A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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ずっと描きたいと願っていた展開がついに……⁉︎的な回です。


鳥籠の少年

 風を切り、大地が砕ける。ギルスと地のエルの戦場は、一進一退の刃のぶつかり合いが続いていた。

 

「どうした? こんなもんかよ!」

 

「ギルス……貴様ダケハ私ノ手デ潰ス。『地』ヲ冠スル"エルロード"トシテ、ソレダケハ譲レン!」

 

 地のエルの剣が、燃え盛る大地を斬りつける。方陣を描くように足元に刻まれた傷が光を放ち、地面が強く脈動する。

 地盤が隆起し、砂塵がエルロードを包み込むように収束していく。大きすぎる蟻地獄を作るように地形が変動し、その中心に40m級の巨人が佇んでいた。

 

「オイオイ……なんの冗談だぁ?」

 

『大地ハ生命ノ母……器ナド幾ラデモ大キク作レル』

 

 地のエルをそのままスケールアップした容姿。周囲の地盤を破壊、結合して組み直した巨人の体躯。岩石や鉱物を圧縮した堅固な装甲と、大きな身体に溢れるパワー。剣を振るだけで暴風が吹き荒れる。

 怪人から超獣へと進化を果たした地のエル……改め大地のエル。ギルスを片手で握り潰せるほどのサイズ差が発生してしまった。

 

『潰ス……覚悟ハ良イナ』

 

「──ったく、インチキ野郎め。怪獣映画じゃねーんだぞ!」

 

 巨体でありながら従来の身のこなしは健在。横薙ぎの一閃が大地を裂き、岩盤をめくり上がらせた。間一髪跳び上がって回避したギルスも、嵐のような破壊の波に呑まれて吹き飛んでいく。

 

(パワー馬鹿かよ、まともに相手してたら粉々だな……)

 

 サイズ差は人と羽虫に近い。相手の間合いでは踏み潰されるのが見えている。スティンガーを巻き付けて間合いの内側……大きな両腕が回らない至近距離に踏み込めば、一方的に攻めに回ることもできるかもしれない。

 

『ソウ、貴様ノ勝チ筋ハ其レシカ無イ……故ニ!』

「──んだとっ⁉︎」

 

 地面が隆起、極太の大地の剣が立ち昇り、スティンガーを半ばから両断した。リフトのように空中を移動していたギルスは支えを失い急速落下。更にその真下からニ撃目が迫っていた。

 

「うおおおおっ⁉︎」

 

『ヨク逃ゲル……羽虫ソノモノダナ』

 

 飛んできた剣の腹に足を着いて反転、軽業師の如く空を跳ね回って攻撃を避けた。人間ではまず不可能なアクロバットで追撃を避け続けるギルス。絶え間なく大地から剣が飛び、大地のエルも刃を振るう。

 

(ハエ叩きに追っかけ回される気持ちを理解できる日が来るとはな。笑えねえ……!)

 

 一撃喰らえば文字通りペシャンコにされる。プレッシャーが少しずつギルスの精神を追い詰め、徐々に距離も詰めていく。

 

『捉エタゾ!』

 

「クッソが……!」

 

 とうとう完全に無防備を晒したギルス、その頭上に剣が落ちてくる。膨大な質量が直撃する、その刹那──

 

 

 

 

「──鋼也ぁぁぁっ‼︎」

 

 剣の腹にミサイルが直撃、爆風で太刀筋が大きく逸れてギルスは九死に一生を得た。乱入者──G4-Bは空を翔け、ギルスを拾い上げて着地した。

 

「危なかったな、鋼也!」

 

「お前……銀か。なんだよそのカッコ」

 

「へへっ、鋼也を助けるために貰った力だよ。やっぱお前はアタシがいないとダメだな〜」

 

「……へっ、うるせーよ」

 

 画面越しで表情が見えずとも、一言交わせばそれで足りる。鋼也が銀との未来のために戦っていることも、銀が鋼也のためにここまで来たことも互いに理解している。

 

『来タカ、赤ノ勇者。いや……元・赤ノ勇者カ』

 

 ギガントで破壊された剣の刃が、みるみる再生していく。地の天使はケイ素をはじめとする大地の構成要素全てを操る能力を持っている。地球上において、単純な力技ででこの巨体を壊し切るのは不可能に近い。

 

「暫く見ない間に大きくなってくれちゃって……育ち盛りの弟達でもここまでじゃないぞ」

 

「やめろバカ。金太郎で想像したら鳥肌立ったろうが」

 

 ギガントの残弾は残り3発。巨体を削り切るには足りず、再生速度を上回るにはもっと足りない。今の大地のエルを倒そうとするのは、自分が足をつけている母なる大地そのものを敵に回すのと大差はない。

 

「だがまあ、やることは2年前と同じだ……ここから先には、行かせない!」

 

「俺達が揃えば負けはねえ……ここからは、ライダーの時間だ!」

 

 それでも2人に敗北のビジョンはない。一番守りたい存在であり、戦う理由でもある相棒が隣にいる。その事実が、2人の心を奮い立たせる。

 

 

 

 

 

 

『踊レ、我ガ掌ノ上デ!』

 

 大地のエルが足元に剣を突き立て、方陣が周辺数十kmまで広がっていく。陣の光が大地に溶け込み、地面が蛇のように蠢き出した。

 

「うおああっ⁉︎ 何だコレ、地面が暴れてる?」

「ざけんな……! 走るどころか、立ってらんねえぞ」

 

 隆起と陥没を繰り返し、波打つように足元が流動的に変形し続ける。地盤に飲み込まれないように逃げるので精一杯。更に不意を突くように剣が飛び、2人の体力と神経を削り取っていく。

 

「チッ……銀、ソレ飛べんだろ! 上下から攻めるぞ」

 

「えっ……あ〜、了解!」

 

 なにかを言い淀んだ銀が躊躇いながら空を舞う。その軌道は見るからに頼りなく、右へ左へとフラフラ重心をずらして流れていく。

 

「──っておい! なにやってんだ銀⁉︎」

 

「しょうがないだろ、飛行訓練なんか受けてないんだから!」

 

 速度もまるで出ていない上に、無防備に大地のエルの目前に飛んでいくG4-B。間違いなく飛行の制御ができていなかった。

 そもそもパワードスーツによる単独飛行は傍目よりもずっと難易度が高い。全体のフォルムが生身に近いため、繊細な重心操作とスラスター制御を両立させなければ望んだようには動けない。

 志雄もG3-Xの基礎設計が完成する以前から、先々の展望として飛行システムの制御訓練をみっちり重ねてなんとか形になっているのだ。アドリブに強い銀ではあるが、流石にこれは無茶振りが過ぎた。

 

『ドウシタ? 空ハ不慣レカ?』

 

「うおおおっ⁉︎ あっぶな!」

 

 虫を払うように振るわれた左腕がG4-Bを掠める。たったそれだけのことで暴風に煽られ、まともに飛べない銀は墜落していった。

 

「銀っ!」

「大丈夫……でもゴメン、飛ぶのは厳しそうだ」

 

 背中から落ちた結果、G4-Bの背部スラスターは中破。飛行機能はほぼ失われた。ここからは敵のテリトリーである地上で立ち回るしかない。

 

「クソが……走れ銀、止まってると落ちるぞ!」

 

 地震、地割れ、大地の剣、陥没と、足場が次々に形を変えていく異常事態。()()()()()()()には、非常に動きづらい環境に立たされていた。

 

「鋼也、後ろっ!」

「っ! ヤベッ──!」

 

 大地のエルが蹴り上げた土石が、崖崩れのようになってギルスに迫る。視界全てを覆い尽くす波に呑まれて消えていった。

 

「鋼也! 鋼也ぁぁぁっ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(……いってぇ、なんなんだよあのデタラメ……卑怯とかいうレベルを超えてるだろ)

 

 上下も分からぬ暗闇の中、全身が軋む痛みで鋼也は目覚めた。完全に土石流に流されたらしく、身動き一つ取れなくなっている。

 

(落ち着け……まずはここから抜け出す、そのために……俺にあるのはギルスの力。考えろ、この力には何ができる? 俺がこれまで引き出してきた力と、まだ眠っている力、全てを使って……)

 

 思い出すのは、かつての師との激闘。自分達と敵対したように偽って、未来への希望を掴み取ろうとしていたもう1人のアギト。彼は戦いの中でも、教え子である鋼也達に何かを伝えようとはしていなかったか。

 

 ──動きに無駄が多すぎる。敵を翻弄する狙いもあるのだろうが、その速度を見切れる相手には何の意味もない──

 

 ──そういうところが…… 詰めが甘いというのだ、若造が!──

 

 そうだ。拳を交えながら、敵対する相手を教え導こうとする彼との戦いで、ギルスは新たな段階に足を踏み入れていた。

 

(部分的に肉体の組成を変質させる、なんて小さな使い方じゃ足りねえ。必要なのは、今この戦場に最適化されたギルスの力……)

 

 ──篠原……ギルスの力は、まだまだ進化の余地がある……全てはお前の心次第だ──

 

 ギルスはアギトの資格者が何らかのイレギュラーを経て覚醒した際にしか発現しない、極めて希少な超越者だ。その力はあまりに不安定で、時に資格者本人にさえ牙を剥く。

 しかしそれでも、無限に進化するアギトと同様、資格者の意志に沿ってどこまでだって強くなれる。仮面ライダーギルスに限界はない。それこそ、篠原鋼也が自分を諦めない限りは。

 

(やれるはずだ……俺に、仮面ライダーの資格があるのなら!)

 

 諦めるな、漢の意地を貫き通せ。

 それが篠原鋼也の選んだ道、仮面ライダーを名乗ると決めた少年の生き様だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鋼也……そんな、鋼也!」

 

『先ズ一人……次ハ貴様ダ。並ベテ眠ラセテヤル』

 

 G4-Bに向けられた剣。それが振り上げられた直後、ギルスが埋まった大地が爆散し、一つの影が空に跳ねた。

 

 

 

「──勝手に殺してんじゃねえぞ……このクソ野郎がぁぁぁっ‼︎」

 

 

 そのフォルムは異様の一言に尽きた。背は曲がり、両脚は縮み、シルエットは四足歩行の獣そのもの。高速で蠢くスティンガーが翼のように広がり、野性的な咆哮をあげるその姿は、ゲーム等でお馴染みの空想生物──ドラゴンを思わせる獰猛さがあった。

 

『エクシードギルス・ワイルドブラッド』

 

 どんな足場でも踏破できる四足歩行。

 突発的な足元からの攻撃にも対処できる敏捷性。

 身体を縮めた上で多数のスティンガーを伸ばし、空中でも軽やかに動ける運動性。

 

 最悪の状況に最適な進化を。鋼也がギルスの本質を掴んで手に入れた、人の姿を超越した新しいギルスの姿だ。

 

「行くぞ、オラァッ‼︎」

 

 まさに獣といった動きで駆け抜ける野性の王(ワイルドブラッド)。力強い4本の足が、流動的な地面をしっかりと踏みしめて前進していく。

 

『ギルス、マサカコノヨウナ進化ヲ……!』

 

 大地のトラップが次々と差し向けられ、その全てを踏み越えてギルスは突き進む。8本に増えたスティンガーが、大地のエルの両腕を巻き止めた。

 

「噛み付いてやるさ、何度でも……俺達はちっぽけでも、絶対に諦めない生き物なんだよ!」

 

 ついに至近距離まで詰め寄ったギルスが真っ直ぐ飛び掛かる。喉笛に一直線で突っ込み、その牙で首筋に噛み付いて大きく削り取った。

 

『グ……ム……!』

 

「やっぱ中のお前自身にもダメージがいくんだな! まあ、そうでもなきゃあんなデタラメは成立しねえだろうが」

 

 身体が大きいせいで、多少の手傷では止まらない。

 しかし身体が大きいせいで、小さな的に狙いを絞りづらいのも事実。

 

「銀、来い! 2人で行くぞ」

 

「おうよ!」

 

 着地したギルスの背にG4-Bが飛び乗る。ワイルドブラッドの走破力で足元の変化に対応し、G4-Bの火力を叩き込むフォーメーションだ。

 

「走れ、鋼也!」

「狙え、銀!」

 

 跨っているのはギルスで、構えているのはミサイルランチャーではあるが、やっていること自体は弓騎兵に近い。足と武器を用意できれば、戦いやすさは一気に変わる。

 

(さっきの反応、狙うならやっぱり……頭!)

 

「足元に滑り込む、振り落とされんなよ!」

 

 あらゆる大地の罠を突破し、爆風を背に戦場を駆ける牙。機動力と運動性でかき回し、無防備な足元に飛び込んだ。

 

「この距離ならどんなヘタクソでも外さねえだろ……銀!」

 

「馬鹿にすんなよ……そんな気使われなくても、当ててみせるさ!」

 

 ギルスに跨ったまま上体を倒し、寝転ぶような体制で真上にギガントを構えたG4-B。死角に潜り込んだ小虫を覗き込むように屈んだ大地のエルと、バッチリ目が合った。

 

「照準バッチリ……いっけぇぇぇっ‼︎」

 

 ここを勝機と見据えた銀が3発同時に撃ち込んだミサイルは、両眼と眉間に直撃。頭部に大きな風穴を開けた。あまりにも大きな衝撃を受けた大地のエルは、屈んだ姿勢から一転、大きくのけ反ってたたらを踏んだ。

 

「トドメ、いくぜぇ!」

「よっしゃあ!──解号(コード)『BRAVE』──燃えろぉっ‼︎」

 

 青い複眼が赤く染まり、G4-Bの両手に巨大な戦斧が握られる。それは2年前、牡丹の勇者が使っていた武器に非常によく似ていた。

 かつて勇者だった三ノ輪銀のためにチューンした、GENERATION4-BEYONDの真骨頂──GENERATION4-BRAVE。

 

「なっつかしいなぁ! やっぱアタシには飛び道具よりこっちが馴染む!」

 

 三ノ輪銀の勇者としての戦闘データや今の彼女に眠る勇者適性を解析してGシリーズの技術に応用した新機軸。かつての赤の勇者に限りなく近いコンディション、装備、スペックを時間制限付きで再現できる。精霊バリアや満開といった特殊機能は不可能だが、人の技術が神の御業に追いついた証明でもある。

 

 再びスティンガーで頭上まで這い上がるギルス達。幾多の爪牙と灼熱の戦斧が、呻く巨人の首を狙う。どれだけ大きく、どれだけ硬く、どれだけ強くても関係ない。愛する者が隣にいる限り、どんな障害も突き破って前へ。

 

 

 

「裂けろ、デカブツ‼︎」

 

「あの日のお返しだ、叩っ斬ってやる‼︎」

 

 

 

 クロウ、スティンガー、ヒールクロウまで使って踊り狂うように斬り刻むギルス。

 灼熱迸る斧を嵐のように振り回し、全てを寸断するG4-B。

 2人の刃の響宴が、大地の巨人の頭を粉微塵に打ち砕いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「鋼也、これで……」

 

「ああ。梃子摺ったが、これで終わりか」

 

 砂粒となって崩壊していく巨人の身体。砂塵の滝を浴びながら、ギルスはようやく一息ついて──

 

「残念ダガ、私ノ戦イハコレカラダ」

 

「──あ……?」

 

 大地のエルを構成していた大量の土石や砂粒。その全てを再構成した超巨大な大地の剣が突如建立。ギルスの腹部を穿ちベルトにヒビを入れた。数百m上空まで跳ね上げられたギルスは、抵抗も反応もできずに彼方に飛んでいった。

 

「コレダ……奴ニコノ一撃ヲ叩キ込ム瞬間ヲ、ズット待ッテイタ……!」

 

「鋼也、鋼也……返事しろよ、おい!」

 

 

 

 

 

 

 地のエルは巨人の術でギルスを倒し切れない展開も織り込み済みだった。重要なのは、大地のエルを形成する際に集約される膨大な大地の構成要素とそれに付随するエネルギー。

 巨人が崩壊した直後。地を司る天使にとって最高の環境となる一瞬が狙い目だった。過去最高に力を練り込んだ最強最速の大地の剣。気が抜けていたとはいえ、エクシードギルスでさえ反応できなかった超速の一撃は、確かに宿敵の中心を抉って刻んだ。

 

「お前はぁぁぁっ‼︎」

 

「ギルスヲ仕留メタ以上、貴様ダケデハ相手ニナラヌ」

 

 激情のまま斧を振るう銀。頭に血が上った今の彼女では、能力技術経験全てにおいて上回っている地のエルには勝てない。一刀で呆気なく二刀を払い退けられ、装甲を少しずつ削られていく。

 

「ちくしょう、なんで……!」

 

「一度命ヲ拾ッタ経験ガ勘違イサセタ様ダナ……コレガ人ト天使ノ格ノ差ダ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(クソ……今日はこんなことばっかだな。全くツいてねえ)

 

 全身を包む虚脱感から逃れられず、体に力が入らないまま倒れ伏すギルス。要のベルトが傷つけられたことで、自慢の再生力も大きく落ちてしまった。

 

(あの日を思い出す……俺は片腕持ってかれて、そんな無様な俺を庇って銀が……そう、ちょうどあんな風に……銀⁉︎)

 

 その視界の端に、一方的に追い詰められていくG4-B──銀の姿が映る。正に2年前の再現。動けないギルス、攻め立てる地のエル、防戦一方の銀。あの日は最悪の結末だけは避けられたが、2人にとって辛く苦しい時間が長く続いたきっかけとなった戦いだった。

 

(ざっけんな! 約束したんだよ……もう待たせねえ、絶対に当たり前の日々を取り戻して、今度こそ俺は銀と……みんなと……!)

 

 身体が動かないのは、肉体にその力が残っていないから。

 ならば話は簡単。意思に沿って進化するギルスの性質を利用して、傷ついた細胞を強制的に作り替えればいい。

 いわば能動的、意識的な強制再生。従来の無意識下の再生以上に身体に負荷をかけるが、今大切なのは何よりも銀だ。

 

(ヤツは今誰よりも速くて強い……ただ突っ込んでも勝ち目はねえ)

 

 再生を待ちながら、必死に頭を回す。先ほど食らった大地の剣は大きさ、威力、速度の全てにおいて最高の一撃だった。あんなことができるなら初手から使えばいい。それだけでギルスは間違いなく負けていた。

 この局面で使った理由──地のエルが巨大化を布石に力を貯めていたことくらいは流石に察しがつく。

 

(今必要な力……それはなんだ?)

 

 ワイルドブラッドは確かに強力だが、あれはあくまで大地のエルを倒すために最適化した形。今必要とされる進化はまた別の形だ。

 大地のエルと比較して、今の地のエルは脆い。攻撃力はそこまで重要ではない。

 特筆すべきはやはり速度。地のエルを超えるスピードが今求められている力だ。

 

(速さ、速さだ。アイツに追いついて、追い越して、振り切れるだけのスピード……惚れた女の窮地に、一瞬で手が届くだけの、絶対的なスピードを俺に寄越せ!)

 

 ギルスの身体が熱を帯びて、再び肉体が組み替えられていく。銀を救う、そのための力に手を伸ばし続ける少年の想いが形として世界に現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 G4-Bの全武装を破壊した地のエルが、その首元に鋒を突きつけた。

 

「ヨク粘ッタガ、ココマデダ」

 

「グッ……お前なんかに……!」

 

「サラバダ、赤ト黒ノ勇者ヨ」

 

 上段から振り下ろした剣はG4-Bの首を捉え──ることなく、何もない空を切り、その手にはなんの手応えも残らなかった。

 

(……何……?)

 

 暫し唖然とする地のエル。数秒遅れて、左腕が半ばから切断されて宙を舞った。その傷と痛みに、ようやく敵襲に気がついた。

 

「斬撃……? 馬鹿ナ、マサカ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 ──ズザザザザザザンッ‼︎──というあまりにも荒々しい地面を削り取るような足音が彼方から聞こえてきた。振り向いた先には、G4-Bを抱えた緑の人影。何度も仕留めたと確信し、その度に蘇ってきた忌々しい宿敵の姿。

 

「……フゥ──!……フゥ──!」

 

「……こ、鋼也……?」

 

 ギルスを知る誰もが、今の彼を見れば目を疑うだろう。あの野性味溢れる姿が見る影もなく痩せ細っていた。

 手足は全体的に痩せ衰え、銀を支える立ち姿はあまりに頼りない。

 特徴的な生体装甲も胸部を最低限覆うのみ。肩部や腕部を守る緑色は消失し、黒い体表が見えるだけ。

 雄々しく猛々しいスティンガーや全身の刃もなくなり、右腕から伸びるギルスクロウひとつしか武器らしい武器がない。

 

『エクシードギルス・オーバーソニック』

 

 不要な装備を極力排して、只管に速度を追い求めた進化の形。あまりにも一芸特化でピーキーに過ぎる、鋼也だから選べた危険極まりない新しいギルス。

 

「鋼也、お前……大丈夫なのか?」

 

「……ああ、ちょっと休んどけ。アイツは俺が狩る!」

 

 荒い息を整えて、ギルスがG4-Bを左腕で抱えたまま前に出る。不安定すぎる有様の鋼也に、それでも銀は言葉をかけられなかった。

 

「潰す……今度こそ完全にな……!」

 

 震える声に宿る怒りの炎が、銀から全ての言葉を奪っていた。

 

 

 

 

 

(片腕ヲ落トサレテモ気付ケナイ速度……死ニ損ナイト侮ル事ハ出来ヌカ)

 

 ギリギリ視界に映るかどうかという距離を詰めて、一瞬で目の前にいた仲間を掠めとって更に片腕までもぎ取る。これを知覚されずに完遂するには相当な速度差がなければ不可能。地のエルは、今のギルスのスピードを眼に映らない領域だと判断した。

 

 

 

 

「ナラバ、見エズトモ倒セル手ヲ打テバ良イ……コノ様ニナ!」

 

 範囲は地のエルを中心に半径20km。その全ての大地を掌握し、全ての土壌を剣に変える。全方位に大地の剣を隆起させ、面積全てを破壊で占める超能力。

 あらゆる逃げ道と攻め手を封殺する、絶対攻撃にして絶対防御。どんな敵でも圧殺できる、地の天使の切り札が発動した。

 

 

 

(上空ニモ地下ニモ攻撃ハ届ク……コレハ絶対ニ避ケラレ──)

「こっちだよ、ノロマ」

 

 勝利を確信した地のエルの胸部に、深々と刺さる爪。

 ギルスはG4-Bを抱えたまま剣が生え揃うまでの僅かな時間差、僅かな隙間を縫うように踏破。全ての剣を避け切って術者の真後ろ、攻撃が唯一届かない零距離まで踏み込んできた。

 

「ナ……ガ……馬鹿ナ、有リ得ン!」

 

 無理やりクロウを引き抜いて、振り向き様に剣を振るう。しかし振り向いた先には誰もいない。振り抜いた剣はまたも空振り、しかもその刃も根元から断ち切られていた。

 

「だからよ……」

 

 再び後ろから響く声。耳に届くと同時に地のエルの視界は遥か上空、光なき壁外の空を映していた。カメラを切り替えたような異様な視界の移り変わり。しかも妙に身体が軽く感じる。

 

「遅ぇんだよ、俺を捉えるにはお前の剣は鈍すぎる」

 

「……ァ……ァァ……!」

 

 その声が妙に真下から聞こえると気づいた時にはすでに手遅れ。自分の首が飛ばされたのだと理解するよりも速く、地のエルの頭部は砂の様に溶けていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへっ、なんだよ……大した事、ねーなぁ……」

 

「鋼也?……おい、鋼也!」

 

「楽勝だぜ……エルロー……」

 

 全身から力が抜け、電池が切れたように崩れ落ちた鋼也。アドリブで2度も超進化したツケか、身体中を稲妻のような痛みが駆け巡って動けない。

 

「鋼也、しっかりしろ鋼也!」

 

「あー……や、大丈夫だ。思いっきり体動かした直後みたいな……多分、筋肉痛に近いもんだ」

 

 ワイルドブラッドは、生物としての形から変容するため身体への負荷が大きい。普段使わない筋肉や器官に過剰なダメージが行く。その上でオーバーソニックの殺人的な加速とGのダブルパンチ。鋼也でなければ失神からの失禁という最悪のコンボもあり得ただろう。

 

「ほんとに大丈夫か?」

 

「ああ。暫く休まねーと戦闘は無理だろうが……少なくとも後に響くような感じはねえな」

 

「そっか……そっかぁ! アタシ達、今度こそ完全にアイツに勝てたんだな」

 

「そうだな……俺達は何も失っちゃいねえ。しかも前みたく魂が逃げ出した痕跡もない。完全勝利だぜ、銀」

 

 銀もようやく安堵したのか、変身を解除して鋼也の身体を抱え上げる。しばらく奮闘して、どうにか膝枕の体勢に落ち着いた。

 

「戦いはまだ続くんだろうけど、ここで一区切りだな。ちょっと休もう」

 

「ん……ああ、寝かせてくれるのか……」

 

「眠いのか? なら寝ちゃえよ。なんかあればちゃんと起こしてやるからさ……おやすみ、鋼也」

 

「おやすみ……ぎ、ん……」

 

 夢の世界に旅立った鋼也。そんな彼の頭を優しく撫でながら微笑む銀。燃え盛る大地にあまりに不釣り合いな恋人の逢瀬。

 そんな空気を知ったか知らずか、遠く彼方からサイレンを鳴らしたGトレーラーが近づいてきていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「至急戦力を呼び戻せ! ここが何より最優先だ!」

「ダメです! 戦闘の余波と戦場の拡大で、通信が……」

「不味いぞ、他はまだしも奴の力は神樹様の命に届き得る!」

 

 エルロード二体の撃破という朗報も響かない程に、大社司令室は狼狽していた。アギトが動かなくなったこと。その張本人であり、最も神樹に近づけてはならない敵性である白のエルが結界間近まで乗り込んできたこと。

 これらが意味するのは人類全滅まで秒読み状態という事実。結界上の防衛部隊も奮戦しているが、結果は火を見るより明らかだ。

 

(私が見た未来はこの先に続いていた……ですが、もし何か見落としていたとしたら?)

 

 かぐやは無言で考え続ける。彼女の本命の策はここを乗り越えた先にある。なのにここで躓いてしまっては意味がない。

 

(どうすればいい? 今更私になにができる?……神樹様……陸人様!)

 

『──、丈夫だ……』

 

 目蓋を閉じて混乱を隠していた筆頭巫女の耳に、今最も聞きたかった人の声が届いた。

 

「陸人様っ!」

 

『大丈夫……俺が、行く……!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「邪魔ヲスルナ……木端共ガ!」

 

 白のエルが戯れに片腕を振るえば、それだけで防衛線は瓦解する。炎の渦が結界上部を焼き尽くし、市街地への被害を0に抑えてきた精鋭達をまとめて吹き飛ばした。

 

(ヤハリ、アギト以外デハ話ニナランカ)

 

 悠々と結界を超えて四国に上陸した白のエル。既に神樹の場所は把握している。一直線に大社本部──御神体の在り処に迷いなく突き進む。

 

 

 

「……そこ、までだ……!」

 

 その歩みを止められる唯一の存在、爆炎を宿したアギトが進路を塞ぐように落ちてきた。全身の筋肉は硬直し、呼吸ひとつままならない。胸の傷も塞がらないまま飛び出してきた、愚かな程優しく無鉄砲なヒーローの乱入だった。

 

「ヨクゾ追イツイテ来タ。貴様ナラ来ルト思ッテイタゾ」

 

「……なん、だと?」

 

「貴様ガ殺シテモ死ナンノハ承知シテイル。ダカラ此処マデ呼ビ寄セタ」

 

 殺したつもりの一撃でも、心が折れなければ陸人は何度でも道理を覆して戻ってくる。それを理解していたからこそ、エルロードはあえてアギトを確殺せずに戦場に捨て置いた。神樹の間近で対面するために。

 

「人類ト世界ノ拠所ヲ目ノ前デ破壊スレバ、流石ニ貴様デモ堪エルダロウ?」

 

「お前、そのためにわざと……」

 

 神樹を潰す光景を目の当たりにさせる。そうして守りたかったものが壊れていく世界で、ゆっくりとどめを刺す。それが白のエルの筋書きだった。

 

「神樹ハアノ建造物ノ真下……今ノ私ナラ此処カラデモ届クナ」

 

 白のエルが右腕を抱え上げ、その上に巨大な火球を形成する。ダグバも使っていた得意技、その威力は陸人が1番理解している。地面も本庁舎も破壊して、神樹に届き得るだけの力があり、白のエルにそれを躊躇う理由はない。

 

(不味い──!)

 

「別レヲ告ゲヨ……今日マデノ、コノ世界ニ!」

 

 火球の落下点に回り込んだアギト。その身を盾にしたところで、大社や神樹を守り切れる可能性は低い。それでも──

 

「……! 下ラヌ感傷ヲ。所詮貴様モ人ノ身カ」

 

「お前なんかに、分かってたまるか……!」

 

 諦めない心ひとつで全てを守ってきた陸人にとって、選ぶ道はひとつだけ。どれだけ分の悪い賭けでも、未来に繋がる可能性が1%でもあるのなら。

 

 

 

 

 木が燃え、壁が燃え、空気が燃えた。

 アギトごと全てが燃え尽きる──そう誰もが幻視したが、現実は違った。

 

 

 

「──好き勝手もそこまでだ!──」

 

 

 

 地下──御神体の方向から飛んできた6色の光球が、火球を堰き止めてかき消した。急激な温度変化と気体の状態変化で旋風が吹き荒れる。本部の中央広場は一気に荒廃したが、それでも本庁舎も地下もまだ崩れていない。

 

「何ダ? 今ノ光……」

 

(懐かしい感覚……もしかして……!)

 

 紙一重で人類全滅を食い止めた光球達は、戯れるようにアギトの周囲を舞い、大きく力強く輝きを増す。人間大まで増大した光の中に、人間らしき影が見える。

 

 

 

「待たせてしまったな。よく頑張ってくれた、さすが陸人だ」

 

 青の光から響く凛とした声。刀を携えた武士のような雰囲気の少女。

 

「う〜、やっと出てこれたぞ。久しぶりだな、陸人!」

 

 橙色の光からは幼さの残る声。大きな盾を掲げた活発な雰囲気の少女。

 

「神樹様の近くじゃないと私達は出て来れなくて。ずっと会いたかったです、陸人さん」

 

 白の光からは控えめで可憐な声。弩を備えた理知的な雰囲気の少女。

 

「私はちょっと前に会ったけど、あの時はロクに話せなかったしなぁ……ちゃんと会えて嬉しいよ、りっくん!」

 

 桜色の光からは今もよく聞く彼女に似た声。手甲を付けた優しげな雰囲気の少女。

 

「……無理をしすぎよ、そんなになって……でも、それがあなたなのよね、陸人くん」

 

 赤の光からは静かで落ち着いた声。大鎌を握る儚げな雰囲気の少女。

 

「いつでもどこでもあなたはあなたってことよね。もちろん私も変わらずあなたの傍にいるわ、陸人くん!」

 

 緑の光からは溌剌とした力強い声。鞭を持つ堂々とした雰囲気の少女。

 

 

 

「あ……ああ……!」

 

 光が晴れた先にいた6人の少女が、アギトを庇うように前に並び立つ。300年前と同じように。それから今日までできなかった分も、力強く胸を張って。

 

「初代勇者達……"クウガ"ノ仲間カ!」

 

「みんな!」

 

「これまでの経緯は全て見ていた。やりたい放題やってくれたな……ここからは我々も相手になる。文句は言わせんぞ、天使気取りの悪魔共!」

 

 青の少女が刀を抜いて宣言する。今こそ共に戦う時と。やっと追いつくことができたのだと。

 ひとりで無理をし続ける彼の隣に立てる者は、現世にいる勇者達だけではないのだと。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




この展開を待っていてくれた方もいると思います……が、誰よりもこれを待ち望んでいたのは間違いなく作者本人でしょう。長かった……

感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに。

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