A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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今作もはや1周年。話数も112話!(単純計算で3日に1話ペース。我ながら悪くないのでは?)
こんなに続くとは私自身思いませんでした。むやみに遠大で全体像がフワフワした進みが遅い拙作にお付き合いいただきありがとうございます。今後もよろしくお願いいたします。

G3-Xの出番がようやく来ました。名前が出たのが5話。ここが8話。引っ張ったなぁ……
 


Identity

 シミュレーションルームに終了のブザーが鳴り響く。勝利したG3がゆっくりと構えを解いて緩やかに立つ。その視線の先には、敗北したG3が倒れている。

 

 シミュレーターが停止して何の変哲も無い部屋に戻り、2人もインナースーツ姿に戻る。両者は同時にヘルメットを外して目を合わせる。

 勝利して立つのは国土志雄。敗北して倒れるのが三好春信。最後の最後で、少年は格上を相手に見事な逆転を果たした。

 

「……聞いてもいいかな。何故、君の銃に弾が残っていたんだ?」

 

「ああ、簡単なことですよ。1発だけカモフラージュしたんです。こうやってね──」

 

 ゆっくり上体を起こした春信に向けて指で銃の形を作る。疑問符を浮かべている彼の額に狙いを定めて……

 

「──Bang‼︎」

 

 志雄の口から銃声が飛び出す。それはスコーピオンの発砲音を完璧に模倣しており、目の前で口を動かしていたのにも関わらず、春信ですら撃たれたのかと錯覚してしまうほどの完成度だった。

 

「僕は声帯模写が得意なんです。あなたも僕のことは調べていたようですが、大社の筋からじゃ趣味・特技の欄があるような可愛げのある履歴書はなかったでしょう」

 

 志雄からすれば日常的に聴き馴染んだ愛銃の発砲音。声帯模写を得意とする彼にとって真似るのは容易な音だ。春信の視界がこちらを捉えていない、耳でしか捉えられないタイミングで。さらにフルオート射撃の間に挟み込めば、まず判別はできなくなる。

 

「あなたのこれまでの選抜の映像を見て、恐ろしく洞察力がある慎重派であること、敵味方の残弾数を逐一把握しているのは分かりました。それに打ち勝つには、最低でも同じ条件に持ち込まなければならない。しかし僕にそんな器用な真似はできない」

 

「……だからあえて私が正確にカウントすることを前提に策を練った、というわけか」

 

 相手が秀でているのなら、それを利用する。敵の能力を前提として作戦を立てる。これまでの経験を踏まえて、志雄の思考は柔軟さを増している。元々考えて動くタイプであり、戦術眼にも長けていた彼の長所がますます伸びていく。

 

「ある程度食らいつくことさえできれば、慎重なあなたは万全を期すために弾切れを狙ってくる。それさえ分かっていれば動きの予想も立つし、詰めてくるタイミングもこちらで計れる」

 

「なるほど。戦況を把握しているつもりが、戦いの流れをコントロールされていたのは私の方だったということか。参ったよ、完敗だ」

 

 志雄の手を借りて立ち上がる春信。負けたにもかかわらず、その顔には悔いも憂いも見られない。それどころか戦う前よりもスッキリした、胸のつかえが取れたような表情をしていた。

 

「2人ともお疲れ様です。素晴らしい勝負だったと思います」

 

「というわけで、G3-Xの装着者は国土志雄。異存はないわね?」

 

 外から様子を見ていた真澄と真尋が降りてきた。真澄の手にはG3のものと同型の携帯端末。これがG3-Xの制御装置となる。

 

「国土くん、受け取りなさい。使用者の設定は済んでるわ、エントリーコードも含めてね」

 

「ありがとうございます、小沢さん……でもそれって──」

 

「横から失礼します。今しがた入った情報ですが、防人達が交戦中とのこと。バーテックスが三体にアンノウンが二体……厳しい状況のようです」

 

「それは……!」

 

「優秀な人材ほど休みなしね。国土くん、G3-X出動よ」

 

「了解!」

 

 

 

 

 最低限の休息と準備だけ済ませて、志雄達はゴールドタワーの屋上に上がる。時間がないため、結界までの最短ルートを使う。

 

「基本はG3と同じだけど、スペック差や新兵装の扱いについては道中確認しなさい」

 

「戦況もリアルタイムで更新してそちらに送りますので、確認をお願いします」

 

「分かりました」

 

 最終確認を手早く済ませる志雄に、春信が声をかける。

 

「国土くん……」

 

「三好さん?」

 

「自惚れるわけではないが、君は私に勝った。大社の人員で最も強く、正しくG3-Xを使いこなせるのは君だ。それは自信にしていい……試験の前に私に言ったことを忘れずに、君が信じる戦いをしてくれ」

 

 できればいずれ妹達の助けにもなってやってほしい。そんな副音声が聞こえた気がした志雄は、力強く首肯した。

 

「任せてください……出ます!」

 

 戦いたくてもできない人はたくさんいる。それを改めて実感した志雄は勝ち取った端末をジッと見つめ、まっすぐに構える。

 

『G3-X All safety release』

 

「──変身!──」

『Acception』

 

 変身は一瞬で完了した。全体的に重厚になった各部の装甲。特に高出力化に伴って大型化したバッテリー含む背部のバックパックの変化が著しい。より力強く、より洗練された戦士としての機能美。

 

『GENERATION 3-EXTENTION』

 

 稀代の天才、小沢真澄が最新の戦闘データを取り入れて開発した強化戦士。量産化を視野に入れず、ワンオフの新機能を多数備えた特化戦力。勇者に頼らずに扱える、勇者にも劣らない新しい力。

 

「問題なさそうね? それじゃさっそく、新機能を試してみなさい」

 

「はい……スラスター起動!」

 

 端末を操作すると、バッテリーソケットの側部が可動。隠れていた噴出口から青白い炎が発生する。

 

「G3-X、行きます!」

 

 一歩踏み切ると同時に、G3-Xの青いボディが空へ舞い上がる。旧世紀の戦闘機のような勢いで飛び立った志雄は、そのまま一直線に結界を超えて姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 屋上に残された3人。開発者の真澄は想定通りの性能を示したG3-X満足そうにしているが、両隣の2人は驚愕しっぱなしだ。

 

「姉さん、まさかパワードスーツによる単独飛行を可能にしたんですか⁉︎」

 

「んー、単独飛行と言うには、航続距離も飛行時間も延ばせなかったけどね」

 

 あのスラスターは長時間の使用はできない。構造上メインスラスターをバッテリーのすぐ近くに装備することになった。これにはメリットとデメリットが混在している。

 ダイレクトに供給できるためにエネルギー効率は良いが、スラスターの熱が命綱のバッテリーにまで届いてしまう。長時間の使用は摩耗や損傷に繋がる危険がある。

 

 そのため、飛行というよりはジャンプやステップの延長、もしくは加速に急停止、姿勢制御といった用途に向いている。足裏や肩にもサブの推進装置を備えているため、ある程度は細かい軌道にも対応できる。

 

「それでもとんでもないことですよ。西暦以前からの人類の夢と言っても過言ではない。そして戦闘においてもその優位性は計り知れない」

 

 この頃増えてきた飛行能力持ちのアンノウン。そしてほとんどの個体が巨体と飛行能力で頭上から襲って来るバーテックスへの対処法として"こちら側にも飛べる戦力がある"というのは非常に大きい。

 

 興奮気味の2人に水を差すように、金属が転がる音がした。G3-Xが飛び立つ際に足下の地面を踏み抜いて破壊してしまったのだ。屋上の真ん中に奇妙な破壊痕が残っていた。その有様を見た真尋と春信は少しだけ落ち着いたようだった。

 

「……まあ、その辺の力加減は装着者の問題ね。その内慣れるでしょ」

 

「後で修理を手配しておきましょう……それにしても素晴らしい。真由美さんが言っていた通りですね。"小沢真澄は不世出の天才、人類全体の至宝だ"と」

 

「身に余る高評価どうも……やっぱりあなた、本部の人間じゃなかったのね?」

 

「あれ? お気づきでしたか」

 

「本部の……敵対している間柄にしては真尋の態度が柔らかかったのと、あなたからは連中みたいにおかしな雰囲気を感じ取れなかったからね」

 

 春信は今も変わらず大社革新派……篠原真由美の側近のままだ。しかし今回はあくまで敵だと認識してもらう必要があったため、事情を知る真尋にも話を合わせてもらい、立場を偽装して選抜に参加した。

 

「目的は……G3ユニット(わたしたち)がどこまでの力を持っているか、どれだけ信じられるかを当事者の視点で探ること。それと国土くんにハッパをかけること、かしら?」

 

「ご明察です。国土くんに続いて、私はあなたにも敗北してしまいましたね」

 

「へぇ……あの選抜自体は手を抜いてなかったわけか」

 

「ええ。真由美さんからの指示は仰られた通りですが、同時に"やりたいように動いていい"とも言われていましたから。

 G3-Xを手に入れたいというのは私個人の本心でしたし、そのために全力を尽くしました。結局は負けてしまいましたが。私が使うよりも良い結果をもたらしてくれると、信じられる人材を見つけられた……十分以上の結果です」

 

「そう……まあ、こちらとしては後々余計な邪魔立てをしてこないなら何でもいいわ」

 

 軽く手を振って踵を返す真澄。階下に降りようとする背中に、最後に春信が言葉をかける。

 

「それにしても、あなたも随分と信頼しているのですね。国土くんのことを」

 

「……何のことかしら?」

 

「G3-Xの端末ですよ。いくらあなたの作業が迅速でも、決着からわずか数分でパーソナライズが完了するはずがない。あなたは最初から確信していたんだ。アレを使うのは彼だと」

 

 問われた真澄は言葉を返さず、ただ強気な微笑を残して去っていった。まるで当たり前のことを大仰に言及されたことを小馬鹿にしているような反応だった。

 

 

 

 

「……本当に参りました。結果として私は、2人にとって都合のいいピエロを演じてしまったわけだ」

 

「あなたにしては珍しいわね。ここまで自分の思うように事が進まなかったのは」

 

 残った2人が脱力した調子で気安く会話する。芝居の必要がなくなった事で、語り口も柔らかくなっている。

 

「こうも私の想定を覆したんだ……この先も予想外の未来を手繰り寄せてくれると期待しましょうか」

 

「ええ。小沢室長(あの人)の底知れなさは私が保証するし……何より、大人の凝り固まった頭で考えたことを軽々しく超えていく。子供はいつだってそういうものだから」

 

 日に日に信じられる相手が少なくなっていく現状。2人は久し振りに希望を持てる存在が現れたことに、心から歓喜していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 防人の戦場では33人全員がその命を燃やして戦っていた。銃剣隊は敵の弱点を探り、少しでも有効にダメージを与えるべく試行錯誤を繰り返す。護盾隊は最優先防衛対象の亜耶と多くの仲間を守るべく一丸となって陣形を維持。戦闘力を持たない巫女の亜耶も、負傷して盾の内側に運ばれた防人への応急処置に尽力していた。

 既に種を植えて祝詞を唱えるという任務は果たされた。後は結果を見届けて離脱するのみ……その離脱のきっかけを掴むために全員ができることに努めている。

 

「わーきゃーひゃーぎゃーっ‼︎ 来る来る来るぅ! 来ちゃってるよメブ〜‼︎」

 

「いいから黙って防ぐ! あなたが捌かなきゃ隙ができないでしょ!」

 

 そんな中芽吹率いる第一小隊は危機的状況を打破するために、他の敵は仲間に任せて、スコーピオン・バーテックスを撃退するべく果敢に攻めていた。

 

「やはりあの尾の針が厄介ですわね。G3を貫いた以上、一撃貰えば私達の装備にも風穴が開くのは避けられませんわ」

 

「となると、まずはアレをなんとかしろってか……んぁ? あー……おい楠! しずくが奴の尻尾に飛び乗って叩き折れってよ!」

 

「なるほどね……なら私が仕掛ける! フォローは任せるわ!」

 

 内にこもって敵の観察に徹していたしずくからのアドバイス。バーテックスは多くが共通して持つ弱点として、上からの攻撃に対する防備が甘い。巨大であり、なおかつ空を飛べる個体が多い弊害であるが、天の神が遣わした存在としての驕りから成る欠点とも取れる。

 

「弥勒!」

 

「分かっておりますでございますことよ!」

 

 シズクと夕海子が左右に回り込んで足元を攻めて動きを止める。小賢しい攻撃に痺れを切らしたスコーピオンが尾を突き出す……4人の狙い通りに。

 

「なんで私がこんな身体張ってるの〜⁉︎」

 

 文句を言いながらも尾の先端に回り込んで盾で防ぐ雀。当たる直前に針の上から盾を振り下ろして押さえ込むように地面に突き立てる。防御に熟達した雀だからできる手段で、敵の主力武器を封じ込めた。

 

「よくやったわ、雀!」

 

 後ろに控えていた芽吹が尾に飛び乗り、針と尾の接続部。見るからに脆そうな場所に銃剣を叩き込む。その刃はしっかりと入り込み、あと一歩で斬り裂ける、というところで──

 

「芽吹さん、後ろですわ!」

 

 夕海子からはスコーピオンの陰になって撃てない角度。ハチの羽音を鳴らしながら『アピス・ウェスパ』が突撃を仕掛けてきた。蠍の尾に集中していた芽吹は完全に不意を打たれて直撃、高く掲げられた尾から落下して空中に投げ出された。

 

(マズイ、身動きが──)

 

 足場もない状態で懐に迫るウェスパを捌く術がない。目の前に伸びる異形の爪に、芽吹が歯を食いしばる。

 

「らしくないな。君にそんな顔は似合わないぞ」

 

 心のどこかで待ち望んでいた声が、聞こえた気がした。

 

 

 

 ギャルルルルルルルッ──‼︎

 悍しいほどの破壊的な音と共に、目の前の異形に数えきれない数の風穴が開いていく。ハチの異形は文字通りハチの巣にされて爆散した。それを見届けた直後、横から攫うような力強い腕が投げ出された芽吹の身体を抱きかかえる。

 

 物語のお手本のような姫抱きの格好で着地。敵も味方も、あまりにも唐突かつ鮮やかな乱入者に注目して動きが止まっていた。乱入してきた青い戦士は芽吹を優しく下ろすと、肩に担いでいた大型のガトリングガン『GX-05 ケルベロス』を構え直して名乗る。

 

 

 

「G3-X──国土志雄、エンゲージ……!」

 

 34人目の頼れる仲間が、ここでようやく合流を果たした。

 

「国土……!」

「うわ〜ん、志雄さん助けて〜!」

「よくぞ来てくださいました、それが新装備ですわね?」

「オラ国土兄! 勝ったんならサッサと来やがれ、こっちは手が足んねえんだよ!」

 

 信じていた仲間の到着に防人の士気が上がる。志雄は彼女達の言葉に片手を上げて応え、戦況を確認する。

 

「楠、状況は大体把握している。まずは蠍から、だな?」

 

「ええ。あと一歩のところで邪魔が入って……」

 

「ならアイツは君が倒すんだ。これを貸すよ」

「──えっ? これ、あなたの武器じゃ……」

「防人の銃剣よりは切れ味いいはずだ。うまく使ってくれよ」

 

 端末を操作すると、亜耶の右手にデストロイヤーが展開される。これがG3-Xの新機能の1つ。防人の端末と連動、自分の武器を転送して使わせることができる。防人との連携を重視した真澄と真尋の考案だ。

 

「さぁ、行くぞ」

「えっ……って、ひゃあ⁉︎」

 

 芽吹を荷物のように肩に担ぎ上げる。さっきの優美で幻想的ですらあった対応は何処へやら。そっち方面への興味が強い防人数名から落胆の溜息がこぼれる。

 

「ちょっ、国土!」

「口を閉じろ、舌を噛むぞ!」

 

 スラスターを起動。スコーピオンの直上に飛び上がり、その尾の先端に芽吹を雑に放り投げる。銃剣を突き立てて何とか飛び移った芽吹が不満げに睨みつけるが、志雄は取り合わずに牽制射撃をしながら降下していく。

 一見乱雑で素っ気ない対応に見えるが、これは志雄なりの信頼の形だった。芽吹なら多少大雑把でもうまくやる、という信頼と、芽吹ならこれくらいやっても許してくれる、という甘え。仲間に頼ることを覚えた志雄が見せた人間らしさを、芽吹は呆れつつも理解した。

 

(まったく、今の私じゃなかったらもう一回落ちてたわよ)

 

 終わったら1発殴る、と胸に誓い、先ほど入れた傷に改めてデストロイヤーを叩き込む。2度目の攻撃で限界を超えた尾の接続部はあっさりと分断されて崩壊。今度こそ蠍の攻撃力はほぼ失われた。

 

「おっと、逃がさねえよ!」

「針をやられたら逃げの一手。あなたのやり方は前回覚えましたわ!」

「神の遣いだって言うけど、なんか親近感湧いちゃうなぁ。その逃げ腰……」

 

 スコーピオンの撤退を読んでいたシズク達が退路を塞いで追撃。一度はG3を打倒したバーテックスをたった4人の防人が撃破、消滅させた。

 

(情報通り、核がない不完全体か……)

「よし、雀と弥勒さんは護盾隊、私とシズクはそれぞれのバーテックスの方に回る。流れはこっちに来てる、殲滅するわよ!」

 

「えぇ〜、人使い荒すぎだよ。バーテックス倒したのに〜」

「一区切りごとに文句を垂れるんじゃありませんわ。ほら、行きますわよ!」

「へっ、1人で戦況を覆しやがって。いつの間にか立ち直ってるしよ、おかしな奴だぜまったく!」

 

 なんとか離脱を図っていた芽吹の指示が変わった。G3-Xという戦力、国土志雄という希望がそれだけ大きいということだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「亜耶、大丈夫か?」

 

「お兄様……私はなんとも、みなさんが守ってくださいましたから」

 

「そうか……」

 

 無機質な掌で優しく妹の頭を撫でる。ここが戦場であることを忘れそうになるような穏やかな時間が2人の間に流れる。

 

「お兄様、お気持ちは決まったのですか?」

 

「ああ。ここにいるのは僕だ……勇者ではなく、三好さんでもない。ましてや香や鋼也でもない。国土亜耶の兄として、防人隊の仲間として、G3-Xの装着者として……国土志雄がここにいる」

 

 画面越しには見えないが、亜耶には兄の素顔が見えた気がした。幼い頃から彼女の理想だった、正しさと優しさに妥協しない真っ直ぐな瞳。かつての国土志雄が、数年の時を経て帰ってきた。

 

「大切なのはそれだけだ。許せないモノを討って、守りたいものを守る──」

 

 亜耶の頭に置いていた手を離し、素早く拳銃を展開して向ける。

 

「──そのために、手に入れたG3-X(チカラ)だ!」

 

 狙いは虚空。そこに今まさに転移しようとしていた『ヒドロゾア・イグニオ』の眉間を正確に撃ち貫いた。

 

「盾から出るなよ、亜耶……すぐに終わらせる」

 

「行ってらっしゃいませ、お兄様……ご武運を……」

 

 兄妹どころか夫婦のようなやり取りをして2人は別れる。志雄はイグニオに個人的なこだわりがあった。相棒でもある上司の努力を示す、絶好の機会だったからだ。

 

 

 

「この前はやってくれたな。今度は一味違うぞ?」

 

 立て直したイグニオが稲妻を落とす。前回もこの攻撃が有効だったことを覚えていたのだ。しかし、人は成長する生物。まして今回の相手は人類の最先端を切り開く天才、小沢真澄の最新作だ。

 

「──ッ⁉︎ ナ、ゼ……?」

 

「言っただろ? 違うってな!」

 

 頭上から放たれた雷光を左手で受けるG3-X。そのボディにもシステムにも些かの不具合も発生していない。全ての電流を表面で受け流して無効化した。新しい装甲は以前想定していなかった雷撃対策も完備している。

 

「さあ、お次はコイツを披露しようか。もう一度撃ってみろ」

 

 どこか楽しげな志雄が左脚にマウントした武装を取り出す。特殊警棒『ガードアクセラー』刃を持たず、攻撃力が低い代わりに頑強な近接武器。

 

 挑発を受けたイグニオが先程よりも出力を増した雷撃を落とす。元からできたのか土壇場で習得したのか、当たる直前に軌道を捻じ曲げてG3-Xの真横から雷光が迫る。

 

「無駄だ!」

 

 多少の小細工は想定していた志雄は稲妻を見切り、ガードアクセラーで受け止める。警棒は電撃の全てを吸収、帯電した。

 

「これは外の電流を内に溜め込むことができる。当然、放つこともな!」

 

 一気に懐に飛び込み、警棒を叩きつける。吸収した稲妻とアクセラー元来の電流が同時に流れ込み、耐性があるイグニオの身体を焼き焦がす。

 

『GX-05 active』

「終わりだ……!」

 

 力なく膝をついたイグニオの目前、頭部に向けて複数の銃口を束ねた攻撃的な武器が狙いをつけていた。端末の操作でケルベロスほどの大型武器も自在に取り出せる。G3-Xに隙はない。

 一瞬で吹き飛ばされるイグニオの頭。そのまま胴体、脚も穴だらけにされた異形は爆散すらせずに朽ち果てた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「残り二体、このまま押し切って──」

 

「待て、なんか動きが変わったぞ!」

 

 味方が減ったことを認識したキャンサーが反射板を操作。防人全員を囲い込むように広く展開する。

 

「まずい! 楠──!」

 

「総員集合! 護盾隊は円陣を組んで!」

 

 サジタリウスの最大火力が炸裂。膨大な矢が放たれ、いくつもの反射板を経由して防人達を襲う。耐えることのない全力斉射は一分の隙も与えない。

 

「やばいやばいやばいよ! うひゃあっ、今顔掠めた〜!」

 

「どうすんだよ、このままじゃジリ貧だぞ!」

 

 離れた場所にいた攻撃要員はG3-Xがスラスターで回収。何発か食らいながらもなんとか護盾隊の陣の内側に退避して凌げているが、いずれ崩壊するのは間違いない。そうなれば真っ先に死ぬのは無防備な亜耶だ。

 

「亜耶、大丈夫か?」

 

「へ、平気です。お兄様、私のことは大丈夫ですから行ってください。私には戦いのことはよく分かりませんが、G3-Xにしかできないことがあるんですよね? お顔は見えませんが、ご様子で分かりますよ……兄妹ですから」

 

 陣の内側で自身を盾にするように妹に覆い被さっていた志雄。亜耶はそんな過保護な兄を安心させようと笑いかける。戦場に立つ以上、戦闘力を持たない彼女もまた1人の戦士。その覚悟を感じ取った志雄は、妹の乱れた襟元を優しく整えるとゆっくり立ち上がった。

 

「……僕が突破口を開く。まずは盾使いをG3-Xの切り札で排除する」

「ちょっと、待ちなさい国土!」

 

 それだけ言って、G3-Xが上から飛び出して行く。ケルベロスの弾幕なら、サジタリウスとも互角に撃ちあえる。矢の雨を撃ち落としながら接近したG3-X。反射板の包囲網を抜け、真下の死角に滑り込んだ。

 

(やはり、一度に出せる盾の数は決まってる。今なら!)

 

 端末を操作してセーフティを解除。ケルベロスにスコーピオンを連結、更に先端にロケット弾頭を装着する。G3-X最高の威力を持つ必殺武器『GXランチャー』の照準をキャンサーに合わせた。

 

 足元でガチャガチャ動く小兵に気づいたバーテックスが急ぎ2枚の反射板を操作。恐ろしい速度で真下のガードを固めてしまった。

 

「チッ、対応が早い!」

 

「1人でカッコつけてんなよ、バカヤローが!」

 

「私達にも良いところをお譲りなさいな!」

 

 飛翔する反射板に飛びついていたシズクが、防御の内側から本体に攻め入る。そして同時に別方向から夕海子の狙撃がキャンサーに迫る。

 

(テメーの性質はもうバレてんだよ!)

(1番近い攻撃に自動的に反応してしまう、だからこそ──)

 

 G3-Xに対して備えたはずの反射板が、2人の攻撃に対応すべく動きを変える。キャンサーの自動防御(オートガード)機能をここまでの戦いで見切っていたシズクと夕海子はそれを逆用した。

 

「ナイスだ2人とも! GXランチャー、発射(シュート)‼︎」

 

 G3-X最強の必殺技『ケルベロスファイヤー』がキャンサーの本体に直撃。その巨体全てを巻き込む爆発を起こし、解けるような光になってキャンサー・バーテックスは消滅した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シズクと同時に芽吹はサジタリウスに向かって飛び出した。デストロイヤーと銃剣の二刀流で矢を捌きながら接近していく。優れた反射神経で全方位からの射撃を凌いでいた芽吹だったが、やがて後方からの攻撃がなくなったことに気づく。

 

(そうか、片割れを倒したのね……あとは!)

 

「次で最後だ、突破するぞ」

 

 キャンサーを始末してすぐに追いついてきたG3-Xが並ぶように隣を走る。腹部のエネルギーゲージは2割を切っている。余裕ある態度とは裏腹に、稼働時間は限界が近い。

 

「……あなたの考えてることは大体分かるわ。ほら」

 

「……話が早いな。弾もエネルギーも限界が近いから助かるんだが」

 

 苦い顔をしつつも素直に手を差し出す芽吹。G3-Xも手早くその手を取って芽吹を抱え上げる。この場合彼がどんな戦術を選ぶのか。既に把握していたからだ。

 

「時間がないんでしょ? すぐに終わらせましょう……志雄!」

 

「了解……掴まってろよ、芽吹!」

 

 残り僅かなスラスターを点火、G3-Xが空を舞う。矢を掻い潜ってサジタリウスの直上に浮上。

 

『GK-06 active』

「穴を開けるぞ!」

「了解……!」

 

 G3-X専用のコンバットナイフ『GK-06 ユニコーン』とガードアクセラー、芽吹の銃剣とデストロイヤー。4本の近接武器で強引に表皮を切り裂き、穴をこじ開ける。

 

「切り開けぇぇぇっ‼︎」

「こんのぉぉぉっ‼︎」

 

 バーテックスの上部に穴を切り開き、銃口を突っ込む。ガス欠間近のG3-Xでも確実にとどめを刺すために、内部に打ち込む必殺の一手。

 

「決めなさい!」

「最後だ……!」

 

 サラマンダーを3連射。グレネード弾の爆風はサジタリウスを内側から破壊し、最後の一体を跡形もなく爆散させた。

怪しい光になって散っていく異形。選ばれなかった者達の手で、神の異形に打ち勝った瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爆発の中から舞い降りた志雄と芽吹。焼き直しのように姫抱きの格好で帰還した2人をからかいながら賞賛する防人達。誰1人死ぬことなく勝利した喜びを分かち合う姿。そこには年相応の笑顔があった。

 

「メブ〜!」

「お兄様!」

 

 勝利の立役者に駆け寄ってくる仲間たち。その笑顔を見て、芽吹と志雄はようやく勝ったことを自覚、一気に脱力した。

 

「……志雄」

「ああ、芽吹……」

 

『お疲れ様』

 

 力無く座り込み、ゆるく笑いながらハイタッチを交わす2人。幾多の苦難を乗り越えて、彼らは見事に約束を果たすことができた。

 

 

 

 

 

 

 




まさかのガードアクセラー大活躍の巻。ガードチェイサーの出番がない分を取り戻すために機能を追加した結果です。

G3-Xが空を飛ぶのはかなり早くから予定していましたが、何をイメージしていたのかは自覚していませんでした。
しかし先日復讐者ズをテレビで見て初めて分かりました……ああ、某アイアン男だ。

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに。

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