A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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分かる人にしか分からない話をします。
スパロボZって面白かったですよね……主人公選択式の良さが活かされてました。



すれ違い、果し合い

 雷と焔の鍔迫り合い。環境さえ支配する絶対強者の2人は、ただぶつかるだけで周囲を爆心地に変えてしまうほどの力を持っていた。

 

「その眼、気に食わんな……少し前の自分を見せられているようだ!」

 

「…………ッ!」

 

 鼻先がぶつかるほどの距離で競り合っていた両者が、弾かれるように飛び退いて距離を開ける。彼らの狙いは奇しくも共通……大技を放って一点突破。

 

「……燃エ尽キロ……!」

 

 カリバーを旋回させて焔を収束、黒い火球を再構成したアギト。『エクリプスブラスト』で一切を焼き尽くさんと力を込める。

 

「今の貴様に、遅れを取るわけにはいかないな……!」

 

 剣の腹に爪を立てて、引っ掻くようにして稲妻を宿す。尋常ではない音を立てて、ガドルの必殺剣『雷迅閃』が光を放つ。

 

「ちょっと、アレはヤバいでしょ⁉︎」

「全員後退、急ぎなさい!」

 

 空間そのものを燃焼させながら前進する黒い火球。

 天をも貫かんばかりに伸びる雷の刃。

 

 超自然的エネルギーの衝突により、樹海全体を揺るがすほどの衝撃が発生。四方八方に破壊を撒き散らして、閃光と轟音が全てを包み込んだ。

 

「おおおおおおおおっ‼︎」

 

「……無駄……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 衝撃が収まった1分後、中心に立っていたのはガドル1人だけだった。アギトは既に樹海の領域外まで離脱したのか、気配すら掴めなかった。

 

「逃げられたか……」

(無傷とはいかないだろうが……)

 

 アギトが立っていた場所に、刃の一方が切断されたシャイニングカリバーが落ちている。鮮やかな引き際を考えると、全てのダメージを武器で捌き切ったと見るべきだろう。

 ガドルは右手に握った愛剣に目を向ける。同じく刃の中間辺りから見事に真っ二つにされていた。互いの技が想定以上の威力を持っていたということだ。

 

(思ったよりも腕が立つ。いや、単に力の総量だけで言えば本来の奴よりも……)

 

「……ぁ、あああのっ!」

 

 どこか緊張したような声で、ガドルの思考は中断された。見上げれば、いつの間にか目の前には桜の勇者。少し後ろには他の勇者もいる。突然現れて場をかき乱した怪人にどう接触すべきか悩んでいるのだろう。

 

「……どうした、奴はもういないぞ」

 

「あっ、はい!……じゃなくて、あなたはアンノウン、ですよね? その……なんで私達を助けてくれたのかなって……」

 

「お前達を助けたわけではない。俺もアギトに用があった。妙な気配が混ざったせいで見つけにくくなったあの男を、ようやく捉えたのが偶然今だったというだけだ」

 

「そっか……私、結城友奈って言います。りっくんのこと、何か知ってるなら教えてください!」

 

「……俺が知ることなど、お前達とそう変わりはない。自我を奪われたこと、罪爐の手に落ちたこと、放っておけば全てを壊すまで止まらないだろうということくらいだ。

 それだけ分かれば十分だろう。奴がこれ以上無様を晒す前に、命を絶って止めてやる……それが俺の目的だ」

 

 迷いなく言い放たれた殺害宣言。あまりにも堂々としたガドルに、勇者達は何も返すことができなかった。

 

「……反論があるなら聞いてもいいが、代案無しには止まれんぞ? このままでは奴は命も誇りも戦ってきた意味さえも失う。そうなる前に、拾えるものだけでも拾ってやらねば……あれほどの男が、あまりにも不憫に過ぎる」

 

「殺すまでいかなくても、他に陸人を取り戻す方法は……」

 

「甘いな。お前達がその手段を即答できない時点で、そんな都合の良い未来が無いことは明らかだ。そちらにも神がいる。その神がなにも可能性を提示しない時点で手詰まりだと、本当はお前達も分かっている……違うか?」

 

「それは……だけど、今は無理でもこれから探せば──」

 

「その間奴が引き起こす被害はどうする? お前達に奴を物理的に止める手があるか? そもそも奴自身、いつくたばるか分かったものではないというのに」

 

「でも……でも!」

 

「お前達の知るアギトは死んだのだ。その死体が動いているせいで実感を持てていないだけのこと。お前達が言っているのは、物言わぬ冷たい亡骸に目を開けと叫んでいるのと変わらない」

 

 武士の情け、とでも言うべきか。ガドルもまた、今のアギトを陸人とは認めていなかった。戦うべき強敵ではなく、既に終わってしまった哀れな亡霊。

 堕ちた宿敵を、せめて鎮めるためにできることをやる。それがガドルの決断だった。

 

「話が済んだなら俺は行くぞ」

 

「……居場所は分かってるの?」

 

「気配は掴み損ねたが、行き先には見当がついている。罪爐が呼び戻したのだろうからな」

 

 樹海が解除され、いつもの空に戻る。ガドルは人間体に姿を変えて、勇者達に背を向けた。

 

「待って!……私は、私達は……」

 

「この先、覚悟の無い者は来るな。半端者にできることなどない……ただ傍観するだけなのは、何よりも辛い筈。奴とてお前達にそんな思いをしてほしくないから、あのようなやり方で姿を消したのだろう」

 

「それは……」

 

「結論が出た者だけ、後を追ってくるがいい。俺の気配を辿れば方角は分かるだろう」

 

 雷光と共に姿を消すガドル。最後の言葉には、宿敵の心残りに対する僅かな気遣いと、勇者達の強さへの無自覚な期待が込められていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 変身を解除した勇者達は、部室で体を休めながら各々物思いにふけっていた。いつも誰かが笑わせて、そこから笑顔が全体に伝播していく。勇者部の本来あるべき雰囲気が微塵も感じ取れない。葬式のような粛々とした物悲しさが空間を包んでいる。

 

 

 

 

「皆様! お怪我はありませんか?」

 

「うえっ、かーやん? どうしたのこんなところまで……というか大社の外に出て大丈夫なの〜?」

 

「はっ、はっ…………うん、大丈夫じゃないから抜け出しちゃって。この状況を把握してる人が他にいないから、説明もできないんだもの」

 

 そんな空気をぶち壊す、清廉な神聖を纏った少女、上里かぐやが前置きもなく現れた。いつもの巫女服ではなく、シンプルなワンピースにカーディガンを合わせた学生らしい私服。走ってきたのか、らしくなく息を乱す姿は付き合いの長い園子から見ても珍しい光景だった。

 

「皆様、お見せしたいものがあります」

 

「それは……リクのことで?」

 

「勿論です。皆様がお帰りになられてから見つけたのですが……」

 

 息を整えたかぐやが話を始める。布に包まれて丁寧に扱われる小さなアクセサリー。貝殻を加工して作られたそれは、夏に行った慰安旅行で陸人が拾って拵えた思い出の一品だった。

 

「これは……」

 

「この紐の色、りっくんのだ……間違いないよ」

 

「はい。私達とお揃いの、あの日の思い出を形にしようって、プレゼントしてくれた……」

 

 同種のアクセサリーを渡された5人が、鞄から自分のものを取り出す。不安はあれど、明日が楽しいものであるようにと願って、そこに全員が揃っていると信じたあの日。つい最近の話なのに、遥か昔のことのように感じてしまう。それだけ色々なことがあり、今も切羽詰まったままでいるせいだろうか。

 

「やはりそうでしたか。陸人様がお持ちになっているのを思い出しまして……これは陸人様が最後に飛び立っていった本部の屋上で見つけたものです」

 

 立って歩くのも精一杯だった陸人が、結界内で最後に足をつけた場所。勇者達に全てを伝えた後、陸人の最後の景色を共有したくて屋上に上がったかぐやが、2週間を経て見つけた落とし物だった。

 

「この中に、陸人様が刻んだと思われる一文があります……きっと、誰に見せるつもりもなかったのでしょうけれど」

 

 このアクセサリーは、留め具を取り付けて開閉式に作られている。小さな飾りを中に入れたり、シールや写真を貼ることもできる。

 そんな手の込んだ手製のアクセサリーの中に、陸人が封じ込めた願いは……

 

 "As long as there is one of us, there is all of us"

 

「……これ、英語? ダメだ、読めないや」

 

「私も無理ね。そのっち──そのっち?」

 

「……りくちーらしいね。うん、これは有名な文学作品の一文をちょっと変えてある文でね〜……たぶん、これにりくちーが込めた想いを一言で表すのなら……」

 

『離れていても、ずっと一緒にいる』

 

 かつて、友と並んで買ったドッグタグにも刻んだメッセージ。仲間に言って心配をかけたくなかった彼は、昔も今も自分が身につけるものに刻み込むことで心を律していたのだ。

 

「なによ、もう……1人だけで覚悟決めてたってこと? 身勝手すぎるでしょ」

 

「本当に……悩んだら相談、って、私達の決まりなのにね……?」

 

「バカ陸人バカ陸人バカ陸人……1人でカッコつけてんじゃないわよ!」

 

「綺麗に終わる準備をするくらいなら、ちょっとくらい弱音吐いてくれたらいいのに……りくちーったら水臭いんだから〜」

 

「話を聞いた時すごく悲しくて……同じくらい悔しかった。リクにとっての私達は、後がなくなれば手放してしまえるような存在でしかないのかな、って……でも、そうじゃなかったのね」

 

「そうだよ。この字、すごく震えて歪んでる……りっくんもすごく辛かったんだ。いつもの笑顔で隠して、私達の日常を守ってくれてたんだよ」

 

 陸人がこれを落としたのは偶然。この一文もあくまで自分を鼓舞するもので、誰かに見せるためのものではなかった筈だ。しかしそれでも、このメッセージは陸人が自分自身すら欺いて隠し通した、弱音の発露のように彼女達は感じ取った。

 

「──みんな、行こう!」

 

「友奈ちゃん……」

 

「あの人が言ったことは間違ってない。私達には作戦も力もない……だけどそれで諦めたら、今度こそりっくんが1人ぼっちになっちゃう。そんなお別れ、私は絶対に嫌だ!」

 

「今は無理でも、1分先の私達なら何かできるかもしれない。リクがそうやってみんなを守ってきた姿を、見てきたんだものね」

 

 根性論、精神論と言ってしまえばそこまで。しかし何かを成す時の第一歩は、いつだって心持ちから始まるのだから。

 勇者は根性。どれほど辛い現実を前にしても、諦めない者だけが明日の希望を掴み取れる。

 

「改めて……皆様の覚悟を聞かせていただきました。返礼として、私から1つ案があります……うまくいけば、陸人様の心を解放できるかもしれません」

 

「──っ⁉︎ それは、本当に……?」

 

「ええ。先程のアギトの気配を探って気づきました。罪爐は1つ見落としをしている……そこが唯一の突破口となり得るのです」

 

 かぐやが直接勇者部を訪れたのは、英雄の落とし物と起死回生の策を授けるため。その鍵を握るのは……

 

「私が預けた髪飾り……そして"天の逆手"。罪爐が陸人様を手中に収めて他の要素を軽んじている今このタイミングが、敵の思惑をひっくり返せる最初で最後のチャンスです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 作戦を詰めた勇者部はすぐに出撃した。まずはアギト……そしてガドルに追いつくことが最重要。預かり知らない所で決着がついてしまえば策も何もあったものではない。

 

「方向はこっちで合ってるのよね?」

 

「はい。あのアンノウンの痕跡を辿って──この反応は……来ます!」

 

 全速で進む勇者部の前方に大経口の砲撃が着弾。爆風と煙が全員の足を止めた。後方から唸る派手な駆動音が、立ち止まった勇者達を抜き去って進路を塞ぐ。勇者部が直接見たのは一度だけだが、あのインパクトはそうそう忘れられるものではない。

 

「オラオラ止まりな! なーにやってんだ勇者様よぉ!」

 

「来たわね、ゲテモノバイク……!」

 

「この状況で独断行動は認められない。戻ってもらうわよ」

 

「楠芽吹……面倒臭いのが出てきたか」

 

 突如無断で行動を始めた勇者部を追跡してきた大社からの追手。防人第一小隊が"G2-X"を駆って現れた。

 人体に無理のある指揮管制システムをオミットし、防人でも扱えるように操縦系統を簡略化した改修型。

 ハンドルを握っているのは山伏シズク。

 その後ろに座って火器管制を担うのが弥勒夕海子。

 右の砲塔に立って前方を見据えているのが楠芽吹。

 左の砲塔に半ベソでしがみ付いているのが加賀城雀。

 かなり無理くりな4人乗りで、それでも後追いで勇者部に追いついてきた。G2-Xにはそれだけのスペックがある。

 

「……何しにきたわけ? こっちは忙しいんだけど」

 

「それはこちらのセリフよ。貴方達、現状が分かっていないの? 先日現れた新顔に対する警戒態勢を敷くから、勇者は指示があるまで待機と言われているでしょう?」

 

 新顔というのは言わずもがなアギトのこと。陸人がいなかったことになっている今の世界では、勇者達は2人のライダーに次ぐ最高戦力として扱われる。本人達はそれどころではなくて聞き流していたが、勇者として復帰したことで大社の指揮下に入っているのだ。

 大社で事態を正しく把握しているのは上里かぐやただ1人。内乱以降、彼女は大社全体の指揮権を確保しつつある。とはいえ、改革真っ最中の現在、上意下達が即座にできるほど内部環境が整っていなかった。

 

「奥で仲間が苦しんでるの。私達は行かなきゃいけない」

 

「仲間? そちらは全員揃っているようにお見受けしますが……誰のことですの?」

 

「御咲陸人……って言っても、今のあなたたちには通じないよね〜」

 

 ここで問題となるのが認識の齟齬。陸人がいたことを憶えている勇者部と記憶を改変された防人とでは、見えている世界が違う。

 防人から見れば、勇者部は予断を許さない状況下で勝手なことをしている違反者。

 一方で勇者部から見た防人も、世界の命運よりも大切な仲間……御咲陸人を助ける道を阻害する邪魔者でしかない。

 

「いきなり勇者様達が壁外に出たって聞いて……大社の人たち大慌てだったよ? そこでちょうどコレの試運転してた私達が駆り出されたの」

 

「私達は何もあなた達の足を引っ張るつもりはないの。説明するのは難しいけど、この先に会わなきゃいけない人がいる。やらなきゃいけないことがあるだけなの、そこを通して!」

 

「あなた、今自分がどれほど無茶なことを口にしているのかお分かりで? 今の人類に余裕はない。過酷な定めだとは思いますが、あなた方の背中には四国400万の人命がかかっています。勝手な行動は許されませんわ」

 

「そーいうこった。サッサと戻んぞ。いつあの黒いのが襲ってくるか分からねーんだ」

 

(やっぱり、他の人達にとってりっくんはただの敵でしかない。これじゃどう説明しても……)

 

 G2-Xの力を示した上で説得しても、勇者達は帰還指示に従う様子がない。隙をついて突破しようと構えている6人を見て、芽吹は口では意味がないことを悟った。

 

「……どどどどうしようメブー? 勇者様達、引き下がる気なさそうだよ?」

 

「幻術か何かで認識を操られてる可能性もあるわね。やむを得ない、腕尽くででも連れ帰るわよ……シズク、弥勒さん!」

 

「了解ですわ。気は進みませんが……」

 

「悪く思うなよ、こっちも任務なんでな!」

 

 ガシュッ、と嫌な機械音が響き、勇者達は一斉に距離を取る。

 

 

 

 

「バリア越しでも、コイツは痛いぜ!」

 

「一斉射っ!──ですわ‼︎」

 

 

 

 

 G2-Xの砲門が開き、多連装のミサイルが射出された。余りにも性急な実力行使に驚いた勇者達に、圧倒的な火力が襲いかかる。

 

「ちょっ……待ってよ⁉︎」

 

「なんで⁉︎ 話が噛み合わないだけならともかく、どうして急に……」

 

「夏凜、どうなってんのよアンタの知り合い! 気ぃ短すぎない⁉︎」

 

「私に言われても困るわよ! 確かに融通効かないタイプだったけど、こうまで喧嘩っ早い奴じゃなかったわ」

 

「……となると、他に何か理由があるのかな〜?」

 

「それも気になるけど、今は何より時間がないわ。どうにかして突破しないと」

 

 G2-Xの火力を振りかざして強引に四国側に後退させられていく勇者部。刻一刻を争う中、これ以上のロスはできない。

 

「……仕方ない、手分けしましょう。ここは私がなんとかするから、みんなは奥に進んで」

 

「夏凜ちゃん⁉︎」

 

「対人戦なら私が1番向いてるもの。顔馴染みもいることだし、陸人のことは任せるわ」

 

 誰かが足止めに回らなくては事態は好転しない。夏凜は自分の役割をしかと心得ていた。

 

「なら私も残ります。あのバイクは完全に止めないと後ろから追いつかれる……足止めなら私が1番向いてるはずです!」

 

「よし、じゃあ私もこっち側ね。ゲテモノバイクとパワーで張り合えるのは私くらいのもんでしょ。人数的にも3人は欲しいし」

 

 樹と風も足止め役を買って出る。もっともらしい理由を挙げてはいるが、結局のところ彼女達は信じているのだ。陸人を連れ戻すのは友奈、美森、園子の3人に任せるべきだと。

 

「風先輩、樹ちゃん、夏凜ちゃん……」

 

「ほら、分かったら早く行きなさいな。あの子のこと、お願いね」

 

「陸人さんを連れて、4人で帰ってきてくださいね」

 

「あの分からず屋に教えてやんなさい。私達はアイツが思ってるほどヤワじゃないってこと」

 

 本音を言えば、夏凜達だって陸人の下に行きたい。言いたいこともあるし、その手をつかんでやりたいとも思っている。しかしそれ以上に、今彼に会いたいと切望している仲間のために、縁の下で体を張ることに決めていた。

 

「──ありがとう!」

 

「先行します、こちらは任せました!」

 

「すぐに連れて帰るから、待っててね〜」

 

 

 

 

 

 

「そんじゃ行くわよ……勇者部────」

 

『ファイトォォォォォッ‼︎』

 

 

 

 号令と共に、すれ違い様にハイタッチを交わして進路を分かつ。突破班と残留班が背中合わせに逆方向に駆け出した。全ては陸人を連れ帰るために。ほんの少し前まで当たり前にあった日常を取り戻すために。

 

「分散? そこまでして!」

 

 迂回してG2-Xの射程外から奥を目指す友奈達。当然芽吹も妨害に動く──が、これ以上の邪魔を赤の勇者は許さない。

 

「楠、芽吹ぃぃぃっ!」

 

「──っ、三好夏凜!」

 

 弾丸のような勢いで真っ直ぐ突っ込んだ夏凜が、芽吹をG2-Xから強引に引き剥がした。まずは指揮官を孤立させて統制を乱す。集団戦のセオリーだ。

 

「悪いわね、こっちにも譲れない理由があんのよ! ここらで勝負といきましょうか……ハンデはどれくらい必要かしら?」

 

「甘く見ないで! 今の戦布は改修を重ねて、基本性能は勇者にも劣らない領域まで進化しているのよ……シズク!」

 

「ほらよ、使いな隊長!」

 

 シズクが投げた銃剣を受け取り、自分の武器と両手で構える。かつて夏凜と同じ勇者装束を扱うべく鍛えてきた二刀流の構えだ。

 

「これで武器の面でも互角ね……対等の果し合いよ、勇者、三好夏凜!」

 

「上等! 決着つけようじゃない、防人隊隊長、楠芽吹!」

 

 精霊バリアや満開、対バーテックス、アンノウンとしての機能を除けば、現行の防人の装備と勇者システムに大きな差はない。人類最強レベルの戦士同士。真っ向からの果し合いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 

「オイオイ、なんか楠熱くなっちまってるぜ」

 

「そのようですわね。では、こちらはあの3人を追いましょう」

 

「うう……ヤダなあ、勇者と戦うなんて」

 

 3人を乗せたG2-Xが方向転換──しようとして前後輪共に、細い糸が絡んで動きを封じられていた。

 

「行かせません! あなた達にはここに残ってもらいます」

 

「チッ、足を抑えられたか……加賀城!」

 

「え〜……うわ、すんごい細かく仕込まれてる。これちょっと解くの大変だよ?」

 

「そのバイクにどんな力があっても、タイヤで走るなら私の糸で止められます。友奈さん達を追いかけたいなら、私を倒してからにしてください!」

 

 樹のワイヤー操作技術は最早職人芸の域だ。いかに馬力があっても、踏ん張るための足元がおぼつかなければ意味がない。

 樹の武器は、勇者部の中で最も自由度が高い。同時に最も加減がしやすい武器でもある。人と対峙することになったこの戦場に争いを嫌う彼女が残ったのは、それを自覚していたからだ。

 誰かに流されるのではなく、自分にしかできないことを自分の頭で考える。樹は1人の勇者として、心身ともに最も成長した存在でもある。

 

「──そんでもって、樹を倒そうってんならまずはあたしからってねえ!」

 

 動きが止まったG2-Xの右側から、巨大化した大剣が迫る。風は平らな腹の部分を叩きつけるように振り抜いた。

 

「防げ加賀城!」

「ウッソでしょ⁉︎」

「シャキッとなさい!」

 

 足が止まった大型バイクを、風は真横からの衝撃で横転させるつもりだった。しかし、その一撃は衝撃を受け流されて上滑りしていった。

 G2-Xをすっぽり覆い隠すほどの大質量の一撃を、手持ちの武器で即座に捌いてみせたのだ。

 

「ガラ空きですわよ!」

 

「──っ、ヤバッ!」

 

 夕海子の狙撃を大剣を縮小して防ぐ風。剣を通して感じた手応えから、風は目の前の防人がどれほど場慣れしているのかを察することができた。

 

(あの3人、あの一瞬で完璧に息を合わせて私の攻撃に対処した……見下してたつもりはないけど、認識を改める必要があるかもね)

 

 衝突の瞬間、雀が盾で剣を受け止める。

 攻撃が止まった直後に、夕海子が剣の端を射撃。3発同時に着弾させ、真横だった剣の角度を強引に斜めに押し曲げた。

 そうして衝撃の逃げ場を作ってから、シズクがハンドル操作とブレーキングで重心移動。機体を傾けて大剣を頭上に滑らせて衝撃を逃した。

 

 どこかでタイミングがずれれば押しつぶされていただろう。アドリブで対処しきったこともそうだが、何よりも瞬時に仲間を信頼して行動に移る迷いの無さに驚嘆した。

 

(いいチームね。こんな形じゃなきゃ、もっとうまくやれてただろうけど……!)

 

 言っても詮無いことだ。今の風達にとって1番大切なのは自分のチームメイトである陸人のこと。相手が誰であれ、ここで折れるわけにはいかないのだ。

 

「お姉ちゃん!」

 

「気を引き締めなさい、樹。あのバイクもだけど、乗り手の子達も相当な腕よ!」

 

「向こうもその気になってくれたんなら、遠慮はいらねえなぁ!」

 

「ええ〜……今の一撃とかすごく痛かったんですけど」

 

「いいから構えなさいな! 次が来ますわよ」

 

 どちらが間違っているわけでもない。互いに譲れないもののために、持てる全力でぶつかり合う。本心では誰も望んでいない、報われない戦いがここにあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 追手を振り切り、ガドルの後を追う勇者部。その人数は半分まで減ってしまっていた。

 

「……みんな、大丈夫かな……」

 

「防人の人達は確かに様子が少し変だったけど、バリアもあるから大きなことにはならないはずよ」

 

「こっちも危害加えようってわけじゃないしね〜、私達が早く戻ればそれだけ無意味な戦闘も早く終わって────そうだよね〜、防人が来るなら来てるだろうと思ってたんだ〜」

 

 迫り来る新たな反応。勇者でもアンノウンでも防人でもない、オンリーワンの気配に園子が真っ先に気付いた。

 

「そのっち?」

 

「どうしたの、園ちゃん?」

 

「2人とも止まって……来るよ」

 

 荒々しい足音と共に、不規則に風を切る音が凄まじい速度で迫ってきている。緑の異形が、勇者達の頭上を飛び越えて着地した。

 

「ようやく追いついたぜオラァ!」

 

 首を鳴らして威圧的に振り返ったギルス……篠原鋼也。共に戦った仲間である美森や園子に対しても警戒心を解いていない。

 

「G3-X、エンゲージ」

 

 挟み込むように後方に降り立ったもう1人の仮面ライダー、G3-X……国土志雄。彼も同じく銃口を向けながら勇者達の挙動に注目している。

 

「鋼也くん、それに国土さん、だったわよね」

 

「ちゃんと話すのは初めてだな。こんな場で挨拶したくはなかったんだが」

 

「防人達から話は聞いたけどよ、お前らが何考えてんのかはさっぱりだったわ。こんな時に戦力を遊ばせてる余裕はねえって、分からんお前らじゃねーよな?」

 

「う〜ん、話を聞いてくれるなら説得できる自信はあるんだけどね。ちょっと時間がないんだよね〜……道中説明するからついてきて、って言ったらどうする?」

 

「論外だな。強引にでも連れて戻るまでだ」

 

「はぁ……須美が考えすぎて妙なことになんのはまだ分かるがな。園子、お前まで一緒になって何してやがんだよ」

 

「だから説明させてくれるならそこを通してってば〜」

 

「それはできねーってんだよ。いいからお前らが戻れって。言いたいことがあるなら大社の方に話せ」

 

「そんなつれないこと言わずにさ〜、お友達でしょ〜?」

 

 ニコニコしながら言葉で様子を伺う園子。やはり手応えが違う。口先だけで突破するのは無理があるようだ。

 

(やっぱりこの2人も変だね〜。こんなピリピリしてる人じゃなかった)

 

(そうね。国土さんはよく知らないけど、鋼也くんの反応が刺々しすぎるわ)

 

(じゃあ、やっぱり……?)

 

(……ん。この2人を抑えるにはこっちも最低2人は必要だね〜。となると……)

 

(行って、友奈ちゃん。リクの手を掴んであげて)

 

 小声で算段を立てる園子達。それに気づいた鋼也と志雄が、攻撃態勢に移った。

 

「なーにコソコソやってんだオイ!」

 

「実力行使させてもらう、悪く思うな……!」

 

 ギルスが正面から飛びかかり、後方からはケルベロスの斉射。前後から迫る攻撃を散開して避ける勇者達。大地を裂くギルスの一撃を見る限り、この2人も本気で無力化させようとしているらしい。

 

「早く行って、友奈ちゃん。この2人は強いわ、捕まったら逃げられないかもしれない」

 

「でも、東郷さん!」

 

「かーやんも言ってたでしょ? りくちーを助けるカギはその拳だって。曖昧な言葉だったけど、あの子は間違ったことは言わないから……信じて進んで、ゆーゆ!」

 

「園ちゃん……」

 

「それだけじゃない。友奈ちゃんは、誰よりもリク個人の心に寄り添い続けてきたもの。私もそのっちも、あの子にどこか英雄としての姿を重ねてしまっている。全てを無くしたあの子に手が届くのは、きっとあなただけなのよ」

 

 園子は初めから陸人とアギトを=で結び、ヒーローとしての彼を見てきた。

 美森はアギトである陸人の在り方に思い悩んで暴走した過去がある。

 友奈だけなのだ。初めて出会った時から、アギトのことを知っても、勇者としての運命を聞いても何も変わらなかったのは。

 友奈にとっての御咲陸人は、強くて優しくて頼もしくてカッコよくて、たまに危なっかしくて隣にいたくなる。そんな親友で、仲間で、大好きな男の子。何を知っても知らなくても、その関係は不変だった。

 

「大切なのは、人としての"御咲陸人"を取り返すこと。それにはきっとゆーゆが適任なんだと思うよ〜……ただ、それとりくちーのお相手云々は別の話だから〜、そこんところよろしくね〜?」

 

「あはは……うん、分かったよ。私行きます。りっくんは任せて!」

 

「おっけ〜、待ってるよ」

 

「いつだって信じてるわ、友奈ちゃん」

 

 一直線に駆け抜ける友奈。何も考えずに仲間を信じて一点突破。そんなバカ正直な疾走を、追手が見逃すはずもなく。

 

「行かせるかよ!」

「止まってもらう!」

 

「ところがどっこい〜」

「通してもらうわ!」

 

 光刃と弾丸の嵐が巻き起こり、ギルスとG3-Xの動きが止まる。弾幕に一箇所だけ開いたルートを走り抜け、友奈が炎の奥へと突き進む。

 

「行ってきます!」

 

 その声を最後に、仲間全員の想いを託された桜の勇者は炎の奥へと消えていった。とうとう1人になってしまったが、これで大社からの追手は打ち止めで間違いない。残る問題はアンノウンやバーテックスの妨害だが……

 

「──ったく、なーに考えてんだお前らは。あの奥に何があるってんだよ?」

 

「しののんが忘れちゃった、大切な真実があるんだよ……だから、ゆーゆの邪魔はしないで」

 

「分からないな。何をそこまで必死に求めているのか」

 

「今は分からなくて結構。あなた達には、ここで私達に付き合ってもらうわ」

 

 美森と園子。鋼也と志雄。どちらも同じ訓練を乗り越え、強い絆で結ばれている。

 

「俺らに勝てるつもりか? 須美、園子」

 

「勝つ必要なんてないよ〜、負けるつもりもないけどね」

 

「手早く無力化して結城友奈を追わせてもらう……行くぞ」

 

「させないわ。こちらも譲れないのよ!」

 

 最強コンビ決定戦と言っても良い好カードが、世界の端で激突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

「さて、とりあえず初仕事ご苦労、と言いたいところだが……」

 

 四国結界からぐるりと星を回って真反対、人類の生存域から最も離れた対蹠地に罪爐の領域がある。帰還命令を受けて本拠に戻ったアギトは、帰投直後に薔薇のツタに囚われて身動きを封じられていた。

 薔薇のトゲが全身に突き刺さり毒が流れ込む。そんな拷問じみた拘束を受けているアギトの前に、罪爐が悠然と歩み寄る。

 

「我は出会い頭に最大火力で焼き尽くせ、と命じたはず。何故変身せずに殴りかかるような悠長なマネをした?」

 

「…………」

 

 罪爐は確実に勇者を葬り去るつもりでアギトを差し向けた。頼みの綱であるアギトが、同じ希望である勇者を殺した。この事実を突きつけて残る人類から絶望を得ることを目的として、最低でも2、3人は仕留められる公算だったのだが。

 

「まあ、今の汝に答えを返せというのも無理な話だな。しかし、御咲陸人の心は完全に殺したはずだが……まだ肉体にその頃の感覚が残っているということか?」

 

「…………」

 

 どれだけ力があっても、命令を忠実にこなせない人形に価値などない。アギトを手中に収めるまでの手間を考えれば、もっと利用したいと思うのも当然だった。

 

「では多少荒療治ではあるが、汝を更に我の色に染めてやろう。まだ心が残っているのなら非常に苦しいものになるが……汝であれば身体までは壊れまいよ」

 

 アギトの額に指を突きつけ、ドス黒い闇を流し込む。器の奥にある魂の底の底まで、完膚なきまでに黒く染めるために。

 

「……ギ……ガ……ッ‼︎」

 

「拒絶反応……やはり、しぶとく宿っていたか。英雄(りくと)の残り滓が。今度こそ消えてもらおうぞ、死に損ないが……!」

 

 動けない状態で身をよじらせていたアギトが、やがて力無く意識を落とす。次に目覚めた時には純度100%の悪の人形の完成だ。

 

「まったく手間のかかる……さて、こちらはこちらで出迎えの支度をせねばな」

 

 眠るアギトの頬を撫でつけ、罪爐は踵を返してその場を離れていく。ヒールの足音が、何もない無明の空間に不気味なほど深く反響する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『何故そこまで人間であろうとする? 人にそこまでする価値はないではないか』

 

 アギトの脳内で声が響く。己をさらに深い闇へと誘う罪爐の呼び声だ。

 

『そもそも汝は真っ当な人間ではなかったであろう? 生きにくいと思ったことも多くあったはずだ』

 

 罪爐は呼びかけ続ける。人間を捨てるように。こちら側に来るように。

 

『汝の始まりの記憶は人殺しだ。生きるためなら殺しても良い。汝の真理だ。誰に教わるでもなく、最初にそう決めて仲間にもそう擦り込んだ……でなくば子供の集まりがあれほどの戦果を上げられるわけがない』

 

 ──堕ちてゆく

 

『あの孤児達が死んだのは我のせいではない。殺した兵士のせいでもない。汝があの子らに殺しの手段を提示したからだ。人を殺せる力を、仲間に与えたからだ。殺しを続ければ、いずれ必ず報いとして殺される時が来る。あの惨劇は汝が引き起こしたことだ』

 

 ──堕ちてゆく

 

『それで? たまたま伍代雄介という善人に拾われたら今度はあっさりと宗旨替えか。滑稽なほど惨めだな。仲間を巻き込んで殺し尽くした汝の真理は、出会い1つであっさり捨てられる程度のものだったのか?』

 

 ──堕ちてゆく

 

『そこまでして手に入れた一見真っ当な人としての価値観。それもまた他人の猿真似でしかない。誰かの笑顔を守る……汝は常々言っていたが、それは汝自身が本当の意味で他者の笑顔に価値を見出したからか? いいや違う。尊敬できる人間がそう言っていたから、その価値観をそっくりそのまま真似ていたに過ぎない』

 

 ──堕ちてゆく

 

『所詮空っぽなのだよ汝は。だから環境や近くの人間の影響をたやすく受けて変化する。それが分かっているから、汝は無意識に自分を軽視している。誰かのために命を懸ければ、空虚な己にも価値が付随するとでも? そんな発想自体が既に人を逸脱していると何故気付かない?』

 

 ──堕ちてゆく

 

『汝は西暦でも神世紀でも、様々な娯楽や芸事に手を出していたな。アレもまた己の空虚を誤魔化したかったのだろう? 才能に任せて一定の結果を出し続ければ、少なくとも傍目からはさも充実した生き方に見えるだろうからなぁ?』

 

 ──堕ちてゆく

 

『西暦の決戦。神に至ると決めたのだって、結局は自分の価値を高めるため……言ってしまえば承認欲求を満たしたかっただけ。己の価値に自信が持てぬから、誰にも真似できない偉業を果たして認めてもらいたかった。違うか?』

 

 ──堕ちてゆく

 

『誰かのためと嘯きながら、その実自分のことしか考えていない。空虚な自分が誰かに目を向けてもらうためには人の役に立たなければならない。そんな強迫観念に近いものが、汝を突き動かしてきたのだ。惨めにも程がある』

 

 ──堕ちてゆく

 

『そうだろう? 真に友のためを想うなら、勇者になろうとする者達を死に物狂いで止めるべきだった。それをしなかったのは、誰かと並んで戦いたかったから。無価値な自分が身体を張るべき、と断じておきながら1人は嫌だと甘えを見せた。その中途半端な覚悟と偽善のせいで、あの娘達は大きな傷を負い人としての幸せを失うところだった』

 

 ──堕ちてゆく

 

『娘達との向き合い方もそうだ。少なくとも記憶を取り戻してからの汝は気付いていたであろう? あの中に汝を恋い慕う者がいることに。それでも鈍いフリを続けたのは、怖かったからだ。彼女達の真っ直ぐな想いに向き合うのが。特別な誰かを作ることが。これを不誠実と呼ばず何とする?』

 

 ──堕ちてゆく

 

『全てにおいて半端者。衆愚に迎合して普通の人間になりきるでもなく、孤独を貫き1人傷つく覚悟も決められない。それが何よりも周囲を傷つけるということが何故分からない? 汝は人の世界にいるだけで、多くの悲劇を巻き散らす存在なのだと自覚せよ』

 

 ──堕ちてゆく

 

『あちらに汝の居場所はない。人でありながら神にも劣らぬ魂を持って生まれ落ちた時点で、汝に"普通"は手に入らないことが定まっていたのだ。潔く諦めてこちらに来い。堕ちてしまえば、そう悪くはないものだぞ?』

 

 ──堕ちてゆく

 

『こちらに不自由はない。我だけは汝の全てを理解してやる。受け入れてやる。望みを叶えてやる。我や汝こそが世界に生きるべき優れた存在だ。弱者が蔓延る今の世界の方が間違っているのだ。全て消して、作り直そう。我等が我等のまま生きられる世界をこの手に。さすればその空虚も埋まるはずだ』

 

 ──堕ちてゆく

 

『我の手を取れ。汝には資格がある……これまで苦しんできた分、世界を好きにする権利がある、これは当然のことだろう? 汝等人間は大好きではないか──努力した者が報われる結果というものが』

 

 自分をやたら高い棚の向こう側までぶん投げて一方的に語りかける罪爐。その言葉が陸人の本質を突いているのかどうか、それは陸人本人にしか分からない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……なんとも無様だな。あの日の英雄と同じ人物だとはとても思えない」

 

 光も音もない、ただ沈黙する人形が一体存在するだけの闇の空間に、不似合いな程白い影が降り立った。

 上から下まで白装束で包み、全身から神秘的な輝きを放つ人影。テオスが人を真似て作った肉体と瓜二つの顔立ち。黒いテオスと対の姿で、その存在は現れた。

 

「…………」

 

「起きろ。この私に拳を叩き込んで説教までしたあの気概は、いったいどこに消えたのだ……伍代、いや……御咲陸人よ」

 

 かつてテオスが自身の世界で対峙した天使の一角、"火のエル"。その存在に酷似した肉体を使って、誰とも違う立ち位置にいる神霊がアギトに接触してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




後半にツラツラ書き並べたのは、あくまで罪爐の私見です。罪爐は読者視点(神の目線)に極めて近いものの見方ができる存在です。その視点から、可能な限り穿った見方をして、思いっきり世の中を斜めに捉えた世界一の性悪が思う陸人くん像でしかありません。
作者がそういった人物として彼を描いてきたわけではないですし、私自身彼をそういうキャラクターだと捉えているわけでもありません。

陸人くんの本質について、作者から明言することはありませんが、ここまで長ったらしい今作を読み進めてくださった読者様方が思う彼で間違いないかと思います。

今回の展開は少し否定的に見られるかもとは思いましたが、一度徹底的に否定されることでなけなしのカタルシスを求めてみました。

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに

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