ダンガンロンパExtraWorld 〜砂漠のコロシアイ学園生活〜   作:magone

6 / 36
第1章 (非)日常編 II

「うー」

 

目が覚めると僕はベットで寝ていた。でもそれは慣れ親しんだ自宅のベッドではなく、学園に併設された宿舎のベッドだった。もしかしたら全部夢だったらいいなという淡い期待はものの見事に打ち砕かれたのだ。

 

「はあ。顔でも洗うか...」

 

僕はバスルームへ向かい、洗面台の鏡の前に立った。そこには眠そうに半目を開けた僕が冴えない顔をして写っている。そんな顔を水で洗い流す。そして服を整えて、寝癖を直す。でもこのアンテナみたいなアホ毛だけは今日も一向に直る気配がない。諦めて食堂へ向かおうと部屋を出る。

 

「ガチャ」

「あ、クルトくん」

「平子さん、おはよう」

 

扉を開けるとちょうど平子さんが前を通っている所だった。

 

「今から食堂に行くところ?」

「ええ。クルトくんも?」

「うん」

「じゃあ食堂に行きましょう。みんなもういるかもしれないし」

「そうだね」

 

僕は平子さんと学校内の食堂に向かうことにした。何も喋らないのも気まずいからその道すがら平子さんと少し会話する事にした。

 

「そう言えば平子さん、昨日寝られた?」

「ええ、疲れていたからぐっすりと...」

「僕も昨日は早く寝てしまっ−」

 

そう言葉を返そうと平子さんの方に顔を向けると平子さんの手には昨日僕が寝る前に見ていたモノパッドが握られていた。

 

「平子さん、それって」

「ああ、これね。多分モノパッドって言われていたモノよ。何かこれに手掛かりがあるかもしれないから食堂に行ってみんなで確かめようと思って」

「...何かあると思う?」

「さあね、あればいいと思うけど...」

「.......」

「...クルトくん、こっちからも質問いいかしら?」

「あ、うん...いいよ?」

「君はもしかして、小田切くんの事を前から知ってたりしない?」

「え? どうしてそう思うの?」

「ただそう見えただけよ。で、どうなの?」

「......少し前、僕は誘拐され監禁されていたんだ。それを小田切くんに助けてもらった事があるんだ。もちろんジークとしてだけど」

「誘拐?」

「検事なら聞いたことない? バイエロン王国王子誘拐事件。誘拐はこれで4度目なんだ...」

「......ごめんなさい。知らなかったわ...。でもそんな大事件どうして私の耳に入らなかったのでしょう?」

「...多分本国が手を回してるんだ。王子誘拐なんてバイエロン王国のイメージに傷が付くからね」

「自国の王子よりイメージが大事だって言うの!? 何その国、そんな国があるなんて信じられない!」

「いいんだよ。僕は殺されてないだけマシだよ」

「それは...どう言う」

「......」

「クルト!」

「あ、繭住さんですか」

「繭住さん?」

 

つい色々な事を喋ってしまった...。事情なんて言って僕は同情でもして欲しいのか? このタイミングで繭住さんに声を掛けてもらって良かった。これ以上の事は僕も出来れば言いたくない。

 

「おはよう、繭住さん」

「おはよ。で、何話してたの?」

「何でもいいでしょう、そんなの」

「そ、そうだよ! 本当つまらない話だって」

「何よ、私には話せない内容なのか・し・ら?」

「い、いや、それは」

「もういいでしょう。食堂に行きましょう」

 

その後、僕らは宿舎を出て、学校に行こうとしていた。その途中、六車くんと鬼頭さんがいた。...どうやら鬼頭さんが六車くんに襲われているようだ。

 

「お、クルト! 良いところに! この暴力サイコオカルト女を何とかしてくれ!」

「また鬼頭に何かしたのか?」

「何もしてねーよ!」

「したよ。六車は私の大切な装具を勝手に持ち出して遊んでたのよ」

「少し借りただけじゃねーか! 本当にそれで悪魔を祓えるのか気になってちょっと付けただけだろ!」

「なるほどやはり六車が悪かったか。行こう」

「ま、待て!」

「動くな六車、お前の手癖が悪いのはきっと悪魔が憑いてるからだ。だから私が払ってやろうと言うのだ。決して六車を殴る事で愉悦を得ている訳ではない」

「愉悦って言ったよ! 今、愉悦って言ったよ! このクソ神父!」

「まあ大人しく殴られてなさい」

「わかった! 悪かった! 悪かったから! うああああああああああああああああああ!!」

 

六車くんの悲鳴を背中に浴びながら繭住さんに引きずられる形でその場から去った。そして校内に入って食堂へ向かう。僕はそこである"異変"に気付いた。

 

「あれ? 何...これ?」

「ん? これは...」

「まさか!」

 

僕らは恐る恐る食堂の扉を開ける。

 

「こ...これは...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「エッグベネディクト!」

「凄い良い匂いがすると思ったら朝食があったのね」

「でも誰が一体...」

 

テーブルに並んだ料理の数々は律儀に16人分あった。そしてその料理を作った本人であろう人物の声がキッチンから聞こえた。

 

「クルト様、繭住様、平子様、おはようございます。僭越ながら朝食をご用意させて頂きました。食材などは冷蔵庫にあった物を使用しましたが、毒などは入っていなかったのでご安心ください」

 

声の主は桐崎さんだった。キッチンから出てきた彼女はエプロン姿でいつもと違った雰囲気を纏っていた。

 

「お、おはよう桐崎さん。もしかしてこれ全部桐崎さんが?」

「左様でございます。お好みまでは把握しておりませんでしたので、一般的に好まれるメニューに致しました」

「秘書ってのは料理もできるの?」

「はい、少しならば。とは言っても料理の方は不得手なものでこのような粗末な物しかご用意できませんが...」

「じゅ、十分だよ! でも一人でなんて大変だったでしょ?」

「いえ、わたくしはわたくしに出来る事をしたまでの事です」

 

そこまで話すと食堂の扉がカランカランッと開いて、そこから先程いた六車くんや鬼頭さんをはじめ、他の人も続々と入って来た。

 

「アイツ本気で殴りやがって...ん? これは?」

「なんや〜なんや〜? めっちゃええ匂い漂わせてるやんけ〜」

「美味しそー! ぼくヨダレが止まらないよー!」

「これ、君が?」

「はい。その通りでございます。皆様のお口に合うと宜しいのですが」

「いやいやこれはありがたい! 昨日からロクに食ってなかったからな!」

 

みんなそれぞれ椅子に座ると目の前に用意された朝食を食べ始めた。

 

「ゥンまああ〜いっす!!! 美味しいっすよ! 桐崎さん!」

「確かにこれは...非常に美味ですな!」

「お褒め頂きありがとうございます」

「でもこれ1人で作るのは大変でしょう? 今度は私も手伝うっすよ!」

「そのお心遣いだけ頂きます。...それはそうと皆様に一つお聞きしたいのですが」

「何?」

「...勅使河原様は宿舎にいるのでしょうか?」

 

そうだ、よく見ると勅使河原さんの姿が見えない。

 

「アイツの事だ。どうせ寝てんだろ?」

「勅使河原さんならあり得るね...」

「...見てくる...」

「あ、待って萬屋くん。一応私も行くわ」

「じゃあよろしく頼むで〜」

 

萬屋くんと貴志さんが食堂から出て勅使河原さんを呼びに行った。数分後、2人に抱えられながら彼女が姿を現した。

 

「今日は日曜日だから大丈夫だって言ってるでしょ、お母さん」

「誰がお母さんだ! それに曜日なんてわからないでしょ! ほらちゃんと自分の足で歩いて」

「...うん? 貴志萌華? どうして貴女が私のお母さんに?」

「寝ぼけてんじゃないわよ! ここに座って」

「...疲れた...」

 

くたびれた様子の2人を尻目に勅使河原さんは椅子に座るなりウトウトし始めた。

 

「と、とりあえず全員揃ったな? まずは桐崎の作った朝食を食べよう! 話はそれからだ」

 

勅使河原さんも微睡みながらも目の前のご飯を食べていた。みんなもそれぞれお腹を満たしていった。

 

「美味しかった〜」

「ごちそうさま」

「よし、食べ終わったな?」

 

小田切くんは立ち上がり、みんなに向けて話し始めた。

 

「話を始める前にみんなに一つ聞きたいんだが...」

「何かな?」

「ここには色んな超高校級が揃っているんだろ? だったらメカニックや発明家のような機械をイジれる才能を持ってる奴はいるか?」

「...私は全員の才能を聞いたけどそんな才能を持ったのはいなかったな」

「そうか...」

「もしかして通信機器でも作ってもらおうって事か? 残念ながらそれは無理だ。ここには機械類のようなモノがほとんどない。いくらメカニックや発明家でも材料なしには難しいだろう」

「そうだな。いないならいいんだ。それじゃあ改めてみんな聞きたいんだが...」

「...うん」

「みんな自分の部屋は確認したか? 通信機器のような物はなかったか?」

「...まあみんなも知ってると思うけど電子パッドならあった。でもこれにはどうやら通信機能はないみたい」

「俺も確認したけどよー、これには数個アプリが入っているだけだな」

「ちなみにそのアプリって何があるの?」

「...多分このパッドの設定を行う『システム』とこの学園に何があるか確認できる『マップ』、それと...おそらくコロシアイ学園における決まりを示した『絶望ヶ淵学園校則』の3つだね」

「システムはまあいいとして、マップはどうなの? 何か私たちが見落としているところはなかった?」

「いやそう言った場所はなかった」

「で、この校則なんだけど...」

「校則がどうかしたの? 今更こんなルールなんかに縛られないと思うけど...」

「とりあえず確認して」

 

テーブルに置かれた平子さんのモノパッドにはこの学園の校則が並んでいた。

 

 

 

 

【絶望ヶ淵学園校則】

 

1.絶望ヶ淵学園での共同生活に期限はありません。

 

2.学園内で殺人が起きた場合、全員参加による学級裁判が行われます。

 

3.学級裁判で正しいクロが指摘できれば、殺人を犯したクロだけがおしおきされます。

 

4.学級裁判で正しいクロを指摘できなかった場合は、クロ以外の生徒であるシロが全員おしおきされます。

 

5.クロが勝利した場合は絶望ヶ淵学園から卒業し、希望ヶ峰学園に帰ることができます。

 

6.シロが勝ち続けた場合は、最後の二人になった時点でコロシアイは終了です。

 

7.夜10時から朝8時までの"夜時間"は食堂と体育館が封鎖されます。

 

8.絶望ヶ淵学園の学園長であるモノクマへの暴力は固く禁じられています。

 

9.モノクマが殺人に関与することはありません。

 

10.モノパッドは貴重品なので壊さないでください。

 

11."死体発見アナウンス"は三人以上の生徒が死体を発見すると流れます。

 

12.絶望ヶ淵学園について調べるのは自由です。行動に制限は課せられません。

 

13.砂漠についても同様です。特に制限は課せられません。

 

14.校則違反した生徒は最新型エグイサルによって処分されます。

 

15.なお、学園長の都合により校則は順次増えていく場合があります。

 

 

 

改めて見ると15つもあるんだ。

 

「で? これがどうかしたのか?」

「この校則の12と13を見て何か感じない?」

「私は言葉責めなんかでは何も感じないっすよ?」

「そうじゃなくて! 何か思わないってこと!」

 

えーと、12番目の校則は『絶望ヶ淵学園について調べるのは自由です。行動に制限は課せられません』、13番目の校則は『砂漠についても同様です。特に制限は課せられません』だね。

 

「それがどうかしたかしら?」

「私たちをここに誘拐して殺し合いを強要するような連中よ? そんな彼らが私たちに何の制限も設けずに学園や砂漠を調べる事を校則でも許可しているという事は...」

「平子、お前は何が言いたいんだ?」

「...まるでここから出る手段は何もないって言ってるみたいじゃない?」

「手段がないッ!?」

「ここまで狡猾な手を使う奴らだ。そうそう簡単に脱出できる方法を残しているとは思えんな」

「じゃあどうするんや...俺らは黙ってここにおるしかないんか...?」

「......ここからみんなで砂漠から歩いて脱出って言うのは...?」

「...難しい、と思う...。この人数で、しかも素人がこの砂漠を越えるのは無謀、と思う...」

「探検家にそう言われちゃあのう...」

「じゃあ一体どうすればいいの?」

 

ここをいくら探しても脱出の手段はない? それじゃあ僕らはここで助けを待つしかないのか?

 

「うーん」

「あ、それならこう言うんはどうや?」

「何? 舞田?」

「小田切に助けを呼んできてもらうんや! 小田切だけならあの"脚"があれば余裕で砂漠を越えられるやろ? それにモノクマはあくまで俺らにコロシアイをさせたいから手は出さんはずや」

「校則にもそう書いてあるわね」

「......」

「どや? 俺の天才的な発想は! これで助かったも同然やで〜」

「待ってよ! まだ小田切くんが行くって決まった訳じゃ−」

「いや俺もそれしかないと思う」

「小田切くん?」

「心配するな、オレなら砂漠ぐらい越えられるはずだ」

「でも...」

 

確かに小田切くんにならそれが出来ると思う。でも本当にそれでいいのか? 小田切くんを行かせていいのか? そんな不安が頭を過る。しかしそんな不安を小田切くんは一言で薙ぎ払った。

 

「大丈夫だ! オレは超高校級のヒーロー"ジーク"! こんな事は何でもない」

「小田切くん...」

 

小田切くんは余裕の笑みを浮かべ、親指をグッと立てた。

 

「でも流石に何の準備もなしに砂漠に出るのは賢明な判断とは言えないぞ?」

「そ、そうか?」

「萬屋千歳なら探検家の観点から色々助言できるのでは? 彼から砂漠越えの極意を享受してもらうといい」

「萬屋...いいか?」

「...僕は構わないけど...」

「よし!じゃあ決まりだな! 萬屋は後でオレの部屋に来てくれ」

「...わかった...」

「男同士...密室...何も起きないはずがなく...」

「人聞きの悪いこと言うな! 気持ち悪くなるだろうが!」

 

と、ともかく結論が出たようだ。小田切くんが助けを呼ぶために砂漠越えをする。......でも本当に大丈夫なんだろうか?

 

「で? 今日はどうすんだよ? 俺らは何すりゃいいんだ?」

「うーん」

「まあ大丈夫っしょ! エグイサルたちはいない訳だしー! それぞれやりたい事をやればさー」

「確かに昨日の探索の時も危険らしい危険はなかったけど」

「では小田切様と萬屋様は砂漠越えの準備、その他の皆様は"自由時間"という事でよろしいでしょうか?」

「そう言う事になるね」

「ではそのように」

「あっ! その前に...」

 

小田切くんはそう言うと台所からキッチンペーパーを持って来た。

 

「貴志、お前ペン持っているよな?」

「え? あ、うん、持ってるけど...」

「少し貸してくれ」

「......」

 

貴志さんはジャケットの内ポケットから取り出したボールペンを小田切くんに貸した。

 

「ありがとう」

「何を書いているんすか?」

「これは、俺のこの"強化アーマー"を作った浅草橋博士(アサクサバシ ハカセ)の連絡先だ」

 

両腕に装着してるアーマーを強調して、キッチンペーパーに書いた連絡先をみんなに見せた。

 

「紙くらいならわたくしの手帳から数枚お渡し致しましたのに...」

「そうだったか? まあ細かい事はいい! ともかく、オレが砂漠に出た後に通信機器が見つかったら、警察の後でもいい、そこに掛けてみてくれないか?」

「まあそれはいいけど、どうして?」

「このアーマーにはGPSが内蔵されている。通信機器が使えたならきっとこの場所もわかるはず。博士に助けを求めれば必ず力になってくれるはずだ」

「なるほど...そう言うことか」

「でもそのアーマーはどうするの? 君が付けてちゃここの位置がわからなくなるんじゃないの?」

「それも心配ない。強化アーマーは置いていくつもりだ。これは所詮オレの力を強化するだけのもの。こんなモノが無くても素のオレでもあの機械如き敵ではない」

「鬼にぬか漬けってヤツだね!」

「それを言うなら鬼に金棒ね? ぬか漬け与えてどーすんのよ」

「まあでもさすが小田切やな、こんなスーパーマンが本当に実在するとは...いや全く世界は広いのう」

「オレから以上だ。何か他に言いたいことのあるヤツはいるか?」

「小生からは何も」

「ぼくもないねー」

「意見はないよ。現状それが次善の策だろう」

「なら決まりだな! 各自くれぐれも気を付けて過ごしてくれ。解散!」

 

小田切くんのその一言でその場の全員が納得したようで、みんなは思い思いに動き出した。こうして束の間の安息日が始まった。

 

「クルト!」

 

食堂を出ようとしたその時、呼び止めたのは六車くんだった。

 

「サッカーしよーぜ!」

「え? サ、サッカー?」

「1人じゃつまんねーしな。せっかくグラウンドも俺らが独占出来んだし、やらなきゃ損だろ?」

「で、でも2人でサッカーはできないよ?」

「ンなことはわかってる。だから鮫島、舞田、氏家、それと足立を誘ってる。小田切と萬屋はまあそれどころじゃあねーだろから誘ってねー」

「でもその2人に悪いよ。僕らの為に外に出る準備をしてるんだよ? 僕らだけ遊ぶ訳には−」

「オレらの事は気にしなくていいぞ? むしろ張り詰めてる方が問題だ。気が滅入るからな」

「だ、そうだぞ?」

「そうは言っても」

「つべこべ言わずに行くぞ! オラァ!」

 

六車くんに無理やり付き合わされる形でグラウンドに連れ出されてしまった。

 

「サッカーつっても6人しかいねーから、3対3にするか」

「ちょ、ちょっと待って!」

「何だよ、クルト」

「もうやるのは仕方ないとしても、六車くんがいるチームが圧勝して終わりそうなんだけど?」

「うーん、それもそうだな。よし俺は3点入れたら敵チームの誰かと交代する事にするわ」

「でもマジでこの状況でサッカーするんか? 大丈夫なんか?」

「わしもそう思うぜよ。気晴らしとはいえ、ちっくと能天気すぎやせんかのう?」

「平気平気、心配すんな。バケモノ機械もいねーし」

「て言うかあたしはやるって言ってないんだけど? ミゲルちゃん?」

「小生も運動事は苦手でして、はい」

「あーどいつもこいつも! やるったらやんだよ! ほら手出せ」

 

僕は六車くんに言われるがまま右手を前に出した。他のみんなも同じ行動を取る。

 

「じゃあ行くぞ! せーの! グッグッチキチキパーグッチョ!」

「??????」

「な、何それ?」

「は? パーとグーでチーム分けする万国共通の掛け声だろーが!」

「知らんわ! どの辺が万国共通やねん!」

「聞いたことないわね」

「て言うか掛け声にチキとかチョとかチョキみたいなの入ってんのはどうやんや...」

「うっせー! ルールはわかったろ! もっかいやるぞ! はい! グッグッチキチキパーグッチョ!」

 

聞いたことのない掛け声とともに繰り出された僕の右手はパーを出していた。

 

「お、クルークハルト氏とまた同じチームとは、貴公とは何かと縁がありますなぁ」

「クルトちゃんと一緒なんて嬉しいわ〜。よろしくね〜」

「うう」

 

僕、氏家くん、足立くんもといマオさんがパーチーム。六車くん、鮫島くん、舞田くんがグーチーム。......どうしてこうなった?

 

「キーパーはどなたに?」

「あたしが行くわ。汗臭く走り回るのは苦手なの」

「そ、そう...」

「こっちは鮫島がキーパーな?」

「はあ、仕方ないのう」

「よし、もういいな?」

「はあ」

「キックオフだー!」

 

最初にボールを持ったのは、氏家くんだった。氏家くんは慣れないボール運びで敵陣のゴールへ向かう。そこに立ち塞がったのが舞田くんだった。そこで氏家くんは僕にボールをパスしようとこちらに向かって蹴った。

 

「クルークハルト氏!」

「うん! わかってる! あっ!」

「甘いぜ!」

 

気がつくと僕にパスされたボールは目の前から消え去っていた。六車くんにカットされたのだ。

 

「オラオラ! 行くぞ!」

 

六車くんは一直線にマオさんが守るゴールへと走る。僕と氏家くんもそれを追いかけたけど超高校級のエースストライカーの脚にはどうやっても勝てなかった。

 

「そりゃあああ!! ど真ん中行くぜ!!」

「ひぃ」

 

これは...ダメだ。マオさんは六車くんのシュートを避けてしまった。

 

「おいおい、キーパーがボールから逃げるなよ。せっかく手加減してんだらさ」

「無茶言わないでよ! ミゲルちゃんのシュートは手加減したとしても素人のあたしに取れる訳ないでしょ!」

「はあ、まあいい。んじゃ次行くぞ」

「これやっぱり六車の独壇場になるんやな」

 

この後もほとんどずーっと六車くんが点を入れ続けた。

 

「よっしゃ! また入れてやったぜ」

「はあ、はあ、もう、ええやろ? このくらいにしようや...」

「あ? もうか?」

「支配率9割方六車氏が占めているので、勝負にもなりませんよ、これは」

「腹も減ったぜよ...」

「夕方にもなったし、このぐらいにしない?」

「あたしはもう疲れたわ〜」

「はあ、まだやり足りねーが、しゃーねえ、俺も腹は減った」

「や、やっと終わった...」

 

僕らはその足で食堂へと向かった。扉を開けると食器を片付けている桐崎さんがいた。

 

「桐崎さん」

「こんばんは。夕食の方も僭越ながらご用意致しました。他の皆様は先に頂かれ宿舎の方へ戻りました」

「僕らばっかり悪いよ。片付けなら手伝うからさ」

「いえこれはわたくしの仕事ですので...」

「桐崎さん...」

「まあええやんか。それが"生き甲斐"ゆう奴なんや、奪ってやるなや。それより腹減ったわ〜俺はもう食べるぞ」

「では小生も頂くとしますかな」

 

桐崎さんが作った夕食を食べ終わって僕らは全員宿舎へと帰った。僕というとサッカーで流した汗や汚れを落としたくてとりあえずシャワーを浴びることにした。

 

「ふぅ」

 

シャワーから出ててベットに座る。ふと時計を見ると針は10時を指し示していた。

 

「もう10時か...。少し喉が渇いたな」

 

僕は寝床につく前に水を飲みに一階にあるウォーターサーバーへ行くことにした。一応自室の扉に鍵を閉めてから一階へ向かう。夜の宿舎は少し薄暗く、静寂に包まれていた。だから近づくまで気が付かなかった。そこに小田切くんがいた事に。

 

「小田切...くん?」

「うん? ああ、君か」

 

そこにはウォーターサーバーからペットボトルに水を入れている小田切くんの姿があった。

 

「砂漠越えの準備?」

「ああ、そうだ」

「いつ出発するの?」

「できるだけ早い方がいい。明日にでも出発するつもりだ」

「そ、そう。...あ、あのさ」

 

僕は以前助けてもらった事のお礼を言う事にした。しかしいざ改まってお礼を言おうとしたら言葉が詰まり、はっきり発声ができなかった。

 

「ま、前にさ、助けてもらったことがさ、あったでしょ?...そのさ、お礼を、言ってなかったと思うんだけど...あ、ありがとう」

「ん? 前? 助けてもらった? いつの話だ?」

「ほらアレだよ。バイエロン国の王子が誘拐された事件。あの時、ジークに助けてもらったんだよ。...覚えてない?」

「王子...誘拐...あっ! あの時の少年か!」

「う、うん。その少年」

「まさかこんな所で会うなんて、君とは何か縁でもあるのかな」

「それでさ、あの時のお礼もしたいんだ。だから...ここから出たら、僕の家に招待するよ! 小田切くんが欲しい物も用意できるし、ご飯だって振る舞うよ!」

「...誘いは嬉しいが、遠慮しておくよ。オレが目指すヒーローは見返りを求めちゃいけないんだ。気持ちだけ受け取っておくよ」

「そ、そう......ならさ、友達として来てよ!」

「友達?」

「うん! 僕は小田切くんを友達として招待するよ! それならいいよね?」

「......フッ。友人の誘いなら断る事はできないな」

「小田切くん!」

「ここから出たら喜んで行かせてもらう。約束だ」

「うん! わかったよ!」

「ああ。...じゃあオレはそろそろ部屋に戻る。まだ準備が残っているからな」

「あ、うん」

「じゃあな」

 

小田切くんは水を入れたペットボトルを持って自室に帰って行った。僕は小田切くんに友達と認められたことが嬉しくて1人で舞い上がっていた。紙コップを手に取り、ウォーターサーバーから水を出して、一息に飲み干す。近くのゴミ箱に空の紙コップを捨てて、僕も自室に戻る事にした。

 

「ガチャ」

 

部屋に戻り、ベットに沈む。そのまま目を閉じると意識が遠のいて行った。小田切くんがもたらしてくれた平和を噛み締めながら僕は無意識下に落ちていった。




次回、少し進展します。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。