A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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ハッピーバレンタイン!ひさーしぶりの番外編です。

神世紀はともかく、西暦編は時系列的にうたのんとみーちゃんはバレンタインを共に過ごすことはできなかったはずなんですよね。
ゆゆゆい編として番外話を作るには本編で出してある情報が半端すぎるので、その手も使えない……

なので今回はあくまで本編とは違う世界線でのIFとして見てくれると助かります。
急ピッチで仕上げたので、いつも以上に雑かもしれません。誤字脱字あったら指摘していただけると助かります。
 


300年、変わらない想い(バレンタイン記念)

 2月13日、世俗からある程度距離を取らされている丸亀城の面々も、流石にこの日にやることは決まっていた。何せ彼女たちは花の女子中学生。8人も集まれば1人や2人はこの手のイベントに熱心な者がいる。

 

「さて、それでは始めましょうか……私が教えるのは若葉ちゃんと友奈さん、千景さんの3人で良いんですよね?」

 

「うむ、これまではいつもひなたにもらってばかりだったからな。簡単なものを教授願いたい」

 

「私も、友達にお店のチョコ買ったりはしたことあるんだけど……今年は手作りしてみたいなって思って」

 

「……みんなが作るなら私も作って渡した方が、やっぱりいいわよね……?」

 

「ふんふん、皆さん年頃の女子という自覚が芽生えたようで何よりです。それに……陸人さんはなにかと私達にプレゼントを手作りしてくれますものね?」

 

 訳知り顔のひなたの言葉に慌てふためく3人。隠していたつもりのようだが、彼女たちの環境で彼以外の誰に手作りチョコを渡すというのか。分かりやすい友人達が可愛くて仕方ないひなただった。

 

「あちらで他の皆さんも作業をしていますし、シンプルな中にも個性があった方がいいかもしれませんね。ちょっと考えてみましょう」

 

「ふむ、個性か……」

 

 8人の少女の中で最も調理慣れしているひなた。彼女の主導で、若葉、友奈、千景の初めてのチョコ作りがスタートした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よっし、材料の準備はこれでオーケーね!」

 

「あの、うたのん? そんなに野菜を集めて何を作るの?」

 

「よくぞ聞いてくれました、みーちゃん! 私が陸人くんにお届けするのはズバリ、チョコレートファウンテンよ!」

 

 胸を張って宣言する歌野。テーブルの下から取り出したのはパーティー用のチョコレートファウンテン。勇者や大社職員用の食堂であるはずの場所で、なぜこんな娯楽性の高い器具があるのだろうか。

 

「えーっと、バレンタインに、陸人さんに、チョコレートファウンテンを用意してあげるってこと?」

 

「ザッツライト! これなら陸人くんも初めての体験になるはずよ」

 

「うーん……そもそも野菜ってチョコに合うの?」

 

「美味しいわよ? 私としてはカボチャがおススメね」

 

 半信半疑ながら歌野を手伝ってベジタブルチョコファウンテンを用意する水都。

 

(ちょっと試してみてダメそうだったら力づくでも止めよう。下手したら陸人さんのバレンタインが始まる前に終わっちゃう)

 

 いつも助けてくれている頼もしい彼を守るために。水都は人知れず気合を入れて拳を握る。その後ろでは機嫌良さげな歌野が鼻歌交じりに野菜の選別を始めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「キャーッ‼︎ タマっち先輩何やってるの⁉︎」

 

「えっ? タマ、何か間違えたか?」

 

 前2組とはまた離れたテーブルで、一際騒がしく作業をしている杏と球子。彼女達が挑戦しているのはガトーショコラ。当日、陸人に数多く渡されるであろうチョコレートとの差別化を図り、2人で1つのケーキを作るつもりだ。

 

「卵白と卵黄は分けるんだよ。これじゃメレンゲも何もないじゃない……」

 

「ご、ごめん……混ぜる混ぜるって考えてて、全部一緒にしちゃった」

 

「……ううん。まだ始まったばかりだったし、材料はたくさんあるからやり直そ。焦らなくていいから、工程を確認しながらじっくりとね?」

 

「うん。タマ、こういうの苦手だけど……陸人のためだ、頑張るぞ!」

 

 勢い任せの球子よりはいくらかマシだが、杏にしても本格的なお菓子づくりの経験はない。レシピ本片手に工程を必死に確かめている。

 

「美味しいって言ってもらえるもの、作ろうねタマっち先輩」

 

「おう、やってやるぞ!」

 

 腕には自信がなくても、諦めの悪さには自負がある。少女たちはそれぞれの想いを込めて、全力で慣れない作業に打ち込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 なんとか全員の用意が間に合った2月14日、バレンタイン当日。食堂に呼ばれた伍代陸人は扉を開けた瞬間漂うチョコレートの香りに、驚くと同時に食欲を刺激される。

 

「今日はバレンタインです。ということで……」

 

「私たちみんなでチョコを用意したの。受け取ってくれる?」

 

 待っていた仲間たちの手には手作りと思われるチョコレート。ケーキや、なぜかチョコレートファウンテンまで並んでいるのはいささか不思議な光景だ。それでも各々が心を込めてこの日のために用意してくれたのは、陸人も一目で理解できた。

 

「みんな、ありがとう。すごく嬉しいよ……でもそっか、みんなも用意してたのは気づかなかったよ」

 

「……みんなも?」

 

 なぜか紙袋を持って現れた陸人に、千景が問いかける。何もいらない、と伝えて呼び出したはずなのだが。

 

「みんな集まってるならちょうどいいと思って、俺も持ってきたんだよ」

 

 言いながら紙袋の中身を取り出す陸人。その中には上品にラッピングされたチョコレート。この男、女子に囲まれて迎えたバレンタインにも関わらず……

 

「みんなの分、一応手作りしたんだけど。よければもらってくれる?」

 

 予想外の展開に何も言えなくなる勇者達。本当なら今頃、自分達のチョコで陸人を笑顔にしている予定だったのだ。

 

「えーっと、ありがとう……ここで食べてもいい?」

 

「もちろん。俺も初めてだからさ、率直な意見が欲しいな」

 

 沈黙を打ち破った友奈が自分の名前が記されたチョコを受け取り、包みを開ける。中には、自分の勇者としてのモチーフでもある桜の形をしたチョコレートが入っていた。

 

「……すごい、こんなに綺麗な……」

 

「良かった。ちょうどいい型が見つからなくてさ、自作したんだよ」

 

「えっ! 型を自作?」

 

 陸人の凝り性とものづくり精神が爆発したらしい。バレンタインに、もらう側の男子が意気揚々と型から手作りのチョコレートを8人もの女子に用意する。これはいわゆる女子力において敗北していると言っていいのではないだろうか。自分の分を受け取った少女達はなんとも複雑な顔でチョコを口に運ぶ。

 

「……!」

「美味しい……!」

 

「良かった。味の方は自信がなくてあんまり手を加えてないんだけど……うまくいったみたいだね」

 

 味の方でも特に問題はない。これほどのチョコを作れる男子。一気にバレンタイン的ハードルが跳ね上がってしまった。

 

 せめてもの抵抗として、ジャンケンで順番を決める。最初は千景と友奈だ。

 

「……えっと、私あんまり難しいことできなくて……トリュフチョコなんだけど……」

 

「私とぐんちゃんはお揃いなんだ。黒いのがぐんちゃんで、白いのが私」

 

 千景作、カカオパウダーをまぶしたトリュフチョコと、友奈作、ホワイトチョコでコーティングしたトリュフチョコ。陸人は両手で1つずつ取って同時に口に入れる。

 

「おぉ、かわいい形になってるね。いただきます……うん、美味い。食べやすいし、何にも失敗してないよ、大丈夫」

 

「ほ、本当……? 良かった……」

 

「やったねぐんちゃん! 頑張った甲斐があったよ」

 

「すごく嬉しいよ、ありがとう。友奈ちゃん、千景ちゃん」

 

 桜型のチョコを食べる友奈と、彼岸花モチーフのチョコを眺める千景がホッとした顔を見せる。彼女達のバレンタインは成功だ。

 

 

 

 

 

 

 

「陸人さんのお口に合えばよろしいのですけど……ナッツチョコです」

 

「へぇ、見た目だと分からないけど……おお、しっかり詰まってるね。上手にできてると思う。ありがとう、ひなたちゃん」

 

 この方面では一番の優等生であるひなたのナッツチョコ。きっちりとナッツを覆い、一口サイズに整えられた見事なチョコ。陸人も自分では作れないと感じながら舌鼓を打つ。

 ひなたも陸人から受け取ったコスモスの花を形どったチョコを齧る。

 

「お好みに合ったようで何よりです。ほら、アーン……」

 

「ひ、ひなたちゃん……」

 

「ほらほら、なんなら私の指ごと食べちゃってくださいな」

 

 高評価を受けて上機嫌のひなた。調子を取り戻して押せ押せだ。他の仲間にはまだできない積極的なアプローチに、陸人もタジタジになってしまう。

 

 

 

 

 

「つ、次は私なんだが……すまん、シンプルに溶かして固め直しただけなんだ」

 

「ああ、気にしなくていいのに。若葉ちゃんが一生懸命頑張ってくれたのは見れば分かるよ。いただきます」

 

「陸人……」

 

「──って硬っ⁉︎ す、すごい歯応えだね」

 

「な、なに? すまない、味見した時は大丈夫だと思ったんだが……」

 

 生来顎が強い上に、手作りチョコの硬度の相場が分からない若葉はスルーしてしまったが、結構なメタルチョコレートになってしまった。ひなたが目を離したタイミングで温度調整を失敗した結果だ。

 若葉は所在無さげに桔梗型チョコを口にする。やはり陸人作のものは失敗もなく、実に食べやすい。

 

「いや、大丈夫。噛めないほどじゃないし、これはこれで美味しいよ。ビターチョコにしてくれたんだね?」

 

「あ、ああ。陸人は受け取ったチョコはその場で食べると思ったから、甘いものばかりは厳しいかと……」

 

「そういう気遣いが嬉しいよ。ありがとう若葉ちゃん」

 

 

 

 

 

 

「それじゃ次は……これ、チョコレートファウンテン? すごいなぁ、初めて見たよ」

 

「リアリィ? だったら良かったわ。野菜もたくさん用意したから、楽しんでちょうだい」

 

 1人だけ毛色が違う歌野の番。大仰な機械の横に、串に刺さった野菜が並んでいる。歌野厳選のベジタブルチョコレートファウンテンだ。

 受け取った金糸梅のチョコを試しにファウンテンでさらに味を加えてみる歌野。少しくどくなったらしく、若干苦い顔をしている。

 

「うんうん……おぉ、美味いね。俺はトマトが好きかなぁ」

 

「そのトマトは私が育てた自慢の一品よ!」

 

「なるほど、だからか。ありがとう、歌野ちゃん」

 

 流石に歌野も、野菜ならなんでもありとまでは思ってなかったらしい。チョコと合うものをセレクトして、食べやすいサイズにカットしてある。手作りとは少し違うものの、歌野の個性が光るバレンタインとなった。

 

 

 

 

 

「私はコレなんだけど……どうかな?」

 

「イチゴか。これ、水都ちゃんが?」

 

「うん。うたのんの付き合いで、近くの農家さんのお手伝いでもらったの」

 

 水都が用意したのはイチゴにコーティングしたチョコレート。イチゴをカットしたり、チョコレートの種類を変えたりと工夫を施して飽きがこない取り揃えとなっている。

 

「うたのんの野菜ファウンテンを見てたら、私も少し個性的なものを用意するべきかなと思ってね」

 

「うん、美味しいよ。イチゴとチョコは間違いない組み合わせだしね。ありがとう水都ちゃん」

 

 ホウセンカのチョコを食べながらホッと息を吐く水都。

 自分の野菜を持ち込んで揚々と下拵えをする歌野を見て思いついたのがイチゴのチョコ。万一歌野が事故を起こした時の口直しも兼ねたチョイス、なんとも彼女らしい選択だ。

 

 

 

 

 

 

「最後に私達、合作です!」

 

「ジャジャン! ガトーショコラだ」

 

 杏と球子が差し出したのは、ホールサイズのガトーショコラ。失敗とやり直しを重ねてなんとか形になった、今日1番の大物だ。

 姫百合のチョコと紫羅欄花のチョコをそれぞれ胸に抱き、息を呑む2人。自分たちのチョコの出来栄えに不安があるらしい。

 

「ガトーショコラかぁ。俺も作ったことないけど……すごく美味しいよ。ちゃんとできてるから安心して」

 

「ホ、ホントか?」

 

「陸人さん、気を遣ってない?」

 

「ホントホント。初めてでこれだけできればすごいと思うよ。ほら、2人も食べてみたら? アーン……」

 

 そう言って自分が口を付けたフォークを差し出す陸人。そんな気がないのは分かるが、球子も杏も思わず躊躇してしまう。

 

「どうかした? 美味しいのに……」

 

「あ、えーっと……よし、あ〜……」

 

「あっ、タマっち先輩ずるい!」

 

「ほいっと。ほら、杏ちゃんもアーン……」

 

「……んっ……うん、ホントだ。美味しい」

 

「これをタマたちが作ったのか。ビックリだな」

 

 何故か3人でシェアしている陸人たち。これも彼らなりのバレンタインなのかもしれない。

 

 

 

 

 

 終わりなき戦乱の中、ごく僅かな団欒の時。明日への不安も忘れ、勇者たちは若者らしく、今日という日を楽しんでいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 詳細は忘れてしまったが、楽しい夢を見たようないい気分で目覚めた御咲陸人。昨日のうちに用意していたチョコを持っていく。相手はもちろん、最愛の家族と最高の親友だ。

 

「はいコレ。ハッピーバレンタイン!」

 

「リクならやりかねないと思ったけど……"ばれんたいん"の意義分かってるの?」

 

「まあまあ。私達も美味しいのもらえるなら嬉しいよ。ありがとう、りっくん」

 

 男女でチョコを交換する3人。時を経ても、陸人はやはり陸人だった。

 

「美森ちゃんも、今日は流石にチョコなんだね」

 

「和菓子も一瞬考えたんだけどね。私もそこまで頑なじゃないわ」

 

「私も東郷さんに教わって、一緒に作ったんだよ」

 

 そう言う2人から差し出されたのは、色違いのトリュフチョコ。美森が黒で友奈が白。味が異なるお揃いのチョコ。2人の仲の良さが感じられるチョイスだ。

 

「うん、どっちも美味しい──」

 

「どうかした? リク……」

 

 口に入れた瞬間、懐かしい記憶が駆け巡り、そしてまた一瞬で抜けていった。遠い何処かでよく似た味を食べたような気がして、陸人は何故か衝動的に泣きたくなった。

 

「りっくん? もしかして何か失敗してた?」

 

「……いや、なんでもない。すごく美味しいよ、ありがとう」

 

 時折ある不意の既視感。振り返っても思い出せる手応えがないこの感覚は、記憶のない陸人を度々振り回している。

 

(もしかしたら、前の俺にもいたのかな……チョコをくれるような女の子が……)

 

 もしそうなら、その子は今頃どうしているのだろう。思い出せないままのんびり生きていることが、ほんの少し後ろめたくなった陸人だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

(えぇ……なんだコレ……)

 

 夕刻、陸人宛に届いたクール便。中には複数のチョコが詰まっていた。ナッツチョコ、イチゴチョコ、ガトーショコラにやたらと硬いビターチョコ。別の包みには何故か野菜とチョコレートファウンテンの機材が入っていた。どういうチョイスだ、と陸人をしてツッコミを入れざるを得ない。

 

(宛名もない……どうやってここに届いたんだ? ……これは)

 

 包みをひっくり返すと、女の子らしいカード。そこには見覚えのある文字でシンプルなメッセージ。

 

 "Happy Valentine! 〜感謝と親愛を込めて〜Dear my hero "

 

「そうか……あの子が」

 

 やはりチョイスが意味不明ではあるものの、とりあえず差出人は分かった。顔も知らない相手だが、それでも陸人は嬉しかった。またも既視感を感じながら、一つ一つ味わって陸人はバレンタインを楽しんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「無事届いたみたいだぞ。あのプレゼント」

 

「そっか〜、良かった〜。ありがとうミノさん」

 

「しかし、なんだってあんな訳のわかんない取り合わせだったんだ?」

 

「ふふん、神様が教えてくれたんだ〜。あれがりくちーの思い出の味なんよ〜」

 

 匿名でバレンタインチョコを渡したスイレンの少女は、満足げな顔で神樹への感謝を捧げた。

 

 

 

 

 

 

 

 




ちょっと神世紀勢が短めですが、久しぶりの西暦組に焦点を当ててみました。
神世紀の時系列的には中学1年のバレンタイン。ゆゆゆ編6話と7話の間辺り。そのっちのことはおぼろげに把握して、まだ勇者関連のゴタゴタが表面化していないタイミングです。
前書きにも書いた通り、西暦の時系列はうまいこと噛み合わないのでもしかしたらの世界線、どこかの2月14日ということでお願いします。
この番外編もあって、今週は忙しくて投稿できないかもしれません。申し訳ない……

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに


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