A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
結城友奈の章、完結です。
「速度は落ちてるけど、まだ止まらない……そろそろ街が危ないわね……」
「このままではいずれ砲弾が市街地に届きます。どうすれば……」
「それじゃ大砲の半分は私が受け持つよ〜。それなら手が回るでしょ〜?」
緩やかな声と共に戦場に現れた巨大な空中船。圧倒的な数の刃が飛翔して砲弾を斬り飛ばしていく。当代最強の勇者、乃木園子が遅れて参戦してきた。
「タクシーのお仕事も終わったし、後はここのお手伝いをするよ〜」
「タクシー?」
「えへへ、その話はまた今度。置いといて〜」
園子とは初対面の風。話には聞いていたものの、その独特のテンポに早速翻弄されている。何か良いことがあったのか、切羽詰まった状況を理解していながら、園子は心なしかいつも以上にフワフワしていた。
「乃木さん、あなたは……」
「みんな頑張ってるからね〜。今はアレを止めることに集中しよ〜、わっしー……ううん、東郷さん」
園子は既に10回以上満開してしまっている。そんな身体で飛んできた彼女を案じる美森だったが、彼女の笑顔に後ろ向きな感情を打ち消されてしまった。園子の言う通り今はただ、目の前の敵を止めること。
「分かったわ。でも無理はしないでね……それから、私のことはわっしーで構わないわ。その方が呼びやすいのでしょう?」
「……いいの?」
「ええ。思い出せてはいないけれど、あなたにそう呼ばれていたという事実はあったんだってなんとなく分かるの。だから気を遣わないで、ね?」
「……そっか〜……うん、それじゃ行くよわっしー! 一発だって見逃さない!」
「分かってるわ。全て撃ち落として、守ってみせる! 私達が帰る場所を!」
並び立つ2人の勇者。広く空を守れる彼等の役目は重大。それでも2人ならばやれる。園子も、記憶がない美森もまた、理屈抜きで確信していた。
「しつこいわねぇ、どんだけいるのよ木っ端どもが!」
倒した端から湧いてくるペデスを斬り捨てながらエクエスに迫る夏凜。城塞自体に仕掛けをしているらしく、壁や床から無尽蔵に雑兵が現れては進路を塞いでくる。面倒極まりない戦いを繰り返し、夏凜の忍耐力は限界を迎えつつあった。
「如何ナル手段ヲ用イテモ、貴様ハコノ場デ排除スル!」
「あぁぁもういいわよ面倒くさい! ホントは陸人に勝つための技だってのに……」
温存したかった奥の手を使うことを決意した夏凜。こんな相手に解禁するのはプライドが邪魔をしたが、これ以上意地を張ってもいられない。
「スゥ――……どうやって斬られたかを知った上でくたばりたかったら、死ぬ気で目を見張っておきなさい。一瞬で終わらせてやるから」
そう言うと、夏凜は大量の刀剣を召喚。自分の周囲に浮遊させる。その中から数本を手元に持ってきて、指の間に挟み込む。片手で4本、計8本。
更に生身の腕に倣うように、満開で得た巨腕にもそれに適したサイズの大剣をそれぞれ4本ずつ装備。六本腕に各四刀流。合計二十四刀流という数えるのも面倒なほどの刃を装備した。
「何ダ……何ナノダ、貴様等ハッ‼︎」
「私に……質問をするなぁぁぁっ‼︎」
装備過多になっても些かも落ちない速度で突進。全身を細かく振って、各所に備えた刃で敵を斬り裂く夏凜。こんな無理のある握りでは当然最高の斬撃には至らない。
だからこそ、失敗した刀は即座に手放して次の一本に切り替える。半ばで刃が止まったら次の刀で押し切る。刃筋が通らずに弾かれたなら、即座に二の太刀で斬りつける。更には足元に刀を移動させて、蹴りで刀を飛ばす芸当も披露。文字通り全身を剣として踊るように全てを斬り裂いて前進する。
景色が溶けるほどに疾く、風が叫び出すほどに迅い。その処理速度は要塞の召喚速度を凌駕しており、僅か数秒でエクエス以外の全ての敵を殲滅してみせた。ハリネズミのような格好になっている夏凜は、ようやく拓けた進路を直行、エクエスに正面から斬りかかる。
「じゃあね、赤アリさん……!」
「オノレ……馬鹿ナァァァッ‼︎」
ドリルのように錐揉み回転しながら突っ込む夏凜。大小様々な刃を備えた高速回転は、粉砕機のような勢いでエクエスを塵へと変えた。
「まったく、しつこすぎだっての……本気出す羽目になったじゃない」
ついさっきまで強敵だった塵の山に一声かけて、夏凜は飛び立って行く。まだ仲間が戦っている。完成型勇者の使命は終わっていない。
「ドウシタ、ソノ程度カ?」
(やっぱりおかしい。身体が思うように動かない……!)
地下の御霊前。友奈は苦戦を強いられていた。かつてないほど動きが悪い。踏ん張りは効かず、拳の威力も大きく落ちている。
(さっきのアレが関係あるのかも……とにかく今は、このアンノウンを何とかしないと!)
全身を御姿に入れ替えた影響で、これまでの自前の肉体との差異が発生している。問題なく噛み合うように設計されてはいるものの、やはり完全な
そもそもは戦闘後に欠損を補うためのものであって、入れ替え直後に戦場に出ることなど考慮されてはいないのだ。元々御姿で現世に降り立った陸人はともかく、先程まで普通の人間の身体だった友奈に、この短時間で完璧なパフォーマンスを要求するのは土台無理な話だ。
(脚が重い……力も入りにくいし、思った通りの方向に力が向かってくれない……!)
特に無手の友奈は、傍目では分からない程精密な肉体操作を必要としている。踏み込み一つとっても位置、タイミング、体重の乗せ方、足の向き。染み付いた感覚から、それらの最善を選択して流れるように身体を動かす。全身を使って力を行き渡らせることで初めてその拳は威力を発揮する。
高い戦闘力を誇るエクエスを相手に、ゆっくり調子を確かめながら拳を振るってもまず当たらない。長物を使う敵に翻弄され、友奈は自分の持ち味をまるで活かせていなかった。
「拍子抜ケダナ……奥ノ手ヲ1ツ潰シタ貴様等ヲ、過剰評価シテイタヨウダ」
「私は、自分が特別強いなんて思ってないよ。勇者に選ばれはしたけど、ちょっと武術ができるくらいの……普通の中学生」
荒くなった息を整え、友奈は前方の敵を見据える。既に雑兵は蹴散らした。エクエスさえ倒せば、奥の御霊を破壊できる。
「だけど、私は託されたんだ。りっくんに、御霊を壊す役目を任されたんだ……みんなが、この要塞を止めるために頑張ってるんだ!」
現状、最も重要な役割を背負っているのは間違いなく友奈だ。その自覚こそが、何度あしらわれようともその度に彼女に拳を握らせる。
「だから私は負けない。あなたも、御霊も、この手で壊す! 私は勇者部のフィニッシャー……勇者、結城友奈‼︎」
「今ノ貴様ノヨウナ様ヲ、無駄ナ努力ト言ウノダッタカ?」
満開した巨腕の間合いの内側、かつ素手の友奈の拳の間合いの外。絶妙な死角に入り込み、エクエスが鎌を振るう。これまで繰り返してきた友奈対策。このエクエスもまた、敵を分析して対策を練る程度には人間を警戒していた。
(ごめん、りっくん……ちょっとだけ無茶するよ!)
エクエスの鎌を敢えて防ぐことも避けることもせずに前進する友奈。精霊バリアとぶつかった鎌は、その衝撃が友奈に伝わるまでのほんの一瞬、その動きが静止した。以前バリアに頼り切るなと陸人に言われていた友奈は、初めてその助言を無視して戦術に組み込んだのだ。
「――ここだっ!」
「何……⁉︎」
その一瞬を待っていた友奈は、静止した鎌の柄を両手で掴み取る。バリア越しに衝撃で吹き飛ばされるまでのコンマ数秒の隙。それが友奈の狙いだった。
止まっている得物を掴むだけなら力は必要ない。問題は一瞬のタイミングを見極めて捉えることができるかどうか。友奈はこれまでの経験と鍛錬に全てを賭けて、そして勝利した。
「離セ、貴様……!」
「させない……!」
一度素手で捕まえてしまえばこちらのもの。零距離まで接近した状態から、友奈の背中から伸びる巨腕が蠢く。外側からエクエスの両腕を握り、強引にその腕を開かせていく。4本腕と2本腕。どちらが有利かは言うまでもない。
「これで決める!」
「――ガッ⁉︎」
両腕を引いてくる巨腕と、鎌を奪おうとする細腕。4本の腕を相手に不利な綱引きを強いられたエクエスが、それでも必死に抵抗して鎌を手放さない。
粘る敵を引き離すために、友奈は頭を振りかぶってエクエスの額に叩きつける。不意打ちの頭突きは、エクエスの虚をついて鎌を離させることに成功した。
「おおおおぉぉぉぉっ‼︎」
巨腕で捕まえて敵の動きは封じてある。今必要なのはスピードではなく、あくまでパワー。いつも以上にゆっくりと段階を踏み、感覚を確かめながら友奈が拳を構える。狙うはエクエス。その剥き出しの胸部ど真ん中。
「勇者ぁぁぁ……ダブル、パァァァンチッ‼︎」
右拳から左拳のワンツーパンチ。一発ごとに溜めが必要で隙が大きく、通常はまず当てられない大技を叩き込み、エクエスの身体を中心から破壊した。
バラバラになったエクエスを踏み越えて、その奥の本命まで駆け抜ける。ネストを堕とすための、これが
「デッカいので、もう一発! 勇者ぁぁぁ、パァァァンチッ‼︎」
高く飛び上がり、満開の巨腕に力を込める。最大最強の拳が、最後の御霊を粉々に打ち砕いた。
「やった、これで……って危ない! ここ地面の下!」
ネストの機能をギリギリで保っていた中枢が壊されたことで、要塞の各部が崩れていく。自分がいる場所が地下深くであることを思い出した友奈は慌てて上昇、地上に向かっていった。
「どうした? ずいぶん遅くなったじゃないか!」
「馬鹿を言うな……貴様が速すぎるだけだ!」
障害物のない、拓けた平地。雷のように鋭く動くカブト型と、光のように捉えどころなく駆け抜けるアギト。音さえも置いていく速度域でぶつかり合う2人の軌道は、まるで反発する磁石のように激しく止まらない。
シャイニングフォームはこれまでのアギトをすべての面で凌駕した、人間の可能性の次なる極地。電撃形態のカブト型をスピードで撹乱し、パワーで圧倒していく。
研究から得た先読みでなんとか追いすがってはいるが、アギトは切り返しの度に速く激しくなっていく。一方のカブト型は徐々に動きに綻びが見えてきた。このまま続けば、決着は誰の目にも明らかだった。
「お前と違って、こっちは遊びで戦ってるわけじゃないんだよ!」
回し蹴りが直撃し、カブト型が大きく跳ね飛ばされる。陸人は一刻も早く決着をつけて仲間の援護に向かうことしか考えていない。
("遊び"か……確かに、俺に守るものなどない。お前達からすれば遊んでいるようにも見えるだろう。だが……!)
一方的に押されていくカブト型は、最後の力を振り絞って跳躍、ネストの直上で雷光を収束していく。一か八かの大技勝負に打って出た。
「俺は戦闘そのものに全てを懸けている。強者と戦い、勝利することだけが、俺の存在意義だ!」
全てを込めた最大級の雷迅閃。ネストそのものを破壊しかねないサイズの刃が、真っ直ぐに振り下ろされる。その軌道上には、まだ要塞内で戦う勇者達も入っている。
「そうかよ……だけどな!」
カブト型が言っていた通り、雷迅閃の対処法は振り切らせないこと。アギトは両腕のカリバーに光を集約して、真っ向から飛び込んで行く。下手に避ければ仲間が斬られる。この太刀が届く前に切り払わなくてはならない。
「自分のことしか考えられず、力無きものには見向きもしない。誰かのことを慮ることすらできない!」
2本のカリバーを交差させて、刃で挟み込んで叩き斬る必殺技。
『シャイニングクラッシュ』が炸裂。最大出力の雷迅閃を半ばから切断した。
(ここまで、か……)
「そんな視野の狭い、器の小さい奴に……負けるわけにはいかないんだよっ‼︎」
駒のように回転して双剣を振りかぶるアギト。再び力を収束した刃で、盾の上からカブト型の胴体を真横に両断した。
最強の矛と最硬の盾を破られ、完璧に敗北したカブト型。上下で2つに裂かれた異形は、何も言葉を発することなく落下していった。苛烈に戦場を求めていた姿とは裏腹に、どこか穏やかで満たされたような様子で静かに退場した。
(崩壊し始めたか。友奈ちゃんが上手くやってくれたんだな。後はアリの女王を……)
ネストは間もなく沈む。残る脅威はアリ型の根源であるレギア。頭を潰して群体を制すれば、この戦いは完全に終息する。女王を探して飛び回っていたアギトは、崩壊した城の跡地で恐ろしい光景を目の当たりにする。
(共喰い……⁉︎ そうか、傷を癒すために)
カブト型の一撃で動けなくなったレギアは、自身が生み出したペデスを大量に召集。その身を喰らうことで自分の傷を回復させていた。既に10以上の屍が周囲に散らばっている。見たところ、殆ど完治しているようだ。
「しつこいんだよ、そろそろご退場願うぜ!」
アギトが真上からカリバーで強襲する。直前で察知したレギアは、ペデスの身体を盾にして双剣を捌いた。全快したところで、レギアではシャイニングフォームに至ったアギトには到底及ばない。それは自覚しているらしく、アギトの姿を視認した女王は冷静さを失い、狂乱しきっていた。
「失敗ハ許サレヌ策ダッタノダ。ソレガ貴様等如キニ……貴様如キニィィィッ‼︎」
絶叫するレギアの影から夥しい数のペデスが現れるも、その全てが一切の身動きを取らずに生物らしき反応すら見せない。限界を超えた大量増殖の結果、命が宿っても魂がない、空っぽの雑兵が出来上がってしまったのだ。
「貴様ダケハ……貴様ダケハァァァッ‼︎」
無茶は承知で数を呼び出したレギア。屍に近いペデスを大量に積み上げ、塔のような形を形成する。絶えず肉体を生み出し続けて質量で押しつぶそうとしている。
ネストの城塞を上回る高さまで積み上げたペデスの塔。その頂点に立つレギアが、槍を構えて突撃する。幾千幾万のペデスの圧力が、アギトを潰さんと迫ってくる。
「悪いな、アンタの玉座は今日限りだ……!」
カリバーを手放し、脚を開くアギト。普段は足元に発生するアギトの紋章が正面に現出する。
「勝負だ、アリの女王様!」
青く輝く紋章を通過して力を増したアギトが突貫する。最強のアギトによる最高の必殺技『シャイニングライダーキック』がレギアに直撃した。
女王の身体も、足元のペデスの塔も、たった一撃で残らず消しとばした。進化したアギトには、質量差など問題にもならない。
着地して一息ついたアギト。長い戦いが、ようやく決着した。
――と、誰もが気を抜いたその瞬間、ネストの最後の機能が発動した。
『皆様、警戒を! ネストの中心に高エネルギー反応です!』
「ハァ? なんだって今になって……」
端末越しに安芸の焦燥が伝わってくる。感知した出力は、これまでで最大レベル。四国結界を破った破界砲が再起動。残ったエネルギーを収束して放とうとしている。
2つの御霊が壊されたことで、ネストは迎撃機能が停止し、その巨体を維持することができなくなった。そうして行き場を失ったエネルギーが破界砲に集められていく。
天の神か、テオスか、はたまた別の存在か……何者かが仕込んだ万一失敗した際の次善策。崩壊時には最後の一撃を放つように設定されていたのだろう。
「照準は⁉︎」
『最も近い市街地……丸亀市です!』
ネストの最後の悪足掻き。特攻性能があったとはいえ、長年人類の生存圏を守護してきた結界に風穴を開けた砲撃。そんなものが落ちてしまえば、その被害は街1つ程度では足りないだろう。避難もまだ完了していない。そもそも避難地まで届く可能性も十分にある。
「させるかよ……!」
崩れ落ちかけた膝に力を込めて、アギトが光のスピードでネストから飛び立つ。破界砲の正面に移動して、トルネイダーで足場を維持する。
踏ん張る体制を整えた瞬間、迸る破界の力が砲門から放たれた。
「……っぉぉぉぉぉおおおおおおおっ‼︎」
カリバーを交差して光を受け止めるアギト。自身の身長の数十倍の大きさを誇る光球と正面から激突。疲弊しきった今のシャイニングでは、不安定な空中で踏ん張り切ることができなかった。
(マズい……少しずつ押されてる……!)
速度こそ落ちたものの、砲撃は淀みなく街に接近していく。アギトが潰れるのが先か、街に落ちるのが先か。この時点で、アギト1人では破界砲を止められないことは明白だった。
――そう、
「行くわよ! 勇者部――……」
『ファイトォォォッ‼︎』
アギトの周囲に並び、バリアで砲撃を受け止める勇者達。5人分の精霊バリアを同時展開することで、アギトが止められなかった砲撃の進行を停止させてみせた。
「東郷さん、りっくんを!」
「ええ!」
勇者達が砲撃を止めた隙に、潰れかけたアギトを美森が救出。バリアの後方に退避した。
「リク、しっかりしてリク!」
「美森ちゃん……ごめん、助かったよ」
動くのも億劫な程に痛めつけられたアギトが、ぎこちない挙動で立ち上がる。手にしたカリバーの刀身が根元からグズグズに溶かされていた。破界砲の威力はそれほどのものだという証拠だ。
「リク……」
「みんなが押さえてる今なら、攻勢に打って出ることもできる。美森ちゃん、合わせてくれ。俺たちの力を1つにして、砲撃を撃ち返す」
前方を見据えたまま、アギトが後ろ手に美森に手を差し出す。この窮地を脱するには、触れ合うことで力を高めあって放つ
陸人の覚悟を悟った美森は一瞬躊躇った後、アギトの掌を無視して彼の背中に抱き着いた。ぴったりとくっついた両者の身体から、互いの力が行き交って上昇していく。
「……っと、美森ちゃん?」
「……約束、守ってくれるのよね?」
あの人生を懸けた約束からまだ2時間も経っていない。それでも美森は怖かった。それだけ目の前の状況が絶望的だったからだ。
「私を置いていかないで……お願い、リク……」
「当たり前だろ? 君の幸せを見つけ出すまで、俺は君から離れないよ。大丈夫、こんなのピンチでも何でもない。俺たちなら勝てる……そのために、美森ちゃんも力を貸してくれ」
背中から回された美森の両手を握って力強く宣言する。その迷いなき言葉に、美森も改めて覚悟を決めた。
「……ごめんなさい。行きましょう、リク!」
「ああ。これで本当に、最後の最後だ!」
脚を開き、腰を落とし、必殺の構えを取るアギト。残った力を全て込めて、一発の砲弾に収束する美森。2人の前方に、ターゲットサイトのようにアギトの紋章が浮かび上がる。
「おおおおぉぉぉぉっ‼︎」
「リク……行ってっ‼︎」
ライダーキックを放つアギトの後ろから、その勢いを加速させる美森の砲撃。光に包まれたアギトが、仲間が張った多重バリアの中心に開いたスペースに突っ込んでいく。
アギト最強のシャイニングライダーキックを、美森の最大火力で更に強化した、一点突破の究極奥義。勇者達のバリアで少なからず減衰させられていた破界砲と激突し、少しずつ押し返していく。
「……っぅぅぅぁぁぁああっ‼︎」
「陸人、もう少しよ! もう少し踏ん張りなさい!」
(陸人さんなら、負けるはずないです!)
「そんなもんじゃないでしょ! 見せてみなさいよ、アンタの全力を!」
「りくちーは私の、そしてみんなのヒーロー。お願い、勝って!」
「なせば大抵なんとかなるよ! だって、りっくんだもん!」
「まだよ……もっと、リクに力を!」
仲間達も声援を送りながら、結界や砲撃で必死に援護する。中学生の身で人類の命運を託されてしまった彼女達は、この瞬間だけそんな背景の一切を頭から除外していた。ただただ友人の勝利を信じて。これからも変わらない時間を共に過ごすことだけを夢見て全力を振り絞っていた。
「約束したんだよ……こんなところで、終わってたまるかぁぁぁぁぁぁっ‼︎」
体力、気力、その他全てを絞り出し、アギトの力が最高潮に達した。拮抗していたせめぎ合いが、一気にネスト側に押し返されていく。
「今だよ〜、全員押してっ‼︎」
半数は園子とは初対面だったが、そんなことも忘れて少女達は心を1つに重ねる。陸人のための最後の援護として、精一杯の力でバリアを押し出してアギトの突撃の補助をする。
「オオオオオオリャアアアアァァァァッ‼︎」
『いっ……けぇぇぇぇぇぇぇぇっ‼︎』
6人分の力に背中を押されたアギトのシャイニングドライブが、破界砲の出力を凌駕した。先程までの拮抗がウソのような速度で押し返し、そのままネストに到達。内部に突入してもなおその勢いは衰えず、要塞の中心を突き破った。
史上最大の規模を誇った人外の決戦兵器は、魂を燃やして抗い続けた勇者達の一撃で、木っ端微塵に破壊された。
崩壊したネストの破片は大小かなりの数が海、及び大地に落下していく。街に落ちるコースに乗った大きな破片は、勇者達が細かく破壊して被害が出ないように対処した。
1分後、やっと落ち着いてきた頃合い。ようやく美森が気づいた。
「リク……? リクはどこ⁉︎」
その声に園子がレーダーを起動。なんと陸人は、1分経過した今もまだ勇者達よりも上空にいた。
「……あそこ! マズいよ、意識がないまま落ちてる!」
ネストを突き破った勢いはなかなか止まらず、あわや宇宙にまで飛び出しかけたところでようやく静止。一気に落下した。その時点で変身は解除され、陸人の意識も飛んでいる。今は風に煽られながら海に向かって真っ逆さまだ。
「りっくんっ!」
1番近くにいた友奈がその巨腕でなんとかキャッチ。脱力した陸人を抱きとめた。
心の底から安堵した仲間達も友奈の元に合流。これにて完璧にネスト攻略戦は終了した。
「陸人……陸人? ちょっと、大丈夫?」
"寝息……お休み中みたい。寝かせてあげましょう"
「そうね。ここ数日息つく暇もなかったし。私も流石に限界近いかも……」
「友奈ちゃん、リクは苦しそうじゃない? うなされてたりは――」
「大丈夫みたいだよ、東郷さん。そんなに慌てないで、私達が騒いでるとりっくん起きちゃうよ」
「それじゃ、一件落着〜。降りよっか〜……りくちーもみんなも、病院で診てもらわないとね〜」
陸人に負担をかけないようにゆったりと降下する勇者達。誰1人欠けることなく終わりを迎えることができた。今はただ、そのことに対する喜びしかなかった。
「おやすみりくちー……すご〜くカッコ良かったよ。さすが私のヒーローさん」
(――っ⁉︎ 何、今の寒気は……?)
「東郷さん?」
(アレ? なんだろ……胸のあたりがチクっとしたような……)
そんな他愛もない少女達のアレコレもあったりしたが、そんな日常もまた、全員で守り抜いた尊い時間だ。
神世紀最大の決戦から数週間が経過した。奇跡的に死亡者が出なかったこともあり、大社の手回しで騒然としていた四国も表面上は落ち着きを取り戻した。
あの決戦にはバーテックス、アンノウン勢の戦力の大部分を投入していたらしく、壁外の敵性戦力の動きが沈静化しているとのこと。その褒美ということなのか、なんと勇者達が散華で失った身体機能が返還された。
友奈の味覚も、樹の声も、夏凜の脚も、風の眼も。美森に至っては耳だけでなく2年前の両脚と記憶も含めて全てが戻ってきた。
銀と園子の欠損も快癒したと連絡があった。大社があまりに忙しなくしているせいで会えてはいないが、どうやら他にも良いことがあったらしい。陸人は近いうちに会って話す約束もしている。
そんな彼女達の手元には勇者システムはない。今代の勇者のお役目は完了。次代に引き継ぐという話だった。言葉では言い尽くせないほどにたくさんのことがあった。めでたしめでたしとは言い難いが、本当に守りたかったものに関しては、守り抜けたと言ってもいいだろう。
こうして普通の中学生の部活動『勇者部』として再スタートした6人。本日行われるのはその最初のイベントである文化祭。
かつて保育園で演じた劇をベースに、友奈と陸人を主役とした演劇を披露。
表の主人公、友奈が演じる勇者と、裏の主人公、陸人扮する魔王が織り成すそれぞれの正義がぶつかる冒険劇。幼児相手には適さない対象年齢高めのテーマは大好評。いよいよクライマックスのシーン。
「何故そこまでして抗う? 貴様が全てを尽くして守る価値が、この世界にあると本気で思っているのか?」
陸人がらしくない魔王のセリフを情感を込めて口にする。どちらかと言えば、彼は似たようなことを言われた側の人間だ。
「世界には嫌なことも悲しいことも自分だけではどうにもならないこともたくさんある!
だけど、大好きな人がいればくじけるわけがない。諦めるわけがない!」
友奈の最後の決め台詞。ここで勇者の剣で魔王を倒してフィナーレという流れだ。
「大好きな人がいるのだから、何度でも立ち上がる!」
友奈の剣が陸人に届く、その瞬間――
(――っ⁉︎ これは……!)
(えっ……りっくん……あれ? 私も……)
2人が同時に倒れこむ。一瞬意識が遠のき、立っていられなくなった。慌てて壇上に駆け寄ってくる仲間達。
問題が起きたのは本当に一瞬のことで、2人とも何の不調もない。何とか演劇を再開しようとしたところ――
割れんばかりの拍手と歓声に包まれ、勇者部の演劇はフィナーレを迎えた。
元々自分なりの正義を持った人物として表現されていた魔王。もう1人の主役と呼べる彼をただ斬るのではなく、両者が同時に崩れ落ちた(ように見えた)結末はかえって好感触だったらしい。
ギリギリで準備した演劇が大成功を収めたことを証明する歓声に対し、勇者部は心からの笑顔で返した。
(何だったんだ? あの立ちくらみみたいな感覚は……)
文化祭の打ち上げと称した勇者部パーティーの最中。陸人は1人抜け出して屋上にいた。あれ以来、時折自身の肉体がうまく動かないことがあった。
御咲陸人という肉体に、御咲陸人の魂がうまく定着していないような感覚。言葉に表すとますます意味が分からなくなるが、陸人にはこれが気のせいだとは思えなかった。
「だーれだっ⁉︎」
だからこそ、こんな懐かしい声と共に目元を塞ぐ暖かさに、陸人は心から安堵した。
「また? 友奈ちゃん好きだね、この遊び」
「アレッ? 今度は引っ張らなかったね、りっくん」
パッと離れた友奈が、陸人の正面に回って顔を覗き込んでくる。今の平穏な時間が本当に嬉しいのだろう。満面の笑みを浮かべている。
「どうしたの? りっくんちょっと怖い顔してるよ?」
そう言って陸人の眉間を指で押す友奈。ほぐしてあげようという意図なのは分かるが、相変わらず男女の性差を感じさせない距離感の近さだ。
「何でもないよ。友奈ちゃんは、あれから身体おかしかったりしない?」
「もー、本当にりっくんは心配性だなぁ。大丈夫だよ、ただの立ちくらみ。りっくんもそうでしょ?」
「……ああ、そうか……うん、そうだよね」
自分のことだけなら掴み所のない不安でしかなかったが、友奈も同じだとすれば1つの可能性に思い至る。"御姿"という未知の概念だ。
(友奈ちゃんは完全に覚えてないみたいだし、俺の方もどんどん記憶が薄れてきてる……)
あの不思議な空間での出来事について、おそらくもう半分も覚えていない。物忘れとは違う、記憶が削り取られているような感触。いつまでも思い出せない陸人の過去とも関係があるのかもしれない。
(もしかしたら、知らない間にとんでもない物を失ったのかもしれないな。俺たちは……)
「ほらもう、また眉間にシワ寄せて。クセになっちゃうよ?」
懲りずに陸人の眉間のシワを伸ばそうと触れてくる友奈。よく見えるようにと顔まで近づけてくる。遠目からではキス待ちにすら見えるかもしれない体勢だ。
(……何をやらかしていたとしても、ここで悩んでも仕方ないか。守りたいものを、大切な人を見失わない強さ。それが俺に必要なものだ)
目の前で背伸びをして覗き込んでくる友奈が、不意に愛おしくなった陸人。特に深く考えずにその身体を抱きしめた。当然友奈は大混乱。陸人からこんなアプローチをしてくることなど一度もなかったのだから。
「りりりりり……りっくん⁉︎」
「あ、ごめん。つい……可愛いなって思って」
「ふぇぇ……?」
「もうこんな時間か。友奈ちゃんは俺を探しにきてくれたんだよね? ありがとう、そろそろ戻ろうか」
「……ぅぅぅぅ……ってアレ⁉︎ りっくん待って!」
何事もなかったかのように扉に向かう陸人。顔を真っ赤にしてショートしていた友奈も、あまりにいつも通りな彼を見て何とか落ち着きを取り戻した。
(うぅ……何だったの今の? りっくんはいつも通りすぎるし……)
(友奈ちゃん、まだ顔赤い。もしかしてハグって友達同士でやることじゃなかったのか? 美森ちゃんは割とよくやってくるし、友奈ちゃんとも似たようなことはあった気がするけど……)
今回の事故は半分自業自得だった。やたらとスキンシップしがちで距離が近い友奈。心を許した相手の温もりに触れることを好む美森。1番近くにいたのがこの2人だったことで、基本常識人の陸人の中で歪んだ非常識が形成されてしまっていた。
(……でも、りっくんからしてくれたってことは……少しは期待してもいいのかな?)
(しかし、友奈ちゃんいい匂いしたな……いや、それはないだろう。変態か俺は)
勇者として過ごした日々は辛いことの連続だった。それでも戦いばかりではなく、少年少女の大切なナニカを進展させるきっかけにもなったのかもしれない。
――――次回予告をやってみた――――
勇者達が戦っているのと同じ頃、別の場所で抗う者達がいた。
「『G3システム』?」
「私が提唱するのは、神樹様に頼らない新しい戦力。いつか庇護下から巣立つ時のために必要になる力よ」
「なるほど、僕はうってつけの人材というわけだ」
資格を失い、友の手を掴めなかった少年は、失意のままに武器を取る。
「僕は僕の目的があってここにいる。君達は違うのか?」
少年が出会ったのは、彼と同じく神に選ばれなかった少女達。
「私は勇者になる……勇者に、なれるはずなの!」
「死にたくないって思うのは、そんなに悪いことなのかな?」
「弥勒家再興のため、無駄な任務など1つもありませんわ!」
「勇者は……カッコ良かった。そのギルスって人も……そうなんじゃないの……?」
「ただ、無事に帰ってきてほしい。私が祈るのはそれだけです」
出会いと戦いを繰り返し、彼らは自分の存在意義を探し求めていく。
「僕達はここにいる。勇者じゃない。僕達は僕達として、今……ここにな……!」
「人が人に犠牲を強いる世界。それでもあなた達ならば、もしかしたら――」
A New Hero. A Next Legend 楠芽吹の章
「G3、エンゲージ!」
――目覚めろ、その魂!――
はい、というわけでアニメ一期分が終わりました。ネスト戦ちょっと引っ張りすぎたかもしれません。ピンチの連続は多様しすぎると作者も読者も疲れますね。
事後の流れが簡素になりましたが、これはくめゆ編とその先のお話のために取っておくということです(決して細かいところを詰めきれずに後回しにしているわけではありませんよ?)
深夜テンションで次回予告を書いてしまいました……この通りに進むとは限らない、というか多分変わります。これ書いた時点ではくめゆ編一文字も進んでませんから。
次は新章、リアルが忙しくなってきたのもあってしばらく時間が空くかもしれませんし、早く感想が欲しくて先走るかもしれません。気まぐれに投稿するものと思って期待せずにお待ちください。
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに