A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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くめゆ編クライマックスです。
 


X day たとえ『勇者』と呼ばれずとも

(時間ヲ掛ケ過ギタナ……今カラデモ援護ニ行クベキカ)

 

 G3-Xの爆散を見届け、風のエルは次にどう動くかを考える。ステルスを破られたのは想定外だったが、第一目標の結界の破壊は完了したのを確認している。ならば自分も出向けば、より迅速かつ確実に敵を殲滅できる。

 そんな算段を立てながら、ゆっくりと志雄のもとに歩み寄る。彼の手にはまだステルス維持用の霊装が握られている。破壊されたとはいえ、この首飾りは風のエル自慢の一品だ。手放すのは惜しい。

 

(霊装ヲ回収シタラ即結界内部ヘ突入……全テヲ破壊スル)

 

 

 

 

 確かめもせずに抱いた仕留めたという確信──時としてこの余裕は、油断となる。だからこそ風のエルは驚愕した。

 

 

 

 

 

『G3 All safety release』

 

 

 

 臨戦態勢を告げる機械音声が、目の前の死体から聞こえたからだ。

 

 

 

「──変……身っ‼︎」

『Acception』

 

 

 負けることなど認めない。あってはならない。許されない。その傲慢なまでの意地と根性で立ち上がった志雄が、旧式(G3)の鎧を纏って銃を突きつける。

 

 

 

「何ッ……貴様ハ!」

 

「この距離なら……バリアは張れないな‼︎」

 

 

 風のエルの腕を掴んでホールド。完全に油断した敵の腹部にスコーピオンの銃口を押し付けて連射する。逃れられない連続射撃に、身体自体の耐久力は高くない風のエルが唸る。

 

(何故ダ……今ニモ力尽ツキヨウトシテイル身デアリナガラ……何故諦メナイ!)

 

「言ったろ、三度目の正直ってな……今度こそ、守り抜いてみせる!」

 

「忌々シイ……何処マデモ!」

 

 

 

 空いた左腕に風を纏って振りかぶる風のエル。吹けば飛びそうな有様のG3に触れれば、それだけでトドメとなり得る。

 鷹の爪が届く……その刹那、背後からの銃弾と盾の投擲がその一撃を逸らした。

 

 

 

 

「やらせませんわ、私達には勝ちしかありませんのよ!」

 

「こんだけ身体張った挙句負けるとかあり得ないから! 最弱の私が死ぬ気で頑張ったんだよ⁉︎」

 

 

 

 限界の身体を押して追いついてきた夕海子と雀が、崩れ落ちながらも風のエルの両脚にしがみつく。銃撃を受け続けているせいでバリアを張る余裕もない。お互い、これ以上ないほどに追い詰められていた。

 

 

 

 

 

「成程……仲良ク心中シタイト言ウナラ、望ミ通リニシテヤル!」

 

 

 大翼を広げる風のエル。3人まとめて吹き飛ばし、テリトリーである空に飛び上がってしまえば勝ちは確定だ。しかし頭に血が上った彼は忘れていた。敵は3人だけではないと。

 

 

 

「今度こそもらうぜ、その翼ぁ‼︎」

 

「逃がさない……ここで終わらせる!」

 

 真後ろから飛び込んできた芽吹とシズクが同時攻撃で両翼を切断。白く美しい羽が、風に乗って周囲に舞い散る。空にも逃げられなくなった風のエルの両腕を2人が抑える。これで四肢全てを封じ、退路を完全に断ち切った。

 

 

 

 

「ハッ、言ったろーが。テメーの羽を布団に仕立ててやるってな!」

 

「それは正直どうかと思うけど……これ以上好き勝手されちゃ困るのよ!」

 

「帰りたい休みたい寝たい泣きたい……だから早くやられちゃってよお願いだからぁ!」

 

「雀さん、恐怖で言動がおかしくなってましてよ……ですがこれで王手、ですわ!」

 

 

 

 朦朧とした意識の中、それでも頭に響く仲間の声。そのエールが崩れそうな身体に力をくれる。スコーピオンを全弾打ち尽くした志雄が、詰みの一手を仕掛ける。

 

 

「全員離れろ、決めるぞ!」

 

 スコーピオンで散々撃ち抜いた腹部にデストロイヤーを突き立てる。人の技術の結晶たる刃は、最早バリアや他の能力を使う余裕もない敵の身体を深々と貫通した。

 

「グッ……ムゥ……!」

 

「僕には仲間がいる……それが、お前が()()()()に負ける理由だ‼︎」

 

 

 更にダメ押し。傷口めがけてサラマンダーの銃口を構えてまたも連射。G3の持ち得る全火力をつぎ込んだ必殺のコンビネーションだ。

 

 

 

 

「僕達の勝ちだぁぁぁっ‼︎」

 

 

「馬鹿ナ……馬鹿ナ馬鹿ナ馬鹿ナァァァァァァァァッ‼︎」

 

 

 

 

 グレネードを全弾叩き込み、弱り切った胴体を力一杯斬り裂く。上半身と下半身が見事に断ち斬られた風のエルは、最後まで人間を見下し続けて爆散した。

 その爆風は周辺一帯を飲み込み、踏ん張る力も残っていない防人達をまとめて吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員、無事……? 返事をしなさい」

 

「国土志雄、なんとか生きてる……あー、瞼が重い……」

 

「弥勒夕海子……よゆーで生きてますわ……ゲホッ、ゴホッ……」

 

「山伏しずく、同じく……シズクは疲れて寝ちゃってる……」

 

「うぇぇぇ〜……死ぬかと思ったよぉ〜」

 

「雀も無事ね。良かった……」

 

 カタツムリのようにノロノロと這って集合した5人。生存確率で言えば2割は切っていただろうが、全員が分が悪い賭けに勝利した。こんな事態に至った時点で不運なのか、なおも生き残れたのが幸運なのか。それは誰にも分からないが……この日証明されたことがある。

 

 たとえ選ばれずとも、戦って守ることはできる。個として特別ではなくとも、運命に逆らって盤面を変えることはできるということだ。

 

 

 

 

 

 

「しかし、志雄さんは先ほどの爆発をどうやってやり過ごしたんですの? 確かにG3-Xが爆散したのを見たのですが……」

 

「ああ。Gシリーズは制御端末が使えなくなった時のために、安全措置もちゃんと備えてるんだよ」

 

 例えば端末が故障した時、最悪いつまでも装甲が外せなくなる可能性がある。そのため、ベルトの裏側に外部から強制解除するためのスイッチが用意してある。

 

「バッテリーが炸裂する一瞬前にパージして、同時に爆発の起点となるパーツを高く跳ね上げる。後は爆風に飲まれる前に伏せた……完全には凌げなかったけどな」

 

 風のエルに気づかれないように、本当にギリギリのタイミングで回避するしかなかった。その結果、志雄の背中は制服が焼き崩れて、肌も焼け爛れている。

 

「……で、あとは不用意に近づいてきたアイツの不意をついて、端末に戻しておいたG3を装着したってわけだ。ここまでうまくハマるとは思わなかったが何でも用意しておくものだな」

 

『本当に。あの機転は見事だったわ。みんなもお疲れ様。全員の力で掴んだ勝利よ。私達だけでも、神霊に打ち勝つことができる。最高の結果よ』

 

 EXCEEDのことも考えて、志雄は戦闘中のエネルギー切れを警戒していた。スペアとして修理が完了したG3システムも同じ端末にインストールしておいたのが功を奏した。

 総じて、人間が持つ知識、技術、心理が天使を瞬間的に上回って得た勝利と言えるだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 激戦を乗り越え、緊張の糸が緩んだ5人は気づかない。爆風の中に消えた風のエルが、残った上半身だけで矢をつがえていることに。

 

(巫山戯ルナ……コノ私ガ……!)

 

 この身体はもう保たない。それは自覚している。負けたということだろう。しかしそれでも、風の天使として長く生きて育てられた自尊心は、このまま終わることを認められなかった。

 爆発の瞬間に幻惑の術を使い、残った身体を隠して逃げた。センサーの範囲外からの狙撃。警戒していない今なら、1人2人なら倒せるかもしれない。

 

 

 

「……タダデ帰スト思ウナヨ……チッポケナ生命ノ分際デ!」

 

 

 

『……攻撃……! みんな避けて!』

 

 真澄の警告が飛ぶも、あまりにも遅かった。気の抜けた彼らの反応は間に合わず、志雄めがけて一直線に飛ぶ風の矢は──

 

 

 

 

 

 

 

「させっかよ──オラァッ‼︎」

 

 

 

 突然空から降ってきた乱入者──緑の異形(ギルス)の爪の一閃で、嘘のようにあっさりとへし折られた。

 

 

 

 

「馬鹿ナ……貴様ハ……!」

 

「……ギルス……?」

 

 両者の間に着地し、防人達を庇うように立ちはだかるギルス。最後の悪あがきも阻まれた風のエルの身体が、今度こそ限界に至る。

 

(チッ……ココマデカ……)

 

 爆散と同時に離脱していく魂。ギルスは一瞬追いかけようと踏み出しかけたが、後ろで膝をつく防人達を思い出して踏み止まった。彼の目的はあくまで彼らを助けることだ。

 

 

 

 

 

 

 

 ゆっくりと近づきながら変身を解くギルス。その仮面の奥には、ずっと夢でしか見てこなかった懐かしい顔が笑っていた。

 

「鋼也……君は……」

 

「んぁ? 久しぶりだってのに何だよそのリアクションは」

 

 特に感慨を浮かばせることなく志雄の手をとって立ち上がらせる鋼也。あくまで昔と変わらない。何事もなかったかのようなその態度が、かえって志雄の涙腺に響いた。

 

「なんなんだ……君は本当に……何もかもが唐突すぎるんだよ。起きる前に一声かけろ……!」

 

「いやお前今大分無理難題言ってるぞ? 分かってるか?」

 

 言いたいことが山ほどあった。聞きたいことが星ほどあった。そして何より、謝りたかった。避けていたこと、間に合わなかったこと、何もできなかったことを謝罪したかった。

 しかし完全に予想外のタイミングで再会してしまったことで、言葉が全く出てこない。傍目には分かりにくいが、今志雄は人生最大級に混乱していた。

 

 

「……なんで、ここに?」

 

「ああ。夢ん中で香が教えてくれたんだ……で、園子の船に途中まで乗せてもらって、ここまでバビューンと」

 

「そうか……香が……相変わらず、よく気を使う子だな」

 

「全くだな。あいつが起こしてくれなきゃ、もう少し寝坊してたかもしれねえ」

 

 鋼也が目覚めたきっかけは、陸人が分け与えたアギトの光だ。そしてそれが鋼也の中で香の形で働きかけた。志雄もそうだが、やはり特別なのだ。沢野香という少女は。

 

 

 

 

 

「しっかし、ちょっと見ない間にお前も変わったみてーだな。まさかそんなボロカスになるまで体張って戦ってる志雄なんざ見れるとは思わなかったぜ」

 

「……そうかもな。君を真似てみたんだ。いきなり眠りに就くようなバ……向こう見ずの尻拭いは、昔から僕の役目だったからな」

 

 やっと出てきた言葉は憎まれ口。それでも鋼也は……いや、志雄も、そんな"本来の自分達"が戻ってきたことが嬉しかった。

 

「おい、今バカって言いかけたな? 言っとくけどな、さっきの奴と同等の敵を相手に俺は2人で勝ったんだぜ? つまりお前らの半分以下の人数だ。分かるか? 俺はお前より強いってことだ」

 

「相変わらず馬鹿なことしか言わない口だな……そもそも前提条件が違う。君の仲間は勇者だろう。こちらにはスペックが大きく劣る装備しかないんだ」

 

「だけどあの時には他にもバーテックスがいたんだ。つまり敵戦力はこっちの方が上だった。分かったら潔く認めろよ」

 

「今回は敵が事前に罠を敷き詰めていた。いわば敵陣での戦闘だったんだ。その中で勝利を収めるのは単純な戦力計算だけでは計り知れないほど難しいことなんだ」

 

 額をぶつけ合うような近さで言い争う2人。感動の再会を邪魔しないように黙っていた防人達も、これには笑うしかない。

 

 

(何アレ? 数年ぶりの再会じゃないの? 志雄さんあんなに幼馴染のこと褒めちぎって特別視してたのに……)

 

(志雄さんがあんなにムキになってるところ、初めて見ましたわ)

 

(……でも、もしかしたらあれが国土兄の素なのかも……)

 

(確かに、長年の親友相手だし……だとしたら、少し複雑ね)

 

 自分達もかなりの修羅場をくぐり抜け、絆を育んできた自負があった。それでもやはり幼馴染には勝てないのか、と。友情の嫉妬心がないわけでもなかった。それでも彼女達は、子供らしい顔をやっと見せてくれた志雄と、それを引き出してくれた鋼也の再会を心の底から喜んで、祝福していた。

 

 

 

 

 

『あー、お二人とも? お邪魔して悪いのだけど、敵が動き出したわ』

 

「……敵?」

 

「お? 大人の女性の声……なんだ志雄、お前女所帯でウハウハだったのか? 嫌な成長しやがって」

 

「うるさい、君だってそうだろう……星屑の群体か」

 

 地平の果てから迫り来る、空を舞う小さな異形の群れ。その名を示すように、星屑が天空を覆い尽くすほどの規模で蠢いていた。

 

「うっそぉ〜、もう勘弁してよ。身体中痛くて痛くて……」

 

「雀さん! ボロボロなのはみんな一緒ですわ……しかし、結界を狙うにしては妙なタイミングですわね」

 

「……多分、さっきの鳥怪人が……私達みたいなノーマークの寄せ集めに負けたのが想定外だったんじゃないかな……」

 

「なるほど。それで泡食って手持ちの戦力を追討に差し向けてきたのね。でも実際、今の私達では……」

 

 立って歩くだけで身体が軋むのだ。まともな戦闘行為などできるはずもない。ジャイアントキリング直後の決定的な隙を狙われてしまった。

 

 

 

「つまりアレは全部俺の獲物ってことでいいんだな? だったら早く帰りな。一匹たりとも通さねえからよ」

 

 

 

 あっさりと言い切る鋼也。虚勢でも無鉄砲でもない。自分ならできると、鋼也は心から確信していた。

 

「やれるのか? 二年寝太郎のくせに……」

 

「問題ないね。なんなら今ここでお前を先にぶっ飛ばして証明してやってもいいんだぜ?」

 

「やってみろ病み上がりめ。できもしない大口を叩くのはみっともないと教わらなかったか?」

 

「ちょちょちょ! なんでいつまでもケンカ腰なの⁉︎ やばい状況なんだからさ」

 

「それが2人のデフォルトなのは何となく分かったけど、状況は弁えてもらわないと困るわ」

 

 延々と言い争う少年達の間に割って入る防人達。流石に冗談抜きで急がなくてはならない状況だ。

 

「……すまない、隊長命令には従うよ。僕達は帰還しよう。今の状態じゃ足手まといだ」

 

「……へぇ、あの志雄が素直に従う隊長さんか。少し驚いたぜ」

 

 自分が知らない間に親友が築いた関係を眩しそうに見つめる鋼也。国土志雄はどちらかというと狭く深い人間関係を好むタイプだと知っていたから、その驚きは大きい。

 

「それはどうも……それで、篠原さんと呼ばせてもらうわ。任せてもいいのね?」

 

「楽勝だね。リハビリにはちょいと物足りねえくらいさ」

 

「志雄が信じる人物が、そこまで言い切るのなら私も信じるわ。背中、よろしくね」

 

「大船に乗ったつもりでいな……流石に園子の船ほどとはいかないが」

 

 

 

 

 

 

 全員で肩を組んで、少しでも楽に進める隊形を組む5人。一番の重症で、真ん中で支えられた志雄が首だけで振り返る。

 

「鋼也……その様子じゃ、どうせ起きてすぐ飛んできたんだろう?」

 

「……まあな」

 

「亜耶や君の仲間の勇者達は、ずっと待ってたんだ。きっと言いたいことも溜まっていることだろう……これ以上待たせるようなことになったら、僕は君を許さないからな」

 

 不器用で素直じゃないエール。その"待っていた人達"の中に自分を含めないのは、志雄に残った小さな男のプライドだった。

 

「分かってるさ。話さなきゃならねえ人が大勢いるんだ……こんな雑魚に邪魔されてたまっかよ」

 

「分かっているなら、いい……覚悟しておけ。君と会ったら、亜耶は絶対に泣くぞ」

 

「ゲッ……これから戦うって時に気が重くなること言うなよな、お前ホントにさぁ……」

 

 困った声を出す親友に小さく笑う志雄が、震える手で拳を差し出す。鋼也も応えるように拳を合わせる。

 

 

 

 

「……頼むぞ、鋼也……」

 

「ああ……任せな、志雄」

 

 

 

 本音を交わすのに言葉は要らない。拳を1つ合わせれば、それだけで長年の空白だって埋められる。

 

 国土志雄と篠原鋼也は、そんな絆で結ばれていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空を白く塗り潰す星屑の群れ。数えるのも嫌になる数の暴力が、鋼也の目前に迫っていた。

 

「フン……ただでさえ空がおかしな色してるってのに。気持ち悪い光景だな」

 

 そんなことは危機でもなんでもない、と鋼也は悠々と首を鳴らす。起きてからずっと、力がみなぎって仕方ないのだ。

 

(寝てる間になんかあったのか……とにかく今なら、負ける気がしねえ……!)

 

 肉体面ではなんの問題もない。そして肝心の精神面も……

 

 

 

「園子の船の上から色々見てきた……中でも外でも、随分好き勝手やってくれたようじゃねーか」

 

 

 

 ──鋼也、志雄を……みんなを助けて。それができるのは、あなただけだから──

 

 

 香の声に導かれて一直線に飛んできたから全てではないが、鋼也は混沌の最中を見てきた。

 結界の内側を突き進む巨大な空中要塞。蠢くアンノウン。

 そして新しい勇者達や、見知らぬ仮面の戦士。志雄とその仲間。

 

「バケモノ如きが調子に乗りやがって。忘れたんなら思い出させてやるぜ……

 テメエらの天敵が誰かってことを……この俺の恐ろしさをなぁ‼︎」

 

 その眼は怒りに燃えていた。何も知らない人の暮らしまで脅かされた怒り。親友を死んでもおかしくないほどに傷つけられた怒り。

 そして何より、肝心な場面に出遅れた自分自身への怒り。

 

 ギルスの強さは意志と感情に大きく左右される。病み上がりではあれど、怒りに満ちた今の鋼也はベストコンディションと言っても過言ではない。

 

 

 

「……変身っ‼︎」

 

 

 

 2年の刻を経て、バケモノを狩る野性の戦士……ギルスが帰還した。牙を剥き、爪を伸ばし、その全てを切り刻む。

 

 

 

「──屑はクズに、還りやがれぇぇぇっ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜……なんか目の前がグルグル回ってるんだけど……回収とか頼めなかったの?」

 

「向こうも手一杯だろうから断っておいた。真澄さんまで今は出張ってるみたいだしな」

 

「そんなぁ……私達だって緊急じゃん、もう死にそう……」

 

「それだけ口が回れば当分大丈夫ですわね。いいから足を動かしなさいな、ペース落ちてますわよ」

 

「……あ、結界……そういえば、どうやって飛び越えるの……?」

 

「考えてなかったわね……でも、全員で同時に踏み切ればなんとか超えられるんじゃない?」

 

 5人横並びで肩を組んで歩く防人。まっすぐ歩いているつもりでフラフラと進路がねじ曲がっているあたり、かなりの重症だ。常人の歩行よりも更に遅いペースで、ようやく結界の目前まで到達した。

 鋼也が来てくれなければ、間違いなく逃げ切れなかっただろう。

 

「……みんな、ありがとう……」

 

 ゴールを目前にして、志雄が小さく呟く。

 

「? 何、急に……」

 

「今回の戦闘、僕だけだったら……いや、誰か一人でも欠けていたら負けていた。僕達5人だから成し得た結果だ。君達と出会えて……肩を並べて戦えることに、感謝してる……」

 

「い、いや〜、そんな風に言ってもらえるなら……これからは私を修羅場に巻き込まないようにしてくれれば……イタッ! 痛いよメブー‼︎」

 

「……改まって何を言うかと思えば……別にあなたのためじゃないわよ。私達はみんな自分の目的があってここにいるの……だから、大仰なお礼なんて必要ないの、仲間じゃない」

 

「そういうことですわ。私は弥勒家再興のため、今後も結果を出していく必要があります。まるで最後のようなセリフはやめてくださいな」

 

「……しずく(わたし)とシズクのこと、長所として活かせ……なんて言ってくれたのは国土兄が初めてだった。こちらこそ、感謝してる……」

 

 防人部隊32人+α。各々が自分の目的や主義を持って戦っている。それでも決して自分勝手ではなく、全員がフォローしあって全員の目標が叶う最高の結末を求めて、今日も命を張っている。

 

 それが彼女達の強さ。勇者部とは少し違う、我が強い集団が組織として成立できている最大の秘訣でもある。

 

 

「そうか……そうだな。つまらないことを言った、忘れてくれ……」

 

「おっと、そうはいくかよ。せっかくテメーの可愛げのある言葉が訊けたんだ。これは是非とも部隊で共有すべきだよなぁ?」

 

「シズクさん……ええ、そうですわね。他の小隊にも通達しておきましょう。志雄さんは私達がいないと何にもできないと」

 

「……んむむ、これは弱みを握れるチャンスでは?」

 

「おいこらお前たち……特に加賀城、あまり調子に乗ると毟るぞ」

 

「ヒエッ、なに⁉︎ どこを毟るの⁉︎ 具体性がない分かえって怖いやつ!」

 

「ハイハイ、その辺にして……飛び越えるわよ──せーのっ!」

 

 

 

 

 

 

 息を合わせて壁を飛び越えた志雄達。疲労から合流地点を見誤った彼らは、見事に海中に落下。回収船が大慌てで迎えに行ったものの……後日全員仲良く風邪をひいた。

 

 

 

 

 

 

「いやー、まさかこんな笑えるオチまで用意してるとは……やっぱ変わったなぁ、志雄」

 

「──っくしゅん! ……うるさいな、好き好んで海に落ちたわけじゃない……」

 

 数時間に及んだ一大決戦は、アギトや勇者、その他多くの人間の奮戦によって無事に終結した。残敵の掃討を終えた鋼也は、志雄の見舞いに来ていた。

 

「……それで、仲間と話はできたのか?」

 

「ああ。なんか1人今は離れてるらしいんだけどな……園子が言うには近いうちに思い出すって話だから、全員揃ってってのはまたそのうちって感じだ」

 

「そうか……とにかく君が起きてきただけでも、安心したことだろうさ」

 

「まあな。銀は泣きやまねーし離れねーしで大変だったぜ」

 

「なんだ惚気か? 史上最大級の寝坊をかましたくせに、いいご身分だな」

 

「うるせーよ、肝心なところに間に合わせて助けてやったのは誰だと思ってんだ」

 

「頼んだ覚えはない。自力でなんとかしたさ」

 

「よく言うぜまったく……」

 

 息を吐くように言い合いに移行する2人。それでも表情に険はない。一切の遠慮がいらない相手とまた触れ合えることを、素直ではないが喜んでいた。

 

 

 

 

 ──ガシャンッ! カラン……──

 

 

 

 病室の入り口で、何かが落ちる音がした。2人が振り向くと、持ってきた志雄の食事を落としてしまった亜耶が、口元を両手で抑えて震えていた。

 

「……こ、こうや……くん……?」

 

「……あー、もっといいタイミングで顔見せるつもりだったんだが……久しぶり。大きくなったな、亜耶」

 

「──鋼也くん!」

 

 涙を浮かべながら駆け寄り──その胸に飛び込む寸前で急停止。反射的に受け止める姿勢になった鋼也も、突然ブレーキをかけた亜耶も、ベッドから見ていた志雄も、微妙な表情で固まってしまった。

 

 

 

「……えーっと、どうしたんだ? 亜耶」

 

(どうしようどうしよう……鋼也くんにはもうお相手がいるみたいだし……私も今はもう吹っ切れてる……うん、多分吹っ切れてるはずだし……そもそもお兄様の前だし……かといって今のボロボロのお兄様に飛びついたら痛いかもしれないし……)

 

 いつも可憐な亜耶らしくない百面相。頭から湯気が立ち上り、顔は茹で上がって眼は泳ぎまくっている。彼女の脳内では乙女的な一大事が巻き起こっていた。外から見ている野郎2人には到底理解できない世界だ。

 

「おい、妹熱暴走してねーか? どうすりゃいいんだお兄ちゃん」

 

「気色悪い呼び方をするな……よく分からんが君のせいだろう、何とかしろ」

 

「理不尽すぎんだろーがクソ兄貴!」

 

「君に兄呼ばわりされる筋合いはない!」

 

 そして何故か再燃する2人の口論。そんな懐かしい"いつも通り"を目撃したことで、亜耶も少しずつ落ち着いてきたらしい。

 

「ふふ……あははっ、本当に帰ってきたんですね。鋼也くんが」

 

「お? おう、大分心配かけちまったな……悪かった」

 

「いえ、ちゃんと帰ってきてくれれば、私はそれだけで」

 

「……は〜……志雄も大概変になったと思ったが、亜耶も変わったなぁ。いい方向に成長したっつーか」

 

「おい、まるで僕がおかしい奴みたいに言うな」

 

「えへへ、私だってもう一人前です! 巫女のお役目もちゃーんとこなしてるんですよ?」

 

「そーかそーか! 兄に似ずに育ってくれて俺は嬉しいぞ、亜耶!」

 

「なんで君はいちいち細かく僕にケンカを売るんだ!」

 

 

 

 完全に元通り、と言うには1人足りないが……それでもずっと求めていた幸せだった時間が帰ってきた。国土兄妹の夢が1つ、成就した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 決戦は終わった。その中で結界と樹海を破られたことで、これまで隠してきた敵と戦いの存在が四国中に知れ渡ることとなった。

 特にアギトは、一際目立つ破界砲を防いだ姿が何人かの命知らずによって撮影、動画が拡散されてしまった。

 これに対して、大社は西暦の反省も踏まえて事実の一部開示で対処することを決めた。

 

 神樹様に敵対する存在が使徒である怪物を召喚して侵攻してきた。

 これに対して神樹様も同様に使徒を招集して対抗。その使徒がアギトをはじめとした仮面の戦士──『仮面ライダー』

 その呼称を使い、同時にギルスやG3-Xの情報も公開することで民衆の注目を一点に集める。

 

 既に表沙汰になってしまったこともあり、仮面のおかげで正体を見抜かれない彼らを前面に押し出すことで勇者達や他の真実への追及をかわす方針だ。

 

 大社は同時に、これまでことが起こるたびに隠蔽してきたアギトの目撃情報の規制を一部だけ緩めた。大社からの情報を皮切りに各所から助けられた、という声が上がることで、突然現れた謎のヒーローへの警戒心を薄めることにも成功した。

 

 見た目が派手なライダー達を矢面に立たせて、更に神世紀で何よりも強い"神樹信仰"を利用することで、大社は必要最低限の情報開示のみで危機を乗り越えることができた。

 

 

 

 

 

 

 

 後の時代、歴史学者が過去を振り返る際に、この日は人類史の転換点と称されることとなる。

 人が真実の一端に辿り着き、これまで一部の人間だけが関わっていた世界の危機に、他人事でいられる時間は終わりを告げた。

 そしてその存在を知られた再臨の英雄。この日を境に真実の価値は跳ね上がり、闇と光の闘いは新たな階梯へと移行する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大社本部最上階、大社で最も価値があるとみなされている人物との謁見場。そこには鋼也の母親、篠原真由美が訪ねてきていた。

 

「しかし、"仮面ライダー"ですか……」

 

「あら、お気に召しませんでした? 私一生懸命考えたのですが……」

 

「いえ、そのようなことは……ただ、彼らには面倒を押し付ける形になってしまったなと……」

 

「そうですね……ですが西暦の戦時中には、勇者様を盛り立てた結果反発や誹謗中傷が広まったそうです。ヒーローが同じ人間、というのはどうしても不安の種になってしまうのでしょう」

 

「なるほど。その点彼らは顔が見えませんからね。神樹様の使徒と言ってしまえば疑うことはない……ですか」

 

 部屋の主の年頃は14か15歳といったところ。しかし一児の母にして、大社の一派閥を仕切る立場の真由美は常に少女に敬意を示し、少女の方もかなり高い壇の上から地面に座した真由美を見下ろして会話している。

 

「あなたが不満を持つのは仕方ないことだと思います……息子さん、ようやく目覚めたんですもの」

 

「……私情を挟んで、申し訳ありません」

 

「ああ、ごめんなさい。責めてはいないのですよ? ただ、私は会ったことがないものですから……勝手に重責を押し付けてしまった戦士達に」

 

 小さくため息を落とす少女。作り物じみた美しい顔が憂いに歪み、その小さな挙動に絹糸のような柔らかい黒髪が揺れる。人ではないものの加護をめいっぱい受けている彼女は、見目そのものが光を放たんばかりに麗しい。

 

「そうだ、会ったことがないなら会ってみれば良いのです! 何故こんな簡単なことが思いつかなかったのかしら?」

 

 名案を思いついた! といった笑顔で両手を打ち鳴らす。真由美は少女のこういった純粋さを好んでいたが、実際のところ仕事と責任が増えるのは実質的な側近の位置に立っている彼女の方だ。

 

「……それはつまり、アギトですか?」

 

「ええ! 我々神世紀に生きる全ての命の大恩人、御咲陸人様に是非ともお会いしたいです……どうでしょう?」

 

「かしこまりました。近日中に機会を作りましょう」

 

「私の都合でお呼び立てするのは申し訳ないし、こちらから出向けたら良いのですが……」

 

「そんなことをすれば本部中の人員が血眼になって追ってきます」

 

「……ですよね。では申し訳ありませんが、よろしくお願いいたします」

 

「お任せください……それでは失礼します、()()()()()

 

 

 

 

 

 深々と頭を下げて退室する真由美。

 一人になった少女の顔には、隠しきれない歓喜の情が浮かんでいた。

 

(たった一度の邂逅であの園子ちゃんの心を掴んだ王子様……

 時代を超えてまで全てを守ろうと戻ってきた救世主……

 個人的にもすごく興味があります……ああ、どんな方なのかしら?)

 

 

 

 

 

 

 神に愛された少女と、神に至った少年。

 その出会いがもたらすものは、絶望か希望か……

 

 

 

 

 

 




まさかの志雄くん橘さん化……伝説の銃ライダーを見習ってみました。ネタは豊富ですが、負けないくらいカッコいい見せ場もあるギャレンが私は大好きです。

先週の活動報告の答え合せですが――

くめゆ編のサブタイトルの頭文字を縦読みすると『GENERATION3X』になります。G3-Xの正式名称……正確には GENERATION 3-EXTENTION。
ここまで書ければよかったんですが、話数が伸びすぎるので……本当は全11話『3』で終わらせる予定だったんですが、予定外に1話増えまして、尻切れとんぼな感じになってしまいました。やはり難しいですね、本文外で遊ぶというのは。

これにてとりあえず各ライダー一周したということで……次は勇者の章、と思いきやオリジナルに寄り道予定。
この章はライダー色強め、ゆゆゆ要素かなり薄めでお届けすることになるかと思います……今更かもしれませんが。


ジャンプ漫画的な章タイトルをつけるなら……
『大社動乱編』でしょうか。形にするのに時間がかかることが予想されます。お待ちください。

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに


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