A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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前回に続いて、懐かしい要素のカムバック回です。


 


英雄

 乃木若葉

 土居球子

 伊予島杏

 高嶋友奈

 郡千景

 白鳥歌野

 

 神に選ばれた最初の資格者にして、クウガ(伍代陸人)と共に戦い抜いた偉大なる勇者であり、陸人と縁を結んだ少女達。歴史上の偉人となってしまった彼女達が、300年の時を超えて再び常世に集結した。

 全ては陸人を救うため。陸人と自分達が繋いだ未来を、もう一度守り抜くために。

 

「さて、陸人よ。一旦退がれ」

 

「え?」

 

「今も倒れそうなのを必死に我慢してるでしょ……分かるよ、りっくんのことだもん」

 

「……そんな状態のあなたを前線に立たせるほどこっちも馬鹿じゃないわ」

 

「いやでも──」

 

「ほぅれ」

 

 気の抜けた掛け声と共に、球子がアギトの肩を軽く小突いた。子供の戯れのような力加減にも耐えられずに崩れ落ちたアギト。その様で戦うというのは、なるほど確かに馬鹿としか言いようがない。

 

「タマの指一本で尻餅つくような状態で何ができるってんだ。ここはタマ達に任せてちょっと休め」

 

「お二人、陸人さんのことお願いしますね」

 

 座り込んだアギトの肩を支えるように、両側から2人分の温かい手が差し伸べられた。その手の懐かしさに絆されたのか、意識が飛んでも消えなかったアギトの鎧が解かれて御咲陸人が顔を見せた。

 

(この温度、この匂い、この気配は……)

 

「お久しぶりです、陸人さん……見ないうちに随分雰囲気が変わりましたね」

 

「すごく冷たくなってる……陸人さん、大丈夫? 苦しくない?」

 

「ひなたちゃん……水都ちゃん」

 

 陸人の存在を確かめるように額をすり寄せてきた上里ひなた。

 人の温かみを失った左半身に、案ずるように優しく手を触れる藤森水都。

 共に激動の時代を駆け抜けた、伍代陸人が最も大切に思っていた仲間。

 

「陸人を頼むぞ。ひなた、水都」

 

「お任せください」

 

「みんなも気をつけて……!」

 

「ああ。向こうもそろそろ待ちきれなくなってきた頃だ」

 

「……みんな」

 

「案ずるな、私達とて備えはしている。たまには頼ってくれ」

 

「……いつだって頼りにしてるさ。他でもない君達のことだからな」

 

 陸人の言葉に満足気に微笑んだ若葉達。頼もしい背中を示したまま、6人の勇者は荒ぶる灼熱に真っ向から駆けていく。昔と変わらない後ろ姿に、機能を停止したはずの陸人の左眼から滴が落ちた。

 

 

 

 

 

 

「埃ヲ被ッタ中古品ガ……邪魔ヲスルナ!」

 

 白のエルが大気を変質させて焔の渦を巻き起こす。触れたもの全てを焼き尽くす地獄の業火が勇者達に迫る。

 

「球子!」

「おうよ、タマに任せタマえ!」

 

 その破壊的な豪炎に正面から飛び込むのは大きな旋刃盤を備えて防御にも長けた勇者、土居球子。広がる爆炎を武器で受け止め、そのまま前進して距離を詰める。

 

「だぁらぁぁぁっ!」

「止マラナイ、ダト?」

 

 懐に飛び込んだ球子が旋刃盤を振りかぶる。自身の炎と白のエルの焔を重ねて収束した豪炎のシールドバッシュを叩き込んだ。

 予想外の手応えを感じ、飛び退いて距離を取った白のエルにさらなる追撃が迫る。

 

「ジャストミート! そこに逃げるのは読めてたのよ!」

「多方向から同時に攻めれば……!」

 

 着地点を先読みした歌野の鞭が地面を突き破って足元から迫り、アドリブで合わせた杏の矢が頭上から降り注ぐ。上下から挟み込む同時攻撃。永く同じ時を過ごした仲間だからできる完璧な連携だったが、白のエルの戦闘力はその努力を容易く上回る。

 

(甘イナ、ソノ程度デハ)

 

 迫る挟撃を、周辺の大気を発火させて焼き尽くした。雪の矢も、大地の鞭も焼却する焔の壁。神樹の加護さえ灰に還すその火力は驚異だが、勇者達はそれさえ織り込み済みだった。

 

「……集団戦で視界を塞ぐのは悪手よ……!」

「遅いな、"奴"なら反応できていたぞ!」

 

 大規模な爆発を起こしたことで白のエルの視界が塞がった一瞬。その刹那に、千景と若葉が踏み込んだ。5人の自分自身を(デコイ)に使って左に詰め寄る千景。爆発的な加速力で右側から回り込む若葉。長物を振るう2人は自分の獲物で白のエルの両腕を押さえ込み、両側面から挟み撃ちで動きを封じた。

 

「チッ、小癪ナ……!」

 

「最後は私が行くよ──勇者ぁぁぁ……パァァァンチッ‼︎」

 

 結城と同じく、闇に対する特攻兵器"天の逆手"を有する高嶋友奈が突撃。最速最強の拳が迫り──直撃する直前に大気を炸裂させて無理やりに距離を開いた。

 白のエル自身にもダメージが残る緊急手段で強引に仕切り直した。錆び付いた過去の戦士だとタカを括っていた天使にとって、この抵抗の激しさは予想外過ぎた。

 

「西暦ノ戦イノ記録ハ、罪爐ニ見セラレタ。ダガ、今ノ貴様等ハ……」

 

「何を当然のことを。陸人を送り出した私達がただ指を加えて見ているだけだとでも思ったか?」

 

「今日みたいな日が来て欲しかったわけじゃないけど……いつか必要になると思って準備してきたんだよ」

 

「……陸人くんを害した瞬間から、あなたは私達()()を敵に回した。その意味をたっぷり教えてあげるわ……」

 

「それでフルパワーな訳? 同じ姿をしてても、あの白いデビルと比べて随分手応えが違うわ」

 

「……貴様等ヲ見誤ッタ事ハ認メヨウ。ココカラハ全霊ヲモッテ打チ滅ボシテクレル!」

 

 白のエルが地面を殴り抜き、その権能を大地に流し込む。世界そのものを噛み砕くように、数多の炎柱と氷柱が立ち昇った。雲さえ突き抜けて伸びた灼熱と氷結の塊。結界の内側でこれだけの力が暴れれば、一般市民への被害は計り知れない。

 

「貴様等モ神樹モ愚民共モ、総テ纏メテ消シ去ル!」

 

「さすがにダグバの身体、力は凄いなぁ。でも……!」

 

「私達だって、それくらい承知で来たんですから!」

 

 

 

「そこまでだ……水の、海の力を破壊に使うなど、私が許さない」

 

「ここで好き勝手されると困るんだよねー、ちょっと大人しくしてもらいますか!」

 

 地面の下、御神体の方向から再び顕現する幾多の光。色とりどりの光球が空を翔け抜け、柱を包むように舞い上がる。白のエルの権能を解きほぐして霧散させた。

 

「何……マダ出ルノカ?」

 

「……言ったでしょう、全員って。()()()()で彼と繋がっていたのは私達だけじゃないのよ……」

 

 光が人の形を取り、各々雰囲気が異なる装束を纏った少女達が舞い降りた。白のエルを囲むように武器を構えた、総勢77人の勇者達。神樹の内側に広がる魂だけの世界──神域から常世を見守り続けた英霊の魂魄が、四国最大の危機を前に一堂に介した。

 

「大本命のド派手な登場に面食らっているようね。まあ無理もないわ! この弥勒の威光を目の当たりにしたんだもの」

 

「レンちのそういうところ私は好きだけど、ここは控えた方がいいんじゃない? 今回私達は陸人様へのお礼に出てきたんだしさ」

 

「水の天使……そう名乗る割には、海の神様のような力は感じないな」

 

「じゃあその程度の相手だってことじゃないですか? 陸人くんに勝てないからって他人の身体使うような奴なんでしょ」

 

 光刃、鉄拳、双棍、投槍。個性豊かな武器を備えた見目麗しい少女達が、ほんのひと時常世に返り咲く束の間の饗宴。神樹の献身と魂たちの善意、そして陸人と結んだ縁が生んだ奇跡の瞬間だった。

 

「亡霊ガ雁首揃エテ……死者ハ死者ノ居場所ニ還レ!」

 

 囲まれた白のエルが再生アンノウンを大量投入。万一に備えて温存していた戦力をも用いた総力戦の構え。大社本部に戦場を移して、一大決戦の第二ラウンドが幕を開ける。

 

「弥勒の活躍を盛り上げる引き立て役まで出してくれるなんて、気が効くわねエルロード!」

 

「行こうレンち──火色、舞うよ!」

 

 彩り豊かな勇者の軍勢と、形状豊かなアンノウンの軍勢が正面から激突した。

 

 

 

 

 

 

 英霊と怪物の戦争。目の前に広がる光景がどれほどの奇跡の上で成り立っているのか、その尊さを誰よりも理解している陸人は見惚れるように目を見開いていた。

 

「みんなも……来てくれたんだな」

 

「ええ、神樹様が一時的に扉を開いてくださいました。生死の境界を侵す禁忌なので、本来なら許されない所業なのですけどね」

 

「陸人さん、もうひとつとっておきのお土産があるの……静さん、こっちです!」

 

 水都が呼びかけたのは戦場のさらに奥。常世と神域の境界から騒がしい声が届く。

 

「ほいなほいなー……っと! これはアカンな、抜けられへん……アカナ、ロック、手ぇ貸してくれ!」

 

「──よっと。大丈夫シズ先輩……それが?」

 

「そや。リッキーへのプレゼント。今1番大切なモンを抱えてるウチを護ってくれるか? 2人とも」

 

「英雄へ繋げるバトンを守る……それもまた弥勒の偉業のひとつに加えられる。承りましょう!」

 

「私達のことも勇者として大事にしてくれた……陸人様への恩返しだもんね、きっちり護るよ」

 

 小気味よくやり取りをしながら戦場を抜ける3人の影。光刃の勇者と鉄拳の勇者に護られた巫女の少女が陸人達の元まで辿り着いた。その腕に抱えた()()()()()()()()が、ぼんやりと光を放った。

 

「──よっしゃ着いたぁ! 桐生電鉄、定刻通りにただいま到着や!」

 

「ありがとうございます、静さん。最後の調整をお一人で受け持ってくださって」

 

「ええてええて。この戦いはウチら全員の問題やし、なにより他ならぬリッキーのためやからな。2人が飛び出したくなる気持ちも分かるて」

 

「あ、あはは……ごめんね静さん」

 

「フッ、何も謝ることはないわ。人が人を想うのは自然なことで、同時に止めようがない感情だもの」

 

「また会えて良かった。キツイだろうけど、もう少しだけ一緒に頑張れる? 陸人様」

 

「静さん……蓮華さん……友奈さん……」

 

 いずれも神域で友誼を結んだ少女の魂。自分達が繋いだ未来を守るべく体を張り続ける陸人に恩を返すために、無理を通して常世まで降りてきた頼れる仲間達だ。

 

「陸人さん、これを……神域で眠る全ての巫女が力を注いで再現したものです」

 

「これは……」

 

 石でできたベルトのような遺物。伍代陸人がなによりも頼りにした相棒がそこにあった。

 

「陸人さんは最後まで戦いから降りたりしないでしょ? だから私達も自分にできる限りの準備をしてきたの」

 

「……アマダム……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(数が増えたのはこっちも同じだけど……向こうは削った分だけ再生してる。これじゃキリがないわね)

 

 普段の様子からは結びつかないが、白鳥歌野は戦場において類稀なる戦略眼を持っている。たった1人で諏訪を守っていた経験と、全域を掌握できる精霊の力を併せ持つ彼女は集団戦に長けていた。今やるべきことは何か、優先すべきは誰か、奥の手を切るのは何時か。歌野が機を見誤ったことは一度もない。

 

「ここがフィーバータイムね──フォローミー『悟』、『滑瓢(ぬらりひょん)』‼︎」

 

 歌野の装束に黒が混ざり、その姿が霞と消える。歌野の新聖霊、"滑瓢"の特性が発動した。

 相手の認識から外れて自由に動けるいわばステルス能力。悟の先読みと合わせれば、どれだけの数でごった返した戦場でも自分の狙うままに動き、他者の狙いを尽く阻害できるようになる。

 敵と敵の間を縫うように駆け抜け、延ばした鞭で囲いを作る。敵集団を一挙に縛り上げて拘束、数の不利を一手で覆した。

 

「ほらほら、あんまり固まってると危ないわよ?」

 

 敵の動きを読み、暴動の中を自在に動き回って集団を一か所に纏めた歌野。20以上のアンノウンが見えない襲撃者に追い立てられて、気付けば密着状態で固められていた。

 

「球子さん、杏さん!」

 

「よっしゃあ!──張り切って行くぞ、『輪入道』、『餓者髑髏(がしゃどくろ)』‼︎」

 

「後は任せてください──おいで、『雪女郎』、『百々目鬼(どどめき)』!」

 

 西暦勇者の援護担当、球子と杏が精霊を解禁する。明るい橙色が薄く灰色に染まった球子と、白地に紅色を差した杏。2人もまた神樹の内側で決戦に備えて新たな力を宿していた。

 

「もっと、もっとだ……もっとデカく燃えろぉぉぉっ‼︎」

 

 球子の旋刃盤が炎を灯してどんどん大きくなる。球子本人の3倍まで肥大化してもまだ止まらない。大きすぎる武器を持て余すことなく軽々と振り回す球子。そんな彼女の後ろからフォローするように旋刃盤を支える骨の腕。巨大な骸骨が球子の背後霊のように君臨していた。

 

「せぇの……いっけぇぇぇっ‼︎」

 

 半径5mはある旋刃盤とも釣り合うほどの異様な巨体が、球子の動きに合わせて炎の塊となった武器を投げつけた。逃げ場がないアンノウン達は一瞬で火達磨と化し、四方八方に吹き飛ばされた。

 

 

 

 

(まだ……ここで徹底的にトドメを刺さないと、いつまで経っても数が減らない)

 

 吹き飛んでいく雑兵達を目を細めて捕捉する杏。その視線は雪のように冷たく、一度捕らえた相手は決して逃さない。

 

「……四、八、十六……そこっ!」

 

 頭上に大量の雪の矢を放った杏。虚空に飛んだ矢は、突如空間を裂いて開いた眼玉に吸い込まれて消えた。

 1秒後、散り散りになったアンノウン達の頭上に開いた眼玉から、先程の矢が降り注ぐ。一瞬前まで何もなかった空間から飛んできた一撃には誰も反応できず、矢を浴びたアンノウンは瞬時に凍りついて砕け散った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「みんな、強くなってる……」

 

「陸人さんが出て行ってから、いつか今のような事態が起こり得ると考えてずっと備えをしてきました。みなさんが強くなったのも、()()が間に合ったのも、2年かけた下準備のおかげです」

 

「アマダム……でもこれは……」

 

「うん。私達に用意できたのはあくまで器と内包する力の一部だけ。でも陸人さんなら……陸人さんとアマダムの絆を通して、消えた光を取り戻すことができるかもしれない」

 

 アマダムは普通の生物とは違い、神々が直接手を加えた創造物だ。その魂も通常の生物と異なり、常世から消えたところで神域や輪廻に逝く訳ではない。であれば、存在していた時分に最も深く繋がっていた陸人と、再び器が接続すればその縁を依代にして呼び戻せる可能性は0ではない。

 

 

 

「見ツケタ、アギト……!」

「奴ハ動ケナイ、殺セ!」

 

「んにゃー、そうはいかないんだなぁ、これが」

 

 話し込む陸人達の死角、頭上から強襲を狙っていた有翼者のアンノウンが、横合いから飛んできた槍に二体まとめて串刺しにされて砕け散った。

 

「危ない危ない……陸人くんに会えて嬉しいのは分かるけどさー、あんまり長々話し込んでる時間は無いんじゃないの? お二人さん」

 

「雪花さん……」

 

「まあそう言うな、雪花。ひなた達がどれほど再会を待ち望んでいたか、私達は知っているだろう……」

 

 陸人達の背後に回っていたアンノウンを音もなく一瞬で撃破した双棍の勇者が、投槍の勇者の隣に降り立つ。準備が終わるまで守ってみせる。その背中が言外にその意思を語っていた。

 

「クウガが……そしてアギトが頑張ってきたことはここにいる誰もが分かっている。そんな陸人のためだから、これだけの人が集まったんだ」

 

「棗さんも……ありがとう」

 

「うんにゃ、気にしないでいーよ。私達も好きで出てきたんだから……何せこの機会を逃したら、陸人くんに恩返しするチャンスなんてもう二度とないかもしれないからね」

 

「そういうことだ。私達は自分の意思で戦い、護る。陸人がこれまでそうしてきたように」

 

 ここにいるのはいずれも、かつて神樹に見込まれ、見出され、認められた高潔な魂の持ち主。たとえ自分にとっては死後の出来事であっても、生まれた世界、護りたかった大切なものを護りきってくれた陸人への恩を忘れたことはない。

 一時的に常世と神域を繋げているだけであって、彼女達は蘇った訳ではない。この状態で死傷レベルのダメージを負えば魂の消滅さえあり得る。その危険を承知の上で、神域で世話になった分も含めた恩を返すためにここにいる。

 

「おっとぉ? ウジャウジャ出てきちゃって……重傷者相手に恥ずかしくないのかねぇ」

 

「奴らに恥の概念はないんだろう。でなければああも卑劣な手段ばかり使っては来ないはずだ」

 

「フッ、弥勒の首級が増える分には構わない……と言いたいけれど、この数相手に防衛ミッションは少し考えものね」

 

「ちょいちょいロック、アンタがそんな弱気なこと言うとホンマに不安になるって!」

 

 陸人を狙うように指示が飛んだのか、数えるのも面倒な数のアンノウンがグルリと囲むように集結した。この場にいる戦闘要員は4人、護衛対象も4人では、護る上でかなりリスクが高い。

 

「でもやるしかないよ。視野を広く保って、お互いの背中を守りながら──」

「……全員動かないで……!」

 

 鉄拳の勇者の言葉を遮り、直上から迫る7人の気配。ひとつひとつが最高峰の実力を持つ勇者、分散した郡千景が飛んできた。

 

「来なさい……『七人御先』、『玉藻前(たまものまえ)』!」

 

 七人に増えた千景が更に精霊を使用。獣の尾のような装飾が追加され、その背中には桜色の煌炎が怪しく輝いている。

 

「……焼き尽くすわ、一斉掃射……!」

 

 天の逆手と同様の対神特攻を備えた狐火を七人同時に撃ち込んだ。友奈達が持つ力には質では及ばないものの、身体から離して撃ち放つことができる狐火は通常アンノウンに耐えられる代物ではない。滝のような豪炎の濁流に呑まれ、陸人達を囲っていた敵の群れは嘘のように綺麗さっぱり焼失した。

 

「千景ちゃん……」

 

(陸人くん……)

 

 周辺一帯を掃除し終えた千景が、ゆったりと陸人の目前に舞い降りた。変な所でよく思われたい願望が強い彼女は、今にも抱きつきそうになる身体を意地で押さえ込み、可能な限り優雅に髪をかき上げて背を向けた。

 

「千景ちゃん?」

 

「話したいことはたくさんあるけど……今はいい。あなたの顔を見れて、安心したわ」

 

「……ああ、俺も安心した。千景ちゃん強くなったね、頼もしいよ」

 

「……っ!」

 

 それはずっと千景が欲していた言葉。陸人に心から頼りにしてほしい。生前は途中離脱してしまったせいで消化不良に終わってしまったが、300年の時を経て、少女の可愛らしい願いはようやく成就した。

 

「フフッ、なら存分に頼るといいわ……ちゃんと見ててね

 

「えっ……?」

 

 陸人に聞こえない声で何かを呟いた千景は、意気揚々と敵の群れに飛び込んでいく。やっていることは勇ましいが、胸の内を知る仲間達から見ればなんとも微笑ましい張り切りっぷりだった。

 

「うわ何あれ……かーわいっ」

 

「うん、素直なのは良いことだ」

 

 誰かが照れて、誰かが揶揄って、陸人が疑問符を浮かべる。結局どの時代でも変わらない光景に、ひなたと水都は思わず顔を見合わせて笑ってしまった。

 

 

 

 

「陸人さん、あなたは変わらなかった。時代を経ても、身体が壊れても、魂が削られても、誰かの為にという想いを捨てずに生きてきた。その姿が、何もできずにいた私達にとってどれほど励みになったか……」

 

「生きて結んだ縁と、死んでから結んだ縁と、生まれ変わって結んだ縁。これはクウガでもアギトでもなく、陸人さんだから築けた強さ……"人望"なんだよ。陸人さんはもっと自分を誇っていいと思うな」

 

「そっか……俺は自分のこと、今はまだ好きなのか嫌いなのか分からない。でも2人がそう言ってくれるなら……こんなにたくさんの人が認めてくれるなら、捨てたもんじゃないんだって、そう思えるよ」

 

「はい……そんなあなただからこそ、信じて託します。私達が再び集めた希望の象徴、アマダムを」

 

 ひなたと水都がアマダムを陸人に装着する。暖かい光が全身を包み、冷めきった左半身に微かな熱が灯った。

 

(この感覚、あの頃も……同じようにおかしくなった俺の身体を支えてくれていたのは……)

 

 ゆっくりとだが機能するようになった左腕を振って調子を確かめる陸人。本来の視界を取り戻した両眼で、希望を届けてくれた2人の巫女をまっすぐ見つめる。

 

「ありがとう、ひなたちゃん、水都ちゃん……戦場のど真ん中でも、もう一度会えて本当に嬉しい……ありがとう、ありがとうっ……!」

 

 言葉の途中で感極まったように2人を抱き寄せた陸人。一瞬驚いたひなた達だったが、やがておずおずと両腕を回して抱き返す。

 

「あらあら。戦場で並び立てない無力なこの身を呪ったことは何度もありますが……今回ばかりは役得でしたね。こんなご褒美をいただけるなんて」

 

「えへへ……私達も、ずっと会いたかった。全部終わったら、ゆっくりお話し聞きたいな。西暦(むかし)のことも、神世紀(いま)のことも」

 

「ああ。もう少し待っててくれ……今日で全部、終わらせるから」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「誰モ彼モガ鬱陶シイ……何故無駄ナ抵抗ヲ繰リ返ス!」

 

「その答えはお前も知っているだろう! 諦めないことの大切さを……戦うことは無駄じゃないと証明し続けた男がいるからだ!」

 

「滅びは変えられない運命なんかじゃない。だったら本当に全部が終わるその時まで、私達は折れたりしない!」

 

 翼を生やした若葉と、角を生やした友奈。最高状態の2人で挟むようにして白のエルを攻め続ける。何度挫いたと思ってもその都度更に強くなって戻ってくる人間という種のしぶとさにエルロードは圧倒され、恐怖すら感じ始めていた。

 

「モウ良イ……消エロ……消エテクレ!」

 

 若葉の斬撃を手刀で返し、刀身を両断した白のエル。武器をひとつ奪ったことで安堵した天使を前に、武器を奪われた側の若葉は不敵に笑ってみせた。

 

「──っとと、ナイスキャッチ私!」

「何……⁉︎」

 

 空高く弾け飛んだ刀身を空中で受け止めた友奈が、刃を立てて急降下してくる。反応できなかった白のエルの肩口から胸部に、折れた刀が浅く突き立てられた。

 

「グッ、コノ程度……!」

「まだだっ!」

 

 翼を広げて飛び上がった若葉が、中途半端に突き刺さった刀身の断面を全力で蹴り込む。強烈な後押しを受けた刃は奥深くまで進み、白のエルの体内、重要器官まで届いた。

 

「行くよ、若葉ちゃん!」

「ああ、友奈直伝──」

 

『──勇者、パンチッ‼︎』

 

 かつて若葉に刀の扱いを教わった友奈は、その教えを思い出して無理なく刀身を突き立てた。一方の若葉も、無手での体術は友奈の教えを参考にしている。そんな2人が培ってきた絆と経験が乗った拳は、白の天使をプライドごと吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 2人の勇者の拳を鼻先に受けて思い切り吹き飛んだ白のエル。心身共に追い詰められ始めた天使は、それでもなんとか刀を抜き取って傷の修復に力を回す。

 

(未ダ問題無イ……神樹サエ砕ケバ私ノ勝利ダ。奴等ヲ一瞬デモ振リ切レレバ)

 

「悪いがそいつは不可能だよ、エルロード」

 

 焦り続ける白のエルにとって、その言葉は死神の宣告にも思えたかもしれない。やっと追い込んだと思っていた最大の邪魔者が、平然として歩み寄ってきたのだ。

 

「貴様……何故動ケル?」

 

 御咲陸人は既に死に体。変身して無理やり身体を引っ張っているだけで最早動ける状態ではない、そう聞いていたのに。

 

「確かに、俺だけじゃ罪爐の呪いには敵わなかった。でも、1人じゃなければどうだ?」

 

「マサカ……!」

 

 陸人の腰にはベルトがあった。赤い輝石を中心に嵌め込んだ、アギトに似た……しかし明確に異なる輝きを宿した豪奢なベルトだ。

 

 

「ようアマダム……目覚めはどうだい?」

 

 ──複雑だな。最初に見る光景が世界の窮地なのは最悪だが……最初に見る顔が陸人だったのは、最高と言ってもいい──

 

 男とも女とも取れる、中世的かつ神秘的な落ち着いた声。伍代陸人に力を与え、時に道を示し、時にその意思に引っ張られた、最初にして最高の相棒。

 

 ──まあ、総合的に見て良しとしようか。陸人とまた会えたのは望外の幸運だ──

 

 アマダム。神に造られ、人に使われ、陸人と共に英雄となった光の意志が再び目覚めた。

 

 

 

 

 

 

 

「来たか、陸人……思ったより早かったな」

 

「もうちょっとゆっくりしてても良かったのに。りっくんは頑張り屋さんだからなぁ」

 

「十分休ませてもらったよ。それにコイツを倒し切るには、俺達の力が必要みたいだしね」

 

「なんだなんだ? もう陸人のターンか。まだまだやれたのにな」

 

「フフッ、タマっち先輩張り切ってたもんね。陸人さんに久しぶりにイイトコ見せてやるって……まあ、私もだけど」

 

「ああ。ちゃんと見てたさ。やっぱりみんなは最高だ。俺の自慢だよ」

 

「それはこっちのセリフよね。その姿、懐かしいわ……見てるだけで嬉しくなっちゃう」

 

「……あなたはその力で私たちを何度も救ってくれた。アギトも良いけれど、やっぱり私はそっちの方が好きだわ……」

 

「そう? ありがとう……それじゃ、リクエストにお応えして──」

 

 仲間達と言葉を交わして前に出る陸人。その思いを察した勇者達も示し合わすことなく自然と一歩下がる。まだ敵は健在だが、誰も不安を感じてはいない。陸人の背中を、憧憬や歓喜をもって見つめていた。

 

 

 

「久しぶりにカッコつけてみますか……アマダム!」

 

 ──ああ。私と陸人が揃えば不可能はない。もう一度証明するまでだ──

 

 右腕を突き出し、左腕を腰へ。300年前、全ての礎を築いた始まりの英雄、その顕現の構え。

 

 

 

 

「──変身っ‼︎──」

 

 

 

 

 ベルトの輝石が輝き、陸人の姿が変わる。稲妻が走り、黒いモヤが広がり、破壊的な力が暴発して空気が震えて弾ける。

 

『クウガ・アルティメットフォーム』

 

 戦う中で陸人とアマダムが力を鍛え上げて到達した究極の力。全てを壊して総てを救う"凄まじき戦士"。人の縁と想いと努力が繋いだ奇跡の果てに、神世紀の地上にもう一度現れた。

 

 

 

「あの頃は称号がなかったからな。改めて名乗らせてもらうぜ。

 俺は、仮面ライダー……仮面ライダークウガだ!」

 

「馬鹿ナ……クウガ、ソレモ究極ノ姿ダト⁉︎」

 

「覚悟してもらおう、エルロード……出し惜しみはナシだっ‼︎」

 

 陸人がいて、アマダムがいる。それさえ違えなければクウガは何度でも蘇る。

 人の笑顔を守るために、何があっても諦めない戦士。それが仮面ライダークウガなのだから。

 

 

 

 

 

 

 




ずっと書きたかった話なのですが、同時に盛り過ぎて散らかった感があります。読みにくかったらスミマセン。
そして切りどころを間違えたかもしれません。次の話がメチャ短くなるか、凄い中途半端になるか……これだから無計画な作者は……

感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに。

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