ダンガンロンパExtraWorld 〜砂漠のコロシアイ学園生活〜 作:magone
第1章 (非)日常編 I
「おい! 早くしろ!」
「うるさい! 黙ってろ!」
ああ、やっぱりこうなるのか。僕はまた誘拐されたんだ。目が覚めると手足は縛られ、目隠しされ、口にはタオルが巻かれていた。誘拐犯と思しき男二人の声だけが聞こえる。 これでもう3回目だ。もう嫌だ。もううんざりだ。何で僕だけこんな目に合うの? どうせ今回も王国が誘拐犯にお金を払うのだろう。王子である僕を殺さないという推測の下に。殺してしまえば誘拐犯は国を挙げて世界中で追われるからだ。それでも僕はもう嫌だ。何度誘拐されたって王国は何の対策も打ってくれない。...もういい。もう疲れた。僕の存在価値なんてもう誘拐犯の小遣い稼ぎくらいしかないのかもしれない。だったらもういいや。どうなったって。例え...ここで死んだって......。
「ちゃんとボイチェン使えよ」
「ああ......。もしもし? クルークハルトさんですか?......ええ、私が誘拐犯です。......ええ、身代金1億円です。......そうですか、それはいい事です。私たちも手荒な真似はしたくないんでね。......ええ、それではよろしくお願いしますよ? では、これで」
「どうだ?」
「完璧だ。1億円は俺たちのモンだ!」
「やったぜ! これで大金持ちだ!ハッハッハッ 噂は本当だったな! コイツはいいカモだぜ」
カモ、ね。そりゃそうだよ。こんないい稼ぎ場他にないからね。はあ、もういい。どうでもいい。この世界で僕を助けくれる人なんているはずないんだから。
「そのガキどうする?」
「そこらにでも捨てとけ。俺たちにはもう用な−」
「ドガァァァァァァァァァァァァァァァァン」
「な、何だ!?」
「か、壁が、割れた?」
な、何だ? 今の衝撃音は?
「だ、誰だ!?」
「誘拐犯とは、お前たちの事だな?」
「ひっ! こ、こいつ、見たことがある! いくつもの犯罪組織をたった一人で壊滅させたバケモノ、『ジーク』って呼ばれている奴だ!」
「う、狼狽えるな! こっちには人質がいるんだ! 下手に手を出して見ろ! コイツがどうなってもいいのか?」
「ん? 人質とは、この少年の事か?」
あれ? 誰かがに背負われている? まさか、助けに来てくれたのか?
「テメェ! いつの間に! おい! 沢口! 銃持ってこい!」
「銃、か。そんなものでオレが倒せるとでも?」
「ああ? 銃が効かねえ人間なんているわけ...あれ? あいつどこ行った?」
ふ、風圧が! ど、どうなってるんだ?
「よし! ここはまで来ればまあいいだろう。すまんな、今解いてやる」
誰が僕を拘束していた縄と目隠し、口に巻いていたタオルを外してくれた。
「はあ、はあ、はあ、はあ」
「少年! 大丈夫か?」
「え、あ、はい。大丈夫です。...ここはどこですか?」
「誘拐犯のアジトから少し離れたビルの屋上だ。君を助けるために来た!」
「僕を、助けに? 僕なんかの為に?」
「当然だ! ヒーローが人を助けるのに理由なんかいらない。だから"僕なんか"なんて悲観的になってはいけない」
「ヒーロー...助けに......僕を...?」
「しょ、少年?」
「え?」
気がつくと僕の頰は涙で濡れていた。それは幾度もの誘拐で助けが来なかった絶望と本国の僕に対するぞんざいな後始末、それらがヒーローの登場で堰を切ったように涙となって溢れ出たのだ。
「もう大丈夫だ。警察も呼んである。君は彼らに保護してもらうといい。オレは誘拐犯を捕まえてくる」
「ま、待って...あなたの名前は?」
「オレはジーク。勝利を謳うヒーローだ! 機会があればまた会おう! じゃあな!」
『ジーク』と名乗ったヒーローは凄まじい跳躍を見せて誘拐犯のアジトへと向かっていった。その姿はまるで、幼い頃夢見たヒーローそのものだった。その後、僕は警察に保護され、クルークハルト家の者が身柄を引き取った。ヒーロー『ジーク』は誘拐犯を無事逮捕した事をニュースで知った。『ジーク』とはその事件以来会っていない。
それがまさかこんな所で再会するなんて...。
「さて」
鮫島くん、鬼頭さん、六車くんを保健室へと運んだ後、3人を看ているマオさん以外の僕らは一旦食堂に集まっていた。
「これからどうするっすか?」
「逃げようにもこの学園は砂漠に囲まれている。通信機器があれば助けも呼べるのだけど」
「砂漠を抜けようにも乗り物がなければ難しいと思われます」
「...小田切電皇、君の意見は?」
「...うん、そうだな。今は状況把握が最優先だ。ここがどんな施設でどんなモノがあるか調べる必要がある」
「そうね。エグイサルとか言う機械は小田切くんが倒してくれたし、私たちでも調べられると思うわ」
「ガチャ」
確かに小田切くんの言う通り、ここがどこなのか分からなければ手の打ちようがない。まずこの施設を調べることからだ。そう思っていた矢先、3人を見ていたマオさんが食堂の扉を開けた。
「マオちゃん、3人は?」
「命に別状はないわ。軽い打撲程度で済んで良かった。今は一応安静にしてもらってるけど、多分大丈夫と思うわよ」
「そうか! それは良かった!」
「ヒトは専門じゃないのだけれど、あたしに出来ることはやったわ。...それで、何の話をしていたの?」
「この施設を調べるって話だよ」
「それで如何致しましょう? ここにいる皆様全員で探索なさるのでしょうか?」
「いや、それやと効率が悪いんちゃうか? グループごとに分けるってのはどうや?」
「小生もそれに賛成です」
「そうだな。そうしよう! それじゃあオレの近くにいる3人はオレと一緒に1階、扉を近くにいる4人は2階。それ以外はグラウンドでどうだろう。白衣の君は保健室の3人を引き続き看ていてくれ。それぞれ探索が終わったらこの食堂に再度集まる。で、どうだ?」
えーと、つまり...小田切くん、貴志さん、古畑さん、赤星さんが1階。桐崎さん、萬屋くん、勅使河原さん、舞田くんが2階。僕、繭住さん、平子さん、氏家くんがグラウンドを探索って事かな?
「それでいいわ」
「異存なし!」
「あらあら繭住さんと一緒なのね」
「何よ、平子! 文句あるの?」
「いいえ別に」
「二人とも喧嘩は...うっ」
そういや僕には仲裁能力はなかった。二人の睨みだけで言葉が詰まってしまった。
「と、とりあえず! みんなよろしく頼む! さあ探索しよう!」
小田切くんがそう言うとみんな各々の搜索場所へと散って行った。
「で? グラウンドに出ましたけど、小生たちはこれからどこを捜索するのですかな?」
見たところ至って普通のグラウンド。サッカーゴールや野球のバックネットなどがある。どこをとっても普通のグラウンドだ。周囲を取り囲む高い壁と砂漠に繋がる扉を除けば、だけど。
「とりあえず片っ端から調べるしかないようね。何もないように見えて実は何か重要な、ここから出られる手掛かりがあるかもしれないからね」
「そうだね! ここから出られる可能性があるかもしれないし、張り切って探そう!」
「...何かクルト、テンション高くない?」
「え? そ、そうかな? ははっ」
「明らかにね。ヒーローの登場に気持ちが昂ぶっちゃったの?」
気持ちが昂ぶる......そうかもしれない。僕はあのヒーローにもう一度会えた、それだけでも僕は感謝してるのに、今回また助けてもらった。感謝してもしきれない。まだちゃんと小田切くんと話してないけど、あの時と今回のお礼をきちんと言わないと。
「小生も高揚致しましたぞ! ヒーローを間近で見られるなんてレアもレア! しかも我々は素顔も見たのですよ? 他にこんな体験普通じゃ出来ないものですよ!」
「クルトくんも氏家くんもこれでもう助かったような雰囲気ですね。私たちは未だ敵の手中にいるのですよ?」
「心配しないくても大丈夫ですよ、平子女史。貴女もご覧になったでしょう? 小田切氏がエグイサルらをバッタバッタと倒してゆく様を。あの方がいれば我々はもう助かったも同然でしょう。クルークハルト氏もそう思われるでしょ?」
「え? あ、うん。......そうだね。僕は小田切くんを信じるよ!」
「そう。まあいいわ。でもくれぐれも油断してはダメよ? 犯人はその小田切くんでさえここに連れてきたのだから」
「あ、それもそうだね。...平子さんは冷静だね。うん、気をつけるよ! ありがとう、平子さん!」
平子さんは冷静だ。さすが超高校級の検事だ。誘拐犯にはあの小田切くんをもここに連れてこれる方法がある。しかもこんな施設を用意して殺し合いを強要するような連中だ。用心に越した事はないだろう。
「じゃあちゃっちゃと探索しに行こう。あの水飲み場あたりから探してみる?」
「そうしましょう!」
「うん!」
僕は頭上に広がるハリボテの青空を見て、ここから絶対に出るという思いを胸に意気揚々と調べていった。でもそんな思いとは裏腹に水飲み場付近、サッカーゴール付近には特別変なモノは何一つ見つからなかった。
「何も見つかりませんな」
「仕方ない。あのバックネット付近を探したら一度食堂に戻りましょう」
「うん、そうしよう」
「うーん......うん? うーん」
「うん? どうしたの? 氏家くん、何か見つかったの?」
「いやそれがですね、繭住女史はあのようなラフスタイルではなく、制服を着た方がそそると思うのですよ? 平子女史はスーツスタイルも悪くありませんが、これは逆にアニメコスをすればより映えるのではないかと」
「はい?」
「は?」
「...はあ」
「いやしかし! 今は非常時! この情欲は胸にしまい込んでおきましょう」
「氏家くん...」
「氏家! こんな時にどこ見てんの! 真面目に探して!」
「いえいえ真面目に探していますよ? しかし偶に視界に入る女体で妄想が掻き立てられるのは致し方ないことなのですよ」
「にょ!?......わかった。アンタはここで私が殺す!」
そう言うと繭住さんは理髪用のハサミを取り出し、それをキラリと光らせると氏家くんに向かっていった。それを見ると氏家くんは一目散に走っていった。
「待て! 氏家! 丸坊主にしてやる!」
「ヒェ! お、お助けええええええええええ」
「ははっ...繭住さんにあんな事言うなんて氏家くんは何考えてるんだろうね? ね? 平子さん」
「......」
「平子さん?」
「あ、すまない。少し考え事をしていた」
平子さんは繭住さんと氏家くんのやり取りは視界に入ってなく、ここで初めて出会った時のような難しい顔をしていた。僕はそんな平子さんの顔を見て体育館で彼女の言っていた事をふと思い出した。
「...そう言えば平子さん、体育館で言ってたよね? 昔あった事件に状況が酷似しているって」
「ええ、確かに言ったわね」
「その事件って今僕らが置かれてる状況と関係があると思う?」
「......そうね。関係がある可能性も捨てきらないって所かしら」
「と言うと?」
「私はね、将来立派な検事になる為にいろんな事件の資料を見てきたの。その中にあったのよ、今回のようにターゲットを誘拐して強制的に殺し合いをさせたって事件がね」
「つまり、その事件でも今回のようにデスゲームを強いたってこと?」
「その通り。その事件の犯人は依然逃亡中。まだ捕まっていないわ」
「その事件の犯人がこの事件の犯人かもしれないって事?」
「ええ。でもまだ確信はないわ」
やはり今回以外にもデスゲームが行われていたんだ。その逃亡中の犯人が今回も...?
「お二人とも何のお話をしていてるのですかな?」
「うわぁ!」
「ひゃっ。...あ、あなたね」
氏家くんが後ろから不意に声を掛けてきたので僕も平子さんも驚いてしまった。こんな状況だからか、すごい心臓が痛い。
「急に声掛けないでよ、氏家くん。ビックリしたよ」
「いやはやこれは失敬。なにやら談笑してなさったようなのでこの小生も混ぜてくれまいかと思った次第で」
「何をどう見れば談笑してたように見えたのかしら?」
「あ、あれ? 氏家くん、繭住さんは?」
「いや〜危うく毛根ごといかれるところでしたぞ! 今何とか巻いてここまで逃げて来たのですよ」
「うーじーいーえー!」
後ろを見ると手にハサミを持った繭住さんが目に入った。これだけ見るとホラー映画のワンシーンみたいで少し怖かった。
「繭住さん、少し落ち着いたらどう? 遊んでる場合じゃないのよ?」
「別に遊んでる訳じゃないわよ!」
「そうですぞ? 小生は湧き上がる情欲を必死に堪えているのですよ? 遊びではありませんありません」
「わかった。ふざけているのね」
「...ははっ」
僕は苦笑いを浮かべながらそのやり取りを見ていた。この後、繭住さんたちも落ち着いてバックネット付近を調べたけど、結局何もめぼしい物は無かった。僕たちは諦めて食堂へ引き返した。食堂に着くと既に1階捜索組も2階捜索組、そして保健室にいた面々もいた。
「お、帰ってきたな」
「これで全員が揃ったっすね」
「眠いから早めに終わらせ...終わらせよ...」
「じゃ、じゃあ、早速報告会と行こう−」
「待て...その前に一ついいかのう?」
小田切くんの言葉を遮ったのは鮫島くんだった。
「小田切よ、すまん!」
鮫島くんは小田切くんに向けて深々と頭を下げた。
「おまんの助けが無かったらわしらの内誰かが死んじょった。わしの身勝手な行動のせいで...」
「それを言うなら私もだ。鮫島だけのせいではない。六車もそう言っている」
「言ってねーよ! 勝手に代弁するな! ...まあ、けどよ、あの時小田切が来なかったらマジでヤバイとこだった...」
確かにあの時は小田切くんがあのエグイサルと呼ばれていた機械たちを倒してくれなかったらモノクマに殺されていた。
「じゃき、これからはおまんに従う。この鮫島海、
「や、役立たず何かじゃないよ! 鮫島くんはコロシアイが始まらないようにあの機械たちに立ち向かったじゃないか! そんな事誰にでも出来る事じゃないよ」
「クルト...」
「鮫島、そんなに気にするな、オレは当然の事をしたまでだ。それにヒーローは遅れて登場するものだろ? それまでエグイサルと戦った鮫島たちには感謝しかない。だからあまり気負うなよ」
「...すまない」
「はい! この話はこれで終わりだ!」
そして報告会が始まった。
「1階はこの食堂、保健室、売店、トイレ、倉庫、そして体育館へ通じる扉があった。でも残念ながら脱出に使えそうな通信機器や乗り物のようなモノは確認できなかった」
「あ、そういやあたし、保健室で3人を看ている時、何か大きな音がしたのだけれどあれは何だったの?」
「音?」
「ええ。ガッシャーンっていう何かが倒れたような音だったわ」
「あー、それはオレ達が倉庫を調べている時に赤星が誤って棚を倒した音だ」
「その時はごめん!」
「そうだったのね、何事かと思ったわ」
「心配させてしまったな。よし。じゃあ2階は何かあったか?」
「それではわたしくが説明させて頂きます」
桐崎さんはそう言うと胸ポケットから手帳とペンを取り出した。眼鏡をクイっと片手で持ち上げると手帳をペラペラっとめくった。
「2階には同じような作りの教室が計5つございました。そのどれにも通信機器等の機材はありませんでした。教室は全て16脚の椅子、16台の学習机、1台の教壇、1枚の電子黒板、2台のモニターが常備されていました。念のため全ての机と教壇の中身を調べましたが、何もありませんでした」
「わかった。詳細な情報ありがとう」
「グラウンドは何かあったの?」
「あった物と言えば、水飲み場、サッカーゴール、野球のバックネット、後は宿舎と砂漠へ通じる扉ぐらいよ。乗り物や通信機器は発見出来なかった」
「うん。宿舎は個人スペースのような気がするから後で各々調べておいてくれ。となると後は砂漠か...」
「砂漠...」
あの一面に広がった砂の世界。照つける日差しが痛いぐらいの温度。ここが天国と思えるほどだ。
「よし、一度みんなで砂漠を探索しよう。何かあるかもしれないからな」
「ちょっと! ここから出るのは流石に危険なんじゃないの?」
「...いや出るだけなら問題はない、問題があると言えば先程砂嵐が吹いていた。あれが止んでいないと探索もしようがない...」
「止んでいる事を祈るか...」
「ならはよ探索行こうや。こんなとこ1秒でも早く出たいわ〜」
「決まりね。とりあえず砂嵐が止んでいれば探索、無理なら一度引き返すって事で」
「そうだな!ではみんな行こう!」
みんな小田切くんに連れられるようにぞろぞろと食堂から出て行った。僕もそれについて行こうと思って食堂の扉を開けた。その時カランカランと何か音がした。
「何だ?」
音をした方を見てみるとペンが転がっていた。どうやら扉を開いた衝撃で落ちていたペンを轢いたらしい。そのペンを手に取ると見覚えがあった。
「あ、これ、桐崎さんのだ」
このペンに後ろの部分に消しゴムのようなモノが付いていた。多分今流行りの消えるボールペンなのだろう。僕は少し前を歩いていた桐崎さんにこのペンを返そうと声をかけた。
「桐崎さん!」
「はい。何でございましょうか? クルト様」
「これ桐崎さんのだよね? そこに落ちてたよ」
「これはこれは申し訳ありません。クルト様のお手を煩わせてしまい...」
「き、気にしないで。こんなの何でもないからさ」
「このような失態はもう...」
「あ、え、えーと...」
妙に低姿勢な桐崎さんに少し圧倒されてしまった。僕はペンを拾っただけなんだけど...
「ほんと大丈夫だから! ね? さあ行こう桐崎さん」
「クルト様は寛大ですね。わたくしも見習わなければなりません」
「ははっ...」
少し疲れてしまった。これから探索しないといけないのに体力は温存しておかないと...。学校からグラウンドに出て砂漠へ続く扉へ向かう。
「みんな揃ったな? よし行くぞ」
僕らは内扉を開けて小さな通路へ入った。その奥に砂漠へ通じる外扉が見えた。
「確か内扉を閉めないと外扉は開かないんだよね?」
「...その通り...」
最後に入った貴志さんが内扉を閉めて、その後小田切くんが外扉を開けた。
「うっ!」
暑い。砂埃で目が痛い。だけど砂嵐は止んでいるようだ。
「砂嵐は起こっていないようだ。今のうち探索しよう」
「暑い...ぼく溶けそうだよ〜」
「確かにこれは堪えるね」
「と、とりあえず、調べてみようよ」
早速探索しようと思って辺りを見回した。すると初めて砂漠に出た時見た景色と今の景色とで明らかに違う点を見つけた。
「あ、あれ? あんなのあったかな?」
"それ"は外扉の約4m上にデカデカと張り出していた。
「巨大な扇風機?」
「クルトと来た時はあんなのなかったよね?」
「うん。絶対になかったよ」
学園がドーム状の何かに覆われていたことがあまりに衝撃すぎて忘れようにも忘れられない。その時の景色にはやはりこんなモノはなかったと改めて思う。
「何じゃあれは?」
「ここからじゃ分かりづらいっすね」
「......待ってて......」
「え?」
「萬屋?」
そう言った萬屋くんが右の袖を捲ると何やらメカメカしい物体が右手に取り付けてあった。
「な、何それ?」
「...射出型のラペリングロープ...」
萬屋くんはその右手の装置を巨大な扇風機に向けると、左手でその装置のボタンを押した。すると先端から勢いよくフックのついたロープが飛び出した。そのフックがその巨大な扇風機の羽の部分に引っかかった。ちゃんと引っかかったことを確認すると、その装置はモーター音を上げてロープを巻き取っていく。まるで掃除機のコードを収納するように。そして萬屋くん自身も扇風機の方に向かって上がっていった。
「す、すげー!」
「何すか! 何すか! これはあれですか!? 立体起動装置っすか! 巨人とか駆逐しちゃうんすか!」
「古畑...少し落ち着け」
「あれはどうゆう原理なんだろ?」
そう思っているあっと言う間に萬屋くんはその巨大な扇風機に辿り着いた。器用に張り付いた萬屋くんは辺りを調べているようだ。これも超高校級の探検家の才能なのだろうか。そうこうしていると調べ終わったようでこちらを見て、手で離れるよう指示をした。
「みんな少し離れろ!」
離れると萬屋くんはフッとジャンプした。自由落下している萬屋くんは着地する体制を取っており、バタンッと言う大きな音と共に地上に落ちた。よく見るとしっかりと受け身も取っている。
「だ、大丈夫? 萬屋くん?」
「...平気..」
「そ、そうか。それより萬屋、それは何だ?」
「...これは射出型のラペリングロープ、射出したロープを対象に引っ掛け、それを巻き取る事で自身も対象に移動する事ができる...」
「すげー! なあ? 俺にもやらせてくれよ」
「...駄目...」
「なんだよ、ケチだな〜」
「...いやこれは体重の軽い僕だから可能なんだ。六車君のような人は持ち上がらないと思う...」
「なるほど、そう言う仕掛けなんか〜」
「フフッ、小さな体でやるじゃない? 千歳ちゃん」
「...大した事はしていない...」
「そ、それより、アレは何だったんだ?」
「...本当にただの巨大な扇風機っぽい。他に変わった所は無かった...」
「うーん。なるほどわかった! ありがとう萬屋!」
「...いやこんな事しか出来ないだけで...」
「いやいやそんな事はない。君は確か超高校級の探検家だったな? また色々と頼りにさせてもらうよ!」
「...了解...」
「でも収穫がないのも事実。他の所を探してみた方が良いのではないか?」
「そうだな。みんな! あまり散らばらずにこの辺りを探索してみてくれ!」
僕らはとりあえず周辺の砂漠を調べた。
「とは言うものの、やはりただの大きな砂漠。見つかるものと言えば砂、砂、砂。何かあるか方が不自然ですぞ?」
「そう言わずに探そう? 何かあればここから出られる糸口になるかもしれないし」
氏家くんの言うことももっともだけど。だからって何もしない訳にはいかないと思う。そう思いながら僕は一心不乱に調べていた。
「...あ、クルト君...」
「うん? どうしたの? 萬屋くん」
「…そこは危険。大きな砂山がある。崩れたら生き埋めになるかもしれない...」
「え?」
下ばかり見ていた僕はふと前を見るとそこには萬屋くんの言った通り大きな砂山があった。
「あ、気付かなかったよ...。ありがとう、萬屋くん!」
「...あっちにも似たような砂山があるから気をつけて...」
「うん、わかったよ」
萬屋くんの言った方を見ると確かにこっちとそっくりな砂山があった。それはよく見ると外扉の両サイドに盛られていて、一種のオブジェのように見える。だから何なんだよって話だけど...。僕らはその後も探索し続けたが、何も見つけることはできなかった。
「何の成果も得られませんでしたっす…」
「さっきから某漫画に偏ってるな」
「どうする? 小田切くん?」
「うん...」
そう会話していた矢先、太陽が沈み、辺りは徐々に暗くなり始めていた。
「す、少し寒くなってきた」
「砂漠は昼と夜とで気温差が激しいらしいからね。ここは一旦学園へ戻った方がいいのでは?」
「...仕方ない。今日は切り上げよう。みんなとりあえず学園へ戻ろう」
僕らは外扉を開けて全員が入ると一応外扉を閉めてから内扉を開けた。
「あ、こっちも暗くなるんだね」
偽物の青空は満点の星空に変わっており、不本意ながらも少し綺麗だと思ってしまった。
「偽物にしては中々やるね。この超高校級の天文学者であるぼくの目を持ってしても精巧な作りだと思うよ!」
「...どうやら外の時間と連動して暗くしたり明るくしたりすることができるようだ。全く大したもんだよ」
「感心してる場合?...で、これからどうするの?」
「確か宿舎があったやろ? 全員分の個室はあったし、とりあえずあそこで寝るゆうんはどうか?」
「...うん。他に選択肢は無さそうだな。仕方ない、ひとまずは宿舎に行こう。今日はみんな疲れているだろうから、明日の朝、食堂に集合って事でどうだろう?」
「異議なし!」
「朝か。朝は眠いから弱いんだよね、私」
「勅使河原さんは四六時中眠そうだけどね」
「決まりだな。今日は解散にしよう。明日またよろしく頼む」
宿舎に着くと、みんな各々個室に入っていった。僕も疲れたからとりあえず個室に入ろうとしていた。
「クルト...」
「うん? 繭住さん?」
そんな僕を繭住さんが呼び止めた。
「繭住さん?」
「...クルトは出られると思う?」
「どうしたの? 急に?」
「いいから、答えて」
「......」
その真剣な目つきに一瞬言葉を失ったが、一呼吸を置いて僕は繭住さんに答えた。
「出られる」
「どうしてそう思うの?」
「小田切くんはきっと僕らを救い出してくれる。僕は小田切くんを信じているんだ」
「...どうしてそんなに信じられるの? 小田切が強いから? ヒーローだから?」
「僕は、僕を救ってくれたヒーローを疑う事なんて出来ない」
「……そう、わかったわ。ありがとう。また明日、頑張ろう。おやすみ」
「お、おやすみ、繭住さん…」
繭住さんはそう言うと自分の個室に入っていった。少しいつもと雰囲気が違う繭住さんを気にしながら僕も自分の個室に入った。個室に入ると、そこにはベットや作業用の机、モニターなんかがあった。クローゼットを開けると今僕が着ている服とそっくりそのまま同じものが沢山用意されていた。
「気味が悪いな...」
奥に行くとバスルームがあった。ユニットバス方式でトイレも完備されている。僕は砂で汚れた体を洗いたくてシャワーを使うことにした。念のために扉には鍵を閉めてからバスルームに入った。服を脱いで、シャワーを浴びる。シャワーから丁度いい温度のお湯が出て何とも快適な気分になってしまった。タオルで体を拭き、新しい服に着替え、バスルームから出た。
「ふう」
一息ついてベットに座る。このまま横になればすぐ落ちてしまいそうだ。そう思っていると作業用の机に妙なモノが置いてある事に気付いた。
「うん? これは?」
机の上には電子パッドのようなモノと鍵が置いてあった。
「鍵は多分この部屋の鍵だろう。でもこっちは一体...。あ、思い出した。確かモノクマが言っていたモノパッドて言うヤツだ」
それを持ってベットに行き、寝転びながらそのモノパッドを起動した。起動すると色々なアプリがあった。中でも目を引いたのは"絶望ヶ淵学園校則"と書かれたアプリだ。開くとそこにはコロシアイ学園生活における様々な校則が列挙されていた。
「馬鹿馬鹿しい。もうコロシアイなんて起こらないからこんなのに縛られる必要もない」
そう思うと、今までの疲れからか強烈な眠気に襲われた。モノパッドを傍らに置くと僕はそのまま意識を失った。
【絶望ヶ淵学園校則】
1.絶望ヶ淵学園での共同生活に期限はありません。
2.学園内で殺人が起きた場合、全員参加による学級裁判が行われます。
3.学級裁判で正しいクロが指摘できれば、殺人を犯したクロだけがおしおきされます。
4.学級裁判で正しいクロを指摘できなかった場合は、クロ以外の生徒であるシロが全員おしおきされます。
5.クロが勝利した場合は絶望ヶ淵学園から卒業し、希望ヶ峰学園に帰ることができます。
6.シロが勝ち続けた場合は、最後の二人になった時点でコロシアイは終了です。
7.夜10時から朝8時までの"夜時間"は食堂と体育館が封鎖されます。
8.絶望ヶ淵学園の学園長であるモノクマへの暴力は固く禁じられています。
9.モノクマが殺人に関与することはありません。
10.モノパッドは貴重品なので壊さないでください。
11."死体発見アナウンス"は三人以上の生徒が死体を発見すると流れます。
12.絶望ヶ淵学園について調べるのは自由です。行動に制限は課せられません。
13.砂漠についても同様です。特に制限は課せられません。
14.校則違反した生徒は最新型エグイサルによって処分されます。
15.なお、学園長の都合により校則は順次増えていく場合があります。
今回モノクマはバランスブレイカー小田切くんのおかげで出番がなかったっす。次回も登場するか微妙っす。