A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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しばらく主人公が主人公してないパートが続きます。


成れの果て

「──以上、私の力で見通すことができたのはここまでです。それ以降、昨日アギトが出現するまでの間のことは分かりませんが……罪爐の手に堕ちたと考えて間違いないでしょう」

 

 かぐやは自分が知る限りの経緯を見せて伝えた。一部、年頃の乙女として秘密にしておきたい部分は切り取って流したが、知るべきことに関しては全て共有できたと言ってよい。

 

「……私、何も知らなかった」

 

「わっしー、自分を責めちゃダメ。これは誰が悪いって話じゃないんよ」

 

「その通りよ。今はとにかく陸人のこと。他のことに気を取られてる場合じゃないわ」

 

「……うっ、ヒック……そう、ですよね……しっかり、しなきゃ!」

 

「樹、まず涙を拭きなさい。完全に蚊帳の外でここまで話が進んでたなんて……本当に陸人は変わんないのね」

 

「行かなきゃ……りっくんのところに、早く行かなきゃ……!」

 

 勇者部の反応は様々。自己嫌悪に陥る者。怒りに震える者。涙に沈む者。それでも全員に共通しているのは、誰もまだ諦めていないこと。置いていかれたなら追いつく。奪われたなら取り返す。その諦めの悪さが勇者の勇者たる所以だ。

 

(……やはり勇者様ですね。少しだけ……羨ましく思ってしまいます)

 

 かぐやの眼には自分の感情に素直な勇者部の面々が眩しく映った。世界と人類全てに責任を持つ筆頭巫女として、戦う力を持たない少女として、追いかけたくても踏み出せない葛藤があるのだ。

 

「皆様にお見せするものがもう1つあります」

 

 かぐやは手を打ち鳴らして付き人を呼びつける。粛々と現れた神官は1つのスーツケースを抱えて来た。

 

「これは……」

 

「こちらで調整が完了した勇者システムです。()()()()()()()、自分のものをお持ちになってください……私共の方からは、強制も依頼も致しません」

 

「……かーやん……」

 

「随分態度が変わったのね? 大社様は」

 

「これまでの経緯を考えれば、大社を信用できないのは当然のこと。ですが私にできるのはこれだけなのです」

 

 一時期の親友の酷い顛末を知っているだけに、勇者の力を再び使えと強要する気にはどうしてもなれなかった。陸人が大切に想っていた彼女達に生きていてほしいという願いも、確かに本物なのだから。

 

「ご自身の望む未来のために、今この力が必要かどうか、1人1人が自分の意思で決めてください」

 

 既に所持している園子の分を除いた5つの端末が並べられる。かつて悪夢のような時間をもたらした力の象徴に……

 

「決まってる。あの子に追いつくのに、この力は必要だもの」

 

 以前の戦いでは誰よりも深く悩み抜いたであろう美森が、真っ先に自分の端末を手に取った。

 

「……東郷様……」

 

「リクは約束してくれました……私が幸せを見つけるまで一緒にいるって。勝手に反故になんて、させないんだから」

 

「うん……このままなんて認めない。りっくんがいない明日なんてあり得ないよ」

 

「まー部長のあたしに断りもなくいなくなられたんじゃ、見つけ出してお説教するしかないわよね」

 

「もちろん。今度ばかりは頭に来たわ……見つけ出してまず一発ぶん殴る! 話はそれからよ」

 

「お、お姉ちゃん、夏凜さんもお手柔らかに……でも、私も陸人さんには一言文句を言いたいです」

 

 よりにもよって記憶まで消してから姿を消すとは何事か。そこまで頼りにならないと思われていたのか。一方的に別れを決めつけられた少女達には悲しみと怒りが渦巻いていた。

 

「皆様……」

 

「かーやん、そういうことだから後は任せて〜」

 

「園子ちゃん……」

 

「教えてくれてありがとう。必ずりくちーを見つけ出して連れて帰るから」

 

「………………うんっ!」

 

 上里かぐやは賭けに勝った。勇者達は知らぬ間に封じられた記憶の鍵を打ち破って立ち上がった。彼女が1人で背負ってきた御咲陸人という存在は、新たに6人の少女達に委ねられたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次に目撃情報が上がり次第、真っ先に連絡を回して勇者部が動く。話をつけた彼女達は、讃州中学の部室に向かう。かぐや以外の誰もが事情を知らない大社では、勇者は自由に動けない。ならば自分たちの拠点でできる限りの準備をしておくほうが生産的だ。現役中学生である彼女達だが、今の6人に授業という概念は頭になかった。

 

「それじゃ〜部室に着いたら園子さんが新しい勇者システムについて教えてしんぜよ〜」

 

「それはいいけど……まさか知らない間に一悶着あって、園子だけ先に勇者に復帰してたとはね」

 

「ホントよ、銀達と口裏合わせてそんな大事なこと黙ってたなんて……リクを取り戻したら、その辺りについてもしっかり話してもらうからね、そのっち」

 

「あはは〜、お説教はイヤだな〜……ごめんなさい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 慣れ親しんだ通学路。平和な日常の象徴である校舎の前まで辿り着き、校門を見据え……その横には見るからに怪しい黒尽くめが立っていた。

 

(なに……? この、肌が焼けるような殺気は)

 

 今は午前11時、昼前の授業の真っ最中。登校時間を大幅に遅れていて、人気もほとんどない。

 見た目もシチュエーションも不審すぎる人影に、夏凜は警戒心を顕にする。

 

「夏凜ちゃん、どうしたの?」

 

(フードで顔が見えない……アイツ、なんなの?)

 

 黒いローブで頭から爪先まですっぽり覆った怪しい風貌。まるで太陽に浮かぶ黒点のように、周囲の雰囲気から逸脱した異質な存在感。男か女かも判然としないその黒尽くめは、勇者部を認識した途端に恐ろしい速度で突っ込んできた。

 

「……ん? なにあの人」

 

「こっち、来てる……?」

 

「──チッ、全員退がりなさい!」

 

 背負っていた竹刀袋から木刀を抜いて構える夏凜。襲撃者は一切速度を緩めず、呆けたまま1番前にいた友奈めがけて飛びかかった。

 

「──えっ……?」

 

「なんなのよ、アンタはぁっ!」

 

 2人の間に割り込んだ夏凜が木刀を盾に不意打ちの蹴りを防御。襲撃者は冷静に反転、着地するとすぐさま体勢を整えて拳を振るう。

 

(コイツ、速いし強いし硬い……それにこの動きは……)

 

 人間として最上級の実力を誇る夏凜が得物を持ってなお防戦一方。それほどに襲撃者の戦闘力は人間離れしていた。

 

(左……右……足払いで体制を崩したら、撃ち落とすような上からの一撃!)

 

 相手の動きを、まるで見たことがあるように完全に先読みした夏凜が怒涛の連撃を捌いていく。身体能力では大きな差をつけられているが、動きが分かっていれば対応はできる。

 

(……身体が自然と対応する。この感覚、まさか……!)

 

 何故夏凜は顔も見えない相手の動きが分かるのか。対処が体に染みつくほど競り合ってきた相手……1人だけ、当てはまる人物がいた。

 

「夏凜ちゃんから離れて!」

 

 いきなり攻撃を仕掛けてきた謎の人物に、友奈も後方から仕掛ける。生身でも十分な威力を誇る勇者パンチは、恐ろしい反応速度で身を翻した襲撃者の左手で防がれた。

 

「……ぇ? この感触……」

 

 事あるごとに握ってきた彼の手。何度もこの手に救われた。友奈が間違えるはずもない。

 

「──せぇぇいっ!」

 

 片手が塞がった襲撃者の後頭部に木刀が迫る。黒い襲撃者は、2人に挟まれた状態から大きく飛び退いて回避した。重力の縛りを無視したかのような軽やかなジャンプで全員の頭を飛び越えて着地する黒。その衣服がフワリと舞い上がり、顔を隠していたフードが重力に従って頭から落ちた。

 

 

 

 

 

 

「……そんな、どうして?」

 

「君は……」

 

「りっくん……りっくん!」

 

 全員が今心の底から会いたいと願っていた勇者部の仲間にして、みんなのヒーロー……御咲陸人がそこにいた。

 

 

 

 

 

「……ちょっとちょっと、知らない間に随分雰囲気変わっちゃったんじゃない? 陸人ってば」

 

「陸人さん……どうしてこんな……」

 

「探す手間が省けた、なんて楽観視できる状態じゃないわね」

 

 身体は全体的に痩せ細り、顔色も病的なレベルで青白くなっている。自分たちの前では笑顔を絶やさなかった顔は、何の感情も見えない無表情。陸人の心の暖かさを示すように常に光を宿していた両眼は、目の前の仲間達すら映さぬ漆黒に染まりきっていた。

 

「……………………」

 

 勇者達の言葉に一切の反応を示さず、陸人は無感情に首元を緩める。その奥の素肌に、悍しい黒の痣……呪いの印が見えた。既に首にまで侵食している。

 眼がいい美森がそれを視認した次の瞬間には、陸人は黒いアギトに変貌していた。いつもの彼を知る仲間から見ても、その変身はあまりにもシームレスで無駄がなかった……まるでこちらが本来の姿だと言わんばかりに。

 

「りっくん、あの……!」

 

 友奈の呼びかけも無視して右腕を掲げる。その拳には、黒い焔が宿っていた。

 

「っ! みんな変身して、早く!」

 

 園子の声に、反射的に変身する勇者達。仲間を見つけるために再び掴んだ力は、皮肉なことに今目の前にいる彼と対峙するために使われることとなってしまった。

 

「……消エロ……全部、纏メテ……!」

 

「っ、マズい!」

 

 くぐもった声でアギトが呟き、焔を撒き散らす。周囲の家屋に被害が及ぶ一瞬前、ギリギリで樹海化が間に合った。

 友奈がホッと息を吐いたのも束の間。周囲の変化を気にも留めず、アギトは黒く染まったシャイニングカリバーを召喚。仲間に向けて容赦なく振り下ろした。

 

「こんのっ!……なんだってのよ、コラ陸人!」

 

 夏凜の二刀でも受けきれない圧倒的なパワー。徐々に押し込まれた夏凜はガードをこじ開けられてしまい、脇腹に強烈な蹴りを受けて吹き飛ばされた。

 

「夏凜ちゃん!」

 

「──友奈ちゃん、前!」

 

 宙を舞う夏凜を目で追った友奈の真正面に、アギトが斬り込む。上段に構えられた刃が振り下ろされる直前に、緑のワイヤーが絡み付いてその一撃を引き留めた。

 

「うぅっ……なんて力……陸人さん!」

 

 綱引き勝負で樹がアギトに敵うはずもない。力負けした樹は足が宙に浮く勢いで引っ張り込まれてしまう。その小さな身体に、アギトは躊躇わず黒焔の拳を振りかぶる。

 

「そんなことする奴じゃないでしょ、アンタはぁ!」

 

 引き寄せられる樹と構えるアギトの間に風が横から割って入る。大剣を盾にして拳を防ぎ切った、ように見えたが。

 

「…………ッ!」

 

「ウソッ⁉︎」

「ひゃああっ!」

 

 拳に宿る焔が爆裂、至近距離でモロに衝撃を受けた2人は高く跳ね飛ばされる。追撃しようと踏み出しかけたアギトの足は、目の前を通過した青の光弾と紫の光刃に止められた。

 

「……やめて……やめてよ、りくちー!」

 

「どうして、あなたがこんな……!」

 

 一切当てる気のない、見るからに威嚇でしかない攻撃。美森も園子も、唐突に訪れた悪夢のような邂逅に頭と心が追いついていない。

 事態を把握した時に、覚悟はしていたつもりだった。しかしそれでも、実際に刃を向けられた衝撃はあまりに強すぎて。自分の中の陸人のイメージと目の前のアギトの姿が、どうしても重ならずに受け入れることができなかった。

 

「くっ……勇者ぁぁぁ……!」

 

 躊躇しながらも拳を構えた友奈が踏み込む。数多の強敵を打ち破ってきた退魔の必殺技は──今度ばかりは、炸裂することなく停止した。

 

「……パンチ、できないよ……りっくん、どうすればいいの?」

 

 鼻先で止まった拳。目の前で苦悶の表情を浮かべる友奈を気にした様子もなく、アギトは無感情に刃を地面に突き立てた。

 

「……燃エテ、尽キロ……」

 

 火山が噴火するかの如く立ち昇る火柱。至近距離にいた友奈はもちろん、美森と園子も巻き込んで、地獄の業火が燃え盛る。一瞬で3人から、立ち上がる力と共になけなしの戦意を奪い取った。

 

「……りく、ちー……!」

「あのリクが、私達に攻撃を……?」

「どうして……どうしたら?」

 

 まさに一騎当千、天下無双。いくつもの修羅場を潜り抜け、歴代でも屈指の強者である勇者部の面々を軽く蹴散らす。これが御咲陸人……いや、真なる覚醒を果たしたアギトの本領であると、黒い影は無言の内に証明していた。

 

 

 

 

 

「……全テ消ス……首ヲ寄越セ……」

 

 1番近くに倒れ伏していた友奈を最初の首級に選んだアギトが悠然と歩み寄っていく。絶えることなく刃先に燃え続ける黒焔。アレに斬られれば精霊バリアとてどこまで保つか分からない。

 

「りっくん……お願い、帰ってきて……!」

 

 自分の首元に刃を据えられても、友奈は"やめて"ではなく"帰ってきて"と叫ぶ。しかしそんな少女の切なる声も、今のアギトには雑音でしかない。首を両断するべく、その刃を高く掲げて──

 

 

 

「こんの……バカ野郎がぁぁぁっ!」

 

 彼方から跳んできた赤い勇者に対処すべく、振り返ってその刃を弾き返した。夏凜の全霊の斬撃は、軽く振るわれたカリバーに打ち負けた。二刀の片方が半ばから両断され、全力を込めた突撃の勢いも完全に殺されて真上にかち上げられた。

 

「……無意味……無価値……」

 

「ボソボソと鬱陶しい……いつからそんな陰気になったのよ、アンタはぁ!」

 

 宙に投げ出された夏凜を貫かんと刺突の構えを取るアギト。夏凜は鍛えた体幹とバランス感覚をフル活用。何もない空中で重心を無理やり移動させて身をよじる。

 

「頭を冷やせ、バカ陸人!」

 

 ギリギリで串刺しを免れた夏凜は、逆立ちの姿勢でアギトの両肩に手を付いて停止。脚部を振ってガラ空きの後頭部を全力で蹴り飛ばした。予想外の衝撃に、流石のアギトもよろけて体制を崩す。

 その一瞬の隙が夏凜の狙いだった。すぐ下で倒れる友奈、近くで蹲る美森と園子も回収して緊急離脱。触れるな危険状態のアギトから距離を取ることに成功した。

 

「……逃ゲル……無意味……」

 

「お願い、止まって!」

 

 追おうとしたアギトだが、縫い止められたようにつんのめって動きを止める。いつの間にか、地面を突き破って伸びてきたワイヤーが両足を大地に縫い付けていた。この方法なら直接力比べをせずとも動きを封じられる。樹は陸人に教わった"武器の自由度を生かす戦い方"を、望まぬ形で教授された本人に対して活用していた。

 

「口で言っても聞かないなら……ちょっと痛いけど我慢しなさいよ、陸人!」

 

 棒立ちの体勢になったアギトの視界を、人影が暗く染める。大剣をさらに大きく強化した風が、押しつぶさんばかりの勢いで斬りかかってきた。

 

「……無意味……無価値……」

 

 投げかけられる言葉の意味も理解できず。無感情に機械的に、アギトはその力を使って只管に破壊を繰り広げる。まるでそれしか知らない幼子のように、純粋に一心に焔を撒き散らしていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ったく、アンタ達もアンタ達よ! 戦いたくないからってボンヤリしてたら命がいくつあっても足りないわよ!」

 

「ごめん、夏凜ちゃん……でも……」

 

 煮え切らない反応の友奈達。何度も撃ち合って互いを鍛え合った、戦士としての陸人に最も長く向き合ってきた夏凜だからこそ、今の彼女たちに言えることがあった。

 

「ハァ〜……ま、アンタ達の気持ちが分からないでもないけど。少なくとも私に言わせれば、今そこにいるアイツは陸人じゃないわ」

 

「……え?」

「夏凜ちゃん?」

 

「自分を完全に見失ってる……目の前にいるのが誰かも分かっちゃいない。衝動のままに人を傷つけるヤツを、陸人だなんて私は絶対に認めないわ」

 

 夏凜が知る御咲陸人は、いつだって誰かの為に必死になって生きていた。見ている側が不安になるほど我が身を顧みない、度を超えたお人好し。間違ってもあんな破壊魔ではない。

 

「アイツは全部忘れてるのよ。

 勇者部として人のために頑張ってきたことも、みんなで遊んで笑い合ったことも、互いを守って戦い抜いたことも、全部!

 そんなヤツに御咲陸人を名乗らせてアンタ達は平気なの? 私は許せないわ。アイツにはまだ勝ててないんだから、このままいなくなるなんてあり得ないっての!」

 

「……にぼっしー……」

 

「アンタ達だって同じでしょ? あの馬鹿に伝えたいこと、まだ伝えられてないことがあったんじゃないの? だったらしょぼくれてる場合じゃないでしょ! どこに行ったかも分からない迷子が向こうから出てきたんだから、シバいてでも引き止めるくらいの気概でいかなきゃダメでしょーが!」

 

 夏凜の叱咤激励が一息ついたタイミングで、遠く後方で戦っていた風と樹が吹き飛んできた。2人とも肩で息をしている。今のアギト相手では時間稼ぎも命懸けだ。

 

「あ〜痛っ……やってらんないわねあの強さ」

 

「さすがアギトだね……でも、このままじゃ終われないもん……!」

 

「風、樹……大丈夫?」

 

「ちょっちキツイけどまだいけるわ。それより聞いてたわよ〜、夏凜ってば熱いことも言えるんじゃない。あんだけツンケンしてた完成型勇者様が、ここまで素直に……おねえちゃんは嬉しいわ〜」

 

「──んなっ⁉︎」

 

「ハイハイ、揶揄っちゃダメだよお姉ちゃん。立て込んでるんだから……でも、私も夏凜さんと同じ気持ちです。あんな眼をした人を、陸人さんだとは認めたくない。

 だから、私達の陸人さん(いつもどおり)を取り戻す為に必要なら……戦います。相手が誰でも!」

 

「樹も成長したわね……うん、部長も同意見ってところね。

 私が散々迷惑かけたあの時、陸人はただ受け止めてくれた。子供みたいに駄々こねて武器を振り回してたあたしに、一度だって反撃せずに体を張って抑えてくれた。

 やりたくもないことやらされて、きっと今1番苦しんでるのはあの子自身よ。だからこれ以上誰かを傷つける前に、強引にでも止める。それが歳上で先輩で、部長のあたしの役目だもの!」

 

 あんな冷たい眼をした者を、陸人と認めることはできない。心に触れた相手を温める光が、陸人の瞳には常に瞬いていたのを樹は覚えている。

 

 誰かを傷つける者を、陸人と認めることはできない。自分を痛めつけてでも誰かの笑顔を守る、それが陸人の生き様だと風は知っている。

 

 自分達との思い出を持たない者を、陸人と認めることはできない。過去を知らないからこそ、陸人が思い出を大切にしていたことを、夏凜は理解している。

 

 

 

「アンタ達がどうするかは、自分で決めれば良いわよ。だけど、アイツに仲間殺しの罪なんて背負わせたくないなら……俯くのはやめなさい」

 

「……ごめん……」

「わたし……私は……!」

「……りっくん……」

 

 

 

 

 友奈、美森、園子が顔を上げた瞬間、周辺の温度が急速に上昇した。

 

「なに、急に⁉︎」

「アギトの力……?」

「っ⁉︎ 上よ!」

 

 勇者達が見上げた先に、太陽と見紛うほどの熱量が空に瞬いていた。かつて勇者部を追い詰めた合体型バーテックス『レオ・スタークラスター』

 その異形が得意としていた大火球の数倍のエネルギーが込められた黒い太陽。アギトは勇者達の言葉をただ聞いていたわけではない。チマチマと分散して攻めてくる勇者達を一掃するための準備をしていたのだ。

 

「冗談じゃないわよ、あんなのが落ちてきたら……!」

 

「私達どころか、樹海越しでも街までヤバいことになるわよ!」

 

 風の大剣で防げる規模ではない。

 樹のワイヤーでは力不足。

 夏凜の速度でも今からでは躱せない。

 美森の射撃でも撃ち落とせない。

 友奈の馬力でも太刀打ちできない。

 最強勇者の園子であっても打つ手がない。

 

 

 

 

 

「全テ等シク……消エ失セロ……!」

 

 黒焔を凝縮した破壊の塊が大地に落下する、その刹那──

 

 

 

 

 

「……貫けぇぇぇぇぇぇっ‼︎」

 

 樹海の空から轟音と共に稲妻が唸る。闇も光も全てを断ち切る、雷鳴の一閃が轟いた。

 直上から一直線に落ちた雷刃が、黒い太陽を貫通、瞬く間に霧散させた。

 

「うひゃあぁぁぁっ⁉︎」

 

「なになに今度は何よ⁉︎」

 

「──あ、あのアンノウンは……?」

 

 大質量の衝突によって爆風が吹き荒れる。なす術ないまま吹き飛ばされる勇者部。そんな嵐の中友奈が目にしたのは、見覚えのある異形が舞い降り、アギトに斬りかかる瞬間だった。

 

 

 

 

「無様だな……あの日俺に見せた光輝の力が見る影もなく真っ黒ではないか!」

 

「…………ッ!」

 

 落下した勢いそのまま、雷の剣がアギトに落ちる。直接触れずとも衝撃だけで大地が砕けていく。地形が変化するほどの斬撃を放つ方も異常だが、それを受けても微動だにしないアギトも大概どうかしていた。

 

「罪爐の闇に呑まれたか……正直な所見損なったぞ。こんなことで我を失う程度だったのか? 貴様の信念……戦う理由は!」

 

「乱入者……関係無イ……全テ消スノミ……」

 

「落ちるところまで落ちたか……ならばもう良い。俺の手で引導を渡してやろう、アギト!」

 

 黒を引き裂く雷霆一閃。カブト型のアンノウン、否……『ゴ・ガドル・バ』が、混沌極まる戦場に乱入してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 




ヒロインのピンチに颯爽登場
ド派手な演出と共にダイナミックエントリー
ボス敵の必殺技を出鼻で強制キャンセル

どういうことだこれは……まるでガドルが主人公のようではないか⁉︎

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに

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