A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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今回は大きく跳ね上がるために膝を曲げて力を溜める回。そんなイメージです。


零ではない可能性

 アギトと勇者。根本的に異なる両者だが、神聖を宿すことで戦う力を得るという点では同じ。そこで天の神は完成したネストに手を加えた。城壁の内側に己の神聖を充満させて陣地とする。その空間内では、天の神の力以外は発動しない。

 

 神樹とつながることで変身する勇者はもちろん、自身の内側にあるアギトの力を表出させることで変身する陸人でさえ、その能力を発現させるきっかけを掴むことができない絶対的な結界となっている。

 

 属性が異なる神聖の一切を発動させない絶対領域。それが天の神が仕込んだもう1つの切り札。勇者達が侵入してくることまで織り込み済み。基本的に力押しでなんでもまかり通してしまう神々らしくない、巧みで嫌らしい手段だ。

 

「……ダメだ。大社との通信も切れてる。通常の電波も、俺たちの端末をどこでも使えるようにしている神樹様のご加護も機能してない。俺たちだけでなんとかするしかないな」

 

「どうする? りっくん」

 

「幸い御霊の大雑把な場所は分かってるんだ。道案内や警備の偵察がないのは痛いけど、奥に進もう」

 

「なら、私はここに残るわ。この脚じゃろくに走れないしね」

 

「ダメだよ夏凜ちゃん! こんなところで1人になったら……」

 

「友奈ちゃんの言う通りだよ。大丈夫、俺がおぶって走るから」

 

「ハァ⁉︎ 冗談でしょ?」

 

 真顔で言い切る陸人。こんな危険地帯に仲間を置いていくことは彼にはできない。しかし人を抱えて動くというのはかなりの負担になる。それは分かっているはずだが……

 

「私も頑張る! だから3人で行こうよ。ね? 夏凜ちゃん」

 

 同じく真顔で懇願してくる友奈。どれだけ不利な状況でも、誰1人見捨てないのが勇者部だ。気恥ずかしさと情けなさで数秒唸っていた夏凜も諦めて息を吐いた。

 

「……分かったわよ。なるべく接敵を避けて奥を目指す。それで行きましょ」

 

 変身できない彼らは、それでも諦めずにネスト攻略に乗り出す。今も外では仲間が戦っている。迷っている時間はないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネスト突入班との連絡が途絶えて15分経過……これはもう、こっちから何やっても無駄でしょうね」

 

「レーダーも機能していない。方々がどうしているかも把握できない、ですか……最悪ですね」

 

 G2の操作と防人への指示。それと並行して勇者達のナビゲートをするはずだった安芸たち。トレーラーで情報を集約しながら対策を考えていたが、いかなアプローチもネストの内部には届かなかった。

 

「真尋、しっかりなさい。どうあれ作戦は最終段階に入ってる。あとは彼らを信じて託すしかない……勝利の可能性を0にしないために、私達はここでできることをやらなきゃいけないわ」

 

「……やはり、変わりましたね。結果と成果……特に分かりやすい数字に拘っていたあなたの口から、そんな精神論じみた言葉が出てくるなんて」

 

「そう? 昔からの私の持論なんだけど、言ったことなかったかしら? "可能性に0はない。あるとしたら、それは諦めてしまった時だけ"

 だから私は諦めない。自分の正しさを、人類の価値を証明するまでは、絶対に」

 

 その言葉に、最後まで諦めずに戦い抜いた少年と少女の顔を思い浮かべた。安芸真尋という大人の女性は、あの子供達に諦めの悪さを学んだのだ。

 

「その通りですね。勇者様ならやってくれる。全員が勝利することで、誰の努力も無駄にしない。私はそのためにここにいるのですから……!」

 

 いつの間にか、本部に楯突いた気概を忘れかけていた安芸。再び心に火を灯し、改めて戦場に向き合う。大人としての使命──子供達を守るために。

 

(神樹様、こんな事を祈れる立場でないのは承知の上で、恥を忍んでお願い申し上げます……どうか、今を懸命に戦っている全ての者にご加護を──!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ネストの城塞、最上階を目指す陸人達。人間の建築物を参考にした結果、アンノウンには不要な窓まで忠実に再現した城。それはつけ込む隙となり、勇者達にショートカットの術を与えてくれた。

 

「よっ、ほっ、たっと……よし、いいよ友奈ちゃん!」

 

「はーい、行くよりっくん!」

 

 夏凜を背負いながら外壁を駆け上り、窓枠を足場にして停止。城の装飾から拝借した鎖を使って下の友奈を引っ張り上げる。これを繰り返して、彼らは既に第六階層まで上り詰めている。残すところ2フロア。このペースなら余計な接敵を0にして目的地に辿り着けそうだ。

 

「ほんと、呆れるしかないわ。こんな無茶やらかしてる癖に、背中の私は怖いくらいに安定してるし……」

 

「いやー、バーテックス製っていう割にはこの壁結構デコボコしてるし。現存する城をまんまトレースして造ったのかもね」

 

「ふぅ、っと……運が良かったよね。中に入って上を目指してたら、絶対に見つかってたよ」

 

 鎖を使って上ってきた友奈の言葉に、陸人は違和感を覚える。確かに運が良かった。

 城内からはアンノウンの気配を感じるのに、外の見張りが一体たりともいなかったこと。

 常人には不可能とはいえ、人工物に近い造りの甘さから侵入ルートを構築できたこと。

 そして何より……()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()にも関わらず、ここに至るまでまるで迎撃の気配がなかったこと。

 

(ここまで狡猾に仕掛けてきたのに、肝心のココの警備がザルすぎる……まさか!)

 

 陸人が1つの懸念にたどり着いたのと同時に、彼らが背を預けていた外壁が内側から攻撃を受けて爆発、3人もろとも弾け飛んだ。

 

「──ッ! 夏凜ちゃん、手を離すな!」

 

 夏凜を信じて、彼女を支えていた両手を離し、友奈の肩と鎖をそれぞれ掴む。落下する直前の一瞬、不気味な浮遊感に呑み込まれながらも冷静に狙いを定める。

 

「夏凜ちゃん、友奈ちゃん、踏ん張ってくれよ!」

 

 落下しながら窓に鎖を投げつけ、4階の窓枠に引っ掛ける。右手に巻きつけた鎖が食い込み血が滲むも、全員仲良く転落死という最悪の結末はなんとか避けられた。

 敵は最初から陸人達を捕捉していたのだ。あえて泳がせ、落下したらまず助からない高さまで登らせてから叩き落とす。今回は九死に一生を得たが、敵の罠はまだまだあるだろう。何せ彼らが今いるのは敵の拠点のど真ん中だ。

 

「セーフ……よし、上がるよ2人とも」

 

「助かったわ……アンタ、ほんとすごいわね」

 

「ビックリした〜、りっくん大丈夫?」

 

「ああ、こうなったら中から上るしかないだろうな。あと4フロアか……」

 

 

 

 

 

 

 左手で抱えた友奈に鎖を掴ませ、ゆっくり慎重に登っていく。やっとの思いで入った城内は、不気味なほどに静まり返っていた。

 

「あれ……? アンノウン、いないの?」

 

「いや、気配はある……伏せて!」

 

 警戒しながら廊下を歩いていた陸人が、突然反転して友奈を抱えて飛び退く。廊下の天井が爆発し、上から大量のペデスが現れた。完全に取り囲まれた陸人達は、前進も後退もできなくなった。

 

「友奈ちゃん、夏凜ちゃんを頼む……俺がコイツらを蹴散らすから、行けると思ったら突っ切ってくれ」

 

「りっくん……」

「無理すんじゃないわよ」

 

「無理して勝てるなら楽なんだけどね……さて、通してもらうぞ!」

 

 ペテスの群れに飛び込む陸人。生身のままで戦うしかない彼らの勝率は、限りなく0に近かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「コレデ奴ラガ死ヌノハ時間ノ問題ダナ」

 

「……どうかな? 奴らは必敗の状況を覆し続けて今ここにいる。また突破してくるかもしれんぞ」

 

「……ソウ言ウ貴様ハ何故動カナイ? コノ地ヲ守レト命ジラレタノダロウ?」

 

 最上階、対勇者結界を司る御霊が置かれた大広間にて、2体のアンノウンが向かい合っている。大量のペテスを生み出す、アリ達の女王『フォルミカ・レギア』とかつてアギトと互角に戦ったカブト型のアンノウン。

 

「奴が来るなら、と思ったのだがな……力を使えない者に興味はない。無力な子供を殺して何になる」

 

「理解デキンナ。邪魔者ノアギトヲ確実ニ消セルコノ好機、逃ス手ハ無カロウニ……」

 

 釈然としない様子のレギアに、鼻を鳴らして立ち去っていくカブト型。アンノウンでありながら流儀を重視するこの個体は、同じアンノウンから見ても異質だ。腕が立つ分余計に理解しがたい存在となっている。

 

「マア良イ。マトモニ闘エン者達ヲ殺ス等造作モナイ……奴ラヲ潰シ、人間ノ街ヲ潰ス。ソレデ終ワリダ」

 

 レギアの影から次々湧き上がるペテス達。この無尽蔵の繁殖力こそがレギア最大の武器であり、勇者達を追い詰めている特性だ。

 

 

 

 

(ここで果てるなら所詮そこまで……アギト、貴様はどちらだ? 取るに足らない弱者か、俺が倒すべき猛者か……)

 

 カブト型は階下で抵抗を続ける陸人を見据える。最悪の状況下で何ができるか、最後の格付けをするように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クソ……どれだけいるんだ……」

 

「りっくん……」

 

 何とか包囲網を突破してフロアを上がる陸人達。しかし各階の階段がバラバラに配置された迷路のような造りをしているせいでなかなか進めない。見張りに見つかっては離脱を繰り返し、既に突入から40分は経過している。

 今もようやく最上階の階段を見つけたものの、その前にはペデスと、上位種らしきアンノウンも配置されている。今の3人が正面から突破できる布陣ではない。

 

(ここにいる白アリは、多分劣等種なんだろう。外で戦った奴よりかなり弱い……だけどあの赤い奴。明らかに格が違う)

 

 拠点防衛に回されているペデスは、大量増殖の過程で発生した戦闘力の低い個体。言ってしまえば失敗作が閑職に回されているようなもの。

 そしてそれを統括する行動隊長が赤いアリ型『フォルミカ・エクエス』指揮能力と戦闘力、そして知能も高い厄介な個体。

 

(どうする……どうすれば……!)

 

「友奈、ちょっと降ろしてくれる?」

 

「夏凜ちゃん?」

 

 友奈の背中から降りた夏凜が、歩行補助用の杖の内側に隠された刃を抜き放つ。

 

「……! 仕込み杖?」

 

「備えあれば憂いなしってね。アイツらは私が足止めするから、アンタ達2人は上に行きなさい」

 

「そんなのダメだよ夏凜ちゃん! その身体じゃ……」

 

「友奈、アンタが心から心配してくれてるのは分かる。でもね、私は完成型勇者……訓練の果てに選ばれた人間なの。足手まといのまんまで終わるわけにはいかないのよ」

 

 ネスト突入後はずっと2人に抱えられるだけだった夏凜。誰かのために戦う勇者としての自覚が強い彼女には、この状況は耐えられるものではない。

 

「夏凜ちゃん……俺は……」

 

「何つー顔してんのよ。私があんな量産ヅラに遅れを取るわけないでしょ?」

 

 刀で風を斬り、勇ましく断言する夏凜。情熱を燃やす赤の勇者は、どんな危険な役目であっても臆することはない。

 

「……そうだね、信じるよ。夏凜ちゃんが、あの程度の相手に負けるはずがない」

 

「分かってんじゃないの、ほら友奈も。そんなに心配なら、せいぜい手早くカタをつけてくることね」

 

「……うん! 分かった。すぐに終わらせよう!」

 

 3人で拳を合わせ、夏凜が敵集団の前に堂々と立つ。不意を突かれたアンノウンは目に見えて動揺している。

 

「さあさあ、ここからが大見せ場!

 遠からん者は音に聞け! 

 近くば寄って目にも見よ!」

 

 威風堂々とした夏凜の宣言に意識を持っていかれたアンノウン達は、すぐ横を抜けようとしている陸人と友奈に気づけない。

 

「讃州中学2年、勇者部所属……三好夏凜!

 

 ────推して参るっ‼︎────」

 

(今だ!)

(夏凜ちゃん、待ってて!)

 

 左脚一本で高く飛び上がり、敵の群れに飛びかかる夏凜。それとタイミングを合わせて陸人達が階段を駆け上る。何体かのペデスが気づいて追おうとしたが、背中を向けた個体から順に夏凜が斬りつけていく。

 仕込み杖ではアンノウンを倒せるだけの威力は望むべくもないが、夏凜の剣技が冴え渡り、1人の敵も逃がさず立ち回る。

 

「こっから先には行かせない……アンタらの相手は、この私よ!」

 

 階段を背にして構える夏凜。押せば倒れるような状態の少女1人を相手に、異形達は完全に圧倒されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「見つけた、あれだ!」

 

「あの御霊を壊せば……!」

 

 階段を上りきり、目的の扉を開けた陸人と友奈。1フロア全てを占める大広間の奥には、毒々しい瘴気を放つ御霊が安置されていた。

 

「辿リ着クトハナ……想定外ダ」

 

 御霊と勇者の間に割り込むように現れた女王型のアンノウン『フォルミカ・レギア』

 手にした女王の槍で地面を叩くと、大地から数多のペデスが出現する。アリ型を統べるレギアにとって、兵隊を増やすことなど造作もない。

 

「友奈ちゃん、君は出来る限り敵を引きつけてくれ」

 

「りっくん……」

 

「自分の安全を最優先して立ち回って……御霊は、俺が壊す!」

 

 別方向に駆け出す陸人と友奈。彼らの狙い通り、敵の大半は友奈の方に向かってきた……大半どころか、女王を残した全てのペデスが友奈を追って動き出す。

 

「うわぁっ⁉︎ いっぱい来た!」

「友奈ちゃん!──っと⁉︎」

 

 御霊の前に立ち塞がるレギア。個人の戦闘力でもトップレベルのアンノウンが、生身の陸人に手加減なしの槍を振るう。

 

(速い……コイツを抜けるか? 変身できない今の俺が……!)

 

「貴様等ニハ驚カサレタ……ダガ、ココマデダ!」

 

 執拗な連撃をアクロバティックに回避していく陸人。エクストリームマーシャルアーツを基礎とした敵を翻弄する陸人の動き。しかしこれまでの疲労が重なり、反応速度も動きのキレも明確に落ちている。

 回避に徹する内に逃げ場を失い、徐々に壁際に追い込まれてしまう。そこで陸人は壁を蹴った勢いで反転、突っ込んできたレギアの頭部めがけて飛び蹴りを仕掛ける。

 

「遅イナ。人ノ身デハソノ程度カ……」

(マズい……!)

 

 陸人の悪足掻きは、無数のアリ型の頂点に君臨するレギアには通用しなかった。カウンターの三角蹴りも防がれた陸人は、空中で無防備を晒してしまう。

 

「──ガッ……!」

「りっくんっ‼︎」

 

 レギアの刺突を躱しきれず、陸人の左肩が貫かれた。抜けた穂先がそのまま壁まで突き刺さり、陸人は壁に貼り付けにされてしまった。

 

「りっくんを放せっ!」

 

 1対10の無謀な鬼ごっこを続けていた友奈が、追っ手を振り切ってレギアに飛びかかる。押し倒すつもりでぶつかった友奈だったが、女王は全力のタックルを意にも介さず、片手で振り払い叩き落とした。

 

「うぁっ……」

 

「先ニ死ニタイト言ウナラバ……望ム通リニシテヤロウ」

 

 空いている左手を開き、倒れた友奈に向けるレギア。その掌中に収束する光。純粋な破壊の力を収束して放つ、上位のアンノウンだけが使える超能力だ。

 

「……ぐ、ぁぁ……ぅああああっ‼︎」

「馬鹿ナ……!」

 

 人間にはあり得ない握力と腕力で、無理やり肩に突き刺さった槍を抜き取る陸人。自由を取り戻した少年は、真っ直ぐに女王の懐に飛び込み拳を握る。

 

「友奈ちゃんに、手を出すなぁっ‼︎」

 

 顔面を正確に捉えたパンチはレギアの上体を大きく仰け反らせたが、それが限界だった。目に怒りを宿らせた女王は、体勢を立て直すと同時に槍を振りかぶり、陸人の身体を斜めに斬り裂いた。

 

「──ッ‼︎」

「……ぁ……りっくん……?」

 

 左肩から右腰にかけて、内臓まで届くほどに深々と斬り裂かれた陸人。心臓を断った感触と、その目から失われた生気。直接間接問わず、数多の命を屠ってきたレギアは確信した。この厄介な敵は確かに絶命したと。

 陸人の全身が脱力して膝をつき、倒れかけたその時──

 

「……! 貴様、何故……!」

 

「友奈ちゃん、今だ……!」

 

「りっくん! でも……」

 

 顔を上げることもできないまま、陸人はレギアの両腕を掴んで抑える。その身体の端々からは淡い光が漏れている。今にも倒れそうな有様でありながら、レギアでさえ振り払えないほどの握力でしっかり捕らえて離さない。

 

「いいから、早く行け……友奈ァッ‼︎」

「──ッ! 分かったよ、りっくん!」

 

 動きを封じられたレギアの横を走り抜け、友奈が御霊に到達する。彼女が構えるのはいつもの必殺技。たとえ変身できなくとも、友奈の拳は勇者の一撃。

 

「これで決める!──勇者ぁぁぁ、パァァァンチッ‼︎」

 

 全力の拳を叩き込む友奈。これまで多くの敵を殴り抜いてきた感覚から、彼女は手応えのなさを正しく感じ取った。

 

(ダメだ、硬い……私だけじゃ壊せない!)

 

「友奈ちゃん!」

 

 初陣の時も、スタークラスターの時もそうだった。いつだって彼らは並んで戦う。結城友奈と御咲陸人が肩を並べれば、壊せないものはない。

 

「オオリャアアアアッ‼︎」

 

 レギアを振り払った陸人が、生身のままライダーキックを放つ。友奈の拳と同じ箇所を正確に蹴り抜いた一撃で、とうとう御霊を打ち壊した。

 砕けた御霊の内側から光がほとばしり、友奈と陸人を包み込んでいき──

 

 

 

 

 

 

 

 

「なに……ここは?」

 

「この感覚……どこかで……」

 

 薄暗く、何もない世界。身体から外れた魂魄の状態で佇む2人。御霊を生身で破壊した衝撃で、陸人と友奈の魂は肉体を離れて高次元まで飛ばされてしまった。

 

 ──来てしまったか。予想していたからこそ、準備して待っていたわけだが、お前は本当に変わらないな──

 

 はるか上空から舞い降りてきた鳥。全身を青く染めた美しい翼が現れ、どこか親しげに言葉を掛けてくる。音を遮る何かを間に挟んだような、男女の区別も付かないくぐもった声は、明らかに目の前の鳥から発せられている。

 

「え? えっ⁉︎ 鳥が喋った⁉︎」

 

(またこのパターン(記憶にない知人)か……どんな交友関係持ってたんだ昔の俺は)

 

 素直に驚く友奈と、最早驚愕する体力も残っていない陸人。そんな2人の反応を愉快そうに見た青翼の背後に、人の形をした光が浮かび上がる。長い髪を後ろで束ね、刀のような長物を持った少女のシルエット。淡く輝くこの少女の形が、声の主らしい。

 

 ──まあ今は何も理解できないだろう。だから分からなくていい。とにかく付いて来てくれ。この先にお前達の身体を用意している──

 

「私たちの身体……?」

 

 ──ああ、なにせ一切の加護も無しに御霊に触れたんだ。現世を生きるための肉体ではとても耐えられない。だから先回りして御姿を用意してある。すべて元のままとはいかなくとも、このまま果てるよりはマシに済むはずだ──

 

 前置きの通り、陸人と友奈にはまるで理解できない事ばかり口にする青翼。少なくとも悪意を感じ取れなかった陸人達は、半信半疑で後ろに続く。少し進んだ先に、死んだように眠る自分たちの身体が横たわっていた。

 

「これ……私の身体だ。本当に、今の私は魂だけ抜けちゃってるんだね」

 

 ──今の不安定な状態を長く続けると、新しい器を見繕っても現世に戻れなくなる。急いで帰るんだ。戦闘もまだ終わっていないしな──

 

「……何から何まで理解できなかったけど、ありがとう。これでまだ戦える」

 

 陸人の言葉に、青翼は一瞬言葉を詰まらせて黙り込む。言うべき言葉を吟味して、改めて言葉を発する。

 

 ──これもまた理解できないだろうが……お前の魂はつい先程限界を超えてしまった。御姿を作り直してもそれはやり直しがきかない。後はもう時間の問題だ。決して無理をするな、長く現世にいたいならば──

 

 不吉過ぎる言葉の羅列に、陸人は少し考えてから笑顔で返す。彼は変わらない。何があっても、どれだけ経っても。

 

「よく分からないけど、心配してくれてるんだよね? ありがとう……だけど俺は後悔しないよ。何をしてしまったのだとしてもね」

 

 御姿に宿り、体の調子を確かめる陸人。隣の友奈共々、問題なく定着できたようだ。

 

「後悔は死んでからでもできる。だから生きている間は、後悔するだけの時間を使って一歩でも前に進む……ずっと前からそれだけは決めてるんだ」

 

 ──そうか。本当に……変わっていて欲しかったところも、変わらないでいてくれて嬉しいところも含めて、お前はお前のままなんだな──

 

 光の少女が陸人に近寄り、腕と思われる部分を回して抱きしめる格好になる。実体を感じ取れないため感触こそないが、芯から安らげるような暖かさが陸人の全身に伝わっていく。

 

「本当に助かったよ。次に会う時には……君の名前、思い出せるように頑張るから」

 

 ──ああ。楽しみにしているぞ……それと──

 

「どうかした?」

 

 ──お前に他意がないのは承知しているが、年頃の女子に刺激の強い殺し文句をぶつけるのは止せ。誰にでも愛情をばら撒くのは、誠実とは言い難いぞ──

 

 感触こそないが、抱きしめる力が一瞬強くなったように感じた。思うところがあったようだ。

 

「えっ、と……」

 

 ──ああ、すまない。大した話じゃないんだ。忘れてくれ──

 

「いや、正直なんの話かさっぱりなんだけど……落ち着いたら考えてみるよ」

 

「りっくん!」

 

「ああ、行こう!」

 

 ──そうだ、お前達が戻る前に伝えておくことがある。例の空中要塞、どうやら御霊は2つあったようだ。両方を破壊しなければアレは完全には止まらないぞ──

 

「……そうきたか。グズグズしてられないな」

 

「重ね重ねありがとうございます! この御礼はいつか必ず!」

 

 ──気にするな。懸命に抗い続ける後輩に、少しくらい先輩風を吹かしたくなっただけさ──

 

「それじゃ、改めて……」

 

「うん、行ってきます! 見ててくださいね!」

 

 何者も侵せない魂が安らぐ場所。束の間の安息を得た2人の勇者が、再び戦場へと舞い戻る。

 

 

 

 

 ──生きることを、生かすことを諦めるな。それさえ忘れなければ、お前は最強の英雄だ。そうだろう? 陸人──

 

 最後に陸人の耳に届いた声は、それまでと違いしっかりと耳に響き、彼女の信頼の念がはっきり感じ取れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壊された御霊からあふれ出した光。それが晴れた先には、肩を支え合って立つ2人の勇者がいた。

 

「りっくん、今のって……」

 

「何もかもがさっぱりだったけど、助けてくれたのは確かみたいだ」

 

 そう言って陸人は自分の胸元を指し示す。そこにはついさっき付けられたはずの傷跡が綺麗に消えていた。服こそ破れたままだが、その奥に見える肌には傷1つ残っていない。

 

「考えるのは後だ……行くぜ、友奈ちゃん」

 

「うん……これで最後にしよう、りっくん!」

 

『──変身っ‼︎──』

 

 命懸けの特攻で取り戻した勇者の力。闇の結界を打ち払い、神秘の光が世界を照らす。

 並び立つアギト・バーニングフォームと一気に満開状態まで至った友奈。圧倒的な破壊の力を持つ両者が、万全の状態でその腕を振るう。

 

「さあ、ボーナスタイムはおしまいだ!」

 

「今も戦っているみんなのために……この世界で、変わらない今日を生きている人達のために!」

 

「ここからが本番だ……人間を、ナメるなよ‼︎」

 

 人の可能性の極致であるアギトと、神の手を借りて人の域を超えた勇者。長い歴史の中で人が見出した進化の道を行く者達が、可能性を閉ざすための神の遣いと対峙する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに……エクストリームマーシャルアーツは動画を探せば「ああ、これか」ってなるんじゃないかな、と。
仮面ライダーで言うとウィザードのアクション。確かスーアクさんかアクション監修さんにXMAの人がいたって聞いた気がします。



前回唐突に出したG2について――

当時の漫画雑誌の読み切りで登場したGシリーズの試作モデル。他とは違い、人が装着するのではないバイク型の無人操縦機。
人工知能を搭載し、コントローラーで命令を受けて動くタイプ。戦闘力自体はG3-Xすら上回るものの、暴走の危険を孕んでいるために封印されていた……という設定の曰く付きのモンスターマシンです。
今作では、紆余曲折あって完璧にコントロールできるようになったという設定です。その紆余曲折はくめゆ編で描くかもしれませんし、スルーかもしれません。
外見のイメージでいうと、カイザのサイドバッシャーが1番近いかと思います(この作品を読んでくださっている皆様ならこれで通じるはず……!)

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに

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