A New Hero. A Next Legend 作:二人で一人の探偵
(……違う……違う、一手遅い……選択肢のひとつとして保留……悪くはないが、この場合既に無意味……)
筆頭巫女のみが自由に立ち入れる御神木の間。いわば大社という巨大組織の中心である社殿。巫女にして神子であるかぐやが最も強くその力を発揮できる場所で、彼女は一心不乱に未来を視ていた。
(……やはりこれ以上良い形はない、ということですか)
神子として使える霊的術式のひとつ、"風詠み"。起こり得る幾千幾万の未来の可能性を予見できる異能。かぐやはこの10日間、筆頭巫女としての業務と陸人との逢瀬以外の殆ど全ての時間を使って未来を視続けてきた。そこで得た情報を見極め、少しでも未来を好転させるべく時に人を、時に組織を使って準備を進めてきた。
開戦1時間前の今もまた、少しでも役に立つ情報を手に入れるために試行していた。
『筆頭巫女様、お時間です』
「……そう、ですね。すぐ向かいます」
しかしこれ以上は本番に差し支える。部下の連絡を受けて儀式を中断。装いを整えていたところでプライベート用の端末が鳴り響いた。
「……陸人様?」
かぐやの個人端末の番号を知る者は限られている。そのうちの一人である陸人からのメッセージが届いていた。
"肩の力を抜いて、俺たちならやれる。背中は任せた"
あまりにもタイミングが良い激励。かぐやは自分の役目について何も教えてはいない。それでも直感で無理をしていることに気づいたのだろう。端的ながらも的確なメッセージだった。
「ありがとうございます、陸人様。やはりあなたは私の──」
私の、何と言おうとしたのか。ただ口を塞いで言葉を止めたかぐや本人にしか分からないが、悪い感情が浮かんだ訳ではないのだろう。その口元は緩く弧を描いていた。
「見えた……相当な数です」
「向こうから戦争だ、なんて言ってきたんだもの。これくらいでないと張り合い無いわ」
仮面ライダー、勇者、防人。人類側の全戦力が結界の上に集結している。視界の奥の奥には大量に蠢くアンノウンの群れ。その内7割は白いアリ型、再生アンノウンも多く混じっている。予想通り、バーテックスの気配はない。
「アンノウンばっかりってことは〜、天の神様は敵対してないと見ていいのかな〜?」
「多分な。それでも壁外が未だにこの光景ってことは、天の神は捕らえられて無効化されたか、干渉できなくなるほどに痛めつけられたか……かぐやちゃん」
『はい。天の神の所在、こちらでも探っておきます』
大社本部に増設された、戦場全体の情報が集約される司令室。そこと各員を端末で繋げることで、万全の指揮態勢が敷かれている。
破られる可能性が高い樹海を初めから使わないという大胆な決断のおかげで、これだけ情報面で恵まれた状態で戦闘に臨める。
「防人各員、最終確認よ。第一から第四小隊は前線に突入して近接戦に参加する」
「第五から第八小隊で結界上に絶対防衛線を構築。G2-XやV1の火力を用いて援護、及び結界を狙う攻撃を撃ち落とす。分かってるわよ、隊長」
「あ〜あ〜あ〜! なんでまた私は前線に回されるのさ〜?」
「あなたの取り柄はしぶとさだけでしょう。射撃要員に回っても役立たずでしかありませんわ。文句を言いたいのは私の方です。今日までの訓練で更に磨きがかかった狙撃の腕を……」
「前に出る人員の中にも射撃役は必要……つまり弥勒は頼りにされてるってこと……」
「……なるほど! そういうことなら仕方ありませんわね!」
「うわ〜……簡単すぎない? エセお嬢様」
防人部隊も強化されている。戦衣の強化はもちろんのこと、何より大きいのは各小隊に1機ずつ配備されたG2-XとV1の存在。
陸人が損傷の少ない方法で無力化したことで、この日までに各8機の実戦運用が間に合った。バーテックス因子や指揮管制システムといった危険要素をオミットして信頼性を高めた量産モデル。
今回は変則的に、指揮官役の防人1人、G2-Xに防人3人、V11人の
「氷川さん、一条さん。初の実戦ですが調子はどうでしょう?」
「三好さん。こちらは上々です。歳下とはいえ、戦場では彼女達の方が先達。足を引っ張らないよう全力を尽くします」
「僕も問題ありません。ようやく子供だけに戦場を任せずに済む。そう思えばどんな痛みも怖くないです」
V1の装着者は、主にG3-X装着者候補から選抜されている。当然その中には最高成績者の三好春信も含まれていた。
「ん?……今、兄貴の声が聞こえたような」
「夏凜さん、どうかしました?」
「いや、そんなはず……なんでもないわ。樹、緊張してる?」
「本音を言うと、少し……なので、良ければ夏凜さんオススメのサプリ、もらってもいいですか?」
「おっ、樹も分かってきたじゃない! ほら、とっておきよ」
開戦まであと僅か。戦術や装備を確かめる者。仲間と談笑して緊張をほぐす者。各々が迫る決戦に向けてモチベーションを上げていた、その矢先。
──ご機嫌よう、人類諸君。約束の時だ──
10日前と同じく唐突に、世界を蝕む声が響く。敵集団の中心に転移してきた女性──その身体を器とする罪爐。どこまでも余裕を感じさせる態度のまま、侮蔑の笑みさえ浮かべて初手から最前線に出現した。
──汝等の様子は暇潰しに覗かせてもらったが……実につまらん。もっと集団自殺に走るなり、道徳精神を失った犯罪者が溢れ返るといった反応を期待していたのだがな──
どこまで本気か分からない声色で、非常に物騒なことを言い出した。やはり猶予を与えたのはその間に絶望という好物をかき集めるためだったのか。
──まさかとは思うが、汝等……仮面ライダーとやらに希望を抱いているのか? だとすればそれはあまりにも物を知らぬと呆れ果てるしかないな。彼奴等はつい先日も我の策に落ちて全滅しかけた。我に傷一つつけられず逃げるのがやっとだった連中だぞ?──
そこまで聞いた陸人は動く半身だけをよじって、肩を貸してくれていた友奈と園子の腕から無理やり離れた。
「りっくん⁉︎」
「りくちーっ!」
1人では立つこともできない陸人は当然のように体勢を崩し、結界から足を踏み外して──
「──うるっせぇぇぇぇぇぇっ‼︎」
遠くからでも罪爐の声をかき消すほどの声量が炸裂。ちょうど12時00分00秒、少年の怒号が火蓋を切った。
爆発のような叫びと共に、その身体が光に包まれる。どこからともなくやってきたトルネイダーに飛び乗った時には、その姿は既に戦士のものへと変わっていた。
掴むは大地、握るは拳。金の輝きをもって全てを叩き潰す戦士──アギト・グランドフォーム
スライダーの最高速度で敵の群れに突っ込み、多くを吹き飛ばして轢き潰していく。
「いちいち"自分は全てを知っている"ってアピールしなきゃ戦えもしないのか? 壮大なる悪の権化様が、随分と器の小さいことだな!」
真上に飛翔し、頭上から一直線に落下する軌道で必殺の『ライダーキック』
地を蠢くしかないアリ型を一挙に爆砕した。
「全ての命が自分の掌の上で踊るしか能がないなどと……傲慢にも程がある!」
纏うは風、振るうは薙刀。青の輝きをもって全てを薙ぎ払う戦士──アギト・ストームフォーム
そのスピードで敵集団の中心に飛び込み、ど真ん中からハルバードを振り回し、巻き起こした旋風で一網打尽にしていく。
「常に上からしかモノを見てないから、誰かの痛みが分からない。これまではそれでも良かったのかもしれない……だがなっ!」
巻き上げられて宙を舞うアンノウン達。必殺の『ハルバードスピン』で、無防備な敵を猛スピードで切り裂いていく。
「お前は今、俺たちと同じ目線に立っている。この戦場で、いつものお前の屁理屈が通用すると思うなよ!」
宿すは炎、抜くは刀。赤の輝きをもって全てを断ち斬る戦士──アギト・フレイムフォーム
豪炎を纏わせた刀身が1人、また1人と異形の肉体を斬り裂く。紙を裂くように気安く、軽く。斬られたアンノウンには炎が回り、骨すらも残らず消えていく。
「人の運命がお前の手の中にあるなら……俺が、俺達が奪い返す!」
刀身に奔る炎がその勢いを増し、本来の間合いの3倍以上の長さにまで炎刃が延びる。大上段からの振り下ろし一閃、必殺の『セイバースラッシュ』が決まり、数多のアンノウンの身体を断ち斬り、焼き尽くした。
「今のうちに気が済むまで軽口叩いておけ。すぐにその余裕を引き剥がしてやる」
「ふむ。少なくとも本人のやる気はあるらしいな」
たった1人で敵陣に飛び込み、華麗な必殺技で群体を圧倒。これ以上なくセンセーショナルで英雄的な、最高の立ち上がりで決戦は幕を開けた。
「ヒューッ! やってくれるぜ陸人の奴」
「ああ。罪爐の口上で市民の不安が高まりつつあった。その気勢を一手で引き戻したな」
民衆の不安はダイレクトに敵方の力に変換される。リアルタイムで戦況が伝わるこの戦場、目に見える情勢というのが大きな意味を持つ。
「さぁーて、そろそろ俺達も行かねえとだな」
「仮面ライダーは陸人だけではない。僕達もまた、人々の期待を背負う戦士だ」
前髪をかきあげて首を鳴らす鋼也。ポンポンと端末を弄ぶ志雄。アギトの派手な第一手のおかげか、程よい緊張感を持って戦場と向き合えている。
「志雄、遅れんなよ? 今回ばかりは待っててやる余裕はなさそうだからな」
「僕が君を待たせたことが一度でもあったか? そちらこそ足手まといにはなるなよ、鋼也」
『──変身‼︎──』
仮面ライダーギルス。
仮面ライダーG3-X。
神世紀という時代が生んだ、神秘と科学の戦士達。世界が、人類が希望を託した3人のヒーローがここに揃った。
「勇者部戦闘準備! 行くわよみんな!」
「防人各員奮闘せよ、今こそこれまでの訓練の成果を見せる時よ!」
勇者と防人も武器を抜き、突撃の構えを取る。ここからはまさに戦争と表現できる大決戦となる。
「いっ、くぜぇぇぇぇっ‼︎」
「陸人に続く、遅れるなっ‼︎」
前に出る戦士と、残って構える戦士。四国400万人の明日がかかった最終決戦。全ての力ある者がその戦地に乗り込む。
勇者の拳が異形を貫き、防人の盾が敵の矢を防ぐ。大地が呻くほどの大量の足音が、すぐ隣にいる仲間の声すら遮って響き渡る。
「クハハハハ……盛り上がってきたではないか。これぞ戦、命が水のように溶け合い流れゆく祭り! 楽しませてもらおうぞ!」
アギト達のはるか頭上を抜けていく有翼種のアンノウンの群れ。四国を直接狙う空戦部隊だ。たとえアンノウン一体でも内部に侵攻されれば、全戦力が出払っている四国には打つ手がない。
「抜かれた……!」
「いや、問題ない」
「総員構え──撃てぇっ!」
結界上部に並んだ射撃部隊の砲口が一斉に火を噴く。防人達の息のあった連携狙撃。簡易量産版のケルベロスで弾をばら撒くV1。そして何よりG2-Xの大火力が、チリすら残さず敵部隊を崩壊させた。
花火のような光を残して全てのアンノウンが墜落していく。2人の天才がもたらした近代的な科学兵器が、神の使徒を一方的に圧倒した。
「うーわ、おっかない火力ね。東郷の満開みたいだわ」
「多少の取りこぼしはきっちり掃除してくれそうね」
(だが、全ての武器には残弾数が決まってる。いつまでも景気良く撃ち続ける事はできない)
「りくちー、今のうちに上、やっちゃお〜!」
「園子ちゃん……よし、合わせるぞ!」
束ねるは三色、重なるはスイレン。地火風の三属性を併せ持つ戦士──アギト・トリニティフォーム
その背中に園子が合流、2人の手が重なり力が混ざり合う。
「せ〜のっ!」
「撃ち落とす、全て!」
園子の槍から放たれた数多の穂先に、アギトの炎と風が付与されていく。
爆炎の暴風雨としか形容できない超常の大災害が敵陣を飲み込み食い潰す。天地悉くを蹂躙し、千を超える異形をまとめて薙ぎ倒した。
「あれ……メブは?」
「何か急に呼び出されたみたい……半ギレ気味に退がってった」
「あらまあ何かしら……ではその間指示は私が──」
「去り際に指揮権を私に寄越してったから、ここからは私が指示出す。とりあえず加賀城は前進、弥勒はちょっと後退……」
「ええ〜!」
「ちょっと!」
「やれやれ……いくら十把一絡げと言えど、そう軽々吹き飛ばされては堪らんな」
「雑兵をいくら増やしても無駄だと分かっただろ。さっさと本命をよこせよ、出し惜しみなんてガラじゃないだろうが」
「そうかそうか、ではお望み通り……
漆黒の天球を貫いて光柱が地に落ちる。1人で自然界の摂理を覆すほどの権能を持つ天使が三柱まとめて舞い降りた。
一度世界を滅ぼしかけた悪魔の身体に魂を移した"白のエル"
天まで届き得るほどの大地の牙を振るう"地のエル"
目に見えず、何よりもありふれた大気を支配する"風のエル"
「ハッ、思ったより早いとこ出てきたじゃねえかアイツら!」
「確かにな。もっと重役出勤になると踏んでいたが」
『陸人様!』
「ああ。手筈通りにな……引き剥がしてタイマンだ!」
自分の手で止めるべき相手を見つけたアギトが、再度その姿を変える。
迸るは焔、放つも焔。内より立ち昇る灼熱を力に変えて、全てを燃やし尽くす戦士の姿──アギト・バーニングフォーム
「来イ……アギト!」
「面倒なヤツの身体持ち出してくれて……! 叩き潰す!」
真正面からの突撃、バーニングライダーパンチで白のエルを捉えたアギトは、その勢いで戦場の中心地から敵方の特記戦力を引き離した。暴走トラックが轢いた相手を引っ掛けたまま爆走するような格好で、ダグバの力を持つ厄介な敵を結界から遠ざけた。
「ヤハリソウ来タカ……苦労スルナ、守ルモノガ多イト」
「分かりやすい手だろうが、やらないよりマシだ。お前の相手は僕がする」
「私トシテハ貴様ト相対デキタダケデ上々ダ、ギルスヨ」
「ご指名どーも、さっさとあの世にお帰り願うぜ!」
3人のライダーと三柱のエルロード。大方の想定通り、それぞれが一対一の形に移行した……ように見えた。
(さて、何分で気がつくかな? あまり鈍いと手遅れになるぞ……)
戦場全体を見渡し、1人ほくそ笑む罪爐。首魁自ら手を加えて強化した天使の力は、大社の想定を大きく超えていた。
白のエルはダグバの身体を用いている。圧倒的な戦闘力はもちろんのこと、その特性は神の力をも飲み込む存在の大きさだ。通常マラークはおろかエルロードですら無視できない神樹の最終防御結界。四国の最後の砦である絶対防御さえも、白のエルなら破壊できる可能性がある。
それを懸念した陸人は、出現を確認後すぐに結界から遠くへ移動させた。優先順位という意味では、罪爐を超えて第一位にあたる。
「早いところ片付けるぜ!」
「言葉ハ強イナ……言葉ダケハ」
拳がぶつかる度に大気が揺れ、轟音が響く。ダグバの膂力に水のエルの能力を重ねた白のエルは、今のアギトとも対等に張り合えるだけの力を持っていた。
(だが、身体に精神が追いついてない……本来の宿主ほどじゃないな)
頭のてっぺんからつま先まで是戦い、と染まりきっていたあの悪魔と比較すれば、動きのキレや殺意の乗り方が段違いだ。シャイニングフォームを使えない壁外での戦闘に一抹の不安を抱えていた陸人だったが、バーニングのままでも最低限互角には戦える。
……そう、1人ならバーニングフォームでも十分だったのだ。
「──ッ⁉︎ これは……」
「惜シカッタナ」
全力の右ストレートが当たる瞬間、足元が浮き上がるような奇妙な感触。一瞬前まで大地を踏みしめていたはずなのに、はるか上空にいた。吹き飛ばされたのとは違う、この感覚は……
(幻術……いや、転移か!)
なんとか着地した瞬間、足元から強烈なプレッシャー。直感に従って全力で上体を逸らしたアギトの鼻先を、大地の牙が掠めていった。
「あんなに堂々と登場かました辺りから妙だと思ってたが……最初からそういう算段だったわけだ」
不意打ちをギリギリで捌いたアギトが振り返った先には、先程引き離したはずの二体を含めた三柱の天使が揃い踏みしていた。
「さっき向こうにいたお前達は……幻術の類か」
「御明察。其方ガ私ヲ警戒シテイタノト同様、我々ニトッテ最モ邪魔ナノガ貴様ダカラナ」
「なるほど……都合良く孤立した駒を確実に獲りにきたってわけか」
「思イ出サセテヤロウ、貴様達ハアクマデ狩ラレル側ダトイウ事実ヲ」
「とんだサマ師だな。神様の使徒のくせして」
「悪イガ、人間ノ言葉ニハ疎クテナ……"サマ師"トイウノハ褒メ言葉カ?」
「ああ、褒めてるよ。その天使とは思えないツラの皮の厚さをなぁ!」
序盤から敵の罠にかかってしまったアギト。天の神の焔で景色こそ変わらないが本来の地形で見れば、仲間がいる結界付近は海一つ挟んで向こう側。合流するのにどれだけかかるか分からない上に、そもそも振り切れる相手ではない。
(ヘマしたか……さて、どうにかしないとな)
3対1の絶望的な状況で、それでもアギトの焔はより一層強く立ち昇る。
楠芽吹は焦っていた。何故か開戦直後に本部に呼び出し。あまりにもタイミングが悪すぎる。こうして老化を進んでいる今も、仲間達が命懸けで戦っているというのに。
「急ぎましょう、三ノ輪さん。どんな用件か知らないけど、さっさと済ませて引き返さないと」
「……おっ、おう」
元々不機嫌に思われがちな芽吹の顰めっ面だ。同じ場所に呼び出されて途中合流した銀はひたすら居心地の悪さに耐えて足を動かし続けるしかない。
「楠芽吹、入ります!」
「み、三ノ輪銀、入りまーす」
2人が呼び出されたのは本部最大規模の開発室。そして当然そこの主は──
「早かったわね。迅速なのは良いことだわ」
画面から目も離さない小沢真澄。隣には沢野雪美も同様に作業を続けている。
「何故このタイミングで? 正直あなたの考えることはいつも理解できません」
「よく言われるわ。でも今回はちゃんと理由があるし、説明もするわよ。今回の戦闘において機密性が非常に重要なの」
「機密性?」
「罪爐のことは聞いてるでしょ? アレは人間の心理に干渉できる。その気になればこっちの手札は覗き放題ってことになるわ。それを避けるために今日まであなた達にはこのプロジェクトについて知らせなかった」
戦場に出てしまえば、流石に罪爐でも敵陣の思考を探りにかかる余裕はなくなる。だからその時まで情報を共有する者は極力減らして進めたかった。
最高権力者でありあらゆる干渉を跳ね除けることができる上里かぐや。彼女の強権を用いれば内外の追求を全て潰して計画を推進できる。資材や設備の手配といった根回しは彼女がいなければ不可能だっただろう。
そして開発者である小沢真澄と沢野雪美。プログラミング、設計、開発、シミュレーション……雑用のような下仕事まで自分達だけでこなした2人の負担は半端なものではない。2人分だけ用意できた特殊な神具によって罪爐の干渉を避けて準備を進めてきた。
「……うーん、よく分かんないけど……敵を欺くにはまず味方からってこと?」
「その認識で間違ってないわ。コソコソしながら作り上げてきたシロモノが──」
「──これよ、あなたたちの新しい力」
部屋の奥がライトアップされ、ラックに配置された強化装甲が姿を見せる。黒の装甲と青の装甲。Gの系譜であると一目で分かるフォルムに、組み上げ直後の光沢が目立つ新装備。
「右の黒が『
「Gシリーズ、それにコイツは……」
「そう、私が組み上げて娘が使ったG4の改修型。装着者保護と戦闘力を両立させた機体よ。あなたにはこれを任せたいわ、三ノ輪銀さん」
「これを、アタシに?」
「あの子は今も見てくれてるはずだから……鋼也くん達を助けてあげて? あなたの希望に沿うだけの性能はあるはずよ」
銀はこの巡り合わせに不思議と納得していた。
鋼也や国土兄妹と接する中で、今はいない誰かの面影を重ねられていることは察していた。彼らと過ごす上で沢野香は無視できる存在ではない。彼女の数奇な人生についても調べたし、複雑な感情を抱いたりもした。
「アタシが、この力で……みんなを守る……!」
そんな香が使っていたG4。今はいない彼女の分も誰かが戦わなければならないなら、きっとその役目に相応しいのは自分なのだろう。
勇者を降りたとはいえ、銀には力と意志があり、守りたいものも山ほどある。
「私には防人としての力がある。それなのに、何故私に? V1の人達に回す方が良いのでは?」
「このG3-Mは他とは違うのよ。G3-Xとの連携を前提に設計されたサポート特化のワンオフ機。ここまで言えば理解できるでしょう?」
「G3-Xのサポート……志雄の僚機、ということ?」
「楠さん、あなた……彼の隣を他人に任せられる? 私から見て最適な人材にオファーしてるつもりなのだけれど」
全て分かっているといった真澄の態度が癪に触る。芽吹は彼女が好きではなかった。いつも余裕綽綽で、未来を見通したような優れた知能の持ち主。芽吹が嫌う大社の大人とは違うと理解していても、反発心は生まれてしまう。実直な芽吹と、自分の考えを他者と共有しようとしない真澄の相性は良くない。
(この人はなんでこう……人を試すような物言いばかり)
そして何より、志雄のことを深く理解していると言わんばかりの振る舞いが気に食わない。同じプロジェクトで長く協力してきた2人だ。彼にとっての恩人なのは分かるが、以前目と目で通じ合うようなやり取りを見た時には思わず割って入ってしまった。しかも慌てて挙動不審になった芽吹を見て笑っていたのだ。面白くない存在なのは間違いない。
「いいでしょう。見事使いこなして、あなたの想定を超えてあげます」
「あら、私はあなたならこの子のスペックを120%発揮できると踏んでいるけれど?」
「っ、ああ言えばこう言う……!」
「あなたよりも大人だもの。気に障ったなら謝るわ」
ノセられている自覚はある。しかしここで子供のように反抗したところで惨めなだけ。非常事態に弁える程度の分別は、半ギレ状態の芽吹にもまだ残っていた。
「フィッティング、パーソナライズ共に完了。マニュアルは内部ディスプレイで確認できるから。ちゃんと送り出してあげられなくて、ごめんなさいね」
「了解……ま、アタシは出たとこ勝負とか慣れっこなんで!」
「私達はまた別の仕事があるから、悪いけどナビゲートはできないわ。自分でなんとかしてね」
「もとより頼るつもりはありません。私達はずっと、己の力で生き抜いてきたんですから!」
専用の端末を渡された2人。準備不足にも程があるが、そこは装着者の技量でカバーするしかない。そして銀も芽吹も、それだけの資質がある。
「うっし、久々に……やりますか!」
『G4-B All Safety Release』
「まずは本隊と合流、戦況を把握しましょう」
『G3-M All Safety Release』
エントリーコードは決まっている。誰かのために身体を張って、前に立ち続けた彼らに敬意を評して。
「──変身っ‼︎」
『Acception』
「……変身……!」
『Acception』
純粋な戦闘力ならシリーズ最高峰の黒い戦士──GENERATION4-BEYOND
G3-Xの欠点を補い、共に高め合うパートナー機──GENERATION3-MILD
停滞し始めた盤面に投入される人類側の隠し玉のひとつ。新たなる"G"が起動した。
ここに来てちょっと変化球を投げました。
といいつつ、次で彼女達の出番まで回るかは分かりません。お待ちください。
感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに