A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
「はじめまして、三好春信です」
明らかに歳下のこちら側にも礼節と愛想を欠かさない完璧な挨拶。志雄はこの一言だけで目の前の人物の優秀さを感じ取った。
「話は聞いてるかな? 今度のG3-Xは──」
「聞いています。実戦向きに強化した機体が完成したから、改めて正装着者を決めるんですよね」
「──そう。もちろん経験者の君がそのまま引き継ぐのが一番面倒がない。だけど上はここ最近のG3ユニットの成果に注目していてね。アップデートはちょうどいい機会として、最も適した人材を選定しようということだ」
それはつまり、志雄は適任ではないと判断された、ということになるが……志雄はその点については異論はない。自分が力を持つに足る人間だとは到底思えなかった。
「資料には複数の候補者が選ばれたとありましたが、あなた以外の候補者は?」
「ああ、それについてはもう終わっているんだ。君がまだ完治していないこと。プロジェクト立ち上げから装着者として従事してきたことも踏まえて、国土くんには特別枠が設けられている。いわばシード選手だね」
これまでの功績を認め、志雄は最終選抜までは合格したものとみなし、それ以外の候補者が一次選抜からふるいにかけられていく。そうして残った最後の候補者が、目の前にいる春信ということらしい。
「君の傷が完治して、リハビリ期間も含めて2週間後……厳しいスケジュールになるが、それ以上は引き延ばせないらしくてね。そこで最終選抜が行われる。内容はシミュレーターでの直接対決。互いにG3を装着した設定で1対1の模擬戦闘だ」
「……それはまた、随分と偏った試験内容ですね」
「ハハ……元々はアンノウン鎮圧シミュレーションのスコアで競う予定だったんだけどね。君は最高成績をすでに出しているだろう? 私も先日同じ記録を出してね。これでは勝敗が決まらないということで代案が出されたんだ」
何のことはないといった様子で語られた言葉に、志雄は絶句した。装着者の志雄であっても、あのシミュレーターのフルスコアは実戦経験を積んで、本当に最近になってようやく取れたものなのだ。
目の前の男がG3に関わってからの期間は、恐らく1ヶ月もないだろう。それで最高得点で並ばれたとしたら、優秀などというものではない。並外れた才覚に、それを腐らせないだけの努力を積んだ、本物の強者、まさに"麒麟児"と呼ぶに相応しい。
「今日は挨拶に来たんだ。どちらが選ばれるにしても、お互い全力を尽くそう」
「……あなたの方が、いいのかもしれないな」
「えっ?」
「いえ……聞いてもいいですか? G3-Xを求める理由について」
誤魔化すように問いかける志雄。しかしこれも聞いてみたいことではあった。自覚できるほどに不安定になっている今の自身のメンタル。それを立て直す参考になればと考えたのだ。
「……まあ、命令を受けたっていうのはあるけど、私自身のモチベーションとしては……これで妹と同じように戦える、ということかな?」
「妹……? そうか、三好って……」
「そう。現勇者の1人、三好夏凜は私の妹でね。少し素直になれない部分はあるが、真面目で優しい可愛い子なんだ」
そう言って微笑む春信の顔に嘘はない。心から妹を愛し、妹の身を案じているのが伝わってくる。
「そんな妹が危険な役目に就いている。代わってやりたくても私は勇者にはなれない。しかしG3、これは素晴らしい。資格の有無を問わず、誰もが戦う力を持てる。これならば私も夏凜と同じ戦場に立てる……とまあ、個人的な理由としてはこんな感じだね」
私情を挟んで申し訳ないが、と苦笑する春信。志雄には迷いなく言い切る彼のことがまぶしく見えた。
「……もしかして君は、自分が戦う理由に悩んでいるのかい?」
反応が芳しくない志雄を見た春信が鋭く切り込む。図星を突かれた志雄は返答に窮し、曖昧に頷いた。
「そうか……確かにこんな役目はあまりに常識離れしすぎている。まして君はまだ子供だ。大まかな経緯も知っている。無理もない話だと思う」
薄く微笑み、言い聞かせるような語り口の春信。年長者として悩める若人に伝えるべき言葉を吟味している。
「だけどそれなら、君は戦士になるべきではないかもしれないな」
「──っ! それ、は……」
「目的のない力ほど危険なものはない。周囲にもそうだし、君自身にも良い結果はもたらさないだろう。ゴールも定めずにマラソンのスタートを切るようなものだ。いずれ破綻するのは目に見えている」
すでに一度破綻した結果が今の志雄だとしたら、その警告には確かな説得力がある。
「もちろん君が決めることだ。戦士になるというなら止める気はない……ただ、数少ない戦士の枠に入って戦うということは、自分以外の多くの命に責任を持つということだ。芯を持たない不安定な人間には難しいし、辛いだけだと私は思う……経験者の君には、釈迦に説法だろうけどね」
「それは……」
言葉に詰まる志雄を見て、春信は言葉が過ぎたと謝罪して立ち上がる。
「確か国土くんにも妹さんがいるんだったね。それならば私の気持ちが分かるかもしれないし、逆に家族の安全を願う妹さんの気持ちを慮ることも考えられるのかもしれない……どんな結論だろうと私は応援するが、相対する時には手加減はしない。覚えておいてくれ」
最後まで朗らかに爽やかに立ち去る春信。心を覗き込まれたかのように的確な言葉を残していった彼に、志雄は冷や汗が止まらない。
(あの人と争うわけか。本当の強さを宿し、こちらの方もちゃんと調べて……その上で、
ライバルへの牽制といった邪心は一切感じ取れなかった。あくまで1人の大人として、1人の子供を案じて言葉を掛けてくれていた。それが分かるこそ、志雄は悩んでいた。
(あの人よりも上手くやれる自信はない……降りるべきなのか? ──いや、この考え方がダメなんだな)
そこまで考えた時、志雄はようやく自分の悪癖を自覚した。これを直さない限り、いつまで経っても前には進めない。
("べき"だの"はずだった"だのと、結果だけを見た上からの視点でモノを考えすぎだ。たかがちっぽけな人間1人、全てを背負うような真似はできない)
元々志雄は自分達が引き継ぐことになっていた西暦の英雄。その伝説に憧れていた。その神話に一瞬手が届きそうになった経験もあり、どこか自分達を特別視していた部分があった。
(いつまでも"特別"に縋り付くな……何もなくなって、それでも生きてる。向き合って生きていかなくちゃいけないんだ)
その結果、"できる"という可能性や"やりたい"という自分の希望よりも"やるべき"、"やらなきゃ"という義務感や責任意識が先に立ってしまっていた。これが志雄の視野を狭め、道を見失わせた1番の要因だ。
自分に対する色眼鏡を外すことで、彼は初めて自分の中にある剥き出しの願望と向かい合うことができた。
(友達も過去も関係ない。今の僕が本当にやりたいことは……なりたい自分は……)
──いずれ部隊一の戦士になって功績を大社に認めさせてみせます!──
──オレはクソみてぇな親や周りの連中からしずくを守るために生まれた。それはこれからも変わらねぇ──
──未来のために今できることを懸命に果たしてきた誇りある戦士の名だと、証を立ててみせるわ──
──私は弱虫で泣き虫で自分が1番大切だから、それを実現することができないの──
防人達はそれぞれの目的を持って戦っていた。同じ目標を持って一致団結しているのも確かだが、その"目標"を志す前に立つ"目的"は、きっと32人に32通りのものがそれぞれあるのだろう。
──自分が生きていること自体を責めるのはもうやめて。生きてちゃいけない人なんていないんだから──
そして亜耶。彼女はあれだけのことがあってもブレることなく今ここにある大切なものを見つめ続けていた。兄のようにヤケになるわけでもなく、思い出に浸って現実逃避に走るのでもなく。あくまでも悲しみは胸に秘めて、できることに全力を尽くす。それこそが生きる者の務めだと、彼女はちゃんと分かっているのだ。
(みんなはそうして今日を生きている。僕にだって──)
目を閉じて内なる世界で光を探す志雄。そうして己と向き合って、志雄が見つけた答えは──
「何故ですか⁉︎ 亜耶ちゃんを壁外に連れて行くなんて──」
「今度の任務は偵察や調査ではなく、本格的な反攻です。そのためには巫女の帯同が必要不可欠。それだけです」
「それだけって、あなたは──!」
「あなた達が守ってみせなさい。犠牲を出さずに任務を遂行する、でしたよね?」
温度のない声で挑発をしてきた神官──安芸真尋に、隊長である芽吹は怒りを隠さずに宣言する。
「上等です! 誰1人死なせずにその反攻とやらを終わらせてみせますよ」
「ええ……期待しています」
その最後の一言には、仮面の奥に秘めた本音が乗っていた……ように芽吹には聞こえていた。
「あなた達のためなんかではない。亜耶ちゃんのため、仲間達のため……あとは私自身と、あの素直になれないダメ兄のためです」
「そうですか。しかしタイミングが悪かったですね。神託があった決行の最適な日取りは、G3-Xの装着者選抜と重なっています。彼抜きで動くしかありません……彼が戦うことを選ぶならの話ですが」
「構いません。お互いの戦いをするまでです」
芽吹の言葉に迷いはない。志雄が立ち上がることを確信しているようだった。
「おや、彼がこのまま降りるのでは、という危惧はないのですか?」
「心配はいりません。何故なら──」
芽吹の端末が震える。メッセージの差出人を確認すると、そこにあったのは"国土志雄"の名前。芽吹は小さく笑みを浮かべて断言する。
「可愛い妹にああまで言われて、黙って引き下がるような兄はいませんから」
楠芽吹は、国土兄妹のそれぞれを想う気持ちの強さを知っていた。2人の絆を信じていた。
「それで? わざわざ呼び出してどうしたの?」
指令を受理したその足で病室に向かった芽吹。彼女を出迎えた志雄の目にはこれまでにない光が宿っていた。
「話は聞いた……僕の選抜と同じ時間に亜耶も連れた任務があるんだろう?」
「耳が早いわね。私もさっき聞いたのに……亜耶ちゃんのことなら心配しないで。必ず──」
「何かあればすぐに連絡をくれ。最短で終わらせて援護に向かう」
志雄は語調を強くして言い切った。G3-Xに挑み、そして必ず手に入れるという宣言だ。
「随分と目の色が変わったように見える。心境の変化でもあったの?」
「いや、思い出しただけさ。自分の望みを」
「そう。なら、本当にマズくなったらアテにさせてもらうわ。もちろん私たちも全力を尽くすけどね」
「ああ、信じるよ。君と君達の強さを」
そう言うと、志雄は深く息を吐いてベッドから立ち上がる。なんの補助もなしの運動はまだしていなかったが……
「ちょっと、大丈夫なの⁉︎」
「──っ……ああ、問題ない。何せ時間がないからな。グズグズしていられない」
脂汗をかきながら痛みを堪える志雄。やせ我慢なのは明らかだったが、何もしなければ何も得られない。志雄は自分が認め、同時に憧れた戦士である芽吹に己の覚悟を示したくて呼んだのだ。
「お互いの全力で亜耶を……大切なもの全てを守り抜く。いいかな?」
「……ええ。何も犠牲にはしない。そこだけは決してブレてはならないもの、分かってるわ」
笑みを浮かべて拳を合わせる2人。この残酷な世界で、それでも彼らは"全て"を守ることを諦めなかった。
(この男、見れば見るほど弱点がない。麒麟児の称号はダテじゃないわね)
真澄は自室で春信の戦闘記録を確認していた。彼と志雄のどちらかが現時点における自分の集大成を使うことになる。ここまで二人三脚でやってきたという贔屓目を抜きにしても、志雄以上の適任はいないと考えていたのだが……
(一条、杉田、桜井、氷川、北条、小室……候補者はいずれも格ある名家のエリート達。そんな彼らに圧倒的大差をつけてトップに立った三好春信。1番厄介なのはこれだけの実力がありながら一切の隙がないところ)
選抜開始から彼は一貫して首位を取り続けた。全行程の半分を終えた段階で次点の一条や氷川との差は歴然。ここまで来れば多少の油断や慢心、またはペース配分を考えて手を緩めようという考えが浮かびそうなものだが、春信にはそれがない。徹頭徹尾全身全霊。それができるだけの精神力とスタミナ。これに打ち勝つのは容易ではない。
「小沢さん!」
「……国土くん?」
そんな真澄の危惧を跳ね除けるような勢いで部屋に駆け込んできた志雄。まだ全快とは言い難いらしく、病室からここまでは然程長くない距離だが、肩で息をしている。
「三好さんの記録を見せてください。小沢さんなら、持ってますよね?」
そこにあるのは純粋な信頼。真澄がこの急すぎるトラブルにも対処を進めていることを確信している眼差し。少なくとも心の方は調子を取り戻した志雄を見て、真澄はホッと安堵した。
「もちろんよ。全体の映像記録と、リザルトをまとめて分析をかけたパーソナルデータも出力済み……さて、あなたはここからどんな勝ち筋を見出してくれるのかしら?」
「勝ちますよ。G3は小沢さんと僕で作った明日のための力だ。行き着くところまで面倒を見ます。投げ出したりはしない」
そのまま分析と作戦会議に没頭する2人。結局その日、真澄の部屋から明かりが消えることはなかった。
2週間後、
模擬実戦用の装備に身を纏い、特殊なディスプレイ越しに外を見ている両者の視界には、お互いに相手がG3を装着している姿が見えている。
「身体の方は問題ないようだね……それで、答えは見つかったのかな?」
「いえ、僕でなければと言うハッキリとした動機付けは、結局できませんでした」
「……そうか」
「でも、思い出したんです。自分の望みを」
「望み、かい?」
まるで教師に相談する生徒のように穏やかな空気が両者の間に流れる。
「僕はただ、力がない自分が悔しかった。強くなって、妹を守ると胸を張って言えるように……あの2人に誇れるようになりたかったんだ」
最初に願ったのは、本当に彼が望んだのは……大切な人達に顔向けできる自分であること。そこに罪悪感やサバイバーズギルトが重なっておかしな方向にねじ曲がってしまったのだ。
「先に逝った香が安心できるように……いつか目覚める志雄に堂々と会いに行くために……努力してきた亜耶の兄を名乗り続けるために……僕は生きて戦う」
「それが君の答え、君の理由かい?」
「はい。僕が生き残った理由は、戦いながら探す。見つからなかったら、その時自分で作ればいい。まず大事なのは立ち上がることだったんだ」
誰に認めてほしいわけでもないくせに、万人が納得するような行動原理を求めて迷走していた志雄。しかし今の彼は違う。妹や仲間達を見習って、心の声に従って前を向いている。
「だから、あなたには悪いが……G3-Xは僕が使う」
「そうか……君が再び立ち上がる力を取り戻したのなら、まずはそれを喜ぼう。ただしそれと選抜は話が別だ。誰もが使える戦士の力……これを持って、私は戦場に立つ。妹と同じ場所に」
「三好さん、あなたには感謝しています……ですが、負ける気はありません。僕の全てを使って、勝ってみせる」
互いに勝利を宣言して構える。相手がいかに好ましい人物であっても、枠は1つ。力に手が届くのはどちらか1人だけだ。
『さて、そろそろいいかしら? 2人とも開始地点についたわね……それじゃG3-X装着者選抜、最終試験……開始‼︎』
真澄の号令と共に開始のブザーが鳴り響く。それを聞くや否や、2人のG3はほとんど同時にスコーピオンを展開、正面の敵に斉射した。
「──っと、危ない危ない」
(2……4……)
「ちぃっ! なんだってこんなに慣れてるんだこの人!」
春信の方が僅かに早く発砲し、その結果志雄は数発着弾し、一方の春信は全弾回避した。この時点で志雄は確信した。実戦経験を持つ自分よりも、春信の方が戦闘技術は上であることを。
戦闘フィールドとして設定されているのは無人の機械工場。開いたスペースと遮蔽物が多いスペースが乱立している戦場では咄嗟の機転と対応力も試される。戦士としての能力差を悟った志雄はイレギュラーな要素を増やすべく機械類やパイプが多いスペースに移動する。
「そう来るか……だったら!」
入り組んだ場所に逃げ込んだ志雄を冷静に追う春信。適当に銃を連射して牽制……と思いきや、その銃弾は機械や床に反射して志雄の右肩に直撃した。
(まさか、跳弾攻撃……⁉︎ 小器用なんてレベルじゃないぞ)
プレス機の陰に座り込んで身を隠す志雄。跳弾は一時期志雄も練習して、結局形にはならなかった超高難度技術。それをあっさりと成功させた相手に戦慄を隠せない。
「このっ!」
「無駄だよ。我武者羅な射撃は弾の無駄遣いだ」
(10……16……)
「……それはどうかな?」
正面から撃つしかない志雄の弾丸はあっさりと見切られて当たらない。しかし志雄の狙いは春信ではない。その後ろのガスパイプだった。
「おっと……目くらましか」
「もらった!」
留め具を撃ち抜かれたパイプが折れ曲り、春信の視界を塞ぐように白いガスが噴出する。その煙幕に紛れてデストロイヤーを構えた志雄が距離を詰める。射撃では勝てないという割り切った判断だった。
(なるほど……銃はともかく、G3の近接武装は他ではまず使わない……その慣熟訓練の差を詰めてきたわけか!)
「思った通り、こっちの腕は銃ほど冴えてないな!」
「確かにね……でも、それで負ける気はないよ!」
(あと、54発か……)
扱いにくいチェーンソー、それも振り回すのが難しい閉所での戦闘に持ち込むことで技量の差を埋めた志雄の策。それがうまくハマり、2人のぶつかり合いはほぼ互角にまで持ち込まれた。
「あやや、身体の調子悪かったりしない?」
「大丈夫です。お気遣いありがとうございます、雀先輩」
同時刻、亜耶を連れて壁外任務に出た防人部隊。指定のポイントに"種"を植えることで、四国の外に人類側の陣地を増やすための重要な任務だ。その儀式のためには巫女の同行が必須。そのために亜耶が灼熱に耐え得る"羽衣"を備えて壁外に出てきたのだ。
「今頃、お兄様も全力を尽くしているはず……私も頑張らなくては!」
「そうですわね。きっちり終わらせて、胸を張って帰りましょう」
後々陣地を広げるための第一歩である今回は、目的地は結界からそう遠くない。接敵することなく到着できそうだと芽吹がレーダーを確認した、まさにそのタイミングで。
「ポイントに敵性確認……! まさか、待ち伏せされてたの⁉︎」
「オイオイ、前にもあったぞ似たような流れ!」
即座に亜耶を守ることを重視した陣形を展開する防人。彼女達が目指していた地点には、複数の強敵が待ち構えていた。
前回の任務で逃げ延びたクラゲ型のアンノウン『ヒドロゾア・イグニオ』
同じくG3に受けた傷を癒して再び現れた蠍座の『スコーピオン・バーテックス』
その時に志雄が撃破した個体と同種のハチ型アンノウン『アピス・ウェスパ』
そして、かつて何度もスコーピオンと組んで勇者を脅かしてきた強敵。蟹座の『キャンサー・バーテックス』と射手座の『サジタリウス・バーテックス』
「流石に、撃退するのは無理があるわね」
「うひ〜……どうしよどうしよ、とにかくあややを守らなきゃ……」
「数が多いですわね。狙い撃つにしても、この状況では……」
「チッ、国土の奴がいてくれりゃあな」
(皆さん……お兄様……!)
目的地はスコーピオンの足元。待ち受けるは五体の異形。身を守る術すら持たない亜耶を抱えて、圧倒的に不利な戦闘が始まる。
開始から数十分が経過し、2人は共に戦いの終わりを察知していた。
(こっちの耐久値は限界に来ている。そして与えたダメージ量はほぼ互角)
(なら、向こうも同じだけ消耗している。おそらくあと数発で決着だ)
このシミュレーターには対戦ゲームのように耐久限界が設定されている。受けた攻撃の威力や損傷箇所によってダメージの結果は変動するが、最終的には相手の耐久値を削り切ることで勝利となる。自分の耐久値については視界に表示されているが、相手の耐久値については戦う中で大まかに想定するしかない。
「よくやったよ……だが、ここまでだ!」
「クッ……まだだぁっ!」
春信のデストロイヤーが胸部を一閃。一気に志雄の耐久値を削っていく。一方の志雄もやられるばかりではない。仰け反り、後ろに倒れこみながらもスコーピオンを
撃たれた左半身を引いてデストロイヤーを突き出す春信。
尻餅をつきながらスコーピオンを構える志雄。両者は同時に動きを停止した。
「ふぅ……大したものだな、君は」
「そちらこそ。G3に触れて1ヶ月とは思えない」
春信の刃は志雄の首元を捉え、同時に志雄の銃口は春信の腹部、システム上重要なベルトに向いていた。互いにすぐにでも一撃を入れられる体勢。そして両者共に耐久値は一桁まで減っていた。
「しかし今回は私の勝ちは決まっているよ」
「……まだ、分からないのでは?」
「とぼけなくていい。弾丸、残っていないのだろう?」
春信はここに至るまでの数十分、志雄が撃ち放った弾数を正確にカウントしていた。残弾数が表示される自分の武器ならまだしも、敵が何発撃ったかなど、目まぐるしく変化する戦況の真っ只中で把握するのは至難の業。まして志雄はリズムを狂わせるためにセミオート射撃とフルオート射撃を織り交ぜて撃っていた。
その中で、春信はスコーピオンの装弾数72発を撃ち切るまでそのカウントを継続しながら戦闘を続けていた。時に目で弾丸を追い、体勢的に無理がある時には耳で発砲音を聞き分ける。そして弾切れを確信したこのタイミングで本格的にトドメを刺そうと刃を突き立てたのだ。
「どうかな? トリガーを引くまでは……カードを開くまでは、勝負は決まりませんよ」
「その通りだ。ではショウダウンといこうか。私と君、どちらが出し抜けたのか……これで決まる!」
「──っ!」
2人は同時に動き出し、決着は一瞬だった。
勝者が腕を下ろし、敗者が崩れ落ち、終了のブザーが鳴り響く。
戦闘時間32分40秒。G3-Xの装着者が決定した。
1つの戦場で決着がつき、もう1つの戦場では今まさに大ピンチ。
ちょっと後引く形で区切ってしまいましたが、残念ながら今週もここまでになります……というか、ちょっと筆の進みが遅くなってきました。週一ペースは維持したいと思いますが、これ以上減速する可能性もあります。申し訳ない……
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに