A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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引っ張ってきたフラグを一気に消化します。如何に勢い任せでやってきたかが分かる回です。
作者バリバリの文系でして、本文中に加えた数学的知識は超付け焼き刃です。ミスがあった場合、コイツは馬鹿なんだと嘲ってスルーするか、ご指摘いただければと思います。





REVIVER

 白のエルは焦っていた。天使として永く生きてきた中でかつてないほど焦燥していた。ここにきて原初の英雄、それも最高状態の敵が出てくるなどとは全く想定していなかったのだから無理もない。

 

(落チ着ケ……ダグバトクウガハ互角、冷静ニ駒モ使エバ)

 

 勇者達によってかなり数を減らされたが、ストックはまだ腐るほどある。肉体の一欠片──再生の種を溢れ返るほどにばら撒いて肉盾を召喚する。まずはクウガの状態を把握してから。その判断は間違っていない、が……

 

「無駄だ」

 

 クウガが軽く右腕を振るう。たったそれだけの動作で、3桁を超える再生アンノウン全てが焔に包まれて焼き消された。着火から焼失までの速度が冗談のように速い。幻覚だと言われた方がまだ納得できる、異様な早業だった。

 

「雑魚をどれだけ出しても意味はないよ。直接来い」

 

「ヌ、グ……舐メルナァァッ!」

 

 破れかぶれの突撃。じゃれつく子供をやり過ごすようにあっさりと、その拳をはたき落として蹴りを返すクウガ。肉体のスペックはほぼ互角でも、陸人とエルロードでは見えているものが明らかに違った。

 

「オノレ……私ハマダ……!」

 

 バーニングフォームにとどめを刺した双剣を展開、炎と水の二刀流で斬りかかる白のエル。しかし復調した陸人は一度見た技を二度くらうような三流ではない。

 

「脆いな、スカスカだ。武器作りには向いてないよお前」

 

 クウガも同型の双剣を展開。白のエル以上の速度で生成された武器はあっさりと相手の双剣をへし折り、そのまま肘、肩、脚部の衝角を斬り飛ばした。

 

「アッ、ガ……貴様ァァッ‼︎」

 

「喚くなよ、みっともない……お前達が散々他者に押し付けてきた痛みだろうが。自分に向いた途端に怯え出すってのは、筋が通らないんじゃないか?」

 

 双剣を手放し、再び肉弾戦に移行する両者。ガムシャラに繰り返す拳や蹴りをひとつひとつはじき返し、クウガは執拗に白のエルの顔面を殴り飛ばす。ひたすら右ストレートで殴り続ける姿から、溜まり溜まった鬱憤を吐き出しているのは明らかだ。

 

「キッ、貴様……300年、程度ノ、若輩者ガ……!」

 

 まともに言葉も言い切れない勢いで殴打されまくる白のエル。ここまで一方的では天使の威厳もなにもあったものではない。

 

「その姿で俺に勝てる奴がいるとしたら、それはあの悪魔だけ……お前じゃないよ」

 

 回し蹴りで思い切り吹き飛ばした白のエルに自然発火能力を発動。ある種の美しさすら感じさせる白い身体が真っ赤に燃え盛る。これまで好き勝手やってきた報いの如く、火達磨と化した白のエルはジタバタと転げ回る。自分の能力でも鎮火できず、もがくしかない。クウガと同等にまでダグバの力を引き出すには、エルロードでは存在の格が不足しすぎていた。

 

「ィ……ギ、ァ……!」

 

「そろそろ終わらせるか……」

 

 これまで苦しめられた仲間の分の怒りを叩きつけてきたが、やはり陸人の性格上憤怒だけで戦うのは長続きしなかった。次の一撃で終わりにするべく、両脚に力を込める。

 

「飛べ……!」

「グッ! 何故ダ、何故……!」

 

 一瞬で懐に飛び込んだクウガが、白のエルの顎を真下から蹴り上げる。天高く跳ね上がった天使を更に飛び越える大ジャンプ。その両脚には黒い焔が迸っていた。

 

 クウガ究極の必殺技『アルティメットキック』が、白のエルを貫くその刹那──

 

 

 

「……予定通りによく動いてくれた。これで仕上げだ……!」

 

 この世の黒を煮詰めたような、重く暗く濁った気配。隠し切れない闇を纏った異世界の神の声。

 突如現れた乱入者の能力で強制転移された白のエル。クウガの必殺技は虚空を貫き、不発に終わった。

 

「なんだ、今の?」

「転移術……エルロードじゃない」

「あれって……確か、テオス?」

 

 誰も察知できなかった大物の乱入。息も絶え絶えでぐったりしている白のエルの襟首を掴んで引きずったまま歩くテオスには、かつてないほど不気味で底知れない存在感があった。

 

「陸人さん、あれは……」

 

「ああ。テオスじゃないな、アンタ……罪爐か」

 

「ふっ……ここまで表に出していれば、流石に汝や巫女の眼は欺けんか」

 

 淡々と無表情で佇む常のテオスとは明確に異なる、邪悪な微笑みを浮かべる罪爐。そこから溢れる悪寒と重圧は、これまで前線に出ていたバルバの中身とは桁が違う。

 

「勇者部が倒したお前は、偽物か何かか?」

 

「偽物というのは正確ではないな。そもそも我に個の定義はない。目立つ所で動く我がいた方が都合が良い故、一部を切り離して人形を拵えただけのこと。汝等に蹴散らされた我もまた、自分こそが罪爐だと最期まで認識したまま逝ったのだよ」

 

「どこから切っても罪爐は罪爐ってわけか? 金太郎飴かよ」

 

「くくっ、なかなか面白い表現だ。我を捕まえて菓子呼ばわりとはな」

 

「ギ……グッ、ざ、罪爐……」

 

 愉快そうに喉を鳴らす罪爐の腕の先、まともに動くこともできない白のエルが呻いた。その身の内には今もなおクウガの焔が燃え続けていた。

 

「おお、先に汝の件を片付けなくてはならんな……よくやってくれたぞ、白の。我の計画通りに踊り、クウガを引き出し、見事に敗北を喫した。これにてお役御免だ」

 

「……ナ、ニ……?」

 

 テオスの左腕に暗色の光が宿り、鮮やかな貫手一発で胸部を貫いた。救援だと信じていた腕に刈り取られた白のエルは、呆然としたまま抵抗もできない。

 

「ガッ⁉︎……罪爐、貴様……!」

 

「用済みということよ……この先汝は必要ない」

 

「私ハ、天使……テオスニ仕エシ、最高ノ……」

 

「……さらばだ」

 

 引き抜かれた罪爐の手には、淡く輝くエルロードの魂が握られていた。無理矢理ダグバの身体から取り出された天使の本質。それはあまりにも呆気なく握り潰されて霧散した。

 長く陸人を苦しめた水の天使は、誰もが予想し得ない味方からの不意打ちで終焉を迎えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……さて、お待たせしてしまったかな?」

 

「なに……なんなの、アイツ?」

 

「見えてる世界が違う。価値観がまるで噛み合わない……!」

 

 完全に動かなくなった白のエルの肉体を蹴り転がし、罪爐が改めて向き直る。仮にも同胞を手にかけたとは思えないほどあっさりとしたその態度に、罪爐慣れしていない英霊達の何人かが寒気を堪えるように自身を掻き抱いた。

 

「お前、本当に自分以外は全部駒に見えてるんだな……」

 

「なんだ? 白のに哀れみでも覚えたか? 奴をあそこまで追い詰めたのは汝だろうに」

 

「そうだな、別にあんな奴に思い入れなんかないさ。ただ、お前が嫌いだっていうのを再認識しただけだよ……!」

 

 クウガの背後に立ち昇る炎。どんな相手であろうと、あんな真面目で理不尽な死に方を押し付ける理由はなかった。命の在り方に価値を見出す陸人にとって、罪爐のやり方は到底見過ごせるものではない。

 

「まあそう焦るな。我が何のためにここまで面倒な下準備をしてきたと思う? 今こそ悲願成就の時。愛すべき我が邪魔者、御咲陸人よ。汝には歴史の目撃者となる栄誉を与えよう」

 

「何を……」

 

「上を見よ。汝等の眼がいかに節穴か分かるであろう」

 

 罪爐の指先を追って空を見上げると、そこには見たことのない異様が広がっていた。

 天球の半分ほどを覆い尽くす紫色の光球。雲の奥で輝く怪しい光が、晴天の空に不可思議な色を差している。

 

「あれは汝等人間の負の感情を収束して空に打ち上げたその塊……汝等が見過ごしたキバの力よ」

 

「なんだと……? かぐやちゃん!」

 

『こちらでも確認しました。四国を囲むように現れたあの"キバ"は、こちらの索敵範囲外……大気圏外まで伸びています!』

 

 大社の調査でも破壊兵器としての機能以外は判明しなかったために放置していたが、罪爐の宣戦布告時に海を食い破って建立した異様な巨大物質──通称キバにはもっと重要な役目があった。

 

「四国の大地に生きる全人類の絶望を集めて空に放つ。地の神たる神樹が知り得ない空で、ずっと力を集めていたというわけだ」

 

 突如仕掛けてきたキバに、警戒しなかったわけではない。それでも大社の目を欺けたのは、罪爐が人間の心理を人間以上に知り尽くしていたから。あまりにも堂々と隠す気なく仕掛けられたものに対しては、表面的な脅威以上の警戒心は抱けないのが人間だ。

 

『おそらくキバの長さはこちらの想定以上。宇宙にまで飛び出して、こちらの警戒範囲外で稼働していたのでしょう……裏をかかれてしまいました……!』

 

「そういうことだ。思っていたより人民の絶望感が弱かったせいで、戦闘中まで引っ張る必要があったが……それも今、汝等の絶望が十分に集約された。お楽しみは、ここからだ!」

 

「──陸人、アレ!」

 

「アイツ、何する気だ……?」

 

「汝を手元に置いておければ、こんな手間をかけずに済んだのだがな。掠め取られてしまったせいでこんな大事にするしかなかった」

 

 陸人を闇に堕とした時点で、罪爐の狙いは9割完遂されていた。手元に置いたアギトに手を加えてクウガを再現すれば済む簡単な話だったのに、敵に回ったせいで状況を整える必要があった。

 香やガドルを蘇らせたのも目的は同様。ダグバの器だけを都合良く呼び覚ますための臨床実験だった。

 

(まさか、ここまでの流れは全部……!)

 

「神樹を追い込めばクウガを呼び起こすしかない。潰しきらず、適度に追い込む。この加減には手間がかかったぞ……地と風のが逝ったのは予想外だったが、概ね計画通りだ」

 

 陸人と白のエルがぶつかるように戦況をコントロールし、アギトを追い込んだ上で神樹に程良く接近し、さらにクウガを復活させる。膨大な未来予知とシミュレーションの果てに、ようやく至った理想的な展開だった。

 

 

 

 

 

 

「祭り第二幕……そして、終幕だ!」

 

 罪爐が指を鳴らすと同時に、空が陰り闇が広がる。宇宙に集約した罪爐の力……四国民の絶望の心が、地表の罪爐目掛けて放射された。夥しい光量が天を切り裂き地に満ち溢れる。その様はまさに天上への階段。神話を思わせる幻想的で圧倒的な光景に、誰1人手が出せない。

 

「これだ……この力! クウガの炎、ダグバの肉体、呪いを集めて最高状態まで至ったテオスの神格に、我自身!──これでようやく全ての材料が揃ったぁ‼︎」

 

 横たわる白のエルの身体が空に浮かび上がる。天からの呪いを浴びて、死体同然だった肉体が励起していく。罪爐と白のエルが同色の光に包まれて接続する。脈動する紫の光が、両者の共鳴を如実に表していた。

 

 

 

 

 

 

「地面が揺れてる……というより」

 

「なんだろ、何か違う。まるで地球そのものが震えてるような……!」

 

 地球の拒絶を示すように、治まらない地鳴り。あってはならないナニカの顕現を、世界そのものが拒んでいた。

 

(クウガの炎に、ダグバの肉体?──罪爐の奴、まさか⁉︎)

 

 ──馬鹿な。()()は数多の偶然の結晶、いわば奇跡の産物だ。再現しようとしてできるものでは──

 

「それができるのだよ。全次元、全時代、全世界で我だけが、奇跡を確かな形にすることを許されているのだ‼︎」

 

 罪爐の光の中に呑み込まれる白のエルの肉体。テオスの内側であらゆる要素が結合する。究極のクウガの炎、ダグバの白き闇、四国400万の絶望、創世記より世界を蝕んできた罪爐の呪い。

 ひとつの世界を統治する主神であるテオスに、単独でも世界の在り方を変容させかねない巨大な力が収束していく。

 

「アイツ、西暦の焼き直しをするつもりか。俺とダグバの力を重ねて……!」

 

 ──不可能なはずだ。だが、奴はあまりにも入念に準備をしてきた。それはつまり、確かな勝算があるということ──

 

 その中でも一等混ぜるな危険、な要素がふたつ。クウガの炎とダグバの闇。それが合わさった時にどれほどの力となるか、陸人とアマダムが1番理解している。人の身を神の段階まで昇華させた──アルティメットフォーム•ユナイトの奇跡。

 

 

 

 

 

 

 

「やってみせるさ……人間(なんじ)にできて、罪爐(われ)にできないはずがない!」

 

 中身を吸い出されたダグバの肉体が乱雑に放り出され、テオスが変わる。人の皮を被った神から、戦うための戦士の姿に。黒く鋭く熱く眩い、陸人や勇者達にとってあまりに馴染み深い姿へと。

 

 

 

 

「────変、身……!────」

 

 

 

 

 破壊的な光が収まった先には、見覚えのある戦士が立っていた。

 究極のクウガを更に攻撃的に尖らせて大きくしたような荒々しい造形。

 本家にはない翼のような黒い光の奔流。それが触れた空間そのものを壊すかのように歪みと衝撃音を撒き散らしている。

 

「アレって……クウガ?」

「嘘、だってりっくんはここに!」

 

「究極のクウガ、その先にある奇跡の姿……」

 

 ──ああ。どうやら罪爐は意識的に辿り着いてしまったらしい。かつて我等が一瞬だけ踏み込んだ領域に──

 

 

 

「クク、クハハハハ……ハーッハッハッハーッ! 完成だ!」

 

 

 

『アルティメットフォーム・ジェネシス』

 

 300年前目撃した陸人の偉業を基に、罪爐が手繰り寄せた奇跡の再現。

 

 本来引き出せるクウガの力の限界が『アルティメットフォーム』

 陸人とアマダムは、かつて諦めない心とダグバの置き土産を賭け代にして億千万分の一の博打に勝ったことがある。その結果生まれた奇跡が『アルティメットフォーム・ユナイト』

 そして今罪爐は、数百年に及ぶ下準備と世界を巻き込んでの材料集めという苦労を経て、一切の偶然に頼らず奇跡を再現してみせた。しかも土台のテオスは正真正銘の神霊。ベースが人間だったユナイトとは、格も地力も遥かに上回る。それが『アルティメットフォーム・ジェネシス』

 

「先程の汝に倣って、我も名乗ろう。我が名は仮面ライダークウガ……これだけでは区別できんか。では仮面ライダークウガ・ジェネシス、とでも名乗らせてもらおう。以後お見知り置きを、人類諸君?」

 

 まさに創生神(ジェネシス)と呼ぶにふさわしい、常世に産まれてはならない絶対存在が君臨した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、似た容姿の戦士が揃ったわけだが……どちらが上か、試すとしようか?」

 

「……お前、そこまでして……」

 

「ああ。今日までの全てはこのための布石と、あとは暇潰しよ。世界の壁さえ越えて干渉できた汝等の奇跡。それを我の力で再現すれば、この世界だけではない。全次元を好きに弄べる、絶対的な力となる……!」

 

「──ふっざけんな! クウガの姿も、仮面ライダーの名前も、お前なんかが使っていいものじゃないんだよ!」

 

「っ! 待て、みんな──」

 

 罪爐が戯れに放った挑発の言葉は、陸人ではなく隣にいた勇者達の方に如実に突き刺さった。彼女達にとって救世主たるクウガの姿、そして陸人の誇りである仮面ライダーの称号は汚されざる神聖なもの。諸悪の根源が使うことを許せるはずもない。

 

「──おおあああっ!」

 

(この数で同時に攻めれば──)

 

「死人に用はないのだが……まあよい」

 

 ──"次元断層"──

 

 ジェネシスが小さく呟くと同時に、全英霊の半数──35人の勇者が取り囲むようにして同時に仕掛けた。近中遠あらゆる距離からの同時攻撃。まさに必殺のタイミングだったはずだが──

 

「なっ……止まった?」

「違う、この手応え……なんだ?」

 

「簡単に言えば、干渉不可能な次元に触れた感触だ。今の我は汝等とは違う次元に立っている」

 

 三次元に生きる人間が二次元の絵や図を好きに弄れるが、"空間+時間"で成立する四次元に関しては三次元からでは観測も干渉もできない。つまり低次元の存在からは、より高次元に位置する存在には一切干渉できないのが絶対のルールだ。

 

「試しに使ってみたが……なるほど大したものだ。物理にも摂理にも簡単に干渉してねじ曲げることができる。これなら別の世界に跳ぶのも容易だな」

 

 罪爐はそれを利用し、自らを11次元以上の高次元存在として再定義して一切の干渉を無効化した。光と音を調節してわざと存在を認識できるようにしてはいるが、その遊び心がなければ今のジェネシスは三次元からは認識することもできない高位存在となってしまっている。

 

「全員離れろ!」

 

「もう遅い」

 

 まるで三次元の人間が二次元の紙を折り曲げるように。高位次元に位置するジェネシスが指を軽く動かすだけで空間は捻じ曲がり、ワームホールが発生した。

 

「なんっ、吸い込まれる……?」

「──させるかぁぁぁっ!」

 

 地点AとBを結び、その間に存在する空間の在り方を捻じ曲げるワームホール。その引力に呑まれかけた30人以上の仲間達を、クウガは瞬間移動を連発してなんとか救出した。

 

「……ハァッ、ハァッ、ハァッ──くそ、なんだあのデタラメ……」

 

「ご、ごめん陸人……足引っ張っちゃって」

 

「いや、それよりアイツをどうにかする手を考えないと……冗談じゃないぜ。これまでの戦いがまるでママゴトだ」

 

 次元や空間自体に働きかける力。世界の成り立ちすら否定しかねないその権能は、常世に生を受けた全ての存在にとって抗いようのない能力だ。

 

 

 

 

「クク、いや済まぬな。今のは流石に一方的すぎた。あれでは戦いにもならん。これは封印しよう、汝等如きに振るうには過ぎた刃だ」

 

 そう言って罪爐は次元断層を無効化。どこかブレたように映っていたジェネシスの実像がはっきりと眼で捉えられるようになった。

 やっと手に入れた創生の力をもっと試したいらしい。少なくとも現状で今の理不尽な能力を再度使うつもりはないようだ。

 

「どこまでもふざけた奴だな、お前は!」

 

「そう、長きに渡り邪魔をしてくれた汝だ。その顔を絶望で歪めたくて堪らないのだよ我は!」

 

 軽く足踏みをひとつ。そんな軽快な動作で、周辺一帯を爆撃のような爆発が襲う。炸裂は連鎖し、ジェネシスから離れるごとにその破壊規模は広がっていき、大社本部は一等頑強な本庁舎を除いて瓦礫の山と化した。

 

 ──陸人。壁の内側で奴と戦うのは危険だ。市街地への被害も気になるが、なにより神樹が危うい──

 

「ああ、分かってる……若葉ちゃん、みんな、ごめん。俺は──」

 

「皆まで言うな。それが最善なのだな、杏?」

 

「はい。悔しいですが、私達が参戦するメリットよりも、神樹様へのリスクの方がはるかに高いと考えられます」

 

 英霊達は御神体から離れれば存在できなくなる。しかしこれ以上神樹の近くで戦うのは危険すぎる。罪爐は今のところ陸人しか目に入っていないようだが、それでも弾みで地下までブチ抜かれる可能性はある。

 

「私達は次に繋がる準備に入る。口惜しいが、直接手を貸せるのはここまでだ」

 

「次の準備? それって──」

 

「詳しくはこの場では説明しきれん。だが信じろ、陸人。私達を、今を生きる仲間達を、そして何よりお前自身を。その先に必ず勝機はあるはずだ」

 

「……分かった──みんな! 会えて嬉しかった、助けてくれてありがとう!」

 

 修羅場ど真ん中でありながら、仲間への感謝を忘れずにクウガは結界の外側へ離脱した。陸人を弄ぶことを最優先しているジェネシスも彼を追って結界の奥へ向かう。そうして、あまりにも短い再会の時が終わった。

 

「若葉ちゃん……」

 

「そんな顔をするな。私たちにはまだやるべきこと、やれることがある! もう一度陸人と話すためにも、己の使命を全うするぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 壁外の敵勢力の殲滅に当たっていた勇者部は、司令室からの危機迫った招集に戸惑いながら結界に向かっていた。

 

『動ける戦闘要員は大至急結界に集結してください。罪爐が力を増して侵攻しています!』

 

「まったく……あんだけ苦戦してやっと親玉倒したってのに、いったいどうなってんのよ?」

 

「とにかく行くわよ。幸い雑兵は一通り殲滅済み……陸人の援護に戦力を回せるわ」

 

「結界越しでもすごいプレッシャーを感じます。園子さん、これって……」

 

「そだね〜いっつん。巫女でもない私達でも感じるほど、分かりやすい力の塊。これは罪爐の計画って奴が進んだのかもしれないね〜」

 

「…………」

 

「東郷さん、大丈夫?」

 

「友奈ちゃん、私……震えが止まらないの。あの敵は強すぎる、いくらリクでも……」

 

 そう呟く美森は震えていた。身体も指先も、前を見据える瞳さえも。彼女の内に宿る巫女の素養によって、他の勇者以上に鋭敏に敵の脅威を感じ取っているのだろう。

 友奈はそんな親友の手を取って、恐怖を和らげるように優しく握りしめた。

 

「大丈夫だよ。りっくんは負けない、約束してくれたでしょ? それに私達だっている。みんなでりっくんを守れば、あの人は絶対、最後には帰ってきてくれるよ」

 

 友奈はこの言葉を心からの本心として発した。それだけ陸人を、自分たちと彼の絆を信じていた。それから1時間もしない後に、自分の希望的観測を後悔することになるとは知らずに。

 

 

 

 

(……え、アレって)

 

 結界の間近まで到達した所で、ふと壁の上を見上げた友奈は空を舞う影を見つけた。その影は人間大ではあったが、明らかに人外じみたシルエットをしていた。

 

「もしかして……!」

 

「ちょっと、友奈⁉︎」

 

「みんなは先に行ってください! 私もすぐに追いつきます!」

 

 戸惑う仲間を他所に、影が落ちていった地点へ走る友奈。自分の中の直感がアレを追えと叫んでいる。そして何より、先程から異形の魔女から譲り受けた指輪が脈打つように熱を浴びているのだ。

 

 ── もし必要になれば自ずと使い方が分かるよう、指輪に仕込んでおいた。それを使うことを運命が選んだなら、何もせずともその機会が訪れるだろう──

 

(バルバさんが言ってた"運命"が、きっとこの先にあるはず!)

 

 

 

 

 

 

 走って奔って疾った先に友奈が見つけたのは、敵幹部のうちの一体。そのガワとも言うべき肉体だけの抜け殻。

 

「アレって、西暦でりっくんが戦ったっていう……たしか、ダグバ?」

 

 指輪の導きで見つけた悪魔の肉体。目覚めさせるための鍵は、既に勇者の手の中にあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クウガの拳を横に回って回避したジェネシスが、回転の勢いを利用して裏拳でカウンター。殴った当人としては軽く小突く程度の加減だったが、クウガの頭部は大地を抉り取るほどの勢いで思い切り沈んだ。

 

「なんだ、この力……!」

 

「まずはこの身体で汝をいたぶる感触を味わいたい……そう簡単に死んでくれるなよ?」

 

 クウガの頭部を鷲掴み、結界に叩きつけたまま引き回して痛めつける。四国を守る頑強な防壁を玩具のように削り取る腕力が、クウガの衝角をへし折った。

 

「ぐっ、ぁぁぁぁ……!」

 

「引き回しの刑の次は……よし、跳ねてもらおうか」

 

 あまりの激痛に脱力してしまったクウガをサッカーボールのような勢いで蹴り飛ばす。雲を突き抜けてまだ上へと跳ねていくクウガ。既に意識は半分なくなっている。

 

「球遊びというのはこんな感覚なのか……案外楽しいものだな、人間の遊戯も」

 

(マズい、このままじゃ──)

 

 空間転移でクウガの上に移動して待ち構えていたジェネシスが、双拳を振り下ろして真下に叩き落とす。ピンボールじみた急角度で跳ね返されたクウガは地表に落下、巨大なクレーターを作り上げた。

 

「まだだ。まだ付き合ってもらわねば、ここまでの労力にまるで見合わんぞ!」

 

「……調、子に……のるなよ!」

 

 身体の軋みを無視して、倒れたクウガが右腕を伸ばす。"超自然発火能力"──数えきれない超常能力を使えるアルティメットフォームにとって最も使い慣れた破壊的な異能が、上空のジェネシスを襲う。

 

「そうだ、もっと抵抗してくれ……これまでのように、でなくば面白くない!」

 

 ──"絶対零度"──

 

 陸人を上回る罪爐の異能が発動、大気を燃やす爆炎が一瞬の内に凍り付いていく。クウガから放たれた業火はそのままのルートを伝って返され、氷結の槍が突き刺さった。氷に触れた端から氷結が広がり、わずか数秒でクウガの全身は氷の中に封じ込められてしまった。

 

「ふふ、世界一豪奢な氷像の完成だ……これを壊した時、汝はまだ生きていられるか?」

 

 真下の氷塊に急降下。氷ごと踏み砕かんとするジェネシス。クウガも発火能力でなんとか脱出しようとしているが、到底間に合わない。

 

(動けない……この氷硬すぎる! 間に合わ──)

 

 

 

 

 

「へぇ、思った以上に面白いことになってるみたいだね」

 

 そんな窮地を救ったのは、誰もが予想し得ない闖入者。氷塊に一直線に迫るジェネシスに真横から突撃し、その軌道を強引にねじ曲げてクウガを助けた。

 

「む……汝は……」

 

「やぁ、すごいね君。一目で"ボクより強い"って分かる相手なんて初めてだよ」

 

 挨拶がわり、と言わんばかりに飛んできた拳にジェネシスもクロスカウンターで合わせる。闖入者の拳は避けられ、返す拳でその異様に白い身体が吹き飛ばされた。

 

「アッハハ、凄い凄い! ボクがまるで子供扱いだ!」

 

「……お前、なんで……」

 

 やっと氷塊を溶かして脱出したクウガの隣に着地した白い闖入者。それは陸人にとって非常に因縁深い相手だった。

 

「やあクウガ……いや、今はアギトでもあるんだっけ? 面倒だからリクト、と呼ぼうか。久しぶりだね」

 

 明らかに警戒している陸人にも朗らかに声をかける少年じみた態度。

 ジェネシスの圧倒的な力を前にしても歓喜しかしない戦闘狂的なパーソナリティ。

 目が痛むほどに白すぎるボディと、その中に収まりきらない破壊的な闇の影。

 300年前、今と同じ姿をしたクウガが死力を尽くして打倒した悪魔がそこにいた。

 

『ン・ダグバ・ゼバ』

 

 古代において殺戮ゲームに興じて幾多の死者を出した戦闘種族、グロンギ最強の戦士。西暦最後の戦闘で究極のクウガと死闘を演じた生粋の戦闘狂が、宿敵を追うように神世紀に再臨した。

 

 

 

 

「何が狙いだ……と言っても、お前から"戦いたい"以外の返事が来るとは思えないが」

 

「さすがリクト、よく分かってるじゃないか。確かに君とはもう一度遊びたいよ。でもそれは後回しだ」

 

「……なに?」

 

 仮面越しでも、陸人が目を丸くして驚いたのが伝わる。目の前にいる悪魔に、状況を鑑みて我欲を控えるような殊勝さがあるとは思えなかった。

 

「あっちのクウガはもっと強そうだ。それにしてはまったくソソられないのが不思議だけど……ガドルやバルバを好きに利用してたのもアレでいいんだよね?」

 

「あ、ああ……奴はこれまでの全ての元凶だ。神世紀だけじゃない、西暦で俺とお前が戦った時からアイツはずっと自分の目的のために暗躍してたんだ」

 

「なるほど、相当気の長いタヌキがいたわけだ」

 

 疲労が溜まり、膝をつくクウガ。ダグバはそんな彼に無言のまま手を差し伸べる。

 

「……どういうつもりだ?」

 

「言ったろ? まずはあっちと遊ぶって。君も譲れない理由があるなら、一緒にやるのも面白いと思ってさ」

 

 これまたダグバの口から飛び出すとは思えない言葉の数々。実際に拳を交えて彼の異常性を肌で感じ取った経験がある陸人にとって、そうあっさり頷ける言葉ではない。

 

「一度死んだら随分と性格変わったな。以前のお前なら俺と罪爐まとめて敵に回していたと思うが?」

 

「それもいいかと思ったけどね。らしくないこと言われてしまったから……たまには"ン"らしく振る舞ってみようと思っただけさ」

 

 陸人の挑発的な発言にも顔色を変えない。これまでの気分屋で快楽主義な戦闘狂とは違う。ここに来るまでに何かしら心境を一変させる出来事があったらしい。

 クウガは暫し逡巡した後、ダグバの手を払い除けて自力で立ち上がった。

 

「いいだろう。ただし、俺達は仲間じゃない。お前も分かってるだろうが、お互い先に倒す相手がいるってだけだ。妙なマネしたら……」

 

「分かってるよ。むしろそれくらいがボク達にはちょうどいい、だろう?」

 

 一時的な休戦協定が結ばれたと同時に、ジェネシスが派手に土煙を撒き散らして着地した。

 

「ダグバ……汝は間違っても目覚めんように手を加えておいたのだがな」

 

「らしいね。でも君はボク個人のことは警戒しても、ボク達のことは完全に侮っていた。ボクが今ここにいるのはその油断が産んだ結果だよ」

 

「……そういうことか、おおよそ理解したぞ。しかし少しばかり遅かったな。我がこの力を手に入れる前であれば、汝も加われば勝てたかもしれんが」

 

「黙れ。こんな奴がいようがいまいが関係ない。人間は人間の力で、必ずお前を倒す!」

 

 クウガが気合で頭部の傷を塞ぎ、ダグバが背中の装飾を翻して闘気を高める。奇跡の産物を例外とすれば、この世界の歴史上最も強い生物2人が並び立つ格好となった。

 

「クウガ……ダグバ……試運転の相手としては申し分ないか」

 

「足引っ張るようなら諸共に潰すからな」

 

「それもまた愉しそうだけど、できもしないことは言うもんじゃないよ」

 

「フン、その言葉……忘れるなよ!」

 

「ボクが殺す前に死んだら許さないよ、リクト!」

 

 

 

 

 黒と白。守護と破壊。英雄と悪魔。両極端な二つの道を、それぞれ極め抜いた戦士が並び、最低最悪の奇跡の産物に立ち向かう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




ダグバ復活時のアレコレは次回に挙げる予定です。

感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに。


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