A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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今回、序盤にとあるライダーをかなりそのままオマージュしたシーンがあります。作者が1番好きなサブライダーです。愛が暴走したんだな、と優しく見逃してもらえるとありがたいです。

推奨BGM
『疾走のアクセル』、『Leave all Behind』

……これもう隠す気ないよな……




目覚めろ、その魂

 防衛戦力を相手に1人残った夏凜は、ハンデを抱えた生身でありながら非常に奮戦していた。右脚が満足に動かせない分を杖でフォロー、カウンター主体の戦術でうまく時間を稼いできた。

 

「シッ!――遅いってのよ!」

 

 杖を支点に空中回転。敵の同時攻撃を躱しながら頭上からのカウンター。十全に動けなくなった夏凜が即興で編み出したアクロバティックな体捌き。陸人との手合わせや鍛錬で学んだエクストリームマーシャルアーツを今の自分用にアレンジして集団相手に応用している。

 

 立って走るのも難しいなら、いっそ空中戦に持ち込んだ方がやりやすい。長年の訓練で、片足でも日常生活が送れるほどのバランス感覚を養っている夏凜。その達人技と言える体重移動で敵を翻弄、戦闘の主導権を握り続けている。

 

「モウ良イ。我ガヤル」

 

(チッ、面倒なのが……!)

 

 ボロボロの人間1人に手こずる配下を見て、業を煮やしたエクエスが前に出る。行動隊長であるこの個体は、並みのアンノウンを凌駕する戦闘力を持っている。

 

 夏凜も警戒を露わにして構える。両者が同時に踏み出そうとした、その瞬間。

 

(――! これは、まさか!)

 

「……馬鹿ナ! 破ラレタノカ?」

 

 城塞を覆っていた重たい空気が霧散していく。夏凜が端末を取り出すと……

 

 夏凜を象徴するサツキのアイコンが、1度失った光を取り戻して力強く輝いていた。

 

「フフッ、どうやらウチのデタラメコンビがやってくれたみたいね」

 

 再び起動状態に戻った勇者システムのアイコンを示し、夏凜が不敵に笑う。高い知能を持ち、今回の作戦も詳細を把握しているエクエスは焦燥を隠しきれなかった。

 

「何故……貴様等ノ能力ヲ封ジタ上デ、確実ニ仕留メル策ダッタ筈ダ!」

 

「アンタ達は私らを甘く見過ぎたってことよ」

 

 仕込み杖を投げ捨て、夏凜が大きく構える。積もりに積もった鬱憤を晴らすのに丁度いい相手が目の前にいる。ここからは反撃の時間だ。

 

「さあ、思い切り――……」

 

「一斉ニカカレ! 奴ヲ止メロ!」

 

 エクエスの号令で飛びかかるペデスの群れ。逃げ場のない全方位攻撃が夏凜に迫る。

 

 

 

「――振り切ってやるわ……!」

 

 

 

 

 夏凜が光に包まれ、次の瞬間彼女の足元にはペデスの屍が山となっていた。変身から一瞬の間もなく、迫り来る敵全てを斬り捨てたのだ。

 

 音に追いつくほどに早く、時間を抜き去るほどに速い。最速の勇者、三好夏凜。何もかもを振り切った剣閃は、相手に斬られたことすら自覚させずにその命を絶つ。

 

「コウナレバ仕方アルマイ……貴様ハ我ガ屠ロウ!」

 

「上等、やってみなさいよ!」

 

 エクエスの鎌と夏凜の二刀がぶつかり火花を散らす。ペデスが反応すら出来なかった超スピードを、エクエスは完全に見切っている。

 

「人間風情ガ、調子ニ乗ルナ!」

 

 パワーに優れる鎌の大振りで軽い少女を吹き飛ばす。対する夏凜は敢えて後ろに飛び、後方回転で衝撃を受け流しながら後退する。

 

「へぇ、言うだけのことはあるわ。だけど悪いわね、アンタ如きに足踏みしてられるほど、今の私はヒマじゃないのよ!」

 

 右の刀を掲げて意識を集中する夏凜。言葉の通り、こんなところでグズグズしている暇はないのだ。

 

 

 

 

「全て、振り切ってみせる!――満開‼︎」

 

 

 

 

 迷わず切り札を使い、夏凜のシルエットが大きく変わる。周囲のペデスをバラバラに解体しながら、更なるスピードを得て突撃する。巨大な四刀流とせめぎ合い、パワーでもエクエスが圧倒され始めた。

 

「何ダ、コノ力ハ……⁉︎」

 

勇者部(わたしたち)の前に立ちはだかるものは、何であっても斬り捨てる! それが私の役目なのよ!」

 

 勇者部の切り込み隊長である夏凜。仲間の敵を真っ先に斬るために極めた彼女のスピードは天井知らずに加速していく。

 

 

 

 

 

 

『せぇー、のぉっ‼︎』

 

 バーニングライダーパンチと満開勇者パンチの同時攻撃。その衝撃は巨大な爆風を生み、レギア以外の全ての敵を大広間から消滅させた。

 

「友奈ちゃん、ここは俺に任せてくれ。君はもう1つの御霊を」

 

「でも、どこにあるのか……」

 

『お待たせしました。全エリアの検索終了。2つ目の御霊を発見しました。お2人がいる地点のほぼ真下。地下の最下層です』

 

 機能を取り戻した偵察用ドローンから安芸の声が届く。敵は要塞の最上部と最下部にそれぞれ要所を配置したようだ。

 

「よし、頼むよ友奈ちゃん。君なら地面を砕いて一直線に突破できるはずだ」

 

「分かった。でもりっくんは?」

 

「俺は敵の頭を潰す。それから……」

 

 アギトは言葉を切り、広間の入り口に目を向ける。ゆっくりと開かれた扉の奥から、以前戦った強敵が現れた。

 

「アリの群れに一匹だけ、面倒なカブトムシが混じってたみたいだからね。駆除してくるよ」

 

「そう来なくては面白くない……やはり貴様は当たりだ、アギト」

 

 アリ型の頂点に位置するレギアよりも更に強い存在感を放つカブト型の特異なアンノウン。奴の狙いは今回も変わらずアギトだけに絞られているようだ。

 

「……了解。すぐに終わらせるから、りっくんも怪我しないでね」

 

「ああ。お互いに勝って終わらせよう」

 

 友奈が地面を殴り抜いて階下に降りる。激烈な拳は、一撃で地上までの8フロア全てを殴り壊して一直線の穴を形成した。

 一気にネストの地表まで落下した友奈は、着地と同時に休むことなく拳のラッシュ。削岩機のような勢いで大地を破壊して地下に向かう。僅か1分足らずで、地下深くの安置スペースまで辿り着いた。

 

「上ノ御霊ハ壊サレタヨウダナ。最早貴様等ヲ只ノ人間トハ思ウマイ……!」

 

 御霊の正面に陣取るエクエスと配下のペデス達。この防衛陣を突破して、可及的速やかに御霊を破壊しなければ市街地に被害が及ぶ。

 

「私はその奥に用があるの……邪魔をしないで!」

 

「最上級ノ敵性存在ト認識、全力デ排除スル!」

 

 人類の未来を左右する攻防戦。光も届かない地下深くで、拳と鎌が正面からぶつかり合う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――どけぇっ‼︎」

 

 アギトが2人まとめてカリバーで薙ぎ払う。炎が宿った一閃をそれぞれの得物で捌いたレギアとカブト型は、飛び退いて1度距離を取る。

 

「やはり素晴らしい……闘いとはこうでなくてはな!」

 

「遊ンデイル場合デハナイ。早ク本気ヲ出セ、直グニ此奴等ヲ始末シテ城ヲ立テ直サネバ……」

 

「知ったことか。言われずともここから本気は出す……が、貴様は邪魔だ。引っ込んでいろ」

 

 アンノウン同士の口論という珍しいなんてものではない可笑しな場面に、アギトも思わず動きが止まる。

 

(どこまで変わり種なんだ? あのカブト型……)

 

「どの道この作戦は終わっているだろう? 残りの御霊も暫くすれば桜の勇者が破壊するはずだ。それで失敗……今回は貴様等の敗北だ」

 

「巫山戯ルナ! アレホド手間ヲ掛ケタ策ガ、人間如キニ……!」

 

「それがお前の限界だ。人間の強さをまず認めろ。それが出来なければ戦場に上がることすら出来はしない」

 

「何ヲ言ッテイル! "テオス"ガ価値ナシト判断シタ存在ガ、強イナドト……!」

 

「うるさい奴だな……退がれと言っている!」

 

 食い下がるレギアに業を煮やしたカブト型が、手にしたメイスを振りかぶる。攻撃されるなどとはまるで考えていなかったレギアはその一撃をまともに食らって吹き飛んだ。

 

「ガハッ……貴様、何ヲ……?」

 

「黙って見ていろ。お前の出番は終了した」

 

 あくまで一騎討ちを望むカブト型が、邪魔者を排除して改めてアギトに向き直る。これまで幾多のアンノウンと戦ってきた陸人からすると、目の前の光景は到底理解の及ばないものだった。

 

「お前、いったい何がしたいんだ?」

 

「無駄を省いてやったまでだ。お前はやっと見つけた俺が倒すべき戦士だからな」

 

「戦闘狂か……お前と同じような奴とどこかで会った気がするな」

 

 陸人の過去に繋がりそうな存在はどれもこれもが物騒極まりない。こんな調子では陸人でなくても思い出すのが億劫にもなるだろう。

 

「そう呆れたような反応をするな。ここからが本番だ……見せてやろう、俺の全力を!」

 

 屋内でありながら突如として雷雲が発生する。それらはカブト型に向けて一斉に稲妻を落とす。雷撃のエネルギーを蓄積し、その身体が強化、変質していく。

 角が伸長し、筋肉が肥大化。体色が金色に変わり、手にしたメイスは大きな刃を備えた剣に変化した。

 

「これを実戦で使うのは初めてだ。せいぜい長持ちしてもらいたいものだな……!」

 

「言ってろ。最初で最後にしてやるよ!」

 

 叫び、同時に駆け出す両者。炎の刃と雷の剣が激突し、炎が一方的に掻き消された。パワーに優れたバーニングフォームが、真っ向からの力押しで負けてしまったのだ。

 

「何だ、この力は⁉︎」

 

「強さを求め続けた、これはその答えの1つだ!」

 

 吹き飛ばされたアギトを抜き去って、カブト型が後ろから斬りかかる。間一髪背後にカリバーを挟んで防御するも、無理な体勢で受けたせいでまともに競り合うこともできない。力でも速度でも、完全に凌駕されている。

 

「冗談だろ……お前、あの上位種ぶってたエルロードとやらより強くないか?」

 

「俺と奴らの違いは戦闘力ではなく、存在そのものだ。通常のマラークにはできないことを奴らはできる。逆に実力でエルロードの上を行く者もいる……まあ、俺くらいしかいないがな」

 

「戦闘狂の上に自信過剰か……面倒な奴だな!」

 

 追い込まれたアギトが、掌中に込めた炎の力を炸裂させて大爆発を発生させる。不利な体勢から立て直すために、大きく弾いて距離を取る。自身も多少ダメージを受けるためできれば避けたい緊急手段で無理やり体勢を整える。

 

「そうだ。時に強引で大胆な戦術も迷いなく断行する。そこが人間の……貴様の優秀な点だな」

 

「さっきから知ったようなことを……率直に言って気持ち悪いぞ、アンタ!」

 

 正面から突っ込んでいくアギト。迎え撃つカブト型。速度で負けている相手にまともに立ち向かっても勝負にはならない。それは陸人も承知していた。

 

(ここだっ!)

「ほう……!」

 

 カブト型の間合いの一歩手前でアギトは自身の能力を発動。足元を爆発させて反転、敵の頭上を飛び越えて背後に着地した。一瞬で背後を取り、アギト必殺の拳が燃え盛る。

 

「――! 反応早すぎるだろ……」

 

「惜しかったな。いい動きだったが、俺を出し抜くには足りん」

 

 来るのが分かっていたかのように自然な動きでカブト型が盾で防いだ。バーニングフォームの全力は、盾を揺るがすことすらできずに防御された。

 

「まだ、だぁっ‼︎」

 

 盾の突起を掴み、強引に防御をこじ開ける。開いた隙間めがけてカリバーを振り抜くアギト。炎を宿した必殺の斬撃『バーニングボンバー』でカブト型の首を狙い――

 

「言ったろう……足りん、とな」

 

「チィ……これも防ぐのか」

 

 あくまで冷静なカブト型は剣を真上に放り投げ、空いた右手でカリバーを掴んで止めた。刃に走っていた炎は異形の手が触れた瞬間、ロウソクを吹き消すように呆気なく打ち消された。

 

(おかしい。いくらなんでも、今の反応は早すぎる……)

 

「どうした? 何か気になることでもあったか」

 

「……お前、なんで俺の動きを知ってる? 前回の、あんな短時間で見切ったなんて言わないよな?」

 

 陸人は戦いながらずっと違和感を抱いていた。

 他のアンノウンにはない先読みのような超反応。御咲陸人という人間の本質を理解したような言動。

 例えば夏凜との立会いのような、既知の相手と撃ち合う中で時折受ける感触。アギトの動きを事前に知っていたとしか思えない動きが、端々にあったのだ。

 

「フ……天の神(こちら)側も色々と用意はしていてな。アギトのこれまでの戦いを、記録して参照する技術があるのだ」

 

 2年間アンノウンを撃退し続けてきたアギト。最優先警戒対象を研究するために、数名の戦巧者は各々のスタンスで分析を重ねていた。

 特にアンノウンの中でも異質な人格を持っているカブト型は、穴が空くほどに記録映像を参照してシミュレーションを繰り返してきた。

 

「なるほど。知らない間にストーカーが付いてたってわけだ……!」

 

「そう邪険にするな。少なくとも俺は単に、極上の愉しみを味わうためにやったに過ぎん。今のところ、その甲斐はあったと言えるな!」

 

 カリバーを放し、左手の盾をアギトの顔面に叩き込むカブト型。シールドバッシュで上体を跳ね上げられたアギトは揺れる視界の中、頭上に妖しく輝く剣を見つけた。

 

(あれはさっき投げた剣……そうか、長々喋ってたのは……!)

 

 カブト型が手放した剣には、先程よりも更に濃密な雷光が蓄積している。アレの収束(チャージ)のための時間稼ぎとして、余計な情報を口にしていたのだ。

 稲妻が迸る剣を見たアギトは再び足元を爆破。バックステップを更に加速させて一瞬で距離を取る。アレとまともに撃ち合って、勝てる想像がどうしてもできなかったからだ。

 

「さすがだ。追い込まれても冷静で、判断も早い」

 

 賞賛の声と共に、カブト型は収束が完了した剣を超能力で手元に引き寄せた。100m近い距離が開いた状況で、御構い無しに刃を振りかざす。

 

「しかし残念ながら……その対応は不正解(ハズレ)だ」

 

(ウソだろ……そんなのアリかよ⁉︎)

 

 カブト型が振り抜いた剣先から、長く大きく幅広く伸びた雷撃の刃が発生。間合いを引き延ばした一振りは、距離を取っていたアギトの肩と盾にしたカリバーをまとめて斬り裂いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ネストの動き、だいぶ大人しくなってきたわね」

 

「リク達がやってくれているんでしょう。完全に停止するまで、こちらでも精一杯時間を稼がないと……」

 

 外側からネストの攻撃を捌き続けていた風と美森。少しずつ勢いが減衰していく空中要塞に、仲間の奮戦を感じ取って気合いを入れ直す。

 そんな2人を嘲笑うかのように、破壊的な光が中心の城塞から発生する。

 

「何、今の光は……?」

 

「内側から壁を破壊した? アレは、リク!」

 

 電撃形態のカブト型の必殺技"雷迅閃"は、アギトの後ろの壁さえ断ち切って城を崩した。吹き飛ばされたアギトは8フロア分の高さから落下し、受け身も取れずに背中から墜落した。

 

(いっ、てぇ……クソ、なんだあの技。咄嗟に武器を前に出してなかったら左腕持ってかれてたぞ……!)

 

 起き上がることもできずにのたうつアギト。カリバーは刀身の一方を両断され、左肩にも深い傷を刻まれてしまった。

 

「手応えはあった……とはいえ、いつまでも苦しんでいては次に対処できんぞ」

 

 頭上から降ってきた声に、アギトは反射で転がってその場を離れる。ジャスト1秒後、アギトがいた場所に雷を宿した剣が突き刺さった。

 落雷のような勢いで落下してきたカブト型が、ネストの地表に巨大なクレーターを形成する。

 

「もっとも……首を落としてほしいと言うのなら、望み通りにしてやるが?」

 

「バケモノめ……余裕のつもりか?」

 

 肩を抑えながら立ち上がったアギトが斬りかかる。無事な方の刃で雷刃と競り合うも、深刻なダメージを受けた身体では明らかにパワーが足りていない。

 

(刃はまだ帯電してる。あの威力で、単発技じゃないのか……!)

 

「どれだけ撃てるかは俺も分からんが、少なくとも100や200で弾切れとはならんだろう。そんな退屈で陳腐な終わりは御免だからな」

 

 またしても陸人の思考を読み取ったような発言。あらゆる面において、敵の掌中から逃げられないアギト。研究と戦術で勝ってきた彼にとって、同じように研究を重ねた敵は厄介どころの話ではなかった。

 

(……来る!)

 

 カブト型の剣から激しい雷鳴が轟く。雷迅閃の予兆を察知したアギトが身構える。どれだけ剣が速くとも、敵の構えを見ていれば飛んでくる方向自体は見切れる。

 

「ほう……! 悪くない反応だ」

 

 雷迅閃はその性質上、発動中は激しい雷鳴が止まらない。その音を頼りに、刃の位置を把握。首を狙った横薙ぎの一閃を屈んで回避した。

 

「見切ったぞ、その技!」

 

「そうか。ではもう一度……おっと、後ろにいるのは誰だ?」

 

「なに?……樹ちゃん!」

 

 離れた戦場で戦っていた樹は、必殺剣の間合いに入ったことに気づいていない。このまま振り下ろされれば、間違いなく直撃する。

 

「このっ……ふざけるなぁ!」

 

 カブト型本人をどうこうするには距離がある。一か八か、アギトは先ほどと同じ要領で刃の位置を見抜き、その横っ腹に向けて炎の拳を叩きつけた。振り下ろしに対して真横から衝撃を加え、何とか剣の軌道を逸らした。

 

「やるな……今のを凌ぐとは思わなかったぞ」

 

「樹ちゃん、離れてくれ‼︎――お前、俺にしか用はないんじゃなかったのか?」

 

 ギリギリで捌いたアギトが慌てて樹を退がらせる。陸人は、てっきりカブト型はネストにも他の勇者にも興味がないものだとばかり思っていたのだが。

 

「そうだな。確かに他の者には興味がない。だが、そちらはそうはいかないのだろう? お前の大切な者に手を出せばどんな反応をするのか……まあ戯れだな」

 

「お前は、強い敵と戦うことにしか興味がないんだろ? だったらなんで邪魔者がごちゃごちゃいる時に仕掛けてくるんだ?」

 

「そうだな……確かに平時に挑めば、こうも面倒なことにはなっていないだろう。だがそれではお前の本質は活かされない。

 俺には理解できんが、お前は自分以外に大切なものを多く抱えている。ならばそれを全てまとめて脅かせば、本気以上の全力を引き出せる……違うか?」

 

「つまりお前にとってはこのネストが街を壊すのも、俺の仲間が必死に戦ってるのも、全部は戦いを盛り上げるためのスパイスってわけか……」

 

「そうなるな……事実お前は前回よりも遥かに強い。互いに様子見に徹していたとはいえ、手応えがまるで違う。それでこそだ」

 

 カブト型からすれば、純粋に敬意を持って褒め称えたつもりなのだろう。しかし遊戯感覚で大切なものを狙われている陸人にとっては最大級の地雷となり得る。

 

「……そうかよ。結局お前も、アンノウンの1人に過ぎないわけだ」

 

「何か癇に障ったか?」

 

「別に……勝手に期待して、勝手に失望しただけの話だよ」

 

 陸人はカブト型を特別視していた。危険な相手ではあるものの、人を襲わないなら戦う以外の道もあるかもしれない。話が分かるアンノウンがいるなら、この先人類が取れる選択肢が増える可能性もある。

 そんな陸人の考えは、所詮は甘い幻想でしかなかったのか。

 

(やっぱりコイツらとはどうあっても話が合わないらしいな……!)

 

 戦ってばかりだった陸人だが、彼は戦闘自体はどちらかと言えば嫌いだった。戦わずに済むのなら。そんな希望を持ってしまった弱気を振り払い、改めてカリバーを構える。

 

 

 

 

 

 

「さあ、もう一度機会をやろう。正しい対処はなんだと思う?」

 

 愉快そうな声で問いかけるカブト型。目にも留まらぬ4連斬で菱形を描くように斬撃を飛ばしてきた。

 雷迅閃はただ間合いと威力を引き上げるだけの技ではない。剣から切り離すことで遠隔斬撃としても使える上に、カブト型の剣速なら同時に複数の斬撃を飛ばすことも可能。

 アギトの四肢を切断する角度で放たれた斬撃。アギトは臆することなく正面から向かっていき、菱形の中心に突撃した。

 

「フン、正解(アタリ)だ」

 

 ギリギリの隙間に滑り込んで、間合いを詰めることに成功したアギト。これ以上の斬撃を止めるために剣を弾き飛ばそうと狙うが……

 

「これで――!」

「頭上注意、だな」

 

 カブト型の言葉に、アギトは上から降ってきた遠隔斬撃を紙一重で察知。鼻先をかすめるギリギリのところで回避した。

 

「――ッ! 今のは……!」

 

「あらかじめ()()()()()()斬撃だ。研究を重ねればこんな芸当もできる」

 

 カブト型はかなり高い精度でアギトの動きを先読みできる。それに基づいて、自身の行動でアギトの行動を誘導することさえ可能。後はタイミングと距離を図って仕掛けた遠隔斬撃が当たるように立ち回ればいいだけ。

 カブト型は、ようやく十全に振るえる己の本気を楽しんでいた。

 

(威力に優れた長距離斬撃、遠隔斬撃に、罠として使える遅延斬撃か……どこまでも人間みたいな手を使う!)

 

 全方位を警戒しながら踏み込むアギト。彼にはこれ以外の勝ち筋が見えなかった。より正確に言えば、半分ヤケクソに近い心境でもあった。

 

「そうだ。俺の剣を防ぐためには、振り抜かせないように接近して攻め立て続けるしかない。その判断は正しい。が――」

 

 やっとの思いで間合いに捉えたカブト型に渾身の一撃を振りかぶるアギト。その一振りは虚しく空を斬り、挙句に隙を晒してしまった。

 

「問題が1つある。相手よりも早く動けなければ意味がないことだ」

 

 遥か後方に移動していたカブト型。その手には、再び雷撃を収束して激しく迸る黒雷の剣。それは音もなく振り抜かれ、今度はアギトの右腕部分に命中。肩の生体装甲が斬り落とされた。

 

「あのタイミングから直撃を避けたか……やはり大したものだよ、お前は!」

 

 大きく仰け反ったアギトの至近距離まで間合いを詰めて、胸部に全力の突きを入れたカブト型。上に跳ね上げられたアギトは、城の足元から数百メートル離れた平地まで飛んでいった。

 

(愉しかったが……ここまでだな)

 

 一方的に攻め続けてきたカブト型は、アギトの限界を悟っていた。次の一撃でトドメを刺す。気が早い思考に耽っていたせいで見逃した。空を照らす太陽が、一際強く輝き始めたことを。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(強すぎる……どうすればいいんだ……)

 

 仰向けに倒れたまま動けないアギト。激痛と虚脱感で、意識を保っているのも辛い有様だ。力で上を行かれ、戦術を見極められた。完璧に凌駕された上での敗北は、陸人の心を深く絶望させていた。

 

(俺では勝てない……そもそも、なんだってこんな力が俺に宿ってるんだ。もっと上手くやれる人だって、きっとどこかに……)

 

 自分の努力を否定するかのようにことごとく攻め手を封殺された陸人は戦意を喪失しつつあった。元々訳も分からず戦ってきた身だ。嫌になってしまうのも無理はない。何故自分なのか、それすら知らないのだから。

 

(……! あれは!)

 

 諦めて意識を手放そうとしていたアギトの視界に、緑色の閃光が走る。樹が大量のワイヤーを束ねて太くした必殺の一撃だ。

 遠くを見れば、大剣が空を埋め尽くすペデスをハエたたきのように正面から叩き落としている。復活し始めた砲台の一斉射撃を、青い光が片っ端から撃ち落としていく。

 

(みんな……)

 

 横たわっているネストの大地が大きく振動する。きっと地下で戦う友奈の技だろう。城塞の方でも大量の破壊と激突の音が響く。夏凜が防衛陣を相手に立ち回っているのだ。

 

(そうだ……俺に力がある理由、それは今どうでもいい、関係ない)

 

 陸人が戦ってきたのは、そうしなければ護れないものがあったから。そしてそれは、戦ってでも護りたいと思える大切なものだったからだ。

 

(みんながまだ諦めてない……男の俺が一抜けだなんて、そんなふざけた話が許されるわけがない!)

 

 脱力した肉体を気力で奮い立たせ、アギトが再び立ち上がる。よろめきながら、頭上で堂々と輝く太陽を見つめ、戦意をたぎらせていく。

 

(世界とやらに、意識があるのなら……俺が力を持ったことに、何か意味があるのなら……!)

 

 神に祈り、世界を信じる。御咲陸人はたまたま力を得たのではなく、意志あるナニカによって選ばれたのなら。

 彼が今ここにいることに、意味があるのだとするならば。

 

(名も知らない誰かに、どうかお願いする……俺に力を貸してくれ。みんなを守れるだけの強さを、俺に授けてくれ……!)

 

 その祈りは世界に届き、アギトに施された最後の封印が解かれる。祈りとはある種の決意表明という面もある。陸人にとって何が何でも譲れない願い。その意志の硬さを認めた世界そのものが、現世の救世主たり得るアギトの力を次の段階へと誘う。

 どの次元、どの時代でもなし得なかった、前人未到の領域へと。

 

 

 

 

 太陽の光を浴びて、アギトの内に燃え盛る炎がその勢いを増していく。強くなった炎が内側から肉体を焼き、バーニングフォームの硬い装甲を破り、脱ぎ捨てる。

 赤い装甲の中から現れたのは、眩く輝く白。全体的にスリムで身軽な身体へと変化した。

 

(この力は……そうか。アギトとは、()()()()()()と繋がって、進化を繰り返す存在……!)

 

 環境に適応して進化するのが生物の本質。それを極限まで追求したのがアギトの性質だ。簡単に言ってしまえば、()()()()()()()()()()()()()()どこまでも強くなれる。

 仲間との絆で結ばれることで互いを高め合う。『人』と繋がるクウガとは対照的に。

 アギトは世界という『天』と1つになることで、無限の進化を可能とした力だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「なんだ……私ですら知らない、新しいアギトだと……⁉︎」

 

 いくつもの次元の壁を越えた先、神霊の世界から様子を見ていたテオスが驚愕する。人間が、いや、たとえ根幹に神霊の属性を宿していたとしてもあり得ない。アギトの力があの領域まで伸びることはない。根源であるテオスの思惑を超えることなど、本来あるはずがなく、あってはならないことだからだ。

 

「何故だ……何故こうも繰り返し私の想定を上回る……御咲陸人!」

 

 焦燥するテオスに声をかけることなく傍観する光の集合体。テオスよりも早くから、陸人の異質さを知っていた天の神からすれば今更驚くことでもない。むしろテオスがこれまで気づかなかったのが悪いとでも言わんばかりだ。

 

 そんな二柱の神霊の遥か後方。何度か現世でも目撃された()()()()()()()()の集合体。不穏な印象しか与えないその影は、値踏みするようにテオスの様子を伺っている。

 

 両手で頭を抱えて錯乱する彼の背中にも、同じ影が宿っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『アギト・シャイニングフォーム』

 

 バーニングフォームの表皮を打ち破って現れた真の姿。光の力を収束して、爆発的な戦闘力を解放できる。

 白く鋭いボディは、より速度を重視した形。光のように動き、敵を焼き尽くす力の現れ。

 

 ベルトから新たに現出したシャイニングカリバー。バーニングフォームの時とは違い、2つの刃を分割した二刀の剣『ツインモード』で構える。

 

「なんだ、その力は……⁉︎」

 

 アギトの変質に気づいて急ぎ駆けつけたカブト型が、驚愕を隠さず問いかける。

 

「さあな。相変わらず分からないことだらけさ。アギトとはもう2年の付き合いなんだが……今でも誰かが解説書を渡してくれないかと期待してるくらいだ」

 

 本質をつかんだところで、まだまだ謎だらけ。しかし陸人にとって重要なのはそこではない。今のアギトに、目の前の強敵を倒す力があるかどうかだ。

 

「実戦どころか、発現したのも今が初めてだ……せいぜい長持ちしてほしいものだな?」

 

「……フッ、言っておけ。最初で最後にしてやろう!」

 

 最初の言葉をそのまま返す両者。彼らは確信していた。どちらが勝つにせよ、決着は遠くないことを。

 

「これだ……戦士同士が全てをぶつけ合う。お前となら、至高の勝負ができる!」

 

「俺はお前を戦士だなんて認めない……衝動に任せて暴れるだけの奴が戦士を名乗るな!」

 

 圧倒的な力を持っていながら身勝手な破壊にしか使わないカブト型。その在り方が陸人はどうしても許せなかった。かつてないほどに怒りを表に出したアギトが、その光輝の力を開放する。

 

「もう一度、改めて言うぞ……人間をナメるなよ、この虫野郎がっ‼︎」

 

 ネスト突入から1時間。それぞれの戦場で、決着の時が迫っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 




シャイニングフォームが太陽の光を浴びて進化する描写を突き詰めて屁理屈を構成しました。今作では、シャイニングは別格の強さを持つということになります(原作ではバーニングに劣るスペックもあったりしましたが)

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに

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