A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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ようやく話が進みます……みなさんが望んだ方向かは分かりませんが
 


Relation

(楠たちが期待以上だったからと、浮かれた結果あのザマか……!)

 

 志雄は一晩中射撃場に篭って引き金を引く。最早的が原型をとどめなくなってもまだ、一心不乱に撃ち続ける。

 

(忘れるな……僕にはもう、選ぶ自由なんて許されてないんだ)

 

 思い返すは5年前、目の前で冷たくなっていく沢野香の眠る顔。あの日の絶望は、今なお志雄の心を絡め取って離さない。

 

(今更あの頃に戻りたいなんて、間違っても望むな……! 香は何かを願うこともできずに死んだんだ!)

 

 鬼気迫る、という表現がぴったり似合う様子で模擬弾を撃ち尽くした志雄が倒れこむ。周囲には数え切れない薬莢が散らばり金属音を鳴らす。

 

(僕の命の使い所……それはきっと遠くない。その時に躊躇うようなことがあってはならないんだ)

 

 間に合わなかった、置いて行かれた志雄にとって"命の使い所"という一見おかしな考え方こそが生きる原動力となっている。間違いなく危うい精神状態だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そっか、じゃあ少しお話しできたんだ?」

 

「はい! 昔と同じように私のことを気にかけてくださいました!」

 

 休憩スペースでいつもの5人が楽しげな雰囲気でテーブルを囲んでいる。特に亜耶の笑顔がいつも以上に眩しい。昨日の一幕からずっとご機嫌な状態が続いている。敬愛する兄の本質が変わっていなかったことがそれほど嬉しかったのだ。

 

「本人がいないことですし、亜耶さんの口からお兄さんのことをお伺いしたいですわね。彼は自分の話はしたがらないタイプのようですから」

 

「そうですね。お兄様はとても博識で頭が良くて……何か疑問を持ったらお兄様に尋ねるのがその頃の私のクセでした。

 あとは……変わったところだと声帯模写がお上手でしたね。動物の鳴き声だとか、学校のチャイムの音なんかを真似てよく披露してもらいました」

 

「声帯模写……ちょっと予想外の持ちネタが出てきた……」

 

「すごく似てるんですよ。近所のネコちゃんたちなんて1匹ずつ演じ分けができたんですから!」

 

 志雄の人となりを多少知った上で聞く彼のパーソナルな部分についての雑談は意外と盛り上がった。

 話が弾んできた頃、噂の当人が通りかかる。変わらず上機嫌な亜耶が声をかけようとしたが……

 

「あ、お兄――」

「うわっ、なにあの目のクマ。縁取りしたみたいになってるよ」

 

 鬱屈した雰囲気と疲弊しきった表情を見て、なにも言えずに見送ってしまった。すぐ近くを通ったのに亜耶達に気づいた様子がなかった辺り、よほどの重症らしい。

 

「どうしたのでしょうか? 昨日は割と穏やかに見えましたのに」

 

「夢見が悪かった……だけでああはならないよね……」

 

「国土……?」

 

 その後志雄は部屋で眠ったようで、その日彼を見た者は誰もいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 数日後、志雄を含めた防人隊は前回と同じくサンプル採取のために壁外に遠征に出ることとなった。

 

「あーあー、また雑用出勤かぁ」

 

「文句の多い方ですわね。少しはしずくさんや国土さんの静かさを見習いなさいな」

 

「……そういえば国土……声帯模写が得意と聞いた……今度聞かせてほしい」

 

「……亜耶から聞いたのか。悪いが昔の話だ。もうできないし、忘れてしまったよ」

 

(やっぱり昨日から様子がおかしい。もともとよく分からない奴ではあったけど……)

 

 燃える大地以外何もない壁外での任務は、基本的にポイントに着くか敵に見つかるまでは退屈な時間が続く。地獄のような光景も数をこなせば慣れてしまうもの。肝心のタイミングで集中を途切れさせないために、道中は各々割と好き勝手に雑談しながら進んでいく。

 

 

 

 

 

 

 

「……よっし、作業終わったよ!」

 

「あとは帰還するだけね」

 

「……! 敵襲だ。前回と言い、妙にタイミングが良すぎる気がするが……」

 

「同感だけど、まずはこの場を切り抜ける。考えるのは帰ってからでもできるわ。総員警戒態勢!」

 

 全員が一息ついた、図ったようなタイミングで迫ってきたのは蠍座『スコーピオン・バーテックス』

 一撃の威力だけならば全バーテックス中でも最上位の強敵だ。

 スコーピオンは防人隊の姿を捉えると、初手で高く跳躍。陣の中心に着地して連携を真上から崩壊させた。

 

「うひゃあ〜! メブー‼︎」

 

「落ち着いて! 護盾隊はワイヤーを使って、敵の足を止めなさい!」

 

 G3のアンタレスを見た芽吹が進言して形となった新装備。敵の拘束や移動手段としても使えるワイヤーアンカー。攻撃能力が低い護盾隊の戦衣に導入された。

 隊長の指揮の下、散開した護盾隊の各員がワイヤーを射出。スコーピオンの多足に巻きつけて拘束、足を止めた。

 

「よし、銃剣隊構えて!」

 

「――待て、まだ来るぞ!」

 

 上空から羽音を響かせながら異形が急降下してくる。ハチ型のアンノウン『アピス・メリトゥス』が軽やかに旋回してワイヤーを次々と切り離してしまった。

 

「ワイヤーが……!」

「全員防御態勢!」

 

 拘束から解放されたスコーピオンが鬱憤を晴らすように巨大な尾を回転して叩きつける。囲い込むように展開していた防人達はまとめて吹き飛ばされた。

 

 防御性能の高さから真っ先に復帰したG3。スコーピオンを狙って構えた銃は、横から伸びてきた異形の腕に阻まれた。一切の気配なく目の前に現れた敵に、志雄の危機感は加速する。

 

「また新手か!」

「国土!」

「アンノウンは僕が引き受ける! 態勢を立て直せ!」

 

 クラゲ型のアンノウン『ヒドロゾア・イグニオ』を引っ張って防人達から引き離すG3。1対1の殴り合いに持ち込んで圧倒する。

 

(何だ……動きが掴めない)

 

 格闘能力は高くないが、動きが不規則な上に時折テレポートのような異常な高速移動を織り交ぜてくる。気づけば真後ろや懐に入られている。読めない動きを繰り返す異形を相手に、G3は銃を構える余裕もなかった。

 渾身の拳をテレポートで回避したイグニオは、G3の背後で右腕を構えた。クラゲの始祖たるイグニオの超能力が発動する。

 

(何か来る!)

 

 直感に従って身を翻したG3の鼻先をかすめるように青い稲妻が落下してきた。頭部アンテナをへし折り、電流でG3のシステムにまで影響を及ぼすほどの威力の雷光で大きく吹き飛ばされる。

 

「……なんだ、視界が? カメラがやられたのか……!」

 

 内側は精密機器で成り立っているG3。高出力の電撃を受けたことでシステムの一部に異常が発生した。顕著に影響が出ているのが直撃した頭部。カメラで常に確保していた鮮明な視界にノイズが走り、まともに前も見れなくなってしまった。

 

「だったら……!」

 

 カメラが使えないと分かった志雄は即断即決、頭部パーツを外して生身の首を壁外に晒す。G3の端末には万が一強制解除された場合を考えて装着者保護の障壁発生機能が組み込まれている。しかしそれもあくまで壁外の灼熱を防ぐ程度の効力しかない。それを承知で躊躇わず志雄は勝つために急所をさらけ出した。

 

「邪魔をするなっ!」

「……ムゥ……!」

 

 正常な視界を取り戻した志雄は両手に抱えたG3のヘルメットを手放し、サッカーボールのように蹴り込んだ。顔面に向けて一直線に飛んできたシュートに虚を突かれたイグニオは大きく態勢を崩した。その一瞬を、志雄は見逃さない。

 

「サラマンダー、発射(ファイア)!」

「グムッ……オノレ……!」

 

 ヘルメットの陰に隠れるように放ったグレネード弾がイグニオの頭部に直撃。思わぬ痛手を被ったクラゲの異形は、テレポートで離脱した。

 

(マズイな……視界が霞んできた)

 

 敵の離脱を確認したG3が崩れ落ちて膝をつく。電撃の影響でどんどん出力は下がっていき、頭部の保護を手放したせいで体調まで加速度的に悪化している。

 

 

 

 

 

「ヤバイってば〜、死ぬ、ほんとに死んじゃうよ〜!」

「ああもう、気が散りますからお黙りなさい! ただでも狙いにくい相手だというのに……」

 

 雀や夕海子を含む一団は、自在に空を舞うメリトゥスに苦戦を強いられていた。常に頭上を取りながら、一撃離脱で着実にダメージを与えてくるメリトゥス。すぐ側で暴れ回るスコーピオンの威圧感もあって、防人達は防戦一方に追い込まれていた。

 

「加賀城、弥勒先輩!」

 

「国土さん!」

「お〜た〜す〜け〜!」

 

 若干危うい足取りでG3が合流した。ハチを撃ち落とすべく銃を連射するも、照準アシストなしの拳銃ではどうしても当てられない。

 

「仕方ない……加賀城、盾を真上に掲げてくれ」

 

「えっ⁉︎ 何するの?」

 

「ジャンプ台になるんだ、跳ぶぞ!」

 

「ウソでしょ〜⁉︎」

 

 反論する間も与えずに助走を始めるG3。表情こそパニックが極まっているが、なんとか無茶ぶりに応えた雀。即興ながら完璧に息のあった連携で、G3の身体が宙を舞う。

 

「捕らえたっ!」

「ギィッ⁉︎ 何ヲ……!」

「堕ちろぉぉっ‼︎」

 

 抱きつくような体勢でメリトゥスを捕まえたG3。デストロイヤーで羽を切断、もがく敵ともつれるように墜落した。

 落下の勢いのまま、組み合った状態でゴロゴロと転がる両者。どちらも大きなダメージを負っていたが、先に復帰したのはG3の方だった。

 

「……ガッ……ハァ……」

 

「……消去(デリート)だ……!」

 

 倒れたままのメリトゥスに馬乗りになってサラマンダーを構える。両手を抑え込み、完全に制圧した体勢から引き金を引いて発射。ゼロ距離のグレネード弾に耐え切れるほどメリトゥスは頑丈ではなかった。

 

 

 

 

 

 

(目が回る……今、まっすぐ走れているのか?)

 

 メリトゥスの爆風に飛ばされて剥き出しの頭を強打した志雄。いよいよ挙動がおかしくなってきたが、まだ戦いは終わっていない。一番厄介な敵がまだ残っている。

 

 鋭利な針を備えた尾を振り回して猛威を振るうスコーピオン・バーテックス。その足元に人影が2つ。負傷したのか、うずくまる防人ともう1人。隊長の芽吹が彼女を庇うように立っていた。

 

(やらせない……()()()()()()()、もう誰も……!)

 

 傷の痛みも忘れて志雄が走る。あの時のような、間に合わなかった痛みよりマシだと自分に言い聞かせて。

 

 

 

 

「――楠っ‼︎」

 

「ぁ……!」

 

 芽吹を狙った蠍の針は、割り込んできたG3の腹部に直撃。堅牢な装甲を突き破って生身の腹部まで針が到達する。貫通こそしていないが、相当な重症だ。

 脱力した志雄はもがくこともせずに突き刺さったまま、スコーピオンの尾の先で揺らされている。

 

「国土っ‼︎」

 

「……まだ、だ……!」

 

 芽吹の声で彼方に飛んでいた意識を引き戻す。志雄は最後の力を振り絞ってデストロイヤーを装着。針の付け根に刃を入れていく。

 

 

「ジタバタするな……大人しく斬られろ!」

 

 尾を振り回して引き剥がそうとするスコーピオン。その度に腹の傷が抉られ、意識が遠のいていく。それでも歯を食いしばって耐えたG3の刃が尾の半ばまで進んだ。

 

「国土、離れて!」

「国土さんっ!」

 

 針を切り落とされる寸前、スコーピオンは全力で尾を地面に叩きつけた。その衝撃でG3がついに振り落とされる。蠍の主力武器である針を落とすことはできなかった。

 

「国土! しっかりしなさい!」

 

「楠……撤退指示だ……」

 

 その身を案じて駆け寄ってきた芽吹をよそに、志雄は震える声で撤退を進言する。限界を迎えたG3システムも機能停止、変身も解けてしまった。一言口にするごとに、血の塊を吐き出す様はあまりにも痛々しい。

 

 自慢の針を失いかけたことで警戒心が増したのか、スコーピオンはゆっくりと後退していった。全員が傷を負いながら、なんとか全ての敵を撃退できた。

 

「次が来る前に……逃げろ……」

 

「いいから黙って! 一番危ないのはあなたよ!」

 

 装着者保護機能で生身の志雄は壁外でも活動できる。しかしそれはあくまで無傷の状態に限った話だ。この異様な空間から1秒でも早く離脱しなくては命に関わる。

 芽吹の指示の下、防人達は志雄をフォローしながら全速力で離脱した。

 

(思ったより……早かったな……ここが、僕の終点か……)

 

 視界が暗くなっていく最中、志雄はどこか満足げな顔をしていた。誰かの盾になれたことに達成感を抱いていたのかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな形で意識を手放した志雄は、ゴールドタワーの病室で目を覚ました。腹部には突っ張ったような痛みが残り、全身がひどい筋肉痛に苛まれている。

 

「……ここは、ゴールドタワーか」

 

「国土……! 起きたのね、大丈夫?」

 

 ベッドの隣に座っていた芽吹が声をかける。心から安堵したというような表情。ずいぶん心配していたようだ。

 

「あれから、どうなったんだ……?」

 

「なんとか敵を追い払って、全員で離脱したわ。あなた以外はそれほど重いケガもなかった……でも少し不安になったわ。あなた、1週間も目を覚まさなかったから」

 

「1週間……」

 

「亜耶ちゃん、ずっとあなたにつきっきりだったけど、流石に長すぎたから交代で様子を見てたの。あんな取り乱したあの子は初めて見たわ」

 

「…………」

 

 話を振っても志雄の反応が鈍い。調子が悪いのだと判断した芽吹が医者を呼ぼうと席を立ち――

 

「……また、死に損ねたのか……」

 

 志雄の呟きを聞いた瞬間、そんな気遣いは頭から吹き飛んでいった。

 虚ろな目をした志雄の襟首を掴み、至近距離で睨みつける。

 

「今、なんて言った……?」

 

「楠……?」

 

「あなたは……全員が必死になってやっと全員で帰ってきたって時に"死に損ねた"って、そう言ったの⁉︎」

 

 死なないこと、死なせないことを第一義としている芽吹にとって、到底聞き流せる言葉ではなかった。あの戦場で1人だけ、志雄だけが他とは違う目的を持って立っていたのだ。

 同じ立場、同じ目線の"仲間"にはなれずとも目的を同じくする"同士"にはなれたと思っていたから。多少なりとも志雄のことを理解したつもりでいたからこそ、芽吹の瞳は怒りに満ちていた。

 

「メブー、交代……って、なになに⁉︎ どうしちゃったのこの状況⁉︎」

 

「芽吹さん⁉︎ ちょっと落ち着きなさいな、怪我人ですのよ⁉︎」

 

「ストップ楠、傷開いちゃうから……!」

 

 様子を見に来た仲間達が慌てて芽吹を引き剥がす。それでも芽吹は変わらず怒りのこもった瞳で志雄を強く睨みつけ続ける。今この瞬間、芽吹は志雄が怪我をしていることも、自分を庇って怪我をしたことも忘れていた。

 

「あなたは死にたかったの? 私達が懸命に抗ってる横で、どうやって死ぬかを考えてたの?」

 

「……そうじゃない。ただ、僕は本当なら死んでなきゃいけなかった命だから。誰かの代わりに死ぬことでしか、僕の意味は果たせないんだ」

 

 後から入ってきた雀達はイマイチ状況をつかめていないが、以前聞かされた志雄の過去と合わせて、しずくが本質的な問いをぶつける。

 

「それは……国土の友達を助けられなかったから?」

 

「知ってたのか……そうだよ。5年前のあの日、香じゃなくて僕が死ぬべきだったんだ。1番弱かったんだから。

 鋼也だってそうだ。僕が腐ってる間に、あんな大変な戦いを続けて……追いつこうとした時には、全て手遅れだった」

 

 志雄にとってのトラウマ。それは5年前"目の前で香が死んだこと"と、2年前"後一歩のところで鋼也に伸ばした手が届かなかったこと"の2つ。

 生まれた時から3人一緒だった親友。英雄の役目だって最後には3人並んで引き受けることになった。口にはしなかったが、運命共同体だと互いに自覚していたほど繋がりが強かった。その2人が遠くに行ってしまったことで、志雄は自分の存在意義を見出せなくなっていた。その結果が歪んだ破滅願望へと繋がっていく。

 

 "2人にできなかったことを生き残った自分がやらなくてはならない"

 

 "2人がいない世界でのうのうと生きている自分に耐えられない"

 

 "2人の代わりにこの命を人を守るために消費できたら"

 

 "恥知らずに生き延びたことに意味をもたらすことができれば"

 

 そんな複雑で、他人には理解しがたい矛盾した願いを抱えて、志雄は努力を重ねてきた。

 身体を鍛えたのは最高の死に場所まで戦い抜くため。

 戦術を学んだのはより有意義に命を使うため。

 G3を使ったのは"誰でも使える"システムなら自分が落伍しても次の可能性が繋がるから。

 

 防人達を強くすることに積極的だったのも、自分が死んだ後に妹を任せるため。

 再会してからずっと亜耶を避けてきたのも、死んだ時に少しでもショックを小さくするため。

 

 最後の件に関しては両者の性質的にうまくいかなかったが、それでも志雄は徹頭徹尾死ぬために生きてきた。まともな人間から見れば明らかに間違っている、矛盾だらけの歪んだ目的。志雄にはそれしかなかった。

 

 まとまりのない志雄の独白を聞いた4人は何も言えなかった。怒りに染まっていた芽吹でさえも、志雄がその内に溜め込んでいた闇の深さにかける言葉が見つからない。

 

 やがて騒ぎを聞きつけた医者が入室し、検査が始まったことで4人は退室することとなった。後ろ髪を引かれる思いで帰っていく彼女達の姿は、志雄の淀んだ瞳には映っていなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「どうすればいいのかな……どうなったら、良かったのかな?」

 

「分かりませんわ。私達は結局外様……彼にとって1番大事な時にはまだ知り合ってもいなかった。又聞きの話で知ったつもりになっていたに過ぎませんもの」

 

「……ちょっとだけ気持ち分かる。私にはシズクがいてくれたけど、国土にはきっと誰もいなかったんだよ」

 

 自分と同じように傷ついた亜耶に吐き出すわけにいかなかった。そうなればもう志雄には寄る辺がない。

 

「……だとしても、自分から死を望むような生き方を肯定はできないわ」

 

 最近は防人としての自負と責任も自覚してきたが、少し前までの芽吹は勇者コンプレックスとも言える精神状態だった。己の全てを注いで結局落伍した無価値な人間。そう突きつけられた当初は今の志雄と同様に死にたくなるほどの自己嫌悪があった。

 

「気持ちが分かるなんて軽々しく言うことはできないけど……少なくとも亜耶ちゃんは今泣いていて、国土がそれを見ようとすらしていないのはまぎれもない事実よ」

 

 誰よりも優しく穢れない少女の涙を黙って見過ごすことはできない。約束したのだから。

 

「私達に仮面をかぶるのは別にいい。でも亜耶ちゃんには、心からの本音を伝えてほしい。そう思ってる……みんなはどう?」

 

「賛成〜!」

「右に同じ、ですわ」

「ん……どうにかしたい……」

 

「決まりね。国土の本音を引き出すこと。それを亜耶ちゃんに聞かせること。そのために――」

 

 亜耶の優しさは防人の誰もが身にしみて知っている。

 志雄の優しさだって、これまでの日々で何度か触れてきた。

 だから笑ってほしい。優しい人には上手くいってほしい。まだまだ子供の彼女達にとって、それは至極当然な感情だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ゴールドタワーの研究室。目にも留まらぬ速さでタイピングを続ける真澄と画面越しに呆れたような視線を向ける真尋の姉妹がそこにいた。

 

「国土志雄が目を覚ましました」

 

「あらそう……思ったより早かったわね。良かった」

 

「会いにはいかないのですか? 何やら様子がおかしいようですが……」

 

「彼が良くない感情を抱えているのは前から分かってたから。それを含めて妹さん達にお願いしたの。私の役目はここにあるわ」

 

 志雄はこのまま復帰できない可能性もある。真澄はそこまで踏んでなお、G3の改修に専念していた。志雄がいつ戻ってきてもいいように完璧に仕上げる。それこそが相棒たる自分の役割だと、大人な彼女は分かっていた。

 

「……ならば私が様子を見てきます。何か伝えることは?」

 

「ないわ。彼の好きにさせてあげて」

 

「承知しました」

 

 退室していく真尋。姉の淡白な部分を久々に実感して思わず嘆息する。

 

(昔からそう。思いやりがあるのに、やたらと対応が冷たく見える。そのせいであの人は子供の頃から友達もろくにいなくて、孤独で……)

 

 幼い頃を回顧しながら歩く真尋の前に、1人の青年が歩み寄ってきた。久しく会っていなかった、志を同じくするはずの人物だ。

 

「あ、真尋さん。良かった、やっぱりここにいた」

 

「あなたは……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方、真尋が出ていった研究室。1人になった瞬間、真澄は大きく息を吐いて脱力する。

 

(悪いわね真尋……こっちも大詰めなのよ)

 

 画面に表示されているのは新兵器の図面。後は組み上げを待つだけの最終段階まで作業は完了していた。

 その名称は『G3-X 』

 これまでの戦闘データを加えて設計したG3の改良発展型。

 

(国土くんが倒れたのは、ある意味タイミングが良かったのか……その逆か……)

 

 そしてもう1つ、真澄には懸念事項があった。内密に進めてきたはずのG3-Xの導入を、どこからか大社が嗅ぎつけてきたらしい。

 

(いつか邪魔が入ることは覚悟していたけど、こんな直接的な手に出てくるとはね)

 

 デスクの上にはある人物の資料が置かれていた。その表題は『G3-X装着者候補』、そしてその人物の名前は――

 

  "大社中央会議直属 三好 春信 "

 

 

 

 

「三好くん……あなた、どうして……」

 

「お久しぶりです。安芸さんに話しておきたいことがあったんです」

 

 三好春信。勇者三好夏凜の兄にして、真尋や篠原真由美と同じ革新派の人間。特に優秀な人材として認められた証 "麒麟児 "の称号を持つ、頼もしい仲間であるはずの青年が、志雄の対抗馬として現れた。

 

 

 

 

 

 




G3-Xが出てきます。原作でも数話かけてゴタゴタした部分、こちらでも少し再現しようと思います。アレほどギクシャクはしないでしょうが。

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに

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