A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
前話を書き上げ、投稿してから読者として読み直してみて……あらためて「神様転生、転生特典」などと呼ばれる手法が流行る理由が分かりました。
書き手としてアレほどクロスさせやすいやり方はありません。好きな能力、好きなキャラを無理なく(原作の世界観を考えると転生とかいうワードが出てくる時点で無理がある、という意見もあるかもしれませんが)好きな作品世界に投入できる。
書き手が書きやすい≒読み手が読みやすいともなります。この作品のように、無理に整合性に拘って世界観を広げて伏線もどきをばらまいて結果長引くということにもなりにくい……
なにが言いたいかというと、分かりづらい話にして申し訳ありませんでした。
自分達が戦わなくてはならない敵の強大さと現状の劣勢っぷりを聞かされた陸人は、少し悩むように目を閉じて唸っていた。
事の重大さは理解しているし、不安を感じていないわけでもない。それでも、陸人にとってはそんな明日以降の話よりも優先すべきことがある。
泣いている誰かの涙を止めたい。笑顔になってほしい。
どれだけ時を重ねても、陸人の根底は変わらない。
「あのさ、この事は誰かに話した?」
「え? ……いえ、陸人様以外にお話しした事はありません。おいそれと広められる内容ではないですし。園子ちゃんにもある程度の事情は教えましたけど、あの子をあれ以上追い詰めるような事はできませんもの」
「そっか……」
(それが、この子が背追い込んできた重荷か)
陸人はゆっくり立ち上がると、かぐやの正面に膝をついて目線を合わせた。
「……えっ、あの……陸人様?」
「辛かっただろ? それだけの秘密を誰にも話せず、1人でずっと打開策を探してきたんだ……お疲れ様、よく頑張ったね」
少し緩やかな口調で、子供をあやすように語りかける陸人。その手はかぐやの頭を優しく撫でている。一本一本にまで神聖が満ちている彼女の髪が柔らかくなびく。
「教えてくれてありがとう。会ったばかりで失礼かもしれないけど、かぐやちゃんと俺は似てる気がするよ」
「私と陸人様が、ですか?」
「うん。気付いた時には特別な力を持ってたこと。それが自然すぎて、普通が未だによく分かってないこと……それから、誰かの負担になるのが怖くて、1人で抱え込んでしまいがちなところもそうかな」
陸人も、アギトがない自分というものを全く知らない。記憶喪失もあって、一般人とは言い難いのも自覚している。バーテックス襲来までの2年弱、人知れずアギトとして戦ってきた点など笑えないほどにかぐやとそっくりだった。
「だけどさ、もう1人で背負い込む必要はないんだ。これからは俺が何でも話を聞くし、やらなきゃいけないことがあるなら力になる。お役目以外でもかぐやちゃん個人の希望だって可能な限り叶えたいと思ってる。だからもう、無理して笑わなくてもいいよ……少なくとも俺の前ではね」
「……でも、私は筆頭で……当主で」
「大切なのは人が君に何を望むかじゃない。かぐやちゃん自身が何をしたいかだよ。自分の心にウソをつくのは、ひどく辛い生き方だから」
「──ッ! ぅぅ……ぐすっ……ぁぁ……!」
決壊したかぐやが頭に乗せられた陸人の腕を掻き抱いて、縋るように抱きしめる。巫女服越しの年齢不相応な柔らかさを感じて、陸人の顔に熱が集まるが、男のプライドでポーカーフェイスを維持する。美森の教育を受けた大和男児、御咲陸人は泣いている女の子に恥をかかせるような真似はしないのだ。
「私、わたしは……生まれつき特別な巫女、だからって……!」
「うん。そうやって、自分を律してきたんだね」
「学校だって行ったことなくて……園子ちゃんを……羨ましく思うことも、あって……!」
「うん。みんなと同じように学校に行って、友達を作って、一緒に遊びたかったよな」
「お父様もお母様も、私が力を使ってお役目を果たすと……喜んでくれたけど……本当は、もっと……」
「うん。普通に勉強やスポーツを頑張ったりして、褒めてもらいたかったんだよな」
「それでも私は知ってしまったから……私が何とかして、未来を見つけ出さなきゃって……こんなこと、誰にも……」
「うん。言えないよな。みんなには他にやりたいことも、大切なものもあるって、そう思って遠慮しちゃったんだよな。分かるよ」
「り、くとさまぁ……!」
何度拭っても止まらない落涙。気付いた時には景色が元の室内に戻っている。幻術も維持できないくらいに脱力しているのだろう。
陸人の肩に押しつけるようにして顔を隠すかぐや。ボロボロに泣き崩れる彼女に配慮して、空いている腕を背中に回して優しく抱擁する。泣き顔を見ずに背中をさすってリラックスを促す。あまり褒められた特技ではないかもしれないが、陸人は取り乱した異性への対応に慣れつつある。
(この暖かさ……そうなのですね、神樹様……あなたが陸人様と話すことを勧めてくださったのは……)
ずっと足踏みしていたかぐやが今回の対面に踏み切ったのは、神樹の勧めがあったからだ。最初は陸人が持つ英雄の力を頼れという意味かと受け取ったが、それは間違いだ。会って話して、大きく暖かく柔らかい魂に触れて、その真意を悟ることができた。
神樹もまた最も身近な人間であるかぐやを心配していたのだ。どうしたって神霊である己では彼女の心を救えないから、神樹は陸人に託した。
「陸人様……良ければ、私とお友達になってもらえませんか……?」
「もちろんだよ! 一緒に笑って、一緒に頑張って、一緒に明日を生きる……俺たちは友達だ」
人を信じる道を選んだ神は、それほどに"陸人"という人間を信じ、認め、愛していた。
「ごめんな。最初から積極的に俺が動いてたら、もっと早く君に出会えてたかもしれない」
「そんなこと……私が、決心するのに時間をかけてしまっただけで……陸人様に何の非があるというのでしょう」
少しずつ落ち着いてきたかぐや。それでも顔は見せないし陸人の腕も離さない。隙間から覗く紅潮した頬と全身の小さな震えを見る限り、今度は自分の羞恥心と戦っているらしい。
なにせ上里かぐやは文字通りの箱入り娘。同年代の異性との交流自体皆無に近い。なのに初対面でここまで密着して涙まで見せてしまった。彼女は今、恥ずかしさで失神しそうになる己を最後の意地で繋ぎ止めている状態だった。
「……あー、落ち着かないなら今日は俺、もう帰ろうか? 外暗くなってきたし。かぐやちゃんも顔を洗って、なんならお風呂とか入ってさ。ぐっすり寝たらきっとサッパリするよ」
一方の陸人も、いつまでもこの体勢に耐えてはいられない。美森ほどのメガロポリスではないにしても、かぐやもまた同学年とは思えない女性的なスタイルをしていた。こうも遠慮なくしがみ付かれては、意識を逸らすにも限界がある。
「……え? もう、行ってしまわれるのですか?」
これ以上心乱れた女子に邪な感情を向けないための離脱の提言だったが、言われたかぐやの表情は捨てられた子犬、なんて可愛いものではない。明日世界が終わると宣告されたかのような絶望一色。上げかけた陸人の腰は光速で元の位置に戻った。
かぐやの反応は無理もない。ずっと心の底で求めていた理解者、自分が握る秘密の全てを明かしてもいいと思える相手に出会えたのだ。その上、筆頭巫女へのお目通りというのは大社職員であっても容易なことではない。根本的には部外者の陸人が、会いたいからと簡単に訪れることができる場所ではないのだ。
「だ、大丈夫! さっきの言葉は嘘じゃないよ。ここまで案内してくれた人が、別れ際にこの部屋直通の裏ルートを教えてくれたんだ。時間は選ぶ必要があるけど、これで前よりもずっと簡単に会えるだろ?」
ここまで来る際に、いつもと明らかに雰囲気の異なる道筋を辿って最上階まで上がってきた。この邂逅が大社の大多数にとって内密であることは陸人にも察せられた。
陸人を案内した大社職員は顔を隠した篠原真由美。去り際に"必要な時にはご自由に"と渡されたメモとカードキー。おそらくトップクラスの秘匿事項だと思われるが、事情を把握するまでの彼はこれは受け取っていいものなのかと戦々恐々だった。
(そうですか……真由美さん、あなたも信じてくれたのですね。陸人様のことを……)
これまでの陸人の経緯。信頼する筆頭巫女の太鼓判。更に真由美はかぐやから西暦の英雄の正体も明かされている。その分の評価も加わっているのだろう。そして何より──
(裏に小さく書いてあった"息子を助けてくれてありがとう"ってなんだろう? 先月の戦闘で、家族が街にいたとかかな?)
どれだけ手を尽くしても目を覚まさなかった愛する息子が起きるキッカケをくれた陸人。素性を伝えて正面から感謝ができない真由美なりの、お礼の品だったりするのかもしれない。
懇願するかぐやに負けて、翌日もその次の日も陸人は彼女の私室を訪れていた。張り詰めていた糸が切れたのか、陸人に対しては少しずつ甘えるような態度が目立ってきたかぐや。一方の陸人もそろそろ美森の訝しげな視線を振り切って家を出るのが厳しくなってきていた。
「むっす〜」
「えっと、その……どうしたの? 園子ちゃん」
更に陸人から連日の逢瀬を聞き出した園子も参加してきた。しかも乱入早々何やらご立腹。園子ほど見目が整っていれば怒った顔も可愛らしいが、いつまでも擬音しか口にしない少女が目の前にいるのは精神的によろしくない。
「ふ〜んだ、りくちーなんて知らないもん。いつの間にか私のお友達のかーやんと仲良しになっちゃってさ。かーやんもかーやんだよ。りくちーとお話しするなら私にも教えてくれればいいのに」
「ふふ、ごめんなさい園子ちゃん。でもその日は園子ちゃん達も大事な約束があったから」
「む〜……それはそうなんだけどさ〜」
「そ、そうそう。美森ちゃんからは聞いたけど同期会、でいいのかな……どうだった? 楽しかった?」
「楽しかったよ〜! そりゃもう楽しかったさ〜……だからこそさ〜、私はりくちーにも来て欲しかったんだよ〜」
「あはは……でも俺は君達が一緒に戦ってた頃にはいなかったからさ。お邪魔はしたくなかったんだよ」
「それでも今やりくちーは私達先代組とお友達なわけだし〜? 参加してくれても良かったと思うわけですよ〜……なのにりくちーときたら〜! 知らない間にかーやんまで〜!」
「え、えぇぇ……? かぐやちゃんまでってどういうこと?」
何を言っても園子の膨れた頬は戻らない。戯れに突いてみようかと指を伸ばすと、機敏な動きで回避される。予想外の形でリハビリの順調さを見せつけられることになった。
「うふふ……園子ちゃん。楽しいのはよーく分かるけど、これ以上続けたら陸人様が可哀想よ」
「ありゃりゃ、やっぱかーやんは分かっちゃうか〜」
「え? ……え⁉︎」
「ごめんね、りくちー。ちょっと一回やってみたかったんだ〜、"この泥棒猫! "とか言っちゃう昼ドラみたいな修羅場ごっこ〜」
やけに可愛らしい修羅場もあったものだが、園子的には満足の芝居だったらしい。手元が見えない速度でペンを走らせている。新作の構想を練っているようだ。
「いやはや冗談はさておいて〜、実際の所私は安心しているのだよ〜。りくちーがかーやんの心を軽くしてくれたみたいでね」
「そうなの? 特別なことをしたつもりはないけど」
「そんなことないよ〜。りくちーに会う前のかーやん、私にも敬語だったもん。きっと少しずつ楽にしていこうって思ったんじゃないかな〜?」
「へぇ……じゃあやっぱりかぐやちゃんにとって1番心許せる友達は園子ちゃんってことじゃない? 俺には敬語のままだし。出会ったばかりだから当然っちゃ当然だけどさ」
(う〜ん、それはそうなんだろうけど……りくちーに関してはどうなのかな〜?)
お茶を淹れ直しにかぐやが席を立って2人きりになる。サッと肩を寄せて内緒話の体勢に移行した園子が、心からの安堵がこもった声で囁く。彼女自身ずっとかぐやのことは気にかけていたのだ。同時に身体の半分を供物にしてしまった自分では友達の支えにはならないことも理解していた。だからこそずっともどかしかった。
「俺はたまたま立場やタイミングが良かったんだ。当たり前のことをしたら、それがあの子を少し楽にしてあげられた……それだけの話だよ」
「……"それ"を当たり前だって言い切って実行できるのが、りくちーの凄いところだと思うけどな〜」
なんてことない風に言う陸人だが、誰にでもできるかと言うと園子には疑問が残る。あれほどの秘密を……自分の命にも関わる重大事を告げられた直後でも、初対面の少女を優先して、彼女の心を見つめ続けて誰もあげられなかった"1人じゃない安心感"を与えた。
「お茶が入りましたよ。陸人様が持ってきてくださったお菓子も」
「ああ。かぐやちゃんがお菓子の類をほとんど食べた事ないって言ってたから。今日はお茶に合う和菓子を厳選してきたよ。口に合えばいいんだけど」
「ありがとうございます、陸人様。いただきますね」
園子からみた限り、陸人とかぐやは友達……兄妹のような間柄まで一足飛びに進展していた。陸人は言わずもがな。実は相当な世間知らずであるかぐやもまた、異性とどうこうといった発想自体がないようだ。2人とも恋愛というものと自分を結びつけて考えないタイプ。おかしなところでよく似た2人だった。
初めての関係に、かぐや本人もどうすればいいか分かっていないのだろう。そんな初々しく愛らしい情動をもたらしたのも陸人だ。
(きっとりくちーだからできたこと。やっぱりこの人は"ヒーロー"だよね〜……ちょっと複雑だけど〜)
「園子ちゃん、どうかした?」
「んーんっ! りくちーがいてくれて良かったな〜ってね」
分かってはいたが、彼は自分だけのヒーローではない。そんな複雑な乙女心を笑顔で覆い隠して、手元のメモ帳を1ページ破いて隠す。握りつぶしたページに書かれた最後の言葉──『嫉妬』
「でもでも〜、やっぱりナイショにしてたのはいかんと思うわけですよ〜。だから、今度は私の部屋にも遊びに来てね〜?」
園子は自分が案外普通の女の子だったことに、小さく安堵していた。
「ふ〜、結局今日も何事もなかったな。1日訓練場で終わっちまった」
「なんだ、問題が起きてほしかったのか?」
「そうじゃねーよ。ただ、長いこと音沙汰ねえのは何かの予兆かって考えちまうんだ。志雄も同じだろ? だから今日訓練に誘ってきた」
「まあな。一月前の事件は確かに最大級の規模の戦いだった。しかしアレが全ての終息だとは思えない。だから大社も僕達のプロモーションなんて回りくどいやり方を選んだんだろう」
訓練終わりに外食に出た鋼也と志雄。空きっ腹にうどんをぶち込んで、今はそれぞれの居所への帰り道。
「あー、アレな。マジで勘弁してほしいぜ。なんだって変身して写真撮られなきゃなんねえんだか」
「全文同意だが、実際に民衆の動きは落ち着いてきている。全てに決着がつくまでは我慢するしかないだろう……なんだ?」
四方山話をしながら歩く2人の背後で、ナニカが高速で横切っていった。
「今の……鋼也、見えたか?」
「いや、気のせいかと思ったが……志雄も感じたか」
アンノウンであれば鋼也は察知できる。そしてあの影の速度は明らかに人間のものではなかった。
「……追うか?」
「時期が時期だ。火種は速やかに潰すに限る」
気配が去って行った方角に走り出す。人気のない方向に向かう気配に、2人は警戒心を強めていく。そして数分駆け抜けた先の行き止まりに行き着いた。
「よく来たな。篠原鋼也、国土志雄」
後ろから追っていたはずなのに、背後から響く男性の声。身構えながら振り向くと、そこには先日墓地で出会った男性ともう1人、かつて毎日のように顔を合わせていた女性が立っていた。
「アンタは、香の……!」
「雪美、さん……なんで……?」
「久しぶりね、香の葬儀以来だから……6年ぶりになるのかしら?」
凍ったような眼はそのまま、口元だけで薄く微笑む白衣の女性、
「鋼也くんも志雄くんも、大きくなったわね……それだけの時が経てば、素顔で会うのは年に数回程度だったこの人に気づかないのも無理はないか」
雪美の隣に立つ男性がサングラスを外す。改めて素顔を見たことで、志雄の古い記憶が想起される。
「そうか……あなただったのか、哲馬さん……」
「そっちは香の親父さんだと……? 何がどうなってんだ」
「久しいな。特に篠原の……長く眠っていたと聞いたが、問題はないようだな」
たくましく鍛え上げられた長身に、痛みきしんだ薄茶色の髪。当時の英雄候補達の教導官でもあった香の父親、
「何故、あなた達がここにいる……今までどこにいたんですか?」
「質問に答えてあげたいところだけれど……先にこちらの用件を済まさせてくれない?」
「用件……こんな時間にコソコソ寄ってきて、俺達に何をしろって?」
「簡単なことだ……2人とも変身しろ。全力を以って俺と戦え」
「……なに?」
「哲馬さん、あなたは何を言って……」
目の前にいるのは間違いなく人間だ。ギルスやG3-Xの力を振るう相手ではない。それでも、2人は哲馬から溢れる押しつぶされんばかりの重圧に、構えを解くことができなかった。
「この姿ではその気になれんのは当然か……」
(っ! この感じ……まるで陸人みたいな)
(なんだ、あのベルトは……?)
哲馬の腰に突如として表出したベルト。中心の目玉のような霊石は、アギトやギルスと同質の力が満ち溢れている。
「……変身……‼︎」
一瞬の発光の後に現れる、仮面の異形。Gシリーズとは違う、有機的な身体。意匠はアギトやギルスに近いが、その二種よりもマッシブで力強いフォルム。全体的に深緑のボディに対して、差し色のように目立つ朱色のマフラーが風にたなびいて闇夜を切り裂く。
『アナザーアギト』
発展途上のまま顕現してしまった鋼也のギルス、覚醒に至る経緯が人間とは異なる陸人のアギトとはまた別の、新たな一歩を踏み出した革新者。娘を失った父親の慟哭。その大きすぎる絶望の爆発に引き寄せられて、香の身体に残っていたアギトの光の残滓が取り付いて発現した戦士。
「明日の本命に向けて、お前達で力を確かめたい……相手をしてもらうぞ」
「くっそ、訳わかんねえ……けど、変身っ‼︎」
「なんでだ……なんで、こんな……!」
「志雄、とにかく今はやるしかねえ! お前も聞いたろ……明日の本命って。どう考えても見過ごしていい計画じゃないのは確実だ、だから……」
「……そうだな。ああ、分かってるさ……変身!」
戸惑いながらも臨戦態勢に入った鋼也と志雄。アナザーアギトは満足そうに頷くと、両手を広げて緩やかに構える。
「それでいい。始めようか……その力を見せてみろ!」
G3-Xがスコーピオンで足元に牽制射撃。その全てを回避して、アナザーアギトは高く跳躍、両足を広げたドロップキックで、2人同時に蹴り飛ばす。
(この力、ハッタリじゃねえ……!)
(パワーで言えば僕達より上……陸人にも負けてない)
立ち止まることなくアナザーアギトが懐に飛び込んでくる。ギルスの角をガッチリ掴んでからのニードロップ。仰け反った敵の首を掴んでネックハンギング。ダーティで荒々しい戦術で、瞬く間にギルスを追い詰めていく。
「鋼也を離せ!」
ミドルレンジからスコーピオンを連射。両腕が塞がっている状態では回避も防御もできない、必中のタイミング……のはずだったが。
「なんだ、弾かれた……?」
「あら、来てしまったのね」
「……余計なことを……」
上空からの射撃で、全弾叩き落とされてしまった。弾丸で弾丸を撃ち落とす。そんな曲芸をやってのけた黒い影は、アナザーアギトとG3-Xの間に着地……いや、墜落と言っていいほどの速度で落下してきた。
夜空に溶け込む漆黒のボディに、妖しく輝く青の双眼。G3とG3-Xの中間のようなフォルム。左肩部には"G4"の刻印。これらが示す真実は1つ。
「まさかGシリーズ? 馬鹿な……僕は何も……」
「ケホッ……おいおい、次から次へと……勘弁してくれよ」
Gシリーズを形にできるのは小沢真澄ただ1人。そして彼女はプロジェクト関連の進展については、必ず志雄にも共有してくれていた。
それでも、目の前にいるのがGの系列であることは明らかだ。長く計画に携わってきた志雄だからこそ確信が持てる。
『GENERATION-4』
G3と同じく人間が装着するパワードスーツでありながら、人体への負担を一切考慮せずに設計された戦闘特化型。普通の人間ではまず耐えられない"AIによる完全自律制御"を採用しており、『システムが装着者というパーツを利用して戦う』という逆転した設計思想で完成した最強のGシリーズ。
「来るなと言ったはずだが……」
「いいじゃない。私も最終調整ってことで」
どこか重苦しく声をかける哲馬に対して、片手をヒラヒラと振って軽く返すG4。その声は、見た目の印象に反して年若い少女のものだった。
「………………ぇ?」
「今の声……」
怒涛の展開についていけずにいた2人が、G4の声を聞いて静止する。少し変化してはいたが、その声、その語調。かつては毎日のように聞いていた
「さてと、せっかく来たんだから……楽しませてよ、ねっ‼︎」
「──っ! クソッ……」
背部のスラスターを吹かせて飛翔、突撃を仕掛けるG4。G3-Xオリジナルの革新的な武装だったはずの飛行機能だが、G4も当たり前のように使いこなしている。
「志雄っ……そこをどけっ!」
「予定は変わったが、まあいい。ギルスの進化がどれほどのものか、見せてみろ!」
「なんなんだ……なんなんだよっ、どいつもこいつも‼︎」
理解できないことが多すぎる。こういった不明瞭な状況が嫌いな鋼也は、それでも自衛のために爪を振るうしかない。今戦っている理由も分からないままに。
1日の業務を完了して、自室で休んでいた真澄。今日はもう寝てしまおうかと時間を確認したところ、様々なデータを管理するために複数所持している端末の1つがアラートを鳴らす。
(なにが…………G3-Xが起動してる? でも、樹海化もアンノウン出現も感知されていない……)
システム管理者である真澄の元には、G3-Xの起動状態がリアルタイムで送られる。戦闘の予兆もなく、訓練時間でもない。間違いなく異常な何かが起きている。
(この時間だと、大社の人員を動かすのは難しいわね。あまり頼りすぎるのは心苦しいけど……)
志雄は鋼也と一緒にいたはず。だとすれば、現状で連絡できる人物は──
(この動き……スペックが違いすぎる……!)
「ホラホラどうしたの? そんなものかなぁ、G3-X!」
武器を格納しての肉弾戦。黒い乱入者は、志雄を完全に圧倒していた。大きく弾き飛ばされたG3-Xが、飛び退きながらスコーピオンを展開、カウンターの8連射を浴びせるが……
「冗談じゃないぞ……」
「アハッ、もしかして今のが通用すると思ってた? う〜ん、ナメられちゃってるなぁ」
不安定な姿勢からの射撃だったが、それでも全弾正確に胸部直撃コースだった。しかしG4はその全てを十指の間に挟み込んで止めてみせた。いくらシステムアシストが優秀であったとしても、人間の感覚神経でできる業ではない。
(さっきの射撃といい、まさか……!)
「気づいた? そう、私のG4は最高スペックのAIで制御されている。あなたの"EXCEED"、だっけ? アレを常時使ってると言えば分かりやすいかな」
効率的すぎて装着者の限界を超えた稼働を強制するシステム。その一点さえクリアできれば、破格の戦闘力をもたらす諸刃の剣だが……
(あり得ない……あの真澄さんですら時限式で妥協するしかなかった力だぞ。いったいどうやって安定させてるんだ?)
世紀の大天才が不可能と判断した完全AI制御の安定稼働。それの例外である不可能の結晶が、余裕を示すように駆動音を鳴らす。
「つーまーりぃっ‼︎」
「グッ……ぅおあっ!」
一瞬で懐に詰め寄り、鞭のように鋭くしなる前蹴り。間一髪両腕でガードしたG3-Xだが、その出力差は絶大。ガードの上から跳ねあげられて大きな隙を晒してしまう。
「あなたでは私に勝てない‼︎」
大きく踏み込み、大きく振りかぶり、大きく殴り込む。G4の全力を込めたストレートが、空中のG3-Xに直撃した。
「──ってことだよ、理解したかな?」
「……ぐ、くそ……」
真っ直ぐに数メートル吹き飛ばされたG3-Xは端末に走った衝撃で変身解除。志雄も立ち上がれずにもがくしかない。
もう一方の戦場。攻め込んでいるのはギルスだが、追い込まれているのもまたギルスだった。力で負け、防御力は元来高くない。挙句自慢のスピードも完全に見切られていた。
(まだだ、まだ加速しろ……! 敵の反応を超えろ!)
「それが全力か? だとしたら、拍子抜けだな」
ピンボールのように敵の周囲を跳ね回り、切り返すごとに加速して翻弄する、ギルスの得意技。しかしアナザーアギトの眼は正確にその姿を捉えている。
「こんのぉぉぉっ‼︎」
「手が詰まれば遮二無二斬り込む……やはり若いな」
トップスピードに乗ったギルスが、真後ろから飛びかかって必殺の爪を伸ばす。『ギルスヒールクロウ』がアナザーアギトの肩口に向かい──
振り返ったアナザーアギトの左脚が、ギルスの脚を蹴り止めた。
「見切られた……?」
「甘いな……!」
アナザーアギトの足下に紋章が浮かび、光となって右脚に宿る。その怪しい緑色に、悪寒を感じたギルスが退がろうとしたが一手遅かった。
「弾け飛べ、ギルス!」
アギトのライダーキックに劣らぬ必殺の右脚『アサルトキック』が炸裂。脇腹に叩き込まれたギルスは、きりもみ回転しながら吹き飛んでいく。
「ガハッ……やばい、いいのもらっちまった……!」
志雄の近くに落下したギルス。変身も解けて、同じくなす術なく倒れ伏す。
神世紀が誇るヒーローが2人、突然の襲来者に完全敗北を喫してしまった。
「ふむ、まあ最新のデータ取得としては十分かしら」
「えー? もう終わり?」
「そもそもお前に来いとは言っていない」
「もー、つれないなぁ。
「「……っ⁉︎」」
G4の無邪気な言葉が、振り切った疑念を再燃させる。突如現れた父親と母親。過去を思い出させる少女の声。そして共に鍛えた日々によく見た動き。これ以上否定するのは不可能だった。
「はぁ〜ぁ、分かったよもう。それじゃ最後にご挨拶だけして帰ろっか。挨拶する時はちゃんと顔を見せないとね」
「っ! 待ちなさい!」
「よせ、その必要は……」
「はい、ポチッとな!」
雪美と哲馬の制止を無視してG4が変身を解除する。その仮面の奥で笑っていたのは、鋼也と志雄にとって最も会いたくて、最も見たくない顔だった。
両親譲りの肌と髪。記憶の中よりもずっと大きくなった身体。かつては性差も感じない幼い身だったが、目の前にいるのは明確な"女の子"の姿だった。
「ふざけんな……冗談にしたってタチが悪いぞ!」
「なんでだ、なんで君がいるんだ……香っ‼︎」
「ふふっ、なんと私でした〜……あれ? どしたの2人とも……あっ、そっか。ずいぶん久しぶりだもんね、ビックリしちゃったかな。
笑顔で敬礼のポーズを取る少女、沢野香。死んだはずの彼女が、6年の時を経て成長した姿で、古い友の前に突如現れるという異常事態。
大社始まって以来の大事件が発生する、12時間ほど前のことだった。
この章の本筋を握るのはこの3人です……オリキャラ主導で話を作るのは非常に難しいのですが、始めてしまった以上形にせねば……
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに