A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
あまり間を空けると意欲がなくなりそうだったので、なんとか仕上がった一話だけとりあえず投稿。週一更新は難しいかもです。しかも荒い……
またたきの章から地続きで読んでいる方がいらっしゃったら、先に番外編の"尊き『
最初に言っておくと……タイトル詐欺です。
いつも通りの日々
「はーい、会議始めるわよー! 全員集合‼︎」
最年長にして勇者部部長。犬吠埼風の号令が部室に響く。
「あいっかわらず声でかいわね。みんな部室にいるんだからそんなに声張らなくても聞こえるっての……」
ブツクサ言いながら立ち上がる部内きっての武闘派、三好夏凜。
「まあまあ、お姉ちゃんも部長らしいことがしたいんです。付き合ってあげてください」
苦笑いで姉のフォローに回る最年少にして風の妹、犬吠埼樹。
「あら、私は好きよ? 風先輩の号令のおかげで身も心も引き締まる感じがするわ」
長かった車椅子生活から最近脱却した大和撫子、東郷美森。
「そうそう、朝眠い時とかに風先輩と挨拶するとスッキリするよね!」
笑顔で美森に同意する勇者部のムードメーカー、結城友奈。
「ゆーゆはお寝坊さんなんだね〜。それをわっしーが起こしに通っていると……なるほど、メモメモ〜」
常人には理解できない何かを受診して高速でメモを取る新入部員の乃木園子。
「さて、
「はーい! あっ、新しい校内新聞出てたんですね」
「そうそう、文化祭の劇の記事、バッチリ目立つようになってるわ」
「写真も……いいじゃない。やっぱり友奈のあの衣装似合ってるわね」
黒板に貼られている校内新聞。その中心には勇者部の演劇に関する記事と、衣装で撮影した集合写真がデカデカと掲載されていた。
「私はこの時まだ学校来れてなかったんだよね〜。もうちょっと早く復帰できてればな〜」
「そうね。来年こそは一緒に、最高の文化祭にしましょう、そのっち」
「来年はもうちょっと余裕を持って準備できるでしょうし、頑張りましょう園子さん」
その写真に写っているのは5人。文化祭時点で所属していなかった乃木園子を除いた勇者部メンバー
結城 友奈
東郷 美森
犬吠埼 風
犬吠埼 樹
三好 夏凜
乃木 園子
彼女たち
(あれ? この写真って……5人で撮ったんだっけ?)
桜の勇者が抱いた、ほんの僅かな違和感。友奈と美森の間に不自然に空いた1人分の空白。そんなささいな引っかかりも、忙しない勇者部活動に押し流されていった。
いつもの調子で各部の助っ人やら教師の手伝いやらで放課後を過ごした勇者部。少し前までの殺伐とした日々が嘘のように、ここ数日は何事もなく普通の学生生活を送れている。
「う〜〜ん、やっぱり運動した後の疲労感って好きだなぁ。身体使ったーって感じで」
「脚も治ったし、今なら私もその気持ち分かるわ友奈ちゃん」
「今日は予定通り依頼を果たせたし、最近いい調子よね」
「問題といえば……お姉ちゃんの受験勉強でしょうか?」
「あ〜、言わないで妹よ。考えないようにしてたのに……乃木先生、ホント……ホントお願いします!」
「ふっふっふ〜、任せなさ〜い……と言っても、今日はこれから予定があるから、勉強会はまた明日ってことで〜」
「あ! 大社のお友達に会うんだよね」
「ええ。2年前、共に戦った護国の同志よ。こうもあっさり許可が取れるとは、大社もかなり柔軟になってきたわね」
「ま、色々あったんじゃないかな〜? てなわけで私めとわっしーはここらでドロンさせていただきます。ではでは〜」
パタパタと駆けて行く美森と園子。待っている相手がどれほど大切な存在なのかよく分かる。少し前まで走るどころか立つこともままならなかった彼女達だ。後ろ姿を見送る側も嬉しくなってしまう。
(あの写真のこと、東郷さんに聞いてみようと思ったんだけど……また明日でいいかな)
空間そのものが焼きついたような息苦しい匂い。視界を覆い尽くす漆黒の炎。元から異様としか言いようがないのが壁外の常だったが、志雄の目前には今まさに煉獄と呼ぶに相応しい火の海が広がっている。
(
緊急事態の報を受けて単独で飛び出したG3-Xが現着した時には、周囲の地形は破壊し尽くされていた。これでは再び儀式を施しても陣地とするのは不可能だろう。
「……ス……消……スベテ……」
「──ッ、誰だ⁉︎」
獣の唸りのような重たくくぐもった声を、G3-Xの優秀なセンサーが捉えた。振り返り、銃口を向けた先にいたのは──闇。
「スベテ消ス……常世ニ在ルモノ、スベテヲ……!」
無明の黒で染め上げられた身体は力強く膨張し、内に篭った闇が漏れ出している。ベルトの霊石は銀に変色し、瞳の色は深い紫紺。深く反った双刃の薙刀からも、ドス黒い瘴気が漏れ出ている。
『■■■ エクリプスフォーム』
眩い太陽が黒い影に覆われるように。闇に染め上げられて完成した破壊の戦士。
「……お前が、コレをやったのか?」
「…………」
黒い異形は何も答えず、右手に握ったカリバーを大地に突き立てた。それを合図に、周囲に燻っていた黒炎が急速に勢いを増加。G3-Xの装甲越しでも命の危険を感じるほどの熱量が一帯を覆い尽くした。
「……燃エロ……スベテ……」
「これほどの……待て、この……!」
センサーの挙動もおかしくなるような熱の中、去っていく異形に向けて志雄はGXランチャーを展開。初手から奥の手を解禁せざるを得ない強敵だと、彼は邂逅した瞬間に悟ったのだ。
(背後は無防備……当たれ──!)
「…………」
不意打ちで発射したGXランチャーは、確かに命中した。命中した、はずなのだが、黒い異形は意にも介していない。
(……冗談だろ……どうやったらアレをシカトできるんだ?)
衝撃も爆風も一切を無視。歩調も姿勢もまるで乱れることなく立ち去っていった。
借り物の姿だったとはいえ、あの罪爐にさえ通用したランチャーは黒い異形にとってあってもなくても変わらない、その程度の攻撃でしかなかったということだ。
「ここに来て新顔の怪物が追加されるとはな……」
(これまでのアンノウンとは似つかない姿……でもなんだ? 何が引っかかっているんだ?)
結局あの異形はG3-Xには見向きもしなかった。今までの敵とは明らかに違う、文字通りのアンノウン。志雄はその背中に、言い知れぬ不安と違和感を感じ取っていた。
「ミノさ〜ん! しのの〜ん!」
「おおっと! いいぞ園子、前よりも感触が重たい、ちゃんと食って動いて身体ができてきたな」
「も〜、女の子が女の子に言うセリフじゃないよ〜」
合流早々に挨拶がわりのハグをかます園子。それをガシッと受け止めた銀は、かつて人の手を借りなければ動けなかった園子の回復を体感して笑う。
……決して回復して1ヶ月でスタイル的に追い抜かれたことを気にしているわけではない。断じて違う。
「1週間ぶりね。鋼也くんも変わらないようで良かったわ」
「まあな。そっちは……お変わりあったようで。大変そうだな」
「分かる? そのっちのボケが止まらなくて……特に夏凜ちゃんなんてすごく苦労してるわ」
「ああ、そこ須美じゃねえんだな……まあお前さんも随分キャラ変わったから。あの頃の優等生に見せてやりてーよ」
「ふふっ、なにせ名前を変えて、記憶も飛んでだからね。そりゃ中身も変わるってものよ」
「違いねぇな」
身体機能の大部分を捧げて人間の域を逸脱しつつあった園子。
両脚と記憶を失って"鷲尾須美"ではなくなった美森。
女性としての機能を失くして夢を奪われかけた銀。
2年もの間目覚めることなく眠り続けた鋼也。
そんな悲惨な過去を乗り越えて万全の状態で再び揃った先代勇者組。彼らは共に過ごせなかった空白の時間を埋めるように、定期的に4人で集まって語らう時間を作っている。時折担当官だった安芸先生もここに混ざったりもして、今という時間を精一杯楽しんできた。
「仕事の方はどうなの?」
「ここんところ出てくるのはアンノウンの中でも歯ごたえのねえ雑魚ばかり。俺と志雄だけでちゃんと対処できてるよ」
「そう……でも鋼也くん達だけに押しつけるのは心苦しいわね。次の代の勇者というのは、まだ決まっていないのかしら?」
「どうなんだろうな? 今大社バタバタしててな、その辺は聞けてねーんだ」
「私も大社じゃ下っ端だからなー。でも雰囲気はかなり良くなったんだぜ。大人達もあの仮面しなくなったし」
「そっかそっか〜、頑張ってるんだね〜」
1ヶ月ほど前の内乱以降、大社全体が自己改革を進めている。風通しが良く、能動的でクリーンな体系を志している。規模は縮小したものの、勇者部から見れば良い変化だ。
「……っと、悪い……緊急連絡?」
穏やかな雰囲気を切り崩す着信音。人類の最高戦力たる鋼也の端末に連絡が入った。
「……んだよそれ。何も分かんねえってことか?…………ああ、あー了解。すぐ戻るよ、その方が早そうだ」
相手は国土志雄。鋼也は1分ほどの通話でこれでもかと言うほどに苦々しく眉間にしわを寄せて電話を切った。
「どうしたの、鋼也くん?」
「いや、いまいち要領を得なかったんだが……」
壁外で新種のアンノウンと遭遇、その敵の力があまりに異様で底知れない存在だったため、至急合流して警戒態勢に移行するように、という用件だった。
「そっか〜、それは気になるね〜……じゃあ今日はお開きか〜」
「悪いな。俺も銀もすぐに情報共有しとけって話だ」
「アタシもか? よっぽどの大事になってんだな」
「残念だけどお別れね。2人とも気をつけてね」
「ああ……ん? 追加情報?」
「どしたよ、鋼也?」
鋼也の端末に送られた補足情報のメール。そこには画質が荒い調整前の異形の画像。現時点で把握しているデータが記載されていた。
「コードネーム? さっきの今で決まったのかよ……"アギト"?」
「……!」
「え? 鋼也くん、今なんて……」
「あ? だから"アギト"だとよ。例のアンノウンのコードネーム」
『アギト』
その三文字が、美森と園子の頭に横から殴りつけるような衝撃を与えた。
「どうしたんだ2人とも? なんか顔色悪いぞ?」
「……わかんない……どこかで聞いたような〜?」
「ごめんなさい、帰らせてもらうわ。銀も鋼也くんも、無理しないでね」
ノイズのように誰かの後ろ姿が脳裏によぎる。手を伸ばしても届かない影。美森も園子も、その影の素顔がなぜか無性に気になった。
「……はい。敵性コード、アギト……至急周知をお願いします。それでは」
体制改革真っ只中の大社本部。最上階の自室でかぐやは、電話を終えると物憂げにため息をこぼしてベッドにその身を投げ出した。
「とうとうこうなってしまいましたか……
待ち受け画面に表示されるのは自分1人だけが笑顔で写った記念写真。しかし本当はその隣にもう1人いたことを、かぐやは唯ひとり覚えていた。
(ここまで来たら、私にできるのはこれくらい……あとは)
現在の大社で暫定的に最高権力者の椅子に座っているかぐや。その権限を用いて発見から数時間しか経っていないアンノウンの情報を全速力で拡散させた。そこに、かぐやしか知り得ない名称を付け加えて。
「園子ちゃん、勇者部の皆様……お願い致します、どうか──」
──あの人を助けて。
その願いは、声として発されることなく溶けていった。
珍しく1人になった帰り道、友奈は目に付いた路上のゴミを拾いながらゆったりと帰路についていた。
「あらぁ、友奈ちゃん。偉いわねぇ」
「あ、こんばんわ! えへへ、なんだかちょっとゴミが気になっちゃって」
「そうなのよねぇ。ちょっと前まではそんなことなかったのに。最近散らかすような子が増えたのかしら?」
「確かにな。だがまあ、君のように積極的に片付けてくれるいい子だっている。すぐに落ち着くだろうさ」
「そんな、私は大したことはしてないですよー」
近所の老夫婦と会話しながらテキパキとゴミを拾う友奈。何気ない会話の中で感じる既視感。少し前、同じような会話を聞いたような、うっすらとした記憶。
(……違う、これは私が話したわけじゃなくて……誰かがいて……この辺りのゴミはその人がずっと──)
誰かが道を綺麗にするのを見ていた覚えがある。その誰かがいなくなったせいで、今日はこんなにもゴミが気になったのか。
いつ、誰がやってくれていたのか。何故覚えていないのか。友奈の頭は次第に混乱し始めた。
「あの、友奈ちゃん大丈夫?」
「あ! な、何でもないです。大丈夫、結城友奈元気ですよー!」
今の世界は何かがおかしい。その世界に順応しきっている自分の記憶もおかしい。最高の勇者である友奈は、朧げながら世界に疑問を抱いていた。
その夜、友奈、美森、園子は夢を見た。違う場所で違う時間に眠りに就いたにも関わらず、不思議なほどに似通った内容の夢。少し前まで勇者として共に戦ってきた、大好きで大切な少年との思い出だ。
──じゃあ質問3。君は俺の大好きな人だ──
──私は■■■■が大好きだし、■■■■も私のこと"好きだ"って思ってくれてたら……凄く嬉しいです──
結城友奈にとって、その少年は"日常"だった。平時でも戦場でも、求めた時にはいつだって隣を見れば傍にいて、あの優しい瞳で笑いかけてくれていた。
──美森ちゃんが大好きだから……大切だからだよ──
──私に隠し事をするのはやめて。■■が大好きだから……大切だから──
東郷美森にとって、その少年は"中心"だった。戦う道を選んだのも、世界に絶望したあの日に、それでも生きることを決めたのも、彼の存在があったからだ。
──■■■■とお昼寝するの気持ち良かったし、またしよ〜──
──あはは……機会があればね──
乃木園子にとって、その少年は"憧憬"だった。誰よりもまっすぐに生きる彼に、自分を物語のお姫様のように大事にしてくれる彼と生きる未来に憧れを抱き続けていた。
──いいから、早く行け……友奈ァッ‼︎──
──俺の残りの人生全部使ってでも、君の幸せを見つけ出す──
──そっか……これ、園子ちゃんの香り……だから、こんな、にも──
戦う時の凛々しく勇ましい彼も、まっすぐにこちらを思ってくれる優しい彼も、ふとした時に素を出してくれる可愛らしい彼も。
全ては確かにここにいた。同じ場所で同じ時間を過ごした彼が、絶対にいたはずなのだ。
(忘れてた……いや、違う)
(消されてた? なんで……)
(とにかく今は、あの人の名前を──)
そうだ、自分は彼のことを特別な呼び名で呼称していた。2人だけの形が欲しかったからだ。彼はそんな心を理解はしていなかっただろうけど、呼べばいつだって笑って応えてくれた。
(……りっくん、りっくん──!)
(リク、どこにいるの? リク──!)
(あなたがいなきゃダメなんだよ、りくちー……!)
神の権能が上書きした情報が剥がれ落ち、本来あるべき
自分が自分である限り、刻んだ時間はなかったことにはできないのだ。
長い夢を見ていた。最愛の彼がいない世界で、なんの疑問も抱かずのうのうと過ごしてきた夢だ。
「探さなきゃ、あの人を」
「見つけなくちゃ、あの子を」
「その手を掴まなきゃ、彼のように」
何度もそうしてくれたように、今度は自分たちが彼の手を掴む。目覚めた3人は、布団を払いのけて駆け出す。
世界そのものとはぐれた迷子の男の子を、見つけて抱きしめなくてはならないのだ。
ヒロインズが彼をアダ名で呼んでいたのはこのシーンのためです。それぞれが独自の呼び名で呼ぶことに意味があります。
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに