A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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サブタイを見て、意味深な方向を想像した人……先生は怒らないから正直に手を挙げなさい。



私の味

「──ハハハハハハッ!……ハァ〜、愉快愉快。さて一度戻るか、共に行くぞ? これからは汝も我の同胞(はらから)だ」

 

 雨が降り注ぐ中、一頻り高笑いを続けた罪爐が振り返ってアギトに手を差し伸べる。蹲っていたアギトは無言のまま手を掴み……

 

「──死んでもゴメンだってんだよ!」

「おおっと……」

 

 その手を引いて、罪爐の首にカリバーを振り抜いた。

 

「ククッ、何ともしぶとい。そのザマでまだ動けるとはな」

 

 渾身の一撃を呆気なく回避した罪爐が呆れたように笑いを溢す。

 闇のアギトに存在の9割以上を蝕まれた陸人は、それでもまだ肉体の制御を保っていた。カリバーを振り下ろして密着状態の罪爐を引き離す。

 しかし、できたのはそこまで。追撃しようと踏み出した右足は、そのまま力なく崩れ落ちて倒れ込んだ。

 

 

 

「グッ……ち、くしょう……!」

 

「だが、それも時間の問題だ。汝自身も分かっておろう? もう既にその肉体も魂も人外に変異した……1時間、保ったら喝采ものだな」

 

「黙り、やがれぇぇぇっ‼︎」

 

 陸人の憤怒に呼応して周辺の大気が燃焼、陸人を覆うように火柱が上がった。対する罪爐も予想していたのか、慌てることなく転移して姿を消した。

 

 ──ほぅら、その焔が明確な証だ。何の道具も術も無しに、それだけの力を使える人間が何処にいる? 自覚せよ、汝はもうこちら側なのだ──

 

 陸人は人間ではない。その事実を突きつける声を最後に、ドス黒い圧迫感が消えていく。どうやら壁外まで引き上げたらしい。本当に陸人を焚きつけることだけが目的だったようだ。

 

(好き勝手言ってくれる……俺は、まだ──!)

 

 壁に手をついて立ち上がろうとした瞬間、触れたコンクリートは飴細工のようにたやすく融けて崩れた。アンノウンのような超常現象。陸人は慌てて内から吹きこぼれていく力の残滓を落ち着かせた。

 無意識に落ち着かせることができた、ということは既に力を使いこなせているということ。陸人の進化は、その身に完全に馴染んでいた。

 

(なるほど……どうやら今度ばかりは本気で、どうしようもないらしいな……)

 

 あの陸人が諦めるほどに完璧に、罪爐は御咲陸人という人間を壊し尽くしていった。

 沈んでいく意識の中、誰かが自分に駆け寄ってくる気配を最後に陸人は目蓋を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に目を覚ますことはないかもしれない、と覚悟はしていた。そんな陸人の予想を裏切り、目覚めて最初に目に入ったのは見知った少女の顔。陸人の右手を握り一身に祈りを捧げる、心優しき巫女がそこにいた。

 

「……かぐや、ちゃん?」

 

「っ! 陸人様!」

 

 感極まったかぐやが、横になったままの陸人に抱きついた。状況を把握できていない陸人だったが、涙を流して呻く彼女を見て、そっと抱き返してやるしかできなかった。

 

「良かった……良かった……!」

 

(そうか、この様子……かぐやちゃんは、全部知ってるんだな)

 

 かぐやが気を遣ってくれたのか、担ぎ込まれた先は彼女の私室。機密性はかなり高く、神聖に満ちていて邪魔も入らない。

 

(立つ鳥跡を濁さず、かな……)

 

「陸人様……?」

 

「かぐやちゃんに頼みたいことがあるんだ。神樹様にお願いがしたくてね」

 

 少年は覚悟を決めた。

 

「"俺の記憶や痕跡、御咲陸人が存在した証を結界全域から抹消してほしい"……そう伝えてくれ」

 

 御咲陸人として培ってきた全てを捨てて、この世界から消える覚悟を。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そんな頼みを黙って引き受けるかぐやではない。いつもの穏やかさをかなぐり捨てて烈火の如く追求してきた。何故そんなことをしなければならない、と。

 対する陸人の返答は、"このままでは自分は罪爐の闇に染まって敵の手に墜ちる"

 "筆頭巫女と神樹様の手でも癒せない以上、これは避けられない"

 "自害しようにも、今の自分が首を落とした程度で死ねる自信がない"

 "アギトが敵に回るだけでも最悪なのに、勇者達が戦うことを躊躇してしまえば勝機は0になる"

 "すぐにでも消える命なら、せめてかける迷惑を最低限にしてから終わりたい"

 

 あらかじめ用意していたような完璧な弁論に、かぐやは返す言葉を持たなかった。陸人が起きるまでの間、手を握って浄化を続けてもなんの手応えもなかったのは事実だから。"もう打つ手がない"という見解を、自ら後押ししてしまっていたから。

 自害、死ねない、などと聞きたくもない言葉もポンポンと出てくる。普段の陸人はもっと言葉選びに気を遣っている。それだけ余裕がないことの証左だ。

 

 

 

 

 

 

「だからって、陸人様……無くなってしまうんですよ? 自分の全てが……皆の思い出にも残らずに」

 

「それはイヤだね……でも、このままだともっとイヤな未来が来る。俺の手でみんなを殺すことになるくらいなら、知らない誰かとして消えた方がまだマシなんだ」

 

 自己犠牲の優しさにも思えるが、見方を変えればこれほど独善的で身勝手なセリフもないだろう。忘れる側の、置いていかれる側の辛さを全く考慮していない。

 

(どうして……この人の笑顔は、本当の笑顔はもっと……)

 

 かぐやにとって陸人はまさに英雄だった。優しい言葉、大きな背中、力強い瞳、温かい心。今目の前にいる人間との違いを見て、少女はようやく気がついた。自分がいかに都合の良い部分にしか目を向けてこなかったのか、ここにきてやっと理解できた。

 

(本当はもっと柔らかく眩しく笑う人なのに、どうしてこの人はこんな痛々しい顔で笑っているの……?)

 

 眉尻は下がり、口元は歪み、いつも宿っていた目の奥の光が霞んでいる。今の陸人には、ハリボテの笑顔で取り繕うことしかできなかった。

 

 

 

 

 

「──いや、です……行かないでください、陸人様……」

 

「ごめん……本当に俺は成長しないなぁ。何度繰り返しても、最後には必ず女の子を泣かせてる」

 

「なんで……なんでぇ……!」

 

「ほんと、なんでいつもこうなるのか……約束、今度こそ守りたかったんだけどな」

 

 かぐやとも、美森や友奈達とも、たくさんの約束を交わした。全てを守ってきたつもりだった。しかし遥か昔に生きた、忘れていた頃の自分は何より大切な人との約束を破っていて、今もまた自分から繋がりを断ち切ろうとしている。

 

(やっぱり俺には、完全無欠のヒーローは無理だったってことか。2回目のチャンスも棒に振るんだからな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 幼子のようにぐずるかぐやをあやす事数分。納得できないまでも時間がないことは理解した彼女は渋々神樹と交信、了承の返答を受け取った。

 神樹の内側にいる彼女達から何か反応があるかと思ったが、驚くほどあっさりと神樹の承諾を得られたことに陸人は少なからず驚いた。

 

(こっちに伝えられないだけか、他になにかしてるのか……まあ、早いに越したことはないな)

「よし、それじゃ俺は行くよ」

 

「……っ、もう、行かれるのですか?」

 

「ああ、かぐやちゃんのおかげで随分楽になったからね。今のうちにできるだけ結界から離れておきたいんだ」

 

 その言葉は半分嘘だ。確かにかぐやの処置と、神樹の気配が強いこの空間にいるおかげで罪爐の闇は一応沈静化している。しかしそれはあくまで一時的な対症療法。今でも一瞬気を抜けば倒れ込みそうなほどに気分は悪いし身体も重い。いつも通りの痩せ我慢で笑顔を作る陸人が、思い出したように上着のポケットから何かを取り出す。

 

「……あ、そうだ。忘れるところだった……約束した飴、昨日買っといたんだ。いやー、良かったよ。最後に1つだけでも約束守れて」

 

 上品な装丁の包みを手渡す陸人の笑顔は酷くぎこちなく、差し出した腕は小さく震えている。そんな状態で、最後に言うことがこんなささいな約束事なのだ。

 

 なんだそれは。

 無言で飴を受け取ったかぐやは、怒りとも悲しみともつかない感情に包まれた。こんな仕打ちを受けてもなお、彼が気にするのはこちらのことばかり。

 いっそ無神経なほどに自分に無頓着な陸人に、少女は心中でずっと張っていた予防線を踏み越えた。

 

 

 

 

 

「ありがとうございます、いただきますね……あら、美味しい。こんな良い物を頂いてしまっては、何かお返しが必要ですね」

 

 どこか芝居がかった笑顔で飴を口に含んだかぐやが、頭の後ろに手を回す。髪をハーフアップにまとめていた蝶の髪飾りを外して、美しい黒髪が重力に従って落ちていく。いつもの陸人であれば頬を赤らめるくらいの反応は期待できるほど、その所作には不思議な色気があった。

 

「かぐやちゃん……?」

 

「コレをお持ちになってください。この髪飾りは私が長年身につけてきたもの。拵えが特別な神具ではありませんが、御守り代わりにはなるかと思います」

 

 黒染めの蝶。清廉な神聖に満ち溢れたかぐやが身につけてきた髪飾りにもまた、多少の神聖が宿っている。元来特別な神具を持って動けば、目敏い罪爐は必ず気づく。これがかぐやにできる精一杯の援護だった。

 そしてもう1つ、授けるものがある。

 

 

 

 

「ありがとう、かぐやちゃ──」

 

「……ごめんなさい……」

 

 誰に向けたものかも分からない謝罪を口にして、陸人の手を強く引き寄せる。立つのもやっとな有様の陸人は、少女の細腕にも抗えずに体勢を崩し──

 

 

 

 

「…………ぇ……?」

 

「────っ、んっ……ふぅ……うまくいきましたね」

 

 

 

 

 2人の唇が合わさり、かぐやの口にあった飴玉が陸人の口内に移された。

 これには今の陸人でも流石に動揺を隠せない。よろよろと後退り、口を押さえたまま眼は泳ぎっぱなし。頭の中は衝撃と疑問符でグチャグチャだ。

 

「陸人様、お味は分かりますか?」

 

「………………レモン味」

 

「正解です! では、その味を私の味だと思って……忘れないでくださいましね?」

 

 ファーストキスはレモンの味。そんな少し古臭いフレーズを思い出したかぐやは、込み上げてくる羞恥心を隠して平然とした顔を作る。なんでもいい。少しでも陸人の気持ちを上向かせることができれば、と必死だった。

 

「かぐやちゃん、君は……」

 

「人には2段階の死が訪れると言います……1つ目は、肉体の死滅。そして2つ目が存在の消滅です。

 人はこの世の全てに忘れ去られた時、真の意味で死を迎えるのです」

 

「そうなんだ……じゃあ、俺はこれから──」

「だから、陸人様は大丈夫です。私がいますもの」

 

 自分は本当に死にに行くのか、という自嘲を遮り、かぐやは力強く宣言する。

 

「私が何者か、お忘れですか? 神樹様が如何様に世界を改変しても、御身と直接繋がっている私には意味を為しません。何があっても私だけは、貴方様を忘れないということです」

 

 神霊の干渉力は同じ神霊には通じない。神樹の一部と言ってもいいほどに深く適合しているかぐやには、罪爐だろうと天の神だろうと神樹本体だろうと干渉できない。

 裏を返せば誰もが知らない、誰もが忘れたことであっても無かったことにはできない。1人だけ違う視点で生きていくしかないという過酷な運命でもある。

 

「私が、絶対にあなたを死なせません。だから陸人様も、私のことを忘れずにいてくださると……本当に嬉しいです」

 

 ポカンと間の抜けた顔で呆ける陸人の手に改めて髪飾りを持たせ、そのまま両手で握る。案じるように優しく、愛おしむように暖かく。

 

 

 

「この髪飾りと……私の初めてを捧げた口付けが、誓いの証ですから」

 

 そう言って微笑むかぐやの笑顔に、陸人は我知らず見惚れていた。答えを求めるわけでもなく、気持ちを言葉にするでもない。想いの全てを笑顔1つに詰め込んだ上里かぐやはその一瞬、陸人の時間を止めて、心の全てを占めていた。

 

 

 

 

 

 

(ひなたちゃん……君の血は本当にすごいね。上里の子には、いつだって敵わない)

 

 かぐやの舌先が触れた唇が、舌と共に僅かに入り込んだ彼女の唾液が、微かに呪いを和らげていく。ほんのりと広がる暖かさが陸人に力を与える。軽く背中を押す程度の小さな力添えだったが、陸人の心にはそれ以上の意味があった。

 

「ありがとう、かぐやちゃん……君と同じ時代に来れたことは、間違いなく俺にとって幸運だった」

 

「私も、陸人様と出会えた奇跡に……心から感謝しております」

 

「後のこと、よろしく頼むよ」

 

「はい。こちらは任せて、最後まで心の赴くままに真っ直ぐ進んでください。それが私の願いです……行ってらっしゃいませ、陸人様」

 

 深々と頭を下げて見送るかぐや。背けた顔から真っ直ぐ零れ落ちる雫だけが、彼女の本音を物語っていた。

 

 

 

 

 

「……さよなら……」

 

「……ご武運を……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「神樹様……私は、うまくやれたでしょうか」

 

 崩れ落ちるように冷たい床に座り込むかぐや。陸人の手前、頼りになる姿を示すために張っていた虚勢は見る影もない。

 

「最後に、少しでもあの方の重荷を減らすことはできたでしょうか……少しくらいは安心してくださったでしょうか……」

 

 繰り返す問いかけに返事はない。かぐや自身も答えを求めて口にしているわけでもない。

 

「もっと他に道はなかったのでしょうか……私に、もっとできることは……なかった、でしょうか?……ぅ……ふ、ぐ…………陸人さまぁ……!」

 

 陸人の気配が完全に遠のくまで女の意地を張り通したかぐや。幼子のようにボロボロと泣き続けるその声を聞きとめたのは、常に寄り添う神樹だけだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 トルネイダーで結界を超えて飛ぶ陸人。姿勢を維持するのにも疲弊する有様。寝転ぶようにスライダーに乗って少しでも四国から距離を取っていく。

 

「救世の英雄が寂しく一人旅か? 哀れなものだな」

 

「──チッ、もう来たのか!」

 

 地上から伸びてきた無数のツタに捕まり、陸人はトルネイダーごと燃え盛る大地に墜落した。

 

「フフ、別れの挨拶は済ませてきたか? いや、忘れられる身ではそれもできんか……喜べ。そんな孤独な汝には、とびきり派手な散り様を用意してやったぞ」

 

 上機嫌に微笑む罪爐の後方、常軌を逸したサイズの植物が地面から湧き出てきた。ツタの一本一本が人間の胴回りほどの太さで唸り、花弁は人を丸呑み出来そうなほど大きく咲き誇っている。全体の大きさはゴールドタワーに近いほどだ。想像の産物である"人喰い花"が、突如として現出した。

 

「これが新たな身体で得た我の力……"曼珠薔薇(まんじゅばら)"と名付けた。この巨体の全てに我の呪いが溢れんばかりに詰まっている。今の汝にとっては、まさに劇薬よな」

 

 巨大毒花、曼珠薔薇。手で触れればそこから毒が移り、ツタを斬り裂けば断面から毒が吹き出し、満開の花弁からは常に毒が散布され続けている。その濃度は、視界全体が毒の色である紫に染まるほどだ。

 

「……ハッ……種撒いて水やって、せっせと歓迎の準備してたわけか……園芸趣味とはな……似合わないにも程があるぞ」

 

「ククッ、まあそう言うな。我の戦い方は器に大きく左右される。今の身体で最もうまく扱える力がこの形になったまでよ。不似合いなことをしている自覚はあるとも」

 

 話しているだけでも意識が遠のく。あの怪植物がここにあるだけで、陸人のタイムリミットは無慈悲な速度で減っていく。

 

「……タダで消えてやるほど……俺は潔い人間じゃないぞ」

 

「であろうな。汝がもう少し諦めの良い性質であれば、今頃我は目的を果たしていただろうさ」

 

 闇に包まれるように姿を変える陸人。最早ベルトを介さずともアギトになれる。それほど人間としての陸人の存在が薄れてしまっていた。

 

「案外俺は寂しがり屋でな……1人は心細いのさ。

 喜べ。俺のあの世への道連れは、お前に決めたぞ……罪爐!」

 

 黒炎を巻き起こしてカリバーを振りかざすアギト・エクリプスフォーム。大切なもの全てを手放した男の、捨て身の最終決戦が始まる。

 

 

 

「それはなんとも恐悦至極。だが2つ、訂正させてもらおうか」

 

 指を2本立てて、悠長に会話を楽しむ罪爐。その顔には余裕と愉悦だけが浮かんでいる。

 

「1つ、我や今の汝ほど条理を逸脱した存在は、朽ち果てた先に逝き場はない。人間が言うところの天国や地獄のような、魂の拠り所には歪な我らは立ち入れんのだ……もちろんかつて汝がいた、神樹の中の世界も同じくな」

 

 呪いに染まりきってしまえば最後、死してなお帰る場所もない完全な孤独に沈む運命にある。現世での居場所を手放した陸人は、これであらゆる縁を失ったことになる。

 

「2つ、汝が我を倒すという未来は存在しない。たとえ星の回りが逆転することがあろうとも、こればかりは覆りようがない。絶対不変の摂理というものだ」

 

 明日太陽が西から昇るような天変地異が起きたとして、それでもこの勝敗だけはひっくり返らない。いくつも枝分かれする未来の可能性を認知し、さらにそれに干渉する能力を持つ罪爐だからこそ断言できる。

 

「……悪感情の集合体じゃ、しょうがないのかもしれないが……いちいち腹が立つな、お前の言葉は」

 

 そしてそんなことは陸人自身分かっている。勝ち目がないからこそ、一方的に別れを決めて飛び出してきたのだから。

 だが、それはただ諦めたわけではない。負けた時のことを考えて動くのと、負けが決まったからと投げ出すのとではまるで違う。

 

 敵が周到、いつものこと。

 不利な戦い、いつものこと。

 負ければ終わり、いつものこと。

 結局のところ、陸人のやるべきことには何の変わりもないのだから。

 

「……怨霊ごときが好き勝手言ってくれたな……人間を、ナメるなよ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その戦いに、特筆すべきことはない。

 

 

 

「ふむ、概ね筋書き通りといったところか。テオスの方も順調とのこと……」

 

 中途半端に淡い黒と、この世の闇を集めて煮詰めたような純黒。両者がぶつかれば、より濃い方に呑み込まれて塗りつぶされる。

 

「ここまで来れば、後はしばらく静観して時が経つのを待つのも良いかもしれぬな」

 

 そんな予定調和で分かりきった結果に終わる、なんてことのない戦いだった。

 

 

 

「しかしまあ、汝には毎度驚かされる。まさか我の見通しを大きく上回って、7()2()()()()耐え忍ぶとは」

 

 ただ──そんな当たり前の結果に至るまでに、三日三晩粘り続けた少年がいた。

 

「全て失った上で何を守ろうと言うのか、我にはまったく理解できんよ。御咲陸人」

 

 自分のことを覚えていない誰かのために、既に自分の居場所がなくなった世界のために、増え続ける毒にも負けずに抗い続けた戦士がいた。

 

「だが、その努力も水泡に帰した……これからは、我の騎士として働いてもらうぞ……アギトよ」

 

 

 

「……消ス……スベテ……消ス……消ス!」

 

 

 

 

 ただそれだけの、誰も知らない戦いがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ちなみに、陸人くんが結界の外に出た瞬間に神樹様の改変が行われたので、陸人くんは自分がいなかったことになっている世界を背に戦い続けたことになります……せつない……

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに

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