A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
ちょっと行き詰まったのと執筆時間が取れなくなったので、次回の投稿は遅れるかもしれません。
ミサイルでも落ちたのかというような爆音に叩き起こされた雪美は、自分が本庁舎ロビーのソファに寝かされていたことに気づいた。
「私は……」
「あ、起きましたね」
状況を整理しようとしたタイミングで、見るからにボロボロな風体の陸人が入ってきた。特に身体の左半分に広く火傷の跡が見える。流石にあの炎熱地獄に居座り続けたのはアギトであっても厳しかったようだ。
「何を……しているの?」
「ああ、倒れてる人たちの安否確認と、救助の要請をしてました。あのV1って凄いですね。俺でもこのザマなのに、みんな殆ど傷がありませんでした」
まあ小沢さんがそう教えてくれたからあの手が使えたんですけど、と笑う陸人。敵の身体を案ずる余裕があるなら自分の傷も考えろ、と言いかけた雪美は間違っていないはずだ。
「それで、まだ死のうとか考えてますか? もしそうなら身体を拘束して動きを封じるしかないんですが……できれば避けたい選択肢です」
本心から不本意そうな顔で言及した陸人を見て、雪美は背負い続けた重荷を下ろすように、深い深い溜息を吐いた。
「安心して。無理やりとはいえ命懸けで救われた身だもの。無意味に投げ出すような真似はしません。そんな気力も体力も残ってないしね」
「そうですか……良かった」
確かに敵だったはずの自分のために、ここまで心を砕ける人間がいる。世界の全てを知った気でいた雪美だったが、目の前の少年には調子を狂わされっぱなしだ。
「戦う道を選んだ経緯も、死を求めた本意も俺には分かりませんけど、終わらせるのは最後の最後でもいいと思うんです。悩みに悩んで結論を出した方がきっと後悔しませんよ」
「簡単に言うわね。これでも随分悩んだつもりなのだけれど」
「ならもっともっと悩むんですよ。たくさんの人に相談もして。気分を変えるために色々な場所に行って、知らない景色を見て回る。そうすればいつか、生きてても良いと思える日が来るかもしれません」
「……それでも、どうしてもそう思えなかったら?」
「それでも考えることをやめなければ、その頃には人の一生分くらいは終わってるはずです。結果的には最後まで生き抜くことになりますね」
「なぁにそれ? 昔話のオチみたいね」
死ぬか生きるかについて、寿命が尽きるまで悩み抜けとは。トンチのようなことを大真面目に言い切る陸人には、雪美の表情筋も思わず緩む。
きっと彼も同じように、悩みながらも生きているうちは歩みを止めないと誓って戦い続けているのだろう。アギトの勇姿を見続けた雪美には、そんな確信があった。
「とにかく俺に言えるのは、悩めるだけ悩めばいい。きっとそれが生きている証で、死んだらできないことだから……こんな戯言が、何かの参考になれば良いんですが」
「いえ、とても中学生とは思えない含蓄のある言葉だったわ。胸に刻んでおきましょう……あなたになら、教えた方がいいかもしれないわね」
言いたいことを言い切ったらしく、奥に進もうとした陸人を引き止めて、雪美はゆっくりと口を開く。
「私達が決起した理由……この戦乱の奥にいる存在と、私達の関係について」
その言葉は人類側の誰もが求め、現時点では一人として辿り着いていない真実への入口だった。
「追いつける……もう少しで、追い抜ける!」
「わっかりやすく調子に乗ってくれちゃってさあ! だから甘いんだよ、
貨物用の大型エレベーターの通路、上下に大きく広がったトンネルのような道を、2人は縦横無尽に駆け巡る。最高状態のG3-Xと常にフルスペックのG4。香の言葉の通り、両者は頑張っても五分五分。限られた時間内に志雄が押し切るのは不可能としか見えない。
「もしかして地形を利用してスペック差を埋めようとか思った? ざーんねん、そっちが知っててこっちが知らないことなんてないんだよ!」
「確かに、そのようだな……!」
G4のAIにはエレベーターシャフトの構造詳細までインプットされていたらしく、暗所で閉所という最悪の状況下でもその動きには一切の淀みがない。逃げながら的確に反撃してダメージを与えていくG4。必死に追いすがりながら弾丸をばら撒くG3-X。先程よりもマシになったとはいえ、戦況は変わらず不利のまま……だが、それはあくまで彼1人の場合だ。
「……今だ、小沢さん!」
「……? 何を」
下に向かって追走していたG3-Xが、目の前で突如反転して距離を開いた。その不自然な軌道に違和感を覚えてG4も速度を落とす。
次の瞬間、やっと見せた無防備な背中全体に叩きつけるような衝撃が走る。
「っ⁉︎ これは……!」
「君達は上を見過ぎなんだよ……だからこうして足元を掬われる!」
G4の背後、つまり階下から襲ってきた衝撃の正体はこの空間の主、貨物搬送用大型エレベーター。制圧の首謀者が一通り戦闘に出たのを見計らった真澄が、監視カメラと同様に前々から本部のメインシステムに仕込んでいたバックドアを使用。目立たないようにごく一部の制御のみを奪還していた。
あとは頃合いを見て志雄と打ち合わせ、エレベーターを所定の階層に待機させておくだけ。不可視の大規模数独マップをアナログで解き明かした天才にとっては、陸人のナビゲートの片手間でも済むような簡単な仕事だった。
「──獲った!」
「こんな手にっ!」
隙だらけのG4に、ユニコーンを突きつけて突貫するG3-X。持ち前の超反応でガードは間に合ったが、完全には捌けなかった。戦闘開始から無傷の状態を保ってきたG4の装甲、右腕部に浅く刃が突き刺さった。
「ようやく、そのピカピカのボディに傷が入ったな」
「志雄……これ以上は遊びじゃ済まさないよ?」
「僕は最初からそのつもりだ!」
上昇し続けるエレベーターから飛び立ち、2人のドッグファイトが再開される。青と黒の航跡は螺旋を描き、衝突しては火花を散らして上へ上へと飛翔していく。
(EXCEEDの稼働限界はあと15秒。負荷に耐えて多少延ばしてくるかもしれないけど……)
EXCEEDの弱点、時間制限も当然敵に知られている。稼働時間の殆どを使い切ったG3-Xを嘲笑うように、G4は3度奥の手を解禁、ギガントを展開した。前を飛ぶ背中に照準を定め……まだ発射はせずに勝機を待つ。
(あと10秒で速度が一気に落ちる。数秒のズレも考えて──)
香本人も、G4自体も同じ結論だった。10〜15秒後にG3-Xの出力は急速に落ちる。そこを狙えば勝利は決まる、と。
(よし、釣れたな……単純な奴だ!)
だがしかし、ここに1つの見落としがあった。戦闘経験が少ない
G4のAIも同じく、経験不足もあってまだ人間の不確定さを完全に演算に組み込むことはできていない。意図的にスペックを落とすような非効率な手段が有効であるなどと考えられるほど柔軟ではなかった。
制限時間とはそれ以上使えないというだけであって、なにもその時間いっぱいまで使い切らなくてはならない理由はないのだ。
「──ここだっ!」
「……えっ?」
時間切れよりも前にEXCEEDを解除、敵の予想よりも5秒早く急減速したG3-Xが一瞬で背後を取り返した。全身にかかる強烈な反動に耐え、志雄は無防備な
「引っかかったな、頭でっかちの間抜けAI!」
「……う、嘘……なんでこんな……!」
温存していた最後のマガジンをケルベロスに装填。これまで以上の全力斉射で背部を撃ち壊す。動力部を蜂の巣にされたG4はスラスターの制御を失い、煙を上げて落下してくる。
「スペックの高さが全てじゃない!」
「どうして……私のG4は……!」
「能力が下回ることも、限界さえも利用して勝機を掴む……それがGシリーズの戦い方だ!」
Gシリーズの強さと弱さを知り尽くした志雄の渾身の拳が、体勢を崩して落下するG4の顔面に直撃した。
本庁舎2階、数分前まで銃声と金属音が鳴り響いていた廊下は、嘘のように静かになっていた。
(止まった……りくちーたちが、なんとかしてくれたのかな……)
糸が切れたようにバタバタと倒れ伏したV1部隊。統括していた何者かを仲間が制圧してくれたらしい。限界を迎えた肉体を精神力で引っ張っていた園子は、安堵から腰を抜かして、槍を支えに座り込んでいた。
「園子ちゃん、大丈夫⁉︎」
「かーやん……いいって言うまで来ちゃダメって……」
「でも、でも園子ちゃん……!」
ハラハラしながら涙目で様子を伺っていたかぐやも飛び出してきた。役目を意識している場では大人顔負けの迫力と威厳があるのだが、筆頭巫女の肩書きを外した彼女はどこまでも普通の女の子だ。最も、園子はかぐやのそんなところが好きで守ってあげたいと願っているのだが。
「……ま、だだ……」
「「っ⁉︎」」
沈黙していたV1の1人が、重たい体を引きずるようにして銃を構えてきた。機能を停止したV1は重りでしかない。震える手で、それでも執念で構えた銃口は園子とかぐやを捉えていた。
「こんな世界は間違っている……我々は、我々は……!」
この装着者は、単に呪いに侵されたわけではなく、自分の内側に大社と世界への破壊衝動を抱えていた。それが爆発した結果、システムの縛りから解かれてもなお勇者達に牙を剥いている。
「園子ちゃん!」
(駄目……かーやんだけでも!)
園子をかばうように抱きしめるかぐや。園子も誰よりも失われてはならない命であるかぐやを守ろうとするが、一切身体が動かない。勇者システムまで解除されてしまった。ここまで消耗しきった状態では、精霊バリアも万全に使える保証はない。
「解放する……この終わった世界に縛られた者たちを!」
「──やめろおおおおっ!」
発砲の恐怖に眼を閉じた園子の耳に、聴き馴染んだ声が届く。その瞬間、全ての緊張と悪寒が全身から抜けていった。それだけの安心感を与えてくれる、ヒーローの登場だ。
「陸人様!」
(ああ、これで3回目……狙ったようなタイミングで、必ず助けに来てくれる……)
園子が好む王道物語の主人公のように。本当に困った時にはなんて事のない顔をして現れて、誰にも予想できないハッピーエンドを掴み取る。
しゃがみこむ2人を飛び越えて、銃を蹴り飛ばした少年の後ろ姿。2年前に初めて出会った金色の姿と重なる頼もしい背中を見て、園子の意識はとうとう断ち切れた。
(私のヒーローは、どこまでも──)
「どう? 園子ちゃんは」
「消耗は酷いですが、大きな外傷はありません。じきに眼を覚ましてくれるはずです」
「そっか、良かった……でも驚いたよ。かぐやちゃん、随分手慣れてたね」
「ふふっ、上に立つ筆頭巫女らしくはありませんよね」
意識を失った園子を担いで逃げ込んだ救護室。かぐやの適切な処置によって、園子はベッドで穏やかな寝息を立てている。
「いずれ私も狙われることは予期していました。避けるべき事態ですが、万一戦場に出てしまった時に私にできることはないか。考えて習得したのが応急処置の技能でした」
戦力皆無でありながら神樹侵略の最重要人物となるかぐや。もし鉄火場に立たされてしまった場合にもただの足手まといで終わりたくない。そんな健気な努力が、今日園子を救ったのだ。
「それじゃ、園子ちゃんのことは任せていいかな? V1はみんな停止してたから、とりあえず危険はないと思う」
「はい、お任せください……ですがその前に」
たおやかに微笑みながら近寄ってくるかぐや。その笑顔に妙な圧力を感じた陸人が一歩退いた瞬間、逃がさんとばかりに少女の細腕が陸人の左頬に触れる。火傷が残る肌に触れられ、陸人の顔が苦痛に歪んだ。
「ご自覚なさっていないようですが、陸人様も軽い傷ではありません。火傷は早い処置が肝要です。少しお時間をくださいな」
「いや、手当てはいいよ。上の戦いはまだ続いてるみたいだし──」
「お時間を、ください、な?」
「……はい」
笑顔の圧に負けた陸人は、大人しく座って手当てを受ける。シュンとして小さくなっている目の前の英雄が、かぐやにはとても可愛らしく見えた。
「陸人様、また人を救うために無茶をなさったのでしょう?」
「俺は無茶とは思ってないんだけどね……」
「そういうところが陸人様の悪い部分です。あなたを案じる人は大勢いるということをもっと意識してください」
「……ごめん」
「まあ今はいいです。それで、沢野雪美さんからなにか訊けましたか?」
「うん……あの人の話を信じるなら、俺たちはこの戦いの本質を勘違いしてたのかもしれない」
言いにくそうに言葉を濁す陸人。確かめる前に話すには内容が重たかった。それを感じ取ったかぐやは首を横に振って静止。あくまで深入りしないと態度で示した。
「そうですか。ですが陸人様の指針は変わらないのでしょう?」
「俺の、指針?」
「園子ちゃんが言っていました。『りくちーは誰かの笑顔のためならなんだってできちゃうヤベー子なんだよ〜』と」
「アレ? 俺今危険認定されなかった?」
「私もこの数日で陸人様の本質は多少理解したつもりです。行ってあげてください。園子ちゃんを守ってくれたように。私を救ってくれたように。道を違えた彼らの手もできることなら掴みたいと、そう思っているのでしょう?」
「……ああ、そうだな」
陸人は迷っていた。誰も傷つけずに全てを守りたい。それが彼の本願だが、かぐやは敵に狙われている身だ。そんな甘いことを言える状況ではない。
しかしかぐやは、そんな陸人の優しさも全て汲み取ってあえて微笑みを絶やさない。すっかり御咲陸人というヒーローのファンのようになっているかぐやは、自分に遠慮して彼らしさが失われることが何より耐え難かった。
「……はい、処置完了です……私は陸人様が信じるものを信じます。ですからあなたは迷うことなく進んでください」
「ありがとう、かぐやちゃん……園子ちゃんをよろしく、行ってきます!」
上里かぐやは、ただ守られるだけのお姫様ではない。身体を張って戦う英雄の心を癒して救う。それが
「おおおああああっ‼︎」
(格段に力が増している……それに……)
スティンガーを織り交ぜて立体的な挙動で攻め込むギルス。狭い屋内での殴り合いは、本領を発揮したギルスの得意分野だ。まるで獣のように体勢を低くして、地を這うように爪を振るう。人間相手に鍛えてきた哲馬にとって、自分の常識が通用しない初めての相手だった。
「まだまだぁ! こっからだぜ!」
クラッシャーを開いて咆哮を響かせるギルス。その昂りに反応するかのように、背中から伸びるスティンガーが脈動し始めた。
「なんだ……?」
「アンタの防御が硬すぎるんでね……こじ開けさせてもらう!」
次の瞬間、太く強靭な2本の触手が裂けるように枝分かれしていった。細く薄く、それでも鋭く伸び続ける赤い触手は、ほんの一瞬でアナザーアギトを取り囲むように壁や床を突き抜けていく。
「これは……檻のつもりか」
「それだけじゃねーよ? コイツには、こういうこともできるんだよ!」
スティンガーで形成したジャングルジムのような檻の中に飛び込むギルス。彼が足場にした触手は、触れた瞬間に大きくしなってその勢いを倍加させる。切り返す度に速度が上がる弾丸のような加速は哲馬といえど捌けるものではなかった。
「切り刻んでやらぁ!」
(速い……いや、速すぎる!)
触手を足掛かりに跳ね回り、アナザーアギトを縫い止めるように連続攻撃。強靭さと柔軟さを併せ持ったスティンガーの特性を最大限活かし、全方位から爪を立て続ける。
「だが、速いだけではな……!」
少しずつ、確実にダメージを重ねてくるギルスに対して、アナザーアギトは大規模な紋章術で対抗した。自分を巻き込むことも厭わず足元から炸裂させて触手の檻を吹き飛ばす。
「アンタならそう来ると思った」
先を読んでいたギルスは、爆風を利用して高く跳躍。スティンガーを収縮させて脚の爪を掲げる。全てを断ち切るケダモノの一閃、『エクシードヒールクロウ』で勝負に出た。
「先が読めるのが自分だけだと思うな!」
「っ⁉︎」
そして先の先まで読んでいたアナザーアギトの右足に光が収束していく。上から下への動きで敵をぶち抜く必殺技に対して、死角となる真横からのカウンターで技の発動ごと潰す策だ。
跳び上がってしまった以上、あとは重力に任せて落下するしかない。落ちてくるギルスに対するアサルトキックのタイミングは完璧だった。しかし、今のギルスはそんな常識を超越している。
「──っぶねえ‼︎」
(触手で無理やりタイミングをずらした、だと⁉︎)
スティンガーを壁面に突き刺して思い切り突っ張る。自由落下中のギルスの身体は、弾いたギターの弦のように揺れながら滞空した。その結果、横っ腹に突き刺さるはずだったアサルトキックは虚しく空を切るのみに終わった。
「こっちは若いんだ、体も頭も柔らかいんだよ!」
「チィッ!」
石頭の中年への挑発も混ぜながら、ギルスは反転してドロップキックを叩き込む。全体重にスティンガーの収縮の勢いを上乗せした蹴りは、文字通り一直線にアナザーアギトの身体を壁面に叩きつけた。
「次で決める!」
「そういうところが……」
ここが好機と見て突っ込むギルス。勢いに乗って視野が狭まった彼は気づかない。後ろ手に描かれた、"反射"の紋章の存在に。
「詰めが甘いというのだ、若造が!」
「──いっ⁉︎」
壁にめり込んだ体勢から一瞬で飛び込んできたアナザーアギト。コマ落としされた映像のような、不自然な急加速が乗ったクロスカウンターがギルスの顎を捉えた。全力で前に向かっていたギルスの勢いも合わさってその威力は必殺級……のはずだったが。
(なんだ? この感触は……)
殴った手応えが妙に柔らかい。骨ではなく肉を殴った、という訳でもない。軟体動物のような柔和で掴み所のない感触は。
「ダメもとだったが、案外やれるもんだな!」
「そうか。お前の進化は、もうそこまで……!」
アギトとギルス。本質的には同種の両者だが、最たる違いはその肉体組成だ。アギトは内より迸る光が装甲や武器を形成しているが、歪な形で顕現したギルスはその力を表面化させるために、組織の1つ1つが独立した生命を持っている。語弊を恐れずに言えば、無数の微生物が集合してギルスという形を成しているようなものだ。
「ギルスの力を制御できる今の俺なら、多少は好きに身体を組み替えられる!」
(資質を持って力を育てた資格者と、俺のような紛い物では……やはり進化の段階が違うということか!)
仲間との出会いや幾多の激戦を超えて、ギルスの力を正しく受け入れた今の鋼也にとって、肉体組成を自らの意思で変化させることも不可能ではない。今の攻防は、殴られる瞬間に頰の部分を軟体化させて受け流したのだ。
エクシードを使いこなしているのも、スティンガーを分裂させられたのも同じ。ギルスはギルスのままで、アギト同様に進化を続けている。
「おおおらああああっ!」
「勢いづくと足元が疎かになる……何度も言わせるな!」
足元に起爆の紋章を展開して迎撃を仕掛けるアナザーアギト。それに対してギルスは、ハンドスプリングで紋章を飛び越えてみせた。
「ワンパターンはアンタも同じだろうが!」
「グッ⁉︎」
前転の勢いを乗せて、上下逆のまま両足で額を蹴り飛ばす。たたらを踏んだアナザーアギトにさらに攻め込む。直立の体勢に戻り、同じ箇所を頭突きで追撃。頭部に重ねて衝撃を受けたアナザーアギトは、耐えきれずに膝をついた。
「ぶっ飛べぇぇぇっ‼︎」
弱ったアナザーアギトをスティンガーで拘束。周囲を引きずり回して壁に叩きつけた。手足を押さえ込んで身動きを封じ、決定的な勝機に持っていく。ここに来て最高速度に至ったギルスが、三度特攻を仕掛けた。
「今度こそもらったぜ、オッサン!」
「まだだ、まだ俺は……!」
右拳に光を収束させて拘束を弾き飛ばしたアナザーアギト。自由になった右手で最後の悪あがき、爆発の紋章を描く。突如目の前に仕掛けられた罠、加速しきっているギルスに避ける術はない。
直後、空を舞い踊るギルスは超常的な威力の爆風に飲み込まれた、が──
「クソッタレがぁぁぁっ‼︎」
「止まらない、だと⁉︎」
爆炎を突っ切ってなおも飛ぶ緑の影。装甲は剥がれ、血も吹き出す有様だが、ギルスの牙はまだ折れていない。ズタズタの身体を触手で引っ張り、野生の勇者が間合いに飛び込んだ。
「これで、最後だっ‼︎」
「──っ!」
ギルス渾身の一撃は、アナザーアギトの顔面に迫り──顔のすぐ横に爪が深々と突き刺さった。その一振りは強固な壁面を突き破り、外壁を崩壊させて大穴を開けた。
「……何故、トドメを刺さなかった?」
「バカにすんなってんだよ。こんなに殴り合えば、アンタが限界来てることくらい分かるっての。俺が奥の手使った辺りでもう変身してるのもキツかったんじゃねえのか」
アナザーアギト、沢野哲馬は正当な能力者ではない。事故的な流れで力を受け入れ、罪爐の手でその力を馴染ませて形になった歪なアギト。生来の資質を持っている陸人や鋼也とは違い、戦う上での限界がある。
「どんどん動きが悪くなってた。アンタ自身分かってただろ?」
「フン……それでも勝てると判断したまでだ。どうやら、甘く見過ぎていたようだがな」
変身を解いた両者。生傷が残る鋼也の方が痛々しいが、消耗が激しいのは哲馬の方だ。頭を抑えて蹲り、肩で息をしている。
「俺の勝ちだ……アンタの戦いは、ここで終わりだ」
「……どうやら、そうらしいな」
哲馬は壁に背をつけて座り込んだ。何かに納得したような、何かを吹っ切ったような、安堵の表情で柔らかく微笑んで天を仰いだ。
(結論は出た……賭けは俺達の勝ちだな……雪美)
敗者が敗北を認めた次の瞬間、エレベーターシャフトが爆発し、奥から2人の戦士が転がるように飛び出してきた。
「うあっ!……やってくれたね、志雄!」
「勝敗は決した。武装解除して投降しろ!」
「何言ってるのかな? ちょっと不意を突いた程度でさあ!」
バッテリーから煙を吐きながら立ち上がるG4。出力は相当落ちたようだが、それはG3-Xも同じことだ。双方すでに満身創痍。決着が次の一手で決まることは誰の目にも明らかだった。
「負けない、私は負けちゃダメなんだよ!」
(残弾もギリギリ、一回勝負だな……!)
ここまでの戦闘で、G4にも
「勝つことこそが存在意義、だから私は──!」
暴発寸前のスラスターが火を吹き、G4が空を翔ける。そのコースを見切った志雄は、極めて冷静に1つ息をついて引き金を引いた。その銃弾はG4の顔の横を掠め、壁際の機材に跳ねた。
「どこ狙ってるのかな、おマヌケさん!」
「いいや、今のでチェック、そして――」
続く2発目、スコーピオンを上空に向けて最後の弾丸を放った。その意味不明な行動に、対するG4が一瞬真上を見上げ──
「読み通り、これでチェックメイトだ!」
一瞬後、G4のシステムがダウン。全ての装甲がパージされた。呆然とした表情で倒れこむ香。脱力感と疲労でその身体は立ち上がる力さえ残っていなかった。
──跳弾を当てるには迅速な計算、的確な予測、そして自分の腕を信じる勇気が必要だ──
──安全措置まで完備するのは開発者の最低限のプライドよ。あの人にまだ人の誇りが残っているのなら、狙い目があるかもしれない──
射撃の名手である春信との訓練、そして真澄の見識があって初めてできた跳弾狙撃。G3と同様にベルトの裏に仕込まれた緊急停止スイッチを、2段階の跳弾で狙い撃つ神業。志雄の不断の努力と、香を傷つけずに終わらせたいという強い願いが引き寄せた奇跡の二撃必殺だった。
壁に跳ねてG4の背中に向かう1発目と、天井にぶつかって斜め下に落ちる2発目。
G4の背面間近で1発目が2発目のボディに横から直撃し、その進路を強引に捻じ曲げる。結果外からは非常に狙いにくいベルトの裏側という死角に滑り込んだ2発目の弾丸が、G4唯一の弱点に直撃して勝利を奪い取った。
「こんなことが……あり得ない!」
「それがあり得るから今君はこうなってる……言ったろ? チェックメイトってな」
小さく笑って変身を解除した志雄。やはり生傷が目立つものの、その表情はなんとか望んだ決着に持っていけた達成感に満ちていた。
勝利を掴んだ2人の勇者が一息ついたところで、ドアが吹き飛んだ入り口から最後のヒーローが到着した。
「――鋼也、志雄、無事か⁉︎」
「陸人、お前も……いや、お前の方がボロボロじゃねーか」
「随分手こずったらしいな。僕らも人のことは言えないが」
たった3人の反逆者はそれぞれの戦場でそれぞれの勝利条件を掴み取った。
「誰も死んでない……上手くやれたんだな、2人とも」
「普通に倒すより難しかったがな」
「あー、疲れた。だがまあこれで後は――」
「……ッ、ィ……ァ……イヤァァァァァァァァァァァァッ‼︎」
顔を合わせて勝利の実感を噛み締めていた彼らの耳に、狂気的な悲鳴が響いた。
「どうして……どうして私が…………うあっ⁉︎」
「……香?」
「うぅぅぅ……ぁぁぁああっ‼︎」
敗北の事実を受け入れられずに息を荒げていた香が、突如頭を抑えて蹲る。自分の内から滲み出るナニカと抗っているかのようにのたうち回る様はあまりに痛々しい。
「どうしたんだ、香!」
「っ! 待て志雄──」
思わず駆け寄ろうとした志雄を遮るように、滝のような水流が立ち上り、視界を塞いだ。その奥に舞い降りた2人の上位種。ライダー達が姿を見て即座に変身して構えるほどに、その身が放つプレッシャーは圧倒的なものだった。
「フム……我が仕込んだ駒は揃って敗北、しかも誰一人として死んでもいない。ここまでつまらぬ顛末が待っているとは、逆に少し驚いたぞ」
「余興トシテハ悪ク無カッタガナ。ドノ道此処デ全員殺セバ結果ハ同ジダ」
全ての元凶、最悪の呪いそのものである罪爐。
復活し、さらに力を増した天使の一柱、水のエル。
激戦を終えて満身創痍の勇者達の前に唐突に降り立ったかつてない強敵。状況はここに来て、最悪のさらに下にまで悪化した。
ギルスの軟体化は完全なアドリブです。後になって志雄くんに「変身している君自身の身体はその時どうなってるんだ?」と至極真っ当な質問をされた鋼也くんは、深く考えることをやめました。ろくな想像ができず、ゾッとしたからです。
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに。