A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
読みにくい文章を描いて大変申し訳ありません。
この話には無関係ですが、たびだび誤字報告をしてくださる読者様方、ありがとうございます。いつも助かっています。この場を借りて感謝の言葉を記させていただきます。
いつまでも誤字が無くならない駄目作者ですが、頑張りますのでよろしくお願いします。
『敵は空間を数独のマス目のように区分して罠を仕掛けてるわ』
「……えっ、数独? あれだよね、小難しいパズルみたいな……」
夕海子の視覚情報から即座に通信障害を解析、解除した真澄が全員に通信で解説を入れる。数独とは、9列9段のマス目を3列3段のブロックに分割し、各列・各段・各ブロックに1から9までの数字を重複しないように入れるパズルの一種。
今回風のエルが仕掛けたのはその発展形、81×81のマス目でできた高難度のパズルだ。1マス数m四方のマス目に見立てて仕込まれた風縄は、次の数字のマス目に転移するように設定されている。
『同じ数字の内どれに繋がるのかはノーヒントだったけど、これまでのみんなの動きを見て規則性は分かったわ』
(やべえ、何言ってんのかサッパリだ。しずくは分かるか?)
(……うん。サッパリ分からないっていうのは分かるよ……)
81のブロックにも不規則に番号を振り分けて、その順番に次のブロックの次の数字のマスに転移している。
例として──右上端のブロックを④として、右下端が⑤であれば、右上端ブロックの1から右下端ブロックの2に飛ぶことになる。
『完全に解き明かすにはヒントが足りなすぎるけど、アイツに近づくルートはきっちり割り出せた。指示した通りに進みなさい』
「とにかく今は指示に従いましょう。解説は全部済んでから……聞いても理解できないかもしれないけど」
そして防人達を困惑させていた要素の1つ、高さ。これはそれぞれの番号に固有の高さを設定して高低差をもたらしていた。
実際の数独問題のように数字が記されていないため、防人達の転移の軌跡を全て記憶して仮定と検証を繰り返す必要がある。風のエルが告げた"最初の1"と、同じ番号なら高さは同じというルールだけをヒントに、見えないマス目を埋めていく膨大な処理作業。
これをアナログで演算できるのは、世界広しと言えども小沢真澄くらいのものだろう。
『全部は把握できてないけど、7のマス目は約60m、9のマス目は45cmって感じね。数字の大きさとは比例しないみたい。道をちょっとでも間違うと余計な怪我するわよ』
これまでの防人達の動きでヒントは不規則に散らばっていた。とはいえ、膨大な数独という仕掛けを即座に看破した真澄。天才の指示のもと、これまで遅々として近づけなかった戦場に防人がどんどん接近していく。
目の前の獲物を撃ち落とすことに集中している風のエルは後ろから敵が迫ってきていることにも気づいていない。まるで見えているかのように的確に風縄を避けて動くG3-Xに、違和感はやがて確信に変わる。
(見抜カレテイル? 馬鹿ナ、人間如キガ……)
自身の力と賢さに誇りを持っている風のエル。彼は自身が編み出した独自法則と考えているが、実際のところ数独はそこそこメジャーなパズルゲームだ。難易度は桁違いに高いものの、馴染みのあるルールを持ち込んだ時点で真澄に敵うはずもなく。
『国土くん、そこから上昇! それで背後に回れるから』
「了解!」
並列思考で5人それぞれに最善のコースを割り出して指示を出す真澄。膨大で不明瞭な情報を憶える記憶力、変動する状況で最善を考え続ける判断力、それらを5人分同時に行う並行処理能力。
今この瞬間、風のエルは人類史最高の頭脳とぶつかっているということを、本人は分かっていなかった。
「イイ加減ニ、沈メ!」
反撃もせずに粘り続けるG3-Xに業を煮やした風のエルが、周囲を覆い尽くすほどの大量の矢を形成。風縄も使った一斉掃射で逃げ場を奪う大技を繰り出す。
(やっぱり、これは完全には避けられない……だけど!)
不条理な制圧力に沈むG3-X。しかし如何に風の天使と言えども、これほどの技は気軽に連発できるものではない。身体や能力の消耗、そしてその大技の直後は確かな隙になる。
「──今だ!」
「ようやく会えたなぁ、さっそくくたばれ!」
獰猛な笑みを浮かべたシズクが敵のすぐ右から転移して突っ込む。目の前の敵相手に視野が狭まっていた風のエルは完全に不意を突かれた。それでも冷静に束ねた矢を投擲して迎撃する。迫り来る大量の矢に、シズクは止まるでも逃げるでもなく、後ろ手に掴んでいた仲間を前方に投げた。
「出番だオラ行け、加賀城!」
「人をモンスターみたいに召喚しないでよ、ああもう!」
キミに決めた、と言わんばかりに清々しく投げ込まれた雀。文句を言いながらも華麗な盾さばきで全ての矢を受け流した。
「やりゃできるんだから最初からやれっての!」
(……シズク、ここまでの戦闘を見た限り、背面の方が防御が薄い……)
雀の肩を蹴って飛び上がったシズクが銃剣を掲げる。狙いは相棒の助言通り風のエルの背中、その翼。
「その羽千切って羽毛布団にしてやるよ!」
「不可能ダ、貴様等ニハナ!」
刃が翼に届く数cm手前で風のバリアに阻まれる。シズクが渾身の力を込めても、あと一歩でその障壁は破れなかった。
「無礼者ガ……身ノ程ヲ知レ!」
至近距離で停止した身体が思い切り蹴り上げられた。肉弾戦に不向きといえど、やはりエルロード。大きく吹き飛んだシズクは上空の風縄に触れて何処かへ転移していった。
「頭上にご注意、ですわ!」
息つく間もなく転移の気配。風のエルの真上、はるか上空に位置した風縄からGXランチャーを構えた夕海子が落ちてきた。事前にG3-Xが武器を貸与して、気づかれないように風縄を利用して接近していた。
(無駄ダト分カラヌノカ……イヤ、アノ武器ハ!)
ランチャーの威力を察知して弓を構える。あの火力をバリアで凌ぎ切れる確信がない。両者は同時に発射した。
「狙い撃ちますわ!」
「私ニ射抜ケヌ物ハ無イ……!」
最大火力の切り札、ケルベロスファイヤーは2人の中間で撃ち抜かれて爆発。ダメージを与えることは叶わなかった。しかし……
(うまくいきましたわ!)
(爆風……狙イハ最初カラ!)
爆風までは凌げず、風のエルの視界が煙に閉ざされる。それと同時に爆風の威力で周辺の風の流れをかき乱す。これで風力操作も一時的に封殺できる。
(……ナラバ、次ハ自ズト)
「……もらったっ‼︎」
「──ソウ来ルダロウナ!」
風のエルの背後、緊急離脱用の風縄から芽吹が仕掛ける。バリアが使えない無防備な背中に刃を突き立て……弓で防がれた。
「三段攻撃カ。悪クハ無イガ、私ニハ通用セヌ」
反応されてしまえば、防人のスペックではどうしたってエルロードには敵わない。それでも芽吹は零距離で鼻を鳴らす。高慢な天使を嘲るようにふてぶてしく堂々と笑みをたたえて。
「残念ね……私も囮よ!」
風のエルがその言葉に反応するよりも早く、その首元にワイヤーが伸びてくる。死角を突いたアンタレスの鋼線は、ステルスを維持する霊装であるペンダントをからめ取って引きちぎる。1秒にも満たない早業だった。
「何ダト……⁉︎」
バチン、と音を鳴らして奪われた霊装。作戦の上で最重要のアイテムを見事に掠め取ったG3-Xは手元まで巻き取ったペンダントを握りしめて破壊した。
「これで、僕達の勝ちは決まりだな」
「貴様……!」
「姿さえ見えれば勇者達が動ける。場を整えてしまえば、彼らが遅れを取るはずがない」
「……随分自信ガアルノダナ。アノ質量ハ見タノダロウ?」
「向こうには陸人がいる。アイツは僕のような半端者とは違う。全てを守り、全てを掴む……本物の英雄だ」
実戦に出るようになってからも、アギトの映像は繰り返し見て参考にしてきた。彼がどれほど厳しい戦いをくぐり抜けてきたかも知っている。そして何より、会って話せば分かる。陸人は1度言ったことは必ず成し遂げる男だと。
「さっきから動きもしないで、余裕のつもりなんだろうが……それが好きならずっと置物やってればいいさ。ステルスを破った時点で
芽吹が、雀が、夕海子が、シズクが。仲間達が風縄も利用して合流する。作戦開始早々にバラバラにされた防人第一小隊が、ようやく集結した。
「完全無欠のハッピーエンドだ!」
それぞれの武器を構える5人。その瞳に格上の存在に対する恐怖は見られない。その堂々とした態度が、自身を絶対の上位者と位置付けている風のエルは気に入らなかった。
「粋ガッテクレル……
傲慢さを捨て、本気を出すことを決めた風のエル。不動を維持して閉じていた翼が開かれる。自分の身体よりも大きく広がる鵬翼は、戦場に不釣り合いなほどに美しい。
「貴様等、ソコカラ一歩デモ動ケルト思ウナ!」
その翼で風を掴み、驚異的な速度で飛翔。防人の周囲を高速旋回しながら射抜いていく。その最高速度は風の矢を上回る程で、射った矢が届くよりも先に移動して次の矢を放っている。
「速い……ってか、速すぎんだろ!」
「眼に映らないんじゃ、狙いようがありませんわ!」
「痛い痛い痛い! 助けてメブー!」
「全員落ち着いて! とにかく致命傷だけは避けるように──」
「動けない、足を狙われてるのか……!」
獣じみた反応速度を誇るシズクも、眼の良さで言えばトップクラスの夕海子も、生存能力に特化した雀も、最強の防人である芽吹も、システムアシストがある志雄でさえも。
誰一人反応することすらできず、矢の嵐に呑み込まれていく。
「先程ノ大口ハドウシタ? 立ッテイルダケデハ置物ト同ジデハ無イカ」
「……気にしてたのか? 案外小さいな、エルロード!」
「黙レ!」
「志雄さん、挑発しないでよ!」
挑発を受け流せる精神状態ではない風のエルはあっさり乗った。風縄も織り混ぜてこれまで以上の勢いでG3-Xに矢が集中していく。装甲の厚さに望みをかけて盾役になろうとした志雄だったが、その目論見は芽吹に見抜かれていた。
「総員円陣、志雄を守って!」
「な……!」
G3-Xを囲んで仁王立ち、体を張って防壁を組む4人。あの雀を含めて、文句も言わず指示に従った。全員が分かっていたからだ。状況を打破できる可能性があるのは1人だけだと。
「みんな、無茶だ! どいてくれ!」
「これもお役目の1つ、文句はありませんわ」
「ここまでしてやったんだ、勝たなきゃ承知しねーぞ」
「痛いのは嫌だけど、私だけ残っても何にもできないからね……最後に孤立するよりもマシだよ」
「隊長命令よ、ここは私達が守ってあげる……だから、アイツを倒しなさい!」
絶え間なく続く射撃に晒されながら、誰1人迷いはない。その身を盾として、嵐が止むまでしっかりと大地を踏みしめて立ちふさがり続けた。全ては最後に勝つために。"完全無欠のハッピーエンド"のために。
数分後、やっと気が晴れた風のエルが攻撃を止めた。一撃の威力こそ低いものの、優に4桁は撃ち込んだ。エルロードでさえも多少の疲労感を感じる全方位射撃に、確かな手応えを感じていた。
「……コレデ、思イ知ッタカ?」
エルロードは長い刻を生きる上でそれぞれに追求してきたものがある。
地のエルは"個としての強さ"、それ故に彼はどこか武人気質なところがあり、戦いの勝敗に対するこだわりが強い。
水のエルは"生命への干渉"、上位存在として生命に関わる上でその在り様に興味を抱いた。その行き着く先が再生と支配という辺りにエルロード特有の驕りが見える。
そして風のエルの場合は"知恵"、要は誰よりも賢い生命であらんとしてきた。風縄の配置に数独の要素を組み込んだのもそうした気質故だ。しかしつい先程自分が練った謎掛けがあっさりと解かれてしまった。
その怒りが風のエルから遊びを奪った。力で全て排除する。己より賢い者などあってはならない。天の遣いとは思えないほどに、今の彼には余裕がなかった。
……砂埃の奥に、未だ健在で立っている敵がいることに、すぐに気づけなかったほどに。
「……何故、未ダ動ケル?」
「あいにく、誰も死んじゃいない……死にそうな目には散々合ってきたからな。僕も含めてしぶとさは一級品だ」
盾になってくれた芽吹達4人は意識を失って倒れているが、全員ちゃんと息はある。戦闘続行は難しいだろうが、おかげでまだ志雄は戦える。
(託された以上、勝つしかない……今度こそ、僕の手で守ってみせる!)
志雄はこれまでに2度、手を伸ばせば届く所で大切な友を守れなかった経験がある。その度に死にたくなるほどに自分を呪い、病的に己を律して強くなってきた。その成果を、とうとう示す時が来たのだ。
「三度目の正直、ってね……付き合ってもらうぞ、エルロード!」
「フン、彼我ノ実力差モ理解出来ヌ愚カ者ガ……」
G3-Xが両手を交差して深く息を吐く。その構えは、あの日見事な生き様を見せた彼の親友を思わせるものだった。同時に装甲各部が盛り上がって展開。隙間から白い蒸気が排出される。
「教えてやる……僕達の真骨頂、G3-Xのもう1つの名前をな!」
「何ヲ……」
G3-X周囲の温度が目で分かるほどに上がっていく。橙色の瞳が、危険を示す赤に染まる。高まりきったエネルギーの余剰分が、光の粒子となって周辺にこぼれ落ちる。
「
『Boost up』
凝縮したエネルギーが解放され、光の柱が立ち昇る。金色の粒子に覆われて輝くG3-X…… "GENERATION 3-EXCEED"がその真名を解放した。
「人ノ創造物ガ……ヨモヤコレ程ノ……」
「こうなると時間がないんでな……行くぞ!」
言い切ると同時に衝撃。決して風のエルは目の前の敵から注意を逸らしてはいなかった。にも関わらず、フェイントもターンもなしに、正面からまっすぐ突っ込んできたG3-Xに反応できなかった。
「バリアか……鬱陶しいほどに頑強だな!」
両拳は身体から数cm手前で風のバリアに止められている。最高出力であっても、ただぶつけるだけでは破れなかった。
「だったら──!」
「速イ……!」
鼻先を突き合わせていたG3-Xが、またしても一瞬で消える。周囲を探るよりも早く、背中を襲う衝撃。背面上空、死角からのケルベロスを乱射。空間把握に長けた風のエルを完全に翻弄している。
「普通に撃っても無駄か。なら、お前を見習うことにしよう!」
ついていけていない標的を中心に据えて、円を描くように高速旋回。多方向からの斉射で追い詰めていく。先程自分が仕掛けたのと同等の弾幕に呑まれた風のエルは一歩も動けない。
「自慢の翼、もらうぞ──!」
「──ッ、痴レ者ガ!」
残像が残るほどのスピードで接近したG3-Xが右手を伸ばす。全方位に長時間展開したバリアは、今最も減衰している。何発か受けるのを覚悟して、風のエルが急上昇。背後から迫った腕を避けた。
「チッ、一枚だけか。だけど次は、根元からもぎ取る……!」
「貴様……」
息を切らせて滞空する風のエル。その声は震えていた。目障りな人間如きの手に、自分の羽が一枚握られていたからだ。
「触れることはできない……だったか? 間違いだったなァ、えェ?」
「何ナノダ……ソノ力ハ!」
「お前は潰す……絶対に、ここでツブスッ‼︎」
足元に大きなクレーターを刻んで飛び上がるG3-X。その態度や言動が、普段の彼から離れていっていることには誰も気づかなかった。
G3-Xの最たる新機能『EXCEED』
普段は人間が運用できるレベルまで落として使っている戦闘用のAI。これのリミッターを解除して理論上最大値まで戦闘力を引き上げるシステム。エネルギーも専用のサブタンクのものを用いることで100%のパフォーマンスを発揮できる。
もちろんそのまま使えば人体に致命的なダメージを負わせることになるため、様々な補助がなされている。
外部刺激によって装着者の体温と心拍数を上昇させて、肉体のコンディションを強制的に向上させる。
更に感覚情報の制御、脳内分泌物の調整等の工程と装着者本人のメソッドによって極限集中状態──いわゆる "ゾーンに入る"ことを人為的に促す。
ちなみに、ゾーンに入るのは本人の資質がなければ不可能なことだ。志雄は以前から構想自体は出来上がっていたこのシステムを使いこなすために長年鍛錬を重ね、生来の才能も相まって8割の成功率を叩き出している。
「遅い、遅すぎル!」
「クッ、人間風情ガ……!」
バリアの上から蹴り飛ばし、更に飛んでいった風のエルをスラスターで追い抜いて背後に移動。反対方向に蹴り返す。1人でキャッチボールでもするかのように蹴り返し続け、徐々に高度が上がっていく。
「落ちロ、エルロードォォォッ‼︎」
ピンボールのような軌道で天高く跳ね上げた風のエルを、更に上に回り込んで踵落とし。風のバリアを物ともせず、一方的に叩きのめしていく。
……しかし同時に、ここまで完璧に近かった挙動に少しずつノイズのような不自然さが混ざり始めた。
『進化しすぎた人工知能』に人間が無理やり合わせる形で完成する禁断の能力がEXCEEDだ。もちろん装着者の脳や肉体への負荷は尋常ではない。安全を保障できるのは60秒で、連続稼働限界は85秒。それ以上は強制的にモードが解除される。
そしてもう1つ、この力には致命的な欠陥がある。
「ズアアアアッ、消エロォォォッ‼︎」
「フン……マルデ獣畜生ダナ……!」
ケルベロスを鈍器のように叩きつけるG3-X。勢いこそあるが余りにも非効率な攻撃。これが最大の弱点、理性の喪失。
無茶に無謀を重ねて、不可能でコーティングしたような無理くりがすぎた力は装着者を極度の興奮状態に持っていく。長く続ければ続けるほどに影響は如実に出て、次第に頭も満足に回らない、目の前の命を食い潰すケダモノに近づいていく。
この錯乱によって装着者の判断がAIの指示から外れていき、そのズレが一定を超えると挙動にまで影響が出てくる。
本来は本格的な暴走に至らないギリギリのデッドラインとして時間制限を設けていたのだが、モード起動前から肉体とシステム両面に深刻なダメージを負っていたせいでその目算がずれてしまった。
安全ラインの60秒を超えた時点で、既に志雄は正気ではなかった。
「ガアアアアアッ!」
「確カニ速ク、強イ。ソレデモ──」
ケルベロスで頭をフルスイングされて吹き飛ぶ風のエル。しかしどこか余裕ある態度で、緩やかに両手を合わせる。G3-Xは構うことなく直進し──
「考エル頭ヲ無クシタ人間ナド、獣ト何ラ変ワラナイ!」
「──ッ⁉︎」
コース上に仕掛けられた風縄に引っかかり、はるか上空に転移した。
攻防の間に後ろ手で指を組んだり、地面をさすったりと気になる行動はあった。普段の志雄なら違和感を覚えただろうが、AIに意識を振り飛ばされそうになっている現状では気づけない。
「ソシテ……」
真っ逆さまで空中に移動させられたG3-X。一瞬で変わった景色に動揺した意識の空白。1秒にも満たない小さな隙だが、風の天使にはそれで十分だ。
「獣ヲ御スル術ナド、幾ラデモアル!」
必殺の一矢が寸分違わず背部のバッテリーに直撃。G3-X全体に致命的なダメージが広がる。
同時にEXCEEDがタイムリミットにより強制解除。力無く地面に落下した。
「……ぅ、ぁ……」
(まずい、記憶が飛んでる……今どうなって……?)
EXCEEDの解除と共に理性を取り戻した志雄。知らない間にボロボロになった身体を見て、制御に失敗したことを悟る。
(暴走したか。しかもG3-Xの方も限界だ……)
バッテリーの損傷がリカバリ不能な域にまで達してしまった。あと1分足らずで爆散、G3-Xは大破するという警告がひっきりなしに頭に響く。禁忌の切り札まで使っても、エルロードには勝てなかったということだ。
(……いいや、だったら……!)
諦めずにもがく志雄。身動きもままならない有様で虫のようにモゾモゾ動く様が気に入らなかったのか、風のエルは鼻を鳴らしてトドメの矢を番える。
「人間ニシテハ良クヤッタガ、ココマデダ」
力を振り絞って起こした上体に風の矢が無慈悲に直撃。火花を散らして破壊のダメージが全身に広がっていく。
(タイミングが勝負だ……見誤るな──!)
おぼつかない挙動で左腕を後ろに回した直後──鮮やかな爆風に包まれて、G3-Xは爆散した。
「よし……園子、準備はいいか?」
「おっけ〜、それじゃミノさん、行ってきま〜す」
大社本部、乃木園子の病室。渋る幹部から力尽くで端末を奪取し、遅れながらも戦場に出向こうとしていた。
「気をつけろよ……半端ない修羅場みたいだからな」
「お〜……って、あれ? 今何か……」
「……え?」
園子が出撃しようとしたその時、カーテンの奥から物音が聞こえた。そんなはずがない。あの奥で動くものといえば、ずっと眠り続けた友人しか──
「……ったくよ、そこかしこでヤバそうな気配がウロチョロしてやがる。おちおち寝てもいられねえ」
2年寝たきりだったとは思えないほど淡々とカーテンを開け放って現れた少年。2人がずっと待ち望んでいた声が部屋に響く。
「うそ……」
「……お前……ほんとに……」
「銀、園子……いきなりで悪いが、状況教えてくれねえか? 寝起きの運動するにはいいタイミングみたいだからよ」
「──鋼也っ‼︎」
英雄の光を分け与えられたことで、少年の時間が再び動き出す。絶対の窮地に、それぞれの生命がその意味を果さんと熱く燃えていた。
小難しい文章多めになってしまって申し訳ないです。
そしてようやく目覚めた第2主人公。長かった……
ちなみに時間軸的には、陸人くんたちは変身を封じられたままもがいている頃かな、と浅く想定しています。
読者様からの感想で気づいたのですが、風のエルの風縄は、Wのゾーン・ドーパントをイメージしてもらえれば入りやすいと思います。
話変わって、珍しく活動報告を利用してみました。今回の楠芽吹の章全体を通したある仕掛け(言うほど大したものではありませんが)についてです。お時間のある方は覗いてもらえるとありがたいです。作者の名前から作者ページに移動してもらって、そこから活動報告に進めます。
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに