A New Hero. A Next Legend   作:二人で一人の探偵

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罪爐のこれまでは全て創世神に至るためでした。彼岸成就したヤツは絶好調です。
ちなみに本作はあの2人の姉弟説を採用しています。

二話に区切った方が良かったかも。過去最長な上にやりたい放題すぎてとっ散らかりました。

 


嘆きのリフレイン

 数多の命を奪った罪だらけの『ン・ダグバ・ゼバ』の魂は死後、当然のように地獄の最下層に送られた。罪過の焔に焼かれ続ける日々。そんな罪人はある時唐突に常世に呼び戻された。

 

「……これって……あれ? バルバ?」

 

 ──成功したようだな。結城友奈は機を活かせたか──

 

 自身の器に戻ったダグバの魂が最初に認識したのは、霞のようにぼやけて映る同胞にして()()()でもある『ラ・バルバ・デ』の姿。

 

「ああ、なるほど……君も神様に叩き起こされたのか。ボクに至っては完全に死んでたはずなのに」

 

 ──正確には少々事情が異なるがな。お前を引っ張ったのは私の意思だ──

 

 バルバが事態の概要を説明する。それを興味もなさげに聞き流すダグバ。強者との戦闘以外には須らく関心が薄い彼らしい。

 

「……で? なんだって今更ボクを呼んだのさ。人間と神様の問題だろう」

 

 ──確かにな。グロンギにもお前にも直接関係はない。死者である我々が首を突っ込むこと自体が道理としては正しくないかもしれん。しかし、お前はそれでいいのか?──

 

「……なんの話?」

 

 ──あそこにはクウガがいる。唯一お前に土をつけた英雄が……敗者が地獄で燻っている間にも、勝者は挑戦と成長を続けている。お前達の差は広がる一方だな──

 

「へえ。でもあの時戦ったのはクウガだけじゃなかった。1人相手なら、ボクが勝ってたと思うけど」

 

 ──そう思うのは勝手だが、ここにあるのはダグバが負けたという事実のみ。今のお前がどれだけ言葉を尽くしても、負け犬の遠吠え以外のなんでもない──

 

 冷酷に思えるほど冷静な態度を崩さない姉にしては、珍しく挑発的な言葉の数々。共に死者である現状、誰よりも気分屋である弟を煽って何がしたいのだろうか。

 

 ──そしてもうひとつ、強い力を感じるだろう? アレが今代におけるクウガの敵だ。明らかに強い……クウガより、お前よりもな──

 

「……本当だ。どんな手を使ったのか、いろいろな気配が混ざり合ってすごい力に至ってる」

 

 ──勝ち目がないのはクウガも承知しているだろうが、それでも逃げない。だからこそ、奴は死ぬだろう……それで良いのか?──

 

「ようやく話が見えてきたよ。ボクにあそこに混ざれって? 気分じゃないなぁ」

 

 ダグバらしからぬ返答。しかしそれも無理はない。古代──自分の時代では不意打ちで封印されたせいで消化不良だったが、西暦の決着は満足のいくものだった。生きているだけで湧き上がり、自分でも抑えられない破壊衝動が抜けていくあの開放感。負けることも死ぬこともなかった無敵の悪魔にとって、『死』というのはなんとも心地良い終わりだった。

 

「ボクのゲゲルはもう終わってるんだよ。負けて死んだ奴が出しゃばるのは気乗りしないかな」

 

 ──そうか、それは残念だ。私はお前が嗤って戦う姿を見るのが嫌いではなかったがな──

 

「へえ?」

 

 ──圧倒的な力を容赦無く振りかざし、誰にも平等に死を振りまく悪魔。そこには善意も悪意もなく、ただ純粋な愉悦のみ。ダグバの戦いには、他の誰にもない美しさがあった──

 

 バルバが生前このような話をした事は一度もない。勝ち上がるだけ勝ち上がり、『ラ』になってからは進行役とチャンピオンという関係性以外で接することもなかった。

 

 ──私はもう一度お前が戦っているところが見たい。西暦のクウガとの決戦は見損ねたのでな……心から愉しむお前の顔を、ダグバが全てを蹂躙する姿を──

 

「君は……」

 

 ──そして何より、我々の頂点に君臨する『ン』が、この世の頂点にも至る姿を見届けたい。『ラ』としての私の本音だ──

 

「……!」

 

 ダグバはそんな風に考えたことがなかった。ただ勝ち続けていくうちに到達した立ち位置に過ぎない。グロンギとしての同族意識やプライドなどありはしないし、何なら嬉々として同族を殺して回ったこともある。

 

「そうか……ボクは、グロンギの頂点。そうだったね」

 

 それでも、数は少ないが関わりがあった相手のことは覚えている。

 戦う事に誇りとこだわりを持って、自分に挑もうと追いかけてきてくれた武人気質の彼。

 そして何かあるたびに我儘に付き合ってくれた、管理者にして実の姉。

 

「まあ、そこまで言われて黙ってるのもボクらしくないかな」

 

 そんな彼らを無理やり叩き起こして、利用して、弄んだ下衆がいる。ソイツはあの眩しい太陽のような英雄の陽を消そうとしているらしい。

 ン・ダグバ・ゼバは考える。自分を倒した彼が、卑劣な悪霊に潰されるというのはどうにも気分が悪い。

 

「やってみようか。負けっぱなしもシャクだし、その罪爐ってのも気に入らない」

 

 ──真に最強の存在は、クウガでもアギトでも罪爐でもない。証明してみせろ。あの時代、我々の誰もが恐れ慄き、どうしようもなく憧れた究極の闇……その強さを──

 

「今回は乗せられてあげるよ。そっちの方が……タノシソウダ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダグバの意識が浮上する。まず飛び込んできたのは目を丸くして驚く桜色の少女の顔。その手にあるのはバルバの指輪。それを使ってダグバを呼び起こしたらしい。

 

「君は、クウガの仲間?」

 

「クウガ?……えっと、はい! あなたは……ダグバさん、で合ってますか?」

 

「そうだよ。よく知ってるね」

 

「りっくん……クウガから聞きました。あなたは、クウガの敵ですか? それとも……」

 

「そうだなぁ、ボクは……」

 

 言葉を選ぶダグバ。気まずそうに目を泳がせる友奈。2人の間に流れる微妙な空気。そこに、馴染み深い音と臭いが飛び込んでくる。

 

「っ! あの爆発……りっくん?」

 

「盛り上がってるね。早く行かないと出遅れそうだ」

 

 大量の爆音と煙の臭い。ダグバが幾度もまき散らしてきた破壊の気配。白い悪魔の闘争心を刺激するには十分な演出だった。

 

「さっきの質問に答えると……ボクはとりあえず、あの破壊魔の敵かな」

 

 ダグバは嗤う、どんな時でも。生きることは戦うこと。戦いはダグバの最高の娯楽。嗤って戦うことこそが、ン・ダグバ・ゼバの全てだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「右から仕掛けろ!」

「ヤダね、断る!」

「あーそうかい!」

 

「クハッ、まさか戦場で漫才が観られるとは……愉快愉快!」

 

 言葉だけ聞くと噛み合っているようにはとても思えないが、その実クウガとダグバは初めてにしてはうまく連携できていた。天邪鬼なのか楽しんでいるのか、悉く陸人の指示の逆を行くダグバ。対する陸人の方もそれを前提に指示を出しながら逆に回って動くようにしているため、結果としてピッタリ嵌っている。

 

「硬いね……殴っても斬ってもまるで手応えがない!」

「さっきのおかしな能力は使ってない……純粋に装甲の強度が桁違いってことか?」

 

 腕が二本に足が二本、両脚で立って頭部でモノを見る。基本的な性質は人間と同様だが、ジェネシスの刺々しく膨張したフォルムは人と獣の中間点と言える。

 軽く腕を振るっただけで、直接触れてもいない大地が裂けて大気に穴が開く。そんな規格外を敵に回して、クウガとダグバはよくやっていた。

 創世神を相手に数分もの間、()()()()()()()()()()()()のだから。

 

「羽虫の戯れは眺める分には愉快だが、チクチクと突っかかられ続けると流石に不快よな」

 

 罪爐の言葉を書き終えた直後、陸人は急に胸が軽くなったような、奇妙な開放感を味わった。

 

「……えっ、な……⁉︎」

「クウガ!」

 

 目線を下に落とすと、黒い胸部装甲に深々と広がる真一文字の傷。対峙するジェネシスの手には、何故現出を見逃したのかも分からないほど巨大で異様な獲物──3本の刃を備えた大鎌が握られていた。

 

「この手応え……やはり己が手で刈り取る感触こそ至高! まだまだ試し斬りさせてもらおうぞ!」

 

 明らかに本人の身の丈以上に長い大鎌を軽々と振り回すジェネシス。横薙ぎの一閃は2人を掠めるだけで終わったが、この鎌の真骨頂は斬れ味だけではない。

 

「なんだ、溶ける……?」

「この炎、消せない?」

 

 二本目の刃が掠めたクウガの肘部の衝角は一瞬で腐食してドロドロに溶けた。

 三本目に斬り飛ばされたダグバのマントのような装飾は燃え盛り、ダグバでもその炎は消せない。結局両者とも攻撃を受けた部分を切り離すことでしか対応できなかった。

 

「ククッ、これぞ我の獄鎌──婆娑羅(ばさら)。一振りで三種の死を与える。便利であろう?」

 

 罪爐の呪いと殺意を収束、圧縮して形に変えた獄鎌・婆娑羅。その力にも使い手の悪意が詰まっている。

 

 1番前、最も大きな刃はひたすらに斬れ味を高めた斬殺の牙。クウガの装甲すら問答無用で斬り落としたその威力、常世に斬れぬものはない。

 

 真ん中、二番目の刃には罪爐の呪いを物理的な有害物質へと変換した致命の毒が塗布された毒殺の牙。一滴で山ひとつ滅ぼせるほどの繁殖力と腐食速度を誇る。

 

 最後の三本目には獄炎の仕込みがされている。煉獄の焔の素をたっぷりと染み込ませて斬撃の摩擦で着火、炎は一瞬で対象に燃え移りそのまま焼き尽くす焼殺の牙。

 

「これで斬った相手は自分が何に苦しんでいるのか、どのように殺されたのか理解できないまま絶命する。その困惑の様がなんとも滑稽でな。我もコイツは気に入っているのだ」

 

 それぞれが必殺ならば、三本の刃を一纏めにすることには何一つメリットがない。罪爐らしい遊びの要素に偏った、嗜虐欲求を満たすこと以外に一切の利がない趣味の凶器だ。

 

「さあ、汝等ならば一度や二度では死なんだろう? もっと我を愉しませてくれ!」

 

「悪趣味にも限度があるだろうが!」

「ゲゲルでもないのに自分を縛って……気に入らないなあ!」

 

 婆娑羅は武器としてはあまり優れた代物ではない。一撃の威力は全次元含めても随一だが、刃が多すぎて重量バランスが悪く取り回しに難がある。攻撃範囲は広いがそもそも一本の刃を避けられる相手なら三本あっても回避はできる。逆もまた然りで、複数の刃が同方向にあってもさして有意には働かない。

 間合いが長すぎるせいで懐に空く死角も相当に広い。飛び込まれれば隙だらけだ。屈指の戦巧者である2人がこの弱点を見逃すはずもない。

 

「ハハハ、踊れ踊れぇ!」

 

「クッソ、速すぎる……!」

「踏み込めない!」

 

 それでも尚、ジェネシスが一方的に2人を追い立てていられるのは、彼我の実力に武器の欠陥を補って余りあるほどの開きがあるからだ。

 ジェネシスは特に考えず、新しい玩具を与えられた子供のように獲物を振り回しているだけ。そんな大雑把な振りでも、行動速度において大きく劣っているクウガとダグバには避けられない絶対の壁となり得る。

 

 中の罪爐には戦士としての才能など欠片もない。クウガやダグバのように長く戦場に身を置いて培った経験もない。

 それでもジェネシスが一方的に押しているのは、1人だけ立っている次元が異なるから。ジェネシスがあまりにも速いから、2人は一向に追いつけない。ジェネシスが圧倒的に硬いから、2人は一切ダメージを与えられない。ジェネシスが桁違いに強いから、2人はその攻撃でどんどん追い込まれている。

 

 

 

 

 

 

 

「勇者部──」

「防人──」

 

「「突撃っ──‼︎」」

 

 レベルの違う攻防についていけず、周囲を囲みながら乱入の機を伺っていた人類側の全戦力が一斉に突貫。クウガと、ついでにダグバを救い出すべく同時に仕掛けた。

 

「やはり祭りはこうでなくてはな……花のように散れ!」

 

 ジェネシスの背中から絶えず放出され続ける翼状の闇が、天空目掛けて迸り数十本に枝分かれを始めた。流星のように天から降り注ぐ闇の槍。一本だけでも結界を突き破るだけの威力を秘めた破壊の暴風雨が吹き荒れる。

 

「みんな逃げろ! 散開だ!」

 

「でも、りっくんが──!」

「早く!」

 

「……もう遅い!」

 

 ──天鳴轟槍──

 

 

 

 直後、夥しい量の闇の槍が着弾。地殻を破壊する勢いで炸裂した。

 半径10kmにも及ぶ爆撃は、敵対勢力の身体に深刻なダメージを与え、全員の意識を根こそぎ刈り取った。

 

「ぐ……みんな!」

 

「ハッ……まさかボクの炎より手早く、これだけの範囲を破壊し尽くせるとは」

 

 まさに天変地異。クウガとダグバを除く全員が倒れ伏し、いくつもの地割れやクレーターで溢れた大地。台風と大地震と山火事と大津波と土砂崩れと噴火が一度に起きたような、地獄と呼ぶにふさわしい光景。凄惨な世界を一瞬で作り上げたジェネシスは何処までも愉快そうに嗤っている。

 

「やはり凡俗ではこの程度か。我と遊ぶことができるのは汝等だけのようだ」

 

 補給を受けて万全の態勢だったG3-Xも、防人達も。

 休息を取って完全復活したギルスも、G4-Bも。

 天の逆手を持つ友奈も、彼女を擁する勇者部も。

 皆等しくジェネシスの天鳴轟槍を受けて地に沈められた。なんとか直撃は避けたのか全員息はあるが、このままでは余波だけでも死に至る危険は十分ある。

 

「……ぁ、ぐぅ……!」

「……冗談キツイぜ……こんな怪物、どう、やって……!」

「リク……だめ、逃げ……」

 

「みんな……!」

 

 かろうじて意識を保っている数人も、身体を起こすこともできない様子。それほどジェネシスの巻き起こした破壊は圧倒的で一方的で完璧だった。

 

「ダグバ、アイツをみんなから引き離す!」

 

「ええー? 面倒、と言いたいけど合わせてあげるよ。じゃないと君まともに戦えなさそうだしね」

 

 急速反転して距離を取る2人。仲間が倒れているど真ん中で攻防を繰り返すわけにはいかない。最早クウガとダグバをどういたぶるかという点しか見ていないジェネシスもあっさりとついていく。

 

「さあさあ、ダンスの続きと洒落込もうか!」

 

「調子に乗ってるとケガするよ? その鎌の間合いにはもう慣れた!」

 

 十分距離を立ったのを見計らって、ダグバが仕掛ける。速度差は如何ともし難いが、仕切り直しのタイミングは最大の狙い目だ。先手を取って踏み込むことさえできれば──

 

「獲った!」

「馬鹿な──なんてな!」

 

 大振り直後の一瞬の隙。大鎌の刃の内側に入り込んだダグバの胸部に、毒殺の刃が突き刺さる。一瞬前まで何もなかった鎌の反対側、柄の部分から突如として三本の刃が生えてきたのだ。

 

「ガフッ‼︎──なるほど、自分の一部から造った武器だったっけ?」

 

「ああ。我は無形、我は無限。故に……形質も質量も自由自在よ」

 

「ダグバ!」

 

 クウガの横槍で離れる両者。自分の肉体組成すら自在に操れるダグバでも、今の毒はそう簡単には分解できない。一気に動きが悪くなった。

 

「ここからだ、ダンスの曲調を変えていこう……目端を変えねば客は食いつかんぞ!」

 

 S字状に両端から刃を生やした婆娑羅を構えて踊るように回転しながら攻め立てるジェネシス。円舞のような優美で曲線的なステップがクウガを翻弄、防御も回避もできない状況に追い込まれていく。ただでさえスピード差は圧倒的。動きの先読みで補っていた分も、ここにきて通用しなくなってしまった。

 

(左……右……左……いや、右⁉︎)

 

「残念、下だ」

 

 婆娑羅を地面に突き立て、足元から刃を生やす不意打ちの斬撃。先の横一文字と対になるような縦一文字の斬撃痕がクウガの胸に刻まれる。

 更にジェネシスは柄を切り離して婆娑羅を分割。シャイニングカリバーのように二刀流にして構え直した。

 

「素っ首、貰い受ける!」

 

 左右から首を挟み切るように迫る二刀の鎌。獲物の変形に気を取られた陸人は完全に反応が遅れていた。

 

「なーにやってるのさ!」

 

 首が胴体と別れる寸前、ダグバの装飾が鞭のように伸びてクウガの足首をからめ取る。そのまま引っ張られてクウガは転倒、一息に上体を倒してギロチンを回避した。

 

「──っ、おおおらぁぁぁ!」

 

 鎌の真下に潜り込む体勢となったクウガは、掬い上げるように刃を蹴り上げる。初めて見出したジェネシスの決定的な隙。攻防の最中の一瞬の空白。そこに身を滑り込ませたクウガが拳を叩き込んだ。

 

「……嘘だろ」

 

「戯れでも……そろそろ気は済んだかな?」

 

 正面から眉間に拳は直撃した。それでもジェネシスは微動だにせず、その身に一切ダメージは通っていない。

 一歩間違えれば絶命、という綱渡りを何百回も潜り抜けた攻防の果てにようやく掴んだ勝機だった。タイミング、踏み込み、拳の振り、全て完璧だった。にも関わらず敵は無傷。ジェネシスには力があった。"必殺"や"必勝"でさえも"無意味"に変えてしまう、絶対的な力が。

 

「もっと演目を派手にしなくてはつまらんな。趣向を変えるか」

 

 両腕の鎌を振るってクウガを引き剥がすジェネシス。間合いを開くついでと言わんばかりの気安い動作で胸部に斜め十字を刻み込む。ちょうど"米"印を描くように、陸人の魂を守る装甲は完膚なきまでに斬り刻まれていった。

 

(演目を変える?……アイツ、今度は何を?)

 

「人類諸君、星は好きかな?」

 

 クウガ達だけでなく、この場にはいない民衆に向けて言葉を投げかける罪爐。一方的な戦闘を見ているしかできない民間人達の心は不安に苛まれていた。ここに来て直接の声がけ。陸人でなくとも嫌な予感が止まらない。

 

「我は大好きだ。夜空に輝く星々は、常世の広さを教えてくれる。ここを制圧した後には他の星も堕としてみたい。この姿を得て果たすつもりでいた目的のひとつがそれよ」

 

 罪爐はずっと民衆の目というものを意識していた。最初にバルバの身体で敗北したのは束の間の希望を持たせるため。最終形態、クウガ・ジェネシスが陸人のクウガに酷似しているのは、希望の象徴たる仮面ライダーの姿形で四国を滅ぼすことでセンセーショナルな絶望をもたらすため。

 

「……というわけで、我はこれから星を落とす。場所は……そうだな。四国結界の中央にしようか。大方、避難場所もその付近に固めているのだろう?」

 

 全方位から仕掛けてくる可能性がある限り、壁外からの侵攻から遠ざかるには中央しかない。罪爐は人間の心理──不安や恐怖からは少しでも距離を取りたがる性質を理解していた。

 

「逃げ惑うも良し、座して死を待つも良しだ。最後の数十秒、楽しめよ」

 

 ──天球支配──

 

 ジェネシスが指をひとつ鳴らすと、突如として高高度に巨大な岩石が出現した。遠く木星圏のアステロイドベルトから引っ張ってきた小惑星、そのひとつが四国直撃コースを辿って急速落下している。

 

「さあどうする? 仮面ライダー。その身体であの質量と対峙すればどうなるか分からんぞ?……ああ、あの岩の塊を処理するまで我は直接手は出さないでおいてやろう。これも余興だ」

 

「お前……お前はいつもそうやって、人の命を……!」

 

「フフッ、我に怒りをぶつけている暇があるのか?」

 

「クソ……! ダグバ、頼む!」

 

「あ〜あ、さっきからいつも気にしないようなことばかり……ホント面倒臭いなぁ!」

 

 傷だらけの身体を押して飛ぶクウガ。毒でまだ不調のダグバも後に続く。2人は四国に向かうコース上に移動し、小惑星を迎え撃つ。

 

「あのデカさだとボクでも一瞬しか保たないかもよ?」

 

「分かってる……その一瞬で決める!」

 

 ダグバが先行して小惑星の上側に回り込む。超高速で落下する岩石になんとか追いすがり、右手が微かに触れた。

 

(よし……ここまで弄れば……!)

 

 グロンギ最高のモーフィングパワーを持つダグバ。彼なら一瞬でも触れてしまえば大抵の物質は変質させることができる。大気圏をも超えてきた小惑星の耐衝撃性を減衰させることも容易だ。

 

「クウガ!」

 

「ああ、助かったぜ……砕けろぉぉぉっ!」

 

 迫りくる小惑星に、待ち構えていたクウガの全霊の貫手が突き刺さる。落雷のような勢いと、噴火のような爆発力を併せ持った必殺の一撃が岩の塊を突き抜ける。直径60kmを超える天体の奥深くまで衝撃が走り、岩石は爆砕、飛散した。

 

「フゥ──、ぎりぎり何とかなったか」

 

「へえ、やるじゃないか。リクト」

 

 究極の戦闘能力と、最高峰の性質変換能力を持つ2人だからこそできた連携攻撃。一方が自分たちに優位になる性質変化を行い、もう一方が全力で相手を粉砕する。クウガとダグバ以外には真似できないコンビネーションだ。

 

(四国の直上に入る前に迎撃できた……結界を突き破るほど大きな破片が降り注ぐこともないはず)

 

「ハッ、英雄様は苦労が多いな? 身ひとつで戦う中でそんなことにまで頭を回さねばならんとは」

 

「っ! 罪爐──」

 

「遅い!」

 

 人類の危機を紙一重で回避した陸人は、一瞬気を抜いてしまった。そこを目敏く狙って転移してきたジェネシスの回し蹴りを受けて地面に落下していく。

 

「ああもう! 何でもありだな君は!」

 

「それは当然だ……既に名乗ったはずだがな」

 

 背後から殴りかかるダグバも容易くあしらい、万力のような握力でその頭部を握り潰すジェネシス。頭蓋が粉砕しそうな圧力に、流石のダグバも身動きが取れない。

 

「我は創世の神……この世界において我にできないことはない!」

 

「……──クッ、ソ……!」

 

 ガードの上から何度も蹴りを叩き込む。一発でも必殺の威力を、秒間600発の速度で同じ位置に撃ち込まれたダグバの防御は一瞬で砕かれた。

 

「先ずはクウガだ。汝は暫く消えておれ!」

 

 渾身のキックで吹き飛ばされたダグバ。一瞬で地平線の奥まで跳ね飛んでいき、星のように視界から消えた。

 

 

 

 

「……ダグバ! くっそぉぉぉ!」

 

「そうだ来い! 勝てぬと分かって尚挑むその姿勢! それこそ我が手ずから潰したいと願った邪魔者の姿よ!」

 

 ジェネシス降臨から数十分。敵はいまだに傷らしい傷も、消耗も全くないまま嗤っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……リ、ク……!」

 

 一瞬で蹴散らされた勇者・防人連合の1人。東郷美森の勇者としての特技は狙撃。それもうつ伏せの体勢からじっくり狙って撃ち抜く伏せ撃ちが最も得意とする戦闘スタイルだ。もともと足が健在でなかった頃に確立した戦術で、機動力を重視するアンノウン戦ではあまり使われなかったが、これには隠密性や狙撃安定性の他にも利点がある。

 

(身体の芯が折られた感覚……でも、まだやれる!)

 

 単純だが、立たなくてもいいということ。美森の他にも意識を残している戦士は何人かいるが、彼らも同じく立ち上がるだけの力が残っていない。だが美森だけは寝そべったままで、戦場から遠く離れたここからでもできることがある。照準に黒い翼を生やしたクウガ・ジェネシスを捉えて、大きく深呼吸。

 

(満開分の出力は使えなくても、今出せる精一杯の威力で……)

 

 開戦前にかぐやに命じられた『東郷美森と乃木園子の満開禁止』

 この土壇場において、何度も解禁してしまおうかと考えたが、あの筆頭神子が意味もなく特令を出すとも思えない。彼女をよく知る園子の賛同も信じて、今もその命令を守っている。

 

(これで倒せるとは思ってない……せめて、少しでもリクの助けに!)

 

 背後からの不意打ちで一瞬でも動きが止まれば儲け物。そんな健気な一撃は、寸分違わずジェネシスの背中に向かい──黒い翼に叩き落とされた。

 

「っ! 自動防御機構⁉︎」

 

 ジェネシスの挙動を見る限り、この距離の狙撃を察知していたようには思えないし、迎撃し終えた今になってもこちらを気にするそぶりもない。半永久的にエネルギーを放出し続けている翼が本体とは別の独立意思で動き、美森の狙撃を撃ち落としたのだ。

 

「マズい、こっちに来る。何の役にも立てないで……!」

 

 青い光弾を弾いた右の黒翼が蠢き、無粋な邪魔者目掛けて飛んできた。足腰立たない今の彼女では、先のように直撃を避けることもできないだろう。美森はせめてもの意地で、迫りくる恐怖から目を逸らさず待ち構え──

 

「……さ、せ……ないっ……‼︎」

 

 美森の危機を直感で悟って飛んできたクウガが、左脚を犠牲に黒翼を止めた勇姿を目撃した。

 

「リクッ!」

 

「美森ちゃん……!」

 

 必殺のアルティメットキックでさえも力負けした。それもジェネシスの無意識下での迎撃行動相手に。膝から両断された黒い脚部が空を舞う。

 

「急に消えたと思えば、足手纏いのお守りか? もっと我に集中してもらいたいものだ」

 

「抜かせ……!」

 

 斬り飛ばされた左脚を掴み、挑発するように振り回すジェネシス。クウガは背後の美森を回収して離脱体勢を取る。

 

「逃すと思うか?」

 

「無策で逃げると思うか?」

 

 クウガやダグバのモーフィングパワ──―物質の形状や性質を変化させる特殊能力は、ある程度の距離ならば遠隔でも干渉できる。そして対象の物質は選ばない……たとえ自らの肉体でも。

 

「弾けろ、罪爐!」

 

 ジェネシスの手中にあったクウガの左脚が炸裂。膨大な爆風と煙幕を巻き起こして爆散した。核弾頭クラスの大爆発を間近で受けた上に視界も塞がれたジェネシスは追撃を停止。陸人達の離脱を許した。

 

(干渉能力の速度、精度、強度も上がっている……奴はまだ進化するということか、愉しませてくれる)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「リク……リク大丈夫?」

 

「……スゥ──、フゥ──……ああ、まだやれる。美森ちゃんはみんなを集めて撤退させてくれ。このままここにいたら危険だ」

 

「そんな⁉︎ あんな怪物の相手をリク達だけに任せるなんて」

 

「だが、奴の異次元の強さは今ので身に染みただろ? 正直俺もみんなをフォローする余裕はないんだ」

 

 いつもの陸人ならまず言わない言葉。直接口にしないだけで、美森は彼の本意を正しく汲み取っていた。

 "足手纏いだから退がれ"──ずっと仲間の絆で勝利を掴んできた勇者部の1人として、陸人を想う者の1人として聞き入れ難い……しかし聞き入れるしかない命令だった。

 

「でも、リク……あなたその脚じゃ」

 

「なーに、2年前の鋼也にもできたんだ。俺にも同じことができたって、不思議じゃない……!」

 

 左脚の切断面に爪を立てて刺激を送り、細胞を活性化。あり得ない超速細胞分裂で、自ら爆砕したはずの脚が再生した。動かした具合も問題なし。最早今の陸人は、人間の常識が通用しないほど変質しきっていた。

 

「リク……!」

 

「みんなを頼むよ、美森ちゃん」

 

「……分かった……分かったわよ、リク」

 

 いつものように頭を軽く撫でて飛び立つ陸人。その仮面の奥でどれほどの痛み苦しみを堪えているのか、分からない美森ではないのに。それでもいつも通りを必死で演じる以外のやり方を知らない不器用な少年に、少女はこれ以上逆らうことができなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「罪爐ぉぉぉっ‼︎」

 

「やはり汝の場合、他者の命が関わる方が反応が良いな。まだ面白い物が見られるかもしれん」

 

 ガムシャラに攻撃を繰り出すクウガを右腕であしらい、残る左腕に力を込める。宿す術式は長年の悲願のひとつ。標的は300年間人類圏を守護してきた絶対防壁。

 

「今度は何をする気だ?」

 

「そろそろ愚民共の悲鳴が聞きたいのだよ……その方が盛り上がるだろう?」

 

 ──聖域崩壊──

 

 ジェネシスが地面に手をつき、大地を通して呪詛を流し込む。100kmは離れていたにも関わらず、ものの数秒で呪詛の光は結界表面に到達し、呪いが全体へと伝播。そして──

 

「まさか……お前!」

 

「おめでとう……人類に残された最後の生存圏はたった今消滅した」

 

 

 

 四国を囲んで建立していた四国結界が積み木崩しのように崩落した。

 遠く離れたクウガからもよく見える。巨大な壁面がガラガラと崩れ落ち、その破片が矛のように鋭く変形して浮遊している。

 結界なくして世界の侵食は防げない。バーテックスのような敵性がいなくとも、上書きされた世界そのものが人類が生きられない炎の大地として侵食し、やがて四国も壁外と同じ地獄に変わる。

 以前大社が行ったシミュレーションによると、結界崩落から四国の完全侵食まではおよそ3時間もあれば済んでしまう計算だった。

 

「これで民衆は自分達の窮地をより明確に実感できる。生中継のライブ感というものを楽しんでくれ!」

 

「ふっざけんなぁっ!」

 

 ハイキックでクウガを蹴倒し、踏みつけて動きを封じたジェネシス。尚もがく陸人を煽るように嗤って、罪爐は崩壊した四国結界を指差した。

 

「我はこう見えて倹約家でな。あるものは最大限利用する質なのだが……見えるか? あの結界の破片、これからどこに向かうと思う?」

 

「……な、に……?」

 

 巨大な壁面を形作っていた神性の結晶が、鋭い矛状になってフワフワと浮いている。その先端が指し示す先には、複数の人影。先程の陸人の指示に従って撤退を始めた仲間達がいた。

 

「お前っ!」

 

「人類を守護する最後の盾が、勇者達を貫く矛となる……なかなか気が効いた演出だと思わんか?」

 

 完全に頭に血が昇った陸人には、罪爐の挑発はまるっきり入ってこなかった。踏みつけられた姿勢から地面を炸裂させてスペースを作り脱出。瞬間移動を連発して必死に急ぐ。

 

「無駄だ。間に合わん」

 

 クウガやダグバが使う瞬間移動には射程距離も連続使用制限もある。ましてやここまでの戦闘でかつてないほどに痛めつけられたクウガの肉体は既に限界を迎えていた。指一本動かさずとも結晶を操作できるジェネシスに追いつくには、圧倒的に時間が足りない。

 

(──失って、たまるか……!)

 

 陸人は馬鹿ではない。そんな理屈は承知していた。それでも、何一つ見殺しにはできなかったから、今日まで戦い抜いてきたのが彼だ。

 

(俺はまた守れないのか? そんな結末は認めない! みんなはこんなところで死んでいい命じゃない。そもそも罪爐なんかの手で命が奪われる理不尽を認めてたまるか……

 そうだ、アイツは自分の格を高めに高めて事象の改変能力を得た。もし俺にも同じことができれば……西暦の最後の奇跡のように、俺自身を高めて、アイツと同じ領域まで──)

 

 最高に茹だった頭を回し続けて、有りもしない勝機を探す。その身体に仄かな光が宿った。黒い身体を照らす、淡く優しい白の光。それは徐々に勢いを増していく。

 

「まずは仲間、次に民衆、最後に汝自身だ!」

 

 抵抗を続ける陸人を嘲笑うように、ジェネシスが操る結晶が仲間達の戦闘を進む友奈と園子に迫り──

 

「友奈ちゃん! 園子ちゃん!」

 

「えっ……?」

「りっく──」

 

 2人がその声に足を止めて振り向いた直後、その胸を結晶の矛が貫いた。人間以上の大きさの構造体が心臓や肺の区別もなく、胸部全てを貫通したのだ。誰がどう見ても即死の傷、それを目の当たりにした陸人は叫んだ。叫ぶしか、できることがなかった。

 

「──ぁぁぁぁぁぁあああああああアアアアアアァァァァァァッ‼︎」

 

 次の瞬間、世界はクウガの光に呑みこまれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「──ッ⁉︎ 今のは」

 

(……何だと?)

 

 殴り合いの真っ最中、陸人と罪爐はあまりの驚愕に停止した。一瞬の後に、数分前の状態に戻っていたのだから無理もない。

 

(今のは夢……罪爐の幻? いや違う、だったら奴がこんな動揺するはずがない)

 

(馬鹿な……勇者連中も、結界も健在のまま。何が起こった⁉︎)

 

 ここ1時間ほどは無視しっぱなしになってしまっている大社からの通信に耳を傾けても、先程の光景に触れる情報は全く入らない。遠くを歩く仲間達もその歩みに迷いはない。

 結界の崩落も、仲間の死も、覚えているのは陸人と罪爐だけのようだ。

 

()()、まさか我と同様の事象改変能力を──?」

 

「知るかよ……だが、さっきの手品は無効になったらしいな!」

 

(此奴、自覚的に使ったわけではない? ならば今始末すれば間に合うはず)

 

 もし陸人がジェネシスと同じ階梯まで至る資質を持っていたとしたら、生かしておくには危険すぎる。力の差がある今のうちに確実に消さなければ足元をすくわれるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

(アマダム、今の察知してるか?)

 

 ──ああ。ジェネシスと同規模の事象改変……クウガの力だけではまず不可能な所業だ──

 

(アレを自在に使えれば、罪爐にも勝てるはずだ!)

 

 ──だが何故あんなことができたのか、皆目見当がつかん。大切な者を失った激情が引き金になったのは間違いないが、そもそもの力は何処にあるのか──

 

 アマダムでさえ理解できない超常の次元干渉。クウガ、ダグバ、テオス、罪爐。それだけの超越存在を集めてようやく到達した創世神に並ぶ力など、いったい陸人の何処にあるのか。

 

 ──いや、待て。もしや──

 

(アマダム?……っ! くっ、がぁぁぁっ⁉︎」

 

 思考を中断させられるほどの、身を焼き焦がす痛み。気づけば天空から落ちる雷撃と大地から迸る爆炎に挟まれて焼かれていた。

 

「死ね……ここで死ね!」

 

 天雷と灼熱。上下から挟み込む必殺の責め苦に抗いながら、陸人は昔の記憶を呼び起こした。

 

(そうだ。あの時も雷に打たれた……死ぬほど痛かったけど、それがきっかけで新しい力に)

 

 雷はクウガの力の象徴。そして炎はアギトの力の象徴。その二つに挟まれたことで、陸人の内なる光がより強く眩しく輝いている。

 

(アマダム、あの時と同じ要領だ。攻撃に耐えるんじゃなくて、力を受け入れて俺の中に……)

 

 ──そうか。雷と炎、それが陸人の中にある力……だとしたら──

 

 傷だらけの胸部に爪を立てて装甲をこじ開ける。あの時のクウガよりも硬くなった装甲が今だけは邪魔だった。開いた傷に雷も炎も集まっていく。もちろん痛みは先の比ではないが、陸人は我慢強さなら誰にも負けない。

 

「──っぉぉ、コレを……受け入れて、次の段階へ……!」

 

「なんだ? 奴は何をしている……」

 

 創世神の力を取り込み、陸人の魂が昇華する。人が振るうクウガの力。それに許された究極の領域の、一歩先へ。

 

 

 

 

「出し惜しみは……ナシだっ!」

 

 

 

 究極のクウガの黒い装甲に、銀色の装甲が上乗せされていく。刺々しい装飾以外はスリムだったアルティメットから、重厚で豪壮なフォルムへと。

 クウガの特徴的な頭部の衝角も、銀色に染まり枝分かれして伸びていく。

 

 

『クウガ・アメイジングアルティメットフォーム』

 

 

 己が内なる力の進化によって至ったアルティメットのさらに先。創世神の力を我がものとして取り込み進化した超強化形態。アルティメットもシャイニングも超えた、今の陸人が欲した新しいクウガ。

 

「まさか……人の身で究極を超えたのか?」

 

「俺だって理解しちゃいないさ……だが、求めればいつだって応えてくれる、それが俺にとってのクウガだ!」

 

 ──これが陸人の次なる進化か? だとしたら、先程の改変で感じた力とは、何かが──

 

(どうしたアマダム? 行くぞ!)

 

 ──む、そうだな。気をつけろ、この姿……究極のクウガ以上に扱いづらい。完全な制御はできない上に、時間制限も厳しいぞ──

 

「分かってる、短期決戦だ!」

 

 銀と黒に染まったクウガが駆け抜ける。策もなしに一直線にジェネシスへと突っ込み、真っ正直なストレート。

 

「この手応え……見掛け倒しではないようだが、それで勝てるつもりなら甘いと言わざるを得ないな」

 

 当然のようにその拳を防ぐジェネシス。しかしクウガとて、馬鹿正直に殴りかかって勝てるとは思っていない。

 

「言われなくても……俺の本気はここからだ!」

 

 予想以上にクウガの力が増していたのか、ジェネシスの体勢がわずかに崩れた。その微妙な揺らぎを陸人は見逃さず、鞭のように鋭くしなる蹴りで敵を直上に蹴り上げた。

 

「そこでジッとしてろっ!」

 

「む……これは、紋章術?」

 

 かつて戦ったもう1人のアギト──沢野哲馬が編み出した万能の術式。一度だけ見たその技術を、陸人は練習もなしにこの土壇場において出たとこ勝負で成功させてみせた。拘束の紋章で宙に縫い止められたジェネシスに向けて、十指を組んだ両拳を構える。

 

「フゥ──……ぅおおおおおおおおおおっ‼︎」

 

 ──制御はこちらでやる。陸人は全ての力を絞り出すことに専念しろ!──

 

 クウガから超高出力の稲光が走る。その煌めきは収束し、一つの大きな光球へと変わる。離れていても肌を焦がさんばかりの熱量。呼吸すらままならないほどに周囲の大気まで影響する大質量の破壊の塊。

 

 ──今だ、放て陸人!──

 

「──いっ……けぇぇぇぇぇぇぇっ‼︎」

 

 クウガがギリギリで抑えていたエネルギーが解放、放出された。壁外の暗い空さえ照らすほどの莫大な力が全てジェネシスを打ち砕くために向かっていく。

 究極さえ超越したクウガ(アメイジングアルティメット)が持てる力全てを込めた超必殺『アルティメットアーク』

 

「……! これほどの……力が何故……⁉︎」

 

「ここで終われぇぇぇっ!」

 

 ジェネシスでさえも抑えきれなくなった力の奔流が、創世神の胸を貫いた。それでもまだ止まらないエネルギーは天に昇り、天の神が拵えた天蓋にまで風穴を開けて外に逃げていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハァッ、ハァッ……流石に死ぬかと思ったぞ」

 

 ──想定以上の出力だったな。アレがもし地表に当たっていたらどうなっていたか、想像がつかん──

 

 全ての力を出し切り、アメイジングの鎧が霧散していく。銀色を失い黒に戻ったクウガは、地に膝をつけて立ち上がれない。身体を支える力までフル動員しての必殺技だったのだ。

 間違って地面に当たれば周囲の環境を激変させ、下手したら星そのものの崩壊すら招いたかもしれない。その危険を避けるために、一か八かのアドリブまで加えてジェネシスを空中に固定してから放つ必要があった。

 

「あれだけの力が一撃で全部抜けてった。アマダムの言う通りかなり扱いづらいな、あのクウガ」

 

 ──そうだな……しかし、文字通り全身全霊懸けた甲斐はあったのではないか?──

 

「……ああ」

 

 クウガが見据える先には、胸から腹部にかけて巨大な風穴を開けて倒れているジェネシス──罪爐の姿があった。

 

「……手応え、アリだ……!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 クウガが新たな力でジェネシスを撃破した。その報はすぐさま全通信網を駆け巡り、人類側は歓喜に沸いた。そんな中で、浮かない顔で思案にふける少女が1人。筆頭巫女の上里かぐや。彼女は自分が見た未来とは異なる決着に疑問を抱いていた。

 

(私が見た唯一の勝ち筋と違う……私が見逃していただけ? それとも──)

 

 もうひとつの可能性に考えが及んだ瞬間、神樹から最後にして最重要の神託が届いた。それを信じるなら、ここからが上里かぐやにとっての大一番だ。

 

「分かりました、神樹様……ごめんなさい、陸人様」

 

 その瞳から溢れた涙の理由を知る者は、全能の地の神以外にはまだいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「クハハハハ……いや、見事見事」

 

「っ⁉︎」

 

 ──馬鹿な──

 

 もう二度と聞かずに済むと安堵していた声が、目の前の死体から聞こえてきた。ジェネシスの肉体は、風穴が空いたままマリオネットのような不気味な挙動で立ち上がった。関節を無視したような高速かつ奇妙な動作を繰り返し、徐々に傷が癒えていく。

 

「そんな……アレを受けてまだ動けるのか?」

 

「いや実際、少し肝は冷やしたぞ。如何に創世神といえど、あの威力は堪えた。故にあの光が我を貫くよりも早く、我の時間を変えておいたのだ」

 

「……は?」

 

 ──時間への干渉……攻撃を受けなかった時間軸と自身を繋げて──

 

 罪爐はあらゆる可能性とそれに付随して枝分かれする全ての時間軸を観測することができる。更に今ならジェネシスの力を使って別の時間軸と現在を接続することすら可能。

 つまり罪爐は、攻撃を受けて自分が倒れるよりも前に改変能力を行使。攻撃を受けずに健在だった時間軸と自身を接続することでダメージを無かったことにしたのだ。

 今のジェネシスは、クウガの必殺技を受けた時間軸にいながら、受けなかった時間軸のジェネシスとして存在している。

 

 

 

 

「そんな……じゃあ!」

 

 ──罪爐があの能力を使える限り、こちらに勝ち目はない……!──

 

「惜しかったな。最初は我も()()()()きたのかと焦ったが、やはり違うな。究極を超えたことは褒めてやるが、汝は未だ我の領域には至っていない!」

 

 勝利を確信したジェネシスが、先のクウガと同じ光を発生させる。世界を照らし、地を揺らし、天を貫く破壊の光。

 

「アレは……どうしてお前が!」

 

「一度見た技だぞ? 創世神に再現できぬわけがなかろう……さて、全く同じことをやってもつまらん。少々工夫を施すか……例えば、より遠くまで拡散して飛ばす、など良いと思うのだが?」

 

「っ! まさかみんなを……」

 

 "より遠く"、"拡散"。その言葉を誰よりも性格が悪い罪爐がわざわざ言及したその意味。背後に守るべき仲間と帰るべき場所を背負っている陸人はすぐに理解した。その光が大切なものに届かないように、自分にできる最適解も含めて。

 

「弾けろ、クウガァァッ‼︎」

 

「──ちっくしょおぉぉぉっ‼︎」

 

 ジェネシスの手元で輝く光球が解放される、その刹那。クウガは光球に覆いかぶさるように飛びかかり、扇状に広がる光を全てその身で受け止めた。

 

(……痛すぎて……痛みを感じもしない……これはホントに、ダメかもな)

 

 ジェネシスさえ貫いた光を防げるはずもなく、クウガの全身は散々に砕かれて吹き飛んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ぁ……ぁあ……」

 

 ──陸人! 陸人! しっかりしろ!──

 

「フ……大したものだ。そのザマで、それでも他には一切の被害を出さずに抑えるとは」

 

 光の炸裂がようやく止んだ。罪爐の視線の先に倒れているのは、先のジェネシスが比較にならないほどにボロボロにされたクウガだった。

 四肢の半分は途中で切断され、残った部分も関節があり得ない方向に曲がっている。

 傷は頭部にも及び、クウガの大きな赤い左眼は綺麗に抉り取られて風穴が空いていた。

 力の象徴であるアマダムにも傷が広がり、陸人は自分に呼びかける相棒の声もろくに聞こえていない。

 

 陸人が文字通りその身を盾にしたことで、後ろには全く破壊が広がっていない。クウガが吹き飛ぶ前に立っていた地点を境界線として、まるで異なる空間をつなぎ合わせたような不自然な光景が出来上がっていた。

 

 

 

「心から敬意を表するよ、御咲陸人。同じことをやれと言われても、我にはできん」

 

 白々しくも拍手を混じえて陸人を称賛する罪爐。その声には隠す気もない愉悦が乗っていた。

 

「我が身を犠牲に他者を守る……そんな愚かな行為をここまで突き詰めるなど、到底できんよ我には! アッハッハッハ──!」

 

「……うる、さい……」

 

 全身を震わせながら、片方しかない脚で、それでもクウガがゆっくりと立ち上がった。まだ終われない、その一心で。もう動くはずのない身体を気力ひとつで引きずっていた。

 

「ほう、まだ立つのか。本当に汝は面白いな……参考までに教えてくれないか? 何故そこまで他者の命を守ろうとする? 自分を犠牲にしてまで戦う理由はなんだ?」

 

「……理由?……理由かぁ……そうだな……」

 

 姿勢を維持することもできず、最早視線はジェネシスどころか前すら向いていない。そんな有様で、陸人は自分を見つめ直す。なんのために戦うのか。何故誰かの命を守ろうとするのか。

 

(……ハッ、馬鹿か俺は。考えるまでもないだろうに)

 

 仮面の奥で、だれにも見られずに陸人は笑う。今更そんなことを考え直している自分があまりに滑稽だった。

 俯いていた顔を上げて空を見る。アルティメットアークで開けた風穴から、天蓋の奥──美しい青空がほんの少しだけ覗いていた。

 

「……強いて言うなら、空が綺麗だったから……かな?」

 

「……なに?」

 

「もしかしたら……朝ご飯が美味しかったからかもしれないし……いい夢を見て目覚めが良かったからかもしれないし……すれ違った誰かの笑顔が綺麗だったからかもしれない。

 俺の理由なんて、そんなもんだよ……今更聞くようなことじゃないのさ」

 

「そうか。興味深くもなければ、理解する気にもなれんな」

 

「へっ、誰も……お前に理解されたくなんか、ないってんだよ……」

 

 陸人が他者の命に拘るのは、命は掛け替えのない大切なものだから。

 陸人が戦うのは、そうしなければ守れない命があるから。

 その先にも奥にも、万人が納得するような理由などない。人が食べるように、人が眠るように、人が異性に惹かれるように。

 御咲陸人が守るのは最早本能。理由やら理屈やらで止められるものではないのだ。

 

 

 

 

「これ以上聞くこともない……終わりにするぞ」

 

「同感だ……お前の相手も、良い加減飽きた……」

 

「どこまでも減らず口を!」

 

 ジェネシスの拳をジャンプで回避。相手を飛び越えて背後に回る。

 

「馬鹿が!」

 

 当然ジェネシスも反応して真後ろに裏拳を放つ。しかしそこには誰もいなかった。

 

(……よし、今までにない良いリズム、これなら……!)

 

 ジェネシスの挙動から右の裏拳の起動を見切り、反対の左側から回り込むことでもう一度背後を取り直したクウガ。余計な力が抜け、思考もクリアになったせいか、ジェネシスの動きにもなんとか喰らいつけている。やっと手に入れたチャンスに、全霊を込めた右のパンチを放ち──

 

「……ぁ……?」

 

 その右腕の肘から先が、既にないことにようやく気づいた。

 拳がそこに繋がっていれば間違いなくジェネシスの顔面に届いていたであろうパンチは、間抜けにも敵に腕の断面を突きつけるような格好で止まってしまった。

 

「ククク……クハハハハハッ! これは愉快だ、汝まさか我を笑い死にさせる策か?」

 

 一瞬だけ反応が遅れたジェネシスは一瞬停止し、なにが起きたのか把握した途端高笑いと共にクウガの首を掴み上げた。

 

(そうか……もう、右側まで感覚が……)

 

 左半身の感覚が死んでいるのはこの10日間で慣れていた。だから戦闘中も左側の負傷や欠損には注意して眼で確認していた。

 しかし、ここに来て右側まで感覚が死滅してしまい、その上それに気づくことができなかった。戦いの果てに、御咲陸人という人間が完全に崩壊した証だ。

 

「愉快な見せ物の礼だ。苦しまぬ方法で葬ってやろう」

 

 高笑いが落ち着いたジェネシスは、右腕でクウガの首を掴み上げ、左腕に妖しい光を宿していた。

 

「水のを始末したのと同様に、魂そのものを消滅させてやろう……これで汝はもうどこにも行くことはできず、誰と会うこともない。誰かがいれば無条件で助けようとしてしまう汝のために……これは我の優しさだぞ?」

 

「……優しさ、だと? 似合わないな……ええ? 悪霊、ごときが……」

 

「フン、その減らず口もこれで最後と思うと……特に物悲しくもないか。ではさらばだ」

 

 胸部の傷からクウガの内側まで突き立てられるジェネシスの貫手。陸人の中心、魂を掴み取った罪爐は迷いなくそれを握り潰して破壊。御咲陸人の核を全ての世界から消失させた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歯痒い気持ちを抑えながら、仲間同士助け合ってどうにか結界付近まで撤退した勇者・防人連合。しかしそんな努力を嘲笑うように一瞬で、創世神は追いついてきた。

 

「罪爐っ!」

 

「まあ待て。そう殺気立つな……まずは汝等に返しておこうと思ってな……()()()()()()()()()()()()()()()?」

 

 片手で引きずっていたナニカを投げて寄越してきた。友奈が反射的に受け止め、逆光で見えなかったその正体を改めて覗き込むと──

 

「……え? りっくん……?」

 

「フッ、終わってみれば……なんとも呆気ないものよ。なあ? 御咲陸人」

 

 魂の消失と共にクウガの力も消え、変身が解除された。そこにいたのは、右腕左脚左眼を失い、左半身どころかほぼ全身を黒い呪印で染め上げられた哀れな姿。

 これを見て本人と断定するのが困難なほどに変わり果てた1人の少年、御咲陸人の成れの果てがそこにあった。

 

「嘘……嘘よ! リクが死ぬはずない!」

 

「死んだのではなく消えたのだよ……汝なら分かるのではないか? 巫女の素養を併せ持つ汝なら」

 

 言われた美森は慌てて陸人の死体と向き直る。数秒見つめ続けて、その瞳が絶望に染まった。

 

「東郷さん……? ねえ、どうしたの?」

 

「友奈ちゃん……どうしよう……リクを、リクを感じないの……ずっと胸の奥に伝わってきた、暖かい感覚が……」

 

 勇者と巫女の資質を併せ持つ美森には、朧げながら陸人の特異な魂を察知することができていた。それこそ出会った頃、まだ記憶を失い勇者としての自覚もなかった時から。陸人が闇に蝕まれて記憶から消えていた時でも、正体不明の感覚として暖かい気配──魂の繋がりを感じ取っていたのだが。

 

「これで理解したか? もうどこにも御咲陸人は存在しない! 英雄譚はここで幕引きだ!」

 

 何度も何度も世界の窮地を救ってきた陸人という少年。そんな彼でも"消滅"という絶対の終着点からは逃れることはできなかった。

 

 

 

 

 

 




アメイジングアルティメットは、ライジングアルティメットの色違いを想像してもらえれば良いかと。

分かる人だけ分かる例え話

クウガ・アルティメット=マジンカイザー
アギト・シャイニング=マジンエンペラーG
ン・ダグバ・ゼバ=真ゲッター
……とすると、
クウガ・ジェネシス=マジンガーZEROとゲッターエンペラーを足したまま2で割るのをうっかり忘れたようなもの
……くらいの実力差があります。

この作品を読んでくださっている方の大多数に通じるであろう形で言うと……
新フォームのお披露目回という絶対的な補正が通用しないくらいの実力差です。


感想、評価等よろしくお願いします。
次回もお楽しみに。

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