A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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ここからはバトルバトル&バトルです。

試験期間につき、来週は投稿お休みさせていただきます。もしかしたら再来週も難しいかも……ハンパなところで申し訳ありません。
 


人間VS人間

「……うーん、やっぱ運転席に人がいねえってのは違和感がスゲーな」

 

「ひとりでにハンドルやペダルが動くのはどうにもな……だが小沢さんの話だとこれくらいの技術はそのうち一般に広がってもおかしくないらしいぞ」

 

「まあ確かにG3-Xが空を飛ぶわけだからな。固定観念にとらわれてはいけないってことかも」

 

 作戦を詰めて出撃した3人のライダー。しかし彼らは個別の移動手段を持っていない。かといって非戦闘員を伴えば諸共に狙われる危険がある。そこで真澄が急遽用意したのが予備のGトレーラー、そこに自動運転システムを組み込んで本部まで直行することに。

 

 

 

「現着まであとどんくらいだ?」

 

「そろそろ用意したほうがいいかな、もう見えてきたし」

 

「……しかし、この量は詰め込みすぎたんじゃないか? というか()()を使うこと自体僕は反対なんだが……」

 

 普段は修理やオペレート用の機器が並んでいるトレーラー内部には、なんとか3人が座れるだけのスペースを残してコンテナが詰め込まれている。積載限界ギリギリまで敷き詰めた貨物の中身を知っている志雄としては、うっかり開いてしまいそうで気が気でない。

 

「まあまあ、数で負けてるこっちはできるだけ派手に意表をつく必要があるんだって、小沢さんも言ってただろ?」

 

「なんだよ志雄、ここにきてビビってんのか?」

 

「ハァ、もういい……文字通り乗りかかってしまった以上、言うだけ無駄か」

 

「そうそう、ここまで来たらやるだけやるさ。俺達には後がないんだからな」

 

 状況は圧倒的に不利。これをひっくり返すためには、手段を選んでいる余裕はなかった。そしてもうひとつ、陸人には気になることがあった。

 

(モニターで見る限り、なんでか本部の辺りだけやけに雲が分厚い……というか、全体の空気が淀んでるような。かぐやちゃんが言ってたのってそういうことか?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 制圧された大社本部の会議室。そこには実行犯リーダーの哲馬と雪美が、1人の捕虜と対面していた。

 

「なるほど、今の大社にも少しは鼻が効く人材が残っていたのかと感心していたが……お前か、篠原」

 

「ふふん、お久しぶりね沢野くん、雪美ちゃんも。言いたいことはいくらでもあるけど、とりあえず元気そうで良かったわ」

 

「ふふ、真由美さんもね。長く眠っていたそうだけど、相変わらず若々しくて羨ましいわ」

 

「そういう雪美ちゃんはちょっとやつれたわね。私も憧れた美白が蒼白になっちゃってるじゃない、ちゃんと気を使わないと」

 

「そうね、もう何年もそういうことには気を向けてこなかったから……事が済んだら考えてみるわ」

 

 椅子に手足を縛り付けて拘束されているのは篠原真由美。鋼也の母親として、哲馬や雪美とも親交が深かった大社職員。かぐやを園子に任せた後、追手を止めるためにV1相手に脇差一本で大立ち回りを演じた女傑でもある。

 

「その事、ってのをまずやめて欲しいんだけど……この状況じゃ聞いちゃくれないわよね。10年来の友達に拘束されるなんて悲しいわ」

 

「ごめんなさいね。あなたは放っておくと色々余計なことをしそうだから」

 

 真由美は長年の友人として飾らない態度で接しているが、対する雪美達の反応は驚くほど無機質。言葉こそ返してはいるが、表情も態度も一貫して無感動。これも目の前の人物を警戒しているからこそだ。いくら拘束したといっても油断できない。先代"麒麟児"は侮れないのだ。

 

 

 

 

 なんとか彼らの目的を聞き出そうとする真由美と暖簾に腕押しの哲馬達。押し問答が続く中、突然施設中に警報が響き渡る。

 

「……来たわ、予定通り3人揃って近づいてる」

 

「よし、ここからだな……初手は任せるぞ」

 

「ええ、分かってる。全力でお出迎えさせてもらうわ」

 

 敵襲の報を聞き、部屋の出口に向かう2人。残された真由美は慌てて止めようと声を上げる。

 

「ちょ……ちょっと待ちなさいよ!」

 

「……篠原、お前に危害は加えない。ただし邪魔をされても迷惑だ。ここでジッとしていろ。状況はモニターで確認できるようにしておく」

 

「ごめんなさいね、真由美さん……あなたのところの鋼也くんたち、少しお借りするわ」

 

「……最後に聞かせて。あなたたちの目的は何? 香ちゃんの復讐? それとも……」

 

「……今はまだ言えんが、見ていれば分かる……その答えを出すのは俺たちではないかもしれんがな」

 

 意味深な言葉を残して立ち去る2人。真由美には、その背中が実際の距離以上に遠く見えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大社本部は市街から少し離れた平野を開発して作られた複合施設だ。本庁舎である高層ビルに、研究、開発、実験、修行、生活スペースといった関連施設が付近に散りばめられて一個の空間となっている。

 その敷地を巡回している複数のパワードスーツ、"V1"。一体一体が特殊バイク"G2-X"に乗って、広い敷地をカバーしている。

 

 その内の一体が、高速で接近してくるトレーラーを視認、その上には3つの影。

 

「見えた……やはりかなりの数だな……!」

 

「ハッハァ! んなの分かりきってたろーが、とにかく突っ込むんだよ!」

 

「ああ。翔ぶが如く、ってな!」

 

 どんどん加速するトレーラーと、それに乗った最警戒対象。目撃したV1は即座に周囲の仲間に通達した。10体ほどで陣を組んで一斉に迎撃にかかる。

 

「ハッ、きたきたきたぜぇ!」

 

「っと、本当にすごいなこのオートパイロット……回避も完璧とは」

 

 正確な射撃を大きな車体からは想像できない運動性で回避するトレーラー。真澄謹製のプログラムに隙はない。迎撃をかいくぐって敷地に突入する陸人たち。敵陣のど真ん中にトレーラーが突っ込む、その瞬間……

 

「──今だ、飛べっ!」

 

 荷台の上に乗っていた3人が同時に飛び降りる。トレーラーはそのまま突入、そして──

 

 

 

 V1が密集した地点で荷台が大爆発。大量の爆薬が炸裂して警戒網をズタズタに引き裂いた。その爆炎の規模は凄まじく、密集隊形を組んでいたV1部隊の内18体が飲み込まれて吹き飛んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 爆風に煽られながらもなんとか着地した3人。残ったV1部隊が囲むように動き出す。

 

「やっぱりあの火薬量は多すぎだろ! 裾が焦げたんだが⁉︎」

 

「バーカ、お前がトロいのが悪いんだよ。俺の服は無傷だぜ」

 

「ハイハイ、その辺の文句は小沢さんに言ってくれ……行くぞ」

 

 3人で背中合わせに円陣を組む。多少数は減らせたが、まだまだV1はこちらを包囲するくらいは余裕でできる。

 

「予定通りだ。ここからが本番だな」

『G3-X All safety release』

 

 襟元を正して端末を構える。いつもの機械音声が志雄のスイッチを切り替えた、

 

「ああ、分かってる。俺がコイツらを抑えて──」

 

 目を閉じて足を開く。陸人の内にある力が呼応し、ベルトが表出した。

 

「俺と志雄が内部に突入、分かってんよ。ちゃんと役目はこなすさ」

 

 深く息を吐いて両腕を交差する。鋼也の意識が切り替わり、緑の光がその身を包んだ。

 

 

 

 

『────変身っ‼︎────』

 

 

 

 無限の力を引き出す可能性の化身。仮面ライダーアギト。

 強い意志によって進化する突然変異。仮面ライダーギルス。

 人の叡智が生み出した科学の結晶。仮面ライダーG3-X。

 神世紀を生きる3人の勇士が並び立って降臨した。

 

 

 

 

 

 

「よしっ、行け2人とも!」

 

 ライダーパンチで地面を砕いたアギトが、包囲網に穴を開ける。G2-Xには悪路走行能力ももちろんあるが、突如発生した地割れには対応できない。

 

「シャアアアアッ‼︎」

「G3-X、突入する!」

 

 その穴を突いて、ギルスとG3-Xが包囲を突破。敵の主力がいる本庁舎ビルの外壁に風穴を開けて、内部へと突入していった。

 

 

 

 

 

「俺は上、みんなが閉じ込められてる講堂だ」

 

「僕は地下、神樹様に繋がるゲートを死守する」

 

 突入を成功させたギルスとG3-X。ここからは個別に動く作戦だ。掌握された本部の奪還と神樹の守護。この2つを同時にこなさなければならない。隠しカメラでの偵察から、お互いの相手がどこに配備されるのかも把握していた2人は予定通りに分担を確認する。

 

「ヘマすんなよ、誰か1人でも負けたら終わりなんだからな」

 

「君に言われるまでもない」

 

「……あの日のケジメは、俺とお前でつけなきゃならねえ」

 

「……その通りだ。必ずこの手で……!」

 

 2年前の事故、2人にとっては生涯付いて回る悲劇の記憶。今回の敵はその亡霊とも呼べる者達だ。この決着だけは、誰にも譲るわけにはいかなかった。

 

「デクに用はねえんだよ……そこをどけぇっ‼︎」

 

「加減している余裕はない……怪我をしたくなければ、引っ込んでいろ!」

 

 反対方向に駆け出し、ビル内に配備されていたV1部隊に斬り込むギルスとG3-X。時間がなく、敵の戦力も未知数。絶望的な攻城戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くっそ……分かっちゃいたが、速いし多い!」

 

 ビル前の広間で多数のV1を相手取るアギト。G2-Xの機動力に翻弄され、一方的に攻撃を受け続けている。風や炎を撃ち出す以外に遠距離攻撃の手段を持たないアギトは、一定の距離を保ちながら射撃を繰り返す敵陣に対処できずにいた。

 

(それにしても、なんだこの読みの正確さは……連携も一切の隙がない。素人にスーツ着せただけじゃなかったのか?)

 

 アギトが振りかぶるのと同時か一瞬早いくらいのタイミングで回避行動を取っているV1。

 陸人の脳内を覗いているかのように、気づけば移動先に回り込んでくるG2-X。

 アギトには見えていない何かが見えているとしか思えない動きで、数と射程を活かした包囲網が追い詰めてくる。

 

 銃撃をしのぎながら、近づいてきたV1をカリバーで斬りとばすアギト。数を一つ減らすごとにそれ以上のダメージを受けていては、先に力尽きるのはどちらか、考えるまでもない。

 

『ふふふ……さすがにあなたでもこの状況では上手く立ち回れないみたいね』

 

「この声……沢野雪美さんか! どこに……」

 

「ここよ、ここ」

 

 戦場のすぐ近くに停まっていたトレーラーの荷台が開く。その中には、大規模な演算装置と、それに囲まれて特殊なシートに腰掛ける雪美がいた。彼女の頭部にはSFチックなヘッドギアが装着されていて、そこから延びるケーブルは周囲の装置と直結していた。

 

「なんだそれは……直接戦闘能力を持たないあなたが、何故戦場にいる?」

 

「賢いあなたなら、想像はつくんじゃないかしら……このシステムこそが私の切り札よ」

 

「それこそが……まさか、指揮管制システム?」

 

「そう、私の脳と演算装置で弾き出した予測に従って動いているの。擬似的な未来予知と言ってもいいわね」

 

 各G2-Xから送られてくる膨大な情報量。その中から必要不必要を雪美の脳で選別処理、必要な情報だけをスパコンで演算。このプロセスを可能な限り高速で行えるように調整して、リアルタイムで予知に近い予測を可能としたバックアップ機能。『GENERATION2-EXPECT』の根幹だ。

 

 それこそが烏合の衆を一級品の部隊に仕立て上げた秘密。数十の兵士が一つの思考に従って動く。個を持った存在である以上不可能な絵空事でしかなかったはずだった。しかし、罪爐の侵食で意思を限りなく薄弱にされているV1装着者達ならば、機械的な思考の一部に徹することもできる。

 これが沢野雪美が研いで極めた到達点。小沢真澄とは違う、もう一つの革新の形。

 

「それからもう一つ教えておくと、V1の中にいるのはあくまで普通の大社職員よ。穢れに打ち勝つ強さがなかったから呑まれてしまった、哀れな人達……優しいあなたは彼らをどうするの?」

 

「っ! それは……」

 

「アンノウンやバーテックスと戦う時と、人間を相手にする時とではあなたの戦意も、戦闘能力そのものもまるで違う……英雄の弱点は先日確かめさせてもらったわ」

 

「なるほど……あの模擬戦、仕組んだのはあなたか」

 

 用意周到とはまさにこのこと。アギトを足止めする役目を買って出た雪美は事前に徹底したデータ収集とシミュレーションを重ねて備えてきた。加えて最新の戦闘記録を取るために、ライダー同士の模擬戦で人間相手のデータまで拾い集めた。表に出る前から、彼女の戦いは始まっていたのだ。

 

 その中で雪美が見つけたアギトの特性、神狩の力。天の神の創造物たるバーテックス。テオスに連なるアンノウン。それら神秘の眷属に対するカウンターとしての力を持つアギトは、彼らを敵にした時に最も強い力を発揮できる。

 根幹がアンノウンやアギトに近いギルスとの戦闘時と、純粋な技術で出来上がったG3-Xとの戦闘を比較して、スペックの差が明確に出たことで初めて明らかになった。これまで陸人はほとんど人間相手に戦闘をしてこなかったため、本人も気づかなかった新事実だ。

 

「あなたほどの人にとっては、優しさは強さなのかもしれない。けれど現実には自分の外側に急所を作る足枷でしかないわ。少なくとも戦う上では捨てるべき不要物よ」

 

 同時に御咲陸人というパーソナリティの急所もついている。人間……それも特段悪いことをしたわけでもない人物を相手に全力で拳を振るえるほど割り切りが早い性格であれば、陸人はこんな面倒な生き方はしていない。

 仲間の手前平然としてはいたが、仮面の奥では人を斬りつけることへの嫌悪感で顔を歪めていた。アギトと陸人、2つの要素にとっての弱点が見事に合致してしまった。

 

 ヘタに力技で圧し潰そうとすればV1を装着している職員に大怪我をさせ、最悪死人を出してしまう可能性もある。そして消極的な戦い方ではV1部隊を抑えられない。

 

(向こうは恐ろしく頭が回る、事前準備も万全だ……さあて、どうしたもんか)

 

 銃撃の嵐を駆け抜けながら逆転の一手を探す陸人。数多の強敵を退けてきた彼ではあるが、これほど相性の悪い相手は初めてだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 職員がまとめて閉じ込められた大講堂。恐慌する彼らを、壇上に腰を下ろして眺めていた沢野香──正確には同じ姿の別存在。そんな彼女に恐る恐る声をかける少女がいた。

 

「……あ、あの! あなたは香ちゃん? いったいどうして──」

 

「んー? ……ああ、国土亜耶ちゃんだ! 久しぶりー、あなたは警戒対象に入ってなかったから思い出すのに時間かかったよー」

 

「っ! やっぱり……香ちゃんとは違う、あなたは誰なんですか?」

 

 幼い時期を共に過ごした故人と同じ顔をしたナニカが突如制圧に乗り込んできた。そんな異常事態でも自身を奮い立たせて立ち上がった亜耶。自分を見つめる香の眼は、昔のような暖かさがまるで無い無機質なものだった。

 

「キミのことは何にも指示受けてないんだよね。だから、殺しちゃっても良いのかな?」

 

「え──?」

 

 微笑みは絶やさず、あくまでも穏やかに淡々と物騒なことを呟く香。その腕が、亜耶の頭に延びて──

 

「──やめろ、何する気だ!」

 

「ここで騒ぎを起こすのは、そちらにとっても不都合なんじゃないか?」

 

 大慌てで飛び込んで、亜耶を背中に庇う銀。

 冷静に香の腕を取って抑え込む春信。非常時慣れしていた2人が、香の気まぐれを阻止した。

 

「あー……お兄さんの方は知ってるよ。気をつけろって言われてる……女の子の方は──元勇者だっけ? うろ覚えってことは多分大したことないんだね」

 

(なんなんだ、コイツ……写真見せてもらった子と、確かに同じ顔だけど)

 

(おそらく異形の擬態。あの人は、こんなことまで許容するほどに……!)

 

「なんでも良いけどさ、自分たちの立場分かってる? あんまり目障りな態度だと──」

 

「何をしている。ここの人員に手出しをするなと言ったはずだ」

 

 まさに一触即発の雰囲気に割って入ってきたのが沢野哲馬。この制圧作戦のリーダー。彼は状況を一瞥すると、鼻を鳴らして忌々しそうに命令を下す。

 

「お前にはゲートの確認とセキュリティの破壊を任せたはずだ。遊んでないで早く行け」

 

「はいはい分かったよ。パパは人使い荒いなあ……じゃあまたね、志雄の妹さんに、鋼也のお気に入りさん?」

 

 最後まで煽るような微笑を浮かべたまま、ヒラヒラと片手を振って去っていく香。見たことのない幼馴染の表情に恐怖を隠しきれない亜耶だったが。

 

 

 

「あ、そうそう。あなたの草履、鼻緒切れそうだから気をつけた方がいいよ。もしここでドンパチが始まって……恐慌のど真ん中で転んだりしたら悲惨だよ〜。その可愛くて小さな身体じゃ余計にね」

 

 振り返りもせず、どうでも良さげに言いたいだけ言うと、今度こそ香は出て行った。亜耶が自分の足を確かめると、確かに履いていた草履の鼻緒が半ばまで擦れていた。

 

「なんなんだ? アイツ……」

 

「分かりません、でも……」

(最後の一瞬、本物の香ちゃんみたいだった。お兄様と鋼也くんについていくだけで大変だった私のことをよく見てくれていた……お姉さんみたいな香ちゃんに……)

 

 屈み込んだ銀が草履の応急処置をする横で、亜耶はもう会えなかったはずの後ろ姿を想起する。あの朗らかな姉貴分とは、同じ笑顔でも明確に雰囲気が違った。それでも根底に染み込むような懐かしさを感じてしまう。彼女が兄達の敵に回っているという事実が、亜耶にはどうしても受け入れ難かった。

 

 

 

「沢野さん……」

 

「ここにいたか、三好。お前も警戒対象だったが、流石にこれだけ足手まといがいては動けんか」

 

 大社所属当時、武官長だった沢野哲馬は若い世代の戦士を幾人も育ててきた。麒麟児の称号を得た三好春信もまた、彼の弟子の一人だ。

 

「あなた達の事情は知っています。行動を起こしたくなる気持ちも理解はできる……だけど、あんな娘の姿形を側に置いていることだけは、それを国土くん達にぶつけようという神経だけは、理解できません……!」

 

「……そうだな、俺もだよ」

 

「……え?」

 

「……お前には関係のない話だ。大人しく座っていろ。すぐに状況は──動いたようだな」

 

 

 

 

 

「──ここかぁぁぁぁぁっ‼︎」

 

 

 哲馬がゆっくりと扉の方へ向き直る。次の瞬間、下の階層の入り口が強烈な衝撃で吹き飛んだ。そこから現れるは野性の仮面ライダー、ギルス。捕らえられた職員達を解放し、哲馬を倒すために一直線にここまで飛んできたのだ。

 

「見つけたぜ……沢野のオッサン!」

 

「想定の時間より30秒早かったな。褒めてやろう」

 

「これだけのことをしておいて……ふっざけんなぁっ!」

 

 講堂の上層に立つ哲馬に向かって飛び上がるギルス。銀達の前に着地し、仲間を隠すように立ちはだかる。

 

 

 

「鋼也!」

「鋼也くん……!」

 

「遅くなって悪いな……銀、亜耶も。バカ兄貴も一緒に来てるから安心しろ」

 

(お兄様も……じゃあやっぱり、香ちゃんと……!)

「あ、あの……鋼也くん! 香ちゃんは……」

 

「亜耶……お前の気持ちも分かる。けど、俺はアレが香だなんて認めねえ。俺にとっての香は、生きてる時も死んでからも、何度も何度も助けてくれた……この胸の中にいるアイツだけだ!」

 

 それは亜耶に言い聞かせると同時に、目の前の哲馬への宣言でもあった。対する哲馬は何の反応も返さず、それでもまっすぐにギルスを見つめて視線を逸らさない。

 

「アンタ、前に志雄に稽古つけてた人だよな? 相当腕が立つと見て頼む。ここの人達を逃がしてやってくれるか」

 

「ああ、任せてくれ。他の武官とも協力して、全員無事に脱出させてみせる……三ノ輪さん、国土さんも手伝ってくれるかな?」

 

「はっ、はい!」

「了解!」

 

 鋼也の頼みを承諾した春信が備え付けの机の足を蹴る。すると足元の地面が開き、バネ仕掛けで薙刀が跳ね上がってくる。非常時に備えて勝手に仕込んだ防衛策の一つだ。

 

「君たちの突入で警備の網も崩れているはずだ。必ず突破してみせる!」

 

 最も得意とする得物を振るって駆け抜ける春信。これなら後ろの心配はしなくて済みそうだ。鋼也は小さく安堵した。

 

「鋼也くん、無理、しないで……!」

 

「自分が正しいって思う道を突き進めよ。それが一番鋼也らしいんだからな!」

 

「ハッ、分かってるよ……お前らも怪我すんなよ!」

 

 避難する人々を彼らに任せて心配の種を一つ解消し、改めて相手に向き合う鋼也。哲馬は逃げ出す者達を止めるでもなく、ギルスに襲いかかるでもなく、ただ黙って成り行きを眺めていた。

 

「放っといていいのか? 人質が逃げるぜ」

 

「構わん。もとより人質などというつもりで集めたわけではない。お前達を誘導するための餌だ。予定通りに事が進んだ今、留めておく必要もない」

 

 それはつまり、今目の前にギルスがいることこそが重要ということになる。決行前夜の強襲といい、どこか非効率な彼らのやり方には疑問が残る。

 

「……ずっと気になってた。アンタ達は何がしたいんだ?」

 

「そうだな、教えてやってもいい。ただし、耐えられればな……変身!」

 

 緑の光を発して顕現するアナザーアギト。静かで厳かなオーラの中に、確かな闘気が満ちている。

 

「昨日と同じと思うなよ? そっちが姿を消してた間、俺も結構な修羅場を超えてきたんだ!」

 

「今も昔も跳ねっ返りは相変わらずか……口先だけで終わるなよ?」

 

「これまでの戦い、アンタの教えで助かった部分もある……その辺の一切合切もこの拳に込めて、仮面の奥の本音を聞かせてもらうぜ!」

 

「良いだろう、最後の稽古だ……俺を超えてみせろ、ギルス!」

 

 短時間で手際良く全員が避難してガラ空きになった大講堂。ギルスとアナザーアギト、二人の超越者が再び激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「かーやん、どう?」

 

「……駄目、やっぱり振り切れてない……こっちに近づいてきてる」

 

 本庁舎から出られず逃げ続ける園子とかぐや。隠れられる場所を転々としながら、なんとか追手を撒こうとしているのだが、そろそろパターンが読まれ始めたようだ。

 

「……せめて勇者システムが手元にあればな〜」

 

 悔しそうに顔を歪める園子の言葉に、かぐやの肩がビクッと跳ねる。昔から素を出している時には全く嘘がつけなくなるのが上里かぐやという幼馴染だ。その分かりやすい反応を、園子が見逃すはずもない。

 

「かーやん、何か隠してな〜い?」

 

「……な、なんのこと? それより早く次の隠れ場所を──」

「かーやん!」

 

 強張った笑顔で誤魔化そうとするかぐやに詰め寄る。今彼女を守れるのは自分だけ。そう思えば、いつもの園子らしくない大声も出てくる。

 

「勇者システム、持ってるんだね〜?」

 

「う、うん……筆頭巫女(わたし)直轄の神官さんが、いざという時の備えに、って」

 

 使用者の園子ではなくかぐやに託されたのは、その身を守るために使えと……かぐやから園子に使わせろと、そういう意味だろう。しかし当のかぐやはそんなことはできない。

 

「でも、駄目だよ。確かにシステムは改修されて、供物の機能は封じられたって報告はあったけど……」

 

 今の状況も考えると、その言葉も信じがたい。仮にその通りだったとしても、園子は必要に迫られればまた無茶をする。少し前までの、欠損だらけの痛ましい親友の姿が忘れられない彼女にとって、それは看過できるものではない。涙をこらえながら懐の端末を隠すように両腕を回すかぐや。その素直な様子に、園子は破顔して右手を伸ばす。

 

「かーやん、心配してくれてありがとね〜」

 

 たまに陸人が自分にやってくれるように、園子はゆっくりかぐやの頭を撫でる。される側のかぐやにとっても、陸人を思い起こさせるその温かさに、張り詰めた心が解れていく。

 

「私はね、身体が壊れちゃった事自体は後悔してないんよ〜。戻る前も、戻った今もね」

 

「園子ちゃん?」

 

「やらなきゃいけないことをやったわけで〜、その結果私は守りたいものはちゃんと守れたからね〜……ただ、ミノさんやかーやんが私を見るたびにちょっと泣きそうになるあの顔。アレだけはダメだったな〜」

 

 友達のあんな顔を見たくて頑張ったわけではない。美森……須美に忘れられたのもあって、園子はかなり参っていた。表にこそ出さなかったが、陸人のことを知らされなければ絶望はもっと長く続いていたかもしれない。

 

「だから約束するんよ〜。今度はもうみんなを泣かせるようなことにはならない。"いつも通りの私"も含めて、全部を守る。そのために戦う」

 

 なんだか陸人に似てきた。園子の宣誓を聞いたかぐやの感想だった。

 大事な友達を守るなら、その心ごと守り抜かなくては意味がない。一度それで失敗したからこそ、園子は大切なことを胸に刻み込んでいる。

 

「かーやんがずっと、大きな秘密に悩んでるのは分かってた……勇者になればそれもお手伝いできるかも、な〜んて思ってたこともあるんだよ〜」

 

「……え?」

 

 唐突に秘密に触れられ、かぐやは絶句するしかない。本当の意味で賢い上に察しも良い園子には、特に気をつけていたのだから。

 

「それが何なのかは分からないし、今更聞かないよ。りくちーのおかげで少し落ち着いたみたいだしね〜……でも、1つだけ分かってることもあるの」

 

「それは、なに……?」

 

「私とかーやんが望む未来は、絶対に同じ方向にある、ってこと! だから2人の、みんなの未来を掴むために……私にできることをやらせてほしいな」

 

 そう言って手を差し出す園子。ここまで言われて拒絶できるほど、かぐやは親友に対して強く出れない。おずおずと懐から園子の端末……勇者システムを取り出して手渡す。

 

「園子ちゃん、やっぱり陸人様に似てきたね……」

 

「おっ? そっかな〜、嬉しいような、嬉しくないような〜?」

 

「2人ともそうだけど、お願いだからもう少し、自分を大切にして……ちゃんと帰ってきてね?」

 

「だ〜いじょ〜ぶ〜! 乃木さんちの園子さんは、マブダチとの約束を破るような悪い子じゃあないんだぜ〜」

 

 園子にできる最大限のキリッとした顔でキメを作る。その様があまりに似合わなくて、かぐやは思わず吹き出してしまう。

 

「うんうん、笑えるなら笑っちゃお〜……それじゃ、私が言うまでここから動いたらダメだからね?」

 

「……はい。偉大な勇者に、神樹様のご加護を……」

 

「いえ〜い、筆頭巫女様のお祈りいただいたし〜? チョチョイのホイッ、だぜ〜!」

 

「そこはチョチョイのチョイ、じゃないんだね……」

 

 どうにもシリアスな空気に耐えきれなくなったのか、冗談を交えながら園子は明るく出ていった。その右手には、再び力を宿したスイレンが光を放っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 隠れていた端末室を飛び出した園子。廊下には1小隊編成のV1達。捕縛対象が自分から出てきたことに一瞬面食らった彼らも、即座に戦闘態勢に移行した。

 

「あなた達も、もしかしたらこんなことはしたくないのかもしれない。耐えきれなかったから、ただ運が悪かったからここにいるだけかもしれない……それは分かってるんよ〜」

 

 一度自身の半分を奪った悪夢のシステム。普通なら、あんな目に遭えば触りたくもないと恐れるだろう。しかし園子は迷いなく端末を構える。

 

「だけどかーやんを狙うなら、あの子を泣かせるのなら、私は戦う。あなた達を倒すよ!」

 

 光が溢れ、花弁が舞う。白と紫の装束を翻し、鮮やかな槍を振りかざす。

 

──勇者になれば、かーやんの力になれるのかな〜? もしそうなら、頑張らないとだね〜──

 

 勇者候補として話を受けた時に真っ先に思い浮かべた最初の希望。乃木園子という勇者の原点。それを思い出して、スイレンの勇者は再臨する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 講堂を後にした香は、地下にある御神体へ続くゲートに向かっていた。そこを塞ぐ霊的結界はかぐやを確保しないことには突破できないが、その前に物理的な警備だけでも解除しておくことが目的だ。

 

(ここを壊せば王手がかかるってわけか……それじゃ早速──)

 

 G4に変身してスコーピオンを展開。手始めに城門レベルのサイズと強度を誇る大門から。狙うは制御パネル。これで開かなければ、面倒だが()()()()()に頼れば良い。

 

 まさに引き金が引かれる、その一瞬────G4の背後から、耳に馴染んだ発砲音が連続して飛び込んできた。

 

「──おおっと、甘い甘い!」

 

 即座に振り向き、同じ数だけ発砲。自身に向けられた弾丸を後出しの射撃で撃ち落とすという神業を軽くやってのける。G4の精密性は尋常ではない。

 

「……それで? 一応聞いとくけど、何しにきたわけ?」

 

 奇襲をあっさり捌ききったG4は襲撃者に気安く声をかける。お前ごときが何をやっても無駄だと、その声は言外に表現していた。

 

「決まっているだろう──邪魔しにきた……!」

 

 対する襲撃者──G3-Xも迷いなく返す。その姿に、弱気も迷いも感じられない。数時間前には完全敗北を喫して大地に伏していたというのに、香は目の前の少年の心情が理解できなかった。

 

「一晩やそこらで何かが変わるとは思えないけど……なんだか自信があるみたいだね、志雄」

 

「自信? 馬鹿を言うな、そんなものあるわけないだろう。僕を散々に負かしたのは君じゃないか」

 

「……じゃあ、なんで志雄は今ここに立ってるのさ」

 

 数少ない仲間とも別れて、1人でここまで辿り着いた。ここにG4がいることも承知していたはずだ。なのに本人は自信もないと言う。()()()()()()()()()()()()()()()()()()香は、いよいよ混乱してしまった。

 

「今僕の中にあるのは自信じゃない。もちろんヤケになってるわけでもない……ここで君たちを止めなければ、何もかもが手遅れになるという事実だけだ。その重大さに比べれば、僕個人の自信の有無なんて考えている場合じゃない」

 

 戦わなければ終わる──だから戦う。

 負けても終わる──だから勝つ。

 

 志雄はそんな子供のようなシンプルな現実1つを支えに、今ここに立っている。世界の終焉を引き延ばすために。旧知の者達の凶行を止めるために。彼らの真実を聞き出すために。

 

「僕は勝つ自信なんかない……だけど、勝つしかないのだから勝つ、そう確信しているだけだ」

 

「……何が違うのか、私にはよく分からないけど……いいんじゃない? 石頭の志雄らしくてさ」

 

「そうやって時折香そのもののような顔を見せる。君についても全部教えてもらうからな……!」

 

「いいよ、楽しませてくれるならなんでも教えてあげる。どうせ最後にはあなただって死んじゃうんだもの。今度は本気で……久しぶりに遊ぼうよ、志雄!」

 

 全速力で突撃する青と黒。人類の可能性を信じた"人のための"システムと、効率を追求した"人を使う"システム。

 別の道を辿って現行の頂点に君臨した『G』の双璧が、雌雄を決するべくその炉心を熱く燃やす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




アギトメタを張ってきた敵部隊と交戦する陸人くん。
自分と同種の力を持ち、経験豊富な同類と衝突した鋼也くん。
あらゆる面において自分の上位互換と相対する志雄くん。
病み上がりで圧倒的不利な防衛戦を強いられた園子ちゃん。

視点変更多くてスミマセン、次回もこんな感じでそれぞれの戦いを描くことになるかと思います。

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに

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