A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
今回、かつてないほどに執筆に手こずりました。何故かこの先の最終章に描きたいシーンばかり浮かんでは消え、筆が進まないのなんの……とりあえず次の話はまだ一文字も書けていないというピンチ、どうしよう……
プロットも下書きもない行き当たりばったりで100話以上進めてきた本作、今後も似たようなことはあるかもしれませんが平にご容赦を。
そんな訳でいつも以上に拙い部分あるかと思います。余裕がある時に手直しするかもしれません。
突如として現れた乱入者、水のエルともう1人、別次元の存在感を放つタウルス・バリスタ。牛の異形は周囲をひと眺めすると愉快そうに笑い声をあげた。
「クッ、ククク……これは笑えるな。手駒は言うことを聞かず、潰すはずの邪魔者は五体満足。挙句こちらで用意してやった人形まで壊れて帰ってくるとは」
「なんなんだ……なんなんだよお前は!」
自分に語りかけるようにブツブツと呟くタウルスに耐えかねた志雄が声を荒げて問いただす。すると相手は、まるで今気づいたような態度で緩やかに両腕を広げた。
「これは失礼した、自己紹介がまだだったな。我が名は……おい水の。この器の名はなんと言ったかな?」
「興味ノ無イ事ハ即座ニ忘レル貴様ニ教エテモ無駄ダロウ」
世間話でもするかのように気軽に話を振られた水のエルはつっけんどんに返す。そんな問答には興味がないと態度で示していた。
「やれやれ、つれない奴よの……では改めて、我に真名はないが、他者が我を呼称する際に最も多く使われる名は『
「っ! 罪爐……お前が……」
かぐやから世界の真実を教えられた陸人は、その名に驚愕を隠せない。今起きている戦乱の原点とも言える闇の元凶。それが今目の前にいる。
「ふむ、神樹が教えていたかな? 我も汝のことは知っていてな。御咲陸人……人にして神、クウガにしてアギトである特異点。散々に邪魔をしてくれた愛すべき目の上の瘤よ」
「罪爐、クウガ……知らねえ単語を畳み掛けてくんじゃねーよ。もうずっと訳わかんねえまま戦ってんのによ!」
「陸人、いったい何の話だ」
「悪い、今細かいことは説明してられない。とにかく敵、それもとびっきりの大物が出てきたとだけ分かっててくれ」
早々に話についていけなくなった鋼也と志雄に対して、陸人は珍しくぞんざいな態度で制した。それだけ余裕がない証拠だ。
「会いたかった……ああ、実に会いたかったぞ、陸人よ。今日は非常に気分がいい。なあ水の!」
「……目的ガアッタノデハ無イカ?」
「おっとそうであった! 重ねて失礼をした。まずはこちらの用事を済ませなくては、な!」
なにがそこまで面白いのか、罪爐はクツクツと笑いながら腕を振るう。すると次の瞬間、彼の両腕には哲馬と香が収まっていた。沈黙を貫いていた哲馬と、声もなく悶え続けていた香。罪爐はこの2人のために出てきたのだ。アナザーアギトの力を安定させたのも、香の姿を現世に呼び戻したのも罪爐。いわば今回の首謀者と言ってもいい。
「さて、沢野哲馬よ。貴様が余計なことを繰り返したせいで作戦は失敗したようだが、まだ戦う力はあるか?」
「……問題ない」
「そうかそうか! では次は我らも手を貸してやろう。この場は我らに任せて汝は巫女を捕らえてくると良い。それくらいはできるだろう?」
「……変身……!」
罪爐の腕を振り払い、再度変身した哲馬がゆっくりと前に出る。対するライダー達も改めて構え直す。綱渡りを繰り返してきたこの状況でさらなる増援となれば、流石に勝ち抜ける自信は持てなかった。
「ああホレホレ、そちらは我らがやると言ったであろう。無理をするな」
「いや、まだ戦える……貴様を叩く程度にはな!」
右足に力を収束したアナザーアギトが反転。罪爐の首に不意打ちのアサルトキックを叩き込んだ。
「……ふむ、驚きが半分、納得が半分といったところか?」
しかし実際にはその肌の数mm手前で不可視の壁のようなものに防がれていた。アナザーアギト渾身の一撃を受けても微動だにしない圧倒的な防御力。これが罪爐という存在の強さだ。
「何故、防げた……?」
「我の支配下にありながら行動に不自然な点があったこと。貴様の伴侶が計画にない妙なものを用意していたこと。
……疑っていた理由はいくつかあるが、今のを防げた理由は簡単だ。貴様の一撃よりも、この器に抑えきれなかった我が力の残滓の方が強い……それが彼我の実力差だ」
罪爐は常に周囲を警戒して障壁を展開していたわけではない。単なる一マラークには収まらない闇が結果的にシールドの役目を果たしたに過ぎない。
羽虫を払うような動作でアナザーアギトを吹き飛ばした罪爐は、左腕で捕まえたままグッタリとしている香に目を向けた。
「さて、父親の方はこの体たらくだが、こちらも既に使い物にはならんか」
「……ぅ……ぁ……パ、パパ……?」
「何せ
「パパ……志雄……鋼也……」
「……香……?」
「っ⁉︎ そんなハズはねえ……アイツが、なんで……⁉︎」
弱々しく顔を上げた香。その眼には生前と変わらない暖かみが宿っていた。本人と面識のない陸人には少し雰囲気が変わったとしか受け取れなかったが、志雄達にとってはずっと望んでいた再会だ。
「上面ヲ整エタ人形デハ無カッタノカ?」
「いや、確かに器に定着させる際に本来の人格は塗りつぶした筈なのだがな……何せ我自身初めての作業であったし、何より生前の縁深き仲と接触し過ぎたことが原因であろうな。完璧に沢野香本来の人格が戻ってきている……ホレ、せっかくだ。旧知の者に挨拶をしてやれ、さっきまでの記憶はあるだろう?」
「……志雄、鋼也……私、あなたたちに……ごめんなさい、ごめんなさい……!」
混乱と恐怖がピークに達した香の涙腺が崩壊する。真っ直ぐに零れ落ちる涙は、今目の前にいるのが本物の沢野香であることを物語っていた。
「間違いねえ、アレは香だ……なんだってんだ?」
「……奴の言葉通りだ。あれは肉体こそ別物だが、内包する魂は香のもの。なんらかの仕掛けが戦いの中で外れたということだろう」
「……苦しんでる……あれが香なら、僕は……」
「私、ずっと見てたの……表には中々出られなかったけど……パパのことも、ママのことも、志雄や鋼也を傷つけた時も、ちゃんと……」
「あ〜も〜、わっけわかんねえ! とにかく一度泣き止め香! 落ち着いたらゆっくり話聞くから」
「待っててくれ、香。すぐに──」
とにかく香を取り戻す。そのために踏み込もうとした2人だったが。
「……とまあ、ほんの少し感動の再会を味わってもらったところで、どんでん返しといこうか!」
罪爐が指を一つ鳴らしたと同時に、香の頰にヒビが入った。その亀裂はどんどん広がり、パラパラと香を構成する表面が剥がれ落ち、内に眠る灰色の本体が顕になる。
「なんだ、何を……?」
「人間というのは都合の悪いことをすぐに忘れる……まあそんなところも可愛らしいが。此奴は我がマラークに魂を上書きして造った人形。我の意思一つで本性に戻るのは当然であろう?」
死した魂に本来の人格が残っていた。それはまさしく奇跡としか言いようがない。しかしそれでも、今ここにいる香がアンノウンであるという事実は変わらない。造られた外見が綻ぶと同時に香の魂も削り取られてしまう。やっと表に出てきた沢野香という存在が、異形の魂に塗りつぶされていく。
「……え? あれ? 私、私は……」
助けを求めるように伸ばした右腕も、そのほとんどが異形の姿に変わっていた。残酷な現実に打ちひしがれながらも、片目が怪物のソレに変わってしまえば涙もまともに流せない。
「っ、テンメェェェッ‼︎」
「どこまで人の娘を弄べば気が済む、罪爐!」
「水の、足止めを」
「怒リハ最モダガナ、滅多ニ見レヌ光景ダ。モウ少シ待テ」
精神的な陵辱と言ってもいい残虐な行いにキレた鋼也と哲馬だったが、踏み込む前に水の障壁に遮られた。容易には突破できない防御力がありながら、透き通った水膜の奥は綺麗に覗き込める。大切な少女が怪物に成り果てる様を見届けろと、罪爐はそう言っているのだ。
(ふざけた真似を……とにかくこの壁を吹き飛ばして──志雄?)
「……もういい……」
陸人が壁を打ち壊す炎を収束させようとした隣で、志雄が静かに震えていた。怒りが沸点を超えて逆に冷静になっていた志雄は、障壁を突破するための準備をすでに終えている。
「──もういいだろっ‼︎」
『Boost up』
残り数秒のECXEEDを解放。最大出力の突撃で障壁を突き破ったG3-Xは、憎き異形達には見向きもせず、苦しみ続ける少女に一直線に飛び込み──
(いいよ、やって──志雄)
「……ぅああああっ‼︎」
振りかぶった右拳で、半ばまで変貌した香の胸を貫いた。
「っ、志雄⁉︎」
「………………」
「フム、そう来たか。やはり可愛らしいな、人間とは。愛する者を自らの手で滅ぼしてまで、醜いものを見たくないか……ならば、我も手伝って──」
「罪爐ぉぉぉぉっ‼︎」
まだ横槍を入れようとする罪爐に、香の件に関して1番の部外者であるアギトが剣を向ける。
「悪趣味にも限度があるだろう! お前はっ!」
「全ク同意見ダガ、如何ニ醜悪デアロウトモ今ハ同志ナノデナ」
両者の間に割り込んでカリバーを受け止めた水のエル。以前倒した時とは、明確に手応えが違う。ただ復活したわけではないというのは、陸人も一合で理解した。
「邪魔をするな、エルロード……また燃やされたいのか!」
「私ガ来タノハ其レガ理由ダ。貴様ヘノ借リヲ返ス為ニ……!」
「善哉善哉。エルロードも人間も、己が望むようにすると良い。それが巡り巡って我の
「ここまで頭に来る敵も珍しい。流石悪感情の化身だな……罪爐っ‼︎」
崩折れた香に駆け寄る鋼也達3人。アギトは最後の別れの時間を稼ぐべく、最上級の強敵2人に単独で果敢に挑み掛かる。
「あ、はは……ゴメン、やっと話せたのに……もうお別れみたい……」
「……香……」
「そんな顔しないでよ、志雄……あなたは私を助けてくれただけ。本当にありがとう……辛いこと押し付けちゃってゴメンね?」
アンノウンとしての肉体が死亡したことで、香の変貌は途中で停止。半人半魔といった容貌のまま、沢野香はニ度目の死を迎えることとなった。
「香、すまねぇ。俺は気づけなかった……お前がずっと中にいたこと、助けを求めてたこと……」
「気にしないでよ、鋼也の判断は正しい。私は怪物で、みんなの敵だった……最初からこうなるべきだったんだよ」
誰よりも痛くて、辛くて、苦しいはずなのに。それでも香は笑顔を見せる。二度目はちゃんと別れが言えることに感謝していたから。彼らの眼に映る最後の自分には笑顔でいてほしかったから。
「パパ……」
「香……」
「パパは気づいてたんだよね? 私のこと」
「確信はなかったが、可能性は考えていた。本来のお前が内に眠っているのではないか、と……」
「っ! だったら、だったらなんで……!」
「いいの、鋼也。パパもママも分かってたんだよ……許されないことをしてるって」
「娘が戻るから辞めるなどと、言えるわけがない……それに、俺はすぐにまた会える。そう決まっていたからな」
「そっか。パパはもう走り切っちゃったんだね?」
「ああ。最後の仕事を終えれば、俺もすぐに行く。寂しい想いはさせん」
「分かった。待ってるね、パパ……2回も先立つ親不孝者で、ごめんなさい」
「何を謝ることがある。今も昔も、香は俺と雪美の……自慢の娘だよ」
2人だけで通じ合う親子の会話についていけない志雄と鋼也に、香がゆっくりと腕を伸ばす。
「志雄……鋼也……2人には、本当に辛い想いをさせちゃったね……謝って済むことじゃないけど、本当にごめんなさい」
泣き笑いのようなグシャグシャの顔で謝罪する香。志雄も鋼也も、そんな幼馴染の手を縋るように握りしめて首を横に降る。本当は2人とも分かっているのに。別れが避けられないことも、これが今度こそ今生の別れになることも。
「何を謝ってんだ馬鹿ヤロー。香は何一つ悪いことなんざしてねえだろうがよ……!」
「その通りだ。弱気になるなんてらしくない、やっと会えたんだぞ? 亜耶だって、他のみんなだって香と話したいことはたくさん……」
「ふふ、相変わらず優しいなあ……ねえ、2人は幸せだった? 私と出会って、私と過ごして……楽しかった? 会えて良かったと思ってくれてる?」
「……当然だ、君がいたから僕達は……!」
「分かり切ったこと聞くなよ……香がいたから、今の俺たちがあるんじゃねえか」
「そっか……良かった」
その言葉に最後の心の支えが取れたのか、脱力した香の身体が仄かに光を灯して消えていく。魂も肉体も散々に弄ばれた香には、土に還るという人間の当たり前すらも許されていなかった。
「香っ!」
「いくな……いくなよ!」
「志雄……鋼也……」
最後の力を振り絞り、消えかけの香が震える声で囁いた。
「私のこと……もうニ度と……思い出さないでね……」
その言葉を最後に、沢野香の魂を宿したマガイモノは淡い光の粒子となって、天へと消えていった。一瞬前までその身体を抱きかかえていた2人の腕は虚しく空を切り、彼女がそこにいた証は何一つとして残らなかった。
(僕はまた……守れなかった)
(思い出すなって……最後の最後でそれかよ、香……!)
(よく頑張った……親として誇りに思うぞ、香)
拭うことも忘れて涙を流し続ける志雄。ヒビが入るほどに強く地面を殴りつけて感情を放出する鋼也。瞳を閉じて静かに娘を想う哲馬。
三者三様の在り方で自分の感情と向き合っていた3人の静寂を破るように、アギトが吹き飛ばされて突っ込んできた。
「ガッ、ハッ……!」
「っ、陸人!」
「済まない、俺1人じゃこいつらの相手は無理そうだ……!」
ただでさえここまでの戦いでボロボロの陸人。1人での時間稼ぎは既に限界を迎えていた。
「こっちこそすまねえ……もう大丈夫だ」
「本当に、いいのか?」
「ああ。今はただ、奴らを殴りたくてしょうがない……哲馬さん、あなたはどうする?」
「思うところはあるだろうが、この場は帯同させてもらう。事を起こす以上覚悟はしていたが、それと娘をいいように弄ばれるのは別の話だ」
怒りを隠そうともしない3人が再び変身する。これで状況は4対2。人類側の有利のはずだが、不思議なことに誰1人として自分達が優位に立っているとは思えなかった。
「先刻まで拳を交えた間柄がもう共闘か? 昔も今も、人間の面の皮の厚さには感心してしまうな。厚顔無恥と言うのだったか?」
「貴様に、恥の有り無しを問われる筋合いはない!」
一足で罪爐の懐に飛び込むアナザーアギト。振り抜いた拳は、またしても目の前で静止した。罪爐もまるで気にした様子もなく指で小突いてアナザーアギトを吹き飛ばす。
その隙に左右から飛びかかったギルスとG3-Xも同様に、攻撃の寸前で見えない力に縫いとめられて弾き返された。これでは戦いにすらなっていない。
「くっそ、どうなってやがんだアイツ⁉︎」
「奴は周辺一帯に己の力を充満させて自分の領域を作っている。それがあのデタラメな能力のタネで、あの穢れの化身が神樹の目前でも平気で動いていられる理由だ」
大社制圧に際して、罪爐は本部全域を自身の領域とすることで職員の支配をスムーズにした。流石に神樹が自身の身を守るために張っている最上級の結界内部までは作用していないが、それ以外の大社本部は全て罪爐の支配下にある。
「そうか、それで……ここに来てからつながりが悪いと思った」
そしてこの結界はアギトに対する妨害としても効果を発揮する。世界と繋がって無限に進化するアギトだが、ある領域を超えるにはその度に天の光を浴びて世界の認証を受けなくてはならない。アギトと世界のリンクを切断してしまえばシャイニングフォームは使えない。
全てをひっくり返す可能性を持つ奇跡の火種は、戦いが始まる前に潰されていたのだ。空を覆い尽くす黒い雲はその具現化。全てを照らす輝き無くして、絶対的な闇の集合体に勝つ術はない。
「そういうことだ。
罪爐が持つ三叉槍に破壊の力が収束していく。迸る力はアギトやエルロードを凌駕していた。
「マズい……!」
「そうら、弾けろ!」
黒い光の奔流が迫り、アギト達をかばって前に出たアナザーアギトの胸に直撃、爆散。外壁に開いた大穴から、アナザーアギトが落下していった。
「哲馬さん!」
「ヤバイぞ……!」
「まずは1人……」
「クッソ、これ以上やらせるか!」
「貴様ノ相手ハ私ダ、アギト!」
混迷極まる戦場には、落ちていった戦士の身を案じる余裕すらない。暴れ狂う水流と不可視の圧力に翻弄され、仮面ライダー達は徐々に、だが確実に追い詰められていく。
相当な高さから落下した哲馬は、変身も解除されて意識を失っていた。
──力が欲しいか?──
(……ああ、これは……)
──力が欲しくば、我の声に従え。こちらに来い──
(そうだ。俺は頭に響くこの声に導かれて、奴らと出会った)
娘を失い、失意のまま大社を離れて抜け殻のように生きていた哲馬の胸に直接響いた問いかけ。それに引き寄せられて壁の外に出た彼が出会ったのは、仇敵と教えられてきた天の神。異界の神と名乗るテオス。そしてこの世の醜悪を全て1つにまとめたかのような濃く強い黒の塊、罪爐。
そこで自分の内にアギトの力が秘められていること、大社がやってきたことは全くの無意味であったことを思い知った哲馬は汚れを受けた。世界を呪い、半ば自暴自棄になって自分の手で人類に引導を渡してやろうとさえ一度は考えていた。しかし……
──本当にそれで良いのか? 貴様はまだ、隠された真実に辿り着いていないというのに──
「あなたが本当にそうしたいのなら私は手伝う。でも話を聞く限り、少し向こうに都合が良すぎるように思うのだけど」
罪爐とは異なる声に引き止められ、傍の雪美の説得もあり、改めて与えられた情報とこれまでの事実を精査してみた。時に大社の秘匿情報も抜き取って、強引に世界の真実にまで到達した。
(何のことはない。娘の命を奪った事故、あれもまた罪爐が引き起こしたことだったのだ)
何故タイミングよく娘を失った直後の哲馬にコンタクトしてきたのか。何故哲馬の身体にアギトの力が移ったのか。全ては罪爐が裏で手を引いていたからだ。神樹が用意した人類の守護者を、自分たちの側で利用する駒とするために。
それを知った哲馬はあらゆる手で罪爐に対抗する道を探した。
自らを実験台にして、雪美と共に穢れへの対抗手段を開発した。侵攻のための戦力集めと嘯いて、大社内にいる罪爐の手がかかった人員の炙り出しも行った。弱点を探るべく、穢れを積極的に引き受けて自分の属性を罪爐に近づけるという無茶も犯した。
「あなた達がパパとママ? だよね?」
そんな中、罪爐が寄越してきた香を模した人形。その顔を見た時の感情はとても一言では言い表せない。
また出会えた歓喜。これほど似ていても本人ではない悲嘆。命と思い出を弄ぶ罪爐への憎悪。そんな複雑な心境は、日に日に香らしさが増していく彼女を見ていく内に更に複雑化していった。
「アレが香なのでは……そんな風に思うことが増えてきた」
「私もそうね。だけど、もう決めたのでしょう?」
「ああ、分かっている」
そして哲馬は1つ賭けをした。自分を引き止めた存在を相手に、人類全てをベットした大きな賭けだ。
(彼らが……次の時代を切り開く若き勇者達が俺達の試練を乗り越えた暁には、人類に生き残る価値アリとみなして協力する。思えば、こんな無茶な賭けによく乗ってくれたものだ)
哲馬は自分の命も賭けの道具として使い潰す覚悟で挑んだ。賭けの条件はあくまで全力で潰しにかかること。罪爐の呪いに侵されていたせいで、気を抜けば本懐を忘れて破壊衝動に呑まれかけたこともあった。
それでも、雪美の特効薬と元来の精神力で穢れに抵抗し続けた。表面上は従うフリをしながら、敵の策の裏で自分達の思惑を推し進めてきた。
(彼らは俺達を乗り越えてみせた。大社内部の病巣も全て炙り出せた。あとは……)
罪爐本体が出張ってきたのは予定外だったが、逆にこの場を乗り切ればかなりの時間を稼げるチャンスでもある。そのために今できることを……沢野哲馬は、娘が命を懸けたこの世界に変わらない明日を求めていた。
(逆転の鍵は御咲陸人……この結界さえ破れれば、勝機はあるはずだ)
倒れたまま紋を描く。罪爐に一矢報いるために磨き上げてきた独自の業……結界破りの紋章に力を注ぎ込んでいく。
──パパは、私がお役目を果たしたら……褒めてくれる?──
──この前の試験で1番だったの! さすがパパの娘だって──
──私が頑張って、パパとママの頑張りを形にできる。それがすごく嬉しいの──
その短い人生の中、過ぎるくらいに良い子として生きてくれた最愛の娘。
──久しぶり、っていうか初めましての方が良いのかな? パパとママで合ってるよね?──
──相変わらずパパは根を詰めすぎだよ、ママが心配するよ?──
──2回も先立つ親不孝者で、ごめんなさい──
理不尽な運命に振り回されて、それでも必死に沢野香であり続けた自慢の娘。
「娘を二度も奪われて、黙っていられる親がいるものか……!」
怒りに震える拳を地面に叩きつける。哲馬の身体に隠れる程度のサイズだった紋章が、本部の敷地一帯を覆い尽くすほどの大きさまで展開されていく。これが最後の切り札だ。
水流と雑兵を操る水のエル。空間そのものを支配する罪爐。制圧力に長けた2人を相手に、消耗しきったライダー達は完全に押さえ込まれていた。
「ふむ、こうして実際に打ち合ってみると上から見ていたほどではないな。拍子抜けとしか──む?」
両手を広げて余裕を見せる罪爐が何かに気づいた。脱落させたつもりだった哲馬が、人間らしい泥臭さで抵抗を続けている。罪爐からすれば赤子の児戯に等しい悪あがきだ。
「頑張るものよ。可愛らしいが……水の!」
「顎デ使ッテクレル……全ク」
水のエルが再生怪人の種を撒き散らす。本庁舎の下で紋を描く哲馬を囲むようにアンノウンが展開された。立ち上がる力さえも術に注いでいる今の哲馬に対抗する手段はない。
「鋼也、志雄! 行ってくれ!」
「はぁ⁉︎ マジで言ってんのか陸人」
「僕らが抜けたら、この場をどうする気だ?」
2人の反論も最もだ。哲馬を守るにしても、1人向かわせればいい話のはず。しかし敵はエルロード、その気になれば無から一軍を生み出せる超越者だ。
「ヤツはその気になればいくらでも兵隊を呼び出せる。隙を抜かれたら終わりだ」
「けどよ……」
「こっちはなんとかする。それより今は哲馬さんだ……あの人は何か狙ってる、きっと逆転手を握ってるんだ。それを守るためにも、2人は……」
人を守る際には細やかに気を配る癖に、自分のこととなると"なんとかする"という雑すぎる一言で済ませるあたりが陸人の陸人たる所以。そして実際になんとかしてきたのが御咲陸人だ。
「……分かった、間違っても死ぬなよ」
「あーもう、すぐに済ませるぜ志雄!」
陸人を説得するよりも手早く片付けた方が早い。そう結論づけた2人が飛び降りて行く。4対2で苦戦していた戦場で、まさかの1対2にまで数が減ってしまった。
「何を考えているのやら……よもや汝、自殺志願者か?」
「フン、お前達のような卑怯者、俺1人で十分なんだよ」
誰でも分かる強がりだったが、強がれなくなったらそれこそ終わりだ。両刃に爆炎を灯し、裂帛の気合と共に斬りかかる。
「本当ニ無駄ナ事ガ好キナノダナ、貴様ハ」
斬り裂いた筈の敵の姿が雫と散っていった。水のエルの特性、液状化で必殺の刃を回避されたアギトは、一瞬で瀑布に呑まれて身動きを封じられてしまった。
(不味い、この水の中は……!)
「水のの力を我の術で補強している。その中ではアギトの焔も使えんぞ」
「漸ク捕マエタ……散々邪魔シテクレタ羽虫ヲ」
球状に固められた水の檻に囚われたアギト。剣も振るえず炎も出せない。文字通り手も足も出せなくなった英雄を前に、罪爐が舌なめずりするように顔を近づける。
「随分と弱っているな。今なら、試してみるのも面白いか?」
「何ヲスル気ダ?」
「此奴は人類にあるまじき強靭な魂を持っている。そのせいで我は精神支配はおろか、直接因果をいじくって殺すことすらできなかった……が、この至近距離で消耗しきった今の状態なら、我の
アギトの角を掴んで強引に引き寄せた罪爐が、額を合わせて漆黒の影を流し込む。それはいわば罪爐そのもの。人類が長い歴史をかけて溜め込んできた悪感情の集合体。人を穢して世界を歪める呪いの力が陸人の身を直接蝕んでいく。
「カッ……ぅ……ギィッ!……何を、した……!」
「これでアギトを我が駒にできれば都合が良い。このまま潰えるならそれはそれで良し。楽しませてもらうぞ?」
「……ふ、ざ、け……やがっ、て……!」
必死の抵抗も虚しく、アギトの身体は水の檻に囚われたまま、陸人の意識は闇に堕ちていった。
(参ったな。すごい勢いで肉体と精神が引き離されていく……このままじゃ戻れなくなるぞ)
自身の精神世界に引き込まれた陸人。罪爐の穢れに呑み込まれて肉体と精神の乖離が進んでしまう。戻れなくなってしまえば、自我を失って敵の操り人形に落とされてしまうのは間違いない。
(知らない景色が流れ込んでくる……これは、罪爐が見せているのか)
押し寄せる闇の狭間に、見たこともない記憶が垣間見える。
神々の威光。砕け散る世界。蘇る闇。殺されていくリントに殺すグロンギ。そんな地獄を切り拓く一筋の光明、クウガの姿。
(これが世界の歴史……あのクウガ……そうだ、俺は……俺も、あの姿に……)
やがて飛び込んでくる景色の時代が移り変わり、今の街並みに近い光景が映る。西暦を終わらせた戦乱の時代だ。
(空を覆う星屑……それに抗っているのは……あの子達は、どこかで……)
「戦闘終了、だな」
「楽勝楽勝! もうタマ達無敵じゃないか?」
「もう、そんな油断してると怪我するよ?」
「でも確かに今回は楽な戦いだったね。数も少なかったし」
「……偵察、時間稼ぎ、色々考えられるけど……」
「バット、考え過ぎるのも良くないわ。ここで悩んでもアンサーが出ることじゃないでしょうし」
「そうですね。ひとまずはみなさんお疲れ様でした。みなさんのおかげで今日も四国は平和です」
「戻ったらお昼にしようか。ちょうどいい時間だし」
刀を抜き放つ少女。盾を投げる少女。矢を放つ少女。拳を握る少女。鎌で斬り刻む少女。鞭を振るう少女。そんな勇者達に寄り添う、2人の少女。
(この時代の勇者と巫女……そして、あそこにいるのは……!)
「みんな、お疲れ様。怪我してない?」
そんな8人の集まりに合流したクウガ。先達の戦士の仮面の奥にいたのは──
「こちらは問題ない。
「ああ。こっちも大した数じゃなかったよ」
自分と同じ顔、同じ声。御咲陸人は伍代陸人の顔を初めて目にした。
(そうか……そういうことか……!)
急速に浮かんでくるかつての記憶。大切な仲間、護るべき世界、そのために彼は──
──……と……陸人……陸人!──
精神世界を黒く染める罪爐の闇を切り裂く青い翼。どこかくぐもった懐かしい声に導かれて、陸人は記憶の波から抜け出した。
「ふむふむ、深いところまで堕とすことはできたようだが……ん?」
沈黙を続けるアギトを呑気に眺めていた罪爐だったが、ここに来て少しだけ余裕の皮が崩れた。自身が前もって仕組んだ結界が綻び始めたからだ。
下を見ると、哲馬の紋章術が想定以上の規模で展開していた。火事場の馬鹿力というものを侮っていた罪爐は、それでもまだ決定的な危機感は感じていなかった。
「水の、直接行ってくれ。アギトは我が見ておこう」
「私ハ貴様ノ小間使イデハ無イガ……」
「良いではないか、テオスにも我に従うように命じられているのだろう?」
「全ク……」
忌々しげに飛び降りた水のエル。哲馬の息の根を確実に止めるべく、水の刃を複数展開、投擲する。
「させっかよ!」
「邪魔をするな!」
「篠原……国土……」
哲馬の護衛についたギルスとG3-Xが全ての刃を叩き落とす。それぞれ思うところはあるが、今は目の前の敵に勝つために。
「成程、貴様等ヲ突破シテトドメヲ刺スノハ確カニ手間ダナ」
小さく呟いた水のエルが槍を一振り。すると目の前にいたはずのエルロードの身体が雫と消えた。
「っ⁉︎ どこに──」
「──ナラバ、スリ抜ケテシマエバ良イダケノ話ダ」
目を離した一瞬で肉体を再構成。倒れ伏したまま紋を描いていた哲馬の腹部を長斧で貫き、先端に引っかけるようにしてその身体を高く掲げてみせた。これで終わりだと、そちらの切り札は不発に終わったと知らしめるように。
「哲馬さん!」
「──ちっくしょうがぁ!」
激昂して飛びかかろうとした2人を、割り込んできた再生アンノウンが制する。人知を超越した水の天使を相手に、ギルスとG3-Xは完全に出し抜かれてしまった。
「沢野哲馬、ダッタカ。貴様ノ立場ハ哀レニ思ウガ、運ガ無カッタト諦メテ冥府ニ落チヨ」
「……く、くく……何を勘違いしている? まさか、勝ったつもりでいるのか?」
絶望の表情を拝もうとしていた水のエルだったが、予想に反して哲馬の口からは嘲るような笑い声。沢野哲馬は逆に勝利を確信した笑みを浮かべていた。
「一手遅かったな……既に仕込みは完了した……!」
足元の紋章が光り輝く。空間全体を支配する結界。それを打ち破るべく空間に働きかける結界破りの紋章術。2つの神秘がぶつかり合い、一帯の空気そのものが激しく軋む。
「コレハ……コレ程ノ……!」
「隙ありだ、クジラ野郎!」
「いつまで人をぶら下げているつもりだ!」
雑兵を蹴散らした2人のライダーが左右から攻める。隙を突かれた水のエルは、穂先に捕らえていた哲馬を放って離脱した。
「哲馬さん!」
「大丈夫かよオイ? 思いっきりブチ抜かれてたぞ」
「問題ない、血は止めてある……それよりここからだ。この場の支配を取り返すぞ」
何もないはずの空間にヒビが広がっていく。罪爐が支配してきた領域が、少しずつ壊されていく証だ。
それを上階から眺めていた罪爐は、想定外の速度で支配権を奪還されてしまっている事実に疑問を抱いた。
(いくら力を注いだところで、奴如きが我の結界を破れるはずがない……この感触、外から干渉を受けているな)
罪爐に通用するレベルの神聖を扱える存在は、今の世界にそうはいない。結界内部にいるアギトと神樹以外で考えられる候補は二つ。そこから敵対する可能性がない者を除けば、消去法で一つに絞られる。
「なるほど、ここにきて我を出し抜こうという腹か。なかなかの演技派ではないか」
何かに納得した様子の罪爐が楽しげに頷く。次の瞬間──
──カシャン、というガラス細工が壊れたような小さな破壊音が空間に響いた。
「……オオオオアアアアアッ‼︎」
「──チッ、ここまでか……!」
それと同時に、罪爐の支配下にあったアギトの意識が浮上。水のエルが離れて拘束力が弱まった水の檻を打ち破り、罪爐を殴って諸共に落下。これで全員が再び同じ戦場に合流した。
「ハッ、ハッ……これで、条件はイーブンだな」
「哲馬さん、あなたの身体は……」
「自分のことは自分が1番分かっている。何も言うな」
「……了解」
再合流した陸人と哲馬が言葉を交わす。人の域を超越した陸人から見て、同類たる哲馬の状態は一目で把握できた。
「それよりも、見ろ……空に光が戻ったぞ」
二本の足で立つのもやっとな有様の哲馬が上を指差す。本部に突入してからご無沙汰だった太陽だったが、ようやく雲の切れ間からその姿を現していた。
「行くぞ。これ以上奴等が好き勝手しているのは……我慢ならん!」
「同感です。あのお高く伸びまくった天狗の鼻、叩き折ってやる……!」
並び立つは2人のアギト。互いにこの世で唯一の、正しい意味での同類の存在。
「──変身っ!──」
「……変身……!」
取り戻した世界との繋がりを駆使して到達した、アギト・シャイニングフォーム。
最後の力を振り絞って変身した勇猛たる戦士、アナザーアギト。
「さあ、お膳立ては完了だ!」
「こっからは、大逆転の時間だぜ……!」
2人に並び立つ勇者、ギルスとG3-X。四者四様の仮面の戦士が、今ここに肩を並べて顕現した。
「随分調子ニ乗ッテイルヨウダナ。人間ノ延長上デシカ無イ儚キ者達ヨ」
「これ以上そちらに付き合う理由はないのだがな。そう張り切られては相手をしなくては失礼にあたるか」
「もうこれ以上口を開くな……雪美の悲しみ、香の痛み、この俺の怒り……全てまとめて返させてもらうぞ!」
「こうなったらこっちのもんだ! 行くぜ……
かつての自分と最強の力を取り戻した英雄が、同胞と共に最悪の魔王に立ち向かう。
お伽話のような決戦の勝者は、光か闇か──
ちょっと分かりづらくなったかもしれないので解説。
〜沢野哲馬の軌跡〜
①香の死後、大社を離脱して罪爐達と出会う。敵側に都合良く改撰された世界の真実を教えられる。
②穢れを取り込み、アナザーアギトとして覚醒。罪爐の意思に呑まれたこともあり、世界の破壊を目論む。
③とある存在と妻である雪美に引き止められて正気を取り戻し、独自に世界の真実に辿り着く。同時に、香の事故が罪爐の因果律制御のせいで起きたことにも気付く。
④罪爐の裏をかいて反逆することを決意。穢れ対策も行いながら作戦を立てる。この時点で人形の香とも出会っていたが、悩みながらも準備を進めた。
⑤大社の裏切り者候補の炙り出しと、とある存在を味方につけるための賭け、そしてライダー達を鍛える意味も兼ねて作戦を決行。
とある存在、というのは次回か次次回あたりで明記します。まあこの時点で分かるかもしれませんが。
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに