A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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落ちそうな人の手を掴むのは掌。
人を落とそうとしている悪を殴るのは拳。

同じ手でもできることは様々です。その手に特別な何かが宿っている勇者なら尚のこと。
 


掌と拳

「動キガ鈍クナッテキタカ?」

 

「──ッ、残念……そりゃあんたの勘違いだよ!」

 

 激烈なハイキックをなんとかガード、そのままカウンターで拳を入れる。殴られた衝撃を殺すために自ら後ろに跳んだ白のエル、それを追うアギト。踏み込んだ一歩が、不可視の罠を踏んだ。

 

「残念、ソコモ外レダ」

 

(クソ、またこれか!)

 

 気づけば視界がひっくり返り、反応できない真後ろから攻撃が飛んで来る。先程から似たような流れが続いている。

 

 タイマンならアギトは白のエルと互角に渡り合える。しかし数合の間に必ず横槍が入れられるせいで思うように動けていない。

 気づけば自分や相手が遥か遠くに飛ばされている。

 なんの変哲もない地面から突如刃や盾が形成される。

 こんな変則的な戦場で100%のパフォーマンスを引き出すことはまず不可能。しかも時折思い出したかのように2人のエルロードも直接割り込んでくる始末だ。

 

「沈メ……!」

「折レロ!」

 

「邪魔を、するなぁ!」

 

 右腕で剣を、左腕で矢を捌いたアギトは、白のエルが視界から消えたことに一瞬遅れて気がついた。

 

「朽チ果テヨ、アギト!」

 

「っ! 上か──!」

 

 仲間に隙を作らせて、高空からの飛び蹴り。間一髪両腕でガードしたが、その威力は常識外れ。踏ん張ったアギトの足元が衝撃で抉り取られて沈んでいく。なんとか凌ぎ切った頃には、大隕石でも落ちたかのような巨大なクレーターが出来上がっていた。

 

 

 

「粘ルナ、アギト……無駄ト理解シナガラ」

 

「その"無駄"ってのはいつ誰が決めたんだよ? お前らの信奉する神様だって言うなら聞く気はないぞ。俺は断然神樹様信徒、宗派違いだ」

 

「口ノ減ラナイ男ダ」

 

 白のエル──元・水のエルが両手を打ち鳴らすと、頭上の空間がねじ曲がり何もなかったはずの場所から大量の水が流れ込んできた。

 

「これは……!」

 

「丁度良イ水瓶ガアルノデナ、使ワセテ貰オウ!」

 

 地のエルが地盤をめくり上げてフチとなる岩壁を形成、アギトを中心としたクレーターに水が溜まっていく。ものの数秒で大規模な湖を作り上げてしまった。

 

「貴様ノ基本属性ハ地、風、火……サテ、水ニハドウ対処スル?」

 

 ダメ押しとばかりに風のエルが風力操作で超自然的な渦と激流を発生させる。水の天使でもあった白のエル以外はまともに動けない最悪の環境が完成した。

 

(チッ、散々戦ってきたが……水中戦なんてロクにやったことないぞ!)

 

「遅イナ、遅過ギルゾ、アギト!」

 

 過度な流れができている水中を舞うように潜航して攻撃を仕掛けてくる白のエル。慣れない環境に適応できていないアギトはされるがままだ。

 

(マズいな、詰みが見えてきたかもしれない……!)

 

 長い長い星の歴史において、命の発展に隣り合ってきた水。ありふれた存在だったはずのモノが、最悪の武器として襲い掛かってきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ライダーとエルロードが離れた主戦場。幻術に気づいたギルスとG3-Xは急いでアギトの反応を追っていったが、相当に距離が開いている。たどり着くのにどれほどかかるか。

 

「さて、次はどれで遊ぼうか……」

 

「見つけたわよ、悪霊!」

 

「降りてきなさい!」

 

 上空から戦場全体をゆるりと見渡していた罪爐の眉間に青い光弾が飛んできた。当然のように自動障壁が防ぐ。次の玩具が決定した。

 

「来たか、勇者達よ……!」

 

「ニタニタ笑ってんじゃないわよ、アンタのせいでどれだけの命が……!」

 

「絶対に許しません!」

 

「許さない、か。息巻いているところ悪いが、その発言は不適切だな。我は汝等如きに許しを得る必要など最初から無いのだよ……存在の格が違う。地を這う虫をいちいち気に留めながら生きている人間などいないだろう? それと同じだ」

 

「……そう。とことん罪の意識がないんだね」

 

「ほう、案外冷静ではないか、桜の勇者。もう少し熱くなるかと思っていたが」

 

「りっくんが言ってた。あなたと対峙するなら絶対に心を乱すな、一瞬の隙からぬるりと内側に入り込んで来る気持ち悪さがあるからって」

 

「ハッハッハ! 随分な言われようではないか、この我を捕まえて病原菌のように。愉快愉快……一度殺す程度では済まさんぞ?」

 

 罪爐の顔からずっと浮かべていた嘲笑が消えた。氷のような殺意と、絶対的な重圧。虫を潰す感覚で国をひとつ堕とせる悪意の権化がその本気を解放する。

 

「狂い咲け……曼珠薔薇!」

 

 大地が蠢き、巨大な薔薇の怪物が顕現する。以前撃破した"曼珠薔薇"だ。

 

「なによ、偉そうなこと言っといてまたソイツ? 芸がないんじゃないのアンタ」

 

「まあそう慌てるな。愉しくなるのは、ここからだ……!」

 

 罪爐が掌を掲げると、重厚な力を感じさせる球体が発生する。友奈はこの気配に覚えがあった。

 

「まさか、その力は……」

 

「ご明察。これは我が抜き取ったガドルの力の根幹……あの時は予定外が積み重なって使い損ねたが、ここで切らせてもらうぞ」

 

 まるでゴミを捨てるかのように無造作に球体を放り投げる罪爐。後ろの曼珠薔薇が、餌に飛びつくペットのようにそれを飲み込む。

 

「進化せよ、その力で全てを壊せ!」

 

 その変貌は異様の一言に尽きた。あれだけの巨体が脈動するかのようにドクンと蠢き、その組成が変化する。植物の生育を早送りで見ているかのような異常な成長速度。色もより深くより重い紫に染まっていく。ただでも巨大で悍しい容貌だった薔薇が、気づけば見上げても頂上が見えないほどに伸長していた。

 

「この揺れ……さっきまでとは規模が違うね〜」

 

「た、立ってられない……しかも、地面だけじゃなくて……」

 

「空もおかしいわね。あんな雷雲、壁外にはなかったはず」

 

「間違いない、ガドルさんの雷だ……!」

 

 天が鳴き、地が叫ぶ。死に絶えたはずの世界から、まだ養分をしゃぶり尽くして大きく成長していく怪植物。奪えるものを求めて暴れ狂うツタは、ついには主である罪爐本人をも吸い上げて呑み込んだ。

 

 ──これが我の切り札、"曼珠薔薇・紫電"……小さくみみっちい汝等を叩き潰すために手ずから作り上げた最高傑作だ──

 

 薔薇の内部に取り込まれた罪爐の声が響く。全長70mオーバー、ツタを目一杯伸ばした際のスパンは、ここからでも容易に結界まで届くだろう。身体の至る所から紫電を撒き散らす眼にも肌にも悪そうな毒々しい薔薇の化生(けしょう)が、三度人類に牙を向く。

 

 

 

 ──さて、まずは小手調べだ──

 

「全員退がりなさい、全速力!」

 

 磨き上げてきた夏凜の直感が警鐘を鳴らす。信頼する仲間の警告にノータイムで反応した勇者部が後退し、その一瞬後──大地が崩落した。

 

「なんっ……! 見えなかった⁉︎」

 

「早過ぎる、何をしたのかすら見切れなかった……!」

 

 高速戦闘を得意とする夏凜も、狙撃手として優れた視力を持つ美森もまるで捉えられなかったが、やったこと自体は単純だ。曼珠薔薇・紫電は今の一瞬で2万を超える回数ツタを振り抜いて地面を陥没させたのだ。

 

「みんな、距離を取るわよ!」

 

 近づけばツタのラッシュで挽肉にされる。最悪の想像ができてしまった風が後退の指示を出す。全力で距離を取る勇者達を見て、罪爐はどこまでも愉しそうに笑っている。

 

 ──ふむ、良いのか? 長物というのは先端ほどより速く振れる、常識であろうに──

 

 ──ジュッ……という何かが焼け焦げたような音が手元で聞こえた。慌てて目をやると、風の大剣、夏凜の双剣、樹のワイヤーユニット、園子の槍、美森の狙撃銃。狙い澄ました一撃で5人の武器が切断されていた。斬り口には焦げ付いた痕。あまりの速度と威力で焼き付いたらしい。

 

「冗談じゃないわよ……!」

 

 ──どうする? このまま我を退屈させるなら、予定を切り上げて結界を壊すまでだが──

 

 戯れに伸ばした一本のツタ。何の気なしに平然と振るわれた一撃は、あまりにもあっさりと四国結界に風穴を開けた。

 

「結界が⁉︎」

「くっ、全員あの巨大植物に照準!」

 

 ──無駄だ。凡夫に傷つけられるほど我は安くない──

 

 射撃部隊も反応できない速度域の一撃。風斬るツタの一突きが変則狙撃(スナイプ)となって城壁を打ち崩した。

 絶対防衛線をたやすく侵された防人達が反撃の一斉射撃を仕掛けるも、超速のツタが全ての弾を弾き落とす。

 

「まずい……神樹様の影響は⁉︎」

「市民の動揺が大きい。市街地の誘導員を増員、フォローを徹底させろ!」

「中継のメカニズムの解析はどうだ⁉︎」

「まだ50%です!」

「急げ、このまま追い詰められる映像が続けば逆転の芽まで摘み取られる!」

 

 300と余年人類を守り続けたご加護の象徴が、暇潰し感覚で傷つけられた。四国を守るべく戦う一同に走った衝撃は大きい。神樹に与えた影響、市民の精神的動揺、それら全てを管理しなければならない大社──とりわけ司令室は大変な騒ぎとなっていた。

 

(罪爐本人にここまでの戦闘力があるとなると……ここからできることは……)

 

「筆頭巫女様?」

 

「外からしか見えないものがあるかもしれません。あの異形が出現してからの映像を回してください。もう一度見直してみます」

 

 戦場で力を振るうだけが戦いではない。情報を伝える者、市民の対応にあたる者、武器を作る者、敵を探る者。誰もが皆、自分と隣人が当たり前に生きていける未来のためにそれぞれの役目を果たしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──次は、今のを300本同時だ。今の神樹に耐えられるかな?──

 

「くっ……勇者部突撃! とにかく動きを止めないと!」

 

 数秒前の指示を撤回せざるを得ないほどの圧倒的な破壊力。攻撃の規模からこれまでの敵とはまるで違う。攻撃にラグがない分、あのネスト以上に対処に困る相手だ。

 

「素でアレとやり合うのは流石に無理か……しょーがないわね」

 

「夏凜?」

 

「私の満開はここで切るわ。策を練るにしても時間稼ぎができる誰かがいないとダメでしょ」

 

「夏凜さん……それなら私も行きます! 私の満開ならさっきみたいに結界を狙われても止められるかもしれませんし」

 

「ちょっと樹! 夏凜も……」

 

「この先バリア抜きってのはキツいけど、ここを乗り切らなきゃどの道全滅よ。覚悟決めてるんでしょ? 部長」

 

「大丈夫だよ、おねえちゃん。私達、今日まで頑張って訓練したきたもの。ここまで戦い抜いてこれたのは、バリアがあったからってだけじゃない。みんなと一緒に、絶対に諦めなかったからだよ」

 

 後輩と妹の成長に、風はこんな時だというのに嬉しくなってしまった。

 満開は持ってて嬉しいコレクションではない。使うべき時に使うことができる勇気ある者だけに許された、人を超えて人を守る力だ。

 

「頼むわよ樹、夏凜。みんなも気合入れて! まずはあいつの注意を引きつつ攻撃を捌く!」

 

「はいは〜い」

「承知しました」

「よっし、頑張ります!」

 

 無茶で具体性がない、指示とも呼べないスローガンのようなことを叫ぶ風。それでも構わない。彼女は知っているのだ。こんな大雑把な言葉でも、それを信じて実行してしまうのが勇者部の仲間なのだと。

 

 

 

「行くわよ樹!」

「はい、夏凜さん!」

 

 

 

『──満開!──』

 

 

 

 戦場に咲く大輪の花。眩い光と穢れなき白の羽衣を纏った勇者が二人。

 四つ腕それぞれに巨大な剣を携えたサツキの勇者、三好夏凜。

 千を超える糸を束ね操る鳴子百合の勇者、犬吠埼樹。

 万能の防御と引き換えに一度だけ許された切り札を解禁し、曼珠薔薇に挑む。

 

「後ろ、お願い!」

「任せてください!」

 

 満開した夏凜は歴代勇者の中でも最速。そのスピードを生かして前衛で敵を撹乱。そして後衛として攻撃範囲の広さではアギトをも上回る樹の満開が結界を守る。残る勇者達が付かず離れずの距離から遊撃と本体に攻める隙を探るという役割分担だ。

 

 

 

「──せぇりゃぁぁぁぁっ‼︎」

 

 ──ほう、確かに早いな。人間にしては──

 

(なんとか追いつけてるけど、これ本気じゃないわね。嬲り殺そうってわけ? ナメられてる……ナメられても尚埋められない力の差がある!)

 

 視界を覆い尽くすほどの物量を誇る音速のツタ。その全てを振り切り、断ち切り、削り取っていく夏凜。しかしそれは傍から見るよりはるかにギリギリの綱渡りだった。

なにせ一撃で結界を貫いたのだ。掠めただけでも大ダメージは確定。その上一瞬でも足が止まればタコ殴りされて終わる。太刀が一本のツタを斬り落とすまでに、夏凜はそれ以上に体力と精神力を削り取られていた。

 しかも曼珠薔薇には再生能力もある。本体はともかく、ツタの先端程度ならどれたけ落とされても数秒で元に戻せてしまう。

 

 ──そぅら、後ろの者共も退屈はさせんぞ?──

 

「くっ、止まって!」

 

 夏凜を弄ぶ片手間で結界にもツタを伸ばす曼珠薔薇。その総数300本。樹は満開で得た物量と制御能力をフルに活かして全ての攻撃を縫いとめてみせた。

 

 ──単純な突撃思考の集まりかと思えば、小器用な者もいるではないか……だが、小兵の力で我と綱引きができるか?──

 

「うぅっ!──まけ、ない……絶対に、負けないんだから!」

 

 ツタを絡めとることはできても、力で押さえ込むには樹は小さく力も弱い。これまでにも何度か糸を引き寄せられて体勢を崩してきた経験があり、本人も弱点だと理解していた。

 

(だから頑張ってきたんだ……短い時間だったけど、生まれて初めて身体を鍛えた!)

 

 その弱点を克服するために、決戦までの訓練期間を使って樹は夏凜に師事して筋力トレーニングに励んできた。

 生身なら陸人とも張り合えるという人外一歩手前まで至った夏凜のトレーニングだ。半年前まで一般人の中でも貧弱な部類だった樹には過酷すぎる。

 

「夏凜さん曰く、無理だと思える内はまだやれる!」

 

 罪爐側に傾きつつあった綱引きの趨勢が変わる。両者の武器が動きを止め、完全に互角に引き合っているのだ。

 もちろんたった数日のトレーニングで目に見える強化など見込めない。それでも筋トレマニアの夏凜が樹を鍛えたのは、その心を強くするためだ。

 勇者の強さは心の強さ。昨日の自分にはできなかった過酷なメニューを今日の自分はやり遂げられた。そうした経験が自信へと繋がり、元々根性という強固な柱で支えられていた樹の精神に、外側から補強する"自信"という要素が加わる。今の樹は、山一つ分の巨大な敵とだって真正面から力比べができるほどの勇気を持つ者だ。

 

(私がこうして粘れば、その間に夏凜さんが……)

 

「ナイス根性! さすが私の弟子ね、樹!」

 

 樹に足気が向いた一瞬の隙に、夏凜が本体を守るツタの一部を斬り捨てた。少しずつ、それでも確かに、人は罪爐に追い付きつつあった。

 

 ──小癪な、どいつもこいつも雑兵の分際で──

 

「ハッ、物を知らないわね……雑兵なんて名前の命は存在しないのよ! 樹、言ってやんなさい!」

 

「はい! 私は犬吠埼樹、この人は三好夏凜さん! 私達は、あなたに勝って日常を取り戻す……勇者です!」

 

 力で対抗し、言葉で翻弄する。圧倒的格下として視界にも入れていなかった存在の思わぬ粘りにイラついた罪爐は2人の思惑に乗ってしまう。

 曼珠薔薇出現から20分。弱点を見つけるには十分な時間が過ぎていた。

 

 

 

 

『友奈様、皆様、聞いてください』

 

 距離を開ければ四国が危険。かといってミドルレンジにも入りきれず、向こうだけが一方的に攻撃を届けられる最悪の間合いに縫い止められてしまった勇者部のもとに、筆頭巫女の声が届いた。

 

『一撃。一撃でいいのです。友奈様の手が届けば、最低でもあの巨体を維持できなくなる程度の損傷は期待できます』

 

「私の、ってことは……」

 

『はい、天の逆手です。アレは罪爐のような悪性を滅ぼすための概念武装の一種。本人にも間違いなく効くはずです』

 

「でもさっきは神樹様の四国結界を壊したのよ? そのへんの弱点を克服したのかも」

 

『いえ、それはありません。この眼で確認しましたから。罪爐が朽ちた触手を切り離すのを』

 

 映像で全体像を確認できたかぐやだから気づけた一瞬。膨大なツタを同時に操ることで誤魔化したようだったが、結界を貫いた一本だけが急速に風化して朽ち果てていった。常世の悪意を煮詰めたような存在である罪爐には、神樹を直接害することだけはどうあっても不可能。

 嵐のような乱撃の最中に使えなくなった部分を斬り落とした決定的な瞬間を、かぐやだけは見逃さなかった。

 

『罪爐が一度敗れたあの薔薇をなぜ強化してまで再び持ち出したのか。何故自身を取り込ませたのか。何故速度に特化させたのか。何故大仰に結界を狙うようなパフォーマンスに出たのか。

 全ては罪爐が恐れているからです。己の存在を絶対的に否定する力……天の逆手を』

 

 この世の一切を等しく見下している罪爐が曼珠薔薇に妙に拘るのは、大きく力強いその姿に頼もしさを感じているから。

 その中に取り込まれたのは、自身を守る鎧が欲しかったから。

 ツタの速度を強化したのは、天敵である友奈を間合いに入れたくなかったから。

 無理を承知で結界を狙ったのは、敵方の焦燥を煽って冷静さを奪いたかったから。

 

「何よそれ……つまりあんな偉そうに踏ん反り返ってたアイツは……」

 

『はい。端的に表現すれば、友奈様に怯えていたのです。一度触れるだけで自身を滅ぼし得る天敵、桜の勇者に』

 

 落ち着いて考えればすぐに辿り着く簡単な答え。天の逆手という特攻兵器の存在から人類側の意識を逸らすために、罪爐は笑みの裏で必死に策を巡らせていたのだ。

 

「ハハッ、さすがは筆頭巫女様。今の話だけで随分気が楽になったわ」

 

「さすがかーやんだよ〜。それじゃ、次は私達がひと頑張りする番だね〜」

 

「行きましょう、友奈ちゃん!」

 

「うん! 罪爐は、ここで私達が倒すよ!」

 

 勇者部が動く。友奈、風、夏凜が前衛として前へ。美森、樹、園子が後衛として後ろへ。それぞれの能力を活かせる最高のフォーメーション。それを使ったということは、勝機が見えたということだ。

 

 

 ──なんだ? 次はどんな悪あがきを見せてくれるのだ?──

 

「あーあーめんどくさいわね。もういいわよ、余裕あるフリは。逆に惨めよ? 今のアンタ」

 

「アンタが友奈の拳にビビってんのは分かってんのよ。思春期のガキじゃないんだから、いちいちマウント取りに来るのはやめなさいよ!」

 

「それだけの力を持ち、あれだけの罪を侵しながら、消滅の恐怖に震えている。あなたは救えない、救いようがないわ……救う気もまったくないけれど」

 

 ──なんだと?──

 

「くっ、悔しかったらその花の怪物から出てくればいいじゃないですか! でっかいのの中に引きこもらなきゃ戦えないなんて、ここにいる誰よりも臆病な証ですよ!」

 

「う〜ん、あなたはもっとどっしり構えた大物なんだと思ってたけど、ちょっとがっかりかな〜……全ての元凶がこれじゃお話が盛り上がらないよ」

 

「勝機はこの手にある。私達はあなたがどんな力を示しても恐れないよ。卑怯な手を使わなきゃここに立てないあなたには!」

 

 心根が優しい彼女達らしからぬ罵倒の数々。あからさま過ぎる挑発だったが、その全てが的確に図星を突いてくるせいで罪爐はそれを聞き流せない。ずっと恐れられるか崇められるかの二択しかなかった罪爐の対人経験において、こうまでコケにされたのは初めてだった。

 

 ──良かろう。余程愉快で物珍しい形の死体になりたいらしいな!──

 

 罪爐の激情を示すように、薔薇の触手が一瞬で倍に増えた。数える気も起きない一切攻撃が勇者部を襲う。

 

「行きましょう、みんな」

 

「あいつを倒せる拳を友奈が持ってるなら……」

 

「敵の触手を全て叩き落として……」

 

「友奈さんを本体まで届ければ!」

 

「ゆーゆなら、絶対にやってくれる……!」

 

「みんなお願い、力を貸して!」

 

 彼女達は恐れない。怯えながら両腕を振り回すしかできない駄々っ子相手に、臆している暇などないのだから。

 

 

 

「ここが気張りどころよ、勇者部────‼︎」

 

『────ファイトォォォォォッ‼︎』

 

 

 

 

 

 ──愚かな。正面突破だと?──

 

 友奈と夏凜の2人が本体に突撃。馬鹿正直かつ無防備に、真正面から一直線。当然迎撃は彼女達に集中するが──

 

()()()()()()、ひと〜つ!」

 

 逆に狙いを絞り過ぎて数の利をまるで活かせていない。一箇所に纏まったツタを伐採せんと長槍が伸びる。

 

 

「──挨拶は〜、きちんと〜‼︎」

 

 

 柄も穂先も最大限伸ばしきった園子の槍が、倒れ込むように纏まったツタを切断。本体を覆い隠していた防壁が破られた。

 

 

 ──舐めるな、斬り落とした程度で──

 

 切断面が蠢き、散ったはずのツタが再度友奈を狙う。しかしそんな所業を、友奈大好きスナイパーが見過ごすはずもない。

 

「勇者部六箇条、ひとつ……!」

 

 狙撃銃と散弾銃を同時に構えた美森が、全ての残骸に照準を定めた。狙い撃ちと早撃ちの両方を突き詰めた今の彼女に、捉えられないものはない。

 

 

「──なるべく諦めない!」

 

 

 斬り落とされたまま有機的に動いていた残骸をひとつ残らず撃ち落とす。青い閃光に呑まれたツタは跡形もなく焼き消えた。

 

 

 

 ──まだだ、我に届くにはまだ足りんぞ──

 

 全身を続ける2人を包み込むように全方位からツタが迫る。逃げ場を失った彼女達に、緑色の鋼糸が救いをもたらす。

 

「勇者部六箇条、ひとつ……!」

 

 ツタよりも細く柔軟な糸が、クモの巣のように編み込まれて敵の攻撃をシャットアウトする。器用に形作られたネットが、敵の妨害と同時に2人の足場も形成していた。

 

 

「よく寝て、よく食べる!」

 

 

 糸を編んで作ったジャンプ台を踏んで、友奈と夏凜が天高く舞い上がる。接近を拒む罪爐の迎撃を掻い潜り、少しずつ確実に間合いを詰めていく。

 

 

 

 

 

 ──ええい、羽虫がチョコマカと鬱陶しい!──

 

 余裕が無くなってきた罪爐が、鎧のように本体に絡みついていたツタまでも迎撃に回してきた。

 

「勇者部六箇条、ひとーつ!」

 

 その全てを夏凜が片っ端から斬り払う。アーム二本で友奈を確保し、残る二本と自身の両腕の四刀流で数百の打撃全てに対応する神業。剣の速さ、動きの速さ、判断の速さ。今の夏凜はあらゆる速度が人間に許された域を大幅に超過していた。

 

 

「──悩んだら、相談っ‼︎」

 

 

 満開で得た巨腕を盾に、ツタの囲いを突破した夏凜。破壊されたアームの奥には未だ無傷の友奈がいた。

 

「友奈、アンタならやれる!」

 

「ありがとう、夏凜ちゃん!」

 

「──行ってこい‼︎」

 

「行ってきます‼︎」

 

 ようやく本体までのルートが拓けた。全力で投げ込まれた友奈が、弾丸のような勢いで突撃。自分の間合いまで踏み込む、その一歩手前で──

 

 ──勢いだけで我に勝てると思うな!──

 

 大地を突き破って現れた大量の触手。保険として仕込んでいた最終防壁が友奈に迫る。空中で身動きできない友奈は四肢を捕らえられてしまう。

 

 ──人間にしてはよくやった方だが、それもここまでだ。楽に死ねるとは──

 

「やっぱり焦ってる? 私にも奥の手があること、あなたが見逃すなんてね──満開っ‼︎」

 

 桜の波濤が迸り、友奈を拘束していた触手が消滅した。全ての能力が10倍増、しかも友奈には属性上の優位がある。対罪爐に関しては一回限りの無敵状態と言ってもいい満開の使い所を、友奈はここだと見極めた。

 最後の囲いを突破し、とうとう拳の間合いまで詰め寄った友奈。これで決まると、全員が確信した瞬間だった。

 

 ──認めぬ、我が人間に劣るなどと‼︎──

 

 罪爐の消滅への強い恐怖。翻せば存在への強い執着が、土壇場で曼珠薔薇に新たな進化をもたらした。人間でいう頭部にある巨大な花弁が大きく広がり、開いた空間に莫大なエネルギーが収束していく。数ヶ月前の地獄のような死闘を覚えている勇者部は、肌で感じるプレッシャーからその正体を一瞬で把握した。

 

「あれは、まさか……!」

「ネストに仕掛けられてた大砲⁉︎」

 

 四国結界に巨大な風穴を開けた破界砲。罪爐の記憶の中で最も高い攻撃力を誇る破壊の象徴。罪爐自身も仕込んでいない超兵器が、自己進化の果てに突如現出した。友奈との距離が0に近い、この最悪のタイミングで。

 

 ──消えろ、我を害すモノは全て!──

 

「──させるかってーのぉ‼︎」

 

 防御不能な超威力の砲撃が回避不能な零距離で発射される、その寸前。巨大な砲口に蓋をするように大きな影が割り込んできた。風が限界まで巨大化させた大剣だ。発射を塞がれて砲口内部で炸裂する砲撃。世界を脅かす威力の全てが、風の大剣に注がれる。

 

(ただ満開しただけじゃ、これは防げない……満開で全体の強化に回されるエネルギーを全て、武器と私の両腕に!)

 

 満開ゲージの光がひとつずつ散り、それに比例して風の力が増していく。彼女の満開は全体をバランスよく強化したオールラウンダータイプ。それぞれ尖った強化が目立つ他の面々と比べると些か物足りない印象も受ける。

 

「勇者部六箇条、ひとつ‼︎」

 

 しかし言い換えれば、特化した進化など必要ないということでもある。犬吠埼風は満開に頼らずとも既に完成された実力を持った、勇者部の頼れるリーダーだ。

 

 

「なせば大抵……なんとかなぁぁぁぁるっ‼︎」

 

 

 破界砲を真正面から打ち返した風。勇者システムの理論上あり得ないことだが、風の大剣は瞬間的に四国結界を上回る防御力を示していた。風の努力と根性と勇気と、あとは女子力がなし得た奇跡なのかもしれない。

 

 

 

 

 

「ここで決める!」

 

 ──我はまだ負けてはおらぬ!──

 

 棚ぼたで得たチャンスも失った罪爐は、それでも悪足掻きをやめない。自分を守る鎧としてアテにしていた曼珠薔薇から抜け出し、巨体を挟んで友奈の反対側に逃走した。薔薇の巨体を盾に天の逆手をやり過ごして、その隙に離脱しようという往生際の悪さ。流石の友奈も怒りや苛立ちがピークに達していた。

 

(逃さない、絶対に!)

 

 突きの構えを解いて、右腕全体を後ろに大きく振りかぶる。満開の巨大アームも全関節を開き、限界までそのリーチを伸ばしていく。

 

「勇者ぁぁぁ……!」

 

「なんだ、あの構えは……⁉︎」

 

 友奈といえば勇者パンチ。敵も味方もその認識で共通していたし、現に彼女はここ1番の決め手として常に拳を選択してきた。

 だからこそ用心深い罪爐でさえも見逃した。手を届かせるだけなら、なにもパンチである必要はないという事実を。

 

 

 

「────ビンタァァァッ‼︎」

 

「なんっ──がぁぁぁぁっ‼︎⁉︎‼︎⁉︎」

 

 

 

 薔薇の横を回り込む軌道で伸びる横薙ぎの掌底──パーの形に開いた巨大アームを叩きつける勇者ビンタが、罪爐の頭部に炸裂した。天敵の力に接触したことで、ボロボロと崩れ落ちながら真横にふっ飛んでいく。

 主が重傷を負ったことで、曼珠薔薇もまたその力を失って消滅。四国を脅かした巨大すぎる脅威は消え去った。

 

 

 

 

「ぐぅ……まだだ、ここを離脱すれば存在の補充はいくらでも……!」

 

 身体の半分が崩れ落ちていたが、それでも罪爐はまだ動ける。もともと存在としての"個"を持たない罪爐は、陣地に戻れば存在の力を無限に充填できる。この世に蔓延る悪感情など、それこそ吐いて捨てるだけ充満しているのだから。

 

「させないわよ……勇者部突撃ぃ!」

 

『了解っ‼︎』

 

 友奈が構えを変えた瞬間、その意図に気付いて動き出した勇者部がボロボロの罪爐に組みついて動きを封じる。樹が地面から糸を使って両足を捕らえ、園子が右腕、風が左腕、美森が胴体で夏凜が首。

 動き出しの起点を全て抑えられた罪爐は、これで逃走の術も失った。

 

「馬鹿な、貴様ら……何故⁉︎」

 

「あなたと違って、私達は戦闘以外でも仲間と共にある……友奈ちゃんが何をするかなんてすぐに分かるのよ!」

 

 友奈のビンタは完全なアドリブだ。それでも彼女達は即座に合わせて、罪爐の着地点に先回りしていた。全ては絆の為せる業。人間にあって罪爐にない、勇者部最強の武器だ。

 

 

 

(もう一度……今度こそ!)

 

 身動きできない罪爐に再度突貫する友奈。その拳は強く握られ、かつてない程に眩い桜色の光を纏っていた。

 

「あり得ぬ、認めぬ、許さぬ……我は全てを侵し全てを操る、絶対の──」

「勇者部六箇条、もうひとつ‼︎」

 

 創部時にみんなで決めた勇者部五箇条。つい先日、陸人以外のメンバーでの活動の際にもうひとつ項目が追加されていた。

 不幸を減らすことと幸せになることの区別がついていない、面倒なヒーローのために内緒で増えた約束。

 

「無理せず自分も幸せであること‼︎ そのために、あなたを倒す!」

 

 陸人が自分の幸せと向き合うためには、理不尽な不幸がない世界にしなくてはならない。諸悪の根源(罪爐)がいない世界にしなくてはならない。六箇条目は、そんな勇者部の決意の表れでもあった。

 

 

 

「こんなところで、この我が……そんなはずが──‼︎」

 

 

 

「勇者ぁぁぁ……パァァァンチッ‼︎」

 

 

 

 悪を許さず、穢れを滅ぼす勇者の拳。闇を切り裂き光をもたらす勇者パンチが、常世にこびりついた醜悪な呪いをカケラも残さず掻き消した。

 大きく吹き飛ぶバルバの肉体から叩き出された黒い瘴気は、どこに逃げることもできず溶けるように消失していった。

 

 

 

 

 

 

 

「──ッ! 罪爐の反応、消滅‼︎」

 

 その一報は、限界まで疲弊していた司令室の士気を一気に頂点まで引き上げた。

 

「よっしゃあああっ、さすが勇者様だ!」

「敵の首魁を打ち倒した、これは大きい戦果だぞ!」

「全体に通達、市民にも伝えるんだ!」

 

「……ふぅ……」

 

「やりましたね、筆頭巫女様!」

 

「ええ。ですが敵はまだ全滅したわけではありません。引き続き各々の役目を果たしてください」

 

「了解です! でもこれで確かな光明が見えましたよ!」

 

(どうでしょうね……私の感覚では、世界を蝕む嫌な気は些かも減ってはいない。いえ、それ以上にあの罪爐の行動には違和感がある)

 

 何故あそこまで露骨に天の逆手を恐れていながら、自ら前線に出てきたのか。弱点が戦場で健在と分かっていて挑む合理的な理由がない。そして敵の首魁が滅んでも、敵陣営にはほとんど動揺が見られない。

 ここまであっさりしていると、()()()()()()()()()()()()()()()()すら怪しく思えてしまう。

 

(いえ、これ以上はここで考えても詮無いこと。目の前の戦況に集中しましょう)

 

 そう言い聞かせながらも、器用で優秀なかぐやの頭脳は片隅で別のことを考えていた。特別誂えの好相性の肉体(ラ・バルバ・デ)よりも安全な隠れ蓑があるとすれば、それはいったい何処なのかと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぅ……わたし、は……」

 

「あれっ? 起きちゃった」

 

 罪爐に駆体として利用されたラ・バルバ・デが目を覚ました。倒したはずの相手が動き出したことに警戒心を露わにする勇者部。しかし意外なことに、彼女は力の抜けた笑みを浮かべただけだった。

 

「そうか……今際の際に自我が戻ったか。数奇な話だ」

 

「えっと、あなたは……?」

 

「……呼び名が欲しければバルバで構わん。お前達に分かりやすく言えば、ガドルと同族。人間殺しの化物だ」

 

 これまで身体の制御こそ奪い返せなかったが、香やガドルと同様に本来の魂は宿っていた。これまでの経緯も見ているし、同胞の最後も把握している。

 

「バルバさん……私は結城友奈っていいます。バルバさんは、私達と戦うつもりとかあったりしますか?」

 

 "バルバさん"などと砕けた呼称をしておきながら、妙に遠慮気味に問いかけてきた友奈。戦闘中の彼女とのギャップが可笑しくて、バルバは珍しく本心から笑ってしまった。

 

「フフッ……いや、心配するな。私にお前達を害する理由はない上に、もうこの身体は限界だ。私にできることは何もない」

 

 そう言って笑うバルバの左耳が、水に濡れた粘土細工のようにポロリと落ちた。ヒビ割れは身体全体に広がり、崩壊はもう止められない。

 

「ごめんなさい、私のせいで……」

 

「何を謝る? お前は世界の敵を倒しただけのこと。それに聞いていただろう? 私とて数えきれない命を奪ってきた存在だと」

 

「それは……嘘じゃないんだとは思います。でも私は、バルバさんが酷いことをしたのを見てないし聞いたこともない。だから少なくとも、今の私にとってはバルバさんも被害者のひとりなんです」

 

 友奈もこの発言が正しいものではないと理解している。それでも、眠りについていたところを無理やり身体を奪われて非道の限りを尽くす羽目になった。そんな相手をただ敵だと断ずることはできない。

 

「やはり面白いな、結城友奈。あのガドルが気に入るわけだ」

 

「え……?」

 

「そこまで罪の意識があるというなら、遺産のつもりでこれを受け取っておけ。私だけが持つ唯一無二の品だ、壊すなよ」

 

 ずっと付けていた独特の形状の指輪を外す。牙のように鋭く尖った装飾品。人間と違う文化を感じさせる造形だ。

 

「これは……?」

 

「もし必要になれば自ずと使い方が分かるよう、指輪に仕込んでおいた。それを使うことを運命が選んだなら、何もせずともその機会が訪れるだろう……転ばぬ先の杖、程度に考えて持っておけ」

 

 あまりにも抽象的すぎる言葉。しかしバルバはそれ以上説明する気はないらしい。首を傾げながら、とりあえず友奈は手を伸ばして指輪を受け取る。触れ合う瞬間、2人の手がほんの数秒だけ握手のような形で交わる。

 

「あれ? えっ、と……」

 

「忘れるな。手とはただの武器にあらず。形を作り、絆を結び、想いを繋げる万能の力だ。この指輪がその一助になることを期待して……お別れだ」

 

古代の生命と現代の生命。怪人と勇者。女と女。運命の気紛れで一時だけ交差した2人の道は、握手した手と同時に離れていく。

 

「ガドルと共に、向こうで楽しませてもらうぞ……お前達と罪爐の、未来を賭けたゲゲルの行く末をな」

 

 バルバの身体が光に包まれて消滅する。閃光が晴れた先には、赤い薔薇の花弁だけが散っていた。

 未知を探求し、闘争を率いた怪人、ラ・バルバ・デ。彼女の2度目は悪意に振り回され続けながらも、最後には面白い未知に出会えた……悪くない形の幕引きとなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 エルロードとアギトの戦場。水中戦に移行して十数分。陸人はようやく形勢逆転の手を見出していた。

 

「溺レ死ヌ覚悟ハ出来タカ?」

 

(パターンは読めた……あとは!)

 

 テリトリーである水中で一方的に攻め立てる白のエル。しかし優位に立ったせいで警戒心が薄れ、攻撃が単調になっていた。アギトは動きを読み切り、接触の瞬間に両腕を捕らえた。

 

「……何……⁉︎」

 

「ここからだ……!」

 

「チッ、不味イ……戻レ!」

 

 バーニングフォームの溢れる豪炎を全開放。周囲の水を一気に加熱する。火山噴火級のエネルギーを受けた湖の水分が、一瞬で蒸発して干上がった。

 あまりにも莫大な質量変化。その影響は並大抵の衝撃では収まらない。アギトは自分で起こした水蒸気爆発に吹き飛ばされて相当なダメージを受けてしまった。

 

「しくじったか……」

 

「良イ手ダッタガ、此方ハ一人デハ無イノデナ」

 

 風のエルの能力によって、白のエルは寸前で湖から転移。地のエルが構築した盾によって爆発の威力を完全に受け流していた。窮地からは脱したが、結果としては大仰な自滅となってしまった。

 

「如何ニアギトト言エド、孤立サセレバコノ程度カ」

 

「モウ良カロウ。他モアル、片付ケルゾ」

 

(クソ、さっきの衝撃で足が……)

 

 絶体絶命の状況。それでも陸人は諦めない。諦念からは何も生まれないと知っているから。諦めずに足掻き続けた結果の今があるから。

 

 

 

 

「だったら……一人じゃなければいいんだろう?」

 

「数揃えなきゃケンカもできねえ卑怯者が、調子に乗ってんじゃねえぞオラァ‼︎」

 

 

 

 

 

 舞い降りた2人の戦士。

 仮面ライダーギルス、篠原鋼也。

 仮面ライダーG3-X、国土志雄。

 共に陸人が救い、陸人を助けた同じ称号を背負う仲間。

 

「鋼也、志雄……」

 

「オイオイ大丈夫かよ陸人。フラッフラじゃねーか」

 

「遅くなってすまない。だが、これで条件は同じだ」

 

 助けられたから助けたい。救った誰かに救われる。

 そうした努力と献身が、他者を救い続けた事実が、人の縁として今日の陸人を助けてくれる。因果とはそうして巡っていく。

 

「悪いが、ちょっと手詰まりでな。助けてくれるか?」

 

「おうよ、そのために来たんだ」

 

「陸人が示してきたことじゃないか……ライダーは助け合い、だろ?」

 

 その字面から誤解されがちな"情けは人の為ならず"の本来の意味を、陸人と仲間達はその生き様で体現している。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




めっちゃ長引いた……そして当然のようにGシリーズ出てこなかった。

感想、評価等よろしくお願いします。

次回もお楽しみに


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