A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
本庁舎の2階、正面通路。紫に輝く光刃が閃くも、黒い影たちは難なく躱していく。
「──んっ!……あぁ、また外れちゃった〜」
かぐやを守るべく単身立ちはだかる園子。神世紀最強の勇者である彼女でも、この戦況は厳しいものだった。
最初の4人は不意をつけたのもあってなんとか撃破できたが、そこからが予定外だった。同胞のシグナルレッドを感知して、別のフロアにいたV1が続々と集結してきたのだ。新手に苦戦しているうちに沈黙させた敵もどんどん復帰していき、気づけば9対1という絶望的な戦力差に追い込まれていた。
(なんか手応えに反して回復が早いし……仕掛けがあるのかな〜?)
V1の一斉射撃を、飛翔刃を操作して叩き落とす。捌き損ねた一発がバリア越しに園子の髪を掠めていった。
彼女1人では妙にしぶといV1を完全に撃破するのは難しい。いや、奥の手を使えば可能かもしれないが。
(私の満開は屋内で使うには規模がでかすぎるし、万一それで仕留め損ねたら一気に不利になる……ここは粘り強く機会を待つしかないか〜)
新たな勇者システムは、満開とバリアのエネルギーを共用している。それによって満開に使う爆発的なエネルギーを備えて散華を防いでいるのだが、この仕組みには欠点がある。
一度満開で多量のエネルギーを消耗すると、精霊バリアが使えなくなる。オマケに満開自体も使えるのは一度きり。セバスチャンの力でなんとか致命傷を避けている今の園子には、そのリスクは大きすぎた。
「でっかいこと言っといてちょいとカッコ悪いけど……りくちー達を信じるしかないね〜」
それでも園子は希望を捨てず、笑顔も絶やさない。彼女は知っているからだ。こんな窮地を幾度も覆して全てを守護してきた"ヒーロー"がいることを。
「そろそろ疲れが出てきたんじゃない?」
「なーに、まだここか──っらあぁっ‼︎」
大火球、バーニングブラストで敵を吹き飛ばすアギト。しかし仕留めた1体の奥にいたV1の銃撃をモロに食らって倒れてしまう。先程からこれの繰り返しだ。
G2-Xの動きは速度と未来予測システムのせいで捉えきれず、そしてV1の方も呆れるほどに回復が早い。20を超えた辺りから撃破数のカウントを諦めた陸人だが、復帰した個体がいることを無視すれば、感覚的には既に50以上倒しているはずだ。
(なんでだ……このアーマーの手応え、普通の装甲とは違うのか?)
「気づいたようなので、教えてあげるわ。V1の正式名称は『VERTEX 1』……勘の良いあなたならこれで分かるでしょう?」
「それは……つまり、天の神との共同制作ってことか?」
V1──正式コード『VERTEX 1』は、その名の通りバーテックスの特性を備えたGシリーズとは異なる設計思想のもとに辿り着いたシステムだ。自己変異、自己修復機能を持つバーテックスの身体。それが身体として形成される前の、いわばバーテックス因子をシステムに掛け合わせている。
最新の科学技術で作り上げられた装甲に、修復機能を持った神秘の性質をミックスしたことで1つの技術革新が起こった。"自己再生する金属"という独自の性質を得て、V1は進化した。
元の汎用性と信頼性に優れた基本スペックはそのままに、継戦能力と耐久力が大幅に向上した。さらにそれを量産し、足と頭に当たるG2-Xに乗せれば。
(なるほど……斬った時と燃やした時で手応えが違うのはそのせいか。有機的な反応をするバーテックスの性質が混ざっているから──)
そこまで考えて、陸人の脳裏に1つのアイデアが浮かび上がる。賭けの要素が大きいが、決まれば一気に状況をひっくり返せる。耳元のインカムを用いて仲間に連絡を入れる。変身前から装着しておけば、仮面の奥でも使えることは以前付き合った調査で実証済みだった。
「小沢さん、ここの地下施設の情報を教えてください!」
『……どういうこと?』
「逆転の一手です。一か八かではありますが、地の利ってヤツを活かしてみようかと……」
陸人の記憶は相変わらず戻ってはいない。それでも、はるか昔に戦友に教わった言葉が、頭ではなく身体の方には残っていた。
──"天の時、地の利、人の和"って言うけど、私達は常に仕掛けられる側だし、樹海はいつも変わらないから、天の時と地の利はどうしようもなくて……だからせめて、人の和だけは大切にしなくちゃいけない。そう思って作戦を立ててるんです──
本が好きで、豊富な知識をもって何度も助けてくれた少女。陸人の脳裏にはそこまではっきりとしたビジョンは浮かんでいないが、その教えは胸の内に確かに宿っていた。
「今のうちに謝っときますね……大社の設備、ダメにするかもしれないんで!」
灼熱を両手に宿し、アギトが敵陣に飛び込んでいく。諦めない心で頭を回し続けて、見出した小さな突破口に全てを懸ける。"陸人"という英雄は、はるか昔からそうして戦い抜いてきたのだ。
狭い室内をスラスターで縦横無尽に駆け抜けるG3-XとG4。最初は互角に渡り合っていたものの、ぶつかる毎に出力差は如実に顕れていく。飛び交う二筋の軌跡は、やがて青が一方的に黒を追いかけていく形となった。
「どうしたのさ? 勝つしかないから勝つんじゃないのっ!」
(分かってはいたが……追いつけない、当てられない、防げないでは勝負にならないな)
連射速度と瞬間火力に優れたケルベロスでさえも、G4を捉えることができずにいる。装備されていないのか、単に使う気がないのか、G4はスコーピオン以外の武装を使っていないにもかかわらず、G3-Xが一方的に攻撃を受けていた。
「志雄の動きは全部見えてる……それじゃダメなんだよねぇ!」
「クッ、随分と出来のいい人工知能だな!」
「それもあるだろうけど、志雄は分かりやすいんだよ。昔からそうだった」
国土志雄は3人の中で最も武術の才能がなかった。のちに努力である程度克服したが、その際は愚直に基礎を積み重ねて地力をつけていったタイプだ。簡単に言うとオーソドックス。戦技も思考方法も飛行時のマニューバも、基本的には教えに忠実で突飛な発想や独創性がない。G3という特殊な装備を使うにあたって、独自の立ち回りを考えこそしたものの、それも既存の習得技術から組み上げたものだ。
「僕に、予想を超えるセンスがないってことか?」
「さあね。少なくとも昨日も今も、あなたの動きが予想を超えたことはないよ」
G4が真上に回り込み、頭部を掴んで地面に叩き落とす。スラスターの勢いを殺せなかったG3-Xは地面を抉るように引きずられ続けた。フロアの支柱にぶつかってようやく止まったところに、追撃の蹴り。サッカーボールのように蹴飛ばされて壁に激突した。
「これじゃ昨日の焼き直しだよ。つまんないなぁ」
「ハァ、ハァ…………君達の狙いはなんだ? どうしてそんな姿で……こんなマネをする?」
それは志雄がどうしても聞きたかったこと。直接見ていない真澄達からでは、予想の域を超えた答えは得られなかったからだ。
「なに、勝てそうにないから時間稼ぎ? まあいいよ。どの道あなたたち以外敵になるような存在もいないんだし、ゆっくり遊ぶ時間はあるよね」
どうでも良さそうに首を回し、顔を上に向けて言葉を選ぶ香。うまく説明するために、顎に人差し指を置いて唸る。その仕草は、生前の香のクセと同じもの。見ていた志雄の胸に、チクリと何かが突き刺さる感覚があった。
「計画を立てたのはパパとママ……2人は私が死んでしばらくした後に、この私の創造主と出会ったの」
娘を失い、喪失感を拭えぬまま組織を去った沢野哲馬と雪美。ある日、そんな2人の精神に直接声が届けられた。それがアンノウンの頭領であるテオスだった。彼の声に導かれ、2人は壁の外で神々と接触。世界を壊すための共闘を持ちかけられた。
「私みたいな犠牲者は歴史の陰にいくらでもいる……そこまでやっても最後には敗北するしかない。その現実を知った2人は人類を見限ったんだよ。どうせ滅びるなら、自分達の手で、ってね」
「哲馬さんほどの人が、絶望に呑み込まれたのか……?」
「んー、理由は色々あるんじゃない? 私が完成したのはその後の話だから、実際に見たわけじゃないんだよね……正直パパが何考えてるのかは私もよく分かんないよ。ただ、あの憎しみは本物……それだけで十分なの」
喪失感と矛先を見失った憎しみは彼らの中で膨れ上がり、人類全てへ向けた凶刃に変わった。罪爐の本体と接触したことで、他とは比較にならないほど深くまで侵食された影響もあるのだろうか。
「だからこそ、まず最初にココを堕とすことにしたの。取り繕うことばかり考える愚かな人類の要、身勝手な理屈で子どもの命を使い潰す愚物の集まり……大社を潰して、その絶望の真っ只中で希望の象徴たる神樹を破壊する……最っ高に最低だと思わない?」
「筆頭巫女様を捕らえて、結界を解除……無防備な神樹様を討ち滅ぼす算段か」
「ああ、知ってたんだ? そっちにも少しはできる人がいるんだね」
ぎこちなく、頼りなく、それでも力強くG3-Xが再び立ち上がる。やはりどうあっても譲ることはできない。その一心が軋む身体に火を灯す。
「……そちらの絶望はよく分かった。だが、こんな終わりかけの世界でも笑って日々を過ごしている人がいる」
「"一般市民"って呼ばれてる、現実を知らない愚か者の集まりだね」
「……そんな人達のために命を懸けて戦い続けている人もいる」
「勇者だ英雄だって持ち上げられて、最後には奉られて尊い犠牲、とか言われちゃう哀れな道化達だね。志雄や鋼也も含めて」
一言ずつ辛辣に斬り捨てる香。いつまでも折れない志雄の強靭さにイラついているように見える。
「たとえ道化に終わっても……犠牲になるつもりはない。僕が死ぬよりも早く、この争いを終わらせてみせる!」
「ふーん、どうやって?」
「これまで影も形も見せなかった黒幕の存在が、少しずつ表に現れてきた。君のような不自然すぎる存在を登用していること自体が、そちら側の余裕の無さを証明している……違うか?」
「……相変わらず目端が効いて神経質で、言うことはだいたい正しい。嫌われるからいいかげん直した方がいいよ?」
「容赦がなくなったのは、裏を返せば余裕を失っているということでもある。大方先月の決戦で人類側の損耗が想定外に少なかったんだろう? それに加えて、じっくりと準備を整えてきたらしいこの作戦を止めてしまえば……」
「オーケー、よーく分かったよ……あなたにはもう黙ってもらった方がいいってことがね!」
志雄の追求を遮り、香が武装を展開する。それは他が使うことを許さないG4オリジナルの切り札。
巡航4連ミサイルランチャー『ギガント』
人間の全長に近いサイズ、圧倒的な重厚感。四門の弾頭を向けられた志雄は、驚愕で動きを停止した。
「なんだそのデタラメは……屋内でぶっぱなしていい兵器にはとても見えないんだが?」
「そうだね、とりあえずフロアの半分くらいは吹っ飛ぶんじゃないかな? アハハッ、楽しそう!」
「アハハじゃないだろ馬鹿か!」
発射準備に取り掛かった隙をついて突貫。それを読んでいたG4も合わせるようにスラスターで回避。屋内の超低空ドッグファイトが再開された。
「事が済んだ後誰が片付けると思ってるんだ……僕は絶対にやらないからな!」
「私だってやーよ。というか、そんな心配する必要ないんじゃない? だって私達が志雄達を倒して──」
弾丸をばらまいてなんとか発射を止めようとするG3-X。しかしその全ては、重荷を背負っているはずのG4を捉えるには至らなかった。壁に足をついた切り返しのタイミング、静止する一瞬を見極めて真下に滑り込む黒い影。
「しまっ──!」
「──世界が終われば、片付けなんてしなくて済むでしょ?」
回避できない至近距離で、最強の破壊兵器が火を噴いた。
全員が避難した大講堂に、硬いものがぶつかり合う音が響く。獣のような叫びと共に緑の影が空を跳ねる。
「今度こそ、くらえぇっ!」
「動きに無駄が多すぎる。敵を翻弄する狙いもあるのだろうが、その速度を見切れる相手には何の意味もない」
子供をあしらうようにギルスの足を掴んで止めたアナザーアギト。そのまま片手で軽々と投げ飛ばす。驚異的な膂力と、的確な受け方があって初めてできる技だ。
机に突っ込んでなぎ倒したギルスは、椅子の山に埋もれてしまう。それを見たアナザーアギトが、雪崩れた椅子に指を向ける。
「崩されたならすぐに立て直せ。休むな」
何かを描くように指を動かし、空中に紋章が浮かび上がる。アギトのそれに近い緑の紋章が降下、椅子に触れた途端、周囲を飲み込む規模の大爆発を引き起こした。
「うおわあぁぁぁっ⁉︎」
強引に爆風から逃れたギルス。焦った彼は、敵の真正面に無防備に飛び出してしまった。
「ヤッベ……!」
「位置関係は常に把握しろ。とっさの判断を誤るな」
光を宿したアッパーカットが吸い込まれるように直撃。上方に大きく跳ね飛ばされた。力無く崩折れるギルスの姿に、哲馬は落胆したように息を吐く。立ち上がれず横たわる身体を足で踏みつけ、なじるように踏みしめる。
「大きな口を叩いておきながらその程度か」
「グッ……うるせえよ。死んだ娘のパチモンひっつけてるような、未練タラタラ後ろ向きまっしぐらのクソ親父に負けてたまるか……!」
彼は普段から口調が荒っぽくはあるが、ここまで無遠慮な物言いはしない。頑なな哲馬の口を割らせるための挑発だった。
「……アレは俺達が望んだものではない。ヤツがいきなり作って寄越しただけだ」
「……んだと?」
挑発に乗った哲馬の返答。それは鋼也の予想外だった。あの姿をチラつかせることで敵が2人を利用している可能性も考えていたのだが。
「俺達は最初から自分達で道を決めた。他のものは関係ない……神々も、あの香も、呪いもな」
「呪い……?」
「見くびるなよ、小僧……俺が今ここにいるのは紛れもなく自分の意志だ」
「ハン、だったらあの香はなんだ? どんなカラクリであのナリをしてやがる?」
鋼也が一番知りたかったこと。死者が生者のように時を過ごした姿。容姿のコピーでは説明がつかない。
「天上に居座る者たちの中に、運命と魂の扱いが上手いヤツがいた。輪廻の輪から娘の魂を引き戻して運命を書き換えた……今現世にいる香は、あの日死なずに済んだ可能性の先にある姿だ」
戦闘力を持たせて操りやすくするために、
原点の香の記憶も経験も保持しながら、アンノウンとしてテオス達の指示に従う人形。人間とマラークの合いの子と言ってもいいかもしれない。
「アンタは、それでいいのか……? そんな不条理なモンに、娘を使われることを良しとしてんのか?」
「……お前の知ったことではない」
「ざっけんな、香はアンタの娘ってだけじゃねえ! 俺達にとって大切な親友なんだよ!」
「そうだな……お前たちがどう思い、何を言おうがそれは自由だ。香の友であるお前たちには手出しをする権利もある……だが、邪魔をしようというのなら俺は潰す、こんな風にな!」
「こんの……頑固オヤジが!」
ギルスを踏みつけていた右足に光が収束する。大技の発動を予期した鋼也は、手足のクロウで素早く床を斬りつけて深い傷をつける。
一瞬後、アサルトキックの威力に耐えきれなかった床が崩落、大きな穴が空いた。ギルスはダメージを負いつつも、なんとか拘束から抜け出して1つ下のフロアに着地した。
「さて……」
「仕切り直しか」
アナザーアギトも階下に飛び降りて、いざ第2ラウンド、というまさにその瞬間──
「ぐっ……がああぁぁぁっ‼︎」
「アハハハハハハッ!」
更に階下から天井……ギルス視点では床を打ち壊してG3-XとG4が吹っ飛んできた。
志雄はあの絶体絶命のタイミングで、回避でも防御でもなく迎撃を選択した。とっさにユニコーンをギガント本体とミサイルの接続部に投擲。正常な発射シークエンスをこなせなかったミサイルはその場で起爆、使用者であるG4まで巻き込んで大爆発を引き起こした。
その威力はやはり尋常ではなく、指向性を持たない爆風だけにもかかわらず、吹き飛ばされた2人が4フロアをぶち抜いて上階に到達してしまうほどだった。
「……め、滅茶苦茶な武器を使うな……死ぬかと思ったぞ」
「いやー、半分は志雄のせいでしょ? でも案外楽しかったかも」
少し動きがぎこちないが、両者共に戦えるようだ。予想外の形で合流を果たした仲間に、ギルスが近づいて声をかける。
「よう志雄、まだやれっか?」
「鋼也……そうか、ここまで飛ばされたのか」
「ビビったっつーの。新手のアトラクションじゃねーんだからよ」
「遊んでたわけじゃない。僕だって予想外だったんだ、あんなのは」
軽口を交わして相方の調子を確かめる2人。これだけ口が回るなら、まだ大丈夫だという結論に同時に達した。
「好き放題暴れているようだな」
「あっ、パパ! ゴメンゴメン。期待してなかったんだけど、G3-Xも意外と面白くてさ……いや、この場合志雄の方なのかな?」
「そうか……期せずして合流できたしな、相手を変更するぞ」
「なんでー? 私志雄と遊びたいのに」
「どちらも見極められるならそれに越したことはない……篠原の方も、楽しめるはずだぞ」
「ホント? んー、じゃあいいよ。私、鋼也とも遊んでみる!」
「ん? ……ってうおぁっ⁉︎」
言うが早いか、G4はスラスターを起動してギルスに突撃していった。バク転の動きでなんとか蹴り飛ばすも、たった数秒でG3-Xとは随分引き離されてしまっていた。
「ふふっ、遊ぼうよ。鋼也も楽しませてよね」
「志雄がどう考えてるか知らねえがな、俺の前で香の真似事はやめろ……ただでもイラついてんだ。これ以上俺を怒らせるな」
「あれ? なんだか反応が違うなぁ。鋼也は嬉しくないの? 私に会えて」
「俺にとっちゃ、テメエはバケモノの一種にすぎねえ。それも親友の皮を被って好き勝手やってる、最低最悪の下衆でしかねえんだよ」
鋼也は重度のバケモノ嫌い。そのバケモノが、よりにもよって大切な幼馴染の顔を使っている。そのせいで志雄はずっと悩みながら引き金を引いている。相棒に任せた手前我慢していたが、自分の番が回ってきた以上堪えるつもりはない。
「変わらないね。鋼也は感情に素直で、よく怒ってて……でも本当は、いつだって誰かを思っての憤りだった」
「……俺は志雄ほど甘かねえからよ。覚悟しな!」
感情のままに爪を振るうギルス。香の声で、香の顔で、時折本人のような言葉を吐く目の前の敵が、鋼也はどうしても許せなかった。
G3-Xとアナザーアギトの戦場。こちらは攻撃側と防御側が目まぐるしく交代する忙しないぶつかり合いと化していた。
(俺の対人格闘術はこの人から教わったもの……殴り合いでは勝ち目がない!)
(……などと考えて距離を取りに来る。ならば──)
武術訓練の成績は芳しくなかった元教え子の思考を読み取った哲馬は、距離を取ったG3-Xに急速接近。展開直後のスコーピオンを右のハイキックで蹴り上げた。
「っ! 速い……」
「手放した武器に目をやる間に立て直せ、隙を見せるな」
続く左足で顎を蹴り抜き、たたらを踏むG3-Xに向けて、落ちてきたスコーピオンを構える。そのトリガーは固く、銃口は沈黙を維持し続けた。
「無駄です、セイフティを解かなければ──」
「そんな小細工が
許可を出していないものの手に渡った時点で、G3-Xの武装は自動でロックがかかって使用不可になる。しかしアナザーアギトは、ロックを強引に壊してトリガーを引いた。
「なんだと──くっそぉ!」
予想外の発砲に対応が遅れたG3-Xが直撃を許す。それでもなんとか立て直し、ユニコーンとガードアクセラーの二刀流で銃弾を弾き落として距離を詰める。
「ほぅ、少しはマシになったようだな」
「あなたが消えて、どれだけ経ったか忘れましたか? 僕もいつまでもヒヨッコのままじゃない!」
スコーピオンを放り投げて飛びかかるアナザーアギト。頭上から狙ってきた敵を見切り、G3-Xはスラスターを起動。紙一重で後ろに回り込み、ガラ空きの背中にカウンターを叩き込んだ。
「そしてこれは生身の組手じゃない。Gシリーズを1番上手く扱えるのは、この僕だ!」
「悪くない……悪くないぞ、国土!」
超能力でマフラーを操作して直撃をしのいだアナザーアギトが態勢を立て直す。G3-Xもケルベロスを再展開、得意の
「実際に打ち合えば分かる。あなたは根っこから闇に染まってはいない……堕ちた人間に、こんな真っ直ぐな拳は振るえないはずだ」
「一端の口をきくようになったな、未熟な子供が……」
「……"軽い
「よくもまぁ、そんな幼い時分のつまらん説教を憶えているものだな」
「香のことも含めて……全てを話してもらう、力尽くでもだ!」
志雄は、自分が持つ銃の価値も意味も失わないように、胸に刻んで戦ってきた。今回も同じだ。戦うべきと自分が思った時に、倒すべきと自分で決めた敵に向けてのみ引き金を引く。それが国土志雄の、G3-X装着者としての譲れないプライドだった。
「戦の音が聞こえる……盛り上がっているようだな」
「……我々ガココカラ手ヲ下セバ簡単ニ終ワルノデハ無イカ?」
大社本部のはるか上空、雲のさらに上から地上を見下ろす2人の異形。片方はかつて、その戦闘力と死徒再生の異能で陸人ら勇者部を追い詰めた天使の一角、水のエル。
そしてもう一方は、頭部に力強い双角を生やし、三又の槍を持った牛型のアンノウン『タウルス・バリスタ』
「そう急くな。何のために我がここまで時間と手間をかけてきたと思う?」
「ドウセ、マタ貴様ノ大好キナ"悪感情"ヲ得ル為ダロウ」
「その通り! 分かってきたではないか、水の」
通常のマラークであるはずのバリスタから発せられる圧倒的な存在感と死の気配。格上のエルロードに対等以上の接し方。まるで人間のような流暢な言葉と態度。どれを取っても普通ではなかった。
「人と人とでぶつけ合うのが最も純で甘い感情を生み出す術よ。なにせ殺された側も殺した側も残るのは絶望のみなのだからな」
「私モ散々命ヲ刈リ取ッテキタ身ダ。行動ノ是非ヲ問ウ立場デハナイガ……」
くつくつと、心から愉しそうに笑う
「貴様ニ目ヲ付ケラレタ奴等ハ、コノ私デスラ少シ哀レニ思ッテシマウナ……
「くくっ、我はこれでも救ってやっているつもりなのだがな? 小さな下界で、下らぬ些末事に駆けずり回る愚かで愛らしい人間という生命を」
バリスタの笑い声に共振するように、その身体から濃厚な黒が放出される。人を呪い、世界を壊し、全てを歪めて捻じ曲げる。文字通りの悪の化身が、ついに人の世に顕れた。
今回ラスボスのガワという大役を勤めてもらうバッファローロードは、ディケイドのアギト編に登場したヤケに流暢に喋るあの怪人です。
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに