A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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 杏ちゃんルート

 今回は二人の話というよりも、大人になって親になって家庭を作る…もしもの未来の集大成的な話になりますかね。




終章Y話 次代(IF:伊予島 杏)

「あー、こら春果(はるか)! また本出しっぱなしで! ちゃんとしまいなさい!」

 

「えー? いいじゃない、私もママもどこに何があるかくらいちゃんと分かるんだし……」

 

「そういう問題じゃありません! いいから片付けるの、ほらママも一緒にやってあげるから」

 

 大社に属する家柄の最上位、三つの頂点の一柱。伍代家の一室に多種多様な書籍を積み上げては熟読していた少女と、それを叱る母親。いつもの、当たり前の光景だ。

 弱冠10歳にして医学や考古学の専門書を読み込む少女の名前は伍代春果。伍代家の第二子で、高い勇者適性を持って生まれた長女。運動能力は人並みだが、知識欲とそれを有効活用する思考力に優れた、母親似の小学生だ。

 

「ダーメ! 今日はおとうさん帰ってくるんだから、ちゃんと片付けないと……」

 

「えっ! パパ帰ってくるの? 早く言ってよ!」

 

「昨日言いました! まったくもう、本ばっかり読んで話聞かないんだから……誰に似たのか……」

 

(いや、絶対にママだよ……間違いない)

 

 かつて勇者の一人として戦った伍代杏──旧姓伊予島杏──は、妊娠が分かると大社での務めを辞め、そのまま妻として母としての役目に専念してきた。優しく賢く美しい、おおよそ理想的な女性に成長した彼女だが、この頃の子供たちの扱いには苦戦している。

 

(春果はどんどん頭良くなって、あの人の言うことしか聞かなくなってきてるし……)

 

 父親が帰る、と言う言葉でやっと片付けを始めた娘の背中を見つめて思わずため息を一つ。甘やかしすぎたせいか最近子どもに舐められているのではないか、というのが杏の悩みだ。

 実際は会える時間が少ない父親の分も近くで愛してくれた母親に思い切り甘えているだけなのだが、彼女はまるで気づいていない。

 

(あの子の方は、なんだか本格的に反抗期みたいだし……)

 

 最近帰りが遅い長男を思いながら、杏も春果とともに片付けを進める。大社で問題が発生したらしく、忙しない夫に相談するのも憚られ、彼女は気合いを入れ直す。

 

(家のことは任せてください、って言って一緒になったんだから……私がなんとかしなくちゃ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 すっかり外も暗くなった時分、もう一人の子供がようやく帰ってきた。

 

「おかえりなさい冬樹(ふゆき)。ずいぶん遅かったんじゃない?」

 

「……んー、ちょっと冴先生との稽古に熱が入ったんだよ」

 

「……本当に?」

 

「……チッ、嘘言ってどうすんだよ……」

 

 母親の追求に鬱陶しそうに返す少年、伍代冬樹。伍代家の第一子として生を受け、両親の伝説を聞き、ごく当たり前にそれに憧れながら育ってきた。しかし今の妹ぐらいの歳に、男児である冬樹には勇者になることはできないという事実を知る。

 それまで父のような未来を夢見て体を鍛えてきた彼だったが、徐々に熱意が冷めていき、中学生となった今ではかなり無気力な生活をしている。

 

「今日は親父帰ってくんだよな……メシはいいや、もう寝る」

 

「ちょ、ちょっと冬樹⁉︎」

 

 冬樹が二階の自室にこもろうとしたところで、再び玄関が開く音がする。

 

「あ! パパ帰ってきた!」

 

「あーあ、遅かったか」

 

「まったくもう……おとうさん、お帰りなさい」

 

「ただいま……おかあさん、冬樹、春果」

 

 春果に手を引かれて家長が帰宅する。伍代家当主、伍代陸人。現在は若葉、ひなたと並んで大社のトップに君臨。主に顔役として対外交渉を担当している。

 

 

 

 久々に帰宅した陸人も含めて、全員で食卓を囲む。勇者としての役目も少しずつ理解してきた春果は父親のことを誰より尊敬し、褒められたがっている。会えなかった数日を埋めるようにマシンガントークが止まらない。

 

「それでね、そのテストで満点取れたの私だけだったんだよ!」

 

「すごいじゃないか、さすが春果だ……勉強は好き?」

 

「うん! 分からなかったことが分かると、それだけで嬉しいし、たくさん勉強すればみんなが褒めてくれるもん!」

 

「そっか、春果は将来有望だね……冬樹は? 最近何かあった?」

 

 ごく自然に自分にも話題を振る陸人の様子が、どうしてか冬樹は癇に障って仕方なかった。

 

「別に何も……たまにしか帰ってこないくせに、いい父親ぶりたいのかよ? アンタも勇者になれない俺に興味なんてないだろ?」

 

「冬樹、なんてこと言うの!」

 

「まあまあ、俺が帰れてないのは事実だし……ただ気になったんだけど、冬樹今日は、というか最近は稽古してないだろ」

 

「っ⁉︎ なんで……」

 

「言っとくが冴先生はそんなこといちいち報告したりはしないからな? 見れば分かるさ……毎日顔合わせることもできないけど、一応父親だからな」

 

「……なんなんだよ。ほっときゃいいのに、俺なんか……」

 

 半端に残った料理をそのままに、冬樹が席を立つ。陸人はあくまで穏やかな声色でその背中に語りかける。

 

「別にやりたくないなら無理に続けることはない。ただ先生や他の子たちに迷惑だ、辞めるならちゃんと挨拶して正式に辞めなさい。冴先生の武術教室は冬樹のプライドを維持するためにあるんじゃないからな」

 

 父親の正論に何も言い返せず、逃げるように階段を上る冬樹。少し言い過ぎたか、とため息をつく陸人。

 

「あの、おとうさん……」

 

「んー、でもおかあさんは優しいからね。たまには俺からビシッというべきかとも思ってさ」

 

「パパちょっと怖かったかも……」

 

「あはは、ごめんごめん……さ、早く食べなさい。冬樹の分は、俺がもらおうか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供たちが寝静まった頃、陸人と杏は明日に差し支えない程度に酒を飲み交わしていた。

 

「最近は特に忙しそうだけど、何かあったの?」

 

「また大社の内通者だよ。終戦からもう20年だ……人が恐怖を忘れて我欲に走るには、十分な時間が過ぎたのかもしれないね」

 

 ここ数年潰しても際限なく湧いてくるスパイ問題。日本政府ならともかく、素性も知れない犯罪者などが大元だったりすることもある。

 神の次元での戦争には何年を要するか分からない。だからこそ世代を経ても腐らず歪まず、命を守り未来を繋ぐための組織を目指してはいるが、やはり現実は厳しい。

 

「でも今回の件は片付いたから、今日明日は家にいるよ」

 

「ほんと? 久しぶりだね」

 

「うん、いい加減休めって、ひなたちゃんに押し切られちゃってね……おかあさんは、やっぱり冬樹が心配?」

 

 相変わらず察しがいい陸人。杏も少し悩んで頼ることを決めた。肩に寄りかかりながら口を開く。

 

「うん、私や春果が何言っても聞かないし。稽古だ、って言っていつも帰り遅くて……なのに行ってなかったって……」

 

「そうだね……休みのうちに一度話してみるかな」

 

「ごめんなさい、せっかくの休みなのに……」

 

「謝ることないよ、家族だろ? 当たり前のことさ」

 

 陸人は昔のように妻の頭を優しく撫でる。数日ぶりの暖かさに、杏は安堵の笑顔を見せる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日、陸人は春果にせがまれて日中は彼女の書店巡りに付き合っていた。戦利品を抱えてホクホク顔の娘を部屋に送り、その足で隣の冬樹の部屋を訪ねる。

 

「冬樹? ちょっと話が──」

 

 言い切る前に部屋の扉が開かれ、慌てて着替えたのが丸わかりの乱れた格好をした冬樹が飛び出してきた。

 

「冬樹? こんな時間にどこに行くんだ?」

 

「あー、友達に誘われて……晩飯は外で食ってくる」

 

「……そうか。まぁ、あんまり遅くならないように」

 

 何も追求しない父親の様子を訝しみながら冬樹が玄関に向かう。掃除をしていた杏は息子の忘れ物に気づいた。

 彼が師事する三好冴の教えで、外に出るときは手首足首に特注の重り付きバンドを装着することになっている。

 

「冬樹、これ付けなくていいの?」

 

「ん? ……いらねぇよもう! そんなことする必要はないんだから!」

 

 杏は何の悪意もなく、いつも通りのことをしただけだった。しかしつい先日稽古をサボっていたのがバレたばかりの冬樹には無言で責められているように感じられた。

 差し出された重りを払いのける。勢い余って杏の手も叩いてしまい、手からこぼれた重りが杏の足に落ちる。

 

「いっ……!」

 

「……! あ、その……」

 

「冬樹、おかあさん、どうかした?」

 

 思わぬ痛みにうずくまる杏。手を払った格好のまま不自然に固まる冬樹。おおよその状況を把握した陸人が、普段より低い声を出す。

 

「……おかあさんはとりあえず冷やしてきな。冬樹はリビングに……約束なんてウソだろ? いいから来なさい……ああ、そこで覗いてる春果もちょうどいいから一緒に聞きなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 所在なさげに並んで座る子供たち。その正面に陸人が座り、奥には杏が足を冷やしながら様子を伺っている。

 

「冬樹、勇者になれないことがそんなに不満か?」

 

「…………」

 

「正直言わせてもらうとね……俺はホッとした。勇者候補筆頭の春果の前で言うべきじゃないかもしれないけどな」

 

「……え……」

 

 冬樹は本気で驚いた。陸人も杏も、大社の大人たちのように勇者適性持ちの春果を重宝しているものだとばかり思っていたから。

 

「俺たちは何度も死にかけながら戦ってきた……今の勇者はそこまで切羽詰まったことにはならないと思うけど、それでも子供には平穏な道を生きて欲しいっていうのが親じゃないかな。だから春果の時も悩んだよ……今はもう本人の意思を尊重するって結論を出したけどね」

 

 冬樹が荒んだ理由の一つ、規格外の素質を持った優秀な妹の存在。それでも両親は才覚ではなく、冬樹のことも春果のことも本人を見ていた。勝手に見限られた気になっていただけだ。

 

「元々は俺があの時決着をつけられなかったツケを君たちの代に押し付けてしまった結果だ。申し訳ないとは思う」

 

「そんなことない! パパたちが頑張ったから今があるんでしょ?」

 

 食い気味に反論する春果。陸人は照れ臭そうに頬をかく。

 

「ありがとう、春果……俺たち先代はどうしても君たちよりも早く寿命が来る。だからそうなった時、冬樹には春果を支えられる人になってほしい。特別な力がなくたって、ただの家族としていてくれれば心強いと思うから」

 

「……俺は……」

 

「いきなり全部飲み込んで決断しろとは言わない。大社に入らなくてもいい。好きに生きるんだ。自分が後悔しないように……冬樹にも春果にも、俺が望むのはそれだけだよ」

 

 父の言葉を黙って噛みしめる二人。ひとまず良い方向に向かったことに杏がホッとした次の瞬間、陸人が冬樹の目の前に立った。

 

「それとは別に、ひとつだけ言わせてもらうぞ」

 

「お、親父……?」

 

 珍しく怒気を含んだ陸人の声。その右手が冬樹の額を捉えてデコピンの形をとる。

 

「ウグォォォォッ⁉︎……痛ぇ……」

 

 指一本で放たれたとは思えない衝撃音が部屋に響く。唐突な衝撃に冬樹はのたうち回り、隣の春果も顔を青くしている。

 

「おかあさんは俺にとって世界で一番大切な女性だ。いくらお前でも、手をあげることは許さない……いいな?」

 

「……ハイ、すいませんでした……」

 

 全力で首肯する冬樹を見て、陸人が笑顔に戻る。

 

「分かればいいんだ。おかあさんにも直接謝っておけよ? ……んー、いい時間だな。久しぶりにポレポレで夕食なんてどうだ? おやっさんにも挨拶したいし」

 

 子供たちの頭を撫でながら微笑む陸人。いつもの雰囲気に戻った父親に安堵した春果が首に抱きつく。

 

「ねーパパ、私は? 私は一番じゃないの?」

 

「んー? 春果は世界で一番大切な女の子だな。男の子が冬樹だ」

 

「なにそれー?」

 

「あー痛ぇ……あ、おふくろ……ごめん、痛くないか?」

 

「全然大したことないから……それよりおでこ、赤くなってるよ?」

 

 少し前の仲睦まじい家族の雰囲気が少しだけ戻ってきた。子供の成長は早い。完全に昔のようにとはいかなくとも、この景色が少しでも長く続くように……陸人は神樹に小さく祈った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 子供が寝静まった深夜。陸人と杏は昨日と同じく飲み交わしていた。

 

「本当にありがとう……」

 

「もう何度も聞いたよ、大したことはしてないって」

 

「ううん、冬樹のこともあるけど……」

 

「ん?」

 

 向かい合った席からゆっくり立ち上がる杏。陸人の後ろに回り、しなだれかかるように首に抱きつく。

 

「一番大切な女性って言われて……すごく嬉しかった」

 

「……ふふっ、当然だろ? 同じ家に住んで、同じ景色を見て、同じ墓に入りたい……一緒になる時に約束したからね」

 

「ん……大好き、()()()()

 

「……俺もだよ、()()()()

 

 向き合ってキスを交わす夫婦。酒と羞恥と高揚感で二人とも顔は真っ赤に染まっている。

 

 

 

 

 

 

「陸人さん……今、幸せ?」

 

「ああ、幸せだよ。いつか君が言ってくれた通り……こんな俺にも、幸せになる権利はあったんだよな……」

 

 

 

 

 

 これは、一度は自分の未来を諦めた男が、愛した者の力で誰よりも幸せになるお話。

 

 どこかにあったかもしれない、ハッピーエンドの物語だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 うーむ、最後だというのにとっ散らかったな……なにが描きたいのかハッキリしない文になったかも。

 とりあえずIFエンド集はこれでコンプリートです……超疲れた……

 ハーレムエンドとか、思いついたら突発的に書くかも……
 神世紀の話は、筋道整えてからのつもりでしたが……全部詰めようとすると期間空きすぎて意欲が萎えるかもしれないという危険性に気づきました。

 いつになるか分かりませんが……というか本当にやるかどうかも確約できませんが、萎えないうちに何か形にできたらと、今のところ思っています。

 感想、評価等よろしくお願いします。

 (いつかの)次回もお楽しみに

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