ダンガンロンパExtraWorld 〜砂漠のコロシアイ学園生活〜   作:magone

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第1章 非日常編 学級裁判(前編)

 

 

ーーー弁論準備ーーー

 

 

まずは学級裁判の為に集めた証拠や証言を振り返ってみようかな。

 

 

ーーーモノクマファイル1

被害者となったのは、"超高校級のヒーロー"小田切電皇。

死亡推定時刻は、昨日の午前5時50分頃。

死体発見現場は砂漠。

死因については記述なし。

前頭部に打撃痕が見られる。

 

 

ーーーバックパック

死んだ小田切が背負っていたバックパック。

中身は水の入った1.5ℓのペットボトルが12本、非常食が3個、新品のタオルが3枚である。

 

 

ーーー小田切のマフラー

小田切が生前愛用していた風に棚引く赤いマフラー。

死体発見時には身につけておらず、近くの砂に埋もれていた。

 

 

ーーー非対称的な砂山

外扉の左右それぞれ3mほど離れた所にある対称的な砂山。

死体発見時はその砂山が非対称的になっていた。

 

 

ーーークリーン装置

外扉の手前に積もった砂を除去するために稼働する装置。主に砂嵐の後に稼働する。

 

 

ーーー砂嵐

時折この砂漠で発生する砂嵐。

事件発生から死体発見までに少なくとも1回は起きている。

 

 

ーーー外扉の凹み

砂漠へ出る外扉の内側にあった小さな凹み。

 

 

ーーー砂漠への扉

学園から砂漠へ通じる扉。内扉を開けると小さな通路が設けられており、そこへ入り内扉を閉めることで外扉が開く仕組みである。

 

 

ーーー気絶した赤星

捜査中、突然気絶した赤星。外扉に頭をぶつけた様子で、外から誰か蹴飛ばした可能性がある。

 

 

ーーー萬屋の射出型ラペリングロープ

萬屋が右手に付けている射出型のラペリングロープ。先端にフックが付いており、長さは5mほどで強度もある。

 

 

ーーー古畑の証言

倉庫に保管されてる空のペットボトルが残らず消えていた。しかし探索時に実際にその目で確認したのは、小田切のみである。

 

 

ーーーウォーターサーバー

共有スペースに設置されているごく普通のウォーターサーバー。

小田切が水を調達して以来、大きな変化は見られない。

 

 

ーーー舞田の証言

一昨日の0時頃、舞田が聞いた小田切の怒鳴り声。内容は『ふざけるな』『そんな事はさせない』『希望は負けやしない』である。

 

 

ーーー強化アーマー

小田切が常時身につけていた両手両足に装着するアーマー。小田切曰く、これは力をさらに高める為のアイテムであり、GPSも内蔵している。

小田切の死亡後は自室のベッドに放置されていた。

 

 

ーーー事件発生後の朝

桐崎の手帳に記録されていた事件発生後の全員の食堂到着時間。

午前6時頃に桐崎と古畑。午前8時頃にクルト、六車、鬼頭、赤星、氏家、貴志、足立、舞田、鮫島、平子。午前10時頃に繭住、萬屋、勅使河原が食堂に到着。

 

 

ーーー足立の検死結果

小田切は窒息死であると推定。首に何かで絞められたような痕を発見。前頭部の打撃痕の他には大きな外傷は見られない。

 

 

ーーー小田切がした質問

小田切が以前、全員にした質問。内容としては『機械に精通した才能を持った者はいないか』というもの。

 

 

ーーー置き手紙

事件当日の午前8時頃に食堂で桐崎、古畑、クルトによって発見された小田切が書いたものと思われる手紙。部屋に付属している紙に黒いボールペンで書かれたものであった。

 

 

 

...こんなものだろう。......絶対に真相を暴いてやる。小田切くんが死ななきゃいけなかった理由を見つけるんだ! それが今の僕にできる唯一の恩返しだと信じて...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー学級裁判 開廷ーーー

 

 

「えー、ではでは! 最初に学級裁判の簡単な説明をしておきましょう! 学級裁判では『誰が犯人か』を議論し、その結果はオマエラの投票により決定されます。正しいクロを指摘できればクロだけがおしおきですが、もし間違った人物をクロとした場合は、クロ以外の全員がおしおきされ、生き残ったクロだけがこの絶望ヶ淵学園から卒業でき、希望溢れる外の世界へと羽ばたけるのです」

「も、もし投票しなかったらどうなっちゃうの?」

「その時は投票放棄とみなして、おしおきを実行させてもらいます。...という訳で、クレイジーマックスな学級裁判の開幕でーす!」

「その前に一ついい?」

「何かな? 繭住サン」

「"あれ"は一体どうゆうつもりなの?」

 

繭住さんが指した方向には優しく笑みを浮かべる小田切くんの遺影が立てられていた。その遺影には赤い線でバツ印が付けられていた。

 

「そこは小田切クンの席だったからね。死んだからって仲間外れは可哀想でしょ?」

「悪趣味...」

「...小田切くん」

「それじゃあ! 改めて始めるよ!」

 

とうとう始まってしまった。...始まってしまったからには僕は僕のできる事を全力でするまでだよ。

 

「自由に議論を始めてチョーダイなッ」

「自由に議論ゆうても何からしたらええんや?」

「なに、心配する事はない。私たちには心強い専門家がついているではないか」

「専門家?」

「ああ! 超高校級の検事である平子さんのことっすね!」

「確かに裁判と言えば弁護士や検事が連想されるわね」

「検事さんよ〜、俺らはこれから何すりゃいいんだ? つーか、裁判ってどうゆう流れでやりゃいいんだ?」

「......裁判というのは、大きく民事裁判と刑事裁判に分ける事ができる。今回は殺人という事で刑事裁判の分類に入ると思われるわ。簡単に言うと刑事裁判というのは裁判官から被告人に対する人定質問、罪状認否、事件の流れを説明する冒頭陳述を行い、その後に検察側の立証、弁護側の立証と続き、論告、弁論、被告人の意見陳述、それから−」

「もういい! 聞いてるだけで頭が痛くなってきた...」

「て言うか、それは現実にやってる本当の裁判の話でしょ? 私たちが今やってる"学級裁判"とは違うんじゃない?」

「...そもそも被告人もいなければ、裁判官だって弁護士だって検察官だっていない。だったら僕らで議題を作って、それを議論するしかない...」

「お? 検事ならおるじゃろ?」

「それは肩書きの話でしょ? そこの検事が被告人ってケースもあるでしょ 。鮫島、真面目にして」

「はい。ごめんなさいです」

 

確かにこれは普通の裁判と違うんだ。なら僕らは今話すべき事は僕ら自身が決めなくちゃいけないって事だ。

 

「...それならあたしから提案なんだけど、一度みんなで事件を振り返ってみない?」

「うん! いい考えだよ! ぼくも気絶したショックで事件の流れどころか好きなエッジワース・カイパーベルト天体も忘れちゃったよー」

「ダメだ、これは重症だな。早く何とかしないと...」

 

赤星さんもそうだけど、僕自身一度事件を振り返ってみるのはいい機会かもしれない。みんなとの間で認識の齟齬があってはいけないしね。

 

 

 

ーーーノンストップ議論ーーー

 

 

 

「亡くなられたのは超高校級のヒーローであらせられる小田切電皇様でございます」

「死亡推定時刻は、朝っぱらの5時50分頃」

砂漠で死んでいたんだよね...」

「モノクマファイルには死因は不明って書いてるあるんやなぁ」

「でもこれには前頭部に打撃痕があったって書いてあるっすよ?」

「なら死因は決まりだろ? 小田切は撲殺されたんだよ!」

 

撲殺? いやそれはマオさんの検死結果と矛盾する。

 

足立の検死結果–論破→撲殺

「それは違うよッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「小田切くんが撲殺されたとは、考えづらいと思うんだけど...」

「あ? どうしてだよ?」

「それは、マオさんの検死と矛盾するからだよ」

「あのねミゲルちゃん、確かにあたしはヒトの検死なんてやった事ないし、信用なんてできる訳ないかもしれないけど、これでも医術に携わる者の端くれよ。窒息死したヒトくらいあたしにだってわかるわ」

「私も窒息死だと思うわよ。頭の打撃痕は致命傷には至らないほどのキズに見えるし、それに彼の首には、窒息死を示す痕があったでしょ?」

「首に痕? 何それ?」

「死体を見てない人もいるのね。なら教えてあげて、クルトくん」

「...え? 僕?」

「あなたには一度説明したわよね? みんなに小田切くんの首にどんな痕があったのか言ってみてもらえる?」

「...え......ええ」

 

どうして僕が答える流れになってるんだ?...でもみんなの視線が僕に集まり始めた。言うしかないのか...えーと、さっき平子さんから教えてもらったことと言えば...。

 

 

 

ーーー選択ーーー

 

 

線状痕

索条痕←

電撃婚

 

 

これだよね?

 

 

 

「索条痕...」

「サクジョーコン? 何それー?」

「索条痕て言うのはね、ヒモ状のモノで首を絞められる際にできる痕の事...だよね? 平子さん」

「...その通りよ」

「なるほどな。これはもうどう見ても小田切は絞殺されたに違いないだろう」

「絞殺、ねえ...」

「ん? どうしたの? 勅使河原さん」

「絞殺されたってことは、他殺って事よね。だとしたら動機はなんだったのかと...」

「動機?」

「そんなの決まってるっすよ! 参加者の誰か一人を殺して、このコロシアイゲームから卒業する為っすよ!」

「...本当にそうかしら?」

「と言うと?」

「冷静に考えてみて、私たちはその彼のおかげでコロシアイというゲームから解放されていた。少なくとも当時の私たちはそう思っていたはず...」

「そっか。ぼくたちはモノクマには力はもうなくなったと思っていたから、わざわざコロシアイのルールに則って卒業しようなんて考えることはしないよね!」

「その通り」

「それじゃあ次はその動機について話し合ってみない?」

「少し早い気もするけど、今はとにかく色んな事を議論した方がいいよね」

 

今度は動機か。もしかしたらあの人の言っていた事が鍵になるかもしれない。

 

 

 

ーーーノンストップ議論ーーー

 

 

 

「小田切くんが殺された動機...それについて話し合おう」

「さっきも言ったけど、このコロシアイゲームに従って殺した。...そんな事はないと思うよ」

「なら他の動機があったのね」

「人を殺す動機と言ったら、ベタなところだと金銭トラブルとか?」

恋愛関係の縺れとかもあるのでは?」

「どれもピンとこないのう」

「じゃあ鮫島は何か思いつくの?」

「え、え〜と...そうですね。例えば誰かと何らかの争いがあったとかはどうでしょう」

 

...そうだ! 彼の言った事が動機になりうるかもしれない!

 

 

舞田の証言−賛成→誰かと何らかの争い

「そうかもしれない!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鮫島くんの言う通り、誰かと争いがあったと思うよ」

「なんじゃクルト、何か知っとるような口ぶりじゃのう?」

「う、うん。知ってるって言っても僕はその事を知ってる人を知ってるってだけだよ」

「それは誰じゃ?」

「それは...」

「俺や」

「ま、舞田くん...」

 

舞田くんは僕が言う事を見越したように自分から名乗り出た。

 

「俺が知ってるんや」

「...舞田は何を知っているのだ?」

「俺は聞いたんや。小田切がいなくなった前日の夜にアイツの部屋で誰かと言い争ってるような声をな...」

「何それ、誰と言い争ってたの?」

「...わからへん。そん時は俺もこんなんなる思てないから、スルーしてもうたんや...」

「じゃあ、せめて相手の声とかは聞いてないの? 会話は聞こえなくても男か女くらいはわかるでしょ?」

「すまん...。俺が聞いたのは小田切の声だけや」

「小田切氏の声だけとは...いやはや信用に欠ける証言ですな」

「しゃーないやろ。本当の事なんやから」

「はあ...まあでもこれで小田切くんを殺す動機があった者がいたという可能性が出てきた。現状他に動機らしい動機がないなら舞田くんの証言を信じる他にないでしょうね」

「なんや信用されとるんかされとらんかわからへん言い方やな...」

「......それで? 動機の話は終わり? 今度は何について議論するの?」

「次は−」

「ちょっと待って!」

 

僕らは小田切くんを殺す動機の話が終わって次の議題に移ろうとした、その時だった。貴志さんが声を荒げて、平子さんの進行に割って入った。

 

「何かしら? 貴志さん。何か引っかかる点でもあった?」

「...いやさっきの話に私は何も言うことはないよ」

「なら何?」

「私は平子さんに...と言うか、みんなに一つ聞きたいんだけど、いい?」

「聞きたいこと?」

「いいわ。気になる事があれば言ってみて」

「なら聞くけど...みんなはこの事件、どう思ってるの?」

「どう?」

「どう思うって言ったって...小田切くんが誰かに殺されたと思ってるすけど...」

「そうね。電皇ちゃんが殺されたからこそこんな事になってる訳だしねぇ」

「何を聞くかと思えば...今更なに? あなたは何が聞きたいの?」

「...わからない? なら教えてあげる」

 

貴志さんは、僕らをグルッと見渡すと一呼吸置いて喋り出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「本当に...小田切くんを()()()と思うの?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...え?」

 

 

 

 

とても単純な質問。それも的を得ていた。...いや違う、僕らは気付いていた。気付いてなお気付かないフリをしていたんだ。なぜなら僕らの中に小田切くんを()()()()()()()ほどの力を持った人なんていなかったからだ。それに今まで誰も触れなかったのは、多分それを言えば小田切くん殺しを探すこの学級裁判が成り立たなくなると心の何処かで思っていたからなんだろう...。

 

 

「小田切を殺せる? 何言ってんだよッ! 現に小田切は殺されてんじゃねーか!」

「...それは、僕らの中に犯人はいないってこと...?」

「そんなの、ありえるの?」

「どうなんだ? モノクマよ」

「ではお答えしましょう! クロは確実にオマエラの中に潜んでるよ!ボクや他の第三者が殺した、なんて事はないよ。それにそんな事はボクの目の黒いうちは絶対に許さないからね!」

「...違うでしょ。彼女の言いたいことはそういう事じゃないでしょ」

「さすがは検事さん、わかっているようね」

「んだよ? 何が言いてんだよ...?」

「貴志さんはこう言いたいのよ。...小田切くんを殺せなきゃこの先どんな議論をしても無駄って事よ」

「それは絞殺って事で片付いたろ?」

「...それじゃ逆に聞くけど、六車くんはあの小田切くんを絞殺できるの?」

「...そ、それは」

「できないでしょ。六車くんだけじゃない、ここにいる誰にも彼を絞殺なんてできない」

「小田切氏の底知れない力の片鱗は小生らも周知の通り、百歩譲って即死ならまだしも、絞殺なんて時間のかかる殺し方じゃ彼なら悠々と振り解きましょうぞ」

「そうだよね。あんなニチアサから飛び出して来たような奴、普通は誰も殺せないよ」

「...私はその謎を先に解き明かした方がいいと考えるの」

 

小田切くんが死んでしまった謎。それは誰もが感じていた違和感。あんなに強く、エグイサルまでも倒してしまう力を持っていた小田切くん...。そう、彼が殺される事自体がおかしいのだ。それは僕のエゴではなく、ただの客観的事実だった...。

 

「...それなら改めて聞くわよ、平子さん...あなたはこの謎について解を得ているのかしら?」

「......」

 

平子さんは閉口する他なかった。それもそうだ。平子さんだけじゃない...僕らの誰もがその質問には答えられないだろう。少し時間を置いて、平子さんはその閉口された口を開いた。

 

「...貴志さんならわかるって言うの?」

「......わかるわ」

 

その答えにそこにいた全員が驚愕していた。貴志さんは何かを知ってるのか? そんな事を思いながら僕は次の貴志さんの言葉を待っていた。

 

「なぜなら...私は......」

「......」

 

息を飲む。彼女の一言一句に釘付けになる。しかし数秒後、彼女の口から聞こえた言葉は、予想だにしないものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私は..."探偵"だからよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

「は?」

「え?」

「え、ええぇぇぇぇぇええええぇぇぇぇえええ!!!」

「な、何やてえええええぇぇえええ!!!」

「萌華は、探偵だったの!?」

「...ちょ、え?」

「あなた...それは本当?」

 

みんな口々に驚きの声を上げている。それは僕も例にもれず、ただ開いた口が塞がらずにいた。確かに貴志さんは自分の才能について何も言ってはいなかった、記憶喪失という理由で。それは嘘だったのか、それとも思い出したのか、次の彼女の言葉を聞くまでは判断のしようがなかった。

 

「そうよ」

「じ、冗談やろ?」

「こんな所で冗談なんて言わないわ」

「ま、待って! アンタ言ってたじゃない! 記憶喪失だって...アレは何だったの?」

「...こんな訳のわからない場所で、誰かもわからない相手に素性を明らかにするほど私は能天気じゃないだけよ」

「な、何だと? テメェ! 素性を明らかにした俺らがバカだって言いてぇのか!」

「少なくとも自己防衛に欠ける行動だわ」

「あ? 喧嘩売ってんのか!」

「やめろ! 六車! 今は言い争ってる場合ではないだろう!」

 

今にも手が出そうな六車くんを鬼頭さんが強い口調で制した。

 

「わーってるよ! うるせぇなお前も」

「...えーと、じゃあ貴志さんは探偵として念には念を入れて、自分の素性を隠してた。そんな認識でいい?」

「...まあ、何でもいいわ」

 

何でもいいのか...。

 

「もう...貴志さんが探偵でいいわ...。それに論点はそこではないしね」

「ああ、そうや! 探偵というからには小田切が殺された事についてわかってんねやろな?」

「もちろんよ」

「それなら教えてくれるかしら? あたし達に分かるようにね」

「最終的に答えを言うのは構わない。だけどあくまでその答えを見つけ出すのはあなた達自身でなくちゃいけないわよ」

「は? 何言ってんだよ! わかってんならさっさと教えろよ」

「それじゃあ意味がない...これはあなた達自身で見つけるべき真実だから。私はあくまで進行として議題を提供するに過ぎないのよ」

「何目線? わかってる? この学級裁判には私たちの命もかかってるのよ!? そんな悠長にしてる時間はないでしょ!」

「いやならいいわ。この話はここで終わりよ」

「う、う...」

「皆様...ここは一度貴志様の言う通りにするのはどうでしょうか? わたくしには貴志様には皆様を貶める意図はないと思えるのですが...」

「小生も桐崎女史と同意見なのですぞ...ここで何もわからない方が我々にとって一番の不利益と思われ...」

「...わかったわ。ここは貴志さんに従いましょう、皆さんもそれでいいわね?」

 

みんな黙って頷く。それしか選択肢がないからだ。今は彼女に従うしか真実に辿り着く方法が思いつかないからである。

 

「まずは小田切くんが言っていた事で何か不可解な事はなかった? 誰でもいいわ、答えてくれる?」

 

小田切くんの言動について不可解な事? それってもしかしてあの事を言っているのか?

 

 

 

ーーー選択ーーー

 

 

 

小田切のマフラー

小田切がした質問←

置き手紙

 

 

 

これの事を言っているんだよね?

 

 

 

「...二日目の朝、確か小田切くんはこんな事を言っていたよね? 『メカニックや発明家のような機械をイジれる才能を持ってる奴はいないか』って。貴志さんはその事を言ってるんじゃないかな?」

「私もクルトくんに賛成よ。逆にそれ以外で彼の言動に不可解な点を感じる所はなかったわ」

「...どうやら気付いてたようね。その通り、正解よ」

「ちょ、ちょっと待って! 正解? 何を言ってるの? あの時、電皇がその質問をしたのは通信機器を作れる人を探してただけじゃなかったの?」

「そうじゃないの赤星さん。その時の小田切くんは『通信機器を作る』なんて一言も言ってなかった。それは私たちがそう勘繰っただけ、彼もそれを否定しなかったから私たちがそう勘違いしただけなのよ」

「どうして否定しなかったんすかね?」

「...それはもうここに機械をイジれる才能を持った者がいない事がわかった時点で、否定しようと肯定しようと彼にとってはどうでも良かったからよ」

「えーと、それは、つまり、どう言う事だってばよ...」

「それはこれからわかるわ。小田切くんの発言を踏まえて考えてみるの。どうして砂漠で倒れていた小田切くんが強化アーマーを装着していなかった理由を」

「わかりました。では次の議題は"なぜ砂漠で亡くなられた小田切様には強化アーマーが装備されていなかったのか"で宜しいですね」

「そうね。そうしましょう」

 

小田切くんが強化アーマーを身に付けていなかった理由...そこに揺るぎない真実が隠れているのだろうか。...今はそう信じる他ない。決意を胸に僕は言葉の弾丸を握り締める。

 

 

 

ーーーノンストップ議論ーーー

 

 

 

「なぜ小田切くんは強化アーマーを身につけていなかったのか、その理由を考えて欲しい」

「ソレにはジーピーエスなるもんが内蔵されとる。つまりわしらの為に意図的に置いていったんぜよ!! 小田切自身もゆうとったし、間違いないきッ!」

「そうじゃないとすれば...犯人が持ち去ったとか?」

忘れただけかもしれないよー」

「...壊れていたかも...」

 

 

さっき話した小田切くんのした質問...それを踏まえると...。.................あれ? もしかして...そうなのか? だとしたら...。

 

 

強化アーマー−賛成→壊れていた

「萬屋くんに賛成...かも...」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「壊れていた...もしかしたらそうかも...しれない」

「壊れていたじゃと? クルトよ、おまんはなぜそう思うんじゃ?」

「それは...さっき言ってた小田切くんがした質問の意図を考えれば見えて...きたんだ」

「ん? どうした? 妙に歯切れが悪いな、クルト」

「そ、そう? ご、ごめん...」

「いや謝んなくてもいーんだけどよ。こっちはその見えてきたモンてのはなんなのか聞きてーだけなんだからよ」

「それでクルークハルト氏は何に気付いたのですか?」

「...小田切くんは機械に精通している人を探していた、もしその理由が壊れた強化アーマーを直してもらう為だとしたら?」

「壊れた強化アーマーを...直す為?」

「そうかっ! だから小田切はあの時にそんな質問をしたんだっ! 壊れてしまった強化アーマーを直してもらう為に!」

「そうだとしたら辻褄が合うね。壊れた装備なんて修理でもしない限り使い物にならないし、砂漠越えする際は荷物になるから自室に置いていった。うん。合点がいくね」

「ち、ちょい待ってや! アーマーが壊れてたゆうけどそれはいつ壊れたんや? そんなタイミングあったか?」

「...それはあの時に以外には...考えられないよ」

「あの時? なんや...それは?」

 

強化アーマーが壊れたタイミング...それは...

 

 

 

ーーー選択ーーー

 

 

エグイサルを倒した時←

学園を探索していた時

砂漠越えの準備をしていた時

砂漠に出て行った時

 

 

 

この時だっ!

 

 

 

 

「最初にモノクマに呼ばれて体育館に行って、ピンチになった僕らをエグイサルから助けてくれたあの時......多分小田切くんは自分の装備を犠牲にして僕らを救ったんだ、そうとしか考えられない...」

「ちょっと待ってくれ、つまり何なんだよ? 小田切のアーマーが壊れてたから何だよ! 何がそれでわかんだよ!」

「...貴志さん、あなたまさか"これ"がわかっていたの?」

「平子さんはわかったようね。クルトくんはどうかしら? 小田切くんが死んだ事実と強化アーマーが壊れていた事実、この二つを繋ぎ合せて見えてくる新たな真実、あなたにはわかるかしら?」

「だから一体何なんだよ!」

「これで見えてくる真実は、小田切くんはもといヒーロー『ジーク』の正体よっ!」

「ジークの...正体だと?」

「さあクルトくん、答えてくれる?」

 

 

二つの事実を繋ぐことで見えてくるジークの正体......それは...。

 

 

 

 

ーーー選択ーーー

 

 

 

改造人間

人造人間

普通の人間←

 

 

 

そんな...こんな事が...?

 

 

 

 

 

「小田切くんは...普通の人間だった?」

 

 

「え?」

「...嘘だろ」

「...ふむ」

「そう言う事か......」

「???」

 

大抵の反応は赤星さんや六車くんのように驚愕の色を隠せないようだったが、それもそうだ、そう言った僕ですら半信半疑なんだ。...でも中には平子さんや勅使河原さんのように理解を示すものも散見してる。それは少なからず僕の発言が的外れではない事を意味していた。

 

「クルト、どうしてそう思うの?」

「...小田切くんはあの時、機械に精通している人物を探していた。それは通信機器を作ってもらう為じゃなく、自身の壊れた強化アーマーを修理してもらう為だったんだよ...。なぜそうしなければいけなかったのか、それはあの強化アーマーは小田切くんの力を強化する為のものではなく、きっとその強化アーマー自体こそが小田切くんの力の根源だったからだと思う...。そうゆう事だよね? 貴志さん」

「正解よ」

 

貴志さんは腕を組みながらこっちを見て小さく頷く。それは僕の推測が貴志さんが言っていた真実と合致しているということだった。

 

「強化アーマーが力の根源とな?」

「そう。だからこそ小田切くんは死んだんだ...。初日に強化アーマーが壊れ、それを直す者もいない、エグイサルを倒した時のようは力がない以上は"殺された"と考えておかしくないと思うよ」

「信じらんねぇ。ヤローは自分で言ってたじゃねーか...『これは所詮オレの力を強化するだけのもの』ってよ、あれは嘘だったのかよ...」

 

信じられない。自分で言った発言ながら小田切くんの力は"実は機械頼りの産物でした"なんて、そんなの2度も助けてもらった僕が一番信じられない。信じられないけど......

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それがどうしたって言うんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

小田切くんの力が機械頼りだからって、それが一体どうしたんだ! 僕らを助けてくれた事は紛う事なき真実なんだっ!

 

 

「たとえ嘘だったとしても、それがどうしたんだ! 強化アーマーの件が嘘でも小田切くんが僕らを助けた事実は変わらない。むしろ小田切くんは強化アーマー頼りだった力を僕らを助ける為に投げ打った...力を失うことと引き換えに僕らを助けてくれたんだ! そしてその後も彼は僕らのリーダーとして希望を与え続けてくれた。現に小田切くんは僕らを助ける為に一人で救助を呼びに砂漠越えを決......」

 

 

 

 

 

 

 

 

あれ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

何だろう。この違和感は。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、待ってくや...なら何で小田切は一人で砂漠越えなんてしようとしたんや? 力がないならそんなん自殺行為と変わらへんのちゃうんか?」

 

 

 

 

 

 

 

これだ。僕の感じた違和感。舞田くんの言う通りだ。砂漠越えは本来難しい。それは超高校級の探検家である萬屋くんが断言していた。それは力を発揮できない小田切くんだって例外じゃないはず...ならどうして小田切くんは...。

 

 

 

「クルト、どうしたんや?」

「...わからない。どうして小田切くんはそんな事を決行しようとしたのか。どうしてもわからないんだ......」

「な、なら貴志ちゃんは? 君はわかってんねやろ? 探偵なんやろ? 全部わかってんやろ? なあ?」

「......」

「き、貴志さん?」

 

舞田くんの問いに貴志さんは沈黙を答えた。堪らず僕も貴志さんに問いただす。知りたかった。小田切くんの真意を知りたかった。その一心で貴志さんの次の言葉を待った。しかし彼女から返ってきた言葉は思いもよらないものだった。

 

「...ごめんね」

 

"予想外"、その言葉が相応しかった。なぜ小田切くんの真意を聞かれた貴志さんは謝罪の言葉を口にしたのか。その意味は数秒後明らかになった。

 

 

 

 

「私......本当は"探偵"なんかじゃないよ。だから、小田切くんの真意はわからないわ」

 

 

 

 

え?

 

 

 

「え?」

「は? はああああああぁぁぁぁぁあああああああああ!!」

「何ですとおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!」

「貴志さん、あなた何を言ってるの?」

 

貴志さんの発言に裁判場全体がどよめく。それもそうだ。才能を明らかにしていなかった貴志さんが突然探偵だと言い出し、遂にはそれを撤回したのだ。混乱の様相を呈したとしても仕方がない。

 

「萌華ちゃん、それはどうゆう事かしら?」

「...言葉通りの意味よ」

「言葉通りって...」

「...ふざけんのも大概せぇや、貴志ちゃん...! 何がしたいんやっ! 場ぁ荒らして楽しんでのかっ!?」

「...はぁ。どうしたらそうなるの。荒らすどころかまとめたじゃない?」

「...うん?」

「...つまりあなたはこう言いたいのね?」

 

どうやら呆れ顔の貴志さんの代わりに平子さんが彼女の狙いを話すようだ。

 

「あなたは小田切くんの秘密に気付いたけど、この学級裁判という場で検事である私より発言力が劣ると悟り、探偵と名乗る事で発言力を上げ、自身が進行する議論へ持っていった。こんなところかしら」

「大正解」

「...でも萌華ちゃんが探偵を騙る必要なんてあったのかしら?電皇ちゃんの秘密に気付いたなら、議論が煮詰まった適当なタイミングで言っても問題なかったんじゃない?」

「仮に私が小田切くんの秘密を言った所で一番素性が不確かな私の発言なんて信用に欠けると思ったのよ。だから探偵を騙ってあなた達に推理させ、答えに導かせた方が信用できると考えた。それにこうゆう土台的な部分は最初に埋めないと後の議論が無駄になる恐れもあったからね。...そしてあなた達は小田切くんの秘密の正体を知った、私がわかっていたのはこの程度の事だったんで、探偵さんはお役御免、裁判場から退場してもらったのよ」

「えーと、つまり?」

「注目を集めたかったのね...」

「...なら本当の才能は?」

「ごめんなさい。それについては本当に知らないの」

「.....そうか」

 

確かに探偵なんて名乗られて、その上全員がわかっていなかった小田切くんの秘密を知ってるなんて言われたら、彼女に従わざるを得なかった。

 

「さあ小田切くんの秘密は教えた。後の進行は平子さんに任せるわ」

「...随分勝手ね。まあいいわ、犯人を見つける事が最重要。貴志さんの虚言にかまけてる暇はないわ」

「そうっすね。小田切くんを殺せるのはわかったことですし、他のことを話し合った方が良さそうっすね」

 

貴志さんの事は驚いたけど、平子さんの言う通り、今は議論を進める事を優先すべきだよね。

 

「...じゃあ次の議題は...」

「では現場不在証明(アリバイ)というのは如何でしょうか? 小田切様が亡くなった日の皆様の行動を振り返るのです」

「アリバイね。そういや小田切くんが死んだその日の朝、食堂に現れるのが遅かった人が約3人いましたよね」

「3人って?」

「繭住、萬屋、勅使河原の3人だな。確か食堂に現れた時刻は10時頃だったはずだ。小田切を殺した後、証拠を処分していたとすれば十分すぎる時間があった訳だ」

「待ってよ。小田切が死んだのって朝の5時50分頃なんでしょ? だったら私たち3人以外にも可能でしょ!」

「殺人が起きたのは早朝も早朝。本来みんな寝ている時間帯だ。アリバイなんて誰も成立しないでしょうね」

 

誰もアリバイが成立しない? いやそんな事はない。あの証拠を提示すれば...。

 

 

 

ーーー証拠提示ーーー

 

 

事件発生時の朝←

 

 

 

この証拠で証明できる!

 

 

 

「いやアリバイが成立する人ならいるんだよ」

「それは誰の事を言っている?」

「それは、桐崎さんと古畑さんだよ」

「おろろ〜! 私と桐崎さんすか!」

「それはどうして?」

「...桐崎さんと古畑さんは6時頃にはもう食堂に着いていたんだ。5時50分に殺人を犯してすぐに宿舎に戻っても6時に到着するのは土台無理な話なんだ」

「加えて犯人は証拠を隠滅しなきゃいけない。そんな事をしていたら到底6時には間に合いそうにないわね」

「そうなんだ。だから桐崎さんと古畑さんはアリバイが成立するんだ」

「...やとしてもそれでこの事件から除外できるんは2人しかおらんのか...。まだ13人も容疑者がおる。こんなんで大丈夫なんか?」

「でも着実に前に進んでる。2人削れただけでも大きな成果よ」

「それじゃあ次に進むわよ」

「次って?」

「...凶器の話よ」

 

小田切くんを殺した凶器か。確か小田切くんは窒息死...そしてあの首の痕...という事は......

 

「小田切くんを殺した凶器は"頑丈なヒモ状"の物。窒息死という事実と首の索条痕があった事から間違いないよ」

「それに小田切の頭をぶん殴ったのモンをはっきりしてねーしな」

「あ、それについてちょっと思ったんすけど、強化アーマーが複数あってそれを使ったとかはないんすかね。ほら服とかいっぱい支給されてるみたいですし」

「その辺どうなの!? モノクマ!」

 

「はい! ではお答えしましょう! オマエラのアイデンティティとも呼べるアイテムについては1セットのみ携帯する事を許しています! 例えば鬼頭サンのメリケンサックや萬屋クンの射出型ラペリングロープ、繭住サンのハサミなんかもそうだね、それと同じように小田切クンの強化アーマーは1セットしか許していません!」

 

「つまり同じものはないって事ね」

「そうだよ。ただし服なんか日常生活に支障が出てくるものは別と考えて、ある程度支給しているって訳だよ」

「なるほどね」

「じゃあ私の説はないって事っすね...」

「モノクマからそれを引き出せたのは大きな進歩よ。気にしなくていいわ」

「んじゃ今度こそ小田切を殺した凶器の話だな」

「頑丈なヒモ状の物ね。でもそんなのこの学園にあったかしら?」

「電皇の着けてたマフラーとかは? あれでそのまま絞め殺したとか?」

「頑丈さに欠けるわ。他の物はないの?」

「倉庫とかにはなかったの? そう言った物は」

「なかったすね。あってもやはり頑丈さが足りない気がするっす」

「それじゃあ他に何が−」

「...あるじゃねえか」

「六車くん?」

 

いつになく真剣な声。六車くんらしからぬ疑念を含んだ言葉だ。彼はある人物の方を見ると名指しで言った。

 

 

 

 

 

 

 

「お前ならやれんじゃねーか? 萬屋!」

 

 

「...うん...?」

 

 

「え?」

 

 

 

 

 

視線の先の人物は萬屋くんだった。萬屋くんは少し驚いたように目を見開いた。

 

「...どうして僕...?」

「お前の持ってるラペリングロープなら小田切を絞め殺すぐらい訳ないだろ!」

「なるほど。萬屋千歳のラペリングロープなら強度も申し分ない。凶器になりうるという訳だな」

「...ま、待って...」

 

萬屋くんが犯人? 本当にそんな事があるのか?

 

「待ってよ。萬屋くんは小田切くんの砂漠越えの準備を手伝っていたんだよ? 殺すなんて考えられないよ!」

「だからこそだよ。クルト・ルートヴィヒ・クルークハルト」

「え?」

「小田切電皇と共に行動していた萬屋千歳なら彼の秘密に気付いたかもしれない。いや逆に言えばその事に気付けた人物は彼ぐらいしかいないのよ」

「勅使河原さん...なんで?」

 

萬屋くんは特に勅使河原さんに気をかけてくれていた。眠ってしまった勅使河原さんについてくれたり、寝坊した勅使河原さんを呼びに行ったりしていたのに...それなのにどうして...

 

「どうして勅使河原さんは...そんな簡単に萬屋くんを責めることができるの!? どうして萬屋くんが犯人じゃないって信じられないの!?」

「...君は優しいのね。でもそれだけじゃいけない。生き残る為には仲間ですら疑う時があるの。事実、人間は利益の為に裏切りや謀略を繰り返している。それは歴史が証明している揺るぎない真実よ。..."愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ"という、でも私たちにはその失敗という経験は許されない。だったら私たちは先駆者に学ぶしかないでしょう。歴史はそれを教えてくれているのよ」

 

僕にはそう言った勅使河原さんの顔は悲しげに見えた。人間の凄惨な歴史を知り尽くした勅使河原さんらしい意見だと思う。でも...それでもやっぱり...

 

「でも信じられないよ...萬屋くんが犯人なんて」

「いや俺も六車と勅使河原ちゃんに賛成や」

「舞田くんまで...」

「ようよう考えたら小田切の部屋に入れた奴なんて萬屋ぐらいなモンだ...多分あの時俺が聞いた怒鳴り声も萬屋と口論してたんちゃう?」

「...違ぅ...」

「それだけじゃねぇ! あのラペリングロープを小田切の脳天にぶち込めば気絶だってできるはずだッ!」

「...違う...」

「こう聞くと萬屋くんがすごい怪しく見えてくるわね」

「...違う! 僕じゃない...!」

「違う違うって小学生じゃねえんだぞ! ちゃんとした反論言えっつってんだよッ!」

 

萬屋くんの顔が青くなっていくのが分かる。小さく震えて目も左右に泳いでいる。まさか...本当に萬屋くんが...?

 

「まともな反論もねぇ。これは決まりだッ! 犯人は萬屋なんだよッ!」

「投票タイムや! これで終わりやッ!」

「...僕じゃないんだ...」

「早くしろ! モノクマ!」

「あれれ〜? もういいの? ボクとしてはもうちょっと見たかったけど〜。まあいいか。じゃあ投票タ〜〜〜−」

「違うんだよおおおおおおおお!!!」

 

モノクマが投票タイムの宣言をしようとしたその時、いつものクールな萬屋くんとは思えないほどの絶叫。それと同時に萬屋くんは右手の袖を捲り、それを六車くんに向ける。その数秒後、萬屋くんの右手から高音と共にラペリングロープが射出されたのだ。

 

「ちょ!! 萬屋!! 待てって!! ぐああああああああああああああああああ!!」

「六車!」

「六車くん!?」

「なっ!」

「......」

「......あれ? 何とも...ない?」

「大丈夫なの?」

「...怪我なんてする訳ないよ。この装置に弾丸のようなパワーなんてないし、まして人を気絶させるだけの威力なんてないんだ...」

「...な、なら口で言えっ! 俺に撃つ事ぁねーだろ!」

「...ごめん、つい...」

「ついだったのかよ!?」

 

はあ。とりあえず安心した...。ここで2度目の殺人なんてとてもじゃないけど笑えないし。...そう思っていた直後、ひとりでにラペリングロープがスルスルっと萬屋くんの右手に帰っていった。

 

「ん?」

「あれ?」

 

あれ? これは何だ?

 

「萬屋くん!」

「萬屋くん」

「あっ」

「何やどうしたんや? 二人して声上げて」

「クルトくん、あなたも気付いたの?」

「い、いや気付いたっていうか...萬屋くんに聞きたい事があって...」

「...聞きたい事...?」

「うん。そのラペリングロープについて詳しく説明して欲しいんだ」

「そんなんせんでももう決まりやろ...萬屋が犯人なんやて」

「いやそれは彼の説明を聞いてから決めるべきよ」

 

平子さんは何かに気付いてるようだ。僕といえば少し気になる事があったからそれを萬屋くんに聞きたかっただけだ。それが何かを見極めなければいけない。ここで間違える訳にはいかないから。萬屋くんは深呼吸をすると、ゆっくりと話し出した。

 

「...ふう。...これは僕の右手に装着するように作られているオーダーメイドの品だよ。太陽光により充電でき、常時稼働している。このボタンを押すと約5mほどのフックの付いたラペリングロープが射出される。威力についてはさっき見た通り。射出された5秒後に"自動的"に巻き取られる仕組みになっている。以上だけど...」

「何か気付いたの? クルト」

「うん。今ので確信したよ。萬屋くんのラペリングロープじゃ、とても小田切くんを...いや人を絞殺するなんて出来るはずないよ」

「何で?」

「気付かないの? この装置は"自動的"に巻き取られる仕様なのよ。たった5秒で絞殺なんてできはしない。それくらいは分かるでしょ?」

「...うっ! 言い方は腹立つけど言いたい事は分かるわ」

「ね? これで分かったよね? 萬屋くんが犯人じゃないって−」

「いやそれじゃまだ納得できない」

 

 

え?

 

 

「まだよ。それだけじゃ納得しかねるわ」

「勅使河原さん...どうしてそこまで...」

「疑う時は徹底的によ...私は嫌われても構わない。でもまだ萬屋千歳を信用するには足りないのよ」

「しょ、小生も勅使河原女史に賛成したいと思うのですぞ...」

「私も萬屋くんが犯人だと思うわ」

 

氏家くん...貴志さんまで...

 

「つーかよう、やっぱ萬屋以外には考えらんねーよ。他に犯人らしい奴もいねえし。投票でいいだろう」

「いやそりゃ早いんじゃないかのう? まだ他の可能性があるかもしれんし、わしにはこやつが犯人だとは思えんぜよ」

「あたしは今の千歳ちゃんを100%信用なんてできない。悪いけどここは祈里ちゃんに賛成よ」

「待ってよー! 千歳が犯人なんて信じられないよ!」

「衛ちゃん、時には非情な選択をしなければいけない時もあるの。間違えたら私たちが殺されるのよ...?」

「私はまだ話し合った方が良いと考える。主も言っている。真相は別にあると」

「わたくしも些か早計と存じ上げます」

「...結局どっちを信じればいいんすかー!?」

 

どうしよう、みんなの意見がバラバラだ。どうにかしてまとめなきゃ、このままじゃ投票になってしまうかもしれない。

 

「ねえ。クルト...」

「え? 何? 繭住さん」

「アンタは本当に萬屋が犯人じゃないと思う?」

 

きっと繭住さんも悩んでいるんだ。だからこそ僕に意見を求めてきた。だったら僕も覚悟を決めるしかない。ここが瀬戸際。生存か全滅、それを分ける分岐点。だからこそ僕は彼女の目を見てはっきりと答えたんだ。

 

「萬屋くんは犯人じゃないよ」

「...そう。わかったわ。萬屋を信じるわ。もし間違えてたら地獄でアンタをこれ以上ない程恥ずかしい髪型にして上げるわ。フフッ」

「地獄でも美容師続ける気なんだね」

「おいおい。そんな話してる場合か? 今は投票するかしないか決めんだろ? 意見が"真っ二つ"に分かれてんだ。どうするんだよ、これ」

 

投票するか、しないか、それも決めなくちゃいけない。学級裁判はそういう場なんだ。

 

 

 

「議論するしかないよ。それでどちらの意見が正しいか決めるんだ」

 

 

 

 

ーーー議論スクラムーーー

 

 

《投票タイムだ》 v s 《裁判続行だ》

勅使河原祈里……………クルト

六車ミゲル………………繭住藍子

舞田十司郎………………平子華月

氏家幕之進………………鮫島海

貴志萌華…………………赤星衛

足立猫……………………鬼頭ちはる

古畑野々葉………………桐崎雨城

小田切電皇………………萬屋千歳

 

 

 

貴志

「絞殺する事が出来たのは、萬屋くんのラペリングロープだけなんだよ?」

v s

平子

「このラペリングロープの仕様じゃ絞殺なんてとてもできないわ」

 

 

 

足立

「電源を切れば済む話じゃない? それからだったら電皇ちゃんを絞殺できるかもしれないわ」

v s

桐崎

「こちらの装置には電源は付いておりません。太陽光で充電して、常時稼働している物でございます」

 

 

 

六車

「ならぶっ壊せばいいだろ? 射出した後でよう!!」

v s

鬼頭

壊れていたんじゃさっき射出できたのは一体何だったのか...」

 

 

 

勅使河原

「似たような代替品があったのかもしれない」

v s

繭住

代替品はないよ。モノクマだってそう証言してる」

 

 

 

舞田

「萬屋ぐらいしかおらんやろ!? 小田切を殺す動機を持ってる奴なんて...」

v s

鮫島

「その動機だって確証はないじゃろ? 萬屋が犯人とは限らんぜよ!」

 

 

 

古畑

「でも他に小田切くんの秘密に気付けた人なんていないと思うんすけど...?」

v s

赤星

「そもそも千歳が電皇の秘密に気付いたって根拠はないよー」

 

 

 

氏家

「他に小田切氏を殺せる可能性なんてないと思うのですが、それは」

v s

クルト

可能性がないかどうかはもっと議論を進めればわかるよっ!」

 

 

 

 

 

 

 

これが僕たちの答えだっ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんなっ! 萬屋くんは犯人じゃないかもしれないんだよっ! ここで間違えたら僕らみんな処刑されてしまうんだよ? せっかく小田切くんが助けてくれたのに...ここで死んでしまったらそれが無駄になってしまう...。それだけは...それだけはダメだよ。絶対に...」

「私もクルトに賛成よ。ここで投票に持っていくのは危険よ。もう少し議論を続けるべきだわ」

「そんな事ゆうても萬屋が犯人ちゃうなら、一体誰になるんや...」

「それはこれから明らかにして行こう! わからない事はまだまだいっぱいあるんだから」

 

 

何とか投票タイムを避ける事が出来た...。でもこれからどうするべきなんだ...? これで本当に小田切くんを殺したクロを見つけられるのか...? いや、今は考えても仕方ない。僕らが今やるべき事は議論を先に進める事だ。

 

 

 

 

 

 

たとえその先に絶望しか待っていなくても...。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

???

(もう少し...あと少し......あと少しだから...

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

待ってて

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

...ジーク)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー学級裁判 中断ーーー

 

 

 

 

 

 

 

 




書いてて楽しかった(小並感)

次回はいよいよクロが明らかになります。是非予想してみてください。


ではまた次回お会いしましょう。

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