ダンガンロンパExtraWorld 〜砂漠のコロシアイ学園生活〜   作:magone

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第5章 (非)日常編 II

 

 

 

 

 

〜勅使河原祈里、才囚の間にて〜

 

 

 

 

赤星衛と古畑野々葉は行ったか。

 

 

「......」

 

 

クルト・L・クルークハルトは、この壁画を観察した後に頭痛により倒れた。毒物を盛られた可能性も考えられるが、クルト・L・クルークハルトは既に桐崎雨城によって一度盛られている。食事には十分に注意を払っていた筈だ。気化の線も薄い、となると頭痛の原因は私たちに隠している持病があるのか...それとも。

 

 

「この壁画が起因なのか」

 

 

タイミング的にも怪しい。この壁画には何が描かれているのか、それを解明することが出来れば、クルト・L・クルークハルトを見舞った頭痛の原因、延いては私たちが置かれているこの状況をも知り得ることができるかもしれない。

 

私は、ノートに写した壁画を睨む。

 

 

「ふむ」

 

 

大きく6つのセクションに分かれている。それぞれ複数人の人物が描かれており、そのどれにも意味深な描写がある。

 

例えば、この最初のセクション。

 

金髪の女性と緑髪の男性が描かれている。その金髪の女性の手から黒い玉が放たれている。隣の緑髪の男性の頭上にも同じ黒い玉がある。これを見て、クルト・L・クルークハルトは倒れた。何かあるのは間違いないだろう。

 

 

...そう言えば、異変が起きたのは彼が赤星衛の言った"砲丸"という単語を聞いた後だった。仮にこの黒い玉が砲丸だと仮定すると、まるで金髪の女性が緑髪の男性に向けて砲丸を放ったように見える。いやまるでじゃない、本当にそうなのか。だとすれば、この壁画は殺人を描写していると言える。

 

 

「......なるほど」

 

 

この壁画は、過去に起きたコロシアイか。足立猫に送られた真実にもあるように、過去にコロシアイが起きたことについては黒幕サイドが認めている。ならば、これが希望ヶ峰学園内で起きたコロシアイなのか?

 

 

「後で資料を確認しよう」

 

 

図書室に行く必要があるな。今すぐ向かうか? いや赤星衛と古畑野々葉が戻ってくると言っていた。下手に動けば混乱を招くだろう。しばらくはここに留まっておこう。

 

 

「......」

 

 

惰眠でも貪るか。...いや、流石にやめておこう。この石畳では寝心地は最悪だ。ならば、壁画についてもう少し調べてみるか。

 

 

「ふむ」

 

 

こうして見ると私たちが乗り越えてきた事件と似ているな。1番目の事件は2人、2番目の事件も2人、3番目の事件は3人で4番目の事件も2人。壁画が本当にクロと被害者を描いているなら人数が完全に一致している。

 

だとすれば、5、6と続いているということは、まだまだ事件は続く、と?

 

 

「...予言の書じゃあるまいしな」

 

 

事件が続く、とは考えたくはないな。考えたくはないが、考証する必要はある。それならば私の得意分野だ、皆の役に立てるかもしれない。

...萬屋千歳の繋いだ命に意味を見出せるかもしれない。

 

 

「君に逢いに行くのはまだ先になるな」

 

 

そう一人呟く。

 

本音を言えば、私は死にたかった。

萬屋千歳を奪ったこの世界から去りたかった。

 

だからと言って後追い自殺なんて君は望んでいないだろうとは思う。しかし、私の頭には君の死を見た時からずっと希死念慮の靄がかかり続けていた。砂漠越えの戦力にもならず、それどころか足手まといだ。たとえ落命したとて大差ない。私の生に意味はなかった。

 

だが、私が役に立てることがあるなら、その役だけは担おうと考える。その方が天国で萬屋千歳に褒めて貰えるだろう。勿論、膝枕付きでだ。

 

 

「......さて」

 

 

壁画の調査に戻ろう。今は皆を無事家に帰すことが先だ。それにこんな私にも帰りを待つ人がいる。お世話になった人だ。次に会う時が私が死体であっては幾分か忍びない。

 

 

「先生、元気にしてるだろうか」

 

 

私は才囚の間の天井を仰ぎ見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

〜繭住藍子、保健室にて〜

 

 

 

「クルト...」

 

 

こうして保健室のベッドでクルトを見るのは2度目。前回は毒だったけど、今回のこれは一体...。

 

 

「大丈夫、よね? 心配ないよね?」

「医者じゃあるめーし、んなことわかるハズねぇだろ」

「でも少なくとも毒ではなさそうね。前回と症状が異なるわ。まあ、原因不明には違いないけど」

 

 

もう、何がどうなってるのよ...。

 

 

「まぁ驚きはしたが、呼吸は安定してるし、普通に心臓も動いている。死にかけているワケじゃねーし、待ってりゃ目も覚ますだろ」

「楽観的ね」

「悲観的なら良いのかよ。俺たちは待つしかねぇんだ。クルトがこうなった以上、砂漠に出るどうこうの話でもねぇしな」

「そうね...」

 

 

クルトがこんな状況なのに、砂漠に出る選択肢なんて今は取れない。

そんな話をしていると保健室の扉を開ける音が聞こえた。振り向くと赤星と古畑の姿があった。

 

 

「皆さん、クルトくんの様子はどうっすか?」

「気を失ってはいるけど、脈拍も呼吸も正常よ。生死の淵を彷徨っているワケではないのでそこは安心していいと思うわ」

「良かったー! クルトが倒れた時はこのままお別れなんじゃないかと思って本当に怖かったよ〜」

「縁起でもないこと言わないで。それより勅使河原は? 姿が見えないけど」

「祈里はまだ壁画の部屋にいるよ。クルトの様子を見たらすぐに戻るって約束してるんだー! というワケでぼくたちは行くよ」

「そうっすね。クルトくんの無事も確認できましたし。それではまた後ほどっす!」

 

 

赤星と古畑が去り、暫しの静寂が訪れる。

 

 

「...じゃ、俺も行くかな。少しばかり休みてぇし。お前らどうする?」

「私は残るわ。誰かクルトを看てないと」

「そうか。平子、お前は?」

「私も少し残るわ」

「わかった。ならここは頼んだぜ。飯くらいは運んできてやるよ」

「ありがとう。それじゃあまた後で」

 

 

六車も保健室を去り、残ったのは私と平子と昏睡状態のクルトだけだった。

 

 

「アンタも別に行っていいわよ。クルトの面倒くらい一人で十分よ。私を信用できないのは分かるけど、こんな状況よ? 何もしないわ」

「信用してない、なんて事はないわ」

「だったら何で?」

「少し話をしたくて、貴方と」

「私と?」

 

 

そう言うと平子は近場の椅子に腰掛けた。

 

 

「貴方はクルトくんに特別な感情を抱いているの?」

 

 

は?

 

 

「は?」

「貴方たち知己だったとはいえ、それほど親しくはなかったと聞いている。それなのに一緒にいる場面をよく見ると思ってね。クルトくんが倒れた時、前回も今回も最初に駆け寄ったのは貴方だった。だから特別な感情があるのかなって」

 

 

いらない観察眼。

 

 

「特別な感情なんてそんな。私はただ他のみんなよりクルトの方が信頼できると思ったから一緒にいたのよ。助けても、くれたし」

「助けても?」

 

 

私はシザーケースから一本のカットシザーを取り出した。

 

 

「それは?」

「このカットシザーは父からのプレゼントで私の大切な宝物なの」

「はあ。でも何で急にそれを?」

「この宝物を私は砂漠で失くしてしまった。それをクルトは見つけてくれた。嫌な顔一つせずに探してくれた」

「...成程ね。助けてくれたってそういうね」

「私は嬉しかった。宝物を見つけてくれたこと、何よりクルトの優しさが」

 

 

そう。だから。

 

 

「だから特別な感情というか、安心感って言うの? そんな感じ」

「安心感、ね。まぁ、分からないことはないわ。彼ってこう見えて頼り甲斐あるしね」

「でしょ!? そうなのよ! クルトってすごい泣き虫なんだけど、いざって時はカッコよくて〜!」

「...貴方、本当に特別な感情を抱いてないのよね?」

「と、当然よ!」

 

 

 

 

 

 

〜平子華月、砂漠にて〜

 

 

 

 

クルトくんの事は繭住さんに任せ、私は砂漠の様子を見にドーム外へと出ていた。

 

 

「暑いわね...」

 

 

相変わらずの日差しと風に吹かれ舞う砂埃。

 

クルトくんの体調が十全になった場合、この砂漠を越えていくことも考えなくてはならない。が、いざ砂漠を前にすると考えるのを止めてしまいたくなる。それほどまでに悪環境。よく萬屋くんと鮫島くんはこんな砂漠を進めたなと心底思う。

 

 

「本当、どうしたら良いのかしらね」

 

 

落ちた汗が砂漠に染みる。そう言えば繭住さんはさっきこの砂漠でお父さんにプレゼントされたハサミを失くしたって言ってたっけ。...お父さん、か。今頃何をしてるのかしら。私のことを探してくれていたりするのかな。まさか砂漠にいるとは思わないでしょうけど。

 

 

「さて」

 

 

私は砂漠を後にし、学園へと戻った。クルトくんの容態を確認するため保健室へと向かっていた矢先、ピラミッドから帰ってきたばかりの勅使河原さんと鉢合わせた。

 

 

「あら、戻っていたのね」

「ああ」

「古畑さんと赤星さんは?」

「私にクルト・L・クルークハルトの命に別状ないことを知らせた後に共に校内へ戻ってきた。現在2人は保健室にいるだろう」

「そう。それで貴方は何処に行くつもりだったの? その保健室の方から歩いてきたみたいだけど」

「図書室だ。確認したいことがあってな。あの壁画に関連することだ」

「壁画って、あの才囚の間の?」

「そうだ。まだまだ推測の域を出ないが、恐らくあの壁画に描かれたのは過去のコロシアイだ」

 

 

過去の、コロシアイ...?

 

 

「本当に?」

「私たちがさせられているコロシアイと符合する箇所がいくつか見受けられた。何故そのような壁画を作ったかは疑問だが、間違いなく何かある。調べてみる必要はあるだろう」

 

 

あの壁画が過去のコロシアイを描いているとして、それが私たちと一体何の関係があるのか。過去のコロシアイがあったこと自体は既に判明しているワケだし、黒幕の意図が見えてこないのは不気味だ。

 

 

「クルトくんの倒れた原因もそこに?」

「可能性は捨てきれない」

 

 

そのクルトくんの件で図らずも時間は出来てしまった。

 

 

「私も付いていって良いかしら? 折角出来た時間を無駄にしたくないの」

「...特段拒む理由もない。図書室は上階だったな。行くぞ」

 

 

図書室で例の資料集を探す。以前の裁判でも話題にもなった『改訂版・希望ヶ峰学園公式設定資料集』だ。

 

 

「あった」

 

 

起伏ない勅使河原さんの声がした。どうやら見つけたようだ。手近な椅子に座り、中身を確認する。だが、その多くが黒塗りでコロシアイについての情報が得られない。

 

 

「やはりね」

「中身はさして重要ではない。黒塗りであろうことは舞田十司郎の裁判で把握済だ。本命はこっちだ」

 

 

附属のDVD。これに過去に起きたコロシアイのことが収められている、らしい。私はその裁判には出席していなかったから実物を見るのは初めてだった。

 

お目当ての品を手にした私と勅使河原さんは、視聴覚室へ行き、DVDの中身を確認することにした。

 

 

「再生するぞ」

 

 

そして流れ出す映像。

 

"人類史上最大最悪の絶望的事件"。その流れの中に希望ヶ峰学園78期生たちによるコロシアイもあった。ナレーターが淡々と場面を進めていく。感情なく最初の犠牲者の名前が読み上げられた。

 

 

『ーーー超高校級のアイドルである舞園さやかが殺害された』

「止めて」

 

 

勅使河原さんがそう言って、私は一時停止ボタンを押した。

 

 

「何か気付いた?」

「犠牲者が壁画と異なる。壁画によると最初に殺害されたのは緑髪の男性だ。女性ではない」

「ならあの壁画は?」

「...一応、続きも見ておこう」

 

 

その後、全て確認したが、やはり壁画の内容とは一致しなかった。

 

 

「違うのか。ならあの壁画は...? 78期生のコロシアイではない別のコロシアイか」

「別のコロシアイね。可能性はあるかも。足立くんに送られた真実にも複数回行われていることが示唆されていたし」

「かもしれないな。ならばあの壁画のコロシアイは一体いつ何処で行われたものなのか」

 

 

調べる方法はない。

過去に起きた謎のコロシアイ。それが私たちとどういった繋がりがあるのか。

 

なんだか私も頭が痛くなってきた。勘弁してよ、もう。

 

 

 

 

 

 

〜六車ミゲル、屋上にて〜

 

 

 

 

「どうしたら良いんだよ、ったく」

 

 

吐き出すように呟いた。

仮に砂漠攻略に動こうにもクルトが治んねぇと出立の目処も立たねぇし、音楽ホールにあった黒幕の部屋みたいな場所も無理にどうこうは出来そうにねぇし。

 

 

「チッ」

「思い通りにいかないとすぐ舌打ちをする。よくない癖メル」

「あ?」

 

 

声のする方を見るとモノクマのパチモンなのか同類なのかわかんねぇモノラクダがそこにいた。

 

 

「目障りだ。消えろ」

「酷い嫌われ様でトーホーしょんぼりメル。そんな邪険にせず、少しは相手にして欲しいメルよ〜」

「鬱陶しい。折るぞ」

「何を!? 」

 

 

喧しい野郎が来た。敵の畜生と楽しく談笑なんて出来るワケがねぇ。とっとと戻るか。

 

 

「おっと! どこに行くメルか!」

「戻んだよ。いちいち訊くな」

「まぁまぁそう急がずにさ、お話でもするメルよ。黒幕のことも気になるでしょ?」

「......黒幕?」

「お、足が止まったメルね」

「黒幕が何だ? テメェが親切に教えてくれるってか」

「そこまでは流石にないメルよ。ただもう終盤戦メルしね、ヒントぐらいは教えても面白いかなって思っただけメル」

 

 

そんなことして、コイツらに何の得があるんだ? それに終盤戦? まるで終わりが見えてるような言い草だな。

 

 

「何企んでやがる」

「べっつにー、メル。嫌ならこの話は無しで!」

 

 

何にせよ、情報くれるっつうなら無視するワケにはいかねぇか。

 

 

「...はぁ、少しだけ、少しだけなら付き合ってやる。手短に話せ」

「キャッキャ、乗ってきたメルね! そもそも六車クンは黒幕についてどう思ってるメルか?」

「俺がどう思ってるかなんてどうでもいいだろ」

「嫌ならもう良いメル! 会話はドッジボールが基本メルよ」

 

 

キャッチボールだろ、なんてツッコミも煩わしい。

黒幕について俺が思ってることだぁ?

 

 

「俺たちにコロシアイを強いているクソ野郎。それ以上でもそれ以下でもねぇ」

「成程メル。黒幕の正体については見当ついてるメルか?」

「あ? ついてるワケねーだろ。それとも何か? 見当つけられる可能性がある奴ってことかよ」

「さあ、そこまでは言えないメル」

 

 

何だコイツ。

 

 

「さっさと情報寄越せ」

「せっかちさんメル。ふむ、そうメルね〜。黒幕は全く知らない奴ではない、かもしれないメルね」

「...は?」

「キャッキャ。ウケるメル」

 

 

どういうことだ? コイツは俺らの知ってる誰かが黒幕だって言いたいのか?

 

 

「俺たちの中に黒幕がいるのか?」

「トーホーはノーコメントで」

 

 

有り得んのか、そんなことが。

...いや騙されねぇ。コイツは意味深なことを言って俺が仲間を疑う展開を期待してるに違いねぇ。その果てに待つコロシアイを望んでんだ。

 

 

「お前の策には乗らねぇぞ」

「はて?」

「...もういい。最後に教えろ」

「ん? 何メル?」

 

 

答えるワケがねぇが、一応。

 

 

「俺らの中にいる黒幕の手先は誰だ」

「トーホーがその答えを教えるとでも」

「だよな。ならもういいわ」

 

 

俺は校内に戻ろうとモノラクダに背を向ける。

 

 

「じゃあな」

「あ、もう行くメルか。まぁいいメル。オマエラの物語、最後まで楽しませて貰うメルよ〜」

 

 

何が物語だ。ふざけやがって。

 

 

「精々気張るメルよ〜。死んでしまえばお終いメルからね」

 

 

俺はモノラクダの戯言から逃げるように屋上を後にした。

 

 

何がお終いだ。俺はこんな所で終われねぇんだ。まだ世界も獲ってねぇ。チームメイトたちや監督も俺の帰りを待ってる。一刻も早くこんなクソみてぇな砂漠から脱出してやる。

 

 

 

絶望なんてして堪るかよ。

 

 

 

 

 

 

 

〜赤星衛、オアシスドームにて〜

 

 

 

 

 

「リンブルバット。どうか安らかにね」

 

 

ぼくはそう言うと、生前リンブルバットが好きだったおもちゃをお墓に供えた。名前を書いた木の板を地面に刺しただけの簡単なお墓だけど、無いよりは良いと思った。

 

 

「付き合ってくれてありがとう、野々葉」

「いえいえ、これくらい」

 

 

野々葉には無理言ってお墓作りを手伝ってもらった。クルトが大変な時にって自分でも思うけど、それでもリンブルバットだけ眠るところがないなんて、悲しすぎるから。ごめんね、自分勝手で。

 

 

「赤星さん、お墓の場所は本当にここで良かったんすか。作った後に言うのもなんなんですが、ここは...」

「リンブルバットの最期の場所。でも良いんだ。リンブルバットもここが好きだったっぽいし。リンブルバットはマオが苦しませずに逝かせてくれたからね。ここが良い」

「そうっ...すか」

 

 

野々葉はそう言うと膝を曲げ、屈むと両手を合わせリンブルバットのために祈ってくれた。それを見てぼくももう一度両手を合わせた。

 

 

「...ありがとう、野々葉」

「お礼なんてやめてくださいっす。私も罪のない小動物がコロシアイに巻き込まれて死んだなんて、見たくなかったっすから。私は私の意思で祈ってるだけっすから」

「野々葉...」

「帰ることができたら、もっと立派なお墓を建てましょう。こんな簡易的なものじゃなく」

「そう、だね。うん。そうしよう」

 

 

ぼくは落ちそうになった涙を人差し指で拭った。

 

 

「早く帰りたいね」

「そうっすね。赤星さんは会いたい人とかいるっすか?」

「会いたい人か〜。そうだね。パパとママには絶対会いたいし、クラスメイトとか、天文部の友達とか...部長とかにも会いたいかな。いっぱいよくして貰ったし」

「いっぱいっすね。なんだか羨ましいっす。私にはそう言う友達あんまりいませんでしたから」

「そうなの? 意外かも。野々葉かわいいし、声も綺麗だし、性格だって良いのに」

「そそそそそんなことないっすよ!私なんてどこまで行っても陰の化身で友達なんて出来るだけ奇跡みたいなものですし!」

「えーそんなことないのに。陰とかよく分からないけど、ぼくは優しい野々葉が大好きだよ」

「ひぃ! 良いんすか! 私は女の子もイケる口でそんな言葉を掛けられた日にはどうなるかわかったモンじゃないっすよ!! 勘違いしてしまうんですから!!」

 

 

何言ってるかよく分からないなぁ。

 

 

「まっ、リンブルバットのお墓も作れたし、クルトの所に戻ろう。案外もう目が覚めてるかもしれないしね」

「そそそっすね! 行きましょう行きましょう。...ふぅ。アヤウクロリニメザメルトコロダッタゼ」

 

 

ん?

 

 

「何でもないっす」

 

 

ま、いっか。

 

それにしてもクルト大丈夫かな。何事もないと良いけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜クルト、???にて〜

 

 

 

 

 

「起きろ」

 

 

......。

 

 

 

「起きろ。余を待たすな」

 

 

...ん?

 

 

「漸く目を開けたな。ならとっとと認識しろ。お前の目の前にいる男が誰なのかをな」

 

 

言われるがまま、僕の視線は眼前へと向けられた。

 

 

「え?」

「久方ぶりだな。クルト」

「ヒエロ...兄さん?」

 

 

尊大な口振りとウェーブのかかったブロンドの髪、それに王家の正装に身を包んだ姿。間違いない。そこにいたのは、僕の兄であり第一王子のヒエロムニス・M(マクシミリアン)・クルークハルトだった。

 

 

「ヒエロ兄さんが何でここに。っていうか、ここはどこ!?」

 

 

何もない白の空間に僕とヒエロ兄さんは椅子に座り、向かい合っていた。

 

 

「ここが何処かなんてどうだっていい。問題はそこではない」

「問題じゃないって」

「口答えするな、クルト。まだ序列は余の方が上だ」

 

 

何なんだ、一体。

 

 

「ヒエロ兄さんは国で公務中の筈です。それがどうして僕の目の前にいるんですか?」

「経緯は余にも説明できん。そこの情報がどうやら欠落しているようでな」

「欠落?」

「こうしてお前の前に現れ出るのも偶然の産物みたいなものだ。まさか会話までできるとは思わなんだ」

「何を言っているんですか?」

「理解しなくていい。余も十全に理解できているワケではないからな。だが、可能性を模索するなら先日起きた事件の影響だろうな」

 

 

先日起きた事件?

 

 

「萬屋くんが殺された事件のこと?」

「そうだ。クルト、お前は毒煙を吸って精神に異常をきたしていた。その時だ。余の人格とお前の人格が入れ替わった。時間としては数刻程度だったがな」

「...ちょっと待ってください。じ、人格が入れ替わるって何ですか。そんなのまるで僕が二重人格でヒエロ兄さんの人格を有しているみたいな」

「当たらずとも遠からずだ。お前は二重人格ではないが、余の人格はこのコロシアイが始まった頃から常にお前の中にあった。それが毒煙の効果によって一時的に主人格を押し退け、表出した。そう余は結論付けた」

 

 

兄さんの言ってる意味がわからない。僕の中にヒエロ兄さんの人格がどうして...?

 

 

「確かに尊大な態度だったって繭住さんも言ってたけど、まさかヒエロ兄さんだったなんて...」

「正確には余の人格が大半を占めたお前だがな。記憶も自己認識もクルトそのものであったしな。それにしても繭住ってのはあれか、あの口の利き方がなってない女のことか。大切にしてやれ。あれはお前のことを好いている。別れ際にお前に"死んじゃ許さない"などとほざいておったしな」

「好いているって、揶揄わないでよ。そんなんじゃないよ、きっと」

「ふん。まあ良かろう。兄弟の色事に首を突っ込みたいワケじゃない。余が真に話したい事は2つある」

 

 

そう言い、ヒエロ兄さんは2本の指を立てる。

 

 

「2つ?」

「1つは、家族のことだ」

「家族...? みんなに......何かあったんですか」

「死んだ」

 

 

.......................え?

 

 

 

「今、なんて言いました?」

「死んだと言ったのだ。2度も言わせるな」

「いや、いやいやいやいや。何言ってるんですか兄さん! 冗談なんて言ってる場合ですか!」

「革命が起きたんだ」

「.....え?」

 

 

首の筋がぞくりとした。

革命が起きて、みんな死んだ。

今、兄さんはそう言ったのか......?

 

 

「その日は唐突に訪れた。余はたまたま公務で辺境にいてな。王宮で起きた惨劇には巻き込まれずに済んだ。しかし」

 

 

ヒエロ兄さんの眉間に皺がよる。

 

 

「他の皆は捕らえられ悉く処刑された。酷いものでな。動画配信サイトで一部始終生配信された。父の処刑はギロチンだった。まるで中世だ。現代社会の所業とは思えん」

「父上が...」

「独裁を極めていたのは確かだが、まさか弑逆されるとは夢にも思わなかったな。大臣らの圧政も後押ししたか」

 

 

父上が死...んだ。

 

 

「父上だけじゃない。兄弟たちも処刑された。リヒャルトもアレクシアもマルガレータもユリウスもヘルベルトもギルベルトもローゼもツェーザルも王宮にいた王族は全員皆殺しだ。そこには想像を絶する地獄が広がっていた。惨いことこの上ない。可哀想に。ツェーザルなどお前とさして年も違わなかったのにな」

「嘘だ......そんなことある筈ない!!」

「全て事実だ。なんなら兄弟たちの死に様を事細かに教えてやってもいんだぞ」

 

 

信じられない。そんなことあっていいワケがない。みんなが殺されたなんて...。

 

 

「は、母上は...? 母上は無事なのですか!」

「シルビア王妃か。死体は見ていない。が、あの日王宮にいたのは確かだ。生存は望み薄であろう。期待はするな」

 

 

そんな.......。

 

 

「母上.....。どうしてこんなことに...。近衛兵は...軍は何をやっていたんですか! 何故そのような狼藉を許したのですか!!」

「何者かの手引きがあったのやもな。詳細は余も解らぬ。お前を極東に追いやった大臣共は銃殺されておったから此奴らではないが」

「大臣も?」

「ああ」

「使用人たちは?」

「王宮や屋敷におった者は殺されておる可能性が高いな」

 

 

ということは...。

 

 

「グロリアも王宮にいたんですか」

「お前の傍付きの女か。其奴の心配はいらん。王宮を既に出て、異国にて警護の仕事をしておる」

「異国にて警護?......ならグロリアは無事なんですね」

「ああ」

 

 

父上や兄弟たちの死、母上の安否不明と苦しいニュースを聞き過ぎた。グロリアの無事だけでも知れたのは本当に良かった。

 

 

「泣いておるのか」

「え」

「自覚がないのか。それは父らの死に対するものか、それとも傍付きの無事を知れた安堵感からか」

 

 

本当だ。僕、泣いていた。きっとこの涙はどっちもだ。父上ともう一度会いたかった。兄弟たちともう一度話したかった。それがもう叶わないなんて、受け止めきれるワケがない。

グロリア、君は今どうしているんだろう。国外にいるらしいけど、取り敢えず危険はないと考えて良いのかな。

 

 

「まぁ、良い。それと余についてだ」

 

 

そうだ。それも大事なことだ。そもそもヒエロ兄さんの人格が僕の中にあること自体異常なんだ。それについても知ることができるかもしれない。

 

 

 

「運良く王宮で起きた惨劇は回避できたが、どうやら余も死んだらしい」

 

 

え。

 

 

「兄さんも...?」

「余のバックアップが使われた。それが何よりの証左だ」

「どういうこと?」

「保険だ。余に何かあった場合、王子としての公務を滞りなく行えるようにな。影武者にバックアップした余の記憶と人格を植え付けるのだ」

 

 

そんなことができるのか?

 

 

「懐疑的な顔だな。お前は知らんかもしれんが、世界にはそんな技術があるんだ」

「は、はぁ」

「そのバックアップは革命後に一度更新された。そして使用された、お前に」

「僕に? どうして?」

「言ったであろう。経緯は説明できん、と」

「でも、こうして喋ってる兄さんは本物そのものだ。既に亡くなっているなんてそんな...」

「信じられないよな。余にも気持ちはわかる。が、理解を待ってる暇はない。もう一つ話すことがある。お前についてだ、クルト」

 

 

僕?

 

 

「僕が何?」

「お前の中には余とは似て非なる存在がいた。今はもう影もないが、それがお前を襲った頭痛やデジャヴの原因でもある」

「まだ僕の中に何かいたの...?」

「お前も聞いた筈だ。学園で目覚める前、其奴の声を」

 

 

それを聞いて思い出す。確かにそんな声を聞いた気がする。

 

 


 

「......聞こえるかい?」

 

 

 

 

気付くと僕は薄ぼんやりした空間の中に立っていた。そんな僕に声を掛ける誰かの声。僕はその声に何の気なしに話しかけた。

 


 

 

夢かと思って今まで何も思わなかったけど、あの空間で聞いた声の主が壁画を見た時に感じたデジャヴと頭痛の原因だなんて...。

 

 

「其奴を追え。然すれば、コロシアイを終わらせる糸口も見えるであろう」

「コロシアイを終わらせることが...? 本当ですか!」

「余の勘だがな」

 

 

ヒエロ兄さんの勘は昔からよく当たる。信じても良いかもしれない。

 

僕の中にいる"誰か"、君は一体誰なんだ。

 

 

「ん? これは...成程な。クルトよ、後はお前次第だ。頑張れよ。どうやら余は役目を終えたらしいからな」

「え?」

 

 

そう言う兄さんの方を見ると、両脚がまるで光子のようになり、徐々に消失していくのが目に入った。

 

 

「兄さん!」

 

 

僕は立ち上がり、兄さんに駆け寄った。

 

 

「ヒエロ兄さん!」

「声を荒げるな。余は所詮プログラム。取り乱す必要はない」

「でも!」

「済まなかったな。余に力があれば、お前を亡国の王子にせずに済んだのにな」

「何を言ってるんですか!」

「クルトよ、よく顔を見せろ」

 

 

そう言うと兄さんは掌を僕の頭に乗せた。

 

 

「権力争いなどくだらないと思ったが、お前を極東の島国に追放しなければきっと革命で死んでいた。運命とは解らぬな」

「兄さん...」

「初めて会ったのがお前がいくつの頃だったか。あの時のクルトはやんちゃでな。可愛げはあったが、お守りが大変だったな」

 

 

兄さんの声が、すごく優しい。

どうして、そんな声音で話すんだよ...。

 

 

「クルト、国のことはもういい。お前はこのコロシアイから一刻も早く抜け出し、そのまま幸せに暮らせ」

「嫌だよ兄さん。会ったばかりで、もうお別れなんて」

「余はもう一度、お前と会えて嬉しいぞ」

「兄さん...」

「それではな、クルト。絶対に死ぬんじゃないぞ。これは序列上位者による命令だ」

 

 

兄さんの体が消えていく。光の中へ溶けていく。

 

 

「達者でな」

 

 

そう言い残した兄さんは、慈愛に満ちた顔をしていた。

 

 

「ヒエロ兄さ––––––––––––

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「......」

 

 

2度目の保健室の天井だ。

 

 

「あ、目が覚めたっすか」

 

 

声のする方に視線を遣る。古畑さんがいた。

どうやらまた僕は迷惑をかけてしまったらしい。

 

 

「古畑さん...」

「繭住さんたちは今お手洗いに行って...どうしたんすかクルトくん? 泣いてますけど...まだ頭が痛いんすか?」

「いや、違うよ。頭痛じゃない。頭痛じゃない...から大丈夫」

 

 

 

あれはきっと夢じゃない。明確に僕の中で起こったことだ。兄さん、僕は生き残るよ。希望を捨てない。最後まで絶対に諦めないから、どうか見ていて。

 

 

脳裏に思い出が蘇る。

幼少の(みぎり)にヒエロ兄さんに遊んでもらった記憶が。

 

 

 

 

思い出の中の兄さんは、どのシーンも笑顔だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜古畑野々葉、保健室にて〜

 

 

 

数分後、繭住さんと赤星さんがお手洗いから戻って、目を覚ましたクルトくんに気が付いた。

 

 

「クルト〜! 目が覚めたんだね!」

「心配させんじゃないわよ! 何度倒れれば気が済むの!」

「ご、ごめん...」

「まぁまぁ繭住さん、クルトくんも倒れたくて倒れたワケではないですし」

「その事なんだけど、話しておきたいことがあるんだ」

「話しておきたいこと?」

「僕の頭痛の原因にコロシアイを終わらせるヒントがあるかもしれない」

 

 

コロシアイを終わらせる?

 

 

「どういうことっすか?」

「僕もよく分からない。夢の中...なのかもはっきりしないけど、そこで僕は兄さんと会った。俄には信じられないけど、僕の中に兄の人格がいた。一度繭住さんも目にしてる筈だよ」

「まさか...あの時、食堂で会ったアンタがそうだって言いたいの?」

「うん」

「確かにいつものクルトと違い過ぎたけど、毒の影響だとばかり思っていたわ」

 

 

そんな話、聞いていない。クルトくんの中に兄の人格がいるなんて話。上も知らないのか、それとも敢えて私に隠していたのか......。

 

 

「そこで兄に教えて貰ったんだ。コロシアイを終わらせるには僕の頭痛の原因を探るべきだって。どういう理屈なのか分からないけど、あの壁画を見た瞬間の頭痛は明らかに異常だった。探ってみる価値はある、と思う。僕自身、自分の身に何が起きて何を施されたのか知りたいし」

「えっ誰に何をされたの?」

「ごめん...詳細は僕にも分からないんだ。記憶に関することだとは思うんだけど」

 

 

......成程。

 

 

 

「寝ぼけてるだけ、じゃなさそうね。記憶については私も思うところあるし」

「繭住さん...」

「調べること自体は出来るかも知れない。けど、あまり悠長なことも言ってられないのよね。モノクマたちが前回みたく痺れを切らして何かしてくるかもしれないし。取り敢えず、砂漠へ出るか出ないか、それだけでもすぐにでも決めたいところね」

「ならぼくみんなを呼んでくるよー! 野々葉も手伝って!」

「了解っす」

 

 

クルトくん。

 

どうやら君がこの物語において、今までの"彼ら"が担った立ち位置に相当するんだね。そんな君なら希望も絶望も綯交ぜにしながら最後まで進んでくれるかもしれない。

 

 

......さて、なら準備を始めよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最後の事件を、始めよう。

 

 

 

 

 

 

 




今回は生存してる子全員の視点からお送り致しました。色んな視点を書けて楽しかった(小並感)。
あとこれは偶然なんですけど、本日(11/8)がクルトの誕生日なようで...。なんか、ごめんな。おめでとう! 
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