A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
クロス小説としてはそれぞれの強みで補い合っていくのが理想だと考えています……この作品がそうできていたらいいなぁ
何件かのアンノウン発生を乗り越え、防人達も少しずつ慣れてきた。バーテックスとは勝手が違う相手との戦闘にも、自分達の生活スペースに男子が1人混じったこの状況にも。
しかしその間、G3は芽吹の指示には従わず、独断でアンノウンに立ち向かい撃破していった。結果として最も被害を少なく済ませた形になったことと「G3ユニットはあくまで協力者、君の指揮下には入っていない」の一点張りで話にならなかった。
かと言って志雄に協調性がないのかと言えばそれも間違いだ。少なくとも平時の彼は紳士的で物静かな優等生だった。
「あっ、おはよー国土くん」
「ああ、おはよう」
「この前のアドバイスを頭に入れて射撃訓練やってるんだけどさ、良ければまた見てくれないかな?」
「今日の夕方で良ければ空いているが」
「じゃあお願い! ちょうどその時間に私の班が訓練室借りてるから、他の子も見てくれると嬉しいんだけど……」
「……仕方ないな、今回は引き受けよう。自分や仲間のために君はメモを取っておけよ。いつでも見てやれるわけではないからな」
「分かった、ほんとありがとー! 今度何か奢るからさ」
このような光景も珍しくはなくなってきた。離れた席から見ていた芽吹達にとっても別に悪い話ではない……隣で泣きそうになっている亜耶を除けば。
「……うぅ、私以外の方とは普通にお話しするのですね。お兄様」
「う〜ん、こうして見るとちょっと素っ気ないけど割と友好的な人だと思うんだけど……」
「なかなかの紳士ではあるはずですが、何故ああも妹の国土さんを避けるのかしら?」
志雄と防人達の距離感が縮むほどに浮き彫りになっていく国土兄妹の不和。特に部隊の清涼剤でもある亜耶が避けられているというのはどうしても目立ってしまう。
「アイツが考えなしの馬鹿じゃないのは分かる……けど、誰にもその考えを言わないんじゃどうにもならないわ」
「……あの人自身、迷ってるんじゃないかな……」
「迷うって、何に?」
「さあ……私にはずっと苦しんでるように見える。どんな結末でもいいから、早くどこかにたどり着いて楽になりたい……みたいな」
しずくの不吉な言葉に亜耶の不安は増すばかり。今日は調査任務がある。志雄にとって初めての壁外だ。亜耶としては心配でならない。
「みなさん……それぞれが命がけの戦場に赴くのに、こんなことを頼むのは許されないことだとは思います。それでも……」
「皆まで言わなくていいわ、亜耶ちゃん。国土志雄は必ず無事に連れて帰る。誰1人犠牲にはしないと誓うわ」
誰も犠牲にしないことを掲げている芽吹。馴染もうとしない志雄のことも、彼女は勘定にしっかり含めている。
壁外調査に出た防人部隊+α。指示された地点に到着して土壌のサンプル採取を開始したところで敵に発見されてしまった。この作業については隊長の芽吹でさえも反攻作戦の一環としか聞いていない。いつだって肝心なことは知らされず、使えなくなれば取り替えが効く消耗品。そんな扱いに不満を抱きながらも、彼女達は任務を遂げてきた。
今回もまた逃げられない。防人に逃げていい戦いなど無いのだから。
(実際に見たのは初めてだが……)
「G3、エンゲージ!」
小型の星屑の群れが空から舞い降りてこちらを喰わんと襲い来る。志雄はシミュレーション通りに動いて冷静に対処するも、やはり勝手の違いで苦戦していた。
(予備動作がない敵の動きは読みにくいな……偏差射撃のしようがない)
スコーピオンの銃弾を不規則な軌道で回避する星屑。手足も翼もなく空を飛んでいる異形に慣れていないG3では無理もない。
「国土さん、星屑の頭部の向きに注意するのです! それでおおよその進路は予測できますから」
後ろから飛んできた誰の声か一瞬で分かるお嬢様口調。G3はそれに従って星屑の前部、頭と予想される部位の動きに注視する。
(なるほど……確かに方向転換する際に僅かに振っている。ならば……!)
コツを掴めば何のことはない。背後の敵にヘッドショットできる志雄の腕ならば、予備動作を見切った星屑に当てるのは容易だった。防人の銃剣よりもはるかに優れたスコーピオンの連射性能をフルに活かして次々と数を減らしていく。
(いける……! G3の攻撃はバーテックスにも通用する)
通常兵器が通じないバーテックス。それに対抗するために、真澄はギルスのデータを徹底的に分析した。神の遣いに爪を立てるための力……いわば"対バーテックス属性"を科学的に再現したのがG3だ。
「オラオラオラァッ! 失せろザコども!」
少し離れた戦場ではシズクが星屑の群れを相手に大立ち回りを演じていた。真下や後方に滑り込み、敵が反応できない死角を突いて一閃。囲まれた状態から上手く敵の突撃を捌きつつ的確に数を減らしていく。言動とは裏腹に戦闘での判断力も相当なものだ。
(星屑の対処法は死角を狙うこと……おかしなナリしてるが、眼で見て動いてるらしいな)
個人技に限れば部隊全体で見てもトップクラスの実力を誇るシズクを参考に、G3は接近戦も試してみる。星屑の耐久力ならばデストロイヤーを使わずとも素手で引きちぎることもできた。
「隊長! 敵が作業中のメンバーを狙ってる!」
「クッ……雀!」
「うえええ〜! 人使い荒いよメブー!」
文句を言いながら無防備な仲間の正面に立って盾を構える雀。時にはじき返し、時に受け流し、巧みに盾を操って特攻を凌いだ。
「メブー! だ〜ず〜げ〜で〜!」
「よくやったわ雀。護盾隊集合! 作業完了まで採取班の警護に回って!」
雀に遅れて集結した盾持ちの防人が陣を組んで採取班(と雀)を囲む。その頼もしさに涙目だった雀の涙腺は容易く決壊した。
一方、敵を撃ち落としながら一連の流れを見ていた志雄は、自分の思い違いに気づいた。
(そうか……加賀城が楠に縋るのは、何も彼女が一番強いからというだけでなく……"隊長"としての楠芽吹を信じているから。彼女なら無茶な指示は出さないと確信しているから、ああして泣きながらも命を預けている)
他の防人達も同じだ。犠牲を許さない心意気とその言葉に見合う努力。その背中を見てきたから、誰一人疑うことなく芽吹に従っている。
そして芽吹もそれを分かっているからどんな時でも迷わずに指示を下す。自分の判断に迷った時でも、絶対にそれを表に出さず常に自信を滲ませて一番前に飛び出して行く。
しずくを守るための存在、と自称するシズクが曲がりなりにも連携を崩さないのも……
誇り高く、功績を求めて無理をしがちな夕海子が歳下の芽吹をリーダーとして認めているのも……
臆病な雀が、口では文句を言いながらもチームのために逃げずに戦っているのも……
全ては芽吹が道を曲げず、逃げ出すことなく抗い続けたからだ。
決して実力に物を言わせたワンマンチームではなく、下が考えもせずに上官を盲信する烏合の衆とも違う。本物の信頼で結ばれた仲間達。32人の防人は、誰の期待も受けずに命を張る日々の中でこれだけの絆を紡いできたのだ。
(防人か。流されるままに戦っているのかと思ってたが……大したものだ)
芽吹の背後の星屑を撃退しつつ、G3がリーダーに近づく。周囲を一掃しながら合流した2人。背中合わせの体勢で言葉を交わす。
「楠、君と君達のことを見誤っていたようだ。謝罪して訂正するよ」
「何⁉︎ 今忙しいんだけど……」
「君達はいいチームだ。僕も態度を改める……ついては君に、
「……は? いきなりどういう風の吹き回し――」
「後ろだっ!」
「――って、ちょっと!」
背中合わせのまま、入れ替わるように相方に迫っていた敵を切り捨てる2人。ペアダンスのように立ち回る両者の呼吸は、奇跡的なほどに噛み合っていた。
「勤勉な君のことだ、G3のスペックも頭に入ってるんだろう? その情報とこれまで見てきた僕の戦い、全て合わせて使いこなしてみせるんだ。隊長なんだろ?」
「……いいわ、そこまで言うならやってあげる……シズク! G3と合流、2人が先頭に立って――」
即興とは思えない的確な指示で戦線をコントロールする芽吹。その指示に120%の成果で応える志雄。急に素直になった彼に首を傾げながら各々の仕事を果たす防人達。
各員の奮闘により、作業の時間を稼ぐことに成功した。
「隊長、指定のサンプル集まったよ!」
「よし、撤退よ。各小隊合流して!」
燃える大地から採取した土壌。既に何度も繰り返してきた任務だが、これが具体的にどう反抗に繋がるのかは知らされていない。それでも彼女達は腐らず逃げずに任務に当たる。それぞれの理由を胸に秘めて、少女達は命を懸けている。
「良かった〜。後は振り切って逃げるだけだね」
「少々物足りませんが、役目は果たせましたわね」
「サッサとトンズラしようぜ。
「……待て、大物が来たぞ……!」
防人のものより高性能なG3のレーダーがキャッチした敵性反応。周囲に爆弾を巻きながら接近してくる影。
乙女座『ヴァルゴ・バーテックス』
集団戦に長けた爆弾使いが、疲労しきった小兵達に牙を剥く。
「来るぞ!」
「全員散開!」
絨毯爆撃をギリギリで躱す防人達。重要なサンプルを抱えているメンバーもいる以上、ここでこのバーテックスとまともに相対すれば間違いなく犠牲者が出る。芽吹は暫し目を閉じて熟考。覚悟と共に目を開いて高らかに指示を出す。
「小隊単位で撤退開始、敵に的を絞らせないように同時に動いて! 敵を囲んであらゆる方向から縫うように動いて離脱しなさい!」
「でもでもメブー! 誰かが足を止めないと……」
「殿は私が務めるわ。みんなは――」
「僕も残ろう。体力的にも稼働時間的にもまだ余裕がある」
「……分かった。悪いけど、頼らせてもらうわ」
「らしくないな。さっきみたいに勇ましく命じればいい。"私を守れ"とな」
「冗談じゃないわ。自分の身くらい自分で守るわよ!」
「その意気だ、行くぞ隊長!」
『うあああぁぁぁぁっ‼︎』
(退がるな、踏み込め、前を向け!)
(私達が進んだ一歩が、みんなの命を繋ぐ……!)
退避する仲間達とすれ違いながら、2人は宙に浮かぶ異形に挑み掛かる。弾幕に呑み込まれ、爆風に煽られながらも力強く前へと踏み出し続ける。仲間との距離を取るため、誰も犠牲にしないために。
突如響いたガタン! という音に安芸が振り向くと、並んで歩いていた亜耶が平坦な廊下でいきなり転倒していた。
「どうしました? 国土さん」
「ご、ごめんなさい。なんだか急に頭がボーッとして……」
「神託関係でしょうか……立てますか?」
「あ、はい。大丈夫です」
慌てて立ち上がり、両手を振って何事もなかったことをアピールする亜耶。ウソがつけない彼女の目には困惑と不安が宿っていた。
(芽吹先輩、皆さん……お兄様……どうかご無事で……!)
「ハァ、ハァ……ここまで時間を稼げば、みんなはもう大丈夫ね」
「ああ。こちらのレーダーにも防人の反応はない。逃げ遅れもなく撤退できたはずだ」
敵を誘導して仲間から引き離したG3と芽吹。その結果として、2人は脱出地点から大きく離れてしまった上に離脱コース上にはヴァルゴがいる。既に疲労がピークに達している彼らに足で振り切るという選択肢はない。
「あとは、アイツを倒して帰るだけね」
「策はあるのか? 僕はバーテックスについては資料以上のことは知らない。君の交戦経験に頼るしかないが……」
「ええ。アンタレス、だったかしら? ワイヤーユニットの……あれを使って懐に飛び込めば何とかなるわ。あのタイプは張り付いてしまえばロクな反撃手段がないの。タイミングとしては爆弾の一斉投下が止んだ直後、次の動作までのタイムラグね」
以前遭遇した際には逃げるのが精一杯だった防人達。それを悔やんだ芽吹が密かに立てていたヴァルゴ対策がここで活きてくる。
「なるほど……だったらもっといい手がある」
『GA-04 active』
腕に装着して使うワイヤーユニット『GA-04 アンタレス』を展開。爆撃体勢に入ったヴァルゴに向けて構える。狙いは一点、最初に撃ち出された爆弾だ。
「……そこっ!」
ワイヤーを射出して爆弾を掴み取る。これまでの攻防で爆弾の耐久力、どの程度の力が加われば炸裂するかを把握していたG3は、ギリギリの力加減で敵の武器をホールド。そのまま2個3個とまとめて絡め取っていく。
「自分の爆弾……受けてみろ!」
ワイヤーを振り回し、遠心力を加えてヴァルゴ本体に爆弾を叩きつける。3発同時に着弾、炸裂した威力はその巨体をもってしても無視できるものではなかった。絶えず爆弾を放っていた射出口が停止し、高度が少しずつ下がっていく。
「怯んだな……今だ!」
アンタレスを隙だらけのヴァルゴの下部に巻きつけて固定。これで接近戦に持ち込める。進路を確保したG3が芽吹に手を伸ばす。
「あなたって、頭脳派に見えて割と力押しよね……」
「ベストを尽くしていると言ってくれ……行くぞ!」
呆れたような顔をしながらもG3と手を繋いだ芽吹。アンタレスのワイヤーが巻き取られ、絶叫マシンのような勢いで2人はヴァルゴに向けてすっ飛んでいく。
「飛べっ、楠!」
「――ッ‼︎ ここだぁっ!」
ワイヤーを巻き切った瞬間、ここまでの勢いを乗せてG3が芽吹を高く投げ上げる。ヴァルゴの頭上まで飛び上がった芽吹は、頭頂部に着地して銃剣を突き刺す。G3も同じようにデストロイヤーを差し込み、上下から同時に刃を進める。
「おおおおっ!」
「断ち切るっ‼︎」
ヴァルゴの身体を駆け下りながら斬り落としていく芽吹と、駆け登りながら斬り上げていくG3。両者の刃が中心でぶつかり、それと同時にヴァルゴが限界に到達する。体を揺らして2人を振り落とし、一目散に離脱して行った。
「……つぅ……逃げられたか」
「仕留めたかったけど、被害なしで済んだことを喜ぶべきでしょうね」
勇者でなければ倒せない十二星座型バーテックスを撃退した芽吹と志雄。言葉とは裏腹に、その顔には確かな手応えを得た喜びが浮かんでいた。
「痛っ……もう少し優しくやってくれませんか?」
「これくらい我慢なさいな。あれだけの無茶をしたのですから」
「ん……楠も国土兄もこの程度の怪我で済んだのは運が良かっただけ……少し反省すべき……」
「頭は少し切れただけでも派手に出血するってだけだ。実際には擦り傷程度だよ」
なんとか帰還した芽吹と志雄は、仲間達と合流して医務室で傷の手当てを受けていた。たった2人で殿を務めたことに関して、少なからず不満があるらしい。
「でもでも、流石に2人だけで残るのは無茶だったと思うな〜」
「そう言うなら、次は雀にも残ってもらいましょうか?」
「えっ……それはちょっと……」
「雀さん! そこで引いてどうするんですの!」
先程まで命のやり取りの現場にいたとは思えない軽妙なやり取り。志雄は女三人寄れば姦しい、というのが真実であることを理解した。
「手間をかけたな、すまない」
「……そういう時は"ごめん"よりも"ありがとう"だって、国土妹が言ってたよ……」
「……ありがとう、山伏……それでは失礼する」
混ぜかえすようなしずくの言葉に苦い顔をしながらも、素直に礼を告げて立ち去る志雄。戦いを経て、防人達に対する見方が少し変わったようだった。
「なんか今日のあの人ちょっと柔らかい感じだったね」
「理由は分かりませんが、良い傾向ですわ。妹さんのためにも」
「……楠、国土兄と何かあった?」
「なっ、なんで私に聞くのよ。別に何もないわ」
「む〜ん? 怪しいな〜」
やっと志雄が仲間に加わった。全員がその感覚を確かに共有していた。
「……亜耶……」
「あっ……お兄様……」
その日の夕刻、食堂で兄妹がエンカウントした。普段は志雄の方が食事時とズラして訪れるために会うことはなかったのだが、疲労と空腹感に耐えかねて時計を見なかった志雄の失敗だった。既にうどんを受け取ってしまった以上、出ていくわけにもいかず、兄は気まずそうに顔を逸らした。
「あ、あの……お怪我は……」
「問題ない。G3は頑強だから」
「……そう、ですか……」
兄の気持ちを慮って医務室に行かなかった亜耶が会話を試みるも、驚くほどに弾まない。とにかく離れようと足を踏み出した志雄だが。亜耶が持った定食の中身が目に留まった。
「……それ、亜耶の夕食か?」
「えっ……あ、はい。おまかせ定食です」
(なるほど、メニューを確認できなかったのか)
納得したように頷いた志雄は徐に亜耶に近づくと、彼女のお盆からトマトを取って一口で平らげてしまった。
「あ……お兄様?」
「トマト、苦手だったろう。隠していたつもりかもしれないが」
亜耶は基本的に好き嫌いはない。彼女自身の性質もあるが、規律がしっかりした国土家では偏食は良くないと育てられたからだ。そんな彼女が唯一苦手としているのがトマトだ。なぜこれだけ改善されなかったのかというと、実は志雄のせいだったりする。
「……ご存知だったんですね、お兄様」
「初めて食卓に上がった時、反応が顕著だったからな」
他のものとは違う生理的な拒否反応。それを見た志雄が、国土家の食事番に内密に頼んだのだ。両親に気づかれることなく、亜耶にはトマトを出さないように話を通していた。このことは亜耶も両親も未だに気づいていない。
「ありがとうございます、お兄様」
「作り手のことを考えて言い出せなかったんだろうが、あの人達はそれが仕事だ。これからは自分の口でちゃんと伝えなさい。無理に食べて体調を崩しては元も子もない」
「あ……はい!」
説教じみた言い方だったが、亜耶は嬉しそうにしている。こんなやりとりも数年ぶりだったからだ。
「それじゃあな」
「あ……」
言いたいことを言った志雄が離れていく。一瞬でも昔の兄妹に戻れた気がした亜耶は名残惜しそうな声を漏らす。
「……ああ、そうだ」
「はい?」
すれ違って数歩分離れたところで、思い出したように志雄が振り返った。
「大方その辺りで転んだのだろうけど、ちゃんとその足、医務室で手当てしなさい。今の時間なら担当官以外はいないから気を使うこともない」
「お兄様……!」
足の痛みからほんの僅かに歩き方が変わっていた亜耶。兄である志雄はその僅かな違和感を見逃さなかった。他の誰も気づかなかった小さな変化に気づいた。それは普段から亜耶のことをしっかり見ていた証拠でもある。
「大したことないと思った軽傷から大事につながる可能性もある。人に優しいのはいいが、自愛も忘れるな」
ぶっきらぼうだが、確かに妹を気遣っている志雄の言葉。亜耶はそれがどうしようもなく嬉しかった。
「はいっ、以後気をつけます。お兄様!」
元気よく頭を下げて離れていく亜耶。志雄が来てから始めて笑顔を見せた瞬間だった。
(……しまった、激務を終えて気が緩んだか……喋りすぎだ、馬鹿者。何のために今まで……)
喜色満面の妹に対して、兄の方は自分に呆れたように頭に手を置いた。これまで距離を置いてきた妹相手にうっかり気安く会話してしまった。
(お兄様は知っていてくれた。覚えていてくれた……気づいてくれた……!)
(今更兄貴面したくなったか。度し難いほどに愚かだな、僕という人間は……!)
2人にとってこの出来事はいい変化だったのか悪い変化だったのか、それはまだ誰にも分からない。
亜耶ちゃんのトマト嫌い、および国土家についてはオリ設定です。実際格式高い家っぽい雰囲気は感じますよね。
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに