A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

100 / 150
前回でも軽く触れましたが、くめゆ組の活躍についてはそちらの主役エピソードを用意していく予定なのでお待ちください。



"強さ"の定義

 作戦の詳細を詰め、国土志雄たち防人第一小隊が壁外調査に出撃した。それとほぼ同時に始まったアンノウン側の大侵攻。存在が小さいせいで神樹の警戒網に引っかからないアンノウンも、これだけの数で動けば樹海で捉えることができる。勇者達と残った防人は安芸を中心とした大社革新派の指示のもと、四国各地に出没するアリ退治に従事していた。

 

「東郷さん、そっち行ったよ!」

 

「風、お願い!」

 

「――っ!」

「しまっ……」

 

「させるかぁ!」

 

 動きにキレがない風と美森。その隙をついてきた2体の『フォルミカ・ペデス』は、割り込んできたアギトの剣で両断された。周囲の敵を一掃できたことを確認すると、一声かける間も無くアギトは別の戦場に飛んで行く。

 単体戦力として最強の駒であるアギトは、この混迷極まる戦況において引っ張りだこになっていた。樹海の端から端までをトルネイダーで飛び回り、勇者や防人の援護をしては次の敵へ。

 アンノウンが結界を囲むように全方位から攻めてきたことで、四国全域に広がった樹海。その全てをカバーしているアギトの負担は相当に重い。

 

「りっくん!」

「ラストッ!」

 

 それでも疲労を見せずに立ち回るアギト。必殺のライダーブレイクで最後のペテスを撃破。侵攻開始から数えて第四波となる大規模戦闘が終息した。

 

「……ハァ――、流石にきついな」

 

「りっくん、大丈夫?」

 

「ああ、まだやれる……けど、ちょっと休もう。さっきから頭痛が治まらない」

 

 大社が用意した車に乗って帰投する勇者達。素早い情報伝達のため、戦闘がないときには大社本部で待機することになっている。

 

「風、東郷……気持ちは分かるけど、もっと集中して。これじゃ陸人の負担がでかすぎるわ」

 

「……そうね。ごめんなさい、リク」

 

「……ごめん、分かってはいるんだけど……」

 

 疲労から静寂が保たれていた車内で、夏凜がおもむろに口を開く。これまでの戦い、何度も連携に綻びが出ている。その全てはこの2人の不調が発端だ。陸人も毎度フォローしているが、その結果彼は1人だけ簡易ベッドに横たわっている始末。次はもう危ないかもしれない。その危機感が、戦士として鍛えてきた夏凜を焦らせている。

 

「俺なら大丈夫……だけど、確かに今の2人はいい状態じゃない。少し戦線を離れて休むべきかもしれないな」

 

「それを言うなら真っ先にあなたでしょ、リク。本当にごめんなさい。説得力ないだろうけど、ここからは目の前の敵に集中する。もうあんな無様は晒さないわ」

 

「あたしも、ホント大丈夫だから……ごめん、みんな」

 

 ハッキリと断言する美森だが、陸人には心ここに在らずに見える。戦場ではない何処かを意識しているような、勝つこと以外の何かを目指しているような、妙な態度が気にかかった。

 

 一方の風も言葉は前向きだが、仲間の顔もまっすぐ見られないほどに、その精神状態はボロボロだった。樹海でも現世でも隣に寄り添う樹が懸命に支えてなんとか持ちこたえているが、やはりまだ根本的な問題『妹達を苦しめたこと』に対する自分なりの答えが見出せずにもがいている風。

 

 勇者部は今、内側に爆弾を二つ抱えたまま戦っているに等しい。頼みの陸人も、今は戦闘で手一杯。樹は声が出せず、友奈と夏凜も上手い言葉が見つからない。

 一応は勝利している側とは思えないほどに、勇者達を包む雰囲気は重苦しいものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(どうすればいいのかな……私にできることって……)

 

 大社本部の食堂。長時間の待機も予想される勇者達への配慮として解放された休憩スペースで、樹はお茶を飲みながら悩んでいた。姉の心境は徐々に悪化してきている。ここまで戦ってこられたのは奇跡に近いと言っていい。

 声を失った樹が文字でどれだけ想いを伝えても、風は作り笑顔で返すだけ。ずっと守ってくれていた姉の窮地に何の力にもなれていない。樹は自分の無力を責め続けていた。

 

「あれ? 樹ちゃんも小腹が空いたの?」

 

 誰もいないと思っていた食堂に、気づかぬうちに入ってきていた陸人。樹は驚いて思わず立ち上がる。何せ彼は帰りの車中で眠りにつき、そのまま点滴を付けて医務室に運ばれたはずだったのだから。

 

 "もう大丈夫なんですか?"

 

「ああ、ちょっと寝落ちしただけなのに大袈裟だよね。全然平気。医務室に見張りが張り付いてて落ち着かなかったから抜け出してきたんだ」

 

 顔は青白く、立つ姿にもいつもの覇気がないが、それでも笑う陸人を見て樹は安堵した。

 

 "そうですか、良かった……あの、ちょっと相談いいですか?"

 

「うん?……ああ、風先輩のことだね」

 

 "お姉ちゃん、どんどん顔色も悪くなって……このままじゃ大変なことになりそうな気がするんです"

 

「そうだね。今の風先輩は色々なことに罪悪感を感じてて、それに押しつぶされそうになってるんだと思う」

 

 勇者部を作ったこと。仲間達を巻き込んだこと。その結果、取り返しのつかない傷を残させてしまったこと。

 陸人を責めるような言葉を放ってしまったこと。錯乱して刃を向けたこと。今も足を引っ張り続けていること。

 

 そして何より、最愛の妹が初めて見つけた夢を永遠に奪ってしまったこと。

 

 これらが風の頭に延々とループし、自身の心を苛んでいる。風の心が壊れるのが先か、集中を欠いて戦場で死ぬのが先か。犬吠埼風はそこまで追い詰められていた。

 

 "陸人さん、お姉ちゃんを助けてください。お願いします!"

 

 端末に文を表示し、深々と頭を下げる樹。彼女にとって御咲陸人は、何度も自分達を助けてくれた頼れる先輩。心も強く、共感能力も高い、理想的なヒーローだった。

 

「樹ちゃんの気持ちはよく分かるよ……でもごめん、俺にはできない」

 

 だからこそ、そのヒーローが首を横に振った時、樹は心の底から驚愕した。あの陸人が、手を伸ばした誰かに応えなかったのだ。

 縋るように陸人の服を掴んで詰め寄る樹。声こそ出ないが、その口と表情は"どうして⁉︎"という情動を雄弁に示していた。

 

「俺は結構我慢強い方だと自覚してる。それでも、この状況で疲れてることを表に出さないようにするのは無理だ。苦しそうにしてる俺が何を言っても、風先輩は自分を責める……今回の件に関して、残念だけど俺の言葉には何の説得力もないんだよ」

 

 頼みの綱だった陸人のお手上げ宣言。樹は意気消沈して俯く。ならば、いったい誰が苦しみ続ける姉を救えるのか――

 

「だから、お姉ちゃんは君が守るんだよ。樹ちゃん」

 

 思わぬ言葉に顔を上げると、陸人はいつもの人を安堵させる笑顔で樹の頭に手を乗せていた。

 

「風先輩が1番気に病んでいるのは君の声だ。だから君が、自分の言葉と想いを示すしかない。お姉さんの心が前を向いてくれるまで何度でも。誰の受け売りでもダメだ。樹ちゃんが心から信じることを、心から大好きな風先輩にぶつけ続けるんだよ」

 

 これまでずっと言葉を尽くして姉に寄り添ってきた。それでもダメだったのだと嘆く樹。陸人は落ち込む彼女の両頬に手を添え、優しく引っ張って口角を上げさせる。いつもの愛らしさは何処へやら、ひどく不自然な笑顔が完成した。

 

「そんな顔で何を言っても、心を閉ざした人には届かないよ。スマイルスマイル。樹ちゃんは可愛いし、風先輩は君の笑顔が大好きなんだからさ」

 

 しばらく樹の柔らかい頬をこねくり回し、満足した陸人が解放した頃には、彼女はもう俯くことなく前を向いていた。

 

「傷ついた君に、酷なことを言ってるのは分かってる……それでも、今風先輩を救えるのは、俺でも友奈ちゃんでも美森ちゃんでも夏凜ちゃんでもない。1番長く、1番近くで彼女を見てきた樹ちゃんだけなんだ」

 

 その言葉に、樹はずっと沈んでいた心の闇に、一筋の光が射したのを感じた。

『お姉ちゃんの隣に立って、一緒に守りたい』

 歌手の夢とある種同様の、彼女の密かな目標。それを叶える時は、もしかしたら今なのかもしれない。

 

 "ありがとうございます、やってみます!"

 

「ああ。俺は正直自分の面倒見るので手一杯だから、樹ちゃんに任せるよ」

 

 それと同時に、いつからか密かに願っていたもう一つの目標、"陸人に頼られること"も、今この瞬間に達成されようとしていた。現状が追い込まれ過ぎているのもあるが、陸人が困った時に頼ろうと思えるくらいには、樹も強くなれたのだ。

 

 "任されました。でも意外です。陸人さんができない、って言葉を使うとは思いませんでした。"

 

「去年辺り言わなかった? 俺だって無理なら無理ってちゃんと言うってさ。残念ながら、俺には完全無欠のヒーローは土台無理らしくてね……そのくせ守りたいものばっかり多く抱えてるから、こうしてみんなに助けてもらってるんだ」

 

 戯けて笑う陸人に釣られて、樹も久しぶりに笑うことができた。

 

(この子も変わった。強くなった……いや、違うな。最初から強さを持ってて、俺がそれに気づかなかっただけか)

 

 "強さ"と一口に言っても、その実色々な性質がある。

 友奈のように、常に誰かのために動く優しさという強さ。

 夏凜が持つ努力してきた自分を信じること、誇りという強さ。

 風が見せた、大事だからこそなんでもやってしまえる愛の強さ。

 美森が秘める人間らしく、弱さと臆病さを忘れないことだってその一つ。弱さを知るという強さだ。

 

 そして樹にあるのは、どんな時も1番大切なものを見失わない芯の強さ。声を奪われても夢を断たれても、大好きな姉のために前を向き続ける。それが樹の勇者たる所以。

 

「風先輩のことは、樹ちゃんにお任せする。無責任に聞こえるかもしれないけど、俺は樹ちゃんの強さを信じてるよ」

 

 "はい。犬吠埼樹、その依頼引き受けます!"

 

 ホッと一息ついたその時、突如として本部中にアナウンスが流れた。

 

『先遣隊の報告がありました。勇者様、及び防人各員は第1会議室に集合願います。繰り返します――』

 

 その言葉は、誰もが望んでいた吉報。先の見えない暗雲を晴らす、人類逆転の一手が始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 第一小隊がステルス能力を持った特型アンノウンを発見。苦戦の末術を使っていた装備を破壊。ネストを覆い隠していた結界を解除することに成功した。

 

「この方角は……丸亀城の辺りか。避難の準備はもう?」

 

「ええ。こちらの派閥で手が空いたものを総動員。並びに上里家、乃木家をはじめとした大社本部でも正常な思考を保てている方々の協力も得られました。

しかし、ネストが実際に侵攻してしまえばその被害はどれほどのものか……遠方の市街地に到達することも十分考えられます」

 

 樹海にダメージが広がれば、その分現実世界でも影響が出る。ネストの規模で壁の内側で暴れられれば、過去最大級の被害が残ることは確実だ。

 

「アリの巣が壁にぶつかる前に撃墜するしかないってことね。侵入の手筈は?」

 

「ネストは対空砲火の他にも飛行能力を備えたアンノウンの群れ、更にはバリアのようなものを全方位に張り巡らせています。なので――」

 

「あなたたちには突入班と牽制班に分かれてもらう。牽制班は敵の迎撃を捌きつつ突入のサポート。そのまま外側の戦力の相手と、ネストの足止めを担うことになるわ」

 

「そして突入班は内側から御霊を探してこれを破壊。ネストを堕とすことが目的です。侵入できたらこちらで用意した偵察ユニットを用いて内部を検索。目的地までは我々が案内しますので」

 

 そう言って渡されたのが手のひらサイズの円盤。起動することで空を飛び、カメラやマイク、センサーで周囲を偵察できるドローンだ。

 

「一時的に見失ってしまったことで、かなり距離を詰められている。ここからは時間との勝負よ……こちらでも打てる手は打つけど、長引けば長引くほど不利になる。お願いね、勇者様方」

 

「……了解です。それじゃ俺たちは――」

 

 言い切る前に、全員のスマホからアラームが鳴り響く。アンノウンの全方位同時侵攻、第5波がこのタイミングで発生した。

 

「アンノウンの対処は防人で行います。皆様は急ぎネストに向かってください」

 

「でも……」

「陸人、行きましょう。一刻も早く本丸を落とすのが最大の援護になるわ……アンタも分かってるでしょ?」

 

 後ろ髪を引かれる思いで駆けて行く陸人たち。ここからは誰にとっても正念場だ。勇者にも、防人にも、大社にも、何も知らない市民たちにとっても。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、班分けはどうするの?」

 

「そもそも突入するには空を飛ばなきゃいけない。満開抜きで考えれば、アギトのバイクしか手段がないわ。だから……」

 

 変身し、走りながら作戦会議を行う勇者たち。と言っても発言しているのは友奈と夏凜だけだ。

 風は戦意こそあるようだが、未だに表情は暗く沈黙を保っているし、樹は前のめりではあるがそもそも声が出せない。

 美森はまたしてもどこか遠くを気にして、意識が目の前に向いていない。陸人もまた、後ろをチラチラ振り返りながら後悔したような顔で黙りこくっている。

 

「ちょっと陸人! 聞いてるの?」

 

「あっ、ああ……ごめん、なんだっけ?」

 

「突入はアンタと友奈と私の3人、ってことでいい?」

 

「うん……それでいいと思うよ」

 

「りっくん……」

 

「リク、一度引き返してアンノウンを蹴散らしてきた方がいいんじゃないかしら?」

 

 いつまでも吹っ切れない陸人に、美森がハッパをかける。ネスト攻略に不可欠なアギトを、一度置いていくということだ。

 

「ちょっと東郷、アンタ何を……」

 

「このままじゃネストと対面してもリクは集中できないわ。後顧の憂いは先に潰しておくべきよ。アギトならすぐに追いつけるし、私たちが先行して突入のための威力偵察ってことでいいでしょ?」

 

「東郷さん……?」

 

 ずっと集中していなかった美森が、ここに来て不自然なまでに積極的に発言する。友奈はらしくない友人の姿に違和感を感じたが、ずっと市街地が気になっていた陸人は、渡りに船とばかりに美森の意見に乗ってしまう。

 

「ごめん、夏凜ちゃん。行かせてくれ……すぐに戻るから!」

 

「ああもう、行っちゃった……しょうがないわね、私たちだけでもできるだけ相手の戦力を削っておくわよ!」

 

 こんな時に号令をかけるのが風の役目だったが、やはり一言も発さない。どこか言動が不自然な美森といい、夏凜の懸念は増すばかりだ。

 

(これでリクは引き離せた。後は動く刻を見計らって……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減、諦めろ!」

 

 ハルバードでペデスの群れを一掃したアギト。まだ全ての敵を片付けたわけではないが、ここまで数を減らせば後は防人に任せても問題ないと判断して、再びネストの方向へ向かう。

 

「陸人様。ご助力はありがたいのですが、これ以上は作戦に支障が出ます」

 

「分かってます。すみません……みなさんを信用していないわけではなかったんですが、どうしても不安で」

 

 陸人はここ数日共闘して、防人たちのことをかなり高く評価していた。個々の能力はアギトと比べるべくもない。勇者にも遠く及ばない戦闘能力しか持ち得ないが、この戦場では別の持ち味が光る。

 徹底された連携戦術と、広域通信による戦略レベルの集団行動。どんな手段を用いているのか不明だが、あの2人の大社職員は樹海化していても普通に動けるらしく、戦況を分析して指示を伝達。戦場に出ている者では不可能な広い視野を持って的確に指揮をとっている。

 

 こと集団戦に関しては、アドリブで押し通す勇者部よりも遥かに上をいっている。今の援護も陸人にとっては念のためという程度のものだった。これで後ろを気にせずネスト攻略に打ち込める。意識を切り替えた陸人だったが――

 

(……! これは、どういうことだ……⁉︎)

 

 端末のレーダーを確認した陸人が思わず瞠目する。作戦ではネストの進路を変える、または足を止めるために結界から離れた方向から攻撃を仕掛けて突入の支援をするというのが第一段階だった。

 しかし、1人のアイコンが結界とネストの間、それもかなり結界に近い危険地帯に移動している。そこに攻撃を受ければ四国結界に届くことは、誰が見ても明らかだ。

 

「何をする気だ、美森ちゃん……!」

 

 東郷美森。彼女はただ1人、人類を守護するという目的から外れた行動を取っていた。その目的は、愛する者たちを解放すること。ただ、それだけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




クライマックス感マシマシです。美森ちゃんはタガが外れても計画的に物事を進める賢い子だと思っています。
陸人くんのおかげで原作よりも冷静さを保てていること。
陸人くんの事情を知ったことで、より絶望が深くなったこと。
そのせいで原作の破れかぶれよりも、余計に順序立てて破滅への道を激走していく危ない子になってしまいました。

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。