸っている場合じゃねぇんだ。それに俺たちは仲間の死を乗り越えてここに立ってる。テメェん中で整理は付いてる。多かれ少なかれな」

「六車ミゲルの言う通りだ。安置の間には脱出に有用な品も黒幕に繋がる情報もなかった。ならば次の部屋へと進もうじゃないか。時間は有限だ」

「そうね。他の人もそれで良いかしら」

「勿論っす」

「ぼくも...うん、大丈夫だよ」

 

 

続くように僕も頷く。

 

 

「なら、行きましょうか」

 

 

ゆっくりと、寒気のする大回廊を進んでいく。すると横手にまたしても部屋を発見した。確認しないワケにもいかない。僕らはその部屋の扉を開けた。

 

 

「んだよ、この部屋は...」

 

 

仕置の間と銘打たれたこの部屋。

名前からして碌な部屋ではないことは察せた。

 

 

「これは今までのオシオキで使われた道具たちの保管所ね」

 

 

死の匂いがする、とでも言うんだろうか。本当にそんな匂いがするワケではないけど、この部屋の持つ独特の空気感が嗅覚を刺激したように感じた。

 

 

「これは...印刷機だね。萌華のオシオキで使われてたのを思い出したよ」

 

 

貴志さんを呑み込み、すり潰した人喰い印刷機。

思い出すだけで胃の中の朝食が逆流してきそうになり、反射的に口を手で塞いでしまった。

 

 

「こんなもの保管しておくなよ。何考えてんだ」

「さあね。アイツらの思考なんて知りたくもない」

「こっちにもあるな。これは注射器のようだ」

「注射器...まさか桐崎さんがオシオキで使わされたアレっすか」

「そのようだな」

 

 

注射器。妙な薬品も近くにある。古畑さんの言う通り、これは桐崎さんがオシオキ内で使っていたモノ。使うと執筆スピードを強制的に向上させることが出来る。だけど、その代償で桐崎さんは...。

 

 

「じゃあ並び的にその隣の鉄の箱ん中にあるのが、久礼のオシオキで使っていたもんか」

 

 

箱の中を見ると煮えたぎる溶けたガラスが見えた。

 

 

「熱ッ」

「気をつけて、火傷じゃ済まなくなるわよ」

 

 

オシオキで久礼くんは煮えたぎるガラスの海に落ちた。あの時の叫びがまだ耳に残っている。僕らも落ちればそうなる。気をつけないと。

 

 

「最後はこれか。モノクロのメカカジキ。鮫島海の体を貫いた巨大な個体ではなく、最初に海中で襲っていたカジキのようだな。まるで標本のように飾っている」

 

 

鮫島くんを襲っていたメカカジキの群れ。その中の一体がこれか。あれらは全て鮫島くんが破壊したように見えたけど、まだ生き残りがいたのか。

 

 

「動く気配はないな。電池切れか陸上では活動できないのか。いずれにせよ、害は無いように思える」

「有害だろうが無害だろうが使えねぇなら用はねぇよ。次の部屋行くぞ。ここは安置の間より気持ち悪ぃぃ...」

 

 

確かにこの中にいると、みんなの死に様が頭を過ぎる。簡単に見回り、僕らは仕置の間から大回廊へと戻った。

 

大回廊を更に奥に進む。するとまたしても部屋がある。大回廊自体はまだ奥へと繋がっているようだ。

 

 

「この部屋を調べんぞ。名前は、脱出の間?」

「脱出!? もしかしたらここに砂漠を越える為に必要な物資があるかも!」

 

 

脱出の間。どういう意味だろう。とりあえず、中へ入ってみないことには何もわからない。

 

 

「しゃ! 行くぞ!」

 

 

中へ入ると、更に扉があった。

壁には何やら説明書きのようなものものが刻まれている。

 

 

「何かしら? 読んでみるわね。えーと、『ようこそ、脱出の間へ。この扉の先にあるのは、天井が迫り来る死の部屋。その部屋にある謎を解き、見事脱出に成功した者には宝物の間へと案内しよう』」

「天井が迫り来る?」

「ぺしゃんこになるってこと?」

「そういうことのようね」

「誰が今更宝如きに命張るか。バカじゃねぇか」

 

 

脱出の間とは、つまり命を賭けた脱出ゲーム。見返りは宝物の間への案内。どう考えても釣り合ってない。こんなゲーム誰もやらない。

 

 

「出るぞ。何かあるとしても流石に出来るワケねぇよ」

 

 

六車くんに続くように僕らも脱出の間を後にする。

 

 

「よし、んじゃ奥まで行くぞ」

「待って」

「んだよ、平子」

「あれ、何かしら?」

 

 

平子さんの指差す先には屈んで入れるような小さなトンネルがあった。

 

 

「どこに繋がっているんだろう。暗くて何もわかんない」

「盗掘孔のように見えるな」

「盗掘孔?」

「ギザの大ピラミッドには、9世紀にアル=マムーンが掘った盗掘用のトンネルが存在する」

「それが盗掘孔?」

「そうだ。現在は観光客用のトンネルとなっている」

「流石歴史学者! 勅使河原さんのインテリな部分が見れて古畑は嬉しいっす」

「専門は日本史なんだがな」

 

 

盗掘孔か。

 

 

「ただこの盗掘孔、非常に崩れやすくなっているから入るなら死ぬ気で入るメルよ」

「モノラクダ、いつの間に」

「おい、モノラクダ。この先に何があんだ?」

「トーホーが何でもかんでも答えると思ったら大間違いメル! 分からないことがあったら直ぐに人に訊くのは思考の放棄と肝に銘じるメル!」

「説教垂れる立場かよ、テメェ」

「はい、というワケで」

 

 

モノラクダはそう言うと、"崩落の危険性アリ"と書かれた立て札を盗掘孔の前に立てた。

 

 

「注意喚起もしたので、この先に入って死んでもそれは自己責任ってことで宜しくメル」

「どうして校則で禁止しない?」

「禁止するほどのことでもないメルからね。しかし、トーホーらとしても生徒が崩落で死ぬのは実に味気ない。間を取って今回は注意喚起ということにしたメル」

「じゃあ、お前らがこの穴埋めろよ」

「こっちの労力も考えて欲しいメル。そんなことに割く時間はないメル。ではではこれにて」

 

 

そう言ってモノラクダは姿を消した。

 

 

「どうする?」

「どうするっつってもな。崩落で死んだら世話ねぇしな。とりあえず、今はスルーか」

「そうね。大回廊はまだ続いている。そちらから先に調べましょう」

 

 

謎の盗掘孔は一旦放置し、僕らは大回廊の更に奥へと進む。暫くすると、突き当たりが見えた。どうやら大回廊の最奥に辿り着いたようだ。

 

 

「突き当たりっすね。どうやらここが最後の部屋のようっす」

 

 

大回廊最奥の部屋。何もないとは思えない。

 

 

「何という部屋?」

「書いてあるね。えーと、この漢字はどういう読みなんだろう」

「そのままで良いんじゃね」

「うーん、ならこうかな?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

才囚(さいしゅう)の間」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

才囚? どういう意味だろう? ...分からない。

でも何だろう? 見覚えがある?

 

 

「大回廊の最終地点と掛けているのかしら。何にせよ、確認しないことには何とも言えないわね」

 

 

部屋に入れば、このデジャヴの正体もわかるかもしれない。

 

 

「行くぞ」

 

 

僕らはピラミッド最後の部屋へと足を踏み入れた。

 

 

「何これ?」

 

 

才囚の間。

そこの壁一面、壁画で埋まっていた。

 

 

「壁画だね。古代エジプト風のタッチの」

「何すかね...これ...」

 

 

どうやら何かの物語が刻まれているようだ。よく見ると1〜6の番号が振られている。この順に読み解けということか?

 

 

「壁画は左から順番に続いているみたいっすね」

「数字の通りに読み進めていけば良いのか?」

「そのようだな。全体を見る限り16人の人物が見える」

「16人...ぼくたちと同じ人数だね」

 

 

16人。

果たして偶然の一致なのか、それとも。

 

 

「1の場面から見ていくっすよ」

「金髪の女の子と緑髪の男の子が1人ずつ描かれているね」

「女の子の方、あれは球体を放っているのかな?」

「男の子の頭上にも同じ球体があるね。これは何を意味しているのかしら?」

「あの球体黒いね。大きさ的には手のひらに収まらないぐらい。陸上の砲丸みたいだね」

 

 

砲丸?

 

 

「うっ」

 

 

な、急に頭が...!

 

 

「クルトくん? 大丈夫っすか?」

「何だか...急に頭痛がして...うっ!!」

「クルト...?」

 

 

何で? 何でこんな急に...!! 何か毒でも盛られたのか? いやそんな事はない。今日は口に入れた物は全部自分で調達した。ならこの頭痛は...? まさか黒幕の手先がまた何かしたのか...?

 

 

「痛い...頭が割れるようだ...」

「クルト! しっかりして! クルト!」

 

 

まずい。意識も朦朧としてきた。

何故...? どうしてこんなことに...? 砲丸という言葉を聞いた瞬間からだった。

 

 

「クルト!!」

 

 

僕は、何かを、忘れている、のか?

 

 

「......」

 

 

.......。

 

 

 

.......。

 

 

 

.......。

 

 

 

 

そこで僕は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜古畑野々葉、才囚の間にて〜

 

 

 

「クルト! しっかりして!」

「大丈夫。息はあるわ。すぐに保健室に運ぶわよ。六車くん!」

「わーってるよ!! ったく何がどうなってんだ!」

 

 

六車くんはクルトくんを抱えると才囚の間から飛び出していった。それを追うように繭住さんと平子さんも部屋から出て行った。

 

 

「野々葉、大丈夫だよね? クルト...」

「どうなんすかね。私には何が何だか」

 

 

本当に分からない。

今日はクルトくんには何もしていないハズなのに。

 

 

「どどどうしよ...ぼくたちも行った方が良いよね?」

「そうっすね。私たちだけ残ってもこの壁画を解読するのは難しそうですし」

「そうだよね。祈里はどうする?」

「私はこの壁画と向かい合ってみる。何か歴史的な考証が必須であれば、私のこの才能も役に立てる。君たちはクルト・L・クルークハルトのことを頼む」

 

 

勅使河原さんは、どこからかノートを取り出すと壁画を模写し始めた。

 

 

「じゃあ、ぼくたちはクルトの様子を見てくるよ。出来るだけすぐに戻るようにするから!」

「把握した」

 

 

勅使河原さんの才囚の間に残し、私と赤星さんはみんなの後を追った。

 

 

「クルト、心配だね」

「そうっすね...本当に...」

 

 

あの壁画を見て倒れるなんてどういうこと?

全く意味が分からない。クルトくんには私にも知らされていない秘密があるの? だとしたらそれを私に隠す理由は何? ...いや他の可能性も考えられる。例えば、上も認知していない秘密をクルトくんが持っている、とか。

 

いずれにしても、それに関して私に出来ることは何もない。私はこのまま"すべきこと"をさせてもらおう。

 

 

 

「ぼく、イヤだよ。もう誰にも死んで欲しくないよ...」

 

 

赤星さんには悪いけど、それは無理なんだ。

これが"コロシアイ学園生活"である以上、避けることは不可能。

 

 

「私も同じ気持ちっすよ」

「うん。もうあの裁判場に戻りたくない。野々葉もそう?」

 

.......ごめんね。

 

 

私には役割があるの。

それは必ず遂行しないといけない。

 

 

「野々葉...?」

「あっ...ごめんなさい。少し考え事をしていたっす。私もあんな場所に戻らないように努力するっす! そのためにもクルトくんには絶対に生きてもらわないと」

 

 

 

私に与えられた最後の役割。

 

それは...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

5回目の学級裁判をこの手で起こすこと。

 

 

 

「さあ、行くっすよ」

 

 

 




5章始まっちまった...。
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